ええそうです。私は確かに突き落としました。柘榴のように弾けた頭を見て、とても現実とは思えなかった。別のものに変えようとしたら苺ジャムが思い浮かんだんです、ええ。マトモな訳ではありませんでした。しかし今でもその思考回路を理解できています。
ジャムを塗って食べましょう。キャンバスのようなパンに真っ赤なジャムを塗ればきっと良い。しかし水っ気が多かった。人体の大半が水分でできていることを失念していたのです。これではただの色塗りだ。油絵のような粘性のようなものすら無く、インクが切れたらあとはボロボロの固形だけが残るだけだった。
漆喰の壁に苛立ちのままぶちまけました。パンは漆喰だったのです。そうしたらはジャムのようなものであると認識ができたのです。必要なのは果肉だった。ええ。
なんでしたっけ。そう、突き落とした?いいえ、私はジャムを塗っただけです。ジャムを調達しました。どう調達したのでしょうか。さっきそう言った?そうでしたっけ。構いません。はい。
は?食べてなんていませんよ。漆喰を食べられる訳無い。ジャムは食べられませんよ?はい。ジャムはキャンバスの画材だったのです。キャンバスを食べる奇特な人などこの世にいるとしても少数でしょう。私は少数では無かった。それだけの話です。そして私には才能がありませんでした!駄作に過ぎないキャンバスを見て肩を落としたのです。すると生き物が扶けてくれたのです。蛆という可愛らしい友です。蛆は友ではなくパートナーでした。活動を支援してくれる人のことです。専属の画商のようなものでしょうか。蛆はジャムに群がり蠢いたのです。私に足りないものはいきいきとしたものだった!よく言うでしょう?まるで生きているかのような絵だと。蛆はそれを教えてくれました。私は感謝の気持ちで一杯でした。しかし蟲けら風情が汚物に集って恥ずかしげもなく蠢いていたので怒りに任せて油をぶちまけました。ぶちまけた勢いで何匹か落ちたので踏みつぶしました。気持ち悪いものでした。こんななんの益も齎さない蟲が存在することが不快で堪りませんでした。
燃やしましたよ、ええ。汚物は消毒と聞いたことがありました。素晴らしい発想です。煮沸消毒というものでしょうか。高熱殺菌というものでしょうか。ともかく一瞬で燃えました。蠢く蟲共が一気に燃えました。燃えても尚蠢く蟲は滑稽で惨めで哀れでどうしてこんな生物が存在するのか不思議で不思議で。
そして思い出しました。私は成長をしていたのです。あの蟲はいきいきとしたものというものをまたもや教えてくれたのです。蛆は私の師なのだと理解しました。黒く醜くへばりついた動かない残骸すらも愛おしかった!
蛆は芸術をその身をもって体現したのです。彼は偉大でした。彼女だったかもしれません。燃えてしまいましたのでどうでも良いことですが。そも、蛆ごときが芸術を表現しようとすることが烏滸がましいのです。
私は烏滸がましい行いを不本意とはいえゆるしてしまいました。ですので教会へ赴き、懺悔をする次第です。
冷たいですね。教会にはとんと行かなかったのでこうも冷たいものだとは思いもしませんでした。ああ、青い服はよくお似合いで。
腰についているものは?嘘を仰らないで下さい。拳銃等と野蛮なもの、神父さまは持ちません。冗談がお上手なことで。そんなもの、今の世の中じゃあのお国の犬っころしか持ち得ませんしね!
了
人突き落として殺した奴が現実受け入れられなくて死体をキャンバスの画材に見立て蛆を崇めたり貶したりして最終的に教会で懺悔するけどそもそも懺悔じゃなく取り調べで教会ではなく冷たい牢という話