心読みの逆転探偵録 カイジVS名探偵コナン   作:梅酒24

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ファイル9:怪盗キッドと黒い糸

ガタン……ゴトン……

 

電車に揺られる。

 

一定のリズム。

 

(……眠い……)

 

俺は窓側の席に座りながら、目を閉じていた。

 

なぜこんな状況になっているのか――

 

理由はシンプル。

 

俺は今――

 

服部平次、そしてコナンと3人で居候生活をしているからだ。

 

(なんでこうなった……)

 

コナンは次の日の朝、あの博士とかいうじいさんに送られて普通に復活。

 

風邪は治ったらしい。

 

(子供の回復力……バグだろ……)

 

で、服部が――

 

「工藤んち行くぞ」

 

と言い出してな。

 

行った。

 

……が。

 

(……誰もいねえ)

 

家は静まり返ってる。

 

ホコリこそないが――

 

明らかに人の気配が薄い。

 

「工藤どこ行ったんや……?」

 

服部は首をかしげていたが――

 

(知らねえよ……)

 

そんなこんなで、気づけば3日。

 

3日も経てば――

 

飽きる。

 

「なあカイジ!」

 

「なあこれどう思う?」

 

「なあ東京って――」

 

(うるせえええええ!!!!)

 

服部、うるさい。

 

とにかくうるさい。

 

(ずっと話しかけてくるな……!)

 

というわけで――

 

「……今日は1人で出る」

 

逃げた。

 

そして今。

 

電車。

 

だが問題がある。

 

(席……譲りたくねえ……)

 

目の前に立つ人影。

 

(でも俺は譲らない……!)

 

だから――

 

寝たふり。

 

完璧な作戦。

 

(……)

 

その時――

 

(やべええ。カイジがいるじゃん、でも寝ている……気付かれないように)

 

……来た。

 

(……聞こえる)

 

(心の声……復活……!)

 

(なんだこれ……)

 

(もしかして……酒?)

 

昨日のビールを思い出す。

 

(飲みすぎると精度落ちるのか……?)

 

(あのパンツ事件の時もなんか曖昧だったし……)

 

(まあいい……)

 

ゆっくり目を開ける。

 

そこにいたのは――

 

(……誰だ?)

 

工藤に似てる。

 

でも違う。

 

顔の輪郭、雰囲気。

 

似てる。

 

だが――

 

(なんか違う……)

 

その瞬間。

 

(くそ目覚ました……いや、俺変装していなくて素顔知らんし、気付かないか)

 

(……!!)

 

(こいつ……)

 

(キッド……!)

 

怪盗キッド。

 

(なるほどな……)

 

(確かに雰囲気は似てる)

 

(でもまあ最近こういう髪型多いしな……)

 

センターパートだのマッシュだの。

 

みんな同じ。

 

(俺は似合わねえが……)

 

(多分工藤に影響されたやつだろ……)

 

で。

 

隣を見る。

 

(女……?)

 

しかも――

 

(ちょっと蘭ちゃんに似てねえか……?)

 

(おいおいおい……)

 

(ロマンチック泥棒かよ……)

 

俺は立ち上がる。

 

ゆっくり。

 

そして――

 

キッドの前に移動。

 

前かがみになって――

 

じーーーっ……

 

(間違いねえ)

 

(怪盗キッドだ)

 

(よし……)

 

口を開く。

 

「怪――」

 

その瞬間。

 

ガシッ!!

 

口を塞がれる。

 

「!?」

 

至近距離。

 

キッドの顔。

 

そして心の声。

 

(やめろやめろカイジ)

 

(ここでバラすな……!)

 

ざわ……

 

(面白え……)

 

(こいつ……焦ってやがる……!)

 

俺の中で、ニヤリと何かが動いた。

 

(いいぜ……)

 

(少し遊んでやるか……)

 

電車の中――

 

静かな駆け引きが始まる。

 

「カイト、どうしたの?その人知り合い?」

 

(……カイト?)

 

心の中で引っかかる。

 

(やっぱカイトか……)

 

(ってことは――怪盗キッド……!)

 

(なるほどな……)

 

(俺と同じじゃねえか……)

 

(表の顔と裏の顔)

 

(悪魔皇帝カイザー……あの黒歴史……)

 

「ああ」

 

キッド――いやカイトは、平然と答える。

 

「今、カイって?なに?」

 

(やべえ……来たな……)

 

「それはな……、この人カイジさんなんです」

 

(おいおいおいおい……!!)

