『TS転生した俺の姿がどう見てもピンク髪のぼっちですが、ダンジョンで現代ロックを弾き語ったら伝説のギターヒーローになってしまった件』 作:meiTo
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……! で、出られたぁ……!」
私は這うようにして、薄暗いダンジョンの入り口から地上の光へと転がり出た。
そこは中世ヨーロッパのような石畳の広場。
行き交うファンタジーな住人たちの目を逃れるように、私は路地裏の薄暗いゴミ箱の影(一番落ち着く場所)へと滑り込んだ。
「よ、よかった……食い殺されるかと思った……」
息を整えながら、ふと、先ほど助けた配信者の少女たちが言っていた言葉を思い出す。
『配信を見てるみんなが――』
この世界にもネットがあるのだろうか?
恐る恐る、転生前からなぜかポケットに入っていた自分のスマートフォンを取り出す。
なんと圏外ではなく、「魔力通信網」なる異世界のネットワークに勝手に繋がっていた。
トップ画面の「魔導SNS(この世界版のTwitterのようなもの)」を開いた瞬間、私の目は点になった。
【トレンド1位】#謎のピンク髪ジャージ
【トレンド2位】#音圧の魔法使い
【トレンド3位】#ギターヒーロー降臨
「えっ……?」
震える指で動画を開く。
そこには、うつむき加減でブルブル震えながら凄まじい手つきでレスポールをかき鳴らし、モンスターを爆音で消し飛ばす私の姿が超高画質でバッチリ全世界に配信されていた。
コメント欄は凄まじい勢いで滝のように流れている。
『あの服なんだ!? どこの国の民族衣装だ!?』
『いや、あの楽器の音色ヤバすぎだろ! 魂が震えた!』
『間違いなく国家級の奏術師(バード)だ!』
『頼む、誰か彼女を見つけてくれ! もう一度あの曲を聴かせてくれ!』
「…………ふふっ」
路地裏の暗がりで、私の顔がニチャア……と歪んだ。
(や、やった……! 前世からずっと「ギター上手いね」って誰かに言われたかった私の演奏が、異世界で何十万人にも絶賛されてる……! 私、ついに認められたんだ……!!)
隠しきれない承認欲求が、心の奥底からマグマのようにドバドバと溢れ出す。
このまま広場に飛び出して、「それ弾いてたの私ですぅ!」と名乗り出れば、私は一夜にして世界的スターだ。
チヤホヤされて、ファンクラブとかできちゃって――
「――いや無理無理無理無理無理!!!」
私は頭を抱えてゴミ箱の横で蹲った。
「見ず知らずの人に話しかけられるだけでゲロ吐きそうなのに、何十万人に見られてるとか絶対無理! 囲まれたら呼吸止まって死んじゃう! ああああ、あの時もっと顔を隠しておけばよかったぁぁ……!」
承認欲求を満たされたい。
でも、人とコミュニケーションをとるのは絶対に嫌。
あまりにも致命的な矛盾(ジレンマ)を抱え、ピンク髪の少女は路地裏で一人、ギリィ……と歯を食いしばった。
「と、とりあえず、生きていくためにお金を稼がないと……目立たないように、底辺の依頼だけをこっそり受けて生きよう……」
私はジャージのチャックを鼻の上まで引き上げ、深くフードを被って、冒険者ギルドへと向かった。
***
「次! そこの不審なローブの奴、登録証を作りたいなら魔力測定水晶に触れろ!」
冒険者ギルドは、屈強な戦士やガラの悪い魔法使いで溢れ返っていた。
怖すぎる。
完全にヤンキーの溜まり場だ。私は壁のシミになりたい。
「あ、う、えっと……」
促されるまま、受付にある巨大な水晶の前に立つ。
『特技や魔法を水晶に向けて放て。その威力でランクを決める』と、強面(こわもて)のギルドマスターが腕を組んで睨んできた。
どうしよう。私、ギター以外何もできない。
でも、あの動画と同じ曲を弾いたら一発でバレる。
なら……絶対に「あの勇ましい曲」とは結びつかないような、別の曲をちょっとだけ弾けばいいんだ!
私はフードを深く被ったまま、ギグバッグからギターを取り出した。
選んだのは、前世で暇つぶしに弾いていた、超絶重低音のデスメタル/ハードコアのイントロ・リフ。これなら魔法陣みたいなエフェクトも出ないはず……!
「い、いきます……!」
――ズギュゥゥゥゥンッ!! ギャリギャリギャリギャリッ!!!
「「「なっ!?」」」
ギルドの空気が一瞬で凍りついた。
地鳴りのような重低音と、ノコギリで鉄を切り裂くような凶悪なディストーション・サウンド。
それは、優雅な音楽しか知らないこの世界の住人にとって、未知の「破壊音」だった。
《スキル【英雄の旋律】発動。楽曲:重低音デスメタル――対象に『絶対的威圧(テラー)』および『建築物破壊(ブレイク)』を付与します》
ピキ……ピキピキピキッ!!
「あ」
私がコードを数回刻んだ瞬間、魔力測定水晶にヒビが入り――パァァンッ!! と粉々に砕け散った。
さらに、音圧の余波でギルドの窓ガラスが全部吹き飛び、屈強な冒険者たちが「ひぃっ!?」と腰を抜かして次々と床にへたり込んだ。
「や、やばっ……!」
やりすぎた。
絶対に怒られる。
弁償させられる。
あまりの恐怖に、私の体はガタガタと激しく震え出した。
「す、すみま、あ、うぅ……っ!」
半泣きになりながらギターを抱え直し、土下座しようとしたその時。
強面のギルドマスターが、ワナワナと震える手で私を指差した。
「ま、まさか……水晶を粉砕するほどの絶大な魔力……それにこの、魂を直接殴りつけてくるような、体制に対する『反逆』を感じさせる音色……!」
「え?」
「おいお前ら、見ろ! 彼女のあの震えを! 自身の強大すぎる力と魂の叫びを必死に抑え込んでいる証拠だ! あんな小さな体で、どれだけの業(カルマ)を背負っているというのだ……!」
「おおお……!」
「なんて気高い姿だ……!」
「あれが、動画で噂になっていた『ギターヒーロー』の真の姿……!」
いや違う。ただ怒られるのが怖くてガクガク震えてるだけです。
「あ、あの、私……「言葉は不要だ!!」」
ギルドマスターが感涙しながら叫んだ。
「お前の魂の叫び(ロック)は、確かに受け取ったぞ! 今日からお前は、特例でSランク冒険者としてギルドで迎え入れよう!!」
『うおおおおおおっ!! ギターヒーロー! ギターヒーロー!』
ギルド中に巻き起こる、割れんばかりの大歓声と拍手喝采。
屈強な男たちが、私に向かって尊敬の眼差しでペンライト(光魔法)を振っている。
(あ、あああ……違う、私はただ、底辺で目立たず生きていきたかっただけなのに……っ!!)
押し寄せる「最高級の称賛(承認欲求へのエサ)」と、「極大のプレッシャー(コミュ障への劇毒)」の板挟みになりながら。
ピンク髪の美少女はフードの下で、白目を剥いて気絶寸前になっていたのだった。