梅花の香りがする女性だった。
ルアン・メェイ。生命科学において宇宙規模の権威と称されながら、茶菓子や刺繍にも通じる才媛。
孤高を極め、倫理を軽んじ、理性を厭い、狂気を尊ぶ。
市井の人々からマッドサイエンティストと呼ばれることさえ、どこか愉しんでいる節がある破綻者。人との交わりには興味を示さず、無人の惑星に籠り、ひたすら命の探究に没頭している。
しかしその一方で、決して対人能力に欠けているわけではない。ときに人並みの良識すら見せる。矛盾した人格。魔性めいた、危うい魅力を持つ女。
ただ生命の本質にのみ執着し、それ以外の一切に関心を示さない。ひたすら純粋で、恐ろしくも美しい人――それがルアン・メェイという天才である。
「朱明の新作です。糖分の補給にどうぞ」
多種多様な植物が生い茂るその部屋は、研究室というよりも芸術家のアトリエに近い空間だった。
ここは生命科学の天才、ルアン・メェイの研究ラボ。一見すると混沌としている部屋だが、そこには彼女なりのルールがあるらしく、食事に用いるデスクの上だけは、わずかに整理されている。
そこにそっと菓子とお茶を置く。彼女からの返事はない。いつも通りの反応だ。だから気にすることもない。――嘘だ。ほんの少しだけ悲しい。
「失礼します」
早々に部屋を後にする。彼女の邪魔はしたくない。ただ、ほんの一瞬だけ、作業に没頭する彼女の横顔を盗み見る。
目が合った。綺麗な瞳だ。加えて、思わず見入ってしまうほどに美しい容貌。だがそれも一瞬の出来事で、彼女は視線を戻し自らの仕事に没頭する。
「心臓に悪い。本当に」
部屋を出て、胸を抑える。動悸する心臓は甚だしい。それもそうだ。己は彼女を好いている。その類稀な容姿もさることながら、彼女の在り方に酷く心酔している。
命を救って頂いた恩がある。その上で事情も聞かず、ろくな対価も求めず、彼女は根無し草の自分をここに置いてくれている。
何かをしたいと思った。役に立ちたいと思った。幸か不幸か、彼女の生活習慣は最悪だった。食事は摂らず、身体の限界まで研究に打ち込み、気絶するように眠る。定命の者ならば早死にするような生活に、一度苦言を呈したこともあるくらいだ。
なんの取り柄もない自分がここにいるのは、「そんなに文句があるのなら、貴方が私を管理してください」と直接本人から仰せつかったからだ。渡りに船だった。はじめは炊事や洗濯、清掃から。身の回りの雑事をこなし、最近では実験の助手まがいなことから対外的なマネジメント業務も担っている。
「煩わしい人間関係を構築する手間がなくなりました。感謝します」
こちらに視線をよこすこともなく、フラスコを片手にルアン・メェイはそう言った。喜ぶべきか、彼女の孤独を加速させている事実に悩むべきか。
孤高であることと孤独であることは表裏一体だ。どのような経緯があってか、彼女は人と関わることをいたく厭う。人付き合いが彼女にとって研究の雑音であることは間違いない。だがそれとは別に、彼女は恐れている。あるいは知らないのだ。
人を信ずること。何かを愛するということ。そうした人として有するべき情緒が、どこかほんの僅かばかり欠落している。
生命の本質を知るべく、ルアン・メェイは多くの生き物を創造し、再構築する。その果てに惑星という生態系の揺り籠すら作り上げているのに、孤独な人生を歩む天才。しかし彼女はひとかけらの良心を未だ捨てられずにいる。そんな生き様を見てしまった。
酷い話だ。自分は不器用な生き方をする彼女に魅入られてしまったのだ。支えたいと思うのは、当然の帰結だった。
✴︎
「……おいしい」
今日も机に置かれた甘味を食む。梅の味だ。彼はルアンの嗜好をよく理解していた。自ずから作ったお菓子ではなく、わざわざ朱明から取り寄せただけのことはある。
彼は良い拾いものだった。
宇宙に漂っていた仙舟の罪人。それが彼の身分だった。豊穣の星神に愛されていた彼は、仙舟の民からすれば流罪の刑に処されようとも、まったく心の痛まない存在だったらしい。
だからルアンは拾った。最初は実験対象として。星神からの一瞥ではなく、寵愛を受けた存在。ともすれば使令にさえ匹敵する力を持つ彼は、正しくルアンにとって興味の尽きないサンプルだった。
しかし数か月にも及ぶ調査で分かったことは、まったくつまらないものだった。驚異的な生命力と特筆に値する戦闘能力。それらを除けば、彼は単なる人類だったのだ。
そう、彼は普通の人間だった。
おいしいごはんを作ることが好きで、几帳面すぎるくらいお掃除と洗濯が得意なだけの、ただの人間。
つまらない。