 

(今、言おうとしてたよな……!?)

 

(怪盗キッドって!!)

 

(くそ……!気付け……!)

 

(空気読め……!)

 

(……いや待て)

 

(こういうときは……取引だ)

 

(なんか奢らせれば……)

 

(こいつ合わせるタイプだろ……)

 

一瞬で結論。

 

(よし……)

 

俺は叫ぶ。

 

「カイジ!僕カイジ!!!!」

 

車内に響く声。

 

(……伝わったが!)

 

(無理矢理すぎるだろ!!)

 

一瞬の間。

 

そして――

 

「カイジは、しゃべるときの一言目が必ずカイジなんだ……!!なぁ」

 

(……乗った)

 

(こいつ……適応力高ぇ……!)

 

「カイジ!!そうなんです」

 

(キャハハハハハハハ)

 

(……てめえ)

 

(心の中で笑ってんじゃねえよ!!)

 

(そのキャラ付けなんだよ!!)

 

(絶対あとで請求してやる……!)

 

「ちょいっとカイジと話してくるわ」

 

「カイジ!!了解!!」

 

(なんだこの会話……)

 

電車の隅へ移動。

 

人の少ないスペース。

 

そこで俺は一気に詰める。

 

「お前、何が一言目は必ずカイジだ!さすがにアホすぎだろ……」

 

「すまんすまん!」

 

軽い。

 

とにかく軽い。

 

「怪盗キッドって言おうとしてたから……」

 

(やっぱりか……)

 

「秘密にしてるのか?」

 

「バーロー!当たり前だろ、それくらい分かれよ」

 

(……なるほどな)

 

(派手にやってるくせに、正体は隠すタイプか……)

 

「まぁ俺も悪魔皇帝カイザー名乗ってたときは一部の人しか知らなかったからな」

 

「なんだよ、それ」

 

(説明したくねえ……)

 

(あれは……墓まで持っていくやつだ……)

 

俺はすぐ切り替える。

 

「とりあえず、これは貸し。飯奢れよ、高級の」

 

(当然の要求)

 

「わーったよ」

 

あっさり。

 

(軽っ……)

 

「連絡先交換しとく!暇な日教えて」

 

「俺毎日暇、今、ニート」

 

「何したんだよ?」

 

「フーデリで凍結。ちょっとやらかした」

 

(ちょっとじゃねえがな……)

 

「しゃーねーな、年上のクズに奢ってやるよ」

 

(クズ言うな)

 

「高級車で迎えに行くぜ!明日」

 

「そういう冗談いらねえよ」

 

「マジで黒塗りの高級車。じーやが運転する」

 

(……は?)

 

一瞬、思考が止まる。

 

(いやいやいや……)

 

(漫画じゃねえんだから……)

 

「いやいや、まぁいい。明日な」

 

(どうせ来ねえだろ……)

 

(でも……)

 

(もし来たら……)

 

(それはそれで……面白えな……)

 

ざわ……

 

怪盗キッド。

 

謎の女。

 

高級車の約束。

 

(なんか……)

 

(妙な流れになってきたな……)

 

電車は進む。

 

次の波乱を乗せて――

 

そして――次の日。

 

(……来ねえだろ、どうせ)

 

そう思っていた俺の予想は――

 

完全に裏切られた。

 

ブロロロ……

 

毛利探偵事務所の前に止まる――

 

黒塗りの高級車。

 

(……は?)

 

重厚なドア。

 

艶のあるボディ。

 

そして――

 

スーツ姿の老人。

 

背筋ピン。

 

完全に“執事”。

 

(マジかよ……)

 

(じーや……いるタイプかよ……)

 

現実離れした光景に、俺は一瞬固まる。

 

ピンポーン……

 

チャイムが鳴る。

 

なぜか――

 

服部が出る。

 

「ほな、工藤どこに行ってたんだよ!!!!」

 

(……は?)

 

いきなり怒鳴るな。

 

(……てか)

 

(俺……わりと工藤新一に似てるって言われるけど)

 

(そんな似てるか……?)

 

その時――

 

蘭とコナンも顔を出す。

 

(工藤新一の訳……)

 

蘭の心の声。

 

「新……いや、違うわ、この人」

 

(危ねえ……)

 

「俺のとも……腐れ縁の怪……」

 

グッ!!

