セリカがタイムスリップして1年生のホシノと同級生になる話   作:気弱

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恐怖の図書室

みんなの元に戻った二人は、もはや今夜の探索が「成果なし」という空振りで終わることを半分確信していたが、形だけでも各人の進捗を確認することにする

 

静まり返っていたはずの図書室は、今や対策委員会の面々が放つ微かな熱気と紙を捲る音で、どこか放課後の部室のような、穏やかでゆるやかな空気に包まれていた

 

「ノノミ先輩、何か『七不思議』の正体に繋がりそうな、決定的な手がかりは見つかりましたか?」

 

セリカが周囲を警戒しつつも慎重に声をかけると、高く積み上がった背表紙の隙間から「あ、セリカちゃん♪」と、夜の闇さえ照らすようなノノミの輝かしい笑顔が飛び出した

 

「見てください! この古文書に並ぶほど古いレシピ本……。茶葉を濃厚なミルクでじっくり煮出す際の、この意外な隠し味。私、今まで思いつきもしませんでした! 砂漠の乾燥した過酷な空気の中でも、香りを一切逃さないための秘訣が記されているんですよ♪」

 

「そ、そう……。あはは、それは素敵な大発見ね。今度のティータイム、その淹れ方で飲ませてくれるのを楽しみにしてるわ……」

 

ノノミの瞳は純粋な知的好奇心に満ち溢れており、もはや「不気味な心霊調査」などという物騒な目的は、彼女の頭からは綺麗さっぱり霧散しているようだった

 

その聖母のような幸福なオーラを前にして、セリカは「実は一枚の不気味な紙以外、何も見つかっていない」と現実的な水を差すことができず、ただ曖昧に言葉を濁すことしかできなかった

 

一方、ホシノは自転車の構造図と力学データに魂を根こそぎ吸い取られているシロコの肩を、ぽんと軽く叩いた

 

「シロコちゃーん? 自転車の駆動パーツ以外で、何か周囲に怪しい気配とか、不思議な物音とかはなかったかなー?」

 

「ん、集中しすぎて視界には本の中身しか入れていなかった。でも、この古い本特有の重厚な紙の匂いと、誰にも邪魔されない静かな空間……。たまにはこうして、戦術的な知見を蓄えるために読書に耽るのも、タクティカルな判断としては悪くないと思う」

 

満足げに深く頷くシロコの表情は、銀行の警備プランを緻密に練り上げている時と同じくらい真剣そのものだ

 

ホシノは思わず苦笑いを漏らしながら、「シロコちゃんは偉いね〜。これからはもっとたくさん本を読んで、おじさんを感心させてね?」と、その透き通るような白銀の髪を優しく撫でた

 

撫でられたシロコは「ん……」と、どこか心地よさそうに目を細めていた

 

ノノミとシロコから離れ、セリカは次に、対策委員会の中で最も信頼を置いている有能なアヤネの元へと歩み寄る

 

「アヤネちゃーん、そっちはどう? 何か手がかりになりそうな古文書とか――」

 

セリカがいつもの調子で歩み寄ると、書棚の影で一心不乱に何かを読み耽っていたアヤネが、電流を流されたかのように勢いよく飛び上がった

 

その拍子に、眼鏡が鼻先までずり落ち、顔面は熟れたトマトのように瞬時に沸騰する

 

アヤネは手にしていた薄い冊子を、弾かれたような速さで背後へと隠し、不自然なほど左右に視線を激しく泳がせた

 

「え、えええと……その……な、何も見つけてません! 怪異の手がかりなんて、一文字も、一節も、一頁もありませんからっ!」

 

「……? 何よその過剰な反応。それじゃあ、今必死になって後ろに隠したものは何なのよ。調査記録に載せる必要があるかもしれないんだから、見せなさいよ」

 

不審げに目を細めたセリカが距離を詰めると、アヤネは「ううっ」と呻き声を上げながら、ステップを踏んで必死のディフェンスを試みる

 

「な、なんでもありませんから〜! これは、その、極めて個人的な……知的好奇心というか、統計資料というか……ああっ、こちらへ来ないでくださいっ!」

 

