なのは達の旅は7年ですが、時間の流れが違う異世界もあるため、海鳴市の時間軸では3年になります。(前話でも書いたのですが、重要な情報のため、ここにも書いておきます。)
前回のあらすじ
7年の旅を経て、強力な魔導士に成長した高町なのは。
リムルとの関係も深まり今では相棒とも師弟ともいえるほどに互いを信頼するに至った。
そんな2人にとっての数少ない蟠りこそが高町なのはの家族問題だ。
リムルは、騙して娘を連れ去ってしまったことへの罪悪感。
なのはは、家族から忘れられたことへの恐怖心。
7年という時間が2人に高町家への帰郷を、過去と向き合うことを決意させた。
目的地は、地球の海鳴市──なのはとリムルが出会った始まりの場所。
第1話 帰郷
「ありがとうございました」
店員がそう言うとともに、ドアが閉まる。
3年前とは違って、翠屋の経営は軌道に乗り地元の雑誌にも掲載されるほどの人気店に成長していた。
「ふぅ……」
「桃子、少しは休め。ろくに休んでないのだろう」
「いいのよ士郎さん。これぐらい平気よ……」
そう言うと、この店「翠屋」のパティシエにして店主の妻、高町桃子は再びキッチンへと入って行く、その後ろ姿には隠しきれない暗い影が落ちていた。
それを見て、桃子の夫、高町士郎は深いため息をついていた、客の前では隠せているあたり3年前に比べればマシ、なのだろう。
「もう3年にもなるのか……なのはがいなくなって」
食器を片付けながら、そう呟く士郎。
3年前、なのはがいなくなった日の事を思い出す。
士郎はその時、大怪我のため意識がなく後からその事を聞いた。
その時の桃子の顔を士郎は今でも鮮明に覚えている。
あの時の桃子は、悲しみのあまり心が押しつぶされようとしていた。
桃子の近くにいた美由紀や恭也も何も言えず、ただそこに立っていることしかできなかった。
その後士郎が目覚めて、ようやく事態が判明し始めた。
その事に気がついたのは夕食の時だったと言う。
翠屋の忙しさが少しだけ落ち着き、久しぶりに家族で一緒に夕飯が食べられる日のことだった。
当時は忙しさから簡単な賄い飯を各自で食べるのがやっとの日々だったため、久方ぶりの家族団欒に桃子などはとても嬉しそうにしていたそうだ。
だが、気分良く夕食を作り始めた桃子のもとに、長男の恭也が慌てた様子で駆け込んでくると大声で叫んだ。
「母さん大変だ!なのはがいないんだ!」
眩暈がした。桃子には一瞬息子が何を言っているのか分からなかった。
連日の激務で耳がおかしくなってしまったのだろうか?
なのはがいない?なんで?いつも良い子で待っていたあの子が?どうして?どこに行ったの?
ガシャーン!
桃子の手から皿が落ち、床で盛大に砕け散る。
ーー
ー
そこからは家中大騒ぎだった。
家族総出で家中を探しまわり、ようやくテーブルにあった手紙に気付き、事の真相を知ることができた。
手紙にはこう書いてあった。
かぞくへ
いきなりいなくなってごめんなさい
でもたすけてあげたいひとができたの
そのひとはとてもさびしがりやで
たくさんのものをなくしちゃってとてもきずついてるの
わたしはそのひとをたすけてあげたいの
わたしにしかできないことなの
そのためにたびにでます
しんぱいしないでください
みんながわたしのことをわすれてもだいじょうぶ
わたしはおぼえてるから
だから
だからいつかかえったら
またむかしみたいにあいしてくれるとうれしいな
いってきます
なのは
この手紙を読んだ時、桃子には訳がわからなかった。
娘は誰かを助けるために旅出た──なぜ1人で行ってしまったのか?なんで何も相談してくれなかったのか?6歳の娘にしか出来ないことってなに?………などなど、たくさんの疑問が浮かんだが、桃子が一番気になっていたのはむしろ後半の内容だった。
忘れた?
私が……なのはを?………最愛の娘を…忘れた?
ありえない❗️そんなことある訳がない‼️確かに最近はお店が忙しくて全然かまってあげられなかったけど❗️なんでそんな結論になるの⁉️
そこまで考えたとき、ふと視界の端に映るカレンダーに視線が吸い寄せられた。
「……あっ……」サー
カレンダーに書かれていたのは──"なのは誕生日❗️"というメモ
年に一度しかない愛娘の大切な記念日。
毎年盛大にお祝いしていたビッグイベント。
そんな大切な日から既に──
「ああ」
忘れていた……
愛娘の誕生日を……忘れていた……
「ああああ"」
忘れていたことにさえ……気づけなかった……
「ああ"あああ"」
それはつまり…なのはの存在を忘れていた…ということ………
つまりなのはが……忘れられたと…考えた原因は………
「ああ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ‼️」
バタン!