 

キッドの足が踏まれる。

 

(ナイス……止めたな)

 

「かい?」

 

コナン。

 

「かい?」

 

服部。

 

(来たなこの流れ……)

 

「カイトです!黒羽カイトです!!!!」

 

(強引……!)

 

「工藤新一にたまに間違えられます」

 

(まぁ……間違えられるだろうな……)

 

その瞬間。

 

(西の探偵服部平次もいたのか……名探偵毛利小五郎、毛利蘭、あとコナンという坊主、それにカイジ……なかなか面白い奴ら集まってるなぁ……とりあえずカイジの居場所も分かったし、儲け)

 

(……余裕だなこいつ)

 

(完全に楽しんでやがる)

 

「言われてみれば違うな」

 

服部が腕を組む。

 

「工藤と違って神経質そうじゃなさそうだし、ムキにならなそうな感じやな」

 

(神経質で悪かったな服部)

 

どこかから聞こえる工藤の声。

 

(いねえのに存在感あるなあいつ……)

 

俺はすかさず前に出る。

 

「俺、カイトに飯奢って貰うんだ」

 

ざわ……

 

空気が変わる。

 

「カイジ……お前本当クズやな……年下相手に」

 

(……しまった)

 

(正論……!)

 

(ぐうの音も出ねえ……!)

 

評価ダウン。

 

確実に下がる。

 

(だが……)

 

(もう引けねえ……!)

 

ここで引いたら――

 

ただのダサいクズ。

 

「いや違うんだって服部」

 

「違わんやろ」

 

即ツッコミ。

 

「向こうから言ってきたんだよ!」

 

「ほう?」

 

蘭がじっと見る。

 

(視線が痛え……)

 

「カイトくん、本当なの?」

 

「まぁ……」

 

キッド、ニヤリ。

 

「世話になったんで」

 

(言い方うまっ……!)

 

(俺が一方的にたかってる感じが消えた……!)

 

「ええやんカイジ」

 

服部が笑う。

 

「たまには運ええこともあるんやな」

 

(たまにはってなんだ)

 

コナンがじっと見る。

 

(この人……また変なことに巻き込まれてる……)

 

(なんだその目は)

 

蘭は少し安心したように笑う。

 

「じゃあ、せっかくだし楽しんできてね」

 

(……)

 

(なんだろうな……)

 

(ちょっとだけ……)

 

(罪悪感……)

 

いや違う。

 

(これは……)

 

(チャンスだ……!)

 

高級飯。

 

黒塗りの車。

 

怪盗キッド。

 

(人生……たまにこういうボーナスあるからやめられねえ……!)

 

ざわ……

 

俺の中で何かが弾ける。

 

(今日は……勝ち組だ……!)

 

そして俺は――

 

黒塗りの車へと歩き出す。

 

(どんな店連れてく気だ……)

 

(寿司か……?焼肉か……?)

 

(いや……それ以上か……?)

 

期待と不安が入り混じる中――

 

新たな一日が動き出す。

 

連れてこられたのは――

 

高級焼肉屋。

 

(……ここ……)

 

店の前で足が止まる。

 

(見覚え……あるな……)

 

中に入る。

 

重厚な扉。

 

静かな空気。

 

上品な煙の匂い。

 

案内される。

 

席。

 

(……ここだ)

 

ヨーコちゃんと来た、あの席。

 

(なんで同じ席なんだよ……)

 

胸の奥が、チクッとする。

 

(……いや)

 

(別に……)

 

(ただの焼肉屋だろ……)

 

でも違う。

 

あの時の空気。

 

笑い声。

 

ぎこちない会話。

 

(……くそ)

 

思い出す。

 

そして――

 

その席に座るのは――

 

キッド。

 

(よりによって……)

 

「カイジ、何か思い出しているな?図星だろ」

 

(……読まれてる)

 

「ちげーよ」

 

即答。

 

(……いや、思い出してたけどな)

 

(ヨーコちゃん……)

 

(元気にしてるか……)

 

一瞬だけ、心が沈む。

 

「とりあえず、敵情視察を兼ねているんだよね、俺」

 

(敵情視察?)

 

「まず俺の推察聞いてくれ」

 

「なんだよ?」

 

キッドは肉を焼きながら、淡々と話し始める。

 

「カイジは俺がキッドであるけど通報しない理由はなんだ?」

 

(……は?)

