ざわ……ざわ……
昼下がり――
毛利探偵事務所。
俺はソファに沈み込みながら、いつものようにだらけていた。
ここは居心地がいい……金はねえが、雨風しのげる……それだけで天国……。
図書館はあの事件以来出禁!!職員突き飛ばした、館長殴った……だから。
だが――
ガチャッ
空気が変わる。
「おるか……工藤新一」
低い声……関西弁……
ただの来客じゃねえ……この圧……ただ者じゃない……!
ざわ……ざわ……
入ってきたのは――
鋭い目……無駄のない動き……
高校生……だが中身はそれ以上……!
「服部平次……西の高校生探偵や」
自分で名乗りやがった……!
しかも堂々と……自信満々……!
「大阪府警本部長の息子……ガキの頃から事件現場に出入りして、刑事の動き、証拠の扱い、取り調べの流れ……全部叩き込まれてきた」
ざわ……ざわ……
なるほどな……
エリート……現場叩き上げ……両方持ってるタイプ……!
「せやからな……そこらの探偵とはちゃうで」
ニヤリと笑う……
挑発……余裕……そして実力の裏付け……!
こいつ……危険だ……!
「工藤新一はどこや?」
いきなり核心……!
だが――
「知らねえよ、そんなガキ」
こうちゃん……
即否定……そして雑……!
ざわ……ざわ……
だが俺には分かる……
嘘じゃねえ……だが、何かを隠しているわけでもねえ……
つまり――
「ちっ……ほんま使えへんな」
服部、苛立つ。
ざわ……ざわ……
空気が変わる。
さっきまでの雑談みてえな空気が――
一瞬で張り詰める……!
服部の視線が……蘭に向いた。
「……お前が工藤の女か」
直球……!
遠慮ゼロ……!
「なっ……!」
蘭、固まる……顔が赤くなる……怒りと動揺……!
ざわ……ざわ……
だが服部は止まらない……
「鈴木園子から聞いたで。あんたと工藤はそういう関係やってな」
(園子……余計なことを……!)と蘭。
「べ、別にそんなんじゃ……!」
否定……だが弱い……
完全に図星の反応……!
ざわ……ざわ……
「ほな聞くけど――」
一歩踏み込む……!
「工藤とは連絡取っとるんやろ?」
「……うん、たまに電話は……」
――来た。
情報……!
服部の目が細くなる……
完全に“狩り”の目……!
ざわ……ざわ……
「やっぱりな……」
低く呟く……
「……どういうこと?」
蘭、不安そうに聞く……
だがその答えは――残酷……!
「簡単な話や」
服部、指を立てる……
論理の組み立てが始まる……!
「まず一つ――工藤新一は消えた、死亡説もある」
ざわ……ざわ……
「せやのに、あんたとは連絡取っとる……つまり“生きとる”し“近くにおる可能性が高い”」
コナン――ピクリと反応。
俺も息を呑む……
「二つ目――」
服部の視線が、おっちゃんに向く……
「この毛利小五郎」
ざわ……ざわ……
「正直言うてええか?」
ニヤリ……
「冴えへんおっちゃんや」
「なにぃ!?」
ブチギレ……!
だが構わず続ける……
「推理は雑、勘も鈍い、証拠の扱いも甘い……普通なら迷宮入り量産や」
ざわ……ざわ……
――だが。
「なのに」
空気が止まる。
「こいつは“名探偵”になっとる」
……核心。
いやいや実力だろ……!
「事件を次々解決……しかも難事件ばっかり……」
「……」
「……」
ざわ……ざわ……
「そして三つ目」
服部、決定打を叩き込む――
「工藤が消えた時期と……このおっちゃんが名探偵扱いされ始めた時期……」
一拍。
「完全に一致しとる」
――ドンッ……!
空気が震える……!
ざわ……ざわ……
「つまりや」
服部、確信の目……
「工藤新一はどっかにおる……」
一歩、踏み込む……
「そしてこのおっちゃんの裏で――事件を解いとる」
――確定。
ざわ……ざわ……
コナン、固まる……
ほんの一瞬……だが確実に動揺……!
(こいつ……そこまで……!)
心の声……焦り……!
ざわ……ざわ……
「……せやろ?」
服部、蘭に詰める……
「工藤は近くで見とる……あんたのことも、この事件も」
蘭、言葉を失う……
「そ、それは……」
否定できない……
でも認められない……!
ざわ……ざわ……
その時――
コナンが口を挟む。
「でもさー!そんなの証拠ないじゃん!」
子供の声……
だが中身は必死……!
(ここで確信持たれたらまずい……!)
「ただの想像でしょ?」
必死の牽制……!
だが――
服部、ニヤリ。
「せやな……証拠はない」
一歩引く……?
いや違う……
「せやけどな……」
再び踏み込む……!
「推理ってのは“違和感”から始まるもんや」
ざわ……ざわ……
「そして今、この場で一番違和感あるんは――」
ゆっくり視線を動かす……
おっちゃん……蘭……そして――
コナン。
止まる。
「……お前や」
――来た。
ざわ……ざわ……
空気が凍る……!
(やべえ……完全にロックオンされてる……!)
ざわ……ざわ……
……は?
「え……俺……?」
思わず間抜けな声が出る……
いや待て……なんでだ……なんで俺に矛先が向く……!?
「そうや、お前や」
――即答。
迷いゼロ。
ざわ……ざわ……
服部の目……完全に俺を“見ている”……
さっきまでの観察対象から……今は“獲物”……!
「は?なんでだよ……!」
思わず声が荒くなる……
だが内心――嫌な汗……!
