セリカがタイムスリップして1年生のホシノと同級生になる話   作:気弱

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お祭りの警備 ホシノのお願い

翌朝、アビドス高等学校の校舎を包み込んだのは、砂漠の永い静寂を塗りつぶすような、生命力に満ちた活気の連鎖であった

 

窓を叩く乾いた風に乗って運ばれてくるのは、どこか懐かしい香ばしい醤油の焦げる匂いや、重い荷台が砂を噛み締める轍の音

 

そして、それらを先導するように響き渡る職人たちの威勢の良い掛け声

 

重い瞼をこすりながら窓際に駆け寄った対策委員会の面々は、眼下に広がるその光景に、ただただ言葉を失うこととなった

 

まだ朝露が砂粒を湿らせているような時間だというのに、校庭のあちこちでは、昨日まで骨組みだけだった場所が色鮮やかな紅白の幕で彩られ、活気ある祝祭の舞台へと変貌を遂げつつあった

 

「うわぁ……! 本当に、本当にお祭りが始まるんですね……! まるで魔法みたいです……」

 

ノノミが胸の前で手を合わせ、感極まった声を震わせる。その隣で、シロコは無言のまま、しかしどこか弾んだ手つきで自身の装備の最終チェックを開始した

 

そしてセリカはといえば、つい先ほどまでの深い眠りなど微塵も感じさせない勢いで跳ね起きた

 

「ちょっと! アンタたち、いつまでぼーっとしてるのよ! 寝坊してる場合じゃないわ、準備、準備! ほら、早く着替えて!」

 

誰よりも早くパジャマを脱ぎ捨て、袖を通し慣れた制服へと着替えるその手足は、まるで喜びを隠しきれない小鳥のように軽やかだ

 

鏡の前で髪を整える彼女の背中からはただ純粋に、これから始まる「今日」を心待ちにする等身大の少女の輝きが溢れ出していた

 

弾けるような笑顔を残して部屋を飛び出していったセリカの足音は、静かな廊下に希望の合図を鳴り響かせ、アビドスの新しい一日の幕開けを告げていた

 

正門へと続く緩やかな坂道を見下ろすと、そこには砂塵を払いのけるほどの熱気を帯びた、驚くべき長蛇の列が形成されていた

 

アビドスの住民だけでなく、噂を聞きつけて越境してきた他学園の生徒たちも入り混じり、開門を待つざわめきが心地よい旋律となって校舎まで届く

 

「あ、皆さん! おはようございます! 間に合ってよかったです!」

 

その喧騒を割るようにして、ペロロのピンバッジをカバンに揺らしたヒフミが、補習授業部の面々を伴って元気いっぱいに駆け寄ってきた

 

彼女の満開の笑顔は、それだけで周囲の空気を春のように温める力がある

 

「いい匂いだ……! 複雑に絡み合う屋台飯の香りが、私の鼻腔をダイレクトに刺激する……は、早く、早く中に入れてくれ……。これは緊急事態だ……!」

 

満面の笑みを浮かべるヒフミの横で、アズサが美味しいものの匂いにすっかり理性を奪われていた

 

そんな彼女たちのすぐ後方には、ヒナの姿もあった

 

「……まったく。あのアコたちが、私のデスクを強引に片付け始めて……『仕事は私たちに任せて、今日だけは委員長としてではなく一人の生徒として休んでください』なんて。無理やり車に押し込むものだから、仕方なく来ただけよ。……別に、私はここを楽しみにしていたわけじゃないわ」

 

そう言って、照れ隠しに視線を泳がせるヒナの手には、仕事の書類などは一切なく、アコが用意したのだろう、少しだけ場違いなほど可愛らしい刺繍の入った信玄袋が握られていた

 

口では迷惑そうにしながらも、その足取りはいつになく軽く、普段の鋭い眼光は和らいで、祭りの装飾に彩られた校舎を興味深げに見上げている

 

彼女たちの来訪を確認したアヤネとセリカは、弾かれたように駆け寄った

 

「ヒフミちゃん! ヒナさん! 本当に来てくれたのね!」

 

「わわっ、セリカちゃん、すごい活気ね! お手伝いできることがあったら何でも言ってください!」

 