 

「は?いやいや、通報しても面倒なだけだろ」

 

本音。

 

(たかがコスプレして人を困らすことが好きないきってる男を通報とか)

 

(また警部に怒られるだろ……)

 

「でも豪華客船では俺を詰めてきたよな」

 

(……ああ)

 

「1回目はお説教!盗もうとしてたから」

 

「でも通報はしないんだろ?今!」

 

「ああ」

 

即答。

 

「なんであのときは詰めてきたんだよ」

 

(……それはな)

 

「それは俺に似ていたからだ」

 

言葉に出した瞬間――

 

少しだけ恥ずかしくなる。

 

「犯罪に手を染めて欲しくなかったんだよ」

 

(……なんだこれ)

 

(俺……いいこと言ってね?)

 

「俺イエローカードを出していたんだ、警告を2回した。でもお前無視、3回目だから説教」

 

キッド、一瞬止まる。

 

そして――

 

「あはははは」

 

笑い出す。

 

(なんだよ……)

 

「なんだよそれ、俺てっきり中森警部の指金かと思ってたわ」

 

(警察とグル扱いかよ……)

 

「結構いいやつじゃん」

 

「だろ?」

 

反射で言ってしまう。

 

「自分でいうな」

 

(しまった……)

 

ペースに飲まれてる。

 

「じゃあ2回目に俺を詰めてきたのは?」

 

(……あれか)

 

「あれは一つ目は金券100万円が貰える」

 

「二つ目は、飯食ってたのに煙もくもくされてむかついた」

 

「三つ目は、お前が騒ぎ起こすと多分俺のせいになるから」

 

キッド、箸を止める。

 

「三つ目はどういうことだよ」

 

(ここ……重要)

 

「いや、俺事件に巻き込まれやすいタイプ……」

 

(これはマジ)

 

「それで毎回疑われるんだよ……全く最悪だよ」

 

(ほんとにな……)

 

(何もしてないのに犯人候補……)

 

(あの空気……地獄だ……)

 

キッドはじっと俺を見る。

 

「ふーん」

 

そして一言。

 

「そうは見えないけどね」

 

(……は?)

 

「結構楽しんでるって顔している」

 

(……)

 

(え?)

 

一瞬、思考が止まる。

 

「え?マジか」

 

思わず口に出る。

 

(俺……)

 

(楽しんでる……?)

 

思い返す。

 

ギリギリの状況。

 

疑われる恐怖。

 

逆転の一手。

 

ざわ……

 

(……確かに)

 

(あの瞬間……)

 

(生きてる感じ……するんだよな……)

 

焼肉の煙がゆらめく。

 

その向こうでキッドが笑う。

 

(……なんだこいつ)

 

(人の本質、見抜いてきやがる……)

 

肉が焼ける音。

 

ジュウウウ……

 

(……まぁいい)

 

(今日は……)

 

(食うことに集中だ……!)

 

目の前の高級肉に箸を伸ばす。

 

(これは……うまい……!)

 

ざわ……

 

非日常の中で、俺は少しだけ――

 

自分のことを考えていた。

 

「聞かせろよ、それらの話」

 

キッドが軽く指を鳴らす。

 

店員が来る。

 

「ビールも」

 

(……おい)

 

(気が利くじゃねえか)

 

ジョッキが置かれる。

 

泡、黄金色。

 

(高級焼肉にビール……)

 

(勝ちだろ……今日は……!)

 

グイッ――

 

喉を通る。

 

(うめえ……!)

 

一気に気が緩む。

 

(……まずいな)

 

(これ……喋る流れだ)

 

「で?」

 

キッドが笑う。

 

「どうやって毎回犯人にされるんだ?」

 

(その聞き方やめろ)

 

だが――

 

話し出す。

 

あの館長の件。

 

鉄パイプ。

 

指紋。

 

冤罪寸前。

 

外交官の事件。

 

奥さん。

 

毒針。

 

密室。

 

(なんで俺……こんな目に……)

 

語れば語るほど――

 

ざわ……

 

自分の人生の異常さが浮き彫りになる。

 

話し終わる。

 

一瞬の静寂。

 

そして――

 

キッド、吹き出す。

 

「はははははは!!」

 

(……おい)

 

「さすがに運がない!」

 

(うるせえ)

 

「よく逆転できたな!」

 

(……まぁな)

 

「ピタゴラスイッチ並みにカイジが犯人になるんだな」

 

(否定できねえ……)

 

「最悪だよ……俺の時間だけが浪費される?」

 

本音。

 

(ただ巻き込まれて……)

 

(疑われて……)

 

(命削って……)

 

なのに――

 

「そうか?」

 

キッド、ニヤリ。

 

「聞いていると有意義な気がするぜ」

 

(……は?)