こいつ……ただの勘じゃねえ……!
「まず見た目や」
来た……!
「なんだその長髪……ボサボサ……服もヨレヨレ……」
ぐっ……!
「ここ毛利探偵事務所やで?普通は依頼人か関係者……せやのにお前――」
一歩踏み込む……
「完全に“浮いとる”」
ざわ……ざわ……
刺さる……!
事実……!
「おっちゃんはスーツ……まあ探偵やからな」
「蘭ちゃんも普通や……」
「せやのにお前だけ……」
一瞬、間を置いて――
「ホームレス寸前みたいな格好でソファ占領しとる」
ざわ……ざわ……
ぐっ……ぐっ……!
言い返せねえ……が……!
「関係ねえだろそんなの!」
反射的に返す……!
だが服部は止まらない……
「いや関係ある」
即否定。
強い……!
「次や」
指を折る……論理の積み上げ……!
「お前、この事務所に馴染みすぎや」
ざわ……ざわ……
「初見の人間やない……かといって家族でもない……」
「せやのにその距離感……」
目が細くなる……
「“居候”やな?」
ドンッ……!
ざわ……ざわ……
……当たり。
完全に当たり……!
(なんやこいつ……生活の匂いがする……金がない人間特有の“居場所への執着”……)
心の声……!
やべえ……読まれてる……!
「で、決定打や」
まだあるのかよ……!
「おっちゃんの息子にしては年齢が合わん」
確かに……!
「しかも顔も似てへん……」
当たり前だ……!
「なのにここにおる……」
一歩詰める……
「つまり――」
ニヤリ……
「すごいクズ臭がする」
――グサッ。
ざわ……ざわ……
直球……!
ノーガードで殴られたみてえな一撃……!
「てめえ……!」
思わず立ち上がる……!
だが服部も一歩も引かねえ……!
「図星か?」
挑発……!
「違うわ!!」
叫ぶ……!
だが――内心……
ざわ……ざわ……
(否定しきれねえ……!)
くそ……!
「俺はなぁ……事情があんだよ!」
苦し紛れ……だが出すしかねえ……!
「事情?ほな言うてみぃや」
余裕の構え……!
「……」
詰まる……!
言えねえ……!
借金……転落……地下労働……
そんなもん言えるか……!
ざわ……ざわ……
「言えへんのやろ?」
追撃……!
「つまり後ろめたい過去がある……」
ぐっ……!
「せやからこの場所にしがみついとる……」
ざわ……ざわ……
やめろ……!
それ以上……踏み込むな……!
「でや」
さらに畳みかける……
「さっきから様子がおかしい」
ドクン……
「事件の話になると妙に静かになる……」
ドクン……ドクン……
「観察しとる目や……あれはただの無職の目やない」
――バレる……!
やべえ……こいつ……!
「お前……何者や?」
静かに……だが鋭く……
完全に核心へ……!
ざわ……ざわ……
空気が凍る……
コナンも見ている……
蘭も……おっちゃんも……
全員の視線が俺に……!
――クソが……!
ここで折れたら終わり……!
俺は……俺は……!
「……ただのクズだよ」
吐き捨てる……!
「でもな――」
一歩踏み返す……!
「クズだからって舐めんなよ」
ざわ……ざわ……
「生きるために必死なだけだ……!」
目をぶつける……服部に……!
一瞬の沈黙――
そして……
「……ふん」
服部、少しだけ口元を緩める……
「ええやん」
――え?
「その目……嘘はついてへんな」
ざわ……ざわ……
助かった……のか……?
いや――
(でもこいつ……ただのクズやない……何かある……)
……終わってねえ。
完全には外してねえ……!
ざわ……ざわ……
危ねえ……!
こいつ……本物だ……!
ざわ……ざわ……
「……次」
服部の視線が動く。
「あんたや、おっちゃん」
来た……!
毛利小五郎にロックオン……!
「はぁ!?なんだよいきなり!」
おっちゃん、苛立つ……だが――
服部はどこ吹く風……!
「面白いもん見つけてな」
ポケットからスマホ……
画面を見せる……
「推理力ランキングの特集や」
ざわ……ざわ……
読み上げる――
ざわ……ざわ……
服部、スマホを見ながらゆっくり口を開く――
「……このランキングな」
視線が鋭くなる……
「一人ずつ、ちゃんと“評価”していくで」
空気が張り詰める……!
「1位 工藤優作」
「これは文句なしや」
即断。
「論理、発想、観察、全部が世界レベルや……“点”やなくて“線”で事件を見るタイプ」
腕を組む……
「普通の探偵が“目の前の違和感”から組み立てるのに対して、あの人は“事件全体の構造”を最初から見抜く」
ざわ……ざわ……
「正直、あの人だけは別格や。俺でも勝てる気せえへん」
「2位 毛利小五郎」
一瞬、間……
「……これはおかしい」
バッサリ。
「いや、推理が当たっとるのは事実や……せやけどな」
指を突きつける……
「過程が雑すぎる」
ぐっ……おっちゃん固まる……
「普通ありえへんレベルで飛躍しとる……それで正解するってのは“推理力”やなくて“結果だけ持っとる”状態や」
ざわ……ざわ……
「せやから評価不能……少なくとも2位はない」
「3位 服部平蔵」
少しだけ柔らぐ表情……
「俺の親父や」
「この人は“堅実さの塊”やな」
「無駄な推理はせえへん……証拠を積み上げて、絶対に崩れへん結論を出すタイプや」
頷く……
「スピードでは負けることもあるけど、“外さない力”はトップクラスや」
「4位 羽田秀吉」
「この人は特殊やな」
「将棋脳……つまり“未来予測型”」
指で盤面をなぞるような仕草……
「何手も先を読む……相手の行動まで想定して動くタイプや」
「ただし現場経験は少ない……せやから4位は妥当」
「5位 工藤新一」
ここで一瞬止まる……
「……なんで俺より上やねん」
本音。
ざわ……ざわ……
「まあええ……評価としてはな」
腕を組む……
「観察力、発想力、スピード……全部高水準」
「特に“違和感への嗅覚”は異常や……普通の人間が見逃すところを拾いよる」
少し悔しそうに……
「ただな……まだ若い……詰めが甘いときもある」
「5位 服部平次(俺)」
ニヤリ……
「俺は“現場型”や」
「足で稼ぐ、目で見る、その場で考える」
「瞬発力なら負けへん……推理のスピード勝負なら俺のほうが上や」
ざわ……ざわ……
「せやからな……正直――」
指でトントンとスマホを叩く……
「俺のほうが上やろ」
ドンッ……!
