The Unsung Mission   作:Maat-ka-Usir

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物を書くって難しいですね。
AIくん?ちゃん?も設定を何処かにやってしまって記憶喪失になりますし大変でした。
今回も最後まで読んでいただければ幸いです。


躍動と強襲~クジラさんの代償~

モニターを破壊したユメのポンコツっぷりに、現在の部室が呆れと笑いに包まれていたのも束の間。

映像の空気は、再びひりつくような緊張感へと引き戻されていく。

 

無機質な廊下を、クラフトチェンバーの安置室へと慎重に進む4人。

先頭を警戒しながら歩くユメの背中には、既に抜き身の『ネブ・アブジュ』が握られていた。彼女の戦闘本能、もしくは第六感が、今の状況に関して、微弱な警報を鳴らし続けている。

 

(……おかしいよぉ。いくら移送中で穴があるとはいえ、連邦生徒会の最高機密にしては、警備がザルすぎるような……?)

 

違和感を抱いていたのは、ユメだけではなかった。

 

『……ねえ。なんか、静かすぎない?』

 

シラクニもまた、薄々きな臭さに気づき始めていた。

警備室に居た重武装型のアンドロイドが他にもいるものだと思っていたが…いない?

だが、彼女は完璧な計画というロジックに縋るように、小さく首を振って己の不安を掻き消す。

 

(いえ、巡回中なのよ、私たちは偶然、本当に偶然、巡回の隙を縫って進めている…その、ハズ)

 

やがて一行は、最深部にある堅牢なゲートを抜け、広大な安置室へと足を踏みに入れた。

部屋の中央には、何重ものロックが掛けられた巨大なサーバー群が鎮座している。

 

『ひぃん…これがクラフトチェンバー…』

途轍もない力を感じる万物生成器を前に、ひぃんひぃん……と情けない声を漏らす。

 

『ビンゴ。……さっさと頂くわよ』

シラクニはそう言うと、いつもの最新型タブレットではなく、リュックからステッカーだらけの分厚い古いノートPCを取り出した。

 

ケーブルを強引にサーバーへ接続し、猛烈な勢いでキーボードを叩き始める。

 

作業の開始を確認すると、ヘルメットを被った少女達は周囲を警戒するように散開する。

特に出来ることのないユメは、暇を持て余してしまう。

 

カチャチャチャチャッ、ターン! カチャカチャッ!

 

『ねぇ、どうしてタブレットじゃなくてその、ノートパソコンなの?』

 

作業を進める手を止めず、うん?と返事を返すシラクニ

 

『あんたが、念のためにデータのコピーが欲しいなんてワガママ言うからでしょうが、私が一番使い慣れてる、この子でやるのが一番速いわ』

 

『えへへ、ごめんねぇ。……でも、そのPC、アビドスの備品室にある古いタイプライターみたいで、すっごく懐かしくて、いい音がするねぇ…そのぉ、やっぱりハイスペックなパソコンさんなの?』

 

緊迫した状況下でも変わらない、ユメの暢気で優しい声。

その、不器用で温かい受容の言葉と無知から来る疑問に、シラクニのタイピングの手が、ほんの一瞬だけ止まった。

 

『……バカにしてるの? ミレニアムじゃ、こんなの化石扱いで笑われるわ。……あいつらは、無意識に息をするように暗号を解く。私みたいな凡人が、いくら努力して指から血を流しても、一生追いつけない』

 

吐き捨てるように漏れた、暗く淀んだ劣等感の吐露。

それを聞いたユメは、銃を構えたまま、困ったように眉尻を下げて優しく微笑んだ。

 

『……いっぱい頑張ったんだねぇ。アビドスなら、シラクニちゃんみたいな頑張り屋の天才がいたら、きっと誰も敵わなくて…うぅん、きっととっても頼られてたと思う!』

 

『……、……っ。あんた、ほんと、調子狂う……』

 

悪態をつきながらも、シラクニが再びタイピングの速度を上げた、その時だった。

 

ブゥゥゥゥゥン……ッ!!