彼の実験的な価値と言えば、精々その優れた耐久性能を利用して新生物の危険度を検証する程度のもの。だからルアンが彼をここに置いているのは、単なる気まぐれ。その筈だった。
「仕事場の整理がつかないのはよろしい。研究に従事する方々の気質はよく心得ています。ですが生活リズムが乱れているのは頂けない。せめて粥だけでも食すべきです」
いつの日か、彼はそのようなことを口にした。丁寧なようでこちらを馬鹿にするような、そんなニュアンスがあった。いや、あれは呆れていた。呆れ果て、それでいてルアンを心の底から心配していた。
「梅の粥です。消化にいいですよ。しかも美味です」
「……別に、私には必要ありませんが」
「カンパニーのレーションは栄養に富み、官能評価の観点からも一定の基準は満たしていると思いますが、常食には適してないでしょう」
「うるさいですね」
「では召し上がってください」
「……思っていたよりも強情なんですね」
「はい。恐れながら、言うべきことは言わなければ」
肩を竦めながら告げる彼は、拍子抜けするくらい穏やかな顔をしていた。それがあまりにも平和呆けしていたものだから、ルアンはつい聞いてしまったのだ。
「どうして、梅なのですか?」
これまでルアン・メェイは自らの趣味趣向を一切口にしていない。だから彼女は気になった。どうしてこの男は自身の好みを知っているのかを。
すると彼は嬉しそうに、したり顔で言うのだ。メェイという言葉の語源は梅なのだと。そんなこと、知らないわけがないのというのに。他でもないルアン自身が、亡き両親から取った名前なのだから。
「……そうですか」
「おや? もしかしてご存じでしたか?」
「ええ」
「これはお恥ずかしい」
そんな出来事があった。それ以来、小言を聞くのが煩わしかったので、ルアンは彼の好きなようにさせた。炊事、掃除、洗濯。日常の雑事だけでなく、マネジメント能力にも一定の適性がみられたのでそれも全部押し付けた。
結果、研究の進捗が著しく改善した。彼の手によって規則正しい生活が約束され、柔軟かつ丁寧に管理されたスケジュールに従って生きる日々。研究費を確保するための面倒な人付き合いも彼の調整によって格段に減った。
不愉快だった。
まるで遅効性の毒のような男だ。甲斐甲斐しく世話をされ、少しづつ絆されていく自分をルアンは自覚する。人を信用も信頼もできない女が、この人の意見ならちょっとくらい聞いてあげてもいいかな、だなんて小娘染みた感想を抱いてしまう体たらく。
性質の悪いことに、彼は距離感を違えない。研究中のルアンに殆ど干渉せず、あくまでも食客としての立場を弁える。時折、糖分補給と称してお菓子をご馳走してくるが、それも言葉は最小限にさっさと部屋を出ていってしまう。絶妙な距離感覚。それを心地よく感じてしまう。
他人の存在をここまで強く意識したことはない。もう、彼なしでは実験すらままならない。それくらい、天才は弱くなってしまった。
ある日のことだった。ルアンは珍しく早めに研究室を後にした。廊下を歩きながら、ルアンは驚いていた。集中が途切れていたのだ。彼の気配が頭の片隅にずっと張り付いているせいで、研究に専念できなかった。なんて怠惰なことだ。それでも――
リビングの扉を開けると、ちょうど彼が最近買い与えた厨房から顔を出した。白いエプロンのまま、穏やかな視線が私を捉える。
「おや、研究は?」
「少し早く切り上げました」
「左様ですか。お夕飯とお風呂、どちらもご用意できますが」
「では食事を。お腹が空きました」
「承知致しました」
そうして言葉通り用意されていた夕食。口に含めば、素朴で優しい風味がゆっくりと広がる。まるで彼の人となりそのものを、舌の上にそっと写し取ったような、そんな味わいだった。
「今日もお勤めご苦労様でした」
心底からこちらを慮る言葉が身に染みる。けれどルアンは何も答えることができなかった。彼女の幼い情緒では、研究に打ち込むことしか能のない彼女では、気の利いた返事などできるはずもなかった。
だから彼の献身に、ただ小さく頷き返すだけ。天才にできる精一杯がそれだった。だというのに――
「はい、お気遣いありがとうございます」
彼は嬉しそうに笑う。ルアンは頭がどうにかなってしまいそうだった。
✴︎
シーツを持ち上げると、乾いた布の匂いがふわりと立ちのぼった。洗い立ての綿の匂いは、朝の空気のように軽くて、胸の奥まで静かに染みてくる。両手で端を広げ、ベッドの上にそっと落とす。
角を合わせる作業は、いつも慎重になる。マットレスの縁に指を差し込み、布を引き、余りを折り込む。指先に感じる厚みや張り具合で、仕上がりが分かる。ぴんと張ったシーツは、掌で撫でるとほとんど皺がない。軽く手のひらを滑らせ、残ったわずかな空気を外へ押し出す。