「7位 安室透」
少し真剣な顔……
「あいつは……読めへん」
「表と裏がある……情報戦、心理戦、全部できるタイプや」
「ただし“本気の推理”を見せとらん……せやからこの位置はしゃあない」
「8位 白馬探」
「理論派やな」
「知識も豊富やし論理も綺麗や」
「せやけどな……」
少し肩をすくめる……
「現場の泥臭さが足りへん……机の上で完結しとる部分がある」
「9位 妃英理」
「弁護士としてはトップクラスや」
「論理構築、反論、隙を突く力……これは強い」
「せやけど“事件を解く”より“事件を裁く”側やな」
「10位 世良真純」
「まだ成長途中や」
「センスはある……ただ荒い」
「これから伸びるタイプやな」
そして――
スマホを閉じる。
ざわ……ざわ……
「……でや」
ゆっくりとおっちゃんを見る……
「この中で一番おかしいのは誰か分かるか?」
沈黙……
「……2位や」
ドンッ……!
「毛利小五郎」
空気が張り詰める……!
「推理の“中身”が見えへん」
「せやのに結果だけトップクラス」
一歩踏み出す……
「そんなもん普通ありえへん」
ざわ……ざわ……
「つまり――」
目を細める……
「あんたの裏に誰かおる」
コナン、ピクッ……!
俺、ゾクッ……!
来てる……!
「それが誰か……」
ゆっくり視線を巡らせる……
「今から確かめたるわ」
ざわ……ざわ……
――始まる。
本当の詮索……!
ざわ……ざわ……
……こいつ……調子に乗ってやがる。
服部の視線……完全に見下し……
俺じゃない――こうちゃんを。
それだけは……ダメだ。
「おい、服部」
声が低くなる……自分でも分かる……一段階、温度が下がった。
「俺を馬鹿にするのは……まぁだいたい合ってるからいい」
ざわ……ざわ……
「だがな」
一歩前に出る。
「こうちゃんを馬鹿にするのはやめろ」
空気がピリつく……!
「こうちゃんって誰や?」
服部、首をかしげる。
「小五郎さんだ。こごろうだから縮めてこうちゃん!」
間髪入れず――
「そして俺はこうちゃんの一番弟子だ」
ドンッ……!
ざわ……ざわ……
「ほう……」
興味を持った目……!
「大阪の人間だからかも知れないけどよ」
少し肩をすくめる……
「上から目線すぎだろ」
言った――!
……だがその瞬間――
ふと、頭に浮かぶ。
――昔の俺。
ざわ……ざわ……
高校生の頃……
調子に乗って……世の中全部見下してた俺……!
(ああ……)
(こいつ……あの頃の俺だ……)
一気に熱が引く……
ざわ……ざわ……
俺は……今は……大人……!
ここで感情で殴ったら……負け……!
「自信家って言ってくれや!」
服部、軽く返す……!
……いいだろ。
乗ってやる。
「俺もあったよ」
ゆっくり口を開く……
「高校時代……テレビ見ててな……」
ざわ……ざわ……
「ちょびひげの総理大臣が演説してた」
「でもな……俺は思った」
拳を握る……
「なんで世の中良くならねえんだ!あいつのせいだ!無能だ!馬鹿だ!」
ドンッ……!
ざわ……ざわ……
「……あったんだよ、そういう時期が」
「は?何をいうてんねん」
服部、眉をひそめる……当然だ。
でもな……
「高校生の男ってのはな……気付けねえんだよ」
静かに言う……
「本当にすごい奴ほど」
ざわ……
「総理大臣ってよ……めちゃくちゃ叩かれるだろ?」
「無能だとか、何も分かってねえとか」
一歩近づく……
「でもな……」
目を合わせる……
「本当に無能で何も分かってなかったらなれるか?総理大臣に」
沈黙……
「お前」
指を向ける……
「こうちゃんのすごさ知らないだけだ」
ざわ……ざわ……
空気が変わる……!
服部の目……少しだけ……揺れる。
だが――
ニヤッと笑う……
「ええやん」
来た……勝負……!
「なら見せてみろや」
挑発……!
「お弟子さんなんやろ?」
ざわ……ざわ……
「お前がそれなりの推理できるなら……考え改めたる」
来た……!
試し……!
「そうやなぁ……」
少し考える仕草……
「俺の部活、当ててみろ」
(肌が黒いから外の運動部と思うが……剣道部や……よく見れば分かる……せやけど一発で当てられるわけない)
心の声……!
来た……!
ざわ……ざわ……
ここ……勝負所……!
考えるな……
感じろ……!
観察……観察……!