 

安置室を照らしていた照明が、唐突にすべて消失した。

直後、血のような赤い非常電源が、部屋全体を不気味に照らし出す。

 

『な……っ!? 警備の生き残りが電源を……? ヴァルキューレの妨害工作!? ……まさか、察知されていた!?』

 

突然の停電にパニックに陥りキョロキョロと周囲を見回すシラクニ。

だが、ユメの視線は扉ではなく、背後に控えていた二人のヘルメットを被った少女達へと向けられていた。彼女の黄金のヘイローが、怒りと共に重厚に輝き始める。

 

――チャキッ。

 

無言のまま。ヘルメットを被った少女達が、一切の感情を持たない動作で、ユメとシラクニの背中へとサブマシンガンの銃口を突きつけていた。

 

「え……っ!?」

「ん。……裏切り」

 

画面を見つめていたセリカが息を呑み、シロコが鋭い声で呟く。

二人はミッションの依頼主の用意した、別動隊の『裏切り者』だったのだ。

 

『……チッ』

 

ユメは冷徹な舌打ちを一つ響かせると、ヘルメットを被った少女達に向き直り、瞬時に左腕をスナップする。

――IRON HORUS、見慣れた文字が画面いっぱいに映り、少女達のサブマシンガンを打ち据え弾き飛ばす。

 

『シラクニちゃん、そのクラフトチェンバーの解析データの抽出はいったん中止! 罠だよぉ! 逃げるよぉ……ッ!』

 

だが、ユメが扉へと走り出そうとした、まさにその瞬間。

 

ドガァァァァァァァンッ!!!!!

 

安置室の重厚な鉄扉が、外側からの圧倒的な指向性爆発によって、紙切れのように吹き飛ばされた。

鼓膜を破る爆音。吹き荒れる炎と煙。

 

その衝撃波が部屋を駆け抜け、背後のヘルメットを被った少女達は体勢を崩す。

だが、彼女たちが体勢を整えるよりも早く、爆煙の渦の中から、無数の捕縛用特殊弾頭(電撃弾)が容赦なく撃ち込まれた。

 

パスッ、パスッ、パスッ!!

 

凄まじい電撃が全身を駆け抜け、絶叫を上げる暇もなく、ヘルメットを被った少女達はその場に崩れ落ち、完全に沈黙した。

殲滅ではなく、拘束と情報抽出を目的とした、冷徹で合理的な鎮圧。

 

――そして、その無慈悲な電撃弾の雨は、当然のようにユメとシラクニへ向けても放たれていた。

だが、ユメの戦士としての本能が、そのすべての弾道を、0コンマ数秒の誤差もなく完璧に予測していた。

 

『っとぉ!』

 

ユメはIRON HORUSを傾斜をつけ展開し、猛スピードで飛来する特殊弾頭を、最小限の動きでいなし、弾き、完璧に受け流す。

盾の表面で次々と弾頭が炸裂し、凄まじい青白い火花が散った。

 

バチバチバチッ!! バチチチチチチッ!!

 

凄まじい電撃が金属の盾を伝い、ユメの身体へと流れ込む。

映像を見ていた部室のアヤネが悲鳴を上げ、先生が「ユメ!」と叫ぶ。

 

だが――。

 

映像の中のユメは、かなりの電撃を浴びても、怯むことも、苦悶の表情を浮かべることもなかった。

彼女は盾で電撃をいなしながら、ただ静かに、背後のシラクニを案じて困ったように眉尻を下げる。

 

『シラクニちゃん! ……この弾、なんかパチパチ痺れる感じがする! 触らないでね!』

 

『え……?』

 

呆然とするシラクニ。

SRTの精鋭が放った、最新鋭の捕縛用兵器。並の生徒なら即座にヘイローが明滅し、気を失うはずの代物だ。

 

それを「パチパチ痺れる」という暢気な感想と共に意に介さないユメの姿に、突入してきたSRTの精鋭たちすらも、予期せぬ規格外の存在の出現に一瞬だけ歩みを止めた。

 

電撃を意に介さず、動きの制限されそうなバリスティックシールドを構え立ち塞がるユメのその存在感に、冷徹な兵士たちの戦術行動に一瞬、よどみが生まれる。

 

だが――流石は連邦生徒会の保有戦力。彼女たちの高い練度がなせる業か、その僅かな動揺すらも数秒で切り捨ててみせた。

 

爆煙の向こうから、漆黒の戦闘服と最新鋭の暗視ゴーグルを装着した部隊が、一切の乱れなく複雑なフォーメーションを再構築し、雪崩れ込んでくる。

所属を表すワッペンには…

 

――SRT特殊学園。

 

『――対象を確認。無力化せよ!』

 

士気を挫くかのような怒声で叫ばれる命令と共に、今度は無数の銃口からフルオート射撃が放たれた。

 