枕を置き、カバーの皺を伸ばす。最後に全体を一歩下がって眺めると、白い面が静かに光を返していた。
ほう、と小さく息をつく。彼女がここで休むのだと思うと、少しだけ誇らしい気持ちになる。眠りにつくとき、彼女がこの静かな整いを無意識に感じてくれたらのなら、それで十分。もう一度、シーツの端を指先で確かめてから部屋を出た。
ベッドルームの扉を静かに閉め、エプロンの紐を結び直す。
そして胸ポケットにしまっていた手帳を開き、次の業務を確認する。加齢のせいか、最近物覚えが悪くなっているような気がしてメモを取るようになった。手帳と記憶の内容が一致している。すなわち、次は夕餉の支度だ。
キッチンへ足を踏み入れるたび、いまだに少しだけ胸が弾む。以前、思いきって「もう少し使いやすい設備があると助かります」とルアン・メェイに願い出たことがある。
半ば冗談のつもりだったのに、数週間後には、艶のある天板と静音設計の引き出しを備えた、カンパニー製の高価なシステムキッチンが据え付けられていた。過分な贈り物だと思いながらも、その使い心地の良さには素直に感謝している。
冷蔵庫から食材を取り出し、まな板に並べる。包丁を握ると、手の中にほどよい重みが収まった。刃を入れるたび、野菜が小気味よい音を立てる。
コンロの火力はつまみひとつで思い通りに調整できる。道具が整っていると、動きに迷いがなくなる。
鍋に油を注ぎ、火にかける。表面がゆらりと揺れはじめたのを確かめて、衣を用意した。冷たい水で溶いた衣は、あえて少しだけだまを残す。混ぜすぎないほうが、軽く仕上がる。
海老の尾を持ち、衣にくぐらせてから、そっと油へ落とす。ぱっと小さな音が弾け、細かな泡が一斉に立ちのぼった。箸で触れ、底にくっつかないように軽く返す。油の中で衣がふくらみ、淡い金色へと変わっていく。
揚げ上がった一本を網に引き上げると、衣がかすかに鳴いて、余分な油が静かに落ちた。湯気の向こうから、揚げたての香りが立ちのぼる。
悪くない出来だ、と心の中でつぶやき、次の具材を衣にくぐらせた。油の表面が、また小さく波立った。香りが立ち上がり、空気が少しだけ温かくなる。味を確かめ、塩をひとつまみ。舌の上で味の輪郭が帯びるするまで、慎重に整える。
お米を炊いた窯から蒸気がやわらかく漂いはじめるころには、台所全体が夕方の色に包まれていた。皿を温め、盛り付けを考える。せっかく揃えてもらったこの場所で作るのだ。きちんと、おいしいごはんを作りたい。
海老と野菜の天ぷら、オクラの酢の物、とろろ昆布のお吸い物、白米。古い故郷の味を可能な限り再現した献立。もちろんデザートは梅の氷菓だ。手間をかけただけあって、我ながら良い仕上げになった。
「いい匂いですね」
背後から声がかかる。家主、より広義で形容すればこの星の主たるルアン・メェイ。彼女は相も変わらず色のない表情でこちらを見ていた。
「今日もお帰りが早いのですね」
「はい。大きなプロジェクトが一つ、終わりましたので」
「それは喜ばしい。ではお祝いに秘蔵の清酒をお出ししましょう。私のとっておきです」
「清酒、お米のお酒ですか?」
「故郷の銘酒です。本日の夕食とも合いますよ」
「そうですか。ところで秘蔵、というのは」
「何かおめでたいことがあったらと、取り寄せておりました」
「……そう、ですか」
ルアン・メェイはわずかに視線を落とした。
指先が、テーブルの縁を軽く叩くように動く。いつもの冷静な仕草とは、少し違う印象を受けた。
「その清酒の費用は、どこから出ているのですか?」
唐突な問いだった。食器具を置いて振り返る。彼女は相変わらず表情を変えていないが、瞳の奥に小さな揺らぎがあるのが分かった。
「費用ですか?」
「はい。あなたに余計な出費を強いているのではないかと」
言葉が少し途切れ、彼女は小さく息を吸った。まるで、言ってはいけないことを言ってしまったように。彼女はすぐに視線を逸らす。
それで何となく理解する。俗にいう生活費の管理はこちらで行っているが、最終的な決算は彼女が行っている。その中に清酒やそれに類するものがないことを彼女は覚えていたのだろう。本当に驚異的な記憶力だ。
そして決算書に書かれていなければ、それはもう自費ということになる。実際、件のお酒は個人で購入したものだ。だがそれは決して度を越して高価な代物ではない。少なくともカンパニー製の最新キッチンに比べたら雲泥の差だ。だからそこまで気に病むようなことでもないのだが、どうにも彼女は引っかかるらしい。
