セリカがタイムスリップして1年生のホシノと同級生になる話   作:気弱

16 / 39
アビドス砂まつり 前編

アビドス高等学校の校庭に、小気味よい金槌の音が響き渡る

 

かつてはただ静かに砂に埋もれるのを待つだけだったこの場所に、今は色とりどりの木材が運び込まれ、お祭りの骨組みが着々と組み上がっていた

 

乾燥した風が吹き抜けるたび、削りたての木の香りが鼻をくすぐる

 

「シロコちゃん、そっちの角をもう少し高く固定してください。セリカちゃんは、こっちの横板を支えてもらえますか〜?」

 

現場監督さながらに図面を広げ、ノノミが柔らかな声で指示を飛ばす

 

「ん、了解」と短く答えて手際よく釘を打つシロコに対し、セリカは言われた通りに木材を抱えながら、ここ数日の目まぐるしい変化を思い返していた

 

(……本当に、なんでこんなことになったんだっけ)

 

セリカは、木材のざらついた感触を掌に感じながら、思考を数日前へと巻き戻す

 

すべては、ホシノの唐突な提案から始まった

 

数日前、対策委員会の部室でホシノが放ったあの一言が、今も鮮明に脳裏をかすめる

 

『うん。……あのね、今度、ここで「アビドス砂まつり」をしたいなって思うんだよ』

 

その言葉が鼓膜を震わせた瞬間、セリカは心臓が口から飛び出るかと思うほどの衝撃を受けた

 

驚愕に固まるセリカをよそに、シロコが「砂まつり? ……それって、前にホシノ先輩が持ってた、あの大切なポスターのやつだよね」と記憶の糸を手繰り寄せるように尋ねる

 

するとホシノは、いつになく愛おしそうな、それでいて凪いだ瞳で「うん、おじさんの宝物なんだ」と答え、その表情はどこか遠い過去を慈しむようでもあり、新しい一歩を踏み出そうとする決意を含んでいるようにも見える

 

(……そういえば、あの世界のホシノちゃんとはまた違う理由で、こっちの先輩にとっても大切なものだったわね……)

 

アヤネが「でも、どうして急に?」と首を傾げたとき、ホシノは窓の外、陽炎が揺れる地平線の先を見つめて微笑んだ

 

『最近はみんな忙しかったし、いろんな事件もあったからねぇ〜。たまにはパァーっと、みんなで楽しいことをしてほしいなって! 校庭に少しの屋台と、知り合いを呼んでさ。こじんまりとだけど賑やかにしたいんだよ〜』

 

シロコもノノミも、アヤネまでもが「いいですね!」「賛成です」と乗り気だった。けれどセリカだけは、高鳴る胸の鼓動の裏で、拭いきれない疑問を抱え続けていた

 

あの日、過去の世界で出会った「1年生のホシノ」なら、この提案は理解できる

 

けれど

 

今の、ユメのことを振り切り、前を向いて歩き出したはずのホシノが、過去の象徴そのものである砂まつりを自分から言い出すなんて

 

(突然そんなこと言い出すなんて……やっぱり、あの過去の世界で起きたことは、何らかの形でこっちにも影響を与えてるの……?)

 

深く考え込むセリカの耳に、去り際にホシノが付け加えた言葉がリフレインする

 

『実はね、もう二人……スペシャルゲストを呼ぶつもりなんだ。だから、おじさんも準備頑張るよ〜』

 

「……セリカ、ボーッとしてる。手が止まってる」

 

「えっ!? あ、ごめん!」

 

シロコの無機質な声に弾かれたように、セリカは現実に引き戻された

 

気がつけば、木材を支える自分の手が、思考の重さに比例するようにわずかに震えている

 

「どうしたの? 具合悪い?」

 

「ううん、なんでもないわよ! ちょっと考え事してただけ!」

 

セリカは自分を鼓舞するように、両手でパンと頬を叩いた

 

(ホシノ先輩が呼んだスペシャルゲスト二人って誰のことか気になるけど……今は目の前のことに集中しないとね!)

