セリカがタイムスリップして1年生のホシノと同級生になる話   作:気弱

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アビドスの図書室と不穏な紙

翌日の20時、静寂が支配するアビドス高等学校

 

昨夜の「饒舌な肖像画」との奇妙極まる対峙を終えた対策委員会の面々は残る七不思議の全貌を暴くべく、いつもの部室へと集結していた

 

しかし、重厚な扉が勢いよく開かれると同時に、夜の静寂を粉砕する快活な声音が室内に響き渡る

 

「みんな久しぶりー! 今日も明るいユメ先輩の華麗な登場だよ!」

 

眩いばかりの天真爛漫な笑顔を浮かべ、そこへ姿を現したのは、本来ならばシャーレにて「再教育」という名の厳しい監視下にあるはずの元アビドス生徒会長のユメであった

 

「えっと……ユメ先輩。なぜ、どうして、今この瞬間に、あなたがここにいらっしゃるんですか……?」

 

アヤネは手にしていたペンを力なく床へ落とし、困惑した表情のまま、ずり落ちた眼鏡のブリッジを何度も何度も指で押し直す

 

「ひどいなぁ、アヤネちゃん! みんなだけでそんな面白そうなことしてるなんてズルいもん! 私も混ざる、絶対に、何が何でも混ざるからね!」

 

ぷんぷんと子供のように頬を膨らませ、不満を全身で表現するユメ

 

その背後からは、まるで魂を根こそぎ抜き取られたような、あるいは一夜にして十年は老け込んだかのような、生気のない顔をしたホシノが幽霊のごとくのろのろと姿を現した

 

「あー……。その件についてはね、話すと気が遠くなるほど長くなるんだけど……。昨日、モモトークの画面越しに報告された通り、先生の執務室を爆発させかけた大罪のおかげで、おじさんも保護者(?)兼、連帯責任者としてシャーレに召喚されたでしょ?」

 

ホシノはフラフラとソファーに行くと愛用のクジラのぬいぐるみを生命維持装置であるかのように力なく抱きしめ、枯れ果てた溜息を漏らしながら今日起きたことを静かに振り返る

 

「お昼過ぎに重い腰を上げて向かったんだけど……。実は、執務室の爆発未遂だけじゃ済まなかったんだよね。午前中にセミナーから脱走を企てていたコユキちゃんの『買収工作』に、あろうことか加担していた余罪まで発覚しちゃって。お菓子一箱で口封じに応じた現場をきっちり押さえられた結果、冷徹な執行官モードに入ったユウカちゃんから、鼓膜が震えるほどの最大出力でお説教を食らっていたんだよ、この人は」

 

「ユメ先輩、一体全体何をやっているのよ……。教育者としての自覚以前に、それじゃあただの犯罪幇助じゃない」

 

セリカがもはや怒る気力さえ奪い去られたような、深い絶望の色を滲ませた呆れ顔で指摘を投げかける

 

対するユメは、バツが悪そうに視線を泳がせながら両手の人差し指をツンツンと合わせ、小さな子供のように身を縮めた

 

「だって、コユキちゃんったら、私が最近気になっていた新作ドーナツの情報を完璧に把握して交渉のテーブルに乗せてきたんだもん……。あんなに期待に満ちたキラキラした目で見つめられたら、つい、ね……?」

 

「それで、結局のところ収拾はついたの?」

 

シロコが淡々とした口調で問いかけると、ホシノは焦点の定まらない遠い目をして、惨憺たる現場の様子を語り出す

 

「一応ねー…でも、あの瞬間のユウカちゃんの『もう!? 一体何度目だと思っているんですかーーー!?』っていう、シャーレのビル全体が物理的に震動するような鬼気迫る怒号といったらねぇ〜……。おじさんが仲裁に入る隙なんて、一ミリも存在しなかったよ」

 

「あの時のユウカちゃんは、人生で三本の指に入るくらい本当に怖かったよ……。まるで昔のホシノちゃんが本気で激怒して、瞳の奥から光が消え去った時を見ているみたいだった……」

 

ユメが当時の恐怖を鮮明に思い出したのか、目に見えて身震いしながら、自分を保護するように体を小さく丸める

 