逃げ惑う書記と、それを追う会計

 

しかし、アヤネの鉄壁(自称)の防御網は、いつの間にか音もなく真後ろに忍び寄っていた「天真爛漫な破壊神」によって、呆気なく打ち破られることとなった

 

「なになに〜? 『禁断の恋 素直になれない私の好きな人は同性の魚好きな先輩』……? わぁ、アヤネちゃん、こういう情緒溢れる本を読むんだねぇ! なんだか、いつも仲良しなホシノちゃんとセリカちゃんをモデルにしたみたいなタイトルだね♪」

 

「ひっ!?」

 

アヤネの背後でユメが、鈴を転がすような清々しい声でタイトルを朗々と読み上げると、図書室の空気は一瞬にして絶対零度まで凍りついた

 

アヤネは隠し通せなかった「禁書」を腕に抱えたまま、全身の筋肉が硬直したかのように、彫像のごとくその場に固まってしまう

 

セリカが口をパクパクとさせ、「……あ、アヤネちゃ」と、フォローとも哀れみとも、あるいは戦慄ともつかない声を辛うじて絞り出した瞬間、アヤネの理性のダムが決壊した

 

「わーん!! これで私の、これまで血の滲むような思いで築き上げてきた『鉄壁の真面目書記』という要素が、ただの『変態』という不名誉な属性に上書きされてしまいました〜!」

 

「え? アヤネちゃん、自分のこと純情派だと思ってたの? この前、二人の些細なやり取りを深読みして関係を邪推してた時も、傍から見てて相当な熱量だなって感心してたんだけど」

 

「うぐぅ…」

 

天然という名の、研ぎ澄まされた鋭利な凶器を無邪気に振り回すユメ

 

その容赦のないトドメの一撃が、アヤネの精神的な急所を深々と貫く。アヤネはそのまま、支えを失った操り人形のように膝からがっくりと崩れ落ちた

 

「ま、まぁ、人の好みは千差万別だもの……。私は別に、アヤネちゃんがどんなにディープな本を愛読してようが気にしないわよ。趣味の世界は自由だもの」

 

セリカが溜息混じりに屈み、意気消沈してうなだれるアヤネの肩にそっと手を置く。しかし、アヤネはゆっくりと顔を上げると、涙で潤んだ瞳の奥に、逆上の炎を宿してキッとセリカを睨みつけた

 

「だ、大体ですね!? 私がこうして禁断のフィクションに逃避してしまうのは、元を正せばセリカちゃんとホシノ先輩がいけないんですよ!」

 

「な、何よ急に!? なんで私たちが責められなきゃいけないのよっ!?」

 

「何時までも、何時までも! 傍から見れば明らかなのに、ろくに進展もないくせに! 職務中に当たり前のような顔をして、呼吸をするようにイチャイチャラブラブを見せつけられる、私の身にもなってください! 毎日毎日、すぐ隣でそんな糖度の高い光景を強制的に摂取させられていたら、もはや現実逃避でフィクションの濁流に身を投じるしかないじゃないですか! 早く○○○○して○○○○して、その一部始終を詳細な報告書にして私に提出してくださいっ!!」

 

「しないし、万が一、億が一したとしても報告なんて絶対しないわよ! バカなの!? それにそもそも、イチャイチャなんて断じてしてないわよ!!」

 

静まり返っていた地下図書室で、怒号に近いセリカとアヤネの罵り合いが繰り広げられる

 

それを「うわぁ〜、これが現代の、荒ぶる青春なんだねぇ。凄まじい熱気があってよろしい!」と、まるで花見でもしているかのようにニコニコと眺めているユメ

 

その隣に、ホシノがいつの間にか音もなく現れた

 

「……ユメ先輩。これは青春というキラキラした言葉とは、根本的に、何かが決定的に違う気がするんだけどなー」

 

「あ、ホシノちゃん」

 

「暴走してブレーキが壊れちゃったアヤネちゃんはセリカちゃんに任せるとして……ユメ先輩。先輩の方は何か、本来の目的である調査に関係しそうな、怪しい手がかりとかは見つかりましたか……?」

 

