心読みの逆転探偵録 カイジVS名探偵コナン   作:梅酒24

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ファイル5:アイドル密室殺人事件 中編

毛利探偵事務所――。

 

その日も平和……とは程遠い、いつも通りの光景が広がっていた。

 

テレビの前で、だらしなく寝転ぶ中年男性。

 

毛利小五郎である。

 

画面に映るのは、人気絶頂のアイドル――沖野ヨーコ。

 

その瞬間。

 

小五郎、覚醒。

 

「ゴーゴーレッツゴー!レッツゴーヨーコォ!!」

 

全力。

 

年齢不詳のテンション。

 

もはや別人。

 

その様子を横目に、冷静すぎる少年の心の声。

 

(まったく……いい歳こいて……ダメな大人の見本だな……)

 

――その通りである。

 

ちなみに補足しておくと、この沖野ヨーコ。

 

小五郎が“人生をかけて推している”唯一のアイドルである。

 

事務所の壁にはポスター。

 

机の中には切り抜き。

 

もはや信者。

 

そんな熱狂の最中――

 

ピンポーン。

 

チャイムが鳴る。

 

「はい毛利探偵事務所〜……本日閉店……依頼なら明日……出直して……」

 

いつもの雑対応。

 

しかし――

 

ドアの向こうの人物を見た瞬間。

 

時が止まる。

 

「……あなた……まさか……」

 

震える声。

 

目を見開く。

 

「沖野ヨーコォォォォ!!!?」

 

叫び。

 

確信。

 

暴走。

 

呼び捨て。

 

やめなさい。

 

その声に反応して、奥から蘭とコナンが顔を出す。

 

次の瞬間――

 

小五郎、消える。

 

猛スピードで部屋の奥へ。

 

ドタバタ。

 

ガシャーン。

 

バタン。

 

約2秒。

 

そして――

 

再登場。

 

別人。

 

髪、セット済み。

 

ヒゲ、整備完了。

 

スーツ、完璧。

 

手にはバラ一輪。

 

背後には謎のキラキラエフェクト。

 

どこから出した。

 

「なにかお困りのようですな、お嬢さん」

 

――決まった。

 

いや決まってない。

 

ヨーコの相談は、こうだ。

 

・家に帰ると家具の位置が変わっている

・自分を隠し撮りした写真が送られてくる

・毎日、無言電話がかかってくる

 

つまり――

 

“誰かに監視されているかもしれない”

 

という恐怖。

 

「ヨーコさんになんてことを!!」

 

激昂する小五郎。

 

早い。

 

感情が。

 

対して、

 

「できれば内密に調査を……」

 

冷静な男が一人。

 

ヨーコのマネージャー――山岸 栄。

 

この時点で気づくべきである。

 

探偵よりマネージャーの方が落ち着いているという事実に。

 

「……あんた誰?」

 

――今さら。

 

気づくの遅すぎ問題。

 

名刺を差し出す山岸。

 

そこにはしっかりと書かれている。

 

“沖野ヨーコ担当マネージャー”

 

完全に関係者。

 

むしろメイン。

 

そんなやり取りを経て――

 

現場へ向かう一同。

 

ヨーコの自宅。

 

高層マンション。

 

静かな廊下。

 

そして――

 

扉を開けた、その瞬間。

 

空気が変わる。

 

違和感。

 

沈黙。

 

そして――

 

目の前には、明らかに“作られた事件”。

 

鑑識の人たちが現場を調べ終え、結論が出る。

 

「死因は背中に刺さっているこの包丁……間違いないでしょう」

 

やっぱり。

 

そして――

 

「この包丁は……この部屋のものですね」

 

つまり、凶器はヨーコさんのもの。

 

状況はどんどん彼女に不利になっていく。

 

「ヨーコさん、この男性に見覚えは?」

 

目暮警部の問いに、

 

「……近くで見ないと……」

 

ヨーコさんと山岸さんが、ゆっくりと遺体に近づく。

 

その瞬間――

 

「うわっ!」

 

山岸さんが足を滑らせ、派手に転んだ。

 

血で滑った……ように見える。

 

でも――

 

(違う……)

 

その一瞬。

 

ほんの一瞬だけど、確かに見えた。

 

山岸さんの手が――

 

“何かを抜き取った”。

 

(今の動き……不自然すぎる……!)

