イースタン・アーカイブ ~ファンタズム・ロータス~   作:hh9528

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第15話「決戦:カンカンダラ 1」

 コクリコと勘解由小路ユカリは息を呑んだ。

 

 遠野の生徒会室、その入口で扉を開けた紫の向こうには、闇と祭壇、そして静かに揺らめく蝋燭の弱々しい光だけが陽炎のように揺れていた。

 

 紫は背を向けたまま淡々と歩いて入っていった。コクリコが静かにその後をついていき,ユカリだけがこれでいいのかと自信のない足取りで追いかけた。

 

「人間は普通、自分の理解できる通りに世界を眺めるものです」

 

 金色の瞳が二人を静かに振り向いて見渡した。ユカリは思わずへたり込みそうになり、コクリコは来るべきものが来たというように眉間を狭めた。

 

「認知の可視光線の外側、赤外線、紫外線……」

 

カタッ、祭壇に置かれていた木箱二つを同時に持ち上げ、二人へと差し出した。

 

「そのすべての未知に、それぞれのフィルターを被せて。必死に。自分の知る領域へと」

 

コクリコとユカリがそれぞれ木箱を受け取り、ユカリが先に蓋を開けてみる。

暗い照明の下でも鮮やかに見える白と赤の布。柔らかすぎず、粗すぎもしない不思議な感触の一着の装い。二人にはあまりにも見慣れた、巫女の袴。

 

二人の表情はあまり明るくなかった。それぞれ違う形で不満を顔に描いていた。

しかし紫の説明のような独白は続いていく。

 

「人間は柔軟です。考えも、適応も、生活も。一方妖怪は本性のまま保ち続けようとする傾向が強いですね。異能のように見えるそれぞれの権能の下で、その具現体にでもなったかのように」

 

コクリコは衣を広げて見せた。間もなくユカリも。二人の目が見開かれた。コクリコはこれまでの話がまったく頭に入っていなかったように、殺意を露わにして紫へ叫んだ。

 

「これを我に、まさか着よというのかえ!?」

 

ユカリも持ち上げた。

 

「こ、この破廉恥な服はなんですの!?」

 

「あら。遠野の伝統的な巫女服ですよ」

 

 紫が手渡した服は、腋がすっぽりと空いていた。ほぼ袖なしに近い形で。腕を覆うための袖は別添されていたが、当の二人にはこれをどう着ればいいのか見当もつかなかった。

 

明らかに揶揄うつもりだろう。二人は歯を食いしばって紫を見つめたが、冷たい金色の瞳は「早く着なさい」と無情に語っているようで、二人は口を閉ざしてしまった。

 

「二つの存在は通常、平行線。価値観も、動機も合わず、永遠に反目し合う対極点」

 

 しかし紫は、ユカリへ向ける眼差しを柔らかく解きながら。そう、まるでにやりと笑って揶揄うように。

 

「彼らを理解させるために必要なのは、理屈でも、道徳心でもありません。これから皆さんに伝授するのは……他でもない、昔の人々がこの知性を得た怪奇の具現体と対話するための方法」

 

「決闘命名法|ごっこ|について。」

 

 

 

 人間は善であるのと同じだけ、悪を持っている。

 

時にはその境界が崩れ、何が何なのかわからないものが生まれるほどに。

 

人間が生来持つ悪は、時には人喰いの怪物よりも暗いことがある。

 

かつて巫女だった者が、強いられた犠牲に屈して蛇と心中したが。

 

 その怨念が妖怪と同化し、一つの体になった存在。そのような物語。

しかし怨念が邪悪を呼び、それが怪物の形を作り出す話は、それほど珍しいことではなかった。言語以前から言霊として、単純な警告から寓話まで。時代に合わせて形を変えながら脈を保ち続けるもの。カンカンダラ。

 

 理解不可能そのものは妖怪とは方向性が異なる。実存することは常に、極めて冷たく現実的な解決策を伴う。

 

規則があり、弱点があり、教訓があるのが怪談だとすれば。

 

 これらは。最後に立っている者が記録を残す権利を持つことを思い知らせる、冷酷な怪物。

 

 

 

「ナグサ! 百花繚乱の子たちは固まって射線を守って! 遠野の子たちは即座に協力して戦うことに不慣れだから! あなたたちが最終ラインを守って!」

 