「いえ、負担なんてそんな大それたものでは。覚えていますか? 以前、貴女から頂いた信用ポイントのこと」
「ああ、お小遣いのことですか」
かつてシステムキッチンを増築した後、ルアンは「他にも改築したいものがあれば、これで用立てて下さい。ああ、何でも好きなものを買うように」とちょっとびっくりするぐらいの額の信用ポイントをいただいたことがある。彼女の金銭感覚ではあれがお小遣いになるのだから、まったく銀河的な権威というのは恐れ入る。
「その時の信用ポイントを、少しだけ投資に回していたんです」
「……投資?」
「はい。最初はほんの少しだけだったんですが、運よくうまく回って。ですから本当に気にしないでください。もともと貴女のお金なんですから。むしろ事前に相談しなかったことを謝らせてください」
彼女はしばらく何も言わなかった。ただ、指先がテーブルの縁を叩く動きが止まり、代わりに軽く握りしめられる。
唇がわずかに開き、また閉じられた。まるで、胸の内で何かを何度も言い直しているように見えた。
「……しかし」
ようやく、掠れたような小さな声が漏れる。
「しかしそれは、貴方のためのお金で。だから、私に使ってしまっては」
そこで言葉が途切れた。彼女は自分の両手をじっと見つめ、ゆっくりと息を吐いた。まるで、感謝と戸惑いが同時に喉に詰まっているかのようだった。
「ルアン・メェイ」
可能な限り柔らかく呼びかける。
「これは、私が勝手にやったことです。貴女が喜んでくれるなら、それで十分なのです」
ルアン・メェイは再び視線を上げた。その瞳には、いつもの冷静さの奥に、ほんのわずかな、まるで道に迷った幼子のような色が浮かんでいた。
「……そうですか。なら、有難く、いただきます」
彼女はもう一度、そう繰り返した。今度は、声が少しだけ柔らかく聞こえた。
★
宇宙ステーション・ヘルタ。
とある天才が「一切の怪異を星空に封印する」という名目で、銀河各地から集められた知識と遺物を収容・解析するために建造された巨大な研究施設だ。内部は分野ごとに区画化された研究ブロックが連なり、天文学、生命科学、工学から、正体すら判然としない未知の現象までが同時並行で進められている。
その中でも特に注目すべきは、知恵の星神ヌースに招待されし者たち――「天才クラブ」の会員たちが集う場でもあることだ。
生命科学の権威であるルアン・メェイもまた、その一人である。ヘルタに声をかけられ、スクリューガムやスティーブンと共に「模擬宇宙」なるシミュレーション装置を開発している彼女は、必然的にこのステーションと深く結びついている。
本日は比較的穏やかなメンバーによる会合があるとのことで、ルアンは宇宙ステーションを訪れていた。自分はその付き添い――一応護衛という体裁だが、果たして彼女にそのような側役が必要なのかは、甚だ疑問である。
エントランスホールで、ルアン・メェイは足を止めた。
「少しここで待っていてください。会合は一時間ほどで終わるはずです」
彼女の声はいつも通り、淡々としていた。視線をこちらに向けることなく、ただそう告げると、長い廊下の奥へと歩き去っていく。背中が角を曲がるまで見送ってから、小さく息をついた。
護衛とは名ばかり。天才の会合において、学のない自分が役に立つことはない。ただやはり、同じ道を歩むことができないのは、いささか残念だった。
宇宙ステーション・ヘルタの公開エリアには、来訪者向けのカフェテリアが設けられている。そこへ向かい、自動販売機でブラックコーヒーを一杯取り出した。
カップの熱さが掌に伝わる。誰もいないテーブルに腰を下ろし、窓の外に広がる星々をぼんやりと眺めながら、一口飲む。苦みが舌に広がり、ようやく少しだけ落ち着いた。
手持無沙汰だった。
ポケットに手を突っ込んでみるが、特にやることもない。ふと視線を移すと、カフェテリアの隅に小さなアーカイブ端末が置かれていた。
来訪者向けの閲覧コーナーらしく、軽く触れるだけで銀河中の公開文献や資料が呼び出せるようになっている。
何となく画面をスクロールしてみる。天文学の最新論文、量子生物学の仮説、未知物質の解析レポート……。
どれもタイトルを見ただけで頭が痛くなりそうなものばかりだ。浅学菲才の身には到底手が出せない。ため息をつきながらさらにページをめくると、目に留まった。
『博識学会・最新評価アーカイブ
生命科学部門:ルアン・メェイ』
一瞬、手が止まった。博識学会からの講評。世間が、彼女をどう見ているのか。やや品のない好奇心が、胸の奥でむずむずと蠢く。知るべきではないかもしれない。
それでも、指は自然とその項目をタップしていた。
