「TVドラマロケ殺人事件」 アニメ第21話参照
俺は、伊藤開司。
その日――なぜか俺は、TVドラマのアシスタントなんてやっていた。
(……人生、何があるか分からねぇ……)
バイトは転々。
気づけば、照明だの小道具だのを運ばされる日々。
現場はピリついている。
原因は一人。
安西。
口が悪い、態度もでかい、典型的なクソ上司。
しかも――
(趣味、最悪……)
腕には、不気味なドクロの時計。
アラームが鳴ると――
ケケケケケ……!
(……気色悪ぃ……!)
現場の空気をさらに冷やす。
(こんなのつけてる時点で終わってる……)
そんな中で、妙に浮いてる話。
アシスタントの井上。
眼鏡で、おさげの真面目そうな女。
それと――
さえないAD、三井。
(……この二人が結婚……?)
(マジかよ……)
(人生、分かんねぇ……)
今回のドラマはホラー。
主演はイケメン俳優・九条。
(……ああいうのがモテるんだろうな……あだ名はナイン。九条の九であり球場のナインでもある)
ぼんやり思いながら作業していると――
視線を感じた。
振り向く。
そこにいたのは――
毛利小五郎。
その隣に――ガキ。
(……ん?)
(あのガキ……)
その瞬間。
(あれ?伊藤カイジさんだ)
(……!?)
心の声。
(なんで俺の名前知ってんだ……!?)
思わず二度見する。
(会ったこと……あったか……?)
(いや……覚えてねぇ……)
(まあいいか……)
(俺の人生なんて、どうせ雑多だ……)
(どっかで絡んだんだろ……)
深く考えるのをやめた。
ロケは無事終了。
そして――
打ち上げ。
「……っ!」
ビールを一口。
(キンッキン……!)
(冷えてやがる……!)
喉を通る黄金の液体。
胃に落ちていく感覚。
(生きてる……!)
テーブルには料理。
肉、揚げ物、刺身。
(……神か……!)
一口、また一口。
(うめぇ……!)
(うますぎる……!)
普段の安酒とは別物。
(これが……“現場の飯”……!)
(最高……!)
自然と顔が緩む。
(こういう瞬間のために……生きてるんだよな……)
ふと視線。
安西が立ち上がる。
「ちょっと用がある」
(……出た……)
(こういう奴は楽しめねぇ……)
(人生損してるタイプ……)
俺は気にしない。
食う。飲む。
それだけ。
だが――
隣に座っている男。
毛利小五郎。
「兄ちゃん、飲んでるか!」
「おお、飲んでますよ!」
意気投合。
(……なんだこの人……)
話が合う。
酒。
麻雀。
競馬。
全部通じる。
(……こんなに合う奴……)
(学校卒業以来、初めてじゃねぇか……?)
しかも――
(心の声が……)
(酒うめぇ……)
(あの姉ちゃんいいな……)
(今日はツイてる……)
(……全部そのまま……)
(裏がねぇ……)
(最高かよ……)
(こういう人間……好きだわ……)
酒が進む。
どんどん進む。
(豪遊……!)
(最高……!)
笑い、飲み、語る。
(楽しい……!)
だが――
飲みすぎた。
(……やべぇ……)
頭が少しフラつく。
「タバコ……」
席を立つ。
外へ。
夜。
空気が冷たい。
(……はぁ……)
一服。
煙を吐く。
(……うめぇ……)
体に染みる。
(酒の後のタバコ……)
(これが一番だ……)
見上げる。
夜空。
星。
静けさ。
さっきまでの喧騒が嘘みたいに遠い。
(……こういう時間……)
(嫌いじゃねぇ……)
風が吹く。
煙が流れる。
(俺……何やってんだろうな……)
ふと、そんな考え。
バイト。
酒。
ギャンブル。
(……でもまあ……)
もう一口、煙を吸う。
(今は……悪くねぇ……)
(少なくとも……)
(あの地獄みたいな日常よりは……)
遠くから笑い声。
(……戻るか……)
だがその時。
かすかな違和感。
(……?)
(なんだ……今の……)
胸の奥がざわつく。
(……気のせいか……?)