 

今のホシノが何を考えているのか、その真意のすべてを測ることはできない。けれど、今頃あの世界の「ホシノちゃん」も必死に頑張っているはずなのだ

 

自分だけがいつまでもクヨクヨと立ち止まってはいられない

 

「よしっ! こうしちゃいられないわね。アヤネちゃんたちが戻ってくるまでに、この屋台を完成させるわよ!」

 

「ん。セリカ、やる気マックス。いい傾向」

 

「任せてください! 私たちも頑張りますよ〜♪」

 

気合を入れ直したセリカのやる気を受け、設営のスピードはさらに加速していく

 

作業が熱を帯びる中、砂塵の舞う校庭に一際威勢のいいエンジン音が響き渡る

 

「よお、お前ら! 景気よくやってるな!」

 

砂煙を上げて止まった軽トラックの運転席から現れたのは、柴関ラーメンの大将だった

 

まだ準備の段階だというのに、トラックの荷台には巨大な寸胴鍋やプロパンガスのボンベ、そして見覚えのある年季の入った「のれん」が山積みにされている

 

「大将! まだ準備の真っ最中よ、いくらなんでも気が早すぎるわ!」

 

木材を抱えたままのセリカが呆れたように声を張り上げるが、その口元は隠しきれず嬉しそうに緩んでいる

 

「へへ、セリカちゃんたちがアビドスを明るくさせるためにって俺を誘ってくれたのが嬉しくてよ。差し入れがてら試作の新メニューを持ってきたから、これを食べて元気出しな!」

 

大将はそう言って笑うと、慣れた手つきで校庭の隅に簡易的な煮炊き場をセッティングし始める

 

ほどなくして、アビドスの乾いた空気に、食欲をそそる濃厚な醤油と上質な脂の香りが混じり始めた

 

「もう……。でも、本当にいい匂いね。私にも秘密で新メニューなんて作ってたわけ?」

 

「ん、いい匂い。集中力が削がれる……空腹は強敵」

 

「ふふ、大将さん、ありがとうございます〜。皆さん、一度手を止めて休憩にしましょうか」

 

ノノミの柔らかな提案で、設営メンバーは一旦、大将の周りに集まる。配られたばかりの、湯気を立てる熱々のラーメンを夢中で頬張りながら、セリカはふと改めて校庭を見渡す

 

「……ん?」

 

その時、校庭の端に違和感を覚えた

 

自分たちが立てた覚えのない屋台が、いつの間にか完成した状態でそこに鎮座しているのが目に入る

 

どんぶりを仮設の机に置き、目を凝らしてよく見ると、そこには「シロコのたい焼き」という手書きの看板が掲げられている

 

その屋台の前では、「ふぅ」と一仕事を終えたような清々しい顔をしたシロコ*テラー、通称「クロコ」が佇んでいた

 

「クロコ先輩!? 一体いつからいたんですか!?」

 

「え? なんのこと……わっ! 本当だ、クロコちゃんがいつの間にか屋台を建ててる!」

 

「ん……全く気が付かなかった。気配が完全に消えてた」

 

セリカが驚愕の声を上げると、ノノミとシロコもその方角を見て目を丸くする。その喧騒に気づいたのか、クロコはゆっくりとこちらに向かって歩いてきた

 

「クロコ先輩……来てるなら来てるって言いなさいよ!」

 

「ん、来てるよ」

 

「返答が遅いわよ! 登場の仕方が不意打ちすぎるでしょ!」

 

セリカの鋭いツッコミを涼しい顔で受け流しながら、クロコは大将の持っているどんぶりをじっと見つめる

 

「……ん、いい匂い。設営の報酬として、いただく」

 

「報酬って、勝手に建てたのアンタじゃない! ……っていうか、なによその屋台。『シロコのたい焼き』って、看板までバッチリ準備しちゃって。アンタ、いつの間にそんなスキル身につけたのよ」

 

セリカが呆れ顔で立派な屋台を指差すと、クロコは涼しい顔のまま、どこか遠くを見つめるように言葉を紡ぎ出した

 

「一人で生き抜くために、色々なバイトを回って身につけた。……今度は、柴関ラーメンにも行くつもり。よろしく、先輩」

 

「ちょっと、私それ初耳なんだけど……! っていうか、勝手に後輩にならないでよ!」

 

「ん、それよりお腹が空いた。設営の報酬としてラーメン、もらうね」

 

「食べるのはいいけど、無許可営業なのは変わらないわよ!?」

 

セリカの怒声を小気味よいBGM代わりに、クロコは大将から「おう、たっぷり食え!」と手渡されたどんぶりをがっしりと抱え、どこ吹く風で麺を啜り始める

 

「……はぁ、もういいわよ。どうせ最初から、あんたも誘うつもりだったんだし」

 

そのあまりにマイペースな光景に、セリカは深くため息をつきつつも、どこか安心したように肩の力を抜いた

 

賑やかさを増していく校庭に、また一つ、頼もしくも奇妙な新しい灯りが加わった瞬間だった

 

