俺は最近――
“安全地帯”を見つけた。
それが、図書館。
静か。
空調完璧。
椅子、柔らかい。
(ここだ……)
本を数冊重ねて枕代わりにする。
ほんのり紙の匂い。
適温の空気。
(最高……)
「図書館なら事件は起きねえ」
(巻き込まれねえ……)
(俺の安らぎ……!!)
……だったはずなんだが。
「カイジお兄さん、今日は何読むの?」
(……いるんだよなあ)
少年探偵団。
この間の“ノーカン事件”。
あの約束。
(完全に口約束だったのに……)
(なんで実行されてんだ……)
結果――
“お守り役”。
(しかもこれ……普通にリスク高い……!!)
思い出す。
あの地獄。
――1回目。
「ちょっと君」
(来た……職質……)
「その子たち、どういう関係かな?」
(やっぱそうなるよな……!!)
「いや、俺はただの……」
(言い方ミスると終わる……)
「保護者ではないよね?」
(やめろその言い方……!!)
「違う!約束で……いや違うな……」
(やべえ説明が難しすぎる……!!)
「つまりどういうことだ?」
(論理組め……落ち着け……!!)
「俺はこの子たちと俺の露出事件を通じて信頼関係を築き――」
「俺の露出??つまり知り合いでもない小学生を連れ回していると?」
(言い方ァ!!)
(だめだ……論点ずらす……!!)
「警官さん、あなたは“危険性”で判断してますよね?」
「当然だ」
「じゃあ聞きます。この子たちが“嫌がっている”ように見えますか?」
沈黙。
「……いや」
「俺は危険人物ですか?」
(ここ勝負……!!)
「……判断が難しいな」
(よし……押せ……!!)
「危険ならこの子たちは離れます。でも離れてない。それが答えです」
ざわ……
「……今回はいいだろう」
(勝ち……!!)
――これを4回。
(地獄かよ……)
2回目はもっと詰められ。
3回目は完全に犯人扱い。
4回目は“またお前か”って顔された。
(俺……顔でアウトなんだよな……)
見た目。
職業。
雰囲気。
(社会的不適合者フルコンボ……)
だから――
「ということで、図書館だ」
「わー静か!」
「本いっぱい!」
「すごいです!」
(ここなら……警察来ねえ……!!)
完璧な選択。
「カイジお兄さん、ここで寝るの?」
「寝る」
(即答)
「えー読まないの?」
「読む前に寝る」
(本は枕だ……)
「それ図書館の使い方違うと思うなあ」
光彦が冷静に突っ込む。
「いいんだよ……静かにしてりゃ……」
(ここは平和……)
「でもさー事件起きないとつまんねえな」
(やめろ元太……!!)
「そうだよ!この前みたいなのまたやりたい!」
(やめろ歩美ちゃん……!!)
「いや、図書館で事件は起きないから安心だよ」
コナンが静かに言う。
(ナイス……!!)
「そうかあ……」
少し残念そうな空気。
(よし……このまま平穏……)
本に顔を埋める。
意識が沈む。
(ここが……俺の……)
――安らぎ。
……数分後。
――パトカーのサイレン。
静かな図書館の前に、異物みたいに響く。
全員で図書館前へ。
(……またかよ)
降りてくるのはいつもの二人。
目暮警部と高木刑事。
「カイジ……お前もいるのか……」
(その第一声やめろ……!!)
「警部、それ偏見っすよ」
(いやまあ、今までの流れ的にしゃーないけど……)
今回の件は――
図書館職員、玉田が行方不明。
(失踪……?)
(図書館で……?)
「カイジお兄さん!」
振り向くと、少年探偵団。
「コナンが言ってたんだ!カイジお兄さんがいれば事件解決できるって!」
(やめろそのハードル……!!)
コナンは無言でニヤッとする。
(こいつ……完全に面白がってやがる……)
「とりあえず、事情を聞く」
目暮警部が低い声で言う。
館長――津川。
「玉田君が?いやあ……困りましたねぇ……」
(……軽いな)
(部下が消えてるのに……この反応……)
「最後に見たのは?」
「さあ……閉館間際だったと思いますが……」
(曖昧すぎる……)
その後、なぜか雑談。
「図書館っていいですよね!」
「静かで落ち着きます!」
「でも腹減ったな!」
(元太ブレねえな……)
そのとき。
(……ん?)