煙が、夜に溶ける。
(……まあいい……)
(考えすぎだ……)
だが――
この後。
その“違和感”が、
事件へと繋がるとは――
まだ、この時の俺は知らなかった。
***神視点***
宴の熱気が続く中、ひとり、またひとりと席を立つ者が現れていた。
――伊藤開司。
煙草を求め、夜の外気へと消えていく。
その背を、どこか気にするように見送っていたのが――ADの三井だった。
彼もまた、しばらくして静かに席を立つ。
そして――
「ちょっと外、行かない?」
毛利蘭が、隣にいた少年に声をかける。
江戸川コナンは頷く。
「うん、アイスでも買いに行こうよ」
二人は立ち上がり、外へ向かう。
建物の出口へ向かう途中。
ふと、コナンの視線が動く。
(……?)
階段。
そこを――上がっていく男の姿。
暗がりの中でも分かる特徴。
腕から響く、不気味な音。
ケケケケケ……!
「あ……」
蘭も気づく。
「あれ、安西さん……?」
そう、あの男――安西だった。
不気味なドクロの時計のアラームが、静かな廊下に響いていた。
(こんな時間に……上に……?)
コナンの目が細くなる。
だが――
「ほらコナン君、行こ!」
蘭に促され、外へ出る。
夜風。
静けさ。
だが、その空気は――すぐに変わる。
二人は同時に、足を止めた。
目の前。
まるで地蔵のように、立ち尽くす影。
井上だった。
俯き、微動だにしない。
「……井上さん?」
蘭が声をかける。
「どうしたの?」
ビクッ――
わずかに肩が震える。
「い、いえ……なんでもないです」
顔を上げる井上。
だがその表情は、どこか硬い。
(……何かあった……?)
コナンの直感が警鐘を鳴らす。
しかし井上は、そのまま二人の横を通り過ぎていく。
夜の中へ――消えるように。
「……なんか変じゃなかった?」
蘭が小さく呟く。
「うん……」
コナンは振り返る。
(あの様子……ただ事じゃない……)
だが今は――
「とりあえずコンビニ行こう」
二人は歩き出す。
その途中。
石段の奥――
猪寺の方角。
暗闇の中に、何かが動いた。
(……!)
コナンの目が鋭くなる。
「……誰だ!」
叫ぶ。
影が跳ねる。
そして――逃げた。
「待て!」
駆け出すコナン。
蘭も後を追う。
石段を登る。
一段、一段。
夜の静寂を切り裂く足音。
(さっきの影……安西さんの動き……井上さんの様子……)
(全部繋がってる……!)
やがて――
石段を登り切る。
そこにあったのは、猪寺。
そして――
守り神の像。
巨大な猪。
その前で。
「……!」
蘭が息を呑む。
コナンの瞳が見開かれる。
安西が――
倒れていた。
動かない。
血。
静かに広がる赤。
ケケケケ……というアラームだけが、虚しく鳴り続けている。
「……そんな……」
蘭の声が震える。
コナンはすぐに駆け寄る。
(脈は……)
(……遅い……)
顔を上げる。
(殺されてる……!)
「蘭姉ちゃん!警察呼んで!」
「う、うん!」
蘭が走る。
コナンは周囲を見る。
(ここで何があった……?)
(誰が……?)
(さっきの影……!)
風が吹く。
猪の像が、静かに見下ろしている。
やがて。
サイレンの音。
そして現れたのは――
目暮十三。
「これは……殺人事件だな……!」
現場は一気に緊迫する。
静かな夜は終わりを告げた。
***
ざわ……ざわ……
(……安西が死んだ……?)
その一報を聞いたときの、俺の第一感想。
(……まあ、そうなるわな……)
正直、それだけだった。
あの男は嫌われていた。
口が悪い、空気を壊す、趣味も最悪。
(恨みなんて……腐るほど買ってた……)
(殺されても不思議じゃねぇ……)
むしろ――
(“誰がやったか”の方が重要だ……)
そして。
(……分かってる……)
耳に入ってくる。
あの声。
(くそぉ……ついやってしまった……)
(バレてたまるものか……)
(……九条……)
イケメン俳優、九条。
(お前だな……)
確信。
(今回も……“見えちまった”……)
心の声。
確定情報。
(なら……楽勝……)
いつものパターン。
(どうせ誰かが推理して……終わり……)
視線を流す。
毛利小五郎。
(あのオッサンもいる……)
(今回は俺が出る幕もねぇ……)
(完全に……)
(高みの見物……!)