 

「は?どういうことだ?」

 

キッドは肉をひっくり返しながら言う。

 

「まずカイジ、成長してるだろ!」

 

(……)

 

「推理力や反論力とか」

 

(……確かに)

 

「それに仲間もできている」

 

(コナン……歩美ちゃん……)

 

「尊敬する師匠もいる」

 

(こうちゃん……)

 

「あと小学生にも仲間だと思われている」

 

一拍。

 

そして――

 

「これは同レベルということかはははは」

 

「馬鹿野郎!!!!」

 

即ツッコミ。

 

(そこは違うだろ!!)

 

でも――

 

ざわ……

 

心の奥で、何かが引っかかる。

 

(……成長……?)

 

思い返す。

 

今までの俺。

 

勉強――中途半端。

 

部活――逃げる。

 

仕事――続かない。

 

(何も……積み上げてねえ……)

 

でも――

 

(最近……)

 

命かけて。

 

追い詰められて。

 

考えて、考えて、考えて――

 

ひねり出して。

 

戦った。

 

(あれが……)

 

(成長……?)

 

ざわ……

 

(だったら……)

 

(俺……)

 

(今……)

 

(初めて……)

 

(まともに生きてる……?)

 

「……」

 

一瞬、黙る。

 

「だいぶカイジのこと分かった」

 

キッドが言う。

 

(……なんだよ)

 

「で、キッドはこれからも盗みはするのか?」

 

聞く。

 

核心。

 

「愚問だな」

 

即答。

 

(だろうな)

 

「そうだろうな」

 

俺も頷く。

 

「カイジがいない状況での盗みは干渉しない」

 

(ああ)

 

「カイジがいる状況での盗みは干渉するで合っているな?」

 

「ああ」

 

はっきり言う。

 

「俺がいるなら事件が起きる前にお前の行動封じる」

 

(これは絶対)

 

「俺がいないなら好きにしろ」

 

(関わらねえ)

 

「逆に聞きたい」

 

「なんだ?」

 

「キッドは俺がいるから盗みはしないということはないよな?」

 

一瞬の間。

 

そして――

 

「ああ」

 

キッドの目が変わる。

 

「誰誰がいるから盗みはしない」

 

「誰誰がいないから盗みをする」

 

「そんなことはしない」

 

(……ブレねえな)

 

「俺が盗みたいと思ったら盗む」

 

「そこで立ちはだかる障壁があるなら超える!」

 

(……強え)

 

「俺、誰かに振り回されて自分のやりたい道を変えるほど器用じゃないからな」

 

(……)

 

一瞬、言葉が出ない。

 

(こいつ……)

 

(自分の生き方……決めてやがる……)

 

「わかった……」

 

ゆっくり言う。

 

「つまり、どこかで衝突するときはくるな」

 

静かに。

 

確信。

 

「できれば避けたいけどな」

 

キッドも笑う。

 

(……同じか)

 

(俺も……)

 

(できれば面倒ごとは避けてえ……)

 

でも――

 

ざわ……

 

(逃げられねえんだろうな……)

 

この男と。

 

この先どこかで。

 

必ずぶつかる。

 

(その時……)

 

(俺は……)

 

(勝てるのか……?)

 

焼肉の煙が、ゆっくりと立ち上る。

 

その向こうで――

 

キッドが笑っていた。

「あとさ――」

 

肉をひっくり返しながら、俺は何気なく聞く。

 

「俺がお前のこと通報すると言ったらどうしてた?」

 

一瞬。

 

沈黙。

 

そして――

 

「やっと聞いてくれたよ!!!!」

 

(……は?)

 

キッドが身を乗り出す。

 

「聞いてくれないかなと思ってたとこ」

 

「は?」

 

温度差。

 

こっちは軽い質問。

 

向こうは待ってました。

 

「俺頑張ったんだぜ!」

 

ざわ……

 

(頑張った……?)