視界の端に映る。
津川館長。
段ボール箱を抱えて、エレベーターへ。
(このタイミングで……?)
(何運んでる……?)
嫌な予感。
「ちょっと行ってくる」
俺は歩き出す。
「俺も行くよ」
コナン。
(来るよな……)
エレベーターの前。
扉が開く。
中に乗る津川。
(よし……様子見るか)
俺も乗る。
その瞬間――
「待ってー!」
ドタドタドタ!
少年探偵団、全員突入。
(おいおいおい……)
狭い空間。
密集。
妙な圧迫感。
ピンポーン
ブザー音。
「あれ?」
元太が首をかしげる。
「5人乗りって書いてあるぞ?」
(数えろ……嫌な予感しかしねえ……)
「えーっと……津川館長、カイジさん、コナン、歩美、光彦で5人ちょうどじゃん」
(……は?)
一瞬の静寂。
「元太、お前で6人目だよ」
コナンの即ツッコミ。
「え?」
(気づいてなかったのかよ……!!)
ブザーは鳴り続ける。
ピーピーピー……
(なんだこの空気……)
狭い。
暑い。
妙に息苦しい。
(しかも……)
チラッと横を見る。
津川館長。
無表情。
(さっきより……近くないか……?)
(なんか……おかしい……)
段ボール。
微かに、音。
ゴトッ……
(……今の何だ?)
一瞬、全員が黙る。
ピーピーピー……
鳴り続けるブザー。
狭い箱。逃げ場なし。
その中で――
(ちっ……早く運びたいのに……玉田を殺して、麻薬も隠して……忙しいときに)
――は?
一瞬、思考が止まる。
あっ……この館長……
行方不明の玉田を殺している……麻薬も……
(やべえええええええええええ!!!!)
「ふざけんな!!」
気づいたときには叫んでいた。
「カイジさんどうしたの?」
歩美ちゃんの無垢な声。
(しまった……!!)
やべえ……心の声に反応しちまった……
ごまかせ……ごまかせ……!!
「なんでエレベーターがブザーなるんだよ!!」
「それは今6人乗ってるからってコナン君が」
「お前ら子供!その館長の荷物含めても大人1人分……余裕あるだろ!!」
ざわ……ざわ……
(そうだ俺、子供だった!!)
思わずコナンを見る。
(お前、どう見ても子供だろ……!!)
――違う、今そこじゃない。
(落ち着け……本質……)
胸の奥で何かが叫んでいる。
(こいつを見逃すな……!!)
(絶対に……見逃したら終わる……!!)
頭の中に浮かぶ未来。
事件発覚
→目撃証言
→「怪しい男がいた」
→伊藤カイジ
(見える……完全に見える……!!)
しかも――
(俺……最近ここで寝てて……)
(職員と口論……)
(昨日……突き飛ばした……)
(まさか……)
(それが玉田……?)
(いや……職員は60人いる……60分の1……引くな……引くな……!!)
ぐにゃあああああ……
思考が歪む。
(でも……)
(ここでこいつを捕まえれば……)
(全部消える……!!)
(俺が犯人になる未来……消せる……!!)
覚悟が決まる。
「おかしいんだよ……それに今変な音もした……なぁ」
空気がピリつく。
(なんだ……こいつ……今麻薬を運んでいる……しかも、大人一人分足りないことにも気付きやがった)
(え……?)
(こいつ……俺のこと……警戒してる……?)
背筋が凍る。
「お前、何か知っているんじゃないか?」
圧。
逃げ場なし。
(でも引けねえ……!!)
「なんのことだ……?」
(死体はエレベーターの上に乗せて隠している……バレてはいけない)
――確定。
(黒……!!)
心臓が爆発しそうになる。
(いけ……今だ……!!)
「おい、館長!!」
全員の視線が刺さる。
「エレベーターの上に死体隠しているだろ……」
沈黙。
「行方不明になった職員を」
ピーピーピー……
ブザーだけが鳴り続ける。
(言った……)
(もう……戻れねえ……!!)
館長の表情がゆっくりと崩れる。
(来る……)
(ここからが本番……!!)
殺人犯。
そして――俺。
カイジ、
自分の“未来”を守るための一手を打つ……!!
ざわ……ざわ……
(え、確かに……ありえる……)
空気が一変する。
(カイジさん……ブザー音の異変と何かの異音、そしてさっきの警部の情報から繋げた……でも筋が通る……)
(いやこの人いつもそうだ……細かい部分から解決していく才能がある)
(……え?俺そんな風に見られてんの?)