顔……腕……姿勢……
……あった。
「剣道部だろ」
ドンッ……!
ざわああああああ……
「……なんでそう思うんだ?」
(適当か……?)
いいや――
ここからは“それっぽさ”で押し切る……!
「まずな」
指を立てる……
「顔にうっすらと跡がある」
「仮面……面だ」
ざわ……
「この時点で絞れる……剣道か、演劇」
「でもな」
腕を見る……
「腕にあざがある」
「つまり……胴や小手はちゃんとつけてるってことだ」
それっぽい……!
「そして――」
一拍……
「歩き方」
適当だが押す……!
「剣道特有の重心の運び……」
ドンッ!
「だから剣道部だ」
沈黙――
ざわ……ざわ……
そして――
「……正解や」
キタァァァァァァ……!!
内心ガッツポーズ……!
だが表は冷静……
「じゃあ謝れよ」
指を差す……
「こうちゃんに」
ざわ……ざわ……
服部、一瞬だけ黙る……
そして――
「……おっちゃん、すまん!」
頭を下げる……!
「弟子も推理力ある……ネットの噂に騙されてただけかもしれん」
ざわ……
「せやけどな」
顔を上げる……
「まだ完全には認めへん」
ニヤリ……
「事件を見て判断させてもらうで」
来た……本番……!
「ついでに――」
目が光る……
「工藤も呼んで推理対決や」
ドンッ……!
ざわあああああ……
……始まる。
本物の勝負が……!
ざわ……ざわ……
毛利探偵事務所のドアが、静かに開いた。
入ってきたのは――
上品な和服姿の女性。
姿勢が良い……無駄のない所作……
一目で分かる、“格式”。
だが――
(主人が……あの人が……)
内側は揺れている。
「突然失礼いたします」
丁寧に頭を下げる。
「私、外交官の妻でございます……」
ざわ……
こうちゃんが少しだけ姿勢を正す。
「ほう……外交官の……」
「主人のことで、ご相談があり参りました」
声は落ち着いている……だがその奥に焦り。
(どうして鍵なんて……あの人が……)
「ここ最近、様子がおかしく……人と会うのも避け……」
「今も、自室に閉じこもったままでして」
コナンが顔を上げる……
服部は静かに聞いている……
「朝から鍵をかけたまま……呼びかけにも応じません」
ざわ……
「体調が悪いのかとも思いましたが……どうしても胸騒ぎがして……」
(嫌な予感がする……)
沈黙。
こうちゃんが腕を組む。
「……なるほど」
「行ってみましょう」
ドンッ――
屋敷。
重厚な門……広い庭……
いかにも“外交官の家”。
中に入ると、空気が違う。
静かすぎる……!
ざわ……ざわ……
「こちらです」
奥さんが案内する。
足音がやけに響く……
コツ……コツ……
(どうか……無事で……)
その願いが、逆に不安を増幅させる。
扉の前。
「主人の部屋です」
コンコン……
「あなた……」
返事はない。
「開けてくださいませ」
静寂。
ざわ……
「……おかしいですね」
「朝からずっと……」
ガチャ……
「鍵が……」
閉まっている。
ざわ……ざわ……
こうちゃんが低く言う。
「中にいるんだな?」
「はい……確かに」
(出ていない……絶対に……)
服部が前に出る。
「壊すで」
ざわ……ざわ……
「鍵は……あります」
奥さんが、静かにそう言った。
カチャ……
ゆっくりと鍵が回る音。
(開く……)
俺の中で、何かが身構える。
ドアが開いた――
中。
椅子に座る男。
机に肘をつき、前かがみ。
――寝ているように見える。
ざわ……
「……なんだ」
俺、少し力が抜ける。
(寝てるだけか……?)
正直、拍子抜け。
でもな――
ここで油断はしない。
ざわ……ざわ……
(俺は学んだ……)
図書館……露出事件……あらゆる地獄……
(事件は突然来る……)
(そして俺は巻き込まれる……)
だから――
(シミュレーション済み……)
推理小説も読んだ……
ケースも考えた……
自殺、他殺、時間差トリック……
(ぬかりねえ……)
完璧……のはずだった。
「あなた……?」
奥さんが近づく。
ゆっくり……ゆっくり……
「あなた……起きてくださいませ」
肩に手をかける。
揺さぶる――
その瞬間。
ざわ……
(名探偵の前で……まさか殺すとは思うまい……)
――え?
思考停止。
ざわあああああ……
(今……なんて言った……?)
理解が一瞬遅れる。
「やめろおおお!!!」
俺、叫ぶ――!
だが――
遅い。
一瞬。
黒い何か――
細い……針のようなもの。
それが――首元に。
スッ……
刺さる。
そして――即、隠す。
(完璧……)
ドサッ……
男の体が崩れる。
ざわあああああああああ!!!
「なっ……!」
「おい!」
服部とコナン、即座に反応。
速い……!
二人同時に死体の元へ。
しゃがむ――
ゴツンッ!!
「いってえな!」
「痛っ……!」
頭ぶつけるバカコンビ。
だが次の瞬間――
「……いや、死んでるで」
低く言う服部。
コナンは――
(まだ温かい……直前だ……)
ゴホッ……ゴホッ……
咳き込む。
ざわ……ざわ……
俺は――
動けない。
(見た……)
(完全に見た……)
(奥さんが……刺した……)
なのに――
(言えねえ……!)
あまりにも一瞬……!
証拠……ゼロ……!
ざわ……ざわ……
「こらぁ!!現場荒らすな!!」
こうちゃんのゲンコツ炸裂!
ゴンッ!!