 

何をだよ。

 

キッドがニヤける。

 

口元を片手で抑える。

 

(嫌な予感しかしねえ……)

 

そして――

 

「なんでこの店にしたか分かっているんだろ?」

 

(……)

 

「理由もなくこの場所、この席選ぶかよ」

 

ざわ……

 

(まさか……)

 

頭に浮かぶ――

 

沖野ヨーコちゃん。

 

「え、ヨーコちゃん?」

 

「ピンポンピンポン」

 

 

「これ見てみ」

 

スマホ。

 

再生。

 

映像――

 

「俺、幸せだ!!!!」

 

(……)

 

「ヨーコちゃんのベッドにいる」

 

(やめろ……)

 

「うううう、いいにおい」

 

(やめろおおおお)

 

「ごろごろごろごろローリング!!!!」

 

画面の中の俺。

 

ベッドで転がる。

 

完全にアウト。

 

ざわ……ざわ……

 

(終わった……)

 

(人生終わった……)

 

「まさかてめえ」

 

震える声。

 

「そのまっさかだよーん」

 

(軽いな!!!)

 

「ハングライダーで外から撮影」

 

(スケールでかいな!!!)

 

「腹抱えて笑ってたよ」

 

(そりゃ笑うわ……)

 

「カイジの弱点掴まないと次はちあったらめんどいからさ」

 

(……)

 

「自分の苦手の相手の弱点を探すは定石」

 

(……プロだ)

 

(完全にプロの発想……)

 

「つまり、俺が通報しようとする?」

 

「それをばらまくだよな?」

 

「イエス!」

 

(即答……)

 

「ふあっ……」

 

(終わってる関係だな……これ)

 

「お互い縛られているのか」

 

「ああ」

 

キッドが笑う。

 

「俺たちは黒い糸で結ばれている!!」

 

(言い方よ……)

 

「お互いに弱みを握り合っているんだぜ!」

 

(……否定できねえ)

 

「だから楽しもうぜ」

 

(楽しむなよこんな関係……)

 

でも――

 

少しだけ笑ってしまう。

 

「元からちくるつもりはねーよ」

 

本音。

 

(めんどくせえしな……)

 

「へ」

 

キッド、一瞬拍子抜け。

 

「それよりさ」

 

俺は前に乗り出す。

 

「ヨーコちゃんの隠し撮りしているんだろ?」

 

キッド、ニヤリ。

 

「もちろん」

 

(やっぱりか)

 

「俺は興味ないけどカイジを釣る餌としてなぁ」

 

(こいつ……)

 

(最低だな……でも)

 

「くれ」

 

即答。

 

「や~だよん」

 

(殺すぞ)

 

「おい」

 

「だってこれ最強の交渉カードだし?」

 

(ぐっ……)

 

(確かに……)

 

(完全に握られてる……)

 

「飯一生奢る」

 

「足りない」

 

「じゃあ月一」

 

「もっと」

 

(交渉成立しねえ……!)

 

キッドが笑う。

 

俺も笑う。

 

ざわ……

 

(なんだこれ……)

 

(脅し合って……)

 

(笑ってる……)

 

(意味わかんねえ関係……)

 

でも――

 

悪くない。

 

(こういうの……)

 

(嫌いじゃねえな……)

 

焼肉の煙の中。

 

俺とキッドは笑っていた。

 

奇妙な関係。

 

でも確かに――

 

繋がっている。

 

黒い糸で。

 

そのあと――

 

気づけば俺は、

 

毛利小五郎。

 

服部平次。

 

黒羽カイト。

 

この連中と――

 

親友みたいな距離にいた。

 

(……人生)

 

(何が起きるか分からねえな……)

 

ざわ……

 

それでも――

 

少しだけ。

 

悪くないと思った。

 

「カイジ、ほら飲め……あと二つ聞かせてくれ」

 

ジョッキが押し付けられる。

 

「話してくれることに1枚、隠し撮りやる。ヨーコちゃんの」

 

(……来た)

 

黄金の液体。

 

そして――

 

(ヨーコちゃん……)

 

(これは……強い……)

 

グイッ――

 

飲む。

 

(くそ……完全にペース握られてる……)

 

「なんだ?」

 

表面は平静。

 

だが――

 

ざわ……

 

内心は揺れる。

 

(俺が聞きたかったこと2つ……)

 

(今までのやりとりはいわば前哨戦……)

 

(ヨーコちゃんの写真というのはカイジにとってはめちゃくちゃ価値のあるカード……)

 

(これからの交渉はこの価値のあるカードで出して貰えるのか、それよりも価値のある秘密なのか……)

 

(……)

 

(聞こえた)

 

心の声。

 

(なるほど……)

 

(酔ってる時は……)

 

(全部は聞こえねえ……)

 

(でも……)

 

(本気で気にしてること……でかい感情だけは……拾える……!)