 

周りは誰も気づいていない。

 

でも、僕は見逃さない。

 

「……見覚えは……ありません……」

 

震えた声。

 

明らかに不自然。

 

ヨーコさんも頷く。

 

でも――

 

(この2人……何か隠してる……)

 

空気が違う。

 

明らかに“知っている人間の反応”。

 

その直後――

 

山岸さんがさりげなくポケットに手を入れ、

 

何かを落とした。

 

(今だ……!)

 

僕はすぐにその場所へ向かう。

 

拾い上げる。

 

それは――

 

長い髪の毛。

 

女性のものだ。

 

(なんでこれを隠した……?)

 

嫌な予感が走る。

 

「……まさか……」

 

(犯人は……ヨーコさん……?)

 

一気に疑いが向く。

 

案の定――

 

「密室状態……そして凶器はこの部屋のもの……」

 

目暮警部が静かに言う。

 

「となると……この部屋の主であるヨーコさんが……」

 

疑いは深まる。

 

「ち、違います!!」

 

ヨーコさんは必死に否定する。

 

その横で――

 

「ふざけるな!!」

 

小五郎のおっちゃん、再び爆発。

 

「ヨーコちゃんが犯人なわけねえだろ!!」

 

完全に感情論。

 

止まらない。

 

(ちゃんと考えてくれよ、おっちゃん……)

 

僕は内心でツッコむ。

 

「普通……合鍵とかあるんじゃねーのか?」

 

僕が口を挟むと、

 

山岸さんが反応する。

 

「え、ええ……合鍵は持っていましたが……」

 

その瞬間――

 

ガシッ!!

 

「お前かああああ!!」

 

小五郎のおっちゃん、胸ぐらを掴む。

 

早い。

 

短気すぎる。

 

「ヨーコさんに振られた腹いせにやったんだろ!!」

 

決めつけ。

 

完全に決めつけ。

 

(飛躍しすぎだろ……)

 

現場はカオス。

 

一方で目暮警部は冷静だ。

 

「では毛利君、彼女が犯人ではない証拠は?」

 

その問いに対して――

 

「こんなに可愛くて可憐なヨーコちゃんが犯人なわけねえ!!」

 

――終了。

 

(ダメだこの人……)

 

完全に論理崩壊。

 

現状の整理としては――

 

・小五郎 → 山岸を疑う

・目暮警部 → ヨーコを疑う

 

真っ二つ。

 

そんな中、

 

山岸さんが口を開く。

 

「合鍵を持っていたのは事実ですが……実は2、3日前にテレビ局の楽屋で失くしてしまって……」

 

(は!?)

 

(管理ガバガバすぎるだろ……)

 

しかも――

 

「ヨーコもそのことは知っています」

 

(いやいやいや……)

 

(それ放置するのはまずいって……)

 

ツッコミどころ満載。

 

でも――

 

今はそれどころじゃない。

 

(まだ何か足りない……)

 

この事件、

 

決定的なピースが欠けている。

 

僕は部屋を見渡す。

 

細かく、丁寧に。

 

違和感を探す。

 

(どこだ……)

 

(何が足りない……)

 

そのとき――

 

視界の端に、何かが光る。

 

ソファの下。

 

しゃがみ込む。

 

手を伸ばす。

 

掴む。

 

それは――

 

イヤリング。

 

(これは……!)