「低俗な本ね。そんなのがいいんだ」
横から、不意に声がかけられた。振り返ると、そこに可憐で美しい女性が立っていた。
最も目を引いたのは、つばの広いとんがり帽子。紫を基調とした華やかなドレスは、幾重にも重なるフリルやリボンで彩られ、甘やかさと精密さを同時に備えている。
細身のシルエットは整然としており、装飾の一つひとつが計算され尽くした意匠のようだ。
少女の名は――ヘルタ。
ヘルタという言葉には、三つの意味がある。一つはこの宇宙ステーション・ヘルタ。もう一つは宇宙ステーション・ヘルタに幾人も存在する人形型端末であるヘルタ。そして最後の一つは、前述した二種のヘルタを統括・管理するヘルタ。
すなわち真の女主人である。博識学会は「ヘルタ・プライム」と呼ぶそうだが、本人はマダム・ヘルタを自称している。
さて、彼女がどうしてここに現れたのか。この宇宙ステーションの主、知恵の星神ヌースに選ばれし天才の一人を前にして慌てて端末の画面を閉じ、私は立ち上がろうとする。しかし彼女は軽く手を振って、それを制した。
「いいよ、座ったままで。あなた、ルアンの付き人よね? ならお互い、挨拶の必要はないでしょ?」
声は軽やかで、どこかからかうような響きを帯びている。帽子の下から覗く瞳は、好奇心に満ちて輝いていた。彼女の言葉に、軽く頭を下げる。
「初めまして、ですね。恐れ多くもルアン・メェイの助手……というよりも、身の回りの世話を主に担当しています」
「いらないって言ってるのに」
ヘルタは小さく笑い、隣の椅子を引き寄せて腰を下ろした。帽子のつばを軽く傾け、肘をテーブルにつく。その瞳は、まるで珍しい標本を見つけた研究者のように輝いている。
実のところ、ヘルタとはこれが初対面というわけではない。もっとも、それはあくまでメール越しのやり取りに限った話だ。
ルアン・メェイは人付き合いにあまり積極的ではないため、彼女に届くメールの対応は主に自分が担当している。その関係で、ヘルタとも何度かやり取りを重ねてきた。とはいえ、彼女も相当な癖の強い人物だ。送られてくるメールはたいてい「はやくきて」だとか「おそい」だとか、そんな短い文面ばかりである。
「ふうん。ところであなた、どこの出身なの? それに、身体から星神の力が漏れてるみたいだけど、どういうこと? あ、ルアンとの馴れ初めも教えて。彼女が人を連れてくるなんて、珍しいんだから」
質問が次々と飛んでくる。コーヒーカップを握りしめ、ひとつずつ丁寧に答えた。
仙舟の罪人として宇宙を漂っていたこと。豊穣の星神の加護が、自分に宿っていること。ルアン・メェイに拾われ、命を救われたこと。それから、彼女の生活を支えるようになった経緯。
すべてを包み隠さず話す。
ヘルタは時折「へえ」とか「そう」とか相槌を打ちながら、耳を傾けていた。やがて、私の話が一段落つくと、彼女は小さくため息をついた。
「なーんだ。意外と普通なのね。どうして彼女があなたに執心するのか、理解に苦しむのだけれど」
その言葉は、軽く投げかけられたものだった。だが、胸に小さな棘のように刺さる。ヘルタは興味を失ったように立ち上がり、背を向けた。
足音が、ゆっくりと遠ざかっていく。私は思わず、声をかけた。
「彼女と親しくしてくださって、ありがとうございます」
背中越しに、静かに伝える。それは本心だった。
旧い時代では知能指数の差が大きいと、コミュニケーションが困難になるという俗説がある。私とルアン・メェイの関係もそれに近い。物事を捉える視座の隔たりが甚だしく、故に認識のずれが生じる。己の至らなさで彼女に余計な負担をかけていると思えば、羞恥を覚えない訳にもいかない。
その点で言えば、ルアン・メェイとヘルタは対等かつ理想的な友人関係だろう。天才的な頭脳を持つ両者に、認識の齟齬は生じないのだから。
ヘルタの歩みが、一瞬止まった。振り返ることなく、彼女は小さく独り言のように呟く。
「ああ、そういう感じか。でもやっぱり分かんない。なら追及するのは野暮かしら」
私はその言葉の意味を、理解できなかった。何を指しているのか。ルアン・メェイのことか、それとも自分自身のことか。
ただ、彼女の声にわずかなからかいの色が混じっているのを感じた。するとヘルタは、ぴたりと足を止めて振り返った。
帽子の下から、鋭くも遊び心のある視線がこちらを射抜く。
「もしルアンに気があるのなら、もう少し知恵を深めなさいな。凡人なりにできることもあるでしょう? 彼女が何をしているのか、何をしたいのか。彼女が為そうとしている
言い放つと、彼女は瞬く間に姿を消していた。まるで初めからそこにいなかったように、影も形もなく。