あちこちで再会の喜びが爆発し、昨日の準備期間とはまた違う、華やかな賑わいの花が咲き誇る。そんな喧騒の真ん中で、ホシノは一歩引いた場所から、眩しそうに周囲を見渡すセリカの横顔を静かに見つめていた。

 

かつて、この校舎にはユメ先輩とホシノ、そしてセリカの三人しかいなかった

 

砂に埋もれゆくアビドスの中で、「砂まつり」なんて言葉は、ただの古いポスターの中にだけ残された、あまりに遠く非現実的な夢物語でしかなかったあの頃

 

あの果てしない静寂と孤独の中で、叶うはずのない幻影の賑わいを一人で空想していたであろうセリカ

 

今、目の前で騒がしく笑い合う「実体を持った仲間たち」の温かさを噛み締めるように、潤んだ瞳を揺らしている彼女の姿を見て、ホシノは胸の奥が焼けるように熱くなるのを禁じ得なかった

 

「……ん。賑やか。……いい事」

 

シロコが満足げに頷き、その傍らではノノミがおもてなしの準備のために、軽やかな足取りで広場を奔走する。そしてアヤネは、絶え間なく押し寄せる来客の対応に追われながらも、忙しさの合間にふと顔を上げ、眩しそうに会場を見渡しては眼鏡の奥の瞳を優しく細めていた

 

かつては風の音と砂の擦れる音しか聞こえなかったこの学び舎に、今、少女たちの笑い声と確かな熱狂が満ちていく

 

やがて、開催の時刻を告げる鐘の音が、乾いた砂漠の空気を震わせながら朗々と響き渡った

 

それは、アビドス高等学校の再興を告げる福音。重厚な正門がゆっくりと左右に開かれると、待ちわびていた客の波が、堰を切ったように校内へと流れ込む。祭りの幕開けだ

 

校庭の入り口付近では、しばせきラーメンの大将が腹の底から響くような威勢のいい声を張り上げ、食欲をそそる芳醇なスープの香りを振りまいている

 

その少し先、静かな殺気すら漂う一角では、クロコが自作の屋台を構えていた。「ん、これが最高の焼き加減……」と呟きながら、無愛想ながらも職人のような丁寧な手つきで、焼き立てのたい焼きを次々と客の手へと渡していく。その完璧な仕上がりに、受け取った客たちは驚きと感心の声を漏らしていた

 

対策委員会の面々は、もはや一息つく暇もない

 

「はい、射的の列はあちらです!」と走り回るアヤネ

 

「わあ、綿あめ、とっても大きく作れましたよ♪」と笑顔を絶やさないノノミ

 

「ん、物資の供給に遅延なし。次の景品を搬入する」と淡々と、しかしどこか楽しげに動くシロコ

 

そしてセリカは、押し寄せる注文や案内の対応に、目を回しながらも誰よりも活き活きとした表情で立ち働いていた

 

そんな極彩色の喧騒の合間を縫って、ホシノは人混みの波間に、静かに揺れる「彼」の姿を探し求めた

 

ようやく捉えた先生の姿は、案の定、熱烈な教え子たちに四方八方を囲まれ、身動きが取れない状態に陥っていた

 

「旦那様ぁ! 見てくださいまし! ほら、あちらの射的で、ワカモが景品のすべてを旦那様のために落として差し上げますわ!」

 

狐の仮面越しにもわかるほど情熱的な眼差しを向け、ワカモが先生の腕を抱きしめるように引く。その反対側では、正義実現委員会のツルギが「ギ、ギギギ……!」と奇声を上げながら、顔を真っ赤にして先生のシャツの袖を力任せに(しかし千切れないよう絶妙な加減で)握りしめていた

 

「セ、セセセ、先生……! あ、あちらの……りんご飴、私と、あ、あ、あああ……!」

 

「あ、あの二人とも落ち着いて……! 銃はしまって、せめてルール通りに……というより、ワカモはすぐそこにヒナやヴァルキューレの人たちもいるけど、本当に居て大丈夫なの……?」

 

「ふふ、愛があれば、どんな些細な困難も乗り越えられますわ。旦那様の隣に居ること以上に尊い法など、この世に存在しませんもの❤」

 