「いってえ!」
「痛いよおっちゃん!」
「警察呼ぶぞ!」
すぐに電話――
「目暮警部か!?事件だ!」
ざわ……ざわ……
「誰も動くな!そのままにしておけ!」
その横で――
コナン、まだ咳。
ゴホッ……ゴホッ……
服部、ポケットから瓶を出す。
「これ飲め」
「え……?」
ぐいっと口に入れる。
コナン、飲む――
「……!?」
ふらっ……
「お、おい……?」
「ちょ、何飲ませてんのよ!!」
蘭、激怒!
瓶を取り上げる!
「これお酒じゃない!!」
ざわ……
「ちゃうちゃう!」
服部、慌てて弁明!
「大阪では風邪に効くんや!」
「そんなわけないでしょ!!」
ギャーギャー……
その騒ぎの中――
俺だけが、凍りついている。
ざわ……ざわ……
(どうする……)
(見た……完全に……)
(でも証明できねえ……)
奥さんを見る。
表情は――
完全に悲劇の妻。
「あなた……どうして……」
(これで……終わり……)
――平然。
ざわ……ざわ……
(やべえ……)
(今回の犯人……)
(格が違う……)
心臓がバクバク鳴る。
ドクン……ドクン……
(そしていつもの流れ……)
(俺が疑われる……)
最悪の未来が見える。
ざわ……ざわ……
――始まった。
またしても。
地獄のゲームが。
ざわ……ざわ……
やべえ……やべえやべえやべえ……
頭の中で思考が空回りする……ぐるぐる……ぐるぐる……
推理小説で読んだパターンを必死に引っ張り出すが……該当なし……!
(探偵が犯人の犯行を“目撃している”ケース……)
ねえ……そんなもん成立するか……?
犯人わかってる推理小説ってなんだよ……
読む価値……ゼロ……!
だが現実は違う……
俺は見た……!
奥さんが……あの一瞬で……黒い何かを――
刺した……!
ざわ……ざわ……
どうする……?
ここで言うか……?
「犯人は奥さんです」――
いやダメだ……即詰み……!
「なぜ分かる?」
→見たから
「何を?」
→黒い何かで刺した
「何かって何?」
→知らねえ
「なんでそんなとこ見てた?」
→偶然
「怪しいな」
……終わり……!!
ざわ……ざわ……
しかも……心の声のことは言えねえ……
これ言った瞬間、俺は完全に“異常者”……!
前回だってそうだ……
疑われた……ギリギリだった……!
今回は違う……
相手は図書館の館長なんてもんじゃねえ……!
外交官の……奥さん……!
社会的地位……権力……信用……
全部向こうが上……!
俺は何だ……?
金なし……職なし……前科あり……
社会の底辺……!
ざわ……ざわ……
やべえ……これ、俺が犯人になる流れだ……!
・現場にいた
・挙動不審
・証拠なしで断定
・変なこと言う
アウト……!
完全にアウト……!
(目暮警部が来る……)
その瞬間……俺は終わる……!
どうする……どうする……どうする……!
一つ浮かぶ……
犯人に直接言う……
「自首しろ」――
……ダメだ……!
それやったらどうなる?
犯人「この人が怪しいです」
→俺、疑われる
→終わり
最悪の手……!
じゃあ誰かに伝える……?
服部……
あいつ……確かにキレる……
だが……初対面……!
信用ゼロ……!
下手すりゃ逆に利用される……!
コナン……?
小学生……
しかも今フラフラしてる……風邪気味……
いやいやいや……
俺どこまで落ちてるんだよ……!
小学生頼み……!?
ざわ……ざわ……
……待て
いるじゃねえか……
今回……いる……!
“万全の状態”のやつが……!
こうちゃん……!
毛利小五郎……!
しかも今回は飲んでねえ……!
素面……!
完全体……!
ざわ……ざわ……
なら……任せる……?
俺は黙る……
静観……!
名探偵なら……気付くはず……
……いや……
いやいやいや……
無理だろ……!
だって……
あの一瞬……
“殺しの声”が聞こえたから
俺は見れたんだ……!
普通の人間は――
あんな状況で「刺した」なんて思わねえ!
ただ倒れたようにしか見えねえ!
つまり……
名探偵でも……
気付けない可能性……大……!
ざわ……ざわ……
どうする……!
言うか……?
黙るか……?
リスクか……沈黙か……!
心臓がうるせえ……ドクドク鳴る……
視線が集まる未来が見える……
疑い……尋問……圧迫……
でも……
ここで黙って……
もし……
(やべえ……詰み筋が見える……見えるのに回避ルートがねえ……!)
俺は頭の中で何度も同じ盤面をなぞっていた。
――途中で追い詰められてからのカミングアウトはどうだ?
奥さんが刺した――それは“事実”。
ざわ……ざわ……
(「なぜ先に言わなかった?」)
(「どうして見ていた?」)
(「黒い何かって何だ?」)
全部、詰問される未来が見える……!
そして最後に行き着く結論――“こいつ怪しい”……!
ふざけんな……!
真実を知ってる側が詰むとか……そんな理不尽あるか……!
(……落ち着け……落ち着けカイジ……)
視線を巡らせる。
「こうちゃん……ちょっと来てくれ」
俺の声だ。
ざわ……
廊下に出る。
静かだ。さっきまでの死の空気が、嘘みてえに薄い。
目の前にいるのは――
酔ってない、完全体の毛利小五郎。
(頼むぞ……こうちゃん……!)
「なんだカイジ……こんな時に……」
その瞬間、俺は顔を寄せる。
「……奥さんがやった」
「……は?」
「見た……黒い何かで首……刺した……」
一瞬の沈黙。
ざわ……
(なんだこの感覚……?)
