The Unsung Mission 作:Maat-ka-Usir
本編を取り合えず書き終えたのですが、映画にはエンドロールやポストクレジットシーンが付き物じゃないですか?
そちらが猛烈に浮かんでしまい、捨てるのも惜しい出来だったので供養します。
アビドス・ダンス
放課後の部室は、沈みゆく太陽の残光に灼かれていた。
夕映え。
窓から差し込む強烈なオレンジ色の光は、長机に積もった薄い砂を黄金の粒子に変え、空気中に漂う埃さえも、まるでダイヤモンドダストのようにキラキラと乱反射させている。
ソファに深く身を沈め、分厚い歴史書を顔に乗せて昼寝を決め込んでいたホシノは、廊下から響いてくる、やけに元気でリズミカルな足音に、小さく肩を震わせた。
バンッ! と勢いよく扉が開く。
「ホシノちゃん、ホシノちゃん! 見てこれ! 昔のアビドスの人たちが踊ってた、伝説のダンスの図解かも!」
耳元で響く、よく通る明るい声。
ホシノは顔の上の本を少しだけずらし、重い瞼を片方だけ持ち上げた。
そこには、砂まみれでボロボロの古いパピルスを、まるで世界一の宝物でも見つけたかのように誇らしげに掲げた、愛すべき「お気楽な先輩」の姿があった。
「……また、変なものを拾ってきたんですか、ユメ先輩」
呆れを含んだホシノの言葉は、しかし決して拒絶ではない。
むしろ、この不毛で過酷な砂漠の日々において、彼女がどこからか持ってくる「ガラクタ」と、その底抜けの笑顔だけが、この乾いた世界を彩る唯一の色彩であることも、ホシノは薄々感づいていた。
「変じゃないよ! ほら、いくよー、アビドス・ダンス!」
ユメは誇らしげに胸を張ると、部室の真ん中、夕映えに照らされる特等席のステージへと躍り出た。
彼女が両手を天に突き上げると、窓からの風がふわりと彼女の長い髪と、少し大きめの制服を揺らす。
「砂漠を〜、トコトコ〜♪」
ユメが自分で謎のリズムを口ずさみながら、膝を高く上げる。
スニーカーが床の砂を叩き、パタパタと乾いた音が部室に響く。洗練されたダンスとは程遠い、どこかぎこちなくて、関節の動きが変で、けれど不思議と楽しげなステップ。
「お宝、ないかな〜〜?」
ユメは手を目の上にかざし、首を長く伸ばして、大げさに周囲を見渡す探検家のポーズをとった。
黄金色の夕日の中で、ユメがくるりと回る。彼女が不格好に回転するたびに、床の砂の粒子がふわりと舞い上がり、光を反射してキラキラと輝く。
「お星様〜、キラキラ〜〜♪」
両手を大きく広げ、身体を左右に揺らすアピール。
その瞬間、窓から差し込む夕日が、踊るユメのシルエットを切り取り、背後の壁と床に、長く、大きく投影した。
壁に映し出されたその影は、まるで数千年の時を超えて蘇った古代の壁画のように、躍動感に満ち溢れている。
――だけど、ホシノの目には。
影なんかよりも、眼の前でバカみたいに笑って踊っているユメ先輩の方がずっと大きく、頼もしく……そして、今にもサラサラと砂の中に溶けて消えてしまいそうなほど、儚く、美しく映った。
相変わらず、バカバカしいことをやっている。
こんなダンスを踊ったところで、天文学的な借金も、進行する砂漠化も、何一つ解決しない。本当に無意味な時間だ。
けれど、ユメが笑うたびに、冷え切っていた部室の温度が少しだけ上がる気がした。
彼女が不格好なステップを踏むたびに、絶望に満ちたこの学校に、小さな「奇跡」の種が芽吹くような錯覚を覚えた。
「……ふふっ」
張り詰めていたホシノの口元から、自然と、小さな笑い声が漏れる。
それは、長く冷たい砂漠の夜を前にした、束の間の、けれど何よりも得難い安らぎ。
「先輩、やっぱりバカですね。そのダンス、全然様になってないですよ」
「ひぃん……一生懸命練習したのにぃ……」
夕日の中で、ユメがもう一度、くるりと回る。
太陽のような黄金のヘイローが、優しく光を放った。
「ねぇ、ホシノちゃん、次は一緒に踊ろうよ!」
ユメが差し出した手の先。
床に長く伸びた先輩の影が、ホシノの足元まで届き、優しく彼女の靴を撫でた。
この、どこまでも暖かくて、不格好で、愛おしい光景が。
いつの日か、決して取り戻すことのできない「永遠の想い出」に変わってしまうことなど。
今の二人には、知る由もなかった。
最後まで見ていただきありがとうございました。
NGにしてしまうには余りに惜しかったので、エンディングかポストクレジットシーンはこれだったのだと思ってほしいです。
本編は明日に投稿します。