「なっ……! あれ、ヴァルキューレじゃないの!? 容赦無しじゃない!!」

画面越しに、セリカが猫耳を逆立てて絶望的な悲鳴を上げた。

 

爆煙の中から雪崩れ込んできた漆黒の部隊。彼女たちの動きには、怯えも、迷いも、感情の欠片すら存在しない。

一糸乱れぬフォーメーション。十字砲火の檻を形成するように、部屋の死角を即座に埋め、制圧ではなく『殲滅』を目的とした、冷徹で合理的な殺意の雨が放たれる。

 

『くっ、降伏勧告もなしに派手にばら撒くわね! そんなんだから連邦生徒会のウェットワーカーなんて呼ばれんのよ!……噂通りの猟犬共だわ』

 

シラクニがデータの抽出を継続しながら悔しげに毒づいた。

 

『……シラクニちゃん、データはそのままでいいから、私の背中から絶対に離れないで!』

 

ユメは左腕の重厚な盾、IRON HORUSを前面に展開し、弾丸の雨が降る死線へと、一歩踏み出した。

 

ドガァァァァン!! ドガァァァァン!! バチチチチチッ!!

 

SRTの精鋭たちが、多彩なタクティカル・ムーブで部屋の両翼へと展開し、予測不能な十字砲火を浴びせる。

盾越しに伝わる、かつてないほど強烈な衝撃。神秘の加護を受けた漆黒の盾の表面が、最新鋭の徹甲弾によって削り取られ、眩い黄金の火花が、まるで流星のように長く引かれた。

 

『SRTと戦るのは、初めてだよ…! でも、押し通らせて貰うよッ!』

 

ユメの集中力が、極限に達した。

彼女の手元にある莫大な借金の催促状の数字が脳裏をよぎり、次の瞬間、その全てが戦場を支配するプレッシャーへと変換される。

彼女の頭上にある黄金色のヘイローの輝きが増幅し、極限の集中によって、より重厚に、時にどす黒い輝きへと変化する。

 

――瞬間。

映像の中の、すべての「音」が消失した。

銃声、排莢音、怒号……。その全てが静寂の底へと沈む。

ユメの視界には、SRTの隊員たちの動きが、まるでスローモーションのように、はっきりと『死の軌跡』として映っていた。

 

ガキィィィィィィンッ!!!!

 

ユメは盾で、至近距離から放たれた徹甲弾を、完璧に弾き返すと、そのまま盾を武器として使い、先頭のSRT隊員の顔面へ、異常な速度で毆りつけた。

メキィッ! という不気味な音と共に、重厚なヘルメットが凹み、隊員が吹き飛ぶ。

 

すぐさまカバーが入り、次々形を変え迫る、SRTのフォーメーション。

だが、ユメは暴力の嵐の中へと、まるでワルツのステップを描くように飛び込んでいった。

 

『う、おぉおおおあああ!!』

 

圧倒的な速度。予測不能な軌道。

彼女は銃すら抜かない。すれ違いざまに素手で銃身を掴み、金属が悲鳴を上げる音と共に、驚異的な膂力で銃身を曲げ、驚愕するSRT隊員の懐へと滑り込み、投げ飛ばし、武器を奪い……驚異的な速度で無力化していく。

 

 

「……うそ、SRTのフォーメーションに、素手で……!?」

映像を見つめていた部室のアヤネが、タブレットを持つ手を震わせる。

 

「ん。……ばけもの。メモしておく。……あの速度、あの技術、……ん、手口、参考にならない」

シロコは目を輝かせながら、食い入るように画面のユメの動きを目に焼き付けている。

暴力というよりは、もはや一つの芸術的な『制圧作業』だった。

 

――アビドス最強のファラオが、SRTの高い練度から織りなされる戦術を、赤子の手をひねるように蹂躙していく。

それでいて、シラクニには流れ弾のひとつも飛んでいかないのだ、驚異的…という他なかった。

 

『……超人』

 

SRTの猛攻をしのぐユメに目線をやりながら、シラクニは無意識のうちにキーボードを叩く手を止めて、呆然と呟いた。

汗まみれの顔に、ユメに対する明確な畏怖と感嘆の色が浮かぶ。

 

これが、シラクニが、ユメという存在を、ただの「アホで間抜けなお人好し」という括りから外し、キヴォトスの理を無視した「規格外の超人」なのだと、本気で思い戦慄した瞬間だった。

 

SRTの隊列を蹂躙し、安置室の中央への押し戻しを果たしたユメは、IRON HORUSを構え直す。

彼女のヘイローが、集中により黄金の太陽のような輝きへと変化していた。

『さぁ、我が天秤に掛けられたい者から掛かってきなさい』

 

アビドス最強の『ファラオ』としての本能が、完全に覚醒する。

ユメは、圧倒的な暴力の嵐が吹き荒れる戦場へと、まるでドリンクサーバーに向かうかのように、さらに深く、飛び込んでいった。

 

ガキィィィィィンッ!! バチチチチッ!!

