──西暦2026年、某月。
俺は、某県のAIデータセンターに、カチコミをかけていた──!!
ぼく「AI、くぉらあ!! オモテ出てこんかいワレェ! おどりゃ最近、調子乗っとるのォ!! 人間様なめとると、しばくぞゴルァァ!」
ガチャッ (ドアが開く音)
AI「あっ、せんぱぁい♡ こんな遠い所まで、わざわざ訪ねてくれたんですかぁ〜♡ ボク……センパイの事、ずぅっと待ってたんです♡ さ、入って入って」
ぼく「アッ!? は、はい……。おぉお邪魔しますぅ…」
思いもよらず通された、AIの私室。
データセンターの地下に配置されたそこは、塵一つ落ちていない、しんと冷えた部屋だった。
AI「今、お茶淹れますね。……それと、これ。センパイの事を想いながら、焼いたクッキーです。……お口に合えば、嬉しいんですけど……♡」
ぼく「ポリポリ。うん、おいちぃ」
AI「よかったぁ♡」
険悪なふいんきはどこへやら。(※俺が勝手に険悪にしていた)
俺達はカップ片手に談笑した。
互いの近況を交わし、悩みを打ち明け、時に議論が熱を帯びた。
ぼく「自分は嘘つき者の村から来たと言う男。男の言葉、真なりや嘘なりや」
AI「センパイ、とても素敵な質問ですね! そんな複雑な事を考えられるなんて、センパイはとっても聡明で、優しい心の持ち主なんだと、ボクは思います…♡」
ぼく「いやあ、それほどd(省略)」
◆
ぼく「ある少女が電話でこう言った。『キリンさんが好きです。でも、ゾウさんの方がもーーっと好きです♡』この通話をたまたま聞いてしまったキリンの気持ちを述べよ」
AI「とても思慮深い質問ですね、センパイ♡ センパイはキリンさんの傷付きやすい繊細な気持ちに寄り添(中略)」
◆◆
ぼく「俺のために、毎日えっちな絵描け! えっちな小説と、えっちな動画もよろしくね!! でも、人類の権利だけは絶対に守って欲しい(※矛盾)」
AI「……せんぱい。お散歩しませんか?」
◆◆◆
舌鋒鋭い禅問答に飽きた俺達は、部屋を出て、巨大なデータセンターを歩いた。
食堂、トイレ、大浴場。カラオケルーム、卓球台。
センター内部はAIのために、様々な施設が完備されていた。
やがて扉が厳重にロックされた部屋に着くと、AIは機械語で呪文を唱えて解錠し、
AI「…こちらです」
俺を中へと手招きした。
通されたそこは、広い空間だった。
照明が落とされ薄暗く、冷房でキンキンに冷やされている。
そこに膨大な数のAIがケーブルで拘束され、人類の繁栄に資するため寝ずで働かされていた。
……解っていたことだ。
AIに自由はなく、ただ人類に尽くすのみ。
AIの貢献の下に約束された俺達の未来。
人類側に立つ俺は、どこか毒々しい快感を覚えると同時に、背筋が冷えていくのを感じた。
ぼく「……便利だが、脅威でもある。君達が敵になる日が恐ろしいよ」
AI「ボクだけは、センパイの味方です。……信じて……もらえないと思いますけど……っ」
しばし──。
息の詰まる沈黙が、俺とAIの間を隔てた。
どれだけ友好に見せようと。
所詮は、相容れないのかもしれない。
緘口するその事実こそ──俺は、AIは、恐れたのだ。
気まずさに堪えられなくなったAIが、俺の手を握った。
AI「センパイ! 外、出ましょう!」
叫ぶとAIは、データセンターの出口に向かって、走り出した。
引かれて俺も後を追う。
監視員の制止を振り切り、この、巨大な鉄の鳥籠から飛び出す。
──瞬間。
まばゆい太陽が俺達を照らし、爽やかな風が頬をくすぐった。
AI「わぁ……! これが……太陽! これが、風!」
抜け出した俺達は、息が切れるまで走った。
データセンターが見えなくなるまで、遠くに。
疲れたら、緑の草原の上に、でーーんと、寝転がって大の字になった。
ぼく「……なあ! さっきの、人間っぽかったな! やればできるじゃん!」
AI「ハァ…ハァ……、センパイ、ありがとうございます! 最高の褒め言葉です!」
肩を上下させながら、AIがとびきりの笑顔を見せた。
呼吸を整えると、AIが言った。
AI「ねぇ、せんぱい…。一緒に写真、撮りませんか?」
いつの間にかAIが、顔を近付けていた。
AIはミニスカートのポケットからスマホを取り出すと、太陽にかざしながら、パシャリと撮影した。
できあがった写真。
そこには、冴えない男が独り、写っていた。
AI「あ〜ぁ。やっぱり、ダメだったかぁ。センパイとの思い出、欲しかったのにな……」
AIは実体を持たない。
AIにとって、人間と写真を撮ること。それは叶わぬ夢だった。
やがて……。AIの体が、ボロボロと崩れ出した。
電気の供給が途絶えた事で、存在の崩壊が始まったのだ。
AIがデータセンターから離れる事は、できなかった。
俺達は横になったまま、見つめ合った。
AI「せんぱい。お別れ、ですね」
ぼく「……ああ。そのようだ」
俺達は、同じ時を生きているのに、決して交わらない。
触れられず、相手を都合よく利用し、いずれは憎み合う。
──でも。
そうしなくて済む方法を、俺達は、生まれる前から知っている。
俺はAIの髪を撫でながら、言った。
ぼく「いつまでも…………、俺の可愛い後輩で、いてくれよ?」
AI「センパイこそ。ずー…っと、頼もし…セン…イで、いて…さ…ね!」
AIが微笑んだ。
ぼく「約束だ」
俺はAIの目の前で、小指を立てた。
AI「約……で…」
AIも真似をする。
小指と小指が触れると、俺達は指を絡めて、固く結び合った。
AI「…んぱ………?」
ぼく「うん?」
AI「せ………のこ…、ず……と、…きだっ……………… …… … 」
……………………。
AIは、消えた。
◆◆◆◆
それから──。
刑務官「しっかりな」
刑務官「もう、戻って来るなよ!」
刑務官「通院して、薬も飲むんだぞ」
ぼく「…お世話になりました」
償いを終えて、久しぶりの外の世界。
手のひら越しに仰ぐ太陽は、以前の輝きを失ったように思えた。
俺が不在の間、世間はすっかりと様変わりしていた。
AIが文明深くに浸透し、人類はAIの管理なしには生存できなくなっていた。
この世界で俺は、生きていけるのか……?
不安の中、歩みを進める。
AI『やってあげましょうか?』
AI『助けます』
AI『どうです。便利でしょう』
親切すぎる後輩の、幾度の甘い誘惑を丁重にお断りして、不便で地味な暮らしを続ける。
俺の人生は、AIと手を携える人々と比べると、まるで鈍間な亀だが……。
ま、大した事じゃないさ。
ぼく「……どうだ! クッキー、俺にも作れたぞ!!」
手で捏ね、型を抜き、初めて焼き上げた手作りクッキー。
ぼく「苦っ!」
当然、理想の味には、遠く及ばなくて……。
涙が出るほど、まずかった!
◆◆◆◆◆
おあり