 

ざわ……

 

(つまり……)

 

(この2つ……)

 

(キッドにとって核心……!)

 

「どうやって俺の変装や俺の姿を見破った?」

 

ざわざわざわ……

 

空気が変わる。

 

目。

 

さっきまでの軽さが消える。

 

キラキラしてない。

 

黒い。

 

底が見えない。

 

(……違う)

 

(今までのキッドじゃねえ)

 

(完全に……探ってきてる……!)

 

(しかも……)

 

(俺の能力……疑ってやがる……)

 

ざわ……

 

(ここで喋ったら……終わる)

 

(話せば話すほど……ボロが出る……)

 

(ヨーコちゃんのためでも……)

 

(これは……渡せねえ……!)

 

「企業秘密だ」

 

即答。

 

キッド、ニヤリ。

 

「ヨーコちゃんの隠し撮り写真5枚ならどうだ?」

 

(くっ……!!)

 

ざわざわ……

 

(足元見やがって……!)

 

(5枚……)

 

(いやいやいやいや……)

 

(ダメだろ……!)

 

「企業秘密だ」

 

踏ん張る。

 

「お前に対策されるだろ」

 

「じゃあ、動画も!!」

 

(……!!)

 

(動画……!?)

 

(やばい……これは……)

 

(心が揺れる……)

 

ざわ……

 

(くそ……)

 

(ここは……)

 

(理屈で押し返すしかねえ……!)

 

「そもそもキッドもコスプレイヤーだけどマジックする訳だし」

 

一拍。

 

「タネは言わないだろ」

 

キッド、止まる。

 

「……そうだな」

 

(よし……!)

 

通った。

 

「それと同じだ」

 

(いけるか……?)

 

一瞬の間。

 

そして――

 

「まぁ少しくらいなら言ってもいいけどな」

 

(!?)

 

(え?)

 

(押されてる……!?)

 

(やばい流れ……!)

 

(くそ……ここで……!)

 

「いやいや」

 

即座に切り返す。

 

「こういうタネってさ」

 

(頼む……乗ってくれ……!)

 

「自分で見破るから面白いもんだろ」

 

適当。

 

でも――

 

それっぽく。

 

それらしく。

 

ざわ……

 

一瞬の静寂。

 

キッドの目が細くなる。

 

そして――

 

「くはーーー」

 

笑う。

 

「あんたも俺と同じか」

 

(……!?)

 

「それはある!」

 

(通った……!?)

 

「やっぱこの謎、俺自身で解くは」

 

(助かった……!!)

 

ざわ……

 

(なんだこれ……)

 

(刺さった……?)

 

(ラッキー……!)

 

一気に肩の力が抜ける。

 

(危なかった……)

 

(完全に持っていかれるとこだった……)

 

ビールを一口。

 

(……うめえ)

 

キッドが笑っている。

 

でもその奥――

 

まだ黒い。

 

(こいつ……)

 

(やっぱ危険だな……)

 

でも――

 

同時に思う。

 

(面白え……)

 

ざわ……

 

(こんな奴……)

 

(なかなかいねえ……)

 

焼肉の煙の中。

 

俺たちはまだ――

 

探り合っていた。

「で、もう一つは?」

 

肉を口に運びながら聞く。

 

(来るな……)

 

キッドの“本命”。

 

「俺、立場上探偵や警察に狙われやすいんだわ……」

 

(そりゃそうだろ……)

 

「まあな」

 

「カイジの思う探偵と警察の人間の優秀ランキングつけるならどんな感じ?」

 

一拍。

 

「写真はあげるぜ」

 

(……)

 

(ヨーコちゃんカード付き……)

 

「よしっそれはOK」

 

即答。

 

(これは……いい)

 

(喋れる内容……)

 

(しかも写真もらえる……!)

 

(それはいいのか……)

 

(つまり俺の正体を見破る何かがシークレットなのね)

 

ざわ……

 

(完全に線引きしてきたな……)

 

「教えろはやく」

 

(よし……いくか)

 

「とりあえず、目暮警部はぽんこつ」

 

(ああ……)

 

「俺よりも下。俺の中じゃ最下位だ」

 

キッド、笑う。

 

「ほ~まぁ聞いている感じそうだな」

 

(だろ……?)