内心は冷や汗ダラダラ。
でも表面は――
「え?いや……」
館長の声がわずかに震える。
「どうなんだ??ありえるだろ」
俺は押す。止まらない。止まれない。
(ここで引いたら終わりだ……!!)
「だったら調べてみたらどうかな?」
コナンの一言。
(ナイス……!!)
そして――
結果。
死体、発見。
エレベーター上部。
(……マジであった……)
ざわ……ざわ……
館内騒然。
すぐに呼ばれる警察。
目暮警部と高木刑事が駆けつける。
現在19時。
関係者以外は全員退館。
(ここからは警察の時間か……)
鑑識が入り、現場は一気に“事件”になる。
その裏で――
「カイジさんすごぉい!!」と歩美。
「いやぁ。噂には聞いてましたが、すごい推理です」と光彦。
(やめろ……持ち上げるな……)
(さっきまで死ぬ未来見えてた男だぞ……!!)
「おい、コナン。あのブザーで気付けないとかまだまだだな」と元太。
「どあほぉ。あれで気付くのはふつう無理だろ。カイジ兄さんだからできたんだよ」
(フォローきたああああああ!!)
「で、次に犯人は誰かってことですね?」
光彦の鋭い視線。
(……来たな)
「それは問題じゃない」
「カイジ兄さんどういうこと?」
「ああ」
(……どうする)
(あいつの心……聞いた……)
「犯人は館長」
一瞬の静寂。
「ただ、おそらく館長は麻薬の取引を斡旋している……それを見つけないと」
ざわ……
(はっ……もう犯人特定……)
(いや、確かに館長は怪しいと俺も思った……)
(適当発言?……いや違う……)
(目を見れば分かる……確信している……)
コナンがじっとこちらを見る。
「なんで麻薬の取引だと?」
(やべえ……)
(さすがに“心読んだ”は言えねえ……)
(ここは――ハッタリ!!)
「館長の袖にわずかだが白い粉がついていた」
(嘘じゃない……“それっぽい真実”)
「で警察に通報したタイミングで段ボール箱をどこかに運んだ……おかしいだろ」
(どうだ……!!)
一瞬の沈黙。
(確かに……そうだ……)
(ちっ。俺、推理で負けているじゃねえか)
(そんな些細なこと館長が犯人だと思ってないと注意深く見ないぞ……)
(いや……カイジさんはエレベーターの中でもう確信したんだ)
(短いやりとりでそれで注意深く確認していた……)
(くそ、親父レベルの推理力か)
(親父?)
(……誰のことだよ)
でも――
(勝った)
(今回は完全に……俺の流れ……!!)
胸の奥でじわじわ広がる優越感。
(見える……)
(無実ルート……生存ルート……!!)
カイジ――
“偶然”と“能力”を武器に、真実へと踏み込む……!!
「そこで――少年探偵団のみんなに麻薬の隠し場所を探して欲しい」
一瞬、場が止まる。
「俺、探し物とか苦手で」
(マジで苦手なんだよ……!!)
心の中で叫ぶ。
(俺はただのハッタリ野郎……!!)
(心読めるだけ……それだけなんだ……!!)
館長は今、目暮警部に囲まれて事情聴取中。
(つまり……心読めねえ)
(詰みだろ普通……)
(だから――)
(託すしかねえ……!!)
少年探偵団に。
俺は視線を向ける。
(頼む……マジで頼む……)
(ここ外したら全部終わる……)
そのとき――
(カイジさんの目……)
(これ俺たちに本当に期待している目だ……)
(適当にあしらってない……)
(いや……違う)
(カイジさんの頭脳なら見つけられるはず……)
(そうか……俺たちを育てようとしている……?)
(それか……試されている……?)
(だったら――)
元太が拳を握る。
「なぁ!お前ら!!」
「カイジ兄さんに少年探偵団の凄さ見せつけてやろうぜ!!」
「おー!!」
(おいおい……)
(完全にいい話になってるじゃねえか……)
(違うんだ……俺はただ探せないだけなんだ……!!)
でも――
(結果オーライ……!!)
館内を駆ける子供たち。
その中で、コナンだけは静かに立ち止まる。
(……妙だな)
(館長は段ボールを運んでいた……)
(でも麻薬をそんな分かりやすく置くか……?)