口元がわずかに緩む。
(しかも今回は……)
自分の状況を確認。
(鞄……問題なし……)
(凶器……入ってねぇ……!)
(現場にもいなかった……!)
(完璧……!)
(疑われる要素……ゼロ……!)
(勝ち……!)
胸の奥で、小さくガッツポーズ。
(……楽な回だな……今回は……)
ざわ……ざわ……
だが――
空気が変わる。
「容疑者を確保しろ!」
低く、鋭い声。
目暮十三。
(……あ?)
次の瞬間。
ガシッ――
腕を掴まれる。
「な……?」
冷たい金属。
カチャリ。
音。
(……え……?)
視線を落とす。
手首。
そこには――
銀色の輪。
手錠。
(……は……?)
思考が止まる。
(……なんだ……これ……)
(なんで……)
「動くな!」
警官の声。
(……俺……?)
「伊藤開司――お前を容疑者として拘束する!」
ざわあああ……
(……はああああ!?)
頭の中で、何かが弾ける。
(なんでだ……!?)
(いやいやいや……!)
(今回……俺……)
(何もしてねぇぞ!?)
心臓が一気に跳ね上がる。
ドクンッ……ドクンッ……
(落ち着け……)
(整理しろ……!)
(状況……!)
・現場にいない
・凶器もない
・動機もない
(完璧に白……!)
(なのに……なんで……!?)
「ちょ、ちょっと待て……!」
声が上ずる。
「俺じゃねぇって!」
「黙れ!」
強く腕を引かれる。
(重い……!)
手錠の重み。
まるで――
罪そのもの。
(ふざけんな……!)
「なんで俺なんだよ!?」
叫ぶ。
その時。
周囲の心の声が流れ込む。
(やっぱりあいつ怪しかったよな……)
(さっき外出てたし……)
(タイミング的に……)
(……は?)
(外出てた……?)
(……俺……タバコ……)
(……それだけで……!?)
さらに。
(くそ……助かった……疑いが逸れた……)
(……!)
九条の声。
(やっぱりお前か……!)
(なのに……!)
(なんで俺が捕まってる……!?)
頭がぐらつく。
(意味が分からねぇ……!)
(理屈が通ってねぇ……!)
(なのに現実は――)
手錠。
拘束。
視線。
(地獄……!)
(またかよ……!)
(毎回毎回……!)
(なんで俺だけ……!)
呼吸が荒くなる。
(……クソ……)
(ふざけんな……!)
だが――
その混乱の中で。
一つだけ、はっきりしていること。
(……犯人は……分かってる……)
九条。
(あいつだ……)
(なら……やることは一つ……)
ゆっくりと、顔を上げる。
(……ひっくり返す……!)
(このクソみたいな状況を……!)
(また……やるしかねぇ……!)
ざわ……ざわ……
(逆転……!)
(ここからが……本番だ……!)
ざわ……ざわ……
「前回は犯人じゃなかったが……」
低く響く声。
目暮十三が、俺を真っ直ぐに見据える。
「今回は言い逃れできないな」
(……は?)
「は?なんで?」
思わず口から出る。
(意味が分からねぇ……!)
「俺の荷物――凶器なし」
手を引っ張りながら、必死に言葉を並べる。
「安西とも一緒にいなかった……!」
(事実……!全部事実……!)
「よって俺が犯人の可能性ゼロ……!」
息が荒い。
「おかしいだろ?」
一瞬の沈黙。
警部はため息をつくように言う。
「そりゃそうだろうな」
(……あ?)
「凶器は現場に落ちていた」
(……!?)
「血のついた包丁がな」
ざわ……
(……包丁……?)
思考が一瞬揺らぐ。
「当然、お前の荷物にはない」
淡々と続ける。
「そして“いなかった証明”はできないだろう?」
(……くっ……)
「お前が席を立った時間――」
「飲みの席にいた関係者から、すでに調書は取っている」
(……!)
(詰めてきやがる……!)
「いや……!」
食い下がる。
「他にも席立ったやついただろ!?」
「俺だけじゃねぇ……!」
声が荒くなる。
「おかしいだろ!」
ざわ……ざわ……
だが――
警部は微動だにしない。
「……今回はな」
ゆっくりと言う。
「決定的証拠がある」
(……!)