「ギギギ……! セ、先生の隣……死守……!!」

 

一歩も引かないワカモと、文字通り血の涙を流さんばかりに興奮するツルギ

 

さらには「あ、先生! ちょうどいいところに! 喉が渇いたなら、この特製ハーブティーをどうぞ♪」とはしゃぐハナコや、「ちょ、ちょっとハナコ、場所を考えなさいよ!」と顔を真っ赤にするコハル、そして「先生…その一緒に回りませんか?」と恥ずかしそうに誘うミドリなど、学園の垣根を越えた生徒たちの波が四方八方から押し寄せていた

 

有無を言わせぬ愛の猛攻と、賑やかすぎる勧誘の嵐にさらされ、困ったように、けれどどこか嬉しそうに苦笑いしている先生。その姿を見つけ、ホシノは「うへぇ、先生は相変わらずの大人気だねぇ。おじさん、入る隙間もないよ」と、少しだけ複雑な、けれど親愛の情がこもった眼差しを向けた

 

そして、割って入るのが少しだけ悪いなと感じつつも、確かな目的を持ってその背中に声をかけた

 

「先生、ちょっといいかな? お楽しみのところ悪いんだけど、少しだけ、おじさんに時間をくれない?」

 

「あ、ホシノ。うん、お祭りの相談かな? もちろんいいよ。……みんな、少しだけ失礼するね」

 

先生は、名残惜しそうに腕を離さないワカモや、震えながら袖を握るツルギ、そして周りの生徒たちを優しく宥め、ようやくその場を離れ、ホシノは無言のまま喧騒から少し離れた、静かな校舎の裏手へと先生を誘う

 

祭りの熱狂が校舎の壁に遮られ、遠く低い地鳴りのように響く場所。砂漠の風が、静かに二人の間を通り抜けていく

 

静かな校舎の日陰に入ると、ホシノは一度、小さく息を吸い込んだ。その指先はわずかに震え、いつもの気怠げな余裕はどこかへ消え去っている。意を決して、彼女は言葉を紡ぎ出した

 

「ねぇ先生……無茶を承知で聞くんだけど。先生の知り合いに、今から……今日のこの時間に間に合うように、花火を作って、このアビドスの空に打ち上げられるような人はいないかな?」

 

「花火を、今から……?」

 

先生は意表を突かれたように目を丸くし、思わず問い返す。時刻はすでに開会を告げた後だ。キヴォトスの常識をもってしても、当日発注・当日打ち上げというのは、無理難題の範疇にある

 

先生は顎に手を当て、脳内の膨大な人脈リストを高速で検索し始めた

 

「んー……そうだね。キヴォトスの技術力なら理論上は不可能じゃないかもしれないけど……。うん、心当たりはあるよ。百鬼夜行のお祭り運営委員会のみんななら、在庫の花火くらいは持っていそうだけど……。でも、この特殊な砂漠の気候に合わせて、今から急遽『最高の逸品』を作り上げられる人となると……。うん、ミレニアムのエンジニア部、彼女たちなら、きっと」

 

「……っ! 本当!?」

 

ぱぁぁ、とホシノの顔が文字通り、内側から発光するかのように明るく輝いた

 

そのあまりの喜びようと、縋るような瞳の熱量に、先生は少し圧倒されたように苦笑する

 

「そ、それじゃあお願い、先生! 今日の夜、この祭りのフィナーレに……砂漠の暗い夜空に、最高に綺麗で、世界で一番大きな大輪の花を咲かせてほしいんだ!」

 

「いいけど……珍しいね。いつもは一歩引いているホシノが、そんなに必死になってらしくないお願いをするなんて。……何か、特別な理由があるのかい?」

 

先生の穏やかな、けれど核心を突く問いに、ホシノは一瞬言葉を詰まらせた

 

視線を足元の砂に落とし、照れ隠しに制服の裾を何度も弄りながら、消え入りそうな、けれど確かな芯の通った声で答える

 