 

“死体”。

 

見知らぬ男が、部屋の中で倒れていた。

 

――最悪の展開。

 

すぐさま警察へ通報。

 

やって来たのはおなじみ――目暮警部。

 

現場を一目見て、状況を整理する。

 

・外部侵入の痕跡なし

・部屋は施錠状態

・被害者は不明の男

 

導き出される結論は一つ。

 

「密室殺人……そして……」

 

一拍。

 

空気が張り詰める。

 

「第一発見者であり、この部屋の住人――沖野ヨーコさん、あなたを容疑者と見ます」

 

――断定。

 

早い。

 

あまりにも早い。

 

その瞬間。

 

「ふざけるなあああああああ!!!」

 

爆発。

 

毛利小五郎。

 

「ヨーコちゃんが犯人なわけねえだろ!!!」

 

完全に感情論。

 

だが止まらない。

 

「この子が人を殺す!?ありえねえ!!」

 

「毛利さん、落ち着いてください。状況から見て――」

 

「状況だぁ!?そんなもん知らねえ!!」

 

会話にならない。

 

完全にファン。

 

「根拠はあるのか!?ヨーコちゃんがやったっていう“証拠”は!!」

 

「密室です。外部犯の可能性が低い以上――」

 

「低いだけだろうが!!ゼロじゃねえ!!」

 

強引。

 

だが鋭い。

 

「第一!ヨーコちゃんには動機がねえ!!」

 

「それはこれから調べます」

 

「調べる前に犯人扱いしてんじゃねえ!!」

 

――言葉のラリー。

 

感情 vs 論理。

 

警察 vs ファン。

 

しかし――

 

この異様な応酬の中で、

 

ただ一人。

 

冷静に現場を見ている者がいた。

 

小さな探偵。

 

江戸川コナン。

 

(……おかしい……)

 

事件は、すでに動き始めていた。

 

***

 

僕の名前は江戸川コナン。

 

見た目は子ども、頭脳は大人……と言いたいところだけど、実際はちょっと事情があって小学生の姿になってるだけの高校生探偵だ。

 

まあ、その話は長くなるから今は置いておこう。

 

それより――

 

この部屋、何かおかしい。

 

現場に入った瞬間から感じていた違和感。

 

空気が、重い。

 

そして――暑い。

 

「……警部、この部屋……ちょっと暑すぎませんか?」

 

目暮警部も同じことに気づいたらしい。

 

「うむ……ヨーコさん、いつもこんなに暖房を?」

 

問いかけると、ヨーコさんは首を横に振った。

 

「いえ……出かける前にはちゃんと切ったはずです」

 

――やっぱり。

 

この異常な室温は“意図的”。

 

偶然じゃない。

 

(となると……死亡推定時刻を狂わせるため……?)

 

頭の中でピースが動き始める。

 

そのとき、もう一つの違和感。

 

僕はしゃがみ込み、床をよく見る。

 

ルーペを取り出して――観察。

 

(……ある……)

 

ほんのわずかだけど、確かに残っている。

 

「妙なのはそれだけじゃないですよ警部」

 

つい、口に出る。

 

「あ?」

 

「死体の周り……わずかですが濡れた跡があります」

 

床に残る水分。

 

乾きかけの痕跡。

 

つまりこれは――

 

(何かを使って、意図的に作られた状況……?)

 

「そしてこの椅子――」

 

視線を移す。

 

部屋は荒らされているのに、

 

その椅子だけが、きちんと立っている。

 

「この状況でこれだけが無事なのは不自然です。それにこの異常な室温……」

 

推理が、形になっていく。

 

「死亡推定時刻を狂わせるための工作……?」

 

――そこまで言った瞬間。

 

ドンッ!!

 

「コナンッ!!!」

 

視界が揺れる。

 

小五郎のおっちゃんと目暮警部が、すごい勢いで詰め寄ってきた。

 

「ガキが勝手に捜査に口出すんじゃねえ!!」

 

「そ、そうだぞコナン君!!危ないから下がっていなさい!」

 

(やっぱり来たか……)

 

内心でため息。

 

こうなるのは分かってた。

 

でも止まらないんだよな……推理は。

 

「え、えへへ……」

 

とりあえず乾いた笑いでごまかす。

 

そして――

 

 

当然――

 

ゴンッ!!!