(証拠……!?)
「は……ねーよ」
反射的に吐き捨てる。
(あるわけねぇ……!)
(俺はやってねぇ……!)
警部が振り返る。
「鑑識……ライトを当ててくれ」
(……何を……)
次の瞬間。
青白い光。
壁に、床に、照らされる。
そして――
浮かび上がる。
赤黒い、文字。
ざわああああ……
(……は……?)
(なんだ……あれ……)
近づく。
見える。
はっきりと。
血で書かれた文字。
――「カイジ」
ぐにゃあああああ……
世界が歪む。
(……俺の……名前……?)
(……は……?)
(ちがう……)
(ちがうちがうちがう……!)
「……ダイイングメッセージだ」
警部の声が、遠く聞こえる。
「被害者が、死ぬ間際に残した……最後の言葉」
ざわ……ざわ……
(嘘だ……)
(こんなの……)
(俺じゃねぇ……!)
「これでもまだ……言い逃れするか?」
(……くそ……!)
歯を食いしばる。
「……待てよ」
絞り出すように言う。
「これ……本当に俺の名前か?」
「何?」
「“カイジ”なんて……」
指を震わせながら示す。
「ただのカタカナだろ……!」
「……」
「解釈なんていくらでもできる……!」
(そうだ……!)
(こじつけだ……こんなもん……!)
「例えば――」
必死に回す頭。
「“カイ”で止まってたかもしれねぇ……!」
「“ジ”は別の意味かもしれねぇ……!」
「……苦しいな」
冷たい一言。
(ぐっ……!)
「じゃあ聞くが」
警部が一歩踏み出す。
「なぜ被害者は、その“曖昧な言葉”をわざわざ残す?」
(……!)
「死ぬ間際だぞ?」
「普通は、もっと明確に書くだろう」
「犯人を伝えるためにな」
ざわ……
(……確かに……)
(でも……!)
「それに――」
さらに畳みかける。
「この現場にいる中で、“カイジ”に該当する人物は一人だ」
指が、俺に向く。
(……やめろ……!)
「伊藤開司」
(……やめろ……!)
「お前しかいない」
ざわあああ……
(違う……!)
(違う……違う違う……!)
頭が真っ白になる。
(なんでだ……!)
(なんで俺の名前が……!)
(俺はやってねぇ……!)
(なのに……証拠は俺を指してる……!)
呼吸が乱れる。
ドクン……ドクン……
(……またか……)
(また……このパターンか……!)
絶望。
だが――
その奥で。
(……いや……)
かすかな火。
(終わりじゃねぇ……)
(まだだ……)
ゆっくりと顔を上げる。
(こんなもんで……終われるか……!)
(必ず……ひっくり返す……!)
ざわ……ざわ……
(逆転……)
(この地獄を……ぶち壊す……!)
(……大丈夫だ……)
心の中で、何度も繰り返す。
(俺は無実……)
(やってねぇ……)
(今回は違う……)
呼吸を整える。
(今回は……“あいつ”がいる……)
視線を向ける。
毛利小五郎。
(さっき……あの席で……)
酒。
笑い。
語り。
「兄ちゃん!お前、話わかるなぁ!」
「いやいや、小五郎さんこそ!」
(あの瞬間……)
(確かに通じ合った……!)
「今度麻雀やろうぜ!」
「いいですね!」
「競馬もな!」
「乗りますよその話!」
(あれは嘘じゃねぇ……)
(あの空気……)
(あの熱……)
(親友……!)
(マブダチ……!)
さらに思い出す。
「もしよぉ、俺が犯人に疑われたら助けてくれます?」
「はっはっは!任せとけ!」
(……言った……!)
(あの人は言った……!)
(だから……)
(大丈夫……!)
ゆっくりと顔を上げる。
(頼むぞ……親友……!)
――そして、見た。
真っ赤な顔。
ネクタイを頭に巻き。
「スピー……スピー……」
(……は?)
一瞬、思考が止まる。
(……寝てる……?)
(いや……嘘だろ……?)
近づく。
揺らす。
「おい……!」
反応なし。
「おい小五郎さん!」
さらに揺らす。
「起きろって!」
ガクガクガクガク……!