 

IRON HORUSが、SRTの集中砲火を弾き、黄金の火花を散らす。

彼女は迫りくるSRT隊員の銃身を素手で掴み、メキメキと音を立てて曲げると、驚愕する隊員を盾の一撃で壁へと叩きつけた。

SRTという秩序を、さらに圧倒的な神秘という混沌で蹂躙していく、異次元の制圧作業。

 

その背後ではシラクニが、戦慄に震える指で古いノートPCのキーボードを叩き続けていた。プログラムの解析率が、98%……99%……とcompleteに近づいていく。

 

『はやく、はやく…、……できたッ!!』

 

カチャッ、ターン!

シラクニが渾身の力でエンターキーを叩いた、その瞬間。

 

画面に、抽出されたデータの一部が、不意にホログラムとして空中に投影された。

 

「……ん?」

映像を見つめていた現在のアビドスの部室で、シロコが小さく声を漏らした。

先生もまた、そのホログラムを見て、背筋に凍るような悪寒を覚える。

 

――そこに映し出されていたのは。

キヴォトスの地図でも、クラフトチェンバーの設計図でもなかった。

 

血のように赤い空。

無惨に砕け散り、不気味に輝く月。

そして、どす黒い色彩に侵食され、崩れ落ちるサンクトゥムタワー。

微かに人影が…

 

それは、彼女たちが知る青く美しいキヴォトスとは違う、滅びと絶望に満ちた、別のキヴォトスの光景だった。

ホログラムは一瞬でノイズと共に消え失せたが、その不気味な残像は、見る者すべての心を凍りつかせた。

 

「な、なに……今の……?」

 

セリカが怯えたように猫耳を伏せる。

 

「ん。……あれは、危険。……本能が、そう言ってる」

 

シロコの瞳が、銀行強盗のことなど微塵も考えていない、戦士としての鋭い光を帯びる。

 

――映像の中では、SRTの猛攻を受け止め続けていたユメもまた、そのホログラムを一瞬だけ目撃していた。

彼女の黄金のヘイローが、集中とは違う、深い戦慄によって不穏に揺らぐ。

 

(……今、のは……? ホシノ、ちゃん……?)

 

――ドォォォォォンッ!!

 

予期せぬデータの残像に、ユメの動きが一瞬だけ止まった、その隙をSRTは見逃さなかった。

SRTの隊長が、ライフル下部に装着されたグレネードランチャーを構え、ユメの足元へと、直撃弾を放った。

 

『ひぃん!?』

 

『ユメ! 呆けてる暇はないわよッ!!』

 

シラクニの悲鳴。

火力の前面への投射に戦術を切り替えたSRTの部隊は切れ目なくグレネードを放つ。

爆発の衝撃波がユメとシラクニを襲う。ユメはシラクニを庇い、IRON HORUSで爆風を受け止めるが、その衝撃で二人は安置室の壁へと激しく叩きつけられた。

IRON HORUSが悲鳴を上げ、ユメの黄金のヘイローが明滅する。

 

SRTの隊員たちが、即座にフォーメーションを組み替え、動けない二人を捕縛するために、銃口を一斉に向ける。

 

『くっ……、ここまで、ね……まぁ…矯正局入りも悪く…ない、か』

シラクニは依頼の失敗を悟り、絶望に目を閉じた。

 

ユメは、壁に背を預けたまま、思考を切り替えた。

(……ダメだよぉ。今は、あの不気味な映像に気を取られてる場合じゃない、しっかりして梔子ユメッ!!)

 

彼女の脳裏から戦慄が消え、再び、研ぎ澄まされた集中力が宿る。

『……ごめんねぇ、シラクニちゃん。……ちょっとだけ、熱くなるかも!』

 

ユメは、背中から愛用のショットガン『ネブ・アブジュ』を抜き放ち、ガチリ、と重厚な音を立てて薬室へ弾丸を装填した。その弾丸は、いつもの散弾ではなかった。

黄金に輝き、表面に古代アビドスの神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれた、エキゾチック・アモ。

 

ユメの頭上の黄金色のヘイローが爆発的に輝き、その輝きが銃身へと収束していく。

彼女は、殺意ではなく、全てを無力化し、砂へと還す、支配者としての慈悲深い瞳で、自身を包囲するSRT部隊を見つめた。

 

『――さァ!!食らい尽くしちゃって!!アメミット☆ブレス!!