「だからおじさんは、隣で雷鳴のように響き渡る説教をBGMに、苦笑いするしかない先生と近況報告を兼ねて、昨日の『饒舌な自画像』の顛末を報告していたんだ。そしたらさ、さっきまで説教の嵐に打たれてどん底まで沈んでいたはずのユメ先輩の背筋が、急にピーン! と真っ直ぐ伸びてね。『そんな面白そうなことしてたの!? なんで私を誘ってくれなかったのー!?』って、ユウカちゃんの小言を完全に遮断して騒ぎ出しちゃったんだよ……」

 

「あー……」

 

対策委員会の面々から、一寸の乱れもない完璧な同調を見せる呆れ声が漏れ、室内の温度がわずかに下がったかのような錯覚さえ漂う

 

「その後は、まあ、お察しの通り。おじさんとユウカちゃんによる地獄のダブルお説教タイムが始まって、いつものように涙目になりながらベソをかいていたユメ先輩なんだけど……。おじさんがようやく解放されて帰り支度を始めた瞬間に、今度は急にシャキッと立ち上がって『私も行くよ♪』って宣言。いつの間にか先生の懐に滑り込んでおねだり倒して、『アビドス校区内の怪異調査に伴う特殊実地研修』なんていう、もっともらしい名目の特別休暇をたった一日分だけもぎ取って、そのままついてきちゃったって訳……」

 

ホシノはこめかみを強く指で押さえ、逃れようのない運命を嘆くような絶望的な重低音でその説明を締めくくった

 

「だって、私みたいに陽気にお喋りする絵画とか、大きなクジラさんとか、いつの間にかピカピカに磨き上げられた不思議な廊下とか! 浪漫だよ! 男子も女子も憧れる、一世一代の浪漫の塊だよ! そんな絶対に楽しいに決まっているイベントに、私だけ仲間外れにされるなんて、絶対に嫌だもん!」

 

手足をバタつかせながら子供のように駄々をこねるユメに対し、セリカは氷のような冷徹な視線をまっすぐに突き刺す

 

「ユメ先輩……。少しは、という言葉では足りないくらい、全面的かつ徹底的に反省した方がいいわよ……? 先生の執務室を危うく木っ端微塵に爆発させかけておいて、よくもまあ、それだけの遊びに対する並々ならぬ情熱が湧いてくるものね……」

 

アビドスの「歩く台風」とも称される嵐を呼ぶ先輩が正式に参戦したことで、今夜の怪奇調査が、本来あるべき「恐怖」の体験から「予測不能な大混乱」へと変貌を遂げたことを、対策委員会のメンバー全員が確信した瞬間であった

 

ユメを新たな仲間に加えた六人の対策委員会は、再び夜の深い帳が降りた校舎の暗がりに足を踏み入れていく

 

懐中電灯の細い光が舞い上がる砂塵を照らし出し、壁に投影された六人の影が、歩みを進めるごとに不気味な形へと伸び縮みする。そんな中、アヤネが地図代わりのタブレット端末のノイズ混じりの画面を慎重に確認しながら、静かに口を開いた

 

「確か、この古い区画の突き当たりに、かつて全生徒の蔵書を一手に担っていた中央図書室があるはずです。アーカイブの断片によれば、そこでも夜な夜な不可解な現象が目撃されているという報告が……」

 

「そうそう! アヤネちゃん大正解! ここを真っ直ぐ行って、突き当たりの古びた時計がある角を左に曲がれば、図書室の大きな扉が見えてくるよー!」

 

ユメは先頭を歩くホシノの隣で、まるで遠足の前日に浮かれる子供のように楽しげに声を弾ませ、ステップを踏む

 

その軽やかな足取りからは、昨日シャーレで引き起こした大失態や、ユウカから浴びせられた雷鳴のような説教の記憶など、すでに砂漠の彼方へと霧散してしまったかのようであった

 

「へぇ、ユメ先輩って本を嗜まれるんですか? なんだか失礼ですけれど意外な気がして……いえ、とても素敵な趣味だと思います♪」

 

ノノミが柔らかな笑みを浮かべ、小首を傾げながら問いかける

 

すると、その隣でホシノが死んだ魚のような、光の一切を失った瞳を向け、消え入りそうな声で補足を入れた

 