(起きろ……!)
(今だぞ……!)
(ここで寝るな……!)
「スピー……スピー……」
(……起きねぇ……)
(こいつ……マジで……)
(完全に……落ちてる……!)
(終わった……)
(俺の“希望”……寝てる……!)
絶望がじわじわと広がる。
(ふざけんな……!)
(さっきまであんなに盛り上がって……)
(親友とか言って……)
(このタイミングで寝るか普通……!?)
(タイミング最悪すぎるだろ……!)
背中に冷たい汗。
その時。
「……無駄だ」
低い声。
振り向く。
目暮十三。
「その様子じゃ、しばらく起きんだろう」
(……くそ……!)
「それより――」
一歩近づいてくる。
「話を続けようか」
(来る……!)
(第二ラウンド……!)
「お前みたいな奴はな……」
じっと見下ろされる。
「やると思っていた」
(……は?)
「……なんだと?」
「ギャンブル漬けの生活」
「定職にもつかず、フラフラしている」
「金もない」
一つ一つ、突き刺さる。
(……やめろ……)
「そういう人間はな」
冷たい声。
「衝動で人を殺すことがある」
ざわ……
(……違う……!)
「特に今回のような――」
「人間関係のトラブル」
「酒の席」
「夜」
「条件は揃っている」
(違う……!違う違う……!)
「しかも」
さらに近づく。
「お前は現場近くにいた」
「名前も残っている」
「言い逃れはできん」
ざわ……ざわ……
(……やめろ……!)
(勝手にストーリー作ってんじゃねぇ……!)
「違う!!」
叫ぶ。
「全部想像だろそれ!」
「証拠じゃねぇ!」
「俺はやってねぇ!」
声が震える。
(くそ……!)
(論理じゃねぇ……)
(感情で潰しにきてやがる……!)
「……だがな」
警部は動じない。
「状況は、お前が犯人だと示している」
(……くそ……!)
(流れが……悪い……!)
背後では――
「スピー……スピー……」
(寝てる……)
(俺の親友……爆睡……!)
(役に立たねぇ……!)
(完全に孤立……!)
心臓が激しく鳴る。
(……まただ……)
(またこの展開……!)
(地獄……!)
だが――
奥底で、何かが燃える。
(……いや……)
(まだ終わってねぇ……)
(俺は知ってる……)
(犯人……)
九条。
(あいつだ……)
(なら……)
拳を握る。
(やることは一つ……)
(このクソみたいな流れ……)
(ぶっ壊す……!)
ざわ……ざわ……
(逆転……!)
(ここからだ……!)
(……まだだ……!)
俺は必死に、毛利小五郎の肩を掴む。
ガクガクガクガク……!!
「起きろ……!おい……!」
(起きろ……!頼む……!)
(夜風……当たってる……!)
(そのうち覚める……!)
(それまで――)
(粘る……!)
(ごねる……!)
(押し通す……!)
(俺は犯人じゃねぇんだから……いける……!)
振り向く。
「ダイイングメッセージだけで――」
声を張る。
「俺を犯人扱いかよ!?」
ざわ……
(来い……反論……!)
だが――
「高木君」
目暮十三が静かに言う。
「動機は聞いてきたかね」
(……動機……!?)
(まずい……)
横から声。
「はい……」
高木渉。
「どうやら安西は……カイジさんを、だいぶ罵っていたようです」
(……ああ……)
(それは事実だ……)
「“クズ”とか……“ノロマ”とか……“役立たず”とか……」
ざわ……
(くそ……)
(思い出させるな……)
「そして――」
一拍。
「“安西死ね”と、5回は言っていたそうです」
(……!!)
(やばい……!)
(確かに言った……!)
(しかも5回どころじゃねぇ……!)
(10回は言ってる……!)
(いや……それ以上……!)
(完全にアウトの発言数……!)
背中に冷たい汗。
(まずい……流れが……!)
「もちろん他の人も安西を嫌っていたようですが……」
高木が続ける。
「“死ね”と言ったのは、カイジさんだけです」
ざわああ……
(終わった……!)
(俺だけピンポイント……!)
(なんだこの状況……!)
(不利すぎる……!)
「……言ったのか?」
低い声。
警部。
(……ここは……)
(逃げられねぇ……!)