視線が本棚へ。
(この図書館……やたら本の並びが雑すぎる……)
一冊、引き抜く。
カタン……
(……軽い?)
さらに隣。
(いや……違う)
指先で触れる。
(隙間……?)
本と本の“間”。
その奥に――
もう一冊。
(……隠してる)
スッ――
引き抜く。
中がくり抜かれている。
そこに――
白い粉。
小分けされた袋。
(ビンゴ)
「見つけたよ」
コナンの一言。
全員が集まる。
「すげぇ!!」
「これが麻薬か!!」
(マジで見つけやがった……!!)
(こいつら……やべえな……)
一瞬だけ震える。
(助かった……)
(マジで……助かった……!!)
俺はすぐに動く。
「おい、それ触るな!!」
「え?」
「危ないからな……」
(子供に持たせるわけにいかねえ……)
俺は証拠品を回収。
ポケットへ。
(よし……これで証拠は確保……)
(あとは……警察に――)
一瞬、思考が止まる。
(……あれ?)
(俺……今……)
(麻薬……ポケットに……入れてる……?)
ざわ……
ざわ……
(やばくね?)
(状況だけ見たら……)
(完全に俺が所持してる奴じゃねえか……!!)
背筋に冷たい汗。
(またかよ……)
(またこのパターンかよ……!!)
(事件解決したのに……)
(犯人候補に逆戻り……!!)
カイジ――
“勝ったはずの状況”から、再び地獄へ引き戻される……!!
時計はすでに21時。
静まり返った図書館。
外は完全に夜。
目暮警部と高木刑事の事情聴取は続いている。
職員たちが一人ずつ呼ばれ、淡々と進む捜査。
その中で――
麻薬発見。
ざわ……ざわ……
空気が変わる。
(ちきしょー見つかってしまった……なら殺すしかない……)
――来た。
背筋に電流。
(殺す……?)
(こいつ……本気だ……!!)
館長の視線がこちらに向く。
(やばい……完全にターゲット……)
俺はすぐに顔を逸らしながら、ひそひそと小声。
「みんな聞いてくれ……」
4人が寄ってくる。
コナンも静かに耳を傾ける。
「今、館長が俺たちを見ていた……」
喉が渇く。
「殺気を感じた……これからお前らを逃がす……なんか危険な感じがする」
(マジか……)
(気付けてなかった……)
(カイジさん……そういう気配も分かる人なのか……)
(いや……俺も黒づくめのとき感じた……あれと同じか……)
コナンの目が鋭くなる。
(……確かにやばいな)
「だったら僕にいい考えがあるよ」
ひそひそ声。
そして――
俺たちは“あえて”堂々と部屋を出る。
自然に。普通に。
(気付くなよ……気付くなよ……)
その瞬間。
「――あれ?」
館長がひょっこり現れる。
(よおし……1人ずつ殺してあげるよ……今日は楽しい楽しいパーティだ)
(やっぱり来たあああああああああ!!)
心臓が跳ねる。
「あれ?まだいたのかい?事情聴取は終わっているよね」
笑っている。
でも――目が笑ってない。
(完全に殺しに来てる……!!)
「まーな、ちょっと調べものだ」
俺が前に出る。
(俺が引きつける……!!)
(その間に逃げろ……!!)
横目で確認。
歩美、光彦、元太――
エレベーターへ。
(よし……いいぞ……!!)
「というか保護者の君が連れて帰らなきゃ」
(来る……圧……!!)
「違うのおじさん、僕がね、カイジさんに付き合ってっていったの」
コナンが前に出る。
(ナイス……!!)
館長の視線がコナンに移る。
(今だ……!!)
俺は静かに離脱。
エレベーターへ滑り込む。
ボタンを押す。
1階。
カチッ。
(頼む……動け……!!)
「そうか、でも駄目だよ、帰らなきゃ」
ゆっくりとした声。
(まぁ、もう家へ二度と帰れないんだけどね)
――ゾワッ
(完全に殺す気だ……!!)
ドアが閉まる。
ギィィ……
館長の顔がスーッと遠ざかる。
ギィィ……
エレベーターがゆっくりと下降する。
静かだ。
静かすぎる。
(逃げた……?)
いや違う。
(あいつは来る……絶対に来る……)
半分ほど降りた、その瞬間――
ガンッ!!
「っ!?」
ドアの隙間から――影。
コナンが加速して、スライディングで滑り込んでくる。
「危ねぇ!!」
反射的に腕を伸ばす。
ガシッ――
(間に合った……!!)