「……読むよ。読むけどね、ノノミちゃん。この人が自ら進んで手に取るのは、決まって色彩豊かな挿絵がたっぷりの絵本か、あるいは台詞が極限まで削ぎ落とされた娯楽漫画ばかり。試しに、当時のおじさんでも普通に読み耽ることができたような薄い小説を渡してみたら、三分もしないうちに頭脳からシュシュッと知恵熱の煙を噴き出して、そのまま保健室で眠って再起不能になるくらい活字というものが苦手なんだから……」

 

ホシノの疲れ切った表情の皺には、過去に幾度となくその「知恵熱」の看病や尻拭いをさせられた年月の苦労が色濃く刻まれていた。しかし、当のユメはどこ吹く風といった様子で、誇らしげに薄い胸を張る

 

「いいの! 絵本と漫画本さえ読めれば、この世の真理の半分くらいは直感で理解できるんだから! それにね、ここの図書室って、実は今はもう絶版になった貴重な冒険活劇の全巻セットとかが結構揃っててね。昔は、すぐにお説教モードに入るホシノちゃんから上手に隠れるために、本棚の奥深くに秘密の基地を作って、夜通し読み耽ってたんだよ〜」

 

「へぇ……? それは初耳ですねぇ、ユメ先輩。おじさんが血を吐く思いで部費の計算をしたり、ボロボロの備品を一人で修理したりしてた間、そんな特等席でサボり基地を作って漫画を堪能してたんですか。……その分のお説教、今この場できっちり、利子を付けて追加しましょうか?」

 

ホシノがふわりと、聖母のような慈愛を湛えて微笑む。だが、その瞳の深淵には砂漠の深夜の気温よりもさらに冷徹な、絶対零度の怒りが静かに、しかし確実に渦巻いていた

 

(……なんだか今のアヤネちゃんと、ホシノ先輩の関係そのものみたい。というより、今先輩がやってること、当時のユメ先輩と全く同じな気が……)

 

対策委員会の面々が一斉に同じ光景を脳裏に浮かべ、歴史は繰り返すのだと確信したが、目の前のホシノのあまりの威圧感に、誰もがその言葉を喉の奥に飲み込んだ

 

「あ、あ、あーー!! みんな、ほら見て! 着いたよ! ここが伝説のアビドス大図書室だよ! さあ、知的好奇心に従って調査開始だー!!」

 

ホシノから放たれる凄まじいプレッシャーが肌を刺すのを感じ取ったユメは、露骨に泳ぐ視線を無理やり固定し、目の前に立ち塞がる重厚な観音開きの扉を指差して声を張り上げた

 

背筋に走った戦慄を力技で誤魔化すように、ユメは猛烈な勢いで扉へと手をかける

 

その必死すぎる様子に、セリカたちは「自業自得ね……」と冷めた視線を送りながら、目の前に現れた歴史の重みを感じさせる木の扉を見上げた

 

「ほらほら、ここがアビドス自慢の図書室だよ! さぁさぁ、みんな入りましょう! さぁ!」

 

背後から漂い続ける、微笑みの仮面を被りつつも「一歩も逃がさない」という強固な圧を放つホシノから逃れるべく、ユメは一人そそくさと図書室の重厚な扉を押し開けて中へと滑り込んでいく

 

その慌てぶりは、広大な草原で巨大な捕食者の影から逃れる小動物を彷彿とさせた

 

「……まぁ、私たちが何を言っても無駄よね。あの二人は、もう昔からずっとあの調子だったし。それより、さっさと調査を済ませちゃいましょう。夜の図書室なんて、何が潜んでいるか分かったもんじゃないわ」

 

セリカが呆れたように肩をすくめ、その言葉を号令として、他の面々も続々と薄暗い室内へと足を踏み入れる

 

一歩中へ足を踏み入れば、そこにはアヤネたちの想像を遥かに凌駕する規模の、圧倒的な数の蔵書が整然とした棚の列に収容されていた。高窓から差し込む青白い月光に照らされた、無数の背表紙の群れ

 

それはまるで深い眠りについた古代の巨人の鱗のように、静かに、そして厳かに光を反射していた

 