 

「いってえええええ!!」

 

小五郎のゲンコツ、直撃。

 

星が見える。

 

(くそ……毎回これだ……)

 

でも――

 

確信は深まっている。

 

この事件、

 

ただの密室殺人じゃない。

 

誰かが“作った密室”。

 

そしてそのために――

 

部屋を暑くし、水を使い、状況を操作した。

 

(トリックはもうすぐ見える……)

 

僕は痛む頭を押さえながら、

 

静かに現場を見つめ続けた。

 

そして今――

 

事件の“ピース”は、かなり揃ってきている。

 

ヨーコさんが拾ったイヤリングを見て、静かに言った。

 

「それ……池沢ゆう子のものです」

 

(やっぱり……)

 

名前が出た瞬間、空気が変わる。

 

「同期デビューで……同じドラマの主演を争って……結局、ヨーコが選ばれたんです」

 

山岸さんが補足する。

 

「それで恨んでいた……と」

 

動機としては、十分すぎる。

 

それを聞いた瞬間――

 

「分かったぞおおおおお!!!」

 

小五郎のおっちゃん、覚醒(勘違い)。

 

「犯人は池沢ゆう子だ!!すぐ捕まえろー!!」

 

(いや早いって……)

 

証拠一つで即断。

 

相変わらずだ。

 

でも――

 

(違う……)

 

僕の中では、まだ何かが引っかかっている。

 

山岸さんのあの不自然な動き。

 

隠した髪の毛。

 

異常な室温。

 

濡れた床。

 

そして、このイヤリング。

 

(駒は揃った……)

 

(あとは――どう組み立てるか……)

 

頭の中で情報を並べ替える。

 

すると――

 

タイミングよく現れた。

 

「お呼びだって?」

 

池沢ゆう子。

 

派手な服装、強気な態度。

 

いかにも“昔の売れっ子芸能人”って感じだ。

 

部屋に入るなり、言い放つ。

 

「ヨーコの部屋で事件が起きたんでしょ?ならヨーコを疑うのが普通じゃない?」

 

(開き直り……?)

 

いや、それだけじゃない。

 

妙に落ち着いている。

 

「私は“今初めて”ここに来たの。関係ないわ」

 

完全否定。

 

一切ブレない。

 

小五郎のおっちゃんがすぐに食いつく。

 

「じゃあこのイヤリングはなんだ!?」

 

ゆう子はそれを見て――

 

「あら、それ私のね。無くしたと思ってたけど、見つけてくれてありがとう」

 

軽い。

 

あまりにも軽い。

 

(普通……そんな反応するか……?)

 

さらに追及。

 

「管理人があんたに似た人物を見たって証言してるぞ!」

 

すると――

 

「似た人は似た人でしょ?」

 

飄々。

 

まったく動じない。

 

(……おかしい)

 

何かがズレている。

 

そんな中――

 

ゆう子はヨーコさんに向かって、ニヤリと笑う。

 

「イヤリングひとつで犯人扱い?私忙しいのよ?」

 

そして――

 

「まあ、人気ナンバーワンのヨーコさんほどじゃないけどねぇ」

 

(嫌味きたな……)

 

さらに追撃。

 

「でもこれがマスコミに知れたら?イメージ急降下よ?」

 

「アタシ以上に暇になるかもね!」

 

高笑い。

 

完全に煽っている。

 

(性格は最悪だけど……)

 

(犯人かどうかは別問題だ……)

 

そのまま、

 

「トイレ借りるわ」

 

と言って、スタスタと歩き出す。

 

その後ろ姿――

 

僕は思わず目を細めた。

 

(……似てる)

 

ヨーコさんと――

 

後ろ姿が、そっくりだ。

 

(体型、髪の長さ、シルエット……)

 

(見間違えてもおかしくないレベル……)

 

そして――

 

もう一つの違和感。

 

(あの人……どうして迷わずトイレの場所が分かったんだ……?)

 

“初めて来た”はずなのに。

 

迷いがない。

 

一直線。

 

(……おかしい)

 

確信に変わる。

 

(そうか……そういうことか……!)