そのまま引き寄せる。
「おい!無茶すんな!!」
息が荒いコナン。
でも目は冷静。
(チッ。一階へ先回りだ)
――来る。
(やっぱりか……!!)
頭の中に館長の動きが浮かぶ。
1階で待ち伏せ。
鉄パイプ。
殺意。
(だったら……)
俺は即座にボタンを押す。
1階――そして4階。
(フェイクだ……!!)
エレベーターはそのまま動く。
館長――
1階へ全力ダッシュ。
エレベーター前で待機。
鉄パイプを握る。
ガン……ガン……
(開け……開け……)
そして――
チン。
ドアが開く。
――誰もいない。
(は……?)
その頃、俺たちは――
4階。
(よし……引っかかった……!!)
(今のうちに……証拠……!!)
「いいか、お前ら……」
俺は低く言う。
「隙見て警部に知らせろ……」
3人が頷く。
(あとは俺が……)
「俺1人で行く」
「ダメだよ」
即答。
コナン。
(来た……このガキ……)
「ついてく」
(……チッ)
「好きにしろ」
そして――
「歩美も行く!!」
(はぁ!?)
(なんでだよ!!)
でも時間がない。
「……しょうがねえ……来い」
走る。
廊下。
暗闇。
静寂。
(頼む……もう来るなよ……)
その瞬間――
ゾクッ
背後に“気配”。
(……いる)
振り向くより早く――
ブンッ!!
鉄パイプ。
一直線。
狙いは――歩美。
「まずは女の子の君からだ」
「きゃあああああああ!!」
(ド畜生め――!!)
体が勝手に動く。
ガンッ!!!
腕で受ける。
激痛。
(ぐっ……!!)
でも止める。
そのまま――
掴む。
引く。
奪う。
(返すぞ……!!)
ブンッ!!
鉄パイプを振り抜く。
ガツッ!!!
鈍い音。
館長の頭部。
血。
ゆっくりと――崩れ落ちる。
(……やった……)
(止めた……)
息が荒い。
腕が震える。
(子供……守れた……)
鉄パイプを――手放す。
カラン……
静寂。
その直後――
バタバタバタ!!
足音。
「一体何があったんだ!!!!」
目暮警部と高木刑事、到着。
血の匂い。
鉄のような、重たい匂いが空気に広がる。
床には――
血まみれで倒れる館長。
そのそばに転がる鉄パイプ。
(……やりすぎたか……?)
一瞬、そんな考えがよぎる。
でも違う。
(守るためだ……)
(あのままだったら……歩美ちゃんが……)
足音。
バタバタと駆け寄ってくる影。
光彦、元太。
「カイジさん!!」
「大丈夫か!?」
(……来たか)
その直後――
少年探偵団、全員が前に出る。
「館長が犯人で悪い奴なんです!!」
元太、拳を握りしめて叫ぶ。
「こいつがやったんです!!カイジ兄さんは守っただけだ!!」
光彦も続く。
「僕が見ていました!!明らかに館長が先に攻撃しました!!正当防衛です!!」
(おいおい……)
(言葉が大人すぎるだろ……)
歩美、涙目で前に出る。
「カイジさんは……歩美を守ってくれたの!!」
声が震えている。
「怖かったけど……でもカイジさんが……」
ぎゅっと服を掴む。
「悪い人じゃないもん……!!」
コナンは静かに一歩前へ。
「警部、この人は危険人物です。麻薬も扱っていて、さらに殺人もしている可能性が高い」
(……冷静だな)
「カイジさんはそれを止めただけです」
(全部言いやがった……)
(ありがてえけど……)
俺は――黙る。
(……お前ら……)
胸の奥がざわつく。
でも――
分かってる。
「ごめんね」
目暮警部が静かに口を開く。
「証言だけを信用して事件解決できるなら警察はいらないんだ」
ざわ……
(……そりゃそうだ)
(証拠ありき……)
(分かってる……分かってるけどよ……)
空気が冷える。
それでも――
「でも!!」
光彦が食い下がる。
「状況証拠もあります!!鉄パイプを持っていたのは館長です!!」
「そうだぞ!!」
元太が叫ぶ。
「カイジ兄ちゃんは殴ってねえ!!止めただけだ!!」
「歩美見たもん!!」
涙を拭きながら。
「カイジさん、守ってくれたの!!」
(……やめろって……)
(そんな必死に……)
コナンが静かに言う。
「警部、現場の状況を見れば分かるはずです。どちらが攻撃側だったか」
それでも――
警部は沈黙。
(……ダメか)
(やっぱりこのパターン……)
俺は一歩前に出る。
「ありがとな、お前ら」
小さく、でもはっきりと。
「目暮警部……」
視線を上げる。
(来たな……この時間……)
「いつものタイマンといこうか」
空気がピリつく。
(ここからは……俺の仕事だ……)
そのとき――
「警部……僕、さすがに救急車呼びますね」
高木刑事が館長を見る。
血だまり。
(……ああ、そうだな)
(まだ終わってねえ)
(むしろここからが本番だ……)
カイジ――
守った代償として、再び“疑い”という地獄に立つ……!!