(信じるか?疑うか?)
こうちゃんの心は読めない。
いや、読めるけど――今はノイズだらけだ……!
「……証拠は?」
「ねえよ……でも事実だ……」
「分かった……」
おおおおおおおおおおおおおお!
その時――
コツ……コツ……
足音。
振り返ると、壁の影からこちらを見ている小さな影。
江戸川コナン。
(カイジさん……何か気付いた?)
その目――
完全に理解者の目……!
さらに奥から――
「何コソコソやっとんねん」
服部平次。
関西弁の圧……鋭い視線……
完全に“嗅ぎつけてる”。
ざわ……ざわ……
(やべえ……始まる……)
この場には――
名探偵が三人。
そして俺――
冥 探偵カイジ。
「冥」とは
光や希望がない様子。
あの世あるいはあの世に近い様子。
絶望。
という言葉、
だが――絶望の淵でしか見えないものがある。
(見せてやる……!)
誰が解き明かすかじゃねえ――
誰が“生き残るか”だ……!
ざわ……ざわ……
――探偵同士のバトルロワイヤル、開幕。
―――夜。外交官邸。
重たい空気……血の匂い……そして“権力”の匂い。
パトカーのサイレンが静寂を切り裂く――
赤い光が庭を染める……まるで“処刑台”のように……。
ざわ……ざわ……
玄関の扉が開き、現れたのは――
目暮警部と高木刑事。
その足取りは重い……
ただの殺人じゃない……外交官……つまり国家レベルの事件……。
「また毛利君と……」
その一言……軽いようで重い……
だが次の瞬間――
「カイジ……お前……やったのか?」
ざわっ――――
来た……!
一番最悪の入り……!
(くそおおおおおおおおおお……!)
(なんで毎回こうなる……!俺がいる=犯人候補ってどういうロジックだよ……!)
いつもならここから地獄の口論……
3時間コース……疑い→否定→証明不能→詰み……!
だが――
「警部殿……カイジは白です。私たち事務所に居てここに到着したばかりなんです」
―――静かに、だが確実に流れを変える声。
こうちゃん……!!!!
ざわ……ざわ……
目暮警部の眉がピクリと動く。
「そうか、分かった」
―――一蹴。
(すげえ……なんだこの力……)
(俺なら30分は説明してやっと半信半疑なのに……一言で白確……)
これが……“名探偵”……!
(やっぱ違う……格が……!)
――ざわ……ざわ……
死体のある部屋。
空気が重い。粘つくような静寂。
その中心で――また、あいつらがやりやがる。
ゴツンッ!!
「いってぇ!!」
「何すんねん!!」
コナンと服部、二度目の頭ごっつんこ。
……なんなんだこいつら。
緊張感ゼロかよ……いや違う。
(集中してるから周り見えてねえタイプだ……こいつら……)
そのまま二人は、ほぼ同時にしゃがみ込み、死体を覗き込む。
「死体現場でうろちょろするなガキ……」と服部。
だがその目は笑っていない。鋭い……獲物を狩る目。
「……死因は毒殺やな……首に穴がある……毒針のようなもので刺されたんやろ……」
ざわ……
「体温が温かいことから30分以内に殺された……ちゅーことは――」
一拍。空気が張り詰める。
「家にいたもんのせんでええな」
――来た。
完全に流れを掴みにいってる。
(やっぱこいつ……できる……)
コナンも無言で頷く。
あいつも分かってる顔だ……くそ、レベル高え……
そして服部が顔を上げる。
「奥さん、家の鍵は?」
「ええ、鍵は私と旦那で1本ずつ……」
その言葉に、俺の背筋がピリつく。
(鍵……密室……来るぞ……この流れ……)
その瞬間――
「じゃあ、被害者が持っているんだな……あったぞ!」
こうちゃん――毛利小五郎が、ポケットから鍵を取り出す。
「何だって……!!!?」
服部とコナン、同時に声を上げる。
「え?」と目暮警部。
部屋の空気が、一気に歪む。
「何を言うてんねん……」
服部の声が低くなる。
「この部屋は鍵が閉まっていたんだ……奥さんは俺たちと居た……」
ざわ……ざわ……
「つまり――密室殺人や」
――ドンッ!!
その一言で、空気が爆発する。
(来た……密室……最悪のパターン……)
心臓が嫌な音を立てる。
ドクン……ドクン……
だって俺は見てる。
奥さんが刺した瞬間を。
でも――
(言えねえ……言ったら詰む……)
密室。
アリバイあり。
凶器不明。
全部が俺を犯人にする流れに繋がる……
そして――
(工藤……この密室事件解いてやる……)
服部の心の声が、はっきり聞こえる。
(あるはずだ……絶対何かが)
こうちゃん、踏み込む……!
「警部殿、まずは持ち物検査をしましょう」
―――来た!!!!
(ナイス……!)
(それだ……それさえやれば……黒い何か……証拠が出る……!)
(奥さん詰み……完全チェックメイト……!)
「ああ、確かにそうだな」
勝った……!
これは勝ち筋……一本道……!
―――だが。
「では私たちも」
「駄目だ!!!!」
ざわああああああああああ……
空気が凍る。
(なっ……!?)
「どういうことです?警部殿」
こうちゃんの声が低くなる……
これは本気のモード……。
だが警部も引かない。
「今回は外交官が殺害された……これは通常の事件ではない」
重い……重すぎる……
“国家案件”という壁……。
「一般人の君たちは出ていってくれ。我々だけで持ち物検査を行う」
―――最悪手……!!!
