★少し先の話★
異世界──そう呼ばれる場所に来て、1週間。
俺は何故──空を舞っているのだろうか。
舞っている……と言うのはあまり正しくないかもしれない。
どっちかって言うと、落ちてる? と言うべきか。
たった今、崩れた城壁と共に俺の身体は、地へと向かっていた。
地上には豆粒のような人々と、ファンタジー感の抜けない近現代な都市が広がっている。
遠くの方を見れば深い森。
俺がこの世界に呼ばれた場所が、大きく広がっている。
殴り込まれヒリヒリとする鼻先を、虚ろ気な意識の中で軽く撫でると、俺はようやく痛みの中で意識が目覚めた。
「く、そッ!! 空かよぉッ!!?」
俺はそこで、宙へと吹き飛ばされたことを初めて認識。
何かしらの痛撃により記憶は混濁し、宙という足場のない場所に、俺は混乱していた。
少しの混乱の後、もがくように身体を動かして、自分に起きていることを再認識。
先ほどまで俺がいた、城内──ガラ空きとなった城壁へと視線を向ける。
すると崩れた城壁から身を乗り出し、こちらを覗く少女が一人。
冷めた目線を俺へと向け、小さなため息を着いている姿が見えた。
(あ、あの野郎ッ……!)
俺は落ちていく中で身体をよじり、足を下へ。
そして共に落ち行く城壁の一部を、俺は自身の
次々と瓦礫を蹴っては、速度を上げる。
冷ややかな視線のあいつは、俺が宙から城内へ戻ろうとしているのを見て、近くの城壁を蹴り砕く。
そして蹴った回転で1周回り、その勢いのまま、砕いた城壁を蹴り飛ばしてきた。
だが身体能力の底上げがされた俺の身体では、それを避けるのは容易く、逆にそれを利用して、這い登るかのように、宙にいながら城内へと戻るべく走り続ける。
そんな俺の姿を見て、奴は少し後ろに下がったかと思うと、助走をつけて俺の方へと飛び出した。
(あいつ、マジか!?)
城内へ戻れる、その瞬間に、奴に飛びつかれたことで、取っ組み合いになってまた地上へと落ちていく。
今度は足掻くことすらできない。
奴との殴り合いを制するので精一杯だった。
「て、めぇ! いきなりっ、殴り飛ばすんじゃ、ねぇ!!」
「……死ぬ気もないのに、戦いに来たの?」
「うるせぇッ! こっちはっ、
「知った話じゃない。私たちの邪魔するなら、死んで」
地上へ向けて落下していく中、俺たちはお互いに殴り合う。
拳が頬を掠め、受け止めた一撃の反対から攻撃を飛ばされ、殴って蹴って、避けて受け止めて、落下しながらの攻防が続く。
そんな中、俺は奴の隙を突くべく、一瞬の合間を狙って能力を一点に集中、蹴りを叩き込むと、それを防御した奴は地上に向かって吹き飛んでいった。
俺はその反動を利用して体制を正し、市街地へと着地する。
轟音とともに着地した俺と、吹き飛んでいった奴に、一気に注目が集まるが、俺がそれを気にする間もなく、家々の向こう側から屋根を越え、車が一台、二台と飛んできた。
(市民のことは完全無視かよ……!?)
市民のことなど一切気にしない攻撃に、俺は慌てて駆け出すと、一点集中の飛び出しで、飛んできた車を次々と殴り破壊。
粉々に粉砕したことで、危なげなく終わったかと思った、次の瞬間、家の壁を破壊して飛び出してきた、奴の蹴りが顎に突き刺さる。
お返しと言わんばかりの一撃に、俺は大きく体を仰け反らせ、吹き飛んでいく。
どうにか止まろうと、身体をよじろうとした、その瞬間、壁と壁を飛び伝ってきた奴が、上から矢の如く跳んできて、無理やり地面へとめり込まされてしまった。
(速いッ……! 素の身体能力で、これかよ!?)
どうにか反撃に移るべく、地面にえぐり落ちて行く中で、頭の横、その下の地面に無理やり手を突っ込んで、動きを止めると同時に逆立ち状態になり、そのまま勢いを利用して飛び上がり着地。
奴はと言うと、俺が動く前に軽く跳んで、少し距離を取ってこちらを見ていた。
俺は着地をすると同時に、一気に人がいなくなった市街地を走り出し、ぐらりと倒れるような動きから、倒れた方と反対方向に飛びつくように駆ける。
家の壁に着くと同時に、更に跳んで反対側の壁に、そしてそのまま奴の死角に入り込み、壁を蹴って飛びかかり着弾。
そうして、俺が放った蹴りは、奴の挙げた腕により防がれており、俺は隙を与えまいと膝を曲げ、蹴って回転から着地と同時に、拳による一撃を叩き込む。
その直後に、踏み込みからの斜め下からのアッパー。
最初の拳による一撃は防がれてしまったものの、ほぼ同時に放ったアッパーは直撃。
少し顎を反らし、痛みに顔を歪め、足が揺らいだところに、俺は容赦なく追撃を決めに行く。
二撃、三撃、四撃目──拳に、足に、力を込め、奴に隙を当たるわけにはいかない、と次々と攻撃を繰り出す。
(これなら……!)
が、世の中はそう甘くない。
顔面に向けて放った拳が、突如差し出された手によって掴まれ、止められる。
離れようと動くが、ビクともしない。
俺よりも明らかに年の差がありそうな少女相手に、俺は掴まれて微動だにできなかった。
「……あまり、調子に乗るな。
奴はそう言うと、俺を引き寄せたかと思った次の瞬間、俺の顔面に拳がめり込む。
大きく吹き飛ばされる俺は、なんとか地面にぶつかると同時に手をついて立ち上がり着地──した直後。
目前に黒く濁った球のようなものが迫り、それが俺の鼻先を掠めた瞬間、バチッという電気が漏れるような音と共に爆発。
強烈な一撃が半径二、三メートル内を、粉々に破壊してしまった。
それに直撃した俺はというと、ギリギリのところで顔を仰け反らせ、能力を防御に集中したことで、ダメージは少なく済み、その上、登る爆発の煙に紛れて、建物の物陰に隠れることができた。
「ンの野郎……異世界の人間ってやつは、どいつもこいつも、バケモノ揃いかよ……」
(アイツから貰った能力がなければ、早々に死んでるな……)
俺には能力がある。
この世界に来たことにより、与えられた能力が。
──そもそもの話として。
なんで俺がこんな状況になって、異世界に人間と戦っているか、と言う話なのだが。
事の始まりは1週間前。
ただの1学生だった俺が、この世界に呼ばれた日。
「お主のことは妾が呼んだ。我が帝国を取り戻すべく、な」
その日、俺は出会……いや、呼ばれたのだ──竜帝と呼ばれる、国を統べるはずの、一人の少女に。
銀に輝く長い髪と、後ろに伸びる黒鉄のような角。
大きく広がる翼は、まさに竜を思わせるその姿。
俺が一目惚れしてしまった、彼女に。