「おーいセリカちゃ〜ん、そっちはどうだい〜?」

 

「あ、ホシノ先輩」

 

クロコの自由奔放ぶりに頭を抱えていると、ホシノとアヤネが連れ立って、こちらに手を振りながらやってくる

 

「私たちのほうは順調よ。ちょうど今、クロコ先輩の屋台で枠が一つ埋まったところだし」

 

「クロコちゃんのたい焼き、とっても美味しいですよ♪」

 

「ん。大きい私、おかわり」

 

「ちょっと、あんたたちいつの間に食べてるのよ……!」

 

つい先程までテーブルにはなかったはずのたい焼きを、ノノミとシロコが幸せそうに頬張っている

 

そのあまりの食べっぷりにホシノとアヤネも興味を惹かれたようで、クロコから差し出されたアツアツの一つを口に運ぶと、同時に目を丸くした

 

「んー! 確かにこれは美味しいねぇ! おじさん、びっくりしちゃったよ」

 

「クロコ先輩、いつの間にこんな技術を……! 本当に美味しいですよ、これ!」

 

身内からの容赦ない絶賛を浴び、クロコは決まり悪そうに視線を泳がせながら、ぷいと顔を背けるようにして頬を朱に染める

 

「……ん。そ、そんなに正面から褒められると、照れる……。……あんこ、多めに入れておいた」

 

普段はクールな彼女が見せた意外な反応に、その場に和やかな空気が流れた

 

「そういえば、二人の方の準備はどうなのよ? 営業のほうは回れたの?」

 

セリカの問いに、ホシノはいつもの眠たげな、けれどどこか満足げな表情で頷いた

 

「おじさんたちの方も順調だよ〜」

 

「はい! アビドスの力になりたいって、商店街の人たちがたくさん協力してくれたんです。流石に校庭の広さ的に屋台の数には限りがありますけど、それでも嬉しいですよね♪」

 

「あとは知り合いにもチラシを配ってきたよ〜。突然の話だったから、みんな流石に困惑してたけどねぇ」

 

アヤネが嬉しそうにバッグから取り出した書類には、予想を遥かに上回る数の参加希望者の名前が連なっていた。砂漠に埋もれかけたこの学校のために、これほど多くの人が動こうとしてくれている

 

その名簿の重みに、セリカ達の胸には熱いものが込み上げてきた

 

「それじゃあ、ここからはおじさんたちも手伝うよ。ラストスパート、いってみよ〜!」

 

「おー!」

 

それからはホシノとアヤネも本格的に設営に加わり、作業の熱量はさらに一段階上がった

 

オレンジ色の夕闇が校庭を包み込み、設置されたばかりの提灯に試験的な明かりがポツポツと灯る頃。長い一日をかけて、ようやく数十の屋台がその骨組みを完成させた

 

砂漠の夜風が吹き抜ける中、達成感と引き換えに、メンバーの体力は限界に達していた

 

帰宅する気力さえ残っていない一同を見かねた先生の提案で、今夜はそのまま学校に泊まることになった

 

「うへぇ……おじさん、もう指一本動かせないよ……。誰かおじさんを布団まで運んで〜……」

 

「だ、だらしないわね……ホシノ先輩……。私は、まだまだ……これくらい、余裕……よ……」

 

「ん……そういうセリフは、ホシノ先輩と同じように床に這いつくばって言っても説得力ない。セリカ、声も震えてる」

 

唯一、底なしのスタミナを誇るシロコだけが、教室の机を端に寄せて手際よく布団を並べていく。その上で、ホシノとセリカは鏡合わせのようなポーズで力尽きていた

 

「すぅ……すぅ……」

 

ふと隣を見れば、ノノミとアヤネはすでに限界を超えていたらしい

 

布団に辿り着いた瞬間にスイッチが切れたかのように、穏やかな寝息を立て始めている

 

「ちょっと……アヤネちゃん、眼鏡……外さないと危ないわよ……」

 

セリカは掠れる声で注意しようとしたが、鉛のように重い瞼を支え続けることはできなかった

 

窓の外には、明日のお祭りを静かに待つ屋台の影が月明かりに照らされて並んでいる

 

その光景を最後に網膜に焼き付け、セリカの意識は深い深い眠りの底へと沈んでいった

 

翌朝。カーテンの隙間から差し込む眩しい朝日と、校庭から漂ってくる香ばしい匂いに誘われるように、5人は重い瞼を擦りながら教室を出た

 