「……どうしても、見せたいんだ。ずっと、ずっと、この景色が形になるのを待っていた……大切な『友達』がいるの。あの子との約束を、今夜、どうしてもここで果たしたいんだよ。おじさん一人の力じゃ、どうしても届かないから……だから、先生の力を貸してほしい」

 

ホシノの瞳の奥に宿る、嘘偽りのない、そしてどこか遠い過去を慈しむような深い情愛。その輝きは、かつて彼女が背負っていた孤独の深さを物語ると同時に、今抱いている希望の尊さを証明していた

 

それを感じ取った先生は、それ以上何も聞かずに、力強く、そして優しく頷く

 

「……分かった。ホシノがそこまで言うなら、大人の責任にかけて、なんとかしてみせるよ」

 

先生はすぐさまタブレットを取り出し、最短ルートで「エンジニア部」へと発信した

 

「あ、ウタハ? 突然すまない、今大丈夫かな? ……実は、至急の依頼なんだ。花火を作って欲しくて。今日の夜、アビドスの空に打ち上げたいんだよ」

 

電話の向こうからは、何やら凄まじい火花の散るような音と、物理法則を無視したような重機音、そして一気に温度を上げたウタハの興奮した声が漏れ聞こえてくる

 

「……うん、そう、花火だ。爆発物じゃなくて、観賞用の……。え? 『全自動追尾型・極彩色殲滅焔火(殲滅と書いてハナビと読む)』? いや、待ってくれウタハ、そんな物騒な性能は要らないよ! 攻撃機能も、空中で分裂して敵を自動ロックオンして無力化する機能も外して! 純粋に、美しくて、平和な、普通の打ち上げ花火をお願いしたいんだ……!Bluetooth機能もいらないから…!」

 

慌てふためきながら、技術者たちの止まらない創造的暴走を必死に食い止めようとする先生の姿

 

その必死なやり取りに、ホシノは思わず(だ、大丈夫かな……アビドスの空が戦場になったりしないよね……?)と、不安と期待が五分五分で入り混じった苦笑いを浮かべた

 

「……分かった。資材はヒビキとコトリが即座に準備して、ウタハが取り掛かるって。それから、ただ上げるだけじゃ味気ないから、打ち上げの演出と現場の設営については、百鬼夜行のお祭り運営委員会のみんなにも声をかけてくるよ。彼女たちなら、最高の舞台を整えてくれるはずだ」

 

「うん…!ありがとう先生!」

 

先生が頼もしくそう告げると、ホシノの胸はかつてないほどの高鳴りを刻み始めた

 

「それじゃあ準備が出来たらモモトークを送るよ!」

 

先生の背中越しに広がり始めた、キヴォトス全域を巻き込む協力の輪。それはホシノ一人の執念ではなく、先生という光が繋いだ、温かな連鎖の形だった

 

今夜、訪れるであろう奇跡の予感

 

セリカ、そしてユメ

 

二人が、夢にまで見て、ついには叶わなかったあの空の輝きが、もうすぐ

 

すぐそこまで、手の届くところまで来ている

 

ホシノは、遠くで賑わう祭りの音を聴きながら、祈るように拳を握りしめた。砂漠の風が、今度は祝福を運ぶかのように、彼女の髪を優しく揺らしていった

 

それからは、まさに文字通りの意味で、目が回るような怒涛の忙しさが続いた。ホシノは「うへぇ、おじさんもう一歩も動けないよ〜」といつもの気怠い口癖を連発しながらも、実際には校内の隅々までを縦横無尽に駆け回り、小さなトラブルの火種を消しては落ちているゴミを拾い上げ、完璧な差配で祭りの秩序を維持し続けていた

 

陽が傾き、アビドスの広大な砂漠が燃えるような茜色に染まり始めた頃

 

校庭の一角に設けられた設営用テントの下には、精根尽き果てた対策委員会の面々が、糸の切れた人形のように倒れ込んでいた

 

「……あうぅ、もう、足が棒のようです。感覚がありません……」

 

アヤネが眼鏡を曇らせ、もはやツッコミを入れる気力も残っていない様子で机に突っ伏す

 

「……はぁ、はぁ。なによこれ……いくらなんでも、人が来すぎじゃないの……? もう、一歩も、指一本だって動けないわよ……」

 