 

トリックが、見えた。

 

僕はすぐに動く。

 

「ねえおじさん!」

 

小五郎のおっちゃんに声をかける。

 

「さっきの話なんだけど――」

 

「うるせえ!!ガキは黙ってろ!!」

 

即遮断。

 

(だよな……)

 

でも止まらない。

 

「でもこれ――」

 

「コナン君、危ないから下がってなさい!」

 

目暮警部まで参戦。

 

完全封鎖。

 

(くそ……!)

 

(このままだと……間違った方向に進む……!)

 

真実はもうすぐそこなのに、

 

届かない。

 

僕は歯を食いしばりながら、

 

次の手を考え始めた。

 

(どうやって気づかせる……?)

 

僕は動けなかった。

 

真実は見えているのに――

 

大人たちに届かない。

 

「もう少しで……」

 

そのときだった。

 

「コナンくん」

 

振り返る間もなく、

 

ふわっと――

 

背中に柔らかい感触。

 

蘭が、後ろから抱きしめてきた。

 

「捜査の邪魔しちゃダメでしょ?」

 

優しい声。

 

でも――

 

そのあと、少しだけ寂しそうに続ける。

 

「でも……新一ならきっと、こんな事件簡単に解いちゃうんだろうな……」

 

ドクン――

 

心臓が跳ねる。

 

「どこ行っちゃったんだろうね……あの推理オタク」

 

(蘭……)

 

近い。

 

近すぎる。

 

(ちょっ……ちょっと待て!!)

 

頭が真っ白になる。

 

事件どころじゃない。

 

顔が一気に熱くなる。

 

「き、きっとすぐ戻ってくる!!」

 

思わず振りほどいて叫ぶ。

 

蘭が少し驚いた顔をする。

 

「……え?」

 

(やべ……)

 

(今の……完全に新一目線だった……)

 

でも――

 

今はそれどころじゃない。

 

事件に戻る。

 

ちょうどそのタイミングで、

 

ゆう子がトイレから戻ってきた。

 

「だから言ってるでしょ!ここには来たことないって!」

 

明らかにイライラしている。

 

そしてポケットからタバコを取り出す。

 

(こんな現場で……)

 

火をつけようとして――

 

手に取ったのは、

 

棚に置いてあったオブジェ。

 

自由の女神の形をした置物。

 

それを迷いなく使って――

 

カチッ。

 

火がついた。

 

(……!!)

 

違和感が確信に変わる。

 

僕はゆっくりと近づき、

 

わざと子どもっぽい声で言う。

 

「へぇ〜変わってるライターだね!」

 

ゆう子の動きが止まる。

 

「お姉ちゃん、ここ初めて来たのに……よくライターだって分かったね?」

 

一瞬の沈黙。

 

そして――

 

ハッとした顔。

 

口からタバコが落ちる。

 

(ビンゴだ……)

 

周囲の空気が変わる。

 

目暮警部が鋭く聞く。

 

「どういうことですかな?」

 

ゆう子は一瞬だけ言葉に詰まり、

 

「……知り合いの家に、たまたま同じものがあって……」

 

弱い。

 

明らかに苦しい言い訳。

 

「その知り合いとは誰ですか?」

 

さらに追撃。

 

完全に詰まり始める。

 

(まだ足りない……もう一押し……!)

 

僕は畳みかける。

 

わざとらしく、

 

全員に聞こえるように。

 

「ねえ蘭姉ちゃん、トイレどこ?」

 

「ここ初めてだから分かんないや!」

 

その言葉に――

 

小五郎のおっちゃんが反応する。

 

「……待て」

 

ゆっくりと振り返る。

 

「そういえば……さっきお前……」

 

空気が張り詰める。

 

「迷わずトイレに行ってたよな?」

 

ゆう子の表情が固まる。

 

「ここ初めて来たんじゃなかったのか?」

 

完全にロックオン。

 

小五郎のおっちゃんの目が変わる。

 

「つまりお前は――」

 

「ヨーコさんの部屋を前から知っていたってことだ!!」

 

一気に詰める。

 

逃げ場はない。

 

さらに畳みかける。

 

「ヨーコさんにスキャンダルを起こさせるために……この部屋で殺人を犯したんじゃないのか!?」

 

決定打。

 