期待を込めずに問いかけながら、ホシノはチラリとユメの手元に視線を落とした

 

そこには、キョトンとした顔のユメが、宝物のように大切に、そして愛おしそうに抱え込んでいる、表紙が擦り切れた使い古しの漫画本

 

ホシノは深く、あまりにも深く肩を落とし、「……見つけるわけ、ないよね。一縷の望みを抱いたおじさんが愚かだったよ」と、力なく、消え入りそうな声で呟いた

 

こうして、今夜の綿密な探索の結果は、シロコが『自転車改造マニュアル』、アヤネが『禁断の恋愛小説』、ノノミが『究極の茶葉辞典』、そしてユメが『懐かしの少女漫画』を入手するという、調査の進展としては惨憺たるものに終わった

 

アビドスの図書室に眠る資料は、七不思議の正体ではなく、各々の欲望と趣味を浮き彫りにしただけであった

 

「はぁ……私、疲れました……。精神的なダメージが大きすぎて、もう思考がまとまりません。調査は一旦打ち切って、明日また出直しませんか? 今度はもう、七不思議なんて関係なく、純粋に本を探しに来るということで……」

 

アヤネが魂の抜けたような足取りで出口へと向かう

 

眼鏡の奥の瞳には、先ほどの醜態と暴走による自己嫌悪の色が濃く滲んでいた

 

「私も大賛成……。わけのわからない不気味な紙は見つけるし、アヤネちゃんには理不尽な逆恨みをぶつけられるし、もう一刻も早くお布団に入って眠りたいわ」

 

セリカも深く、重い溜息をつき、今夜の不毛な活動に幕を下ろすことに同意した

 

「それじゃあ、帰ろっか。夜更かしはお肌にも、翌日の健やかなお昼寝にも毒だからね」

 

ホシノを先頭に、シロコ、ノノミ、アヤネ、セリカと順に、冷えた廊下へと這い出していく

 

最後尾を守るのは、未だに手に入れた漫画本を宝物のように抱え、満足げな笑みを浮かべているユメだ

 

しかし、その平穏が維持されたのは、わずか数秒のことであった

 

「っ……きゃっ!? な、なにっ……!? 引っ張られ…!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

ユメが最後の一歩を踏み出し、図書室の敷居を越えようとしたその瞬間、背後の濃密な闇から、見えない巨大な「手」にでも捕まれたかのように、ユメの体が強引に図書室の奥へと引きずり戻された

 

「ユメ先輩!?」

 

ホシノが反射的に、電光石火の速さで手を伸ばした

 

しかし、彼女の指先がその衣類に触れるよりも早く、重厚な木の扉が凄まじい衝撃音と共に「バンッ!」と閉じられてしまう

 

驚愕した一同が慌ててノブに手をかけ、体重を乗せて回そうとするが、先ほどまで滑らかに動いていた扉は、まるで壁の一部と化したかのように、一ミリたりとも微動だにしない

 

扉の向こう側からは、ユメの困惑したような、けれど危機感があるのか疑わしいほど呑気な叫び声が漏れ聞こえてくる

 

「あ、あれぇ〜!? ホシノちゃーん! 扉が開かないよぉ! なんだか、真っ暗な中から誰かに腕をがっしり掴まれてるみたいで――」

 

ユメの声を最後に、図書室の奥へと続く物音は途絶えた。しかし、次の瞬間、廊下には我に返った対策委員会の狼狽する叫びが反響する

 

「ゆ、ユメ先輩が中に引きずり込まれた!? このアビドスで、白昼堂々ならぬ深夜堂々に誘拐なんて……!」

 

「あ、アヤネちゃん!?とりあえずバイタルを調べて!」

 

混乱が頂点に達しようとしたその時、ホシノの瞳に冷徹な戦士の光が宿った

 

「みんなどいて!!」

 

ホシノが鋭い助走をつけ、小柄な体躯からは到底想像もつかない爆発的な威力で扉へと蹴りを叩き込んだ

 

ガタン!!