校庭へ一歩踏み出すと、そこには昨晩までの静寂が嘘のような、生命力に溢れた光景が広がっている。

 

各屋台にはすでに火が入り、立ち上る湯気と仕込みの活気ある声が、冷えた砂漠の空気を一気に温めていた

 

「うわぁ……! すごい、いい匂いがしますね! 全部食べて回りたくなっちゃいます!」

 

「ちょ、ちょっとノノミちゃん!? 落ち着いて! 屋台にそのゴールドカードは使えないよ〜!?」

 

「大丈夫です、ホシノ先輩♪ 今から全速力で現金に換えてきますので♪」

 

目を輝かせたノノミが、朝日に反射して眩い光を放つカードを取り出す

 

慌てて制止しようとするホシノだったが、今のノノミの頭には「お祭りを食べ尽くす」という輝かしい目的以外は入っていないようだった

 

そんな暴走気味のノノミを半ば引きずるようにして正門の方へ向かうと、そこには開門を今か今かと待ちわびる、見知った顔のゲストたちが勢揃いしていた

 

「あ、みなさん! こっちです!」

 

一番前でぴょんぴょんと跳ねながら、ヒフミが千切れんばかりに手を振っている。その周囲には、アビドスの活気に誘われたゲストたちの姿があった

 

「ん、ヒフミ。本当に来てくれたんだ」

 

シロコがいつものトーンで声をかけると、5人はヒフミたちのもとへ歩み寄った

 

「はい♪ せっかくのお祭りですから、補習授業部のみなさんもお誘いしたんですよ!」

 

「いい匂いだ……! 複雑に絡み合う屋台飯の香りが、私の鼻腔をダイレクトに刺激する……は、早く、早く中に入れてくれ……。これは緊急事態だ……!」

 

満面の笑みを浮かべるヒフミの横で、アズサが美味しいものの匂いにすっかり理性を奪われていた

 

今にも校門を突破せんばかりの勢いで柵に顔を押し当てるその姿は、普段の冷静な彼女からは想像もつかない

 

「あ、アズサ……! 他の学校の人も見てるんだから、恥ずかしいマネはやめてよぉ……!」

 

「ふふ、コハルちゃんの人見知りは、何度見てもゾクゾクしちゃうくらい可愛いですよね♪ 今日はお祭りですし、もっと自分を解放して、開放的になってもいいんですよ?」

 

「なっ……な、何を……! Hなのはダメ! 死刑!!」

 

周囲の視線に縮こまっていたコハルだったが、ハナコのいつもの扇情的な挑発に釣られて、すっかり調子を取り戻したようだ

 

その賑やかなやり取りを、セリカはどこか呆れつつも、アビドスにこれだけの活気が戻ったことを実感し、温かい眼差しで眺めていた。

 

「あ、あそこにはヒナさんがいますよ」

 

ノノミが指さした先には、ヒフミたちと同時か、あるいはそれよりも少し早く到着していたらしいヒナが佇んでいた

 

いつもの凛々しい制服姿ではあるが、その瞳はわずかに潤み、珍しく隠しきれない期待に胸を膨らませているように見える

 

「おーい、ヒナちゃーん。本当に来てくれたんだねぇ」

 

「っ! ……ホシノ。今日は誘ってくれて、ありがとう」

 

ホシノがのんびりと声をかけると、不意を突かれたヒナは肩をビクッと震わせる

 

一瞬の間の後、慌てて平静を取り繕い、風紀委員長としての毅然とした態度で応じる

 

「おはようございます、ヒナさん。今日はアコさんたちは一緒じゃないんですか?」

 

アヤネの問いに、ヒナはわずかに視線を落として答えた

 

「アコたちならゲヘナに残って仕事をしてるわ。……風紀委員会の業務を完全に止めるわけにはいかないから」

 

「へぇ〜、あの仕事人間のヒナちゃんが持ち場を離れるなんて珍しいね」

 

「……最初は私も残るつもりだったのよ。でも、アコたちが『最近は根を詰めすぎです。今日くらいアビドスで羽根を伸ばしてきてください』って……半ば強引に追い出されたの」

 

はぁ、と困ったようにため息をつくヒナ。その言葉だけを聞けば、無理やり向かわされたという不本意なニュアンスにも取れる

 

しかし

 

「なるほどねぇ〜。……その割には、ずいぶん楽しみにしてたみたいでおじさん嬉しいよ〜」

 

「なっ……!? そ、そんなこと……!これは、その……げ、ゲヘナとアビドスの友好親善のために、私が代表として視察に来ているだけで……楽しみだった訳じゃ…」

 