(それ悪手だろおおおおおおおおおお!!!!)
(持ち物検査=唯一の物証……!)
(そこから俺たち外したら……犯人に証拠処分の時間与えるだけだろ……!)
ざわ……ざわ……
こうちゃん、一歩前に出る。
「警部殿、それは合理性を欠いています」
静か……だが鋭い……。
「現場に居合わせた者を排除する理由が“身分”であるなら、それは捜査ではなく形式です」
(うおお……言う……!)
「我々は事件発見直後から現場にいた……つまり一次情報の保持者です」
「だがそれは君たちが民間人である事実を覆さない」
警部の声は冷静……
完全に“警察の論理”。
「外交官殺害事件においては、証拠の取り扱い一つで国際問題に発展する可能性がある」
ざわ……ざわ……
(くっ……確かに……正論……!)
「だからこそ、責任の所在が明確な警察のみで処理する」
「その結果、証拠を見逃すリスクがあるとしてもか?」
こうちゃん、踏み込む……!
「……」
警部、一瞬詰まる。
(効いてる……!)
「過去の実績を見ても、我々が関与した事件で解決率が上がっていることは否定できないはずです」
「それは偶然だ」
即切り……!
(くそ……硬え……!)
「ではこうしましょう」
こうちゃん、さらに一手……!
「我々は証拠には一切触れない。ただし立ち会うだけ」
「視認のみであれば、情報の補完として有効です」
ざわ……ざわ……
論理の応酬……完全に将棋……!
だが――
「それでも駄目だ」
切り捨て。
「責任が取れない」
(くっ……壁が高すぎる……!)
「もし何かあれば、全て警察の責任になる」
「その責任を、私は部下に背負わせるわけにはいかない」
―――組織の論理。
(ちっ……強え……)
こうちゃんも黙る……
これは完全に“正面突破不可”……!
ざわ……ざわ……
(やべえ……このままじゃ……)
(証拠は消える……)
(奥さんは逃げ切る……)
(そして最悪……俺が疑われるルート再突入……!)
喉が渇く……
頭が回る……でも足りない……!
(どうする……どうする……!)
そのとき――
横でコナンが小さく呟く。
(カイジさん……まだ終わってない……)
(……!)
(証拠は“今”だけじゃない……“行動”も証拠になる)
(犯人は焦ってる……絶対動く……)
ざわ……ざわ……
(そうか……!)
(持ち物検査がダメなら……動かす……!)
(犯人自身を……!)
俺は奥さんを見る……
(睡眠薬で眠らせて殺したとは思うまい)
(テグスは何本も用意した……フフフ)
(……早く終わって……早く処分しないと……)
―――来た。
(証拠、まだ持ってる……!)
(なら……勝機あり……!)
ざわ……ざわ……
(ゲームは終わってねえ……)
(むしろここからが本番……!)
―――カイジ、反撃開始。
ざわ……ざわ……
空気が張り詰める。
外交官の死体。閉ざされた空間。
そして――いつもの面子。
だが今回は違う。
警部 vs 探偵側の攻防戦……開戦だ。
「早く一般人の君たちは出ていってくれ。我々だけで持ち物検査を行う」
――来た……最悪の一手。
ざわ……ざわ……
(それ……悪手だろ……!!)
俺の中で警鐘が鳴り響く。
持ち物検査――
それは今この瞬間、唯一の突破口……!!
「警部殿、それは承服できませんな」
こうちゃん……来た……!!
「どういうことだ、毛利君」
「持ち物検査は重要です。しかしそれを“密室”で警察だけが行う……それでは証拠の信頼性が揺らぐ」
ざわ……ざわ……
(おっちゃんやるじゃないか……持ち物の確認は最重要だ)
コナンの心の声が静かに響く。
「警察の手続きに不満があるというのか?」警部
「不満ではありません。“穴”の話です」
こうちゃん……冷静……鋭い……!
「仮にです。後から証拠が出てきた場合――“警察が仕込んだ”と言われても反論できますか?」
ざわっ……
空気が一段階冷える。
「そんなことはありえん!!」
「ですが、“ありえない”では済まされないのが事件です」
押す……!こうちゃん……!!
「現場に第三者の目を入れる。それが証拠の正当性を担保する……違いますか?」
(ほう……いい弁論術や。持ち物確認の重要性を理解してる……しかも引かん)
服部……ニヤついてやがる……
(つーか警部はん、俺に見せてくれれば一瞬やのに……)
「それでも規則がある。君たちは関係者ではない」
警部も引かない……!
だが――
「関係者や」
服部……割って入った。
「何?」
「この事件、ワイも関わる。服部平次――探偵や」
ざわ……ざわ……
「それに――」
一拍。
「親父は大阪府警本部長、服部平蔵や」
ドン……!!
空気が変わる。
「なっ……」
「警部はん、分かるやろ?ワイがここで見ることに問題あるか?」
(強引だが……通す気だ……!)
「……だとしてもだな……」
まだ粘る……警部……!!
「警部殿」
こうちゃん、さらに畳みかける。
「我々は“邪魔”をするつもりはありません。ただ“確認”をしたいだけです」
「……」
「持ち物の中に凶器がある可能性がある以上、今この場で全員の前で確認するのが最も合理的」
「それにや」
服部が横から刺す。
「もしここで逃したらどうする?犯人が証拠を処分する時間を与えることになるで?」
ざわっ……
「ぐっ……」
警部……詰まる……!
(いいぞ……!押せ……!そこだ……!)
