双葉湊音とこんな恋愛したいなって

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第1話

 双葉湊音との出会いは唐突であった。当時は唐突に増えた従姉妹に困惑しながらも、彼女の人柄故に一瞬で打ち解け、そして彼女の太陽のような笑顔にあっさりと心を撃ち抜かれてしまったのだ。

 

 

 

 地元から電車で30分ちょっと、そこから新幹線で数時間、さらに電車に乗り換えて、今度はバスに乗り換えて、さらにさらに歩いて、気づけば半日を使い辿り着くのが親父の親父、つまり俺の爺ちゃんの家である。

 

 なんで時間をかけてここまで来たのかといえば、我が一族は毎年お盆に集まり1週間程過ごすからである。ハッキリ言って俺はこの習慣が好きじゃ無かった。古臭い、デカいだけのド田舎の一軒家なもんだからWi-Fiも無いし電波も悪いしで暇でしょうがない。親戚の中だと俺が一番下で、一つ上の従兄弟の兄ちゃんも一回りは離れてるもんだから俺はなんだか話の輪に入れず浮いてる気がして居心地も悪かった。

 

 そんなもんだから部屋で一人ボーっとしていた時だった。やたらニコニコしていた母さんに呼ばれて大広間に顔を出せば知らない女性が二人、親戚一同に囲まれていた。

 

「みんな紹介するよ。この人が僕と結婚してくれた人」

 

 二人の女性の隣に立つ叔父さんの紹介を皮切りにみんなどよめき立つ。聞けば一人は叔父さんの結婚相手でもう一人はその連れ子だと言う。これは後から聞いた話なのだが、娘が産まれる直前に旦那さんが事故で死んでしまいそれ以来女で一つで娘を育てて来たという。

 

「ハイ!双葉湊音です!よろしくお願いします!」

 

 挨拶を促され、戸惑いつつも太陽の様な笑顔で自己紹介する彼女の顔が鮮明に脳裏に焼き付いたのだった。

 

 程なくして夕食となった。最初こそ戸惑う様な湊音だったが、おおらかな性格の多い双葉家と彼女の持ち前の性分が合わさった結果、結局湊音はあっさりと双葉家に溶け込んだ。

 

 母さんや叔母さん達と仲良く話す湊音からなんだか目が離せず、なんとも言えない気持ちを抱えて飯を食う。そんな時に隣に座って来たのが爺ちゃんだった。

 

「惚れたか」

「は?」

「あいや、皆まで言うな。ワシには分かる。ワシも婆さんの尻を追っかけてた時とおんなじ目だ」

「は?」

「こうちゃんに何バカな事言ってんの!」

「は?」

 

 急に茶化しに来た爺ちゃんをいつの間にか後ろに来ていた婆ちゃんが引っ叩いて引きずって行ってしまった。爺ちゃんも相当酔ってるらしい。婆ちゃんの尻に引かれてるのはいつもの事なので気にならなかった。

 

 

 

 いつの間にかいい時間になっていたのでそそくさと宴会から抜けて風呂に入ってしまった。今だに大広間の方は騒がしいから当分ドンチャン騒ぎは続くだろう。

 

「あ」

「あ」

 

 部屋に戻る為に縁側を歩いていると角から湊音が出て来た。長い髪の毛はしっとりしていてさっきまで来ていたワンピースからジャージに着替えている。どうやら彼女ももうお風呂に入ってしまったらしい。鉢合わなくて良かった。

 

「えっと」

「湊音でいいですよ。幸樹くん」

「じゃあ、湊音で」

 

 こっちが呼びあぐねていたのを察して助けてくれたらしい。女子は大体苗字で呼んでいるがここではみんな双葉である。苗字で呼んでる人なんて一人も居ない。

 

「伯父さんから聞きました。なんと同学年だそうです!」

「そうなのか」

「そうなのです!」

「それは、知らなかった」

「もっと私に興味を持ってくれても良いんですよ?因みに私は幸樹くんの事もっと知りたいです!」

 

 太陽の様な笑顔でグッと近づいて来る。そんな彼女の顔が眩しくてつい、仰け反ってしまう。

 

「ちょっとお話ししませんか」

「話って?」

「もっとお互いの事を知りましょう!」

 

 それから二人で縁側に座って他愛のない話で盛り上がった。好きな食べ物、好きな場所、好きな音楽、好きな映画。お互いに好きな物を好きなだけ語った。

 

「私にはお父さんが居ませんでした」

「それは」

「私が産まれる前に事故で死んでしまったそうです。でもお母さんは私をここまで育ててくれました。そして素敵なお父さんを連れて来てくれて、素敵な家族の皆さんと合わせてくれました」

 

 この時初めて湊音の事を聞いた。出会ってすぐの俺に彼女は話してくれたのだ。それが信頼の証だったのかも知れない。

 

「それに」

 

 湊音は裸足で庭に駆け出す。

 

「なんと同い年の従兄弟まで出来てしまいました!」

 

 月明かりに照らされた湊音はやっぱり笑顔で、まるで彼女は光っている様で、

 

「足、汚れるぞ」

「良いんです!これぞ青春!」

「青春?」

「ハイ!」

 

 湊音が俺の手を庭まで引っ張る。彼女の笑顔に惚けていた俺は抵抗する暇も無く庭に連れ攫われる。

 

「アハハ!」

「ちょっと!」

 

 踊ってるのか振り回されてるのか分からない程に庭で駆け回る。それでも楽しそうにする彼女に釣られて自然と俺も笑っていた。

 

「やっと笑いましたね!」

「やっと?」

「ハイ!幸樹くんは初めてあった時からなんだかつまらなそうでした。でも!それではいけません!私たちは今や高校一年生!受験という苦難を超え遂に辿り着いた青春の舞台なのです!それを笑わずに過ごすとは勿体無い!」

 

 そうしてまた湊音はグッと近づいて来て、俺は仰け反る。彼女の言っている「青春」という奴はあまり分からないが、まぁ、要するに笑って過ごしましょうという事である。

 

「えっと、、、確かに?」

「分かってくれますか!」

「落ち着けって」

 

 笑顔を一層輝かせ、更に近づいて来ようとする湊音を抑える。

 

「おっと、これは失礼しました。ですがこんな機会滅多に無いでしょう!決めました!今日から1週間、私と幸樹くんの二人で青春を謳歌しましょう!」

「は?」

 

 どうやら双葉湊音という女は想像以上に行動力の化身だったらしい。そしてそれに付き合う事が確定した俺も不思議と嫌な気持ちでは無い。

 

『惚れたか』

 

 爺ちゃんの言葉が脳内に響く。この気持ちを否定するのは簡単だ。だけど、それは彼女のいう「青春」じゃ無いんだろうな。

 

 いわゆる一目惚れという奴だろう。夏休み、帰省先で出会った女の子に一目惚れをする。うんなんだか青春っぽいじゃ無いか。

 

「行きますよ!エイエイオー!って何してるんですか!ほら、拳を上げて」

「えいえいおー」

「そうです!それでは一緒に!」

「「エイエイオー!」」

 

 惚れた弱みというやつだ。彼女に振り回されるのも悪く無い。

 

 こうして太陽の様に眩しくて素敵な笑顔の双葉湊音との1週間が始まった。


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