 

という派手な破壊音と共に扉のロックが粉砕され、蝶番が悲鳴を上げて弾け飛ぶ。一行は砂塵を舞い上げながら、一気呵成に室内へと突入した

 

「ユメ先輩、今助け――」

 

だが、ホシノの決死の叫びは、突入した先で繰り広げられていた「惨劇」ならぬ「喜劇」によって、無惨にも遮られることとなった

 

そこには、恐ろしい怪物も幽霊も存在しなかった

 

代わりに室内で荒れ狂っていたのは、意志を持って空中に浮かび上がった、数十冊に及ぶ分厚い参考書の群れであった

 

それらはまるで見張り番のように、一人の少女を包囲している

 

ユメは重厚な木製デスクの前に強制的に座らされ、頬を涙で濡らしながら、震える手でペンを走らせていた

 

「ひぃん! 分からないよー! 確率なんて日常生活で使わないもん! もう勉強のやり方なんて、何年も前に忘却の彼方に捨ててきたんだよぉ……! いたっ! やめてー!」

 

ユメがペンを止めて思考を放棄しようとした瞬間、空中で手ぐすねを引いて待機していた『標準英文法・語法』が、戦闘機のような鋭い旋回を見せ、その角でユメの無防備な背中を鋭く小突いた

 

「あ、ホシノちゃん! みんな! 助けてぇ〜! この本たち、私がちょっとでもペンを止めたり、現実逃避で窓の外を見たりしようとすると、容赦なく物理的に教育指導してくるの! しかもさっきからずっと、私の天敵である数学と英語の問題が交互に襲ってきて――ひぃん!?」

 

窮状を訴えようと振り返ったユメの頭頂部に、間髪入れず『チャート式・数学 英語』の合本が、まるでお寺の警策のような鮮やかで乾いた音を立てて落とされた

 

空中に舞った埃が月光に反射し、そこに無慈悲な文字が浮かび上がる

 

――『私語厳禁。集中力の欠如は学力低下の元凶なり。問九から問十五までを、三分以内に完答せよ』

 

「……あ」

 

それを見たホシノは、先ほど棚の隙間に戻したあの執念深い紙の文言を思い出した。セリカと顔を見合わせ、二人は全てを察したように得心がいった表情を浮かべる

 

「ねぇ、ホシノ先輩……もしかしてさっきの紙って、警告じゃなくて『現行犯逮捕』の予告だったのね」

 

「うん、多分そうだと思う。この図書室そのものが、巨大な学習塾みたいな怪異になっちゃってるんだよ」

 

事態が飲み込めないアヤネが困惑しながら問い返す

 

「えっ? どういうことですか? さっきの紙って?」

 

「本棚の間に挟まってたのよ。『どんな手を使おうと赤点を抜け出させます』って。私たちの中で、その条件に……つまり、かつてのテストで壊滅的な数字を叩き出し続けていた『未更生者』は……」

 

セリカの視線が、机の上で「sin・cos・tan」に悶絶しているユメに固定される

 

「……この七不思議の、唯一無二のターゲットだったって訳。おめでとうユメ先輩、図書室に『特別補習対象者』として指名手配されてたみたいだよ」

 

「……もしかして、私もあの時もっと点数が低かったら、あそこに並んで座らされてた?」

 

シロコが珍しく恐怖に声を震わせると、ホシノは冷徹なまでの冷静さで頷いた

 

「おそらくはね。でもシロコちゃんなら、参考書の体当たりを回避しようとして、図書室の中で延々とタクティカル・スタディが始まってたと思うよ」

 

それから十分間

 

一同は、ペンが止まるたびに参考書軍団から猛烈な物理攻撃を食らい、「ルートなんて大人になったら役に立たないよー!」と絶叫するユメの姿を、ただ無言で眺めていた

 

「……みんな。これ、おじさんたちが手を出しても解決しない気がするんだよね。それに、よく見たら問題を解かせているだけで、それ以上に危害を加えるつもりは無さそうだし……もう寝ない?」

 

ホシノのあまりにもドライな提案に、セリカが引きつった顔で返す

 

「え? 本気なの? 流石にそれは可哀想というか……」

 

「だって、これを見てよ」

 

ホシノが足元にひらりと落ちてきた、採点済みの小テスト用紙を指し示す

 