(嘘ついたら終わる……!)
歯を食いしばる。
「……言いました」
ざわ……
(くそ……!)
「目暮警部……あと……」
(……まだあるのか……!?)
「なんだ?」
「“安西殺す”“ぶっ殺す”というのも……3回は言っていたそうです」
(――詰んだ……)
(それも言った……!)
(完全に言った……!)
(言い返しで……!)
(あいつが煽ってきたから……!)
(でも……通じねぇ……!)
(ここは“普通の社会”……!)
(俺の育った場所じゃねぇ……!)
(“言葉の応酬”なんて文化……通じねぇ……!)
「……言ったのか?」
警部の視線。
(くそ……!)
「いや……!」
必死に食い下がる。
「あれは――安西からだ!」
「……?」
「カイジを殺すって、あいつが先に言ってきたんだよ!」
身振り手振り。
「だから言い返しただけで……!」
「たまたま……!」
「言葉のあやというか……!」
(頼む……!)
(通ってくれ……!)
一瞬の沈黙。
そして――
「……言葉のあや、ねぇ」
冷たい声。
(……まずい……)
「“3回”も言うか?」
(……!)
「1回ならまだ分かる」
一歩、近づく。
「だが3回だ」
(詰めてくる……!)
「それはつまり――」
一拍。
「殺意があった、ということだな?」
ざわあああ……
(違う……!)
(違う違う違う……!)
「違う!」
叫ぶ。
「それは違う!」
「売り言葉に買い言葉だろうが!」
「本気じゃねぇ!」
だが――
「だが現実には」
警部は動じない。
「お前は“殺す”と言っている」
(……くそ……!)
「被害者も、それを受けて――」
指を、血文字へ。
「お前の名前を書いた」
(……!)
「これが偶然だと言うのか?」
ざわ……ざわ……
(……追い込まれてる……)
(論理で……潰されてる……!)
(くそ……!)
後ろでは――
「スピー……スピー……」
(……寝てる……)
(親友……爆睡……!)
(なんでだよ……!)
(ここで起きろよ……!)
拳を握る。
(……だが……)
(まだだ……!)
(まだ終わってねぇ……!)
(時間を稼げ……!)
(あいつが起きるまで……!)
(それか……)
(俺が……ひっくり返す……!)
ざわ……ざわ……
(逆転……!)
(ここからだ……!)
(……やばい……)
ざわ……ざわ……
(この状況で……)
(九条が犯人だ、なんて言っても……)
(ただの“苦し紛れ”にしか見えねぇ……)
(俺でも分かる……)
冷静な自分が、はっきりと断言する。
(証拠なし……動機なし……)
(ただの言いがかり……)
(そんなもん通るわけねぇ……!)
だが――
(……それでも……)
(このまま黙ってたら終わる……!)
視界の端。
血文字。
「カイジ」
ぐにゃああああ……
(最悪……!)
(状況証拠……完璧……!)
(殺意あり……名前一致……)
(誰が見ても……俺が犯人……!)
(小学生でも分かるレベル……!)
(詰み……!)
喉が乾く。
(……くそ……)
(見切り発車でも……やるしかねぇ……!)
(ただ……その前に……)
(感情で揺さぶる……!)
顔を上げる。
「警部さん……!」
声を絞り出す。
目暮十三を真っ直ぐ見る。
「信じてくれ……!」
ざわ……
「俺が……」
拳を握る。
「殺人なんてやるような人間に見えるか?」
(頼む……!)
(少しでも……揺れろ……!)
一瞬の沈黙。
警部は、じっと俺を見る。
そして――
「……見えるな」
(――っ!!)
心臓が跳ねる。
(来た……!)
「な……!」
言葉が詰まる。
「なに言って……!」
だが警部は止まらない。
「まず第一に――」
指を一本立てる。
「お前は被害者とトラブルを起こしている」
(……!)
「しかも激しい口論だ」
「“死ね”“殺す”という発言も確認されている」
ざわ……
(くそ……!)
「第二に――」
もう一本。
「現場付近にいた」
「席を立った時間と、犯行推定時刻が重なる」
(……タイミング……!)
(最悪の一致……!)
