――伊藤カイジ。
その名前が、世界に流れた日のことを、俺は忘れられない。
テレビの中で、ネットの中で、新聞の見出しで。
どこを見ても、自分の名前が躍っていた。
バスジャック犯。
その四文字が、俺という人間のすべてを上書きしていく。
けれど。
後になって、訂正は入った。
俺の行動は、麻薬販売組織の暗殺チームに脅された結果だったこと。
乗客の証言も、公安も警察も、それを裏付けた。
人質を取られ、逃げ場のない状況での選択だったと。
――だが、そんなものは関係なかった。
世間は、一度ついた“面白いレッテル”を簡単には剥がさない。
母親が出てきて、俺にやめろと泣きながら説得する映像。
あの一場面だけが、切り取られて、何度も何度も流される。
ネットで拡散されて、笑いものにされて。
ああ、そうだ。
俺は昔からクズだった。
それは否定できない事実だ。
だからこそ。
余計に。
“らしいよな”で片付けられる。
――胸の奥に、じわりとした苛立ちが溜まる。
そして気づけば、俺は“時の人”になっていた。
もちろん、いい意味じゃない。
テレビ局は営利団体だ。
視聴率がすべて。
今、世間が何を見たいのか。
それだけを見て動く。
だから――
俺のところにも、話が来た。
日売テレビ。
出演オファー。
しかも。
毛利小五郎。
服部平次。
……なんでだよ。
そう思いながらも。
断らなかった。
――さすがに、ネットであれこれ言われるのも気味が悪い。
画面越しに、好き勝手に語られて。
勝手に決めつけられて。
それを黙って見ているのは、なんというか――
気持ちが悪い。
こういうのは。
当事者が、ちゃんと話すべきだ。
それに。
こうちゃん……小五郎もいる。
あの人がいれば、場もなんとかなるだろう。
だったら――
ここで一発。
かましてやる。
そう決めた瞬間、妙に腹が据わった。
テレビ局へ向かう道。
夕方の空気が、どこか重たい。
「いや〜しかしカイジくん、えらいことになっとるなぁ」
小五郎が頭をかきながら笑う。
「笑い事じゃねえっての……」
思わずぼやく。
「まあまあ。でも話せばわかるやろ」
関西弁で軽く言うのは、服部だ。
「せやかて工藤……ってやつやな」
「いや、それ違うだろ」
そんなやり取りをしながらも。
内心は、落ち着かない。
テレビ。
生放送。
ミスったら終わり。
変なこと言えば、また切り取られる。
――いや、もう切り取られる前提で動いてるだろ、あいつら。
そう考えると、胃のあたりが重くなる。
「大丈夫ですよ、カイジさん」
ふいに、声がする。
毛利蘭。
「ちゃんと伝えれば、きっと分かってもらえます」
まっすぐな目。
嘘のない声。
……まぶしい。
「蘭ねーちゃんの言う通りだよ」
その隣で。
江戸川コナンが、にこっと笑う。
「カイジさんなら大丈夫」
その言葉に。
ほんの少しだけ。
肩の力が抜ける。
――ああ、そうか。
まだ。
全部が、終わったわけじゃない。
「……ありがとな」
小さく、そう返す。
やがて。
日売テレビの建物が見えてくる。
でかい。
無機質で、冷たい感じ。
中に入れば、きっと――
もっと冷たい。
そう思いながら、足を踏み入れる。
受付。
スタッフの慌ただしい動き。
すでに、準備は整っているらしい。
「こちらへどうぞ」
案内されるまま、スタジオへ向かう。
廊下を歩く間。
心臓の音が、やけに大きく感じる。
――逃げるか?
一瞬、そんな考えがよぎる。
だが。
それを、振り払う。
逃げたら、全部そのままだ。
笑われたまま。
決めつけられたまま。
そんなのは――
ごめんだ。
スタジオの扉が開く。
まばゆい照明。
並ぶカメラ。
そして。
「本日はお越しいただきありがとうございます」
落ち着いた声。
松尾貴史キャスター。
にこやかな笑顔。
だが、その奥は読めない。
「どうぞ、こちらへ」
促されるまま、歩く。
足元が、少しだけ不安定に感じる。
視線が、刺さる。
スタッフ。
カメラ。
全部が、俺を見ている。
席に着く。
小五郎。
服部。
そして――俺。
三人が並ぶ。
椅子の感触が、やけに硬い。
――始まる。
逃げ場のない舞台。
だが。
ここで。
全部、話す。
そう決めて、俺はゆっくりと息を吐いた。
――そして。
本番が、始まった。
スタジオの照明が一段と強くなる。
カメラの赤いランプが点灯し、空気が一瞬で“外向けの顔”に変わる。
逃げ場は、ない。
喉が、わずかに乾く。
「カイジ君はなぜ、バスジャック犯に選ばれたんですか?」
松尾キャスターの声は、落ち着いている。
だがその問いは、まっすぐに胸の奥へと刺さってくる。
「えー……えーと……」
言葉が、詰まる。
やべえ。
俺、思ってた以上に――緊張してる。
視線が、重い。
カメラの向こうに、どれだけの人間がいるのか想像しただけで、胃が縮む。
――何言えばいい?
変なこと言ったら、また切り取られるぞ。
思考が空回りしかけた、その時。
「それはだな」
横から、助け舟が入る。
「俺は西の探偵、服部平次や。俺もあのバスに乗っとったさかいな」
服部平次。
軽い調子で話しながらも、その言葉には芯がある。
「バスジャック犯の身代わりを誰にするかって話になった時や」
スタジオの空気が、少し引き締まる。
「乗客一人一人、職業やら自己紹介してな。本物の犯人たちが決めよったんや」
わずかな間。
「一番――金のために犯罪を犯しそうなクズは誰か、ってな」
空気が、少しだけ凍る。
「……それで選ばれたんが、こいつや」
親指が、俺を指す。
「伊藤カイジや」
「ほほう。そうなんですね」
松尾は、淡々と頷く。
――ああ、そうだよ。
それが現実だ。
笑えよ。
どうせ、そういう目で見てんだろ。
胸の奥で、苦いものが広がる。
だが。
逃げるわけにはいかない。
「……まあ、そういうことだ」
ようやく、言葉を絞り出す。
「俺が一番それっぽかったってだけだよ」
自嘲気味に笑う。
それしか、やりようがなかった。
「では、その時のお気持ちは?」
松尾が、さらに踏み込む。
「特に……お母様が説得に現れた場面は、非常に話題になりましたが」
その言葉に。
胸の奥が、ぐっと締まる。
――あの時。
頭に浮かぶのは、泣きそうな顔。
必死に、俺を止めようとしてた。
みっともなくて。
情けなくて。
でも――
あれは。
紛れもなく、俺の母親だった。
「……正直、キツかったな」
声が、少し低くなる。
「人質も取られてたし……どう動いても詰みって感じでさ」
思い出すだけで、胃が痛くなる。
「そこに、あんなの見せられて」
苦笑する。
「正直、逃げたくなったよ」
それでも。
「でも……」
一瞬、言葉が止まる。
「……逃げられなかった」
ただ、それだけだった。
「なるほど……」
松尾が、静かに頷く。
「毛利さんは、この件をどう見ていらっしゃいますか?」
話が振られる。
毛利小五郎が、腕を組む。
「まあ、現場にいたわけじゃねえがな」
