ワインニキとたけのこ型宇宙船   作:名無しのツクヨミン

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第1話

静かな部屋。

ヤチヨが長話の途中で、彩葉とフシがそれを聞いている。

 

 

ヤチヨ

――でね、その人のことを最初に見た時、ほんとに笑いそうになったんだよね。

 

彩葉

また変な人?

 

フシ

ヤチヨの「変な人」は信用できねぇんだよな……。

 

ヤチヨ

だって本当に変だったんだもん。

背が高くて、髭も綺麗で、コートの襟なんか立てちゃってさ。

片手には革手袋、もう片手にはワインの瓶。

 

彩葉

もうその時点で変。

 

フシ

諜報員じゃなくて、ただの変な洒落者だろ。

 

ヤチヨ

そう見えるでしょ?

でも実際はちゃんと任務を帯びて日本に来てたの。

 

彩葉

へぇ。どんな任務?

 

ヤチヨ

日本にある――“たけのこ型の宇宙船”の押収。

 

(間)

 

フシ

……は?

 

彩葉

たけのこ型の……宇宙船?

 

ヤチヨ

うん。たけのこ型の宇宙船。

 

フシ

いや待て待て待て。

たけのこなのか宇宙船なのかどっちだよ。

 

ヤチヨ

見た目は完全にたけのこ。

でも中身は宇宙船。

 

彩葉

最悪の説明だ。

 

フシ

しかも押収ってなんだよ。

そんなもん本当にあったのか?

 

ヤチヨ

あったよ。

地中潜伏型の古い単独航行艇。

でも見た目はほんとに春先の山で掘れそうなたけのこ。ちょっとサイズ大きいけど

 

彩葉

食べられそう?

 

ヤチヨ

食べたら多分死ぬかな。

 

フシ

食い物みたいに言うな!

 

 

彩葉

で、その変な人がワインニキ?

 

ヤチヨ

そう。

本名は長いし、毎回発音訂正してくるし、面倒でね。

しかも会うたびにワインの話するから、もうワインニキでいいやって。

 

フシ

かわいそうだろ。

 

ヤチヨ

でも本人も最終的に受け入れてたよ。

「敬意があるならそれで構わない」とか言って。

 

彩葉

なんかそれっぽく言ってるけど、絶対ちょっと不満だったでしょ。

 

ヤチヨ

かもね。

 

 

フシ

で、そいつはなんでそんなもん押収しに来たんだよ。

 

ヤチヨ

建前は文化財保全。

でも本音はもっと単純。

未知、異端技術の確保。持って帰れるなら持って帰る。

 

彩葉

スパイじゃん。

 

ヤチヨ

うん、ちゃんとスパイ。

 

フシ

その時点で最低だな。

 

ヤチヨ

ただね、乱暴なタイプじゃなかったの。

破壊より回収。

傷つけるより、丁寧に持ち帰る。

そういう人だった。

 

彩葉

繊細なスパイ。

 

フシ

面倒くせぇ。

 

ヤチヨ

すごく面倒くさい。

でもそういう人だったから選ばれたんだと思う。

たけのこ型宇宙船って、外殻に傷つけるとちょっと危ないし。

 

彩葉

なるほどね。

 

 

ヤチヨ

初めて会った日もすごかったよ。

山道の途中で急に立ち止まって、湧き水で白ワイン冷やし始めたの。

 

フシ

任務中に!?

 

彩葉

自由だなぁ。

 

ヤチヨ

しかもグラスも持参。

 

フシ

本気で何しに来てんだそいつ。

 

ヤチヨ

で、くるくる回しながら言うの。

「極上のワインは時間が経つほど深まる」って。

 

彩葉

出た、名言っぽい何か。

 

フシ

いや知らねぇよ。

 

ヤチヨ

さらに続けてね。

「急いで掴んだ真実より、熟成の中で輪郭を得た真実のほうが価値がある」って。

 

彩葉

うわ、めんどくさっ。

 

フシ

ポエムかよ。

 

ヤチヨ

でもね、あの時点で分かった。

この人、変だけど鋭いなって。

 

彩葉

なんで?