カフェテリアは再び、無人となった。私は空になったカップを眺めながら、独り呟く。
「はい。ご忠告、ありがたく」
その言葉が、静かな空間に溶けていく。星々の光が、窓から柔らかく差し込んでいた。
ヘルタの姿が消えたあと、カフェテリアの空気が再び静けさに戻った。椅子に座り直し、空になったカップをテーブルに置く。
ふと、疑問が胸に浮かんだ。
――そういえば、天才クラブの会合があるというのに、どうしてあのヘルタはここにいたのだろう。
いや、人形の方のヘルタが出席していれば、特に問題はないのかもしれない。だが、それではあべこべだ。なぜなら、ヘルタ本人が会議に出席して、人形の方を自分に宛がえばよいのだから。
しかし現実として、ヘルタ本人が自分の前に現れた。その事実が重要だ。
あの天才が、己の存在に興味を持ったということ。それ自体はどうでもよい。だが、最後に述べていた助言めいた言葉は、きっと己にとって大きな意味がある。
平凡な人間らしく、知恵を深める。天才の助言を無視するほど愚かではない。そして、助言を遂行する第一歩が、手元にある『博識学会・最新評価アーカイブ 生命科学部門:ルアン・メェイ』にあるような気がした。
端末の画面を再び開き、アーカイブを読み進める。彼女が何をしようとしているのか、思い返せば自分は何も知らない。本人に聞けばよいのだろうが、生憎今はこの場にいない。
ゆえに、このアーカイブを読もうとして――画面に表示されたテキストが、ゆっくりと目に入ってくる。
アーカイブに記載されていたのは、おおよそ自分でも知っている内容だった。
内向的で、閉鎖的な性格。彼女が研究の成果を世間に公表することは稀で、しかし公表された内容は学会を震撼させるものばかり。しかしその一方で、彼女の行き過ぎた研究は道徳的倫理に反することも多く、問題提起されている。
ここで引っかかった。道徳的倫理に欠けるとはどういうことなのか。詳しく調べてみれば、リスクが未知数の新種生物の創造、過去に死滅した超A級危険生物のクローン生成といった事例が挙げられていた。
読み進めるうちに、胸の奥がざわつくのを感じた。彼女の研究が、単なる知識の追求ではなく、銀河の秩序を揺るがすほどのものだったとは。
いや、薄々気づいていたはずだ。敬愛する主人がそのような邪道に手を染めるはずがないと目を逸らしてのは己だ。それでも、ルアン・メェイの瞳に宿る純粋な好奇心を思い浮かべると、ただ恐れるわけにはいかない。
ヘルタの言葉が、再び脳裏をよぎる。
――もう少し知恵を深めなさいな。凡人なりにできることもあるでしょう?
そうだ。このアーカイブは、彼女の視座に少しでも近づくための糸口になるはずだ。さらにページをめくり、彼女の最新プロジェクトの詳細を探す。
まず初めに、喜悦を覚えた。
彼が私のことを知ろうとする。その事実自体にある種の歓びがある。しかし同時に、これ以上ないほどに胸が痛んだ。
私は彼の目と同期している。彼の瞳に映るものを私も知覚することができる。そしてそれは、視覚だけではない。聴覚、触覚、味覚、嗅覚――彼の五感すべてを私は掌握している。
彼の日常を知るために。何を見て、何を感じ、何を思うのか。彼のすべてを知りたかった。
この行為が、所有物に対する独善的かつ稚拙な執着心に起因するものであることを、私は自覚している。しかしながら、根本的な部分でどうしても人を信用することができない私には必要な処置だった。
だから彼が私を待っている間にコーヒーを飲んでいたことも、ヘルタ本人と会話を交えたことも、それによって世間的な私の評価を調べはじめたことも、全部知っている。
「……ああ」
努めて、彼には知られないようにした。世間体の悪い実験や研究、その数々を。
彼は善良だ。どこまでも誠実で、優しい人。私が成してきたことを、きっと彼は快く思わないだろう。
だから海馬に細工を施した。仮に都合の悪い真実を知られても、すぐに忘却させて穏やかな日常に戻れるように。
「今回も――」
「だめだよ」
背後からの声。会合の出席では、自らを模した人形に代理させていた天才。
「……ヘルタ」
「ご機嫌よう、ルアン。あなた、今何をしようとしているのかしら?」
「彼の記憶を消そうと」
「それ、意味ある? どうせまた気づくよ。彼、平凡ではあっても愚鈍ではないようだから」
「ええ」
私はヘルタの言葉を肯定する。すると彼女は意外そうな表情をつくる。
「ふーん。これが初犯じゃないんだ。何度記憶を消したの?」
「28回です」
「……思っていたよりも多いわね」
「はい。意外と敏いところがあるようです」