俺の中で興奮が爆発する。
「警部殿、これは“協力”です」
こうちゃんが最後の一押し。
「事件を早期解決するための、な」
沈黙――
数秒が永遠に感じる。
――ざわ……ざわ……
来た……最悪の展開……
目暮警部、なおも譲らず……さらに“上”を持ち出すという禁じ手。
「……ならこうしよう」
警部の低い声が、場を支配する。
「服部君。君の父親……服部平蔵本部長に連絡を取る。
“息子が一般人を捜査に立ち会わせろと言っているが、許可していいか”……とな」
ざわ……ざわ……
空気が一気に凍る……
それは確認じゃない……実質、“詰み”の確認……!
(そんなもん……認めるわけあらへん……)
服部の顔が歪む。
「ふざけんなや警部!!!」
怒号……関西弁が鋭く裂く空気。
「そんなん聞くまでもないやろ!
警察のルールや?規則や?
今はそんなこと言うてる場合ちゃうやろ!!」
「落ち着け服部君」
警部は揺るがない。鉄……。
「警察には警察の責任がある。
ルールを破れば、その瞬間に証拠の正当性は崩れる。
君がどれだけ優秀でも……“一般人”である以上は例外にはできん」
(くっ……正論……やけど……今はそれが足枷や……!)
服部、歯噛み……!
「……ほな、かけてみい!!」
吐き捨てるように言う。
「どうせ答えは分かっとるわ!!」
警部、無言で頷き……電話を取り出す。
静寂……
コール音だけが響く……
――数十秒。
永遠のような時間。
「……目暮です。服部本部長に確認を……」
ざわ……ざわ……
(終わる……ここで完全に流れを持ってかれる……)
俺の中で、何かが沈む……
理屈では分かってる……警部は正しい……
だが、それじゃあ――この事件は“遠回り”する……!
そして――
「……はい……分かりました」
通話終了。
「結論から言う」
警部、全員を見渡す。
「“一般人を捜査に参加させることは断じて認められない”……以上だ」
ざわあああああ……
やっぱりだ……!
鉄壁……ルールの壁……!
「……ほら見いや!!」
服部、苛立ちを隠さず吐き捨てる。
「そんなん最初から分かっとるやろが!!」
「だからこそ確認した」
警部は一切ブレない。
「これで“例外はない”と全員が理解したはずだ。
……さあ、関係者以外は退室してくれ」
――締め出し。
(くそ……ここで持ち物確認できれば……ほぼ詰みやのに……!)
服部、拳を握る。
その横で――
(おっちゃんやるじゃないか……持ち物確認を最優先に考えてる……)
コナン、冷静に状況を分析。
(ほう……ええ弁論やった……
持ち物確認が核心やと分かっとる証拠やな……
せやけど……警部はんの理屈も崩せへん……)
服部、舌打ち。
そして俺は――
(終わったか……?いや違う……)
考える……
この“締め出し”は不利……だが絶望じゃない……!
――むしろ逆だ。
警察が“正規ルート”で捜査するなら、
証拠は必ず積み上がる……!
(なら……俺たちは“外”から攻める……!)
視線を巡らせる――容疑者たち。
■容疑者プロフィールまとめ(カイジ視点)
◆ 辻村公江(つじむら きみえ)
年齢:50歳
性別:女性
見た目:
上品な和装または落ち着いた洋装。
整った顔立ちで、年齢を感じさせない気品。
姿勢も良く、“外交官の妻”としての格を感じさせる。
印象(カイジ):
(犯人だ……)
◆ 小池文雄(こいけ ふみお)
年齢:48歳
性別:男性
見た目:
中肉中背、スーツ姿。
やや神経質そうな表情で、常に周囲を気にしている。
いかにも“事務的な人間”という印象。
印象(カイジ):
(ビビり……だが、こういう奴ほど何か隠してる可能性もある……)
◆ 辻村貴善(つじむら たかよし)
年齢:27歳
性別:男性
見た目:
若く整った顔立ち。スーツも着こなしている。
育ちの良さを感じさせる雰囲気。
落ち着いているが、どこか影がある。
印象(カイジ):
(若いのに妙に冷静……“何か知ってる顔”だな……)
◆ 桂木幸子(かつらぎ さちこ)
年齢:24歳
性別:女性
見た目:
若く清楚な印象。
控えめな服装で、どこか儚げな雰囲気。
おどおどしていて気が弱そう。
印象(カイジ):
(怯えてる……が、演技の可能性もゼロじゃねえ……油断は禁物……)
◆ 辻村利光(つじむら としみつ)
年齢:78歳
性別:男性
見た目:
白髪で威厳のある老人。
和装が似合う、いかにも“家の重鎮”。
無口で重々しい空気を纏っている。
印象(カイジ):
(圧が強い……この場を支配しているのはこの老人?……)
・そして――“偶然居合わせた俺たち”
ざわ……ざわ……
全員に動機の影……
だが“決定打”がない……!
「……ええやろ」
服部が低く言う。
「警察は警察でやったらええ……
せやけどな……俺らも俺らでやるで」
ニヤリ……挑戦的な笑み。
コナンも静かに頷く。
(警察が全員を同時に取り調べるなら……
現場は一時的に“空く”……そこがチャンス……!)
「……動くぞ」
小声で言う服部。
「それぞれ別れて情報集めや」
ざわ……ざわ……
始まる――
警察は“正攻法”
俺たちは“裏”から
――二重の捜査。
そして俺は思う。
(探偵ランキング2位・5位……そして関西の名探偵……
さらに冥探偵カイジ……)
光じゃない……
正道でもない……
だが――
(こういう“詰みかけ”の局面でこそ……俺は生きる……!)
ざわ……ざわ……