 

ヤチヨ

周囲の竹の生え方とか、地面の隆起とか、金属臭とか。

普通なら見落とす違和感に、かなり早い段階で気づいてた。

 

フシ

……つまり有能ではあったのか。

 

ヤチヨ

かなりね。

たけのこ型宇宙船の存在を、早い段階で確信してた。

 

彩葉

うわ、厄介。

 

ヤチヨ

そう。

だから私、先に動いた。

 

 

フシ

……やっぱりなんかしたのか。

 

ヤチヨ

したよ。

偽物を用意した。

 

彩葉

ナイス。

 

フシ

ナイスじゃねぇだろ!

 

ヤチヨ

でもただの大きいたけのこじゃ騙せないからね。

外殻の艶、節の入り方、地中から掘ったみたいな土の付き方。

それっぽい気配まで寄せた。

 

彩葉

気合い入ってるなぁ。

 

フシ

それもう性格悪いだろ。

 

ヤチヨ

褒め言葉かな?

 

彩葉

違う違う。

 

 

ヤチヨ

とある施設に入った時のワインニキ、すごかったよ。

感動と警戒が半分ずつって顔してた。

 

彩葉

本当に見つけたんだ。

 

ヤチヨ

うん。

近づいて、手袋外して、そっと触って――

小さく「やはり」って言った。

 

フシ

悔しいけど絵になるな。

 

ヤチヨ

なるんだよね。

しかも嬉しそうだった。

 

彩葉

ちょっとロマンチスト。

 

フシ

でも押収しに来てるんだろ。最低だろ。

 

ヤチヨ

そこは本当にそう。

 

 

フシ

で、結局どうなったんだよ。

 

ヤチヨ

偽物を本物だと思って持って帰った。

 

彩葉

完璧に騙されてる。

 

フシ

最悪すぎる。

 

ヤチヨ

しかもね、最後にこう言ってた。

 

(少し声を低くして)

 

ヤチヨ

「極上のワインは時間が経つほど深まる」

 

ヤチヨ

「悪い事じゃないさ……」

 

(間)

 

彩葉

いや絶対怒られてる。

 

フシ

確実に怒られてる。

 

ヤチヨ

うん。

多分めちゃくちゃ怒られた。

 

 

ヤチヨ

でね…

 

彩葉

まだあるの?

 

ヤチヨ

彩葉の目の前にあるのが本物のたけのこ宇宙船でーす!

 

フシ

は?

 

ヤチヨ

そりゃ本物渡さないでしょ

 

(間)

 

彩葉

……

 

フシ

……

 

ヤチヨ

残念だったねワインニキ〜!かぐや姫を出し抜こうなんて8000年早いよー!

 

彩葉

ちょっと笑っちゃった

 

フシ

笑えねぇよ

 

 

ヤチヨ

だからね。

 

彩葉

うん?

 

ヤチヨ

彼は失敗したけど、全部無駄じゃなかった。

 

フシ

いや任務は失敗だろ!

 

ヤチヨ

うん、それも正しい。

 

彩葉

でも本人は満足してそう。

 

ヤチヨ

してたと思う。

 

 

ヤチヨ

これはちゃんと本物だよ。これ。

 

彩葉

たけのこじゃん。

 

フシ

完全にたけのこじゃねぇか!!

 

ヤチヨ

だから言ったでしょ。

 

ヤチヨ

たけのこ型宇宙船って。

 

 

彩葉

ねぇこれ動くの?

 

ヤチヨ

壊れてるんだよね

 

フシ

壊れてんのかい

 

 

彩葉

ワインニキこれ逃したのか……

 

ヤチヨ

そう。もしかしたら米国なら修理してたかも

 

彩葉

それ、ワンちゃん月を米国が攻略とかしてたとか?」

 

ヤチヨ

「あーありえたかもだから渡さなくて正解なんだよね」

 

フシ

だな

 

 

ヤチヨ

でもきっと今でも言ってるよ。

 

(少し笑う)

 

ヤチヨ

「悪い事じゃないさ」って。

 

 

フシ

いや悪い事だろ!!

 

彩葉

悪いことってもしかしてヤチヨにとって悪いことじゃ無いさってこと?

 

フシ

ファ!?

 

 

(静かな間)

 

 

ヤチヨ

――ね?

 

ヤチヨ

これ、面白いでしょ。

 

 

フシ

……悔しいけどな。

 

彩葉

うん。

 

 

ヤチヨ

これが、8000年の中で残った話。

 

 

(間)

 

 

フシ

たけのこかよ……

 

かぐや

きのこの山かぐや好きだよ

 

彩葉

そういう話じゃねぇ!

おわり

 

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