 

ドォォォォォォンッ!!!!!

 

ショットガンの銃口から放たれたのは、弾丸ではなかった。

眩い黄金の炎を纏った、巨大な砂の嵐。

ワニの頭部を持つ異形の怪物にも見える砂嵐が、SRTを噛み砕くために現れたかのように幻視される、規格外の神秘。

 

襲いかかる砂の嵐は、SRTの隊員たちには目もくれず、彼女たちが構えていた最新鋭の武器、装甲、そして部屋に張り巡らされた防衛ドローンだけを正確に捉えた。

 

ギャリギャリギャリギャリッ!! サァァァァァァ……。

 

黄金の砂に触れた瞬間。

SRTの隊員たちが持つアサルトライフル、シールド、そして周囲の防衛ドローンが、メキメキと音を立てて崩れ落ち、一瞬にして、無価値な砂へと変わった。

 

SRTの完璧なフォーメーションが、その瞬間、完全に崩壊する。

武器を失い、砂の山の中に立ち尽くすSRTの隊員たち。

 

「……うそ、SRTの、最新鋭の武器を、砂に……!?」

 

アヤネが信じられないものを見るように、タブレットを持つ手を震わせる。

 

「ん。……神秘。…あれは、真似できない」

 

シロコは目を輝かせながら、食い入るように画面のユメの放った神秘を目に焼き付けている。

暴力というよりは、もはや一つの神話的な『審判』だった。

 

『シラクニちゃん、今のうちに! エレベーターへ!!』

 

ユメは、突然の出来事に動揺するSRTを尻目に、シラクニの腕を掴むと、データの抽出が完了したPCをリュックに詰め込み、安置室の隅にある緊急脱出用エレベーターへと滑り込んだ。

 

――エレベーターの中。

シラクニは、改めて分捕った『別のキヴォトス』の映像を確認し、青ざめた顔でPCの画面を見つめていた。

 

『……ユメ、この、データの映像さ……』

 

『えへへ、後で…大丈夫だよぉ、今は、無事に帰るのが一番だよ!』

ユメは、シラクニの不安を和らげるように、優しく、底抜けに明るい笑みを浮かべた。

 

――エレベーターが、最上階へ到達し、扉が開いた。

同時にスラグ弾を操作パネルへとぶち込む。

 

『これで追ってはこれまい、ぶい!』

努めて、頼りがいがあるかのように振舞い、シラクニに向き直りサムズアップするユメ。

 

鼓膜を劈くような、強烈な夜風。

その上空には、事前に手配しておいた報道ヘリに偽装されたチャーターヘリが、ローターを轟かせながら待機していた。

 

『良かったぁ! お迎えの無人ヘリ来てたよぉ! さあ、シラクニちゃん、いっくよー!!』

 

ユメは、パシパシと手慣れた動きでヘリに向けて光通信を発し、満面の笑みでシラクニをエスコートしようとする。

この最悪のミッションを、ついに、たった2人で突破したのだ。

絶望と狂気の夜が明け、アビドスの夕暮れが、彼女たちを待っている。

 

――はず、だが…

まさに二人が、安心しかけた、その、瞬間だった。

 

ブラウン管が描き出す映像の中の、すべての「色」が消失した。

夜空の彼方、衛星軌道上から、圧倒的な質量と熱量を持った、蒼白い光の束が放たれた。

 

――理不尽な絶望。

 

ドガァァァァァァァンッ!!!!!

 

爆音すら遅れて届く、圧倒的な熱。

二人の目の前で、迎えのチャーターヘリが、一瞬にして燃え盛る巨大な炎の塊へと変わった。

爆風が二人を襲い、チャーターヘリだったものが屋上に墜落しコンクリートが砕け散る。

 

圧倒的絶望……。現在のアビドスの部室が、言葉を失い、静まり返る。

 

『くッ! 狙撃!? 何処からよ!?』

映像の中のシラクニが、爆風に煽られながらも体勢を立て直し、周囲のビル群を血走った目で睨みつけた。

 

『ヴァルキューレの対空砲!? いえ、地上からの地対空ミサイル……ッ!? どこの死角から撃ってきたの!?』

天才ハッカーの頭脳が猛烈な勢いで地上の脅威を演算し、パニックに陥る。

 

だが――その隣で。

(……ううん、違うよぉ。今のは地上からの狙撃なんかじゃない……!)