「こ、これほどの数の本が眠っていたなんて……。学校の予算が厳しくなる前の、アビドスが黄金時代を謳歌していた頃の遺産でしょうか」

 

アヤネが感嘆の声を漏らし、震える手で懐中電灯を操りながら書棚の背表紙をなぞる

 

その横では、早くも棚から一冊の本を抜き取ったノノミが、闇の中で花が咲いたような、眩い笑顔を見せていた

 

「あ、見てください! 『世界の茶葉集・決定版』ですよ! 淹れ方はもちろん、それぞれの茶葉に最適な付け合わせのお菓子までフルカラーで載っています! 素晴らしい資料ですね♪」

 

ノノミの声は、深夜の図書室の静謐を華やかに彩る。その指先がなぞる頁には、異国の広大な茶畑や、湯気を立てる磁器のカップが鮮やかに描かれ、彼女の好奇心を強く刺激していた

 

「ん、こっちは『プロが教える自転車改造記・極限の軽量化編』……。タイヤの摩擦係数に関する有用なデータがびっしり。これがあれば、次の大会の自己ベストを三秒は縮められる」

 

普段は冷静沈着なシロコまでもが、ノノミと同様に瞳を宝石のようにキラキラと輝かせ、分厚い技術書を食い入るように見つめている

 

彼女の脳内ではすでに、愛車のフレームを分解し、新たなパーツを組み込むシミュレーションが始まっているに違いない

 

「ちょっとみんなー、調査のこと忘れないでよ? 目的は七不思議の正体を見つけることなんだからねー」

 

ホシノが腰に手を当てて、保護者のような口調で釘を刺すと、セリカが意外なものを見るような、冷ややかな視線を隣の先輩へと向けた

 

「……ホシノ先輩って、ユメ先輩が隣にいると妙に真面目よね。いつもそれくらいの責任感を持ってくれると、私たちがどれだけ助かるか分かっているのかしら?」

 

「あはは……おじさんはね、セリカちゃんたちがしっかりしてくれているから、あんな感じで抜けていてもいいの。でも、ユメ先輩に同じトーンで甘えたら、この学校は借金の返済を待つまでもなく、物理的か精神的か、どちらかの理由で音を立てて崩壊しちゃうからね」

 

ホシノは窓の外に広がる夜の砂漠を見つめ、遠い目をして、切実な実感を込めて呟く

 

しかし、セリカの追及の手は緩まない

 

「その割には、一年生の時、今とは違って真面目そうだったのに、ホシノ先輩もノリノリで水着を着て砂漠を掘りに行っていたわよね? あの情熱は一体どこに消えてしまったのかしら」

 

「あ、あれはセリカちゃんも一緒になって楽しんでいたでしょ!? おじさん一人のせいみたいに言わないでよ!」

 

図書室の静寂をかき消すように、ホシノが慌てて弁明の声を上げる

 

そんな賑やかなやり取りをよそに、部屋の奥からは「あー! これこれ! ずっと探していた冒険漫画の続きー!」という、ユメの能天気で底抜けに明るい歓喜の声が響き渡った

 

それからも、暗い室内には懐中電灯の光が幾筋も交差し、静まり返った空気の中にページを捲る乾いた音だけが心地よく反響する

 

ノノミは茶葉の図鑑に心を奪われ、ユメは絶版の漫画を見つけては「懐かしい〜!」と小躍りし、アヤネはアビドスの歴史が詳細に記された古い年報を、まるで宝探しでもするように読み耽っている。シロコに至っては、自転車の整備マニュアルの重要な箇所を無言で指でなぞり、完全に自らの精神世界へと没入していた

 

そんな「深夜の読書会」状態と化した四人を横目に、ホシノとセリカだけは、ある種の使命感――あるいは片や監視、片や生来の真面目さから、書棚の隅々まで鋭い視線を走らせていた

 

「んー……。おじさんの目から見ても、ここは至って普通の図書室に見えるんだけどなー」

 

ホシノが手近な書棚から一冊の本を取り出し、パラパラと親指で弾くように捲る

 

文字の羅列を熟練の速読で流し読みしては、特に変わった様子がないことを確認し、溜息混じりに棚へ戻す

 