ヒナの弁明が次第に小さく、消え入るようになっていく。その様子を眺めていたセリカたちの頭には、図らずも共通の想いがよぎっていた

 

(……この人、意外と可愛いところあるわね)

 

(ん、可愛い先輩。保護したい)

 

(ふふ、撫でたくなっちゃいますね〜♪)

 

(ここで「可愛い」なんて言ってしまったら、流石に失礼ですよね……)

 

それぞれの胸中を他所に、真っ赤になって黙り込むゲヘナの風紀委員長

 

そんな微笑ましいやり取りを打ち切るように、お祭りの開始を告げるチャイムが、抜けるような青空の下に鳴り響いた

 

「あ、もう時間! 正門を開けなきゃ!」

 

セリカが弾かれたように駆け出し、正門の重い鍵を開ける

 

待機していた生徒や地域の人々が、堰を切ったように校庭へとなだれ込んでいった。静寂が支配していた廃校同然の学び舎は、一瞬にして人々の歓声と、屋台から立ち上る食欲をそそる煙に包まれる

 

対策委員会の面々も、休む暇なくそれぞれの持ち場へと散っていった

 

セリカは柴関ラーメンのカウンターに立ち、鉢巻を締め直して注文を捌き続ける。「いらっしゃい!」と威勢の良い声を上げる彼女の元には、次々と個性豊かな客が訪れた

 

「このラーメンは爆発的な美味さだ。戦術的価値があると言わざるを得ない」と真剣な顔で分析するアズサや、「屋台の行列を効率化するミニゲーム」という謎のゲームを勝手にリリースして人だかりを作っているゲーム開発部の面々

 

あちこちで小さな騒ぎやアクシデントが起きたが、それすらも祭りを彩る心地よいスパイスのように感じられた

 

それから、どれほどの時間が過ぎただろうか

 

空が燃えるような茜色に染まり、提灯の柔らかな火が灯り始めた頃。共に汗を流し、奔走していた先生が、ふっと肩の力を抜いて皆に告げた

 

「よし、あとは私一人で大丈夫。準備も運営も、本当によく頑張ったね。……みんなも、ここからは一人のゲストとして楽しんできてよ」

 

その魔法のような一言に、少女たちの顔がパァァと花が咲いたように輝く

 

「えへへ、実は私、お仕事の合間に食べたいものをしっかり選んでおいたんですよ〜♪」

 

「ん、私も。最短攻略ルート、計算済み」

 

ノノミがにこやかにゴールドカードを構えれば、シロコも何故か自信満々に頷く

 

「えええっ!? 二人とも、そんな目星を付けてたんですかー!? 私は忙しすぎて、そんなこと考える余裕なんて全く……!」

 

「私もよ! ずっと麺を湯切ってたんだから!」

 

同じ密度で仕事をしていたはずなのに、ちゃっかり楽しみを見つけていた二人を、アヤネとセリカは恨めしそうに見つめる

 

「それじゃあ、まずはあっちから行きましょう♪」

 

ノノミの楽しげな提案に対し、ホシノがいつものように眠そうな目を細め、ひょいと手を挙げた

 

「ごめんねぇ。おじさんとセリカちゃんは、ちょっと別行動の予定なんだ〜」

 

「えっ!?」

 

寝耳に水の話に、セリカは目を丸くする

 

アヤネたちも驚きに顔を見合わせたが、ノノミだけは何かを察したように、優しく微笑んだ

 

「分かりました♪ また集合する時はモモトークで連絡しますね。行きましょう、アヤネちゃん、シロコちゃん!」

 

「え?は、はい」

 

「ん、それならあそこに行く」

 

「あ、ちょっと……待ちなさいよ! ノノミ先輩!」

 

セリカの制止も虚しく、三人は嵐のように人混みの中へと消えていった

 

「行っちゃった……。もう、みんな自由なんだから」

 

「あはは。それじゃあ、私たちも行こっか、セリカちゃん」

 

「ちょ……ま、待ちなさいよ! せめて理由を話しなさいってば!」

 

詰め寄るセリカに対し、ホシノは悪戯っぽく笑って彼女の手を引く

 

「屋台のたい焼きは待ってくれないよ〜」

 

「っ、もう……!」

 

残されたセリカはしばらく呆然としていたが、いつも以上に楽しげなホシノの横顔を見て、小さく息を吐いた

 

差し出された手の温もりを感じながら、二人は吸い込まれるように、賑やかな光の渦へと歩み出した




シロコ*テラー 参戦 (?)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。