「第三に――」
さらに一本。
「ダイイングメッセージだ」
血文字を指す。
「“カイジ”」
ざわああ……
(……やめろ……)
「これは被害者が死の直前に残したものだ」
「信憑性は極めて高い」
(くそ……!)
「そして最後に――」
警部の目が鋭くなる。
「お前の人格だ」
(……!)
「定職にもつかず」
「ギャンブルに明け暮れ」
「衝動的で、感情的」
「口論で簡単に激昂する」
一つ一つ、突き刺さる。
(……やめろ……!)
「そういう人間が――」
一歩踏み出す。
「衝動的に人を殺す」
「これは、珍しい話ではない」
ざわ……
(違う……!)
(違う違う違う……!)
「以上を総合して――」
静かに告げる。
「お前が犯人である可能性は、極めて高い」
(……終わった……)
(完全に……論理が完成してる……)
(俺を犯人にする“ストーリー”が……出来上がってる……!)
呼吸が浅くなる。
(このままじゃ……)
(本当に終わる……!)
だが――
その奥で。
(……いや……)
(まだだ……)
(俺は知ってる……)
(真犯人……!)
九条。
(あいつだ……)
(なら……)
唇を噛む。
(やるしかねぇ……!)
(ハッタリでも……)
(押し通す……!)
ざわ……ざわ……
(ここから……)
(大博打……!)
(外せば即死……!)
(だが……)
(やるしかねぇ……!)
ゆっくりと、口を開く。
(逆転……)
(始めるぞ……!)
(……親友……)
ちらりと見る。
毛利小五郎。
「スピー……スピー……」
(……寝てる……)
(完全に……戦力外……!)
(なら……)
(俺がやるしかねぇ……!)
腹を括る。
(行くぞ……!)
「なぁ……!」
声を張る。
「犯人は俺じゃない……」
一拍。
「九条だ」
ざわあああ……
空気が一気に揺れる。
「何を言っている?」
目暮十三の低い声。
(来る……!)
「俺には分かるんだ」
強引に押す。
(ハッタリでもいい……!)
(押し通せ……!)
だが――
「苦し紛れだな」
即座に切り返される。
「九条君にはアリバイがある」
(……は?)
思考が止まる。
「……アリバイ?」
ざわ……ざわ……
「まず――」
警部が淡々と説明する。
「毛利蘭君と江戸川コナン君が、逃げる人影を見たのが22時30分」
(……!)
「その時――」
指が、九条へ向く。
「九条君は宴会の席にいた」
ざわああ……
(……は?)
(どういうことだ……?)
「そして――」
俺を見る。
「カイジ」
(……くる……)
「お前はその時間、アリバイがない」
ざわあああ……
(……やべえ……)
(完全に……逆転されてる……!)
(俺が攻めたはずなのに……)
(逆に刺されてる……!)
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
(待て……整理しろ……!)
(22:30……目撃……)
(同時刻に九条は宴会……)
(じゃあ……)
(犯人は九条じゃない……?)
(いや……違う……!)
(心の声は確かに……!)
(“やってしまった”って……!)
(なら……)
(どういうことだよ……!?)
心臓がバクバク鳴る。
(……落ち着け……!)
(こういう時だ……!)
(俺の能力……!)
(心の声を……!)
耳を澄ます。
(……九条……!)
(聞こえろ……!)
だが――
ノイズ。
ざわざわ……ざわざわ……
(……くそ……!)
(聞こえねぇ……!)
(動揺してると……ダメだ……!)
(未完成……このクソ能力……!)
(肝心な時に……使えねぇ……!)
歯を食いしばる。
(考えろ……!)
(九条が犯人だと仮定する……)
(なら……)
(同時刻に別の場所にいるのはおかしい……)
(つまり……)
(分身……?)
(いや……)
(双子……!)
「……双子だ!」
思わず叫ぶ。
ざわ……
「九条は双子なんだ!」
「だから一人は宴会……もう一人が犯行!」
(どうだ……!)
(ありえる……!)
だが――
「違うな」
即答。
(……は?)
「九条君に双子はいない」
(即否定……!?)
(調べてる……!)
(完全に潰された……!)
(くそ……!)
(なら……!)
(時間……!)
(時間がズレてる……!)
「時間だ!」
必死に食い下がる。
「22:30ってのが違うんだ!」
「ズレがあったんだよ!」
ざわ……ざわ……
(頼む……!)
