氷下の命脈ー放っておくには、雪が冷たすぎたー   作:冷やかし中華

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02-幕間二.『波紋』

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胆振新報デジタル版 10月22日 07:43配信

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【続報】胆振管内・子供3人行方不明

捜索二日目 手がかりなし 悪天候で難航続く

 

胆振管内で子供3人が行方不明となっている件について、

警察および関係機関による合同捜索が22日も続いているが、

依然として手がかりは得られていない。

 

捜索は21日朝から開始され、

警察の山岳救助隊と地元猟友会が合同で

山林内への捜索を行っているが、

積雪と悪天候により行動範囲が制限されている状況だ。

 

行方不明となったのは小学生から中学生とみられる

女児3名で、いずれも同行の大人がいない状態で

山林に入ったとみられている。

 

関係者によると、失踪現場付近では

大型ヒグマの痕跡も確認されており、

捜索はさらに慎重な対応を余儀なくされている。

 

警察は引き続き情報提供を呼びかけている。

 

 □ この記事へのコメント(347件)

 

 ▼ 人気コメント

 「なんで大人がついてなかったの」

 「羆が出てるって報道されてたのに……」

 「どのあたりなんだろう。うちの近くじゃないか心配」

 「捜索隊の方々、本当にありがとうございます。どうか無事で」

 

 (コメントの続きを見る)

 

 

    *

 

 

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SNS投稿 10月22日 収集分

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胆振在住 普通の主婦 @futsuu_no_shufu

昨日から気になってる行方不明のニュース。

友達から聞いた話なんだけど、すごい大きなお屋敷のそばで起きたって聞いた。

地元の人たちがみんなそう言ってる。

真相はわからないけど、早く見つかってほしい。

  203 ❤ 891

 

 

北海道ニュース追いかけ隊 @hokkaido_news_watcher

道内の遭難情報、現地の知人から聞いた話。

捜索に入ってる人たちの話によると、現場はかなり奥らしい。

ヒグマの痕跡もあって、捜索隊の人たちも相当緊張してるって。

子供たちのこと、本当に心配。

(情報の真偽は確認できていません)

  1,204 ❤ 4,332

 

 

道内情報まとめ @dounai_matome

【未確認情報注意】

今回の行方不明の件、一部で「名家の子供らしい」「普段見ないような車が山の方へ走っていった」という話が出回っています。

現時点で警察・関係機関からの公式発表はなく、詳細は一切不明です。

憶測での拡散はご遠慮ください。

  2,876 ❤ 7,109

 

 

心配性な道民 @shinpai_domin

あの遭難、ヒグマがいる山の中で二晩目だよね……

どんな状況にあるか考えるだけで胸が痛い

捜索してる人たちも相当大変だろうに

どうか無事でいてほしい

  445 ❤ 2,203

 

 

 (続きを見る)

 

 

    *

 

 

噂というものは、悪意がなくても広がる。

 

捜索に加わった隊員の一人が、帰宅してから妻に話した。今日も見つからなかった、と。山の中が深くて、積雪が酷くて、本当に大変だった、と。妻はそれを聞きながら、夕飯を作った。翌朝、隣の家の奥さんと立ち話をした。心配していたのだ。本当に。だから話した。子供が三人、山に入ったままなんだって。大きなお屋敷の近くで。

 

隣の奥さんは、その日の午後、山菜屋に寄った。

 

「コハギちゃん、知ってる? 子供が行方不明になってるって。なんでも山のそばの大きなお屋敷で、子供が三人……」

 

コハギは包丁を持ったまま、手を止めた。

 

「……いつの話ですか」

 

「一昨日からって。ニュースになってたじゃない、子供三人って」

 

耳が、ごく微かに前に向いた。

 

「どのあたりですか」

 

「詳しいことはわからないんだけど、あのヒグマが出てるって言ってた山のあたりじゃないかって話で……」

 

コハギは包丁を置いた。

 

「そうですか」

 

それだけ言った。奥さんはもう少し話を続けていたが、コハギの耳にはほとんど入らなかった。

 

奥さんが帰った後、コハギは店先に出た。

 

山の方角を見た。

 

曇っていた。稜線が雲の下に沈んでいた。今日はどこも見えなかった。それでも、見た。あの山を、体ごと向いて見た。

 

少し前、女将と一緒にテレビを見たときのことを思い出した。

 

あの時、テレビでヒグマのニュースを見た。地図の赤い印が、あの山の稜線に沿って打たれていた。あの時は羆の話だった。今は、人の話だ。子供三人が、あの山の中にいる。

 

夏に鍋を渡した男のことが、ふと頭をよぎった。あの人は、今もあの山にいるのだろうか。

 

「コハギ」

 

女将の声がした。居間から呼んでいた。

 

「なに」

 

「猟友会の田中さんから電話。何か聞きたいことがあるって」

 

コハギはその言葉を、少し考えた。

 

田中さん、というのは、猟友会の古株の一人だった。毎年、山菜の季節に顔を合わせる。コハギが山道を歩き始めた頃から知っている人だった。

 

「出ます」

 

居間に入って、受話器を取った。

 

「コハギさんか。あの山のこと、少し聞かせてもらえるか。どこまで道が通れるか、あんたが一番知ってると思って」

 

コハギは受話器を持ち直した。

 

「わかりました」と言った。「わかること、全部話します」

 

 

    *

 

 

その夜、コハギは居間のちゃぶ台に地図を広げた。

 

自分が毎年歩いている道を、指でなぞった。春の山菜の時期に使う沢沿いの道。秋の木の実を採りに行く斜面への分岐。雪が深くなると通れなくなる峠の手前。体で覚えている道が、紙の上に線として浮かんでいた。

 

女将が隣に座って、黙って見ていた。

 

「行くのかい」

 

しばらくして、女将が言った。

 

「田中さんが、明日の朝、捜索班に同行できる人間を探してるって」

 

「そうかい」

 

女将は何も言わなかった。止めなかった。止める言葉も持っていなかった。この山を長く知っている女だった。行くべき時と、行けない時の区別を、娘より長く知っていた。

 

「私でも遭難するかもしれない」とコハギは言った。「この雪では」

 

「そうだね」

 

「でも、道は知ってる。あのあたりの道は、プロの救助隊の人たちより、私の方が知ってる部分がある」

 

女将は頷かなかった。

 

ただ、地図を見ていた。コハギが指でなぞった線を、しばらく見ていた。

 

「雪靴、点検しな」

 

それだけ言った。

 

コハギは地図を折りたたんだ。

 

子供三人が、あの山の中にいる。一昨日から、ずっと。雪の中で、二晩を越している。

 

コハギは立ち上がった。納屋に向かった。雪靴の具合を確かめるために。

 

外は、静かだった。雪が降り始めていた。音もなく、ただ降っていた。

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