セリカもまた、新調した浴衣の襟元を少し緩め、荒い呼吸を繰り返しながら、隣に座るホシノに体重を預けていた

 

そこへ、夜の始まりを告げる賑やかな人混みを掻き分けて、一際穏やかな、けれど頼もしい足取りで先生が姿を現した

 

「みんな、本当にお疲れ様。想像以上の大盛況だね。……ここからの運営と見回りは、僕とエンジニア部の面々、それから――なぜか『旦那様への献身ですわ!』と張り切ってくれているワカモが引き受けることになったから。主催者である君たちが、このお祭りを楽しまなくてどうするんだい?」

 

先生のその慈愛に満ちた一言は、疲れ切った少女たちの心にパッと希望の火を灯した

 

「わぁ、ありがとうございます先生! さすがは私たちの先生ですね♪ それじゃあ皆さん、せっかくですから一緒に回りませんか? 頑張ったご褒美に、美味しいものをたくさん食べちゃいましょう!」

 

ノノミが弾んだ声で提案し、シロコも「ん……限定のチョコバナナ、および冷えたラムネの補給が必要。作戦を開始する」と、どこから湧いてきたのか分からない驚異的な回復力で立ち上がった

 

しかし、ホシノだけは椅子に座ったまま、ピクリとも動かなかった

 

それどころか、隣で呆然としていたセリカの細い腕を、二度と離さないという静かな、しかし確固たる決意を込めてギュッと抱きしめたのだ

 

「あはは、ごめんねぇ。おじさんとセリカちゃんは、ちょっと二人で別行動の予定なんだ〜。まだやり残している、とっても『大事な用事』があるからね」

 

「えっ!? ちょ、ちょっとホシノ先輩!? いきなり何を言い出すのよ、恥ずかしいじゃない……っ!」

 

耳の先まで真っ赤にして狼狽するセリカ。だが、ホシノはその腕を緩めるどころか、さらに深く自分の方へと引き寄せた

 

その瞬間、ノノミとシロコは一瞬だけ、言葉を介さずに視線を交差させる。そしてホシノの瞳の奥に宿る、祈りにも似た深い慈しみを感じ取ると、すべてを悟ったように穏やかな微笑みを浮かべた

 

「分かりました♪ また集合する時はモモトークで連絡しますね。行きましょう、アヤネちゃん、シロコちゃん!」

 

「ん、それならあそこに行く」

 

ノノミが聖母のような包容力のある笑顔で、いまだに状況が飲み込めず「えっ、えっ? 何? 二人でどこに行くの?」と目を白黒させているアヤネの両脇を優しく抱え込む

 

シロコも無言で反対側からアヤネを支え、三人は流れるような完璧な連携で、華やかな雑踏の中へと姿を消していった

 

残されたのは、遠くで響く笛や太鼓の音、そして人々の歓声が夢の残滓のように聞こえるテントの下、腕を絡め合ったままのホシノとセリカの二人だけだった

 

「な、なによもう……。みんなして、変な空気にして……。ホシノ先輩もさっきから急にどうしたのよ。変なものでも食べた?」

 

照れ隠しに、わざと不機嫌そうな声を出すセリカ。だが、その声は微かに震えており、ホシノに掴まれた腕を振り払おうとする気配は微塵もなかった

 

ホシノはその腕から伝わる、トク、トク、というセリカの確かな鼓動と温もりを全身で受け止めながら、胸の内で静かに、けれど鋼のような強さで誓いを立てた

 

(――待たせちゃってごめんね、セリカ。あの日、君がポスターを見つめて語ってくれた夢……。おじさん、今日こそ君との約束、全部果たしてみせるからね)

 

「いいじゃない、たまには。おじさんと二人きりなんて、贅沢だと思わない? さあ行こうか、セリカちゃん。お祭りのたい焼きは待ってくれないよ〜?」

 

「っ、もう……!」

 

ホシノはセリカの手を指が白くなるほど強く握り直し、光り輝く屋台の光の海へと、一歩ずつ踏み出していった

 

かつて失われた過去と、今ここに繋がれた現在、そしてこれから咲き誇る未来。そのすべてを、一晩の奇跡に閉じ込めるために。

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