(そこしかねぇ……!)
だが――
「それもない」
冷酷な一言。
(……終わった……)
「複数の証言が一致している」
「時間は正確だ」
ぐにゃあああああ……
世界が歪む。
(……なんだよ……これ……)
(詰んでるじゃねぇか……)
(犯人分かってるのに……!)
(九条だって確信してるのに……!)
(全部……論理で否定される……!)
(この能力……)
(チートのはずだろ……!?)
(なのに……!)
(現実じゃ……役に立たねぇ……!)
膝が震える。
(おかしいだろ……!)
(なんでだよ……!)
(なんで……こんな……!)
ざわ……ざわ……
だが――
その絶望の底で。
ほんのわずかに。
(……いや……待て……)
(何かが……ズレてる……)
(22:30……)
(“見た時間”……?)
(本当にそれ……正しいのか……?)
心の奥で、何かが引っかかる。
(……まだだ……)
(まだ終わってねぇ……)
(この違和感……)
(ここに……突破口がある……!)
ざわ……ざわ……
(逆転……)
(まだ……いける……!)
ざわ……ざわ……
「警部、鑑識結果出ました」
その一言で、空気が変わる。
(……来た……)
嫌な予感。
的中。
「包丁の指紋は――」
一瞬の間。
(やめろ……)
「カイジさんの指紋だけです」
ぐにゃあああああ……
(……は?)
頭が白くなる。
(俺の……指紋……?)
「これ、ドラマで用意されていた小道具でした。プロデューサーの諏訪さんに確認しました」
(……!)
(小道具……)
(……あ……)
記憶が蘇る。
(見覚え……ある……)
血のついた包丁。
(あれ……)
(俺が……管理してたやつだ……)
背中に冷たい汗が一気に噴き出す。
「なので入手は簡単です」
鑑識の声が続く。
「小道具係のカイジさんなら、すぐに持ち出せる」
ざわあああ……
(……終わった……)
(完全に……繋がった……)
・ダイイングメッセージ「カイジ」
・口論、殺意発言
・現場付近にいた
・アリバイなし
・凶器に指紋
・しかも入手経路まで完璧
(……役満……!)
(犯罪者としての“完成形”……!)
(ここまで揃うか普通……!?)
呼吸が浅くなる。
(違う……!)
(全部……違う……!)
(俺はやってねぇ……!)
だが――
現実は。
(全部……俺を指してる……)
ざわ……ざわ……
視線。
刺さる。
(疑い……確信……)
(“犯人を見る目”……)
(やめろ……!)
その時。
低く、重い声。
「……もうあきらめろ」
振り向く。
目暮十三。
一歩、近づいてくる。
圧。
空気が重くなる。
「カイジ……」
名前を呼ばれる。
(……くる……)
「お前がやったのは明白だ」
ざわあああ……
(……違う……)
(違う違う違う……!)
心の中で叫ぶ。
だが声にならない。
(どうする……?)
(どうする……!?)
頭をフル回転。
(指紋……)
(なんで俺のだけ……!?)
(いや……)
(小道具……触ってる……!)
(当たり前だ……!)
(管理してたんだから……!)
(でも……)
(“俺だけ”ってのはおかしい……!)
(他の奴も触ってるはず……!)
(なのに……)
(なんで……!?)
思考が絡まる。
(くそ……!)
(罠だ……)
(完全に……仕組まれてる……!)
その瞬間。
一つの確信。
(……犯人……)
(相当頭いい……)
(証拠を……“俺に寄せてる”……)
(全部……意図的……!)
(ダイイングメッセージも……)
(指紋も……)
(アリバイも……)
(全部……!)
背筋がゾッとする。
(……やべぇ相手だ……)
だが――
同時に。
(……だからこそ……)
(どこかに“歪み”がある……)
(完璧すぎる……)
(完璧な偽装は……逆に不自然……!)
目を細める。
(探せ……!)
(必ずある……!)
「……違う」
小さく呟く。
警部が眉をひそめる。
「なんだ?」
ゆっくり顔を上げる。
(まだだ……)
(終わってねぇ……)
(ここから……)
拳を握る。
(ひっくり返す……!)
ざわ……ざわ……
(逆転……)
(この地獄……ぶち壊す……!)
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普通
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