「わかった、先生!」

 

 怪声が響き渡り、まもなく、紫とユカリ、そしてコクリコが学校の構内に入った瞬間、白昼にもかかわらず影の大軍が今度は学校敷地内の正体不明の境界線を無視して押し寄せ始めた。

 

 まるで理解できない怪物の群れだが、百花繚乱たちは怪談の一種、付喪神として受け入れ、手慣れた様子で対応し始めた。

 

 

「レイセンも今は遠野の子たちを結束させようとしないで! 代わりに必要以上に攻撃的な動きをする子を適度にコントロールして!」

 

「はい、先生!」

 

 四方から銃声が響き、弾丸が影を貫く。

シッテムの箱で指揮できる人数は通常6人。今この場にいる子たちは、ざっと20人を超えている。そのうち半分は先生の指示を理解するのが難しい状況でもあった。

 

百花繚乱が主攻撃部隊を阻む一本の線となり、レイセンが適切に火力支援を加える。遠野の子たちはほぼ半狂乱の状態で各々が暴れていたが、どうにかこうにか最後の一線は崩れていない状態だった。残るはシュロとアザミだったが、アザミは意外にも雰囲気にうまく馴染んで共闘していた。

 

 問題はシュロ。すっかり怯えて、震える手でうろうろしている彼女のため、先生は自分の立ち位置を移すことにした。

 

「シュロ。近くに来て。代わりに、あの影たちの特徴を私の代わりに見極めてほしい」

「はあ!? 誰が手前なんかに……」

「……」

 

 真剣な先生の瞳に、雪原での借りが思い出される。理解不能な大人。理解不能な救い。シュロはずっと続けたかった悪態の勢いが鈍り、唇をもにゃもにゃさせながら口ごもると……

 

「こ、これで借りは返したんだからなあああ!」

 

目をぎゅっと閉じてから開き、影たちを睨みつけ始めた。

 

 

 充分な人員、そして充分な戦力の遠野敷地内の防衛線は、単純に突撃するだけの影では突破不可能だった。知性のない突撃には、守る子たちの火力は十分だったからだ。問題は弾薬が無限ではないことに加え……先ほどからずっと空気を切り裂き耳を打つ、ぞっとするような咆哮が次第に近づいてきていた。

 

 おそらくそれが、この影たちを操る首魁だろう。そう判断した先生は、紫が早く残りの二人を連れて戻ってくるのを待っていた。

 

「くそ、きりがないな……!」

 

 レンゲが叫び、他の皆より一歩前に出て銃を乱射する。一見荒っぽい射撃だが、弾は外れていない。ナグサがその傍で、そしてキョウがその後ろで。それぞれが自分の位置で互いを補い合っていた時。キョウが叫んだ。

 

「分裂した……あいつら!」

 

 一つの影が遠野の誰かの銃に当たって広がり散らばる。普通なら再び溶けて消えるはずの影が、気味悪くうごめいて無数の影の蛇となって広がっていった。それも攻撃性をそのまま保ったまま。その憎悪を子たちにぶつけるために地面を這い回る。

 

「ひっ……」

 

 カゲロウが怖気をなして、めちゃくちゃに地面へ向けて発射し始めた。

生理的に無理ーー!!!目をぎゅっと閉じて、当たろうが当たらなかろうが。当然、それでは十分な制圧力は確保できなかった。

 

 先生は周囲を見回しながら、さらにシッテムの箱の支援を受けて戦況を分析していた。ココロ、モミジ、そしてワカサキヒメを中心に、彼女を守る数名。アザミ、百花繚乱は落ち着いて戦っていたが、やはり遠野の子たち、特に戦うことに慣れていない子たちが崩れていっていた。

 

「あいつらも無限じゃないぞ!」

 

 シュロが先生に叫んだ。鼻息荒く、怪書を握りながら。

 

「あの蛇みたいな影はすぐに溶ける! あと馬鹿な動きは相変わらずだ!」

 

 ナグサがそれを聞いて、百花繚乱の皆へ視線でこう伝える。

「このまま守り抜こう」と。

 

 

 影の大規模な攻勢は、そうして徐々に勢いを失っていった。

 

しかし確かに、巨大な影は速く地面を這いながら、着実に遠野へと近づいてきていた。

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