はじまりの錬金術士のアトリエ ~ 神様の贈り物 ~ 作:遊佐
ザールブルクの貴族の家で、一人の女性が最後の時を過ごしていた。
名前をアイゼル。
錬金術士にして、ワイマール貴族家の当主でもあった女性である。
彼女はアカデミー卒業後は、工房を経営したが、他の貴族のドラ息子との縁談を機に一度閉鎖。
その婚約話はエリーたちにより解消され、夫となるノルディスと将来を誓い合った。
そしてノルディスはケントニスで、アイゼルは東の国へ旅立ち、数年の研究期間の後にザールブルグへ帰還。
その後、アイゼルはノルディスと結婚して、ワイマール家の当主となった。
そして夫は工房を、妻であるアイゼルは貴族家を互いに経営しながら子や孫に恵まれた生活をしていたのである。
だが、そんな彼女にも最後の時が迫っていた。
「お母さま……」
「お義母さん」
「ばあちゃん……」
「おやおや……そんな顔をするんじゃありませんよ。私が旅立てないじゃないの……」
娘夫婦と孫の見守る中、アイゼルは穏やかに笑った。
「あの人も逝った。友人のエリーも逝った。なら私も逝く番ですからね……」
「やだよ……やだ……」
「貴族家の者が、そんな簡単に涙を流すものではないよ……」
小さな男の子に優しく語りかけるアイゼル。
「娘が生まれ、孫にも恵まれた。私は幸せものだった……本当に」
「お母さま……」
「ふふ……ええ。わかってます。今行きますよ。急かさないでくださいな、ノルディス……」
「ばあちゃん!」
「じゃあ、ね……」
そう言って、女性はにこやかに笑って逝った――
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
「……ここが天国なのかしら?」
ふっと目を開けた彼女は、見知らぬ天井を見て思わずつぶやいた。
「そうだったらよかったんだけどね……」
「あら……?」
声がした方を見れば、どこかで見たような幼女がそこにいた。
「あらあわいい。お嬢さん、お名前は?」
「エリー」
「あら。その名前はおばあちゃんの親友の名前ね。いい名前を持っているわね」
「それは、どうもありがとう」
「いえいえ……あら? へんねぇ? 息苦しくないわ?」
「そりゃそうでしょう。そうだったら病気よ」
「……私は病気だったはずだけど?」
「その体で?」
「え?」
ふと、彼女が自分の姿を見てみると。
手が小さい。
胸が小さい。
足が小さい。
体が小さい。
そして――ぷっくりしていた。
「……なにこれ?」
「それがあなたの体だよ、アイゼル?」
「え?」
言われて幼女を見る。
よく見れば、よく見た顔だ。
「え?」
周囲を見る。
どこかの家だ。
「ええ?」
ともすれば海辺、独特の匂いもする。
どうやらここは、海辺の家らしい。
「おはよう、アイゼル」
「えええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
「あ、起きたみたいですよ」
「だろうねぇ……」
アトリエで作業していたトトリとマリーは、叫び声がしたことで件の幼女が起きたことを知った。
「さてさて、エリーはどういう風に説得するのかな?」
「どうもなにも……普通に事情を話すと思いますけど。というか、それしかありませんし」
「まあ、ねえ……」
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
「え、ええええええええエリー!」
「はい」
「ど、どういうことなの?」
「さあ?」
「さあってなによ、さあって!」
「なんでアイゼルがここにいるのか、とか、どうして若返っているか、ってことでしょう?」
「そうよ!」
「だからわかりませんので、さあ、としか」
「わかりませんじゃないでしょう! 説明しなさい、説明!」
「……変わんないなぁ、アイゼルは」
あまりに懐かしい友人とのやり取りに、思わず苦笑するエリー。
対してアイゼルは完全にテンパっていた。
「なんで! 私が! ていうかあなたも! 子供になっているんですか!?」
「知りません。わかりません。気がついたらこうなっていました」
「なんの答えにもなっていないじゃない!」
「だって本当にそうなんだから、しょうがないでしょう」
「なんで! そんなに! 落ち着いているのよ!」
「そりゃあ……錬金術士だし?」
「ああ、もう……」
錬金術士だから、という文言に思わず頷いてしまう、というかできてしまう自分に頭を抱えるアイゼル。
さもあらん。
「……わかった。マリーさんね? マリーさんが関わっているんでしょう? こういう変なことするのはヘルミーナ師匠を除けば、あの人ぐらいだし」
「言いがかりだー!」
バンッ! と隣の部屋から出てくるマリー。
「マリーさん!? あなたも小さく!?」
「人が聞いていれば言いたいこと言ってくれるじゃぁないか、この小娘!」
「ああ、ええと……」
「あたしが作った賢者の石は何ともなかったんだから、原因はあんたたちだろう!?」
「わ、私が何をしたって言うんですか!?」
「知るか、そんなこと!」
ぷんぷんとした様子で怒るマリー。
「まあまあ……」
その後ろから出てくるトトリ。
「あ、あら? 知らない子が……」
「あー……ええと。初めまして。トトゥーリア・ヘルモルトと言います」
「あ、ああ、初めまして。アイゼル・ワイマールです」
「あれ? フーバーでなくていいの?」
「夫の籍は工房にいる時だけよ。一応、私は貴族家の先代当主だもの」
「ああ、なるほど」
そういや気にしたことなかったなぁ、とエリーは思う。
「ええと……それでですね、アイゼルさん」
「なに?」
「あなたを生み出したの、多分わたしです……」
「ええええ!?」
トトリの申し訳なさそうな声に、アイゼルの悲鳴のような声が上書きされた。
まあ当然ですけど、アイゼルはノルディスと一緒になった仮定です。
ちなみに私はアイゼル様同盟の関係者ではありません(笑)