あるファンが好きな小説のイベントへの道すがらに見た夢の記録。


 本条謙太郎先生の『汝、暗君を愛せよ』ならびに『地に落ちて死なずば』の二次創作です。


 処女作のため読み難い部分が多々ありますが、どうぞご寛恕下さいm(_ _)m


※ 両作品Web版読了済み推奨

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実現不可能な夢

 自分の生まれた世界とは異なる世界に転生して活躍する。そんな話が流行っているらしいけど、私が遭遇している状況もそうなのかな。さて、状況を整理してみよう。とは言っても至極単純だ。気が付いたら美味しい食事や芸術などが有名な国にありそうな街に居る。それだけだ。まあ写真や映像でしか見たことがないから実際似ているかは分からないけど。

 

 こんなことを誰か他の人に言っても信じてもらえないどころか医者を勧められるだろうね。当然だ。当事者である私だって信じられないんだから。

 

 「……ですか?……大丈夫ですか?」

 

 っといけない。声をかけられていたのに気づいていなかった。現実逃避をし過ぎるのは悪い癖だ。

 

 「っええ、大丈夫です。少しぼーっとしてしまって……」

 

 「それなら良かった。ずっと立ち尽くしていたので何かあったのかと」

 

 言葉が通じる不思議は置いておくとしても——それも昨今流行りのご都合主義とやらだろうか——見ず知らずの不審者に声をかけるとはよっぽど暇なのかな。年は大学を卒業したくらいだろうか。外国の人の年齢というのはどうもよく分からない。相手からしても同じだろうけど。

 

 また現実逃避に入るところだった。よくないね。まあ折角だし色々教えてもらうか。余計に不審かもしれないけど、声をかけたのが運の尽きだと諦めてもらおう

 

 「観光で来たんですが迷ってしまって途方に暮れていたんです」

 

 「なるほど。ぼくで良ければ案内しましょうか?」

 

 嬉しい誘いだけどタイミングが良すぎると怪しいね。後から案内料を要求される類の親切だろうか。それとも土産物屋に連れていかれるけど、実はグルでしたみたいな感じかな。まあそうなったときは大人しく逃げよう。逃げられるかな。先んじて一文無しであることを言うべきだろうか。

 

 

 

 

 色々な場所を案内してもらったけど、どうやらただの親切な人のようだ。とはいえ、そうすべて物事が単純なら“只より高い物はない”なんて言葉はないだろう。相手の意図が分からないというのはとても怖い。

 

 そうそう、街の案内をされる他にお互いの話を少ししたんだけれど、彼の書いた小説が近々出版されるらしい。趣味の話で私が最近はまっている小説の紹介と、その小説のイベントに行くという話をしたら、少し驚いた顔をした後、少し気恥ずかし気に教えてくれたんだ。

 偶然やってきた街で偶然出会った人が小説家とは何という偶然だろうか。本当に偶然なのかな。何かの仕込みかはたまた私のミーハーな心が生み出した都合の良い夢だろうか。

 

 街の話をすると、この街も欧州と同様に旧市街と新市街——旧市と新市と呼ぶらしい——に分かれている。今歩いているのは旧市。特に興味を惹かれたのは旧市と新市にそれぞれ別のチームが存在することだね。

 旧市にはサッカー専用スタジアム、新市には陸上競技場を兼ねたスタジアムがあるらしい。ダービーのとき——ダービーは同じ本拠地のチーム同士の対戦のことだ——はサポーターも熱狂して街が凄い熱気で包まれるらしい。むべなるかな。私の応援するチーム——国内リーグのとあるチームを応援しているんだ——にもダービーがあるんだけれどやはり特別な試合で、いつもはゆるゆる応援している私も熱くなる。

 

 

 

 

 次にやってきたのは美術館。光を積極的に取り込もうとする構造のようでかなり開放感がある。

昔は王宮だったらしいけど、住んでいた人達や働いていた人達は何を感じていたんだろうか。王族や貴族とはいえ彼等も私達と同じ人間で、彼等にも生活はあっただろう。

 王侯貴族という言葉から連想される通りの豪華絢爛な生活だったんだろうか。それとも家族関係や政治に悩んで酒を呑むこともあったんだろうか。例えば王様が娘の反抗期に悩んでいたら面白いよね。まさかそんなことはないだろうけど。

 

 この美術館の目玉である(らしい)大きな回廊はガラスと鏡をふんだんに使用していて他の場所にも増して光に溢れている。

 大多数の観覧者の目的もここのようで、行きたい方向に進むのに難儀することだけが欠点だろうか。彼が人並を掻き分けて先導してくれなければ遭難していたかもしれない。

 

 二階に上がると一階に比して人影もややまばらだ。有名作品の展示と大回廊があるのは一階で二階はやや知名度に劣る作品が多いらしいから、その所為かな。足早に通り過ぎていく人も少なくない。

 展示品の説明とまつわる話を彼に教えてもらいながらゆっくり進んでいると、何故か人が溜まっている絵の前に辿り着いた。

 

 最近、再評価されて人気が出だした王様の肖像画らしいけど不思議な感じだ。こう言っては失礼かもしれないけど、あまりにも普通だ。どこにでも居そうな感じと言えばいいだろうか。これといった特徴もない中年の男性だ。絵の題名は人混みに隠れてしまってよく見えない。

 不思議と言えば、それまでは展示品よりもこちらを窺っていた彼がこの絵だけはじっと見つめている。いや、正確に言えば絵ではなくそれを通してどこか遠くを見ている感じがする。説明も半ば独り言のようだ。

 

 絵の説明というかは描かれている王様の説明のようだ。またまたまた偶然にも、はまっている小説の主人公に経歴が似ている。主人公が異世界に転生するんだけど、魔法も特殊能力も無くて歴史小説かと思うくらい重厚な世界観で面白いんだ。

 それにしても今日は偶然が重なる日らしい。偶然も3つ重なれば必然らしいけど、今の状況はどうなんだろうね。

 

「……彼はしばしば“うまくやる”と口にしたそうです……絵の題……一般に……」

 

うん?おかしいな。彼の話す内容がよく聞こえない。それに周囲の音も徐々に遠くに……

 

 

 

 

「……今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございました」

 

……ん?どうも少し寝ていたようだ。イベントに行くのに乗り過ごすのはいただけないから起きられて良かった。まあ終点だから乗り過ごすこともないけど、他人の手を煩わせるのは申し訳ない。池袋へ行くにはどうするんだったか。降りたらメモを見ないと。

 トーク会に加えてサイン会もあるから遅れるなんてことは以ての外だ。緊張するな。作者さんに会えるのは凄く嬉しいけど、変なことを言ってしまいはしないだろうか。

 

 それにしてもやけにリアルな夢だったな。今日を楽しみにし過ぎてよく寝られなかった所為かな。まるで本当に『地に落ちて死なば』の世界を旅した気分で楽しかったな。作品世界に入り込む、まさに実現不可能な夢を見た気分だ。

 

 ただ……最後に見た絵の題名は何だったんだろうか。不思議と惹きつけられたあの絵。

 

 

 

 

 「……この絵の題名は『グロワス13世』ですが,一般に『荒野の王』とも呼ばれています……」


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