「なら観念なさい。どれだけ倫理観を捨てた研究をしおうと、彼があなたを嫌うことはないでしょう? 話して大体分かった。
「ええ、それは分かります」
「じゃあどうして?」
「……彼には、私の綺麗なところだけを見ていただきたいので」
何かとんでもないことを口にしてしまった気がする。頬が熱くなるのを無視する。どうにも彼のこととなると饒舌になるらしい。
「ほら野暮だった」
「はい」
「あの男も大変ね。こんな面倒な女に慕われちゃって」
「……弁明の余地は、残念ながらありませんね」
「当然。繰り言になるけれど、彼ならあなたの悪いところもちゃんと好きになってくれるはずよ」
「そう、ですね。きっとそうなのでしょう。そうかもしれない。ですが――」
――私にはあなたのすべてを受け入れる用意がある。
彼は記憶を消される直前、いつもそのようなことを告げる。だから何度だって確かめたい。その言葉が真実であるか。
情報の規制など、本当は容易いのだ。でも知ってほしい。ルアン・メェイという女が何をしているのかを。世間的には禁忌と評価されるようなことも平然と実行する女であるということを。
ひどい矛盾だ。
彼には好ましい部分だけを見てほしい私がいて、その一方で醜い部分も知ってほしい私がいる。でも私は臆病で傲慢だから、彼の記憶を操作してどちらの望みも叶えている。本当に、ひどい話だ。
「で、いつまでそうしている気なの?」
「……確証を得られるまでです」
「何の」
「裏切らないこと」
かつて私を愛した両親は、祖母を裏切って先にいなくなった。そして私は、愛する両親の言いつけを破り、彼らを裏切った。故に愛は、人は、不条理で不義理なものだ。
でも科学だけは裏切らない。研究を重ねれば重ねただけ結果がついてくる。幼少の私はそのように結論付けた。だから今日まで自らの興味が赴くままに研究に没頭した。
そこに一石を投じたのは彼だ。ならば見定めたい。私の結論が誤っていたのか、それとも彼の主張こそが虚言なのか。
これは研究だ。愛というすべての知的生命体が有する共通言語が、果たしてどのような代物なのか。それは生命の本質を知る縁となりえるかもしれない。
そして研究の過程を誰かに話す義理はない。そうだ、どうしてヘルタに私の懊悩を話さなければならないのか。
そうやって自分を無理やり納得させると、思考は途端にクリアになる。ヘルタから背を向け、私は彼の元に向かった。
「あっそ。なら好きなだけ試しなさいな。もっとも、その必要はないと思うけれど。だって――」
――使令級の存在が記憶の消去を受け入れている時点で、あなたを裏切るわけないでしょうに。
そんな的外れな指摘は、もう私の耳には届かなかった。
★
違和に気づいたのはいつからか。最初は台所に置いてある包丁の位置。次は初見のはずの書物に既視感を覚えたこと。それぞれは細かな違和だったが、積み重なれば猜疑も深まる。
そうして一つの結論に至る。
「記憶が、消されてる?」
最初に疑ったのはメモスナッチャー、もしくは焼却人の存在。しかし仙舟の罪人が保有する記憶にどれだけの価値があると言うのか。否、価値のない記憶を燃やすのが焼却人の性だったか。
しかし前提として、あの天才ルアン・メェイが管理する惑星に、彼らのような木端な輩が侵入できるとは思えない。となれば――
「記憶の行人による仕業、ではないな」
直感による断定。天才の召使いとしては最下等の判断かもしれないが、肉体に宿る薬師の加護がこの直感を肯定している。より正確に言えば、この記憶の喪失は『献身』の範疇にあると訴えかけているのだ。
然るに解釈が難しい。
星神から賜った加護。聞こえは良い。だが実際のところ、半ば呪いに近いものだ。他者を癒す異能、人間離れした膂力、そして死ねない身体。常に肉体が満ち足りている状態であることを強制されている。故にこの力の本質は『豊穣』――すなわち生命と繁栄、そして献身を司る運命に根ざしている。
その力が己の記憶に作用している。それも記憶がない状態が正常であると。実に不可解だ。
「……いや、これが己の望んだ結果なら。あるいは」
何かが繋がる感覚があった。
もし焼却人が記憶を焼き払おうとしたのならば――私の肉体は、喪失を防ぐために全力で抗うはずだ。薬師の加護が宿るこの身体は、生命そのものを守るために生まれたのだから。たとえ炎が迫ろうとも、細胞の一つ一つが拒絶し、再生し、決して灰に還すまいと叫ぶだろう。
メモスナッチャーによって記憶を奪われたのだとしたら――私は元の自分を取り戻すため、あの盗人を追うだろう。足跡を辿り、匂いを嗅ぎ、残されたわずかな断片を頼りに、果てまで追い詰める。