空気が凍る。

 

ゆう子の表情が――

 

崩れた。

 

(これで……終わりだ)

 

僕は静かに確信する。

おかしい。

 

確実に怪しい点は揃っているのに――

 

「決定打がない……」

 

僕は現場を見渡しながら、歯を噛みしめる。

 

ゆう子の不自然な行動。

 

山岸さんの隠蔽。

 

ヨーコさんの違和感。

 

(なのに……誰が犯人だと断定できない……)

 

時間だけが過ぎていく。

 

焦りが募る。

 

そのとき――

 

「よし……うそ発見器を使おう」

 

目暮警部の一声。

 

(うそ発見器……?)

 

半ば強引な打開策。

 

でも、今はそれに頼るしかない。

 

同時に、

 

鑑識が侵入者の痕跡を追っている。

 

現場は二つの流れで動き始めた。

 

――心理と物証。

 

まずは、うそ発見器。

 

対象は三人。

 

ヨーコさん。

 

山岸さん。

 

そして、ゆう子。

 

結果は――

 

「……三人とも、犯人ではない可能性が高い」

 

(なに……!?)

 

一気に振り出しに戻る。

 

(じゃあ……誰が……)

 

その瞬間――

 

「警部!」

 

高木刑事が駆け込んでくる。

 

「鑑識の結果が出ました!」

 

全員の視線が集まる。

 

「この部屋から……三人以外の毛髪が発見されました」

 

(第三の人物……!)

 

「特に――ベッドの上から多く見つかっています」

 

ベッド。

 

つまり――

 

侵入者はそこにいた。

 

「特徴は……長い黒髪」

 

ヨーコさんの髪は茶色。

 

一致しない。

 

「ヨーコさん、この人物に心当たりは?」

 

「……いえ……」

 

「誰かを泊めたことは?」

 

「ありません……」

 

山岸さんも首を振る。

 

ゆう子も当然否定。

 

(じゃあ……誰だ……?)

 

現場の空気が変わる。

 

一気に“見えない犯人”へと向かう。

 

さらに――

 

「死亡推定時刻が出ました!」

 

時刻が読み上げられる。

 

そして――

 

全員のアリバイ確認。

 

ヨーコさん……あり。

 

山岸さん……あり。

 

ゆう子……あり。

 

(……詰んだ)

 

完全に三人はシロ。

 

残るは――

 

「第四の人物だけだな……」

 

目暮警部が呟く。

 

そのとき――

 

追い打ち。

 

「さらに指紋も検出されました!」

 

高木刑事が続ける。

 

「この指紋……おそらく男のものです!」

 

(男……?)

 

長い黒髪で、

 

男。

 

その瞬間――

 

場の空気が一斉に動いた。

 

誰もが、

 

“ある人物”を思い浮かべる。

 

(まさか……)

 

僕の中でも名前が浮かぶ。

 

同時に――

 

ヨーコさんが、ゆっくりと口を開いた。

 

「……一人だけ……います」

 

全員が振り向く。

 

「以前……この部屋に入れたことがある人が……」

 

(やめろ……)

 

嫌な予感が走る。

 

「名前は……」

 

一瞬の静寂。

 

そして――

 

「伊藤カイジさん……です」

 

――ざわっ

 

空気が一変する。

 

「すぐに手配しろ!!」

 

目暮警部の号令。

 

「伊藤カイジを緊急指名手配だ!!」

 

(……最悪だ)

 

僕は目を閉じる。

 

(違う……)

 

(これは……違う)

 

でも――

 

証拠は揃っているように見える。

 

黒髪、長髪、男。

 

部屋に入ったことがある。

 

指紋。

 

毛髪。

 

(完全に……ハマってる……)

 

僕は確信する。

 

これは――

 

“仕組まれた構図”だ。

 

(誰かが……意図的にカイジさんを犯人にしている……!)

 

真実は、まだ奥にある。

 

でも時間がない。

 

(急がないと……)

 

(このままだと、本当にカイジさんが犯人にされる……!)

 

僕は走り出した。

 

真実を暴くために――。

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