愛娘の家出の原因が自分であることに気づいてしまった桃子は悲しさと自己嫌悪のあまり倒れた。
突然発狂して気絶した母を慌てて介抱する美由紀、なのはを探すため街へと駆け出した恭弥。
重症で入院中の夫に続き、末娘の失踪、ただでさえ連日の激務で余裕のなかった桃子には耐えられなかった。
士郎が目を覚ました時、桃子が泣きながら事情を話してきた。
なのはがいなくなった事、家族を守れなかった事……なのはのことを
士郎は何も言わずに、桃子を抱きしめ続けた。
彼には、妻になんて声を掛ければいいのかわからず、ただ抱きしめることしかできなかった。
そして、彼自身もまた、激しく後悔していた。
どうして怪我なんてしてしまったのか……
なんで悲しみにくれる妻を慰める言葉すらも思いつかないのか……
なぜ家族のそばにいれなかったのか……
どうして……なんで…………なぜ…………
そう何度も自分を責めた……だが…いくら自分を責めても、なのはは帰って来ない。
手紙には"いつかかえったら"と書かれていた。
帰ってくる気持ちはあっても、いつになるかわからないのか……
或いは………帰らないつもりなのか
警察に捜索願を出したが、監視カメラの映像どころか目撃者すらも殆ど見つからず、僅かな情報から公園にいた可能性が浮上したが、その先の形跡が何故か完全に途絶えてしまったのだ。*1
高町家の自宅では、なのはの着替えや私物が無くなり、置き手紙が残されていたことから、確実に誰かしらがいたはずなのに、その形跡が家の中には不気味なほどに存在しなかった。
私物の消失と手紙の出現という、明らかに人為的な痕跡が残っているのに、それに付随するはずの形跡はかけらも見つからない。*2
つまり警察の捜査力では、高町なのはは公園か自宅で突然消えたようにしか判断出来なかったのだ。
当然、そんなバカなことがあるか!よく調べろ❗️……と分析官が上司に叱られたが、どれだけ調べても他の結論を見つけられず、ついには"神隠しにでもあったのでは?"という戯言が真剣に議論されるくらいには警察も混乱した。
その結果、捜索は打ち切りとなった。*3
当然、士郎たちは警察に捜索の継続を望んだが、どれだけ頼み込んでも、これ以上の捜索は出来ない……と却下されてしまう。*4
警察に見放されても、私たちは時間を見つけてはなのはを探し続けた。
『翠屋』の経営は軌道に乗り、生活も安定した。
家族も徐々に明るくなり、表面上では前の様な生活を送れるようになった。
なのはが失踪して既に3年。
桃子と美由紀は、顔には出さないが、夜中にこっそり泣いているのは知っている。
恭也はあの日以降、剣術を磨く時間を削り、店や家の手伝いをする時間を増やすようになった。
さらに、いつなのはが帰ってもいいように、なのはの部屋をいつも綺麗にしている。
恭也なりになのはの事を思っての事だと士郎は思った。
そんなことを考えている間に次の客が来たようだ。
士郎が入ってきたお客を確認すると、青色とオレンジ色のなのはと同年代の女の子たちがはいってきた。
「「こんにちは!」」
「いらっしゃい、すずかちゃんにアリサちゃん」
そう言うと、二人は微笑んでくれた。
この娘たちの名前は月村すずかとアリサ・バニングス……私立聖祥大附属小学校・三年生……失踪していなければ、なのはの同級生になっていたかもしれない娘たちだった。
(本来なら…なのはもこの娘たちのように学校に通って……友達と遊んでいたはずなのに……)ジー
「「??どうしたんですか?」」
ずっと私が二人を見つめていたので、二人が不思議そうに聞いてきて、我に返った。
「ちょっと……うちの娘が君達と通っていたらと思うとね」
「娘って、美由紀お姉さんの事ですか?」
「いや、君たちと同い年の娘がいるんだよ」
そう言って、士郎は壁に立ててある写真を見つめる。
二人もそれを見つめる。
そこに写っているのは、士郎が大怪我をする少し前に撮った家族の写真。
士郎の隣で隠れるように映る少女、なのはが写っている写真
「わぁ!可愛い!」
「この娘はどうしてるんですか?」
すずかは、小動物のように士郎に隠れているなのはに魅了され。
アリサは、まったく見覚えのない写真の少女の現状を聞いてきた。
「……行方不明なんだ…3年前から……」
「「えっ!?」」
すずかとアリサは驚愕した。
写真に写る家族はみんな笑っていて幸せそうだ。
2人が翠屋で見てきた高町家の人たちも幸せそうだった。
しかし、そんな仲良し家族には欠員がいたのだ。
「行方不明って…なんでそんなことに……」
「…何の足取りもわからないんですか?」
「…うん、全くないんだよ」
「「そんな…」」
今日知ったばかりである"なのは"のことをまるで自分のことのように悲しんでくれるあたり、本当に良い娘たちだ。
「何年掛かっても必ず見つけるつもりだよ」
「なのはも大切な娘だからね」
そう改めて決意表明をしていると…
カラーン
再びドアのベルが鳴り来客を知らせる。
「いらっしゃいませ」
入ってきたのは、2人の子供。
1人は、水色の髪を背中まで伸ばした中性的な顔つきの少女。
もう1人は、紺色のフードを深く被って顔を隠している中学生くらいの少女。
フードの少女はもう1人の後ろに隠れて縮こまっているが、水色髪の少女に連れられてこちらに近づいてくる。
「すいません、ちょっと聞きたいんだけど…あなたが"高町士郎"さんで合ってる?」
「…はい、私が高町士郎ですが、何かご用でしょうか?」
士郎がそう答えると、水色髪の少女は背中に隠れているもう1人を引き剥がして、士郎のほうに押し始めた。
「え!?待ってよリムル!まだ心の準備が!!」アタフタ
「大丈夫だって、早く顔を見せてやれよ
リムルと呼ばれた少女がもう1人のフードを剥がして素顔を晒させる。
その顔を見た士郎は、完全に硬直した。
自分たちと同じ茶色の髪をサイドテールでまとめている。
背は150近い、中学生くらいの見た目の少女。
だがそれよりも彼が固まったのは、その顔。
その顔は彼がよく知る顔、3年間探し続けた存在。
例え、長く離れていても。
絶対に忘れはしない。
「にゃはは。その……なんていうか…………」
その少女は、苦笑しながら彼に向かって微笑み。
「ただいま。父さん」
次回 第2話 家族会議