「なぁカイジ……」
目暮警部の声。
低い。
重い。
「ワシも疑うつもりはなかった……」
(……来たな)
「カイジさんは何もやっていない……と子供たちが必死で泣きわめくと――」
一拍。
「逆にカイジ、お前が子供たちにそう言えと言ったように聞こえてくる……」
ざわ……
ざわ……
(……最悪の展開)
「証言だけではいそうですかと言えないんだ……分かるな」
「はぁ……」
(分かってる……)
(分かってるけどよ……)
「そして、子供たちは君を守ろうとしている」
警部の目が俺を射抜く。
「館長を殴ったのはカイジ……お前だ……」
ざわ……ざわ……
(……どうする?)
(ここで子供たちの証言に乗るか……?)
(“何もやってない”って嘘を貫くか……?)
(いや……)
(それはダメだ……)
(あいつらに嘘つかせるわけにはいかねえ……)
そのとき――
ストレッチャー。
救急隊員が館長を運び出す。
血。
動かない身体。
(……生きてるのか?)
(それとも……)
「……」
言葉が出ない。
「どうした?」
警部が詰める。
「まぁいい。お前はやっている……なぜなら――」
パチッ。
電気がつく。
白い光。
そして――
「お前、返り血を浴びているじゃないか……こんなにも」
ざわあああああ……
視線が一斉に集まる。
(……あ)
自分の服を見る。
血。
血。
血。
(やべえ……)
(完全に……アウトの見た目……)
「カイジ……殴ったんだな、その鉄パイプで……」
「今鑑識に調べさせる……すぐにわかることだぞ」
(逃げ場なし……)
(でも……ここは――)
「ああ、殴った」
ざわっ……
(言った……)
「正当防衛だ」
一歩も引かない。
「館長が歩美ちゃんを襲おうとしたから俺が鉄パイプを奪い取って殴った」
沈黙。
「殴ったのは認めたな……」
警部の声が冷える。
「館長が死んだら――殺人罪だ……」
ざわ……ざわ……
(……え?)
(待て……)
(それ……)
(重すぎるだろ……)
「確かに生死は分からない……え?しかも殴ったと発言した……」
空気が一気に変わる。
(まずい……)
(流れが……完全に……)
「警部……」
高木刑事。
「鉄パイプの指紋の結果でました」
(早すぎるだろ……!!)
「カイジさんのみの指紋が検出されました」
――ざわあああああああああ
(……は?)
(俺の……だけ?)
「おい、カイジ……」
警部が一歩近づく。
「お前の指紋だけじゃないか?」
(そんなはずねえ……!!)
(俺は奪った……)
(あいつも持ってた……!!)
「正当防衛じゃない……」
決定打。
「お前が鉄パイプを用意して一方的に殴りつけたんだ……」
ざわ……ざわ……
(終わった……)
(完全に……犯人の構図……)
(証拠も……状況も……全部俺に向いてる……)
横を見る。
少年探偵団。
不安そうな顔。
(ダメだ……)
(子供の証言じゃ……覆らねえ……)
(俺が……詰んでる……)
心臓が重く沈む。
(またかよ……)
(なんでいつも……こうなる……)
(守ったのに……)
(正しいことしたのに……)
(なんで……犯人扱いなんだよ……!!)
ざわ……ざわ……
カイジ――
“正義の行動”が、そのまま“罪”へと反転する地獄に落ちる……!!
外交官殺人事件は、工藤新一VS服部平次VS毛利小五郎VSカイジの推理勝負!事件を解くのは誰だ!?
-
工藤新一
-
服部平次
-
毛利小五郎
-
伊藤カイジ
-
毛利蘭