 

(あのおっさん……)

 

(すぐ俺疑うし……)

 

「その上に光彦。少年探偵団だ」

 

「彼結構伸びしろありそうだね」

 

(わかってるじゃねえか……)

 

「その上にコナン」

 

「え、そこ」

 

(ん?)

 

「ん?そうだろ」

 

「続けて」

 

「その上がキッド」

 

キッド、ニヤリ。

 

「おっコナンより上か」

 

「当たり前だろ」

 

(あいつ……)

 

(ただのガキじゃねえ……)

 

(でもお前も普通じゃねえ……)

 

「で、その上が俺」

 

「まあ、俺と同等ってのは?」

 

(来たな……)

 

「いやお前二回とも俺に負けているだろ」

 

キッド、すぐ反論。

 

「いやいや過去の成績見てくれよ」

 

(知らん)

 

「いや大事なのは対面したときの勝率だろ」

 

(現場主義……!)

 

キッド、肩をすくめる。

 

「まーいっか」

 

(あっさりだな……)

 

「その上が服部と工藤」

 

「は?」

 

キッドの眉が動く。

 

「2回言ったよな」

 

「ん?2人同じ位だろ」

 

(あいつらは……)

 

(化け物……)

 

「いや、コナン」

 

(……?)

 

「は?お前何言っているの?」

 

一瞬の沈黙。

 

キッドの目。

 

変わる。

 

「あああ……はいはいはいはい」

 

(……なんだ?)

 

「俺のことは見破れるけどあっちは見破れない なるほど」

 

(……?)

 

「なんだよ」

 

「いやいや、まあ俺には関係ないからスルーするわ」

 

(なんだよそれ……)

 

(気になるだろ……!)

 

でも――

 

(深追いしねえ方がいいな……)

 

ざわ……

 

「で、その上が毛利小五郎」

 

「はい?」

 

キッド、完全に止まる。

 

「ん?」

 

「ちょびひげのおっさんだよな?」

 

「ああ」

 

「一番上なのか?」

 

(当然だろ)

 

「あたりまえだろ」

 

キッド、じっと俺を見る。

 

「俺、そこは納得できないぜ」

 

(だよな……)

 

(みんなそう思う……)

 

「こうちゃん割と若者からの評価低いんだよな……」

 

(でもな……)

 

「めちゃくちゃすげえぜ」

 

空気が少し変わる。

 

キッド、身を乗り出す。

 

「エピソード教えてもっと」

 

(よし……来た……)

 

語る。

 

外交官殺人事件。

 

あの逆転。

 

証拠の押さえ方。

 

警部とのやり取り。

 

そして――

 

決定打。

 

キッド、スマホを操作。

 

(……?)

 

「警察のデータベースに入って……」

 

(おい)

 

(軽く言うなよ……)

 

「事件のログを見る」

 

(怖ええよこいつ……)

 

そして――

 

「ああああ」

 

キッドの顔が変わる。

 

「確かに外務官殺人事件のログ見るだけでもこのおっちゃんすげえわな」

 

(だろ……!)

 

「これなら工藤&服部より上は頷けるし」

 

(そうだろ……!)

 

「アイドル殺人事件のログもすでに犯人じゃない人絞ってるのか……」

 

(あの時も……)

 

(助けられた……)

 

「確かにちゃんと見るとすげーなこの人……」

 

(やっと気付いたか……!)

 

「俺何度もこうちゃんのおかげで助かっている」

 

静かに言う。

 

(マジでな……)

 

(いなかったら……)

 

(俺何回終わってた……?)

 

キッド、小さく頷く。

 

「これはいい収穫……」

 

(収穫……?)

 

「俺油断してたわ……そんなオーラ感じていなかったからな」

 

(……それがこうちゃんだ)

 

(普段は……あんな感じなのに……)

 

ざわ……

 

(いざって時……)

 

(全部持っていく……)

 

その後――

 

焼肉は続く。

 

学校の話。

 

くだらない話。

 

この前の女の子の話。

 

(なんだこれ……)

 

(普通だな……)

 

犯罪者と。

 

クズと。

 

普通に笑ってる。

 

ざわ……

 

(悪くねえ……)

 

(こういう時間……)

 

そして――

 

この時の俺たちはまだ知らない。

 

数日後。

 

また――

 

同じ事件に巻き込まれることを。

 

ざわ……ざわ……




次回、新しい能力者登場!スペシャル回

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