そこには、ユメの丸っこい筆跡の名前の横に、血のような赤文字でデカデカと『0点』、そしてその下に『再試:合格するまで帰宅を許可せず』という無慈悲なスタンプが押されていた

 

それを見た対策委員会のメンバーの心は、瞬時に一つにまとまった

 

「ん、ユメ先輩もたまには真面目に勉強すべき。これはアビドスのためにも先生やシャーレの人達にも必要な試練。頑張って」

 

シロコは即座に合理的な判断を下し、そっと扉の残骸へと足を向ける

 

「そうですね……。ユメ先輩が苦しんでいる姿は忍びないですが、この『地獄の補習』の様子を写真に撮ってユウカさんに送れば、日頃のストレスも少しは解消されるでしょうし、今後の予算交渉もスムーズにいくかもしれません」

 

アヤネは冷徹な事務員としての顔で、連写モードのシャッターを切った

 

「あ、あはは……流石の私も、勉強を理由に更生させようとする本達の意志を邪魔できませんね… ユメ先輩、夜食は扉の前に置いておきますから、せめて朝までには因数分解をマスターしてくださいね?」

 

ノノミは慈愛に満ちた笑顔のまま、救済の選択肢を切り捨てた

 

「自業自得なんだから仕方ないわね。これでユウカさんに怒られる回数が減るなら、むしろこの図書室に感謝すべきだわ」

 

セリカも冷たく言い放ち、全員が帰路に就こうと背を向けた

 

「えっ!? みんな、なんで帰ろうとしてるの!? 冗談でしょ!? 助けてよー! セリカちゃん! ノノミちゃん! シロコちゃん! アヤネちゃん! ホシノ……ひぃん!? 叩かないで、今計算してるから! 繰り上がりが分からないだけだからぁー!」

 

背後から響く情けない悲鳴。しかし、アビドスの少女たちの足取りに迷いはなかった

 

「わーーーん!! みんなの薄情者ーー!! 鬼! 悪魔! 教育熱心すぎる参考書のバカーー!!」

 

壊れた扉の隙間から漏れ出すユメの絶叫は、静まり返った夜の校舎に長く反響し、やがてペンが走るカリカリという音と、「ひくっ……ひくっ……」と静かに泣くユメの声だけが響いた

 

翌朝

 

ホシノたちが様子を見に行くと、そこにはボロボロになった一冊の問題集を抱え、全身を本の角で叩かれたせいか小さなタンコブをいくつも作り、目はうつろで足取りは幽霊よりもフラフラとしたユメがいた

 

彼女は図書室から這い出してくると、ホシノの足元に力なく崩れ落ちた

 

「お勉強怖い……。数式が…英単語が襲ってくる……。もう二度と、ドーナツの割引計算以外で数字は見たくないよぉ……」

 

その後、シャーレには「心身の著しい疲弊」という名目で数日間の休暇届けが出されたが、当の本人は自室に引きこもり、教科書を見ただけで「ひぃん!」と悲鳴を上げる重度の「勉強恐怖症」を患ってしまった

 

余談だが、アヤネから送られてきた『スパルタ補習中のユメ』の写真を見たユウカは、その有効性に感銘を受け、素行不良のコユキを同じ怪異に放り込もうと画策した

 

しかし、コユキは「性格は最悪でも地頭だけは異常に良い」という天賦の才により、出現する全問題を爆速で全問正解

 

怪異である参考書たちが「教えることがない……」と困惑して消滅してしまったため、コユキは五分足らずで「にはははー!私を留めるならもう少し難しい問題を用意することですねー!」と意気揚々と脱走し、ユウカをさらなる絶望の淵へと叩き落としたという




「にははは!ここをハッキングして、私の輝かしい感想を書き込んじゃいますよー!それにしてもユウカ先輩も甘いですねー。私が普段から赤点を取ってるのは、どーせ後で数値を改ざんするからっていう高等なテクニック(?)なだけで、あんなレベルの問題なら秒速で解けちゃうのに〜!……あ、マズい!ユウカ先輩に補足される前にドロンしなきゃ!それじゃあバイバイでーす!」
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