それは復讐ではなく、ただ「完全であること」への執着だ。欠けたパズルを埋め戻さなければ、心は永遠に軋み続ける。
だが――もしこれが、私自身の願いによるものならば。自ら記憶を切り離し、捨てることを選んだのだとしたら。それは、豊穣の道から逸れることにはならない。なぜなら、その結果そのものが、我が意に適うからだ。
献身とは、ときに己を削ること。他者のために、未来のために、あるいは――誰にも見せぬ静かな救済のために。記憶を失うことが、誰かを癒し、世界に一滴でも多くの生命を芽吹かせるのだとすれば。
私は迷わず、その選択を肯定するだろう。
「……これは、己が望んだ空白か」
結論が口をついて出た瞬間、背後から柔らかな声が降ってきた。
「はい。そして私の望みでもあります」
振り返ると、そこにルアン・メェイが立っていた。
長い髪を無造作に下ろし、普段の冷徹な天才の仮面はどこにもない。どこか疲れているような印象を受ける。静かにこちらを見つめる瞳は、何か悪いことをした幼子のように所在なさげだった。
「ルアン・メェイ」
声が震えた。驚きではなく、どこか安堵に近い感情が胸を突いた。彼女はゆっくりと近づき、己のすぐ傍に腰を下ろした。距離は近く、息がかかるほどに。だが触れはしない。触れられない、という暗黙の線を、彼女自身が引いているようだった。
「気づいてしまったのですね」
ルアンは小さく息を吐いた。よく見れば目の下に深いくまができていた。
「私の手で、あなたの記憶を何度も削り取っていたことに」
言葉を失った。頭の奥で、断片がざわめく。
実験台に縛られた生き物。培養槽の中で蠢く異形の生命。血と薬品の匂い。そして――それらを淡々と実行し、平然と眺めるルアンの横顔。
すべて、知っていたはずの光景だ。なのに、何度も、何度も、忘れさせられていた。そうなることを私は望んでいた。
「どうして?」
「嫌われるのが、怖かったから」
ルアンの声は、驚くほど小さかった。
「あなたは私を尊重してくれる。信じてくれる。それが、私にとって心地良かった。だから穏やかな日常を壊したくなかった」
彼女は目を伏せた。長い睫毛が影を落とす。
「嘘ですね」
「……ふふ、分かりますか?」
「はい。それなりに長く仕えていますから」
ようやく見せてくれた彼女の笑顔。それが何よりうれしかった。
「怖かったのは本当なのでしょう?」
ルアンは頷く。そして見たことがないくらい、穏やかな顔でこちらに続きを促してくる。
「貴女が怖かったのは主従関係から違う何かに変わってしまうこと。あるいは人を愛するという行為そのものでしょうか」
「……そうやって言語化されると、少し恥ずかしいですね」
「なら今回も記憶を?」
「いいえ。その必要はもう、ありません」
その言葉が終わらないうちに、ルアンは突然身を寄せた。細い指が私の頬に触れ、導くように顔を近づける。抵抗する間もなく、柔らかな唇が重なった。
一瞬の静寂。
彼女の息が、震えながら私の唇に絡む。キスはぎこちなく、けれど必死だった。まるで、これが最後の機会だとでも言うように。やがて唇が離れると、ルアンは額を私の肩に預けた。
「――愛してます」
言葉が、喉の奥から絞り出されるように。声は掠れて、たどたどしかった。
「愛は、理屈ではない。愛したいから、愛すのだということをようやく理解できました。そのことに気がつくのに、ずいぶん時間がかかりました。そしてその分、あなたには酷いことをしました」
彼女の指が、私の服を強く握る。
「本当は……あなたが私を嫌いになる訳がない、あなたの愛は、尽きることがないと、わかっていた。私が心の底から恐れていたのは――私が、いつかあなたを裏切ってしまうんじゃないかってことでした」
ルアンの声が、さらに小さくなる。
私は彼女の言う『裏切り』という言葉の意味を掴めないでいる。しかし彼女は、きっと、勇気を振り絞ってこの場に臨んでいる。途方もない覚悟をもって、彼女は今、私の前にいる。
「あなたは不滅の存在。私が死するその時まで、あなたは尽きぬ愛を注ぐことができる。不公平です。倫理に悖る行為です。はっきりいって、ずるいです」
「……それは」
「だから私は、不老不死の術を、作り上げました。死さえも、私たちを分かつことがないように」
彼女は顔を上げ、涙で濡れた瞳で私を見つめた。愚鈍な己でも、彼女がいかなる偉業を成し遂げたのか、理解した。
「あなたを、永遠に裏切りたくなかった。ただ、それだけだったのです」
私は、ゆっくりと彼女を抱き寄せた。薬師の加護が、温かく脈打つ。豊穣の呪いは、今、初めて――祝福のように感じられた。