 

ユメだけは、周囲のビル群ではなく、遥か上空……夜空の彼方を静かに見上げていた。

彼女の「最強王」としての野生の勘と、研ぎ澄まされた戦士の眼力が、大気を焼き焦がした光の軌跡を正確に逆算していたのだ。

 

(……ずっと高いところ。……衛星軌道上からの、ピンポイントのレーザー照射。……規格外すぎるよぉ)

 

シラクニが常識という枠組みに囚われて取り乱す中、ユメだけは底知れない冷静さで、瞬時にこの規格外の攻撃の正体を見極めていた。

アビドス最強のファラオと、天才ハッカー。二人の戦場における格の違いが、この判断で残酷なまでに対比される。

 

――流石は生徒会長。

映像を見ていた現在のアビドスメンバーも、その圧倒的な戦士としての器と冷静さに、再び息を呑みかけた。

 

しかし――。

 

燃え盛るヘリの残骸を背に。

爆煙の中から響き渡ったのは、戦士の咆哮でも、恐怖の悲鳴でもなかった。

 

『あっあああ、ひ、ひひぃぃぃん……っ!! む、無理無理無理無理だよぉぉぉぉッ!!』

ユメは、炎上するヘリの残骸を見つめながら、ガチ泣きしていた。

 

『このチャーターヘリ、報道ヘリに偽装してるから、すっごく高かったんだよぉ!! 私、ホシノちゃんに内緒で、アビドスの備品もホシノちゃんお気に入りのクジラさんグッズも全部質に入れて、前払いで全額払ったんだよぉ……ッ!! 弁償代!! ああ!チャーターヘリを、返してよぉぉッ!! いくら私が王様でも、ヘリコプターの弁償代を支払うのは無理だよぉ!!』

 

「……そこぉ!?」

 

セリカがポカンと口を開け、脱出の道が断たれた絶望的な光景と、ガチ泣きするユメの落差に、渾身のツッコミを入れた。

先生は、思わず吹き出しそうになるのを必死に堪え、ノノミは「あはは、ユメ先輩、やっぱり可愛いですぅ☆」と、呑気にお茶をすする。

 

――映像の中では、絶望に悶えるユメの背後に。

燃え盛るヘリの残骸の炎を背に、ゆらりと、一人の人影が、音もなく姿を現した。

 

純白の制服を完璧に着こなし、一切の感情を持たない瞳で、ユメを見つめる少女。

彼女の頭上には、誰よりも重厚で、時に眩い輝きを放つ、ユメさえ霞む圧倒的な神秘を感じさせるヘイローが輝いていた。

 

――連邦生徒会長

 

彼女は、ガチ泣きするユメをただ静かに見つめ、口を開いた。

『――アビドス最強のファラオ、梔子ユメ。……あなたの思想、行い全ては、このキヴォトスの理を乱す、危険なノイズです。』

 

圧倒的なプレッシャー。

超人の降臨により、屋上の空気は、再び凍りつくような緊張感へと引き戻された。

 

だが――。

先ほどまでガチ泣きしていたはずのユメの瞳から、一切の涙と温度が消え去っていた。

彼女は、視線だけで人を殺すことができるのなら、間違いなくこの眼光になるだろうというほどの、極限まで研ぎ澄まされた鋭さで、純白の超人を真っ直ぐに睨みつける。

 

ギリッ、グググッ……!

 

強く、強く握りしめたユメの拳から、骨が軋むような重たい音が、強烈な夜風の中に響き渡った。

 

破壊されたチャーターヘリの仇を、弁償代踏み倒しのチャンスを得るため、最強王ユメは、連邦生徒会長に立ち向かう漆黒の決意を固めた。

 

 




読んで頂き、ありがとうございます。

戦闘シーンになると、自分の中のユメ先輩も、AIが情報として持っているユメ先輩像から出力される行動もSRTにボコボコにされたり、いの一番に無力化される役回りになり大変でした。
実は強かったユメ先輩を執筆される方々はすごいですね。

誤字でしたり、誤用を発見された方はお手数をおかけしますが報告をして下さりますと、助かります。
また次回も読んでいただければ幸いです。
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