「そうね……。実害がないのはいいことだけど、もしかしてあの七不思議のリスト、誰かの悪質なイタズラか、根も葉もないガセネタが混じっていたんじゃないの?」

 

セリカが腰に手を当て、疑わしげな眼差しで周囲の暗がりに潜む棚を見渡す

 

「んー……確かにそれもあり得るよね〜。情報提供の元がネットの掲示板とかSNSなんだし、こういう『噂だけが一人歩きしちゃったパターン』も当然あるだろうからね……」

 

ホシノが頭の後ろで手を組み、のんびりと呟いたその時だった

 

「……ん? ちょっと待ってホシノ先輩。これ、何かしら。ここ、本棚の支柱の隙間に、何か妙な紙が挟まっているわよ」

 

セリカが鋭く目を光らせ、本棚の支柱と色褪せた文芸書の間に深く差し込まれていた古びた一枚の紙を見つけた。彼女がそれを慎重につまみ出すと、駆け寄ってきたホシノと共に、懐中電灯の狭い光の円の中でその内容を覗き込む

 

「なになに? ……『警告:この図書館では赤点は断じて許しません。どんな手段を講じようと、対象者を赤点の淵から引きずり出し、合格圏内へと叩き込みます』だって」

 

「何よそれ……。昔の過激な図書委員か、スパルタで有名だった先生の決意表明? 執念を感じるというか、時代錯誤な熱量がちょっと怖いわよ」

 

セリカが引きつった苦笑いを浮かべる。紙は経年劣化で茶褐色に変色し、独特の古びた臭いを放っているが、そこに書かれた文字の筆跡は、紙を突き破らんばかりの凄まじい筆圧で刻まれていた

 

その文字には、単なる教育への熱意を超えた、ある種の怨念に近い「教育への強迫観念」が宿っているようにも見えた

 

「それにしては、並々ならぬ執念がこの一枚に凝縮されている気がするけどねぇ〜……。おじさん、ちょっと背筋が寒くなっちゃった。一応確認なんだけど、私たちの中で現在、赤点の瀬戸際に立たされている危うい人っていたっけ? ちょうどこの前、定期テストが終わったばかりだよね」

 

ホシノが少しだけ真面目な顔で顎をさすりながら問いかける

 

セリカは視線を斜め上に向け、指を折り数えながら最近の記憶にあるスコアシートを脳内で展開し始めた

 

「この前の定期テストなら、私は全科目とも無難に平均点以上をマークしていたわよ。アヤネちゃんは言わずもがな、ほとんどの教科で90点を超えてくる学園トップクラスの秀才だし……。ノノミ先輩も、ふわふわしているようで要領は抜群だから平均点はしっかりキープ。シロコ先輩は、戦術理論以外の座学が赤点ギリギリだった気もするけれど、それでも持ち前の集中力で回避はしていたはずだわ」

 

「そっかぁ。おじさんも、昼寝ばかりで不真面目に見られがちだけど、肝心な要点だけは睡眠学習(?)で押さえているから、今のところ赤点とは無縁だしね。……となると、この不穏なメッセージは今の私たちには全く関係のない、遠い昔の熱血図書委員が残した『過去の遺物』ってことかな」

 

ホシノは肩の力を抜くと、気味の悪い執念を放っていたその古い紙を、元の棚の暗い隙間へと無造作に押し戻した

 

「さ、手ぶらで帰るのもなんだし、とりあえずみんなと合流しよっか。これ以上ここに長居しても、新しい茶葉の淹れ方にやたら詳しくなるか、自転車の極限の軽量化に目覚めるだけの一夜になっちゃいそうだしね」

 

ホシノが軽やかな足取りで踵を返し、興味を完全に失ったセリカと共に、読書に没頭する四人の元へと歩み出す。しかし、二人が背を向け、懐中電灯の光がその場を去った刹那

 

戻されたはずの「紙」が、まるで意思を持つ生き物のようにガタガタと不自然な震動を始める

 

それは闇を吸い込むように棚の深淵へと引きずり込まれ、一瞬のうちに完全に姿を消したが、その不可解な怪異の兆候に二人はまだ、露ほども気づいていなかった




長くなりすぎたので分けて見ました
一度に読むのと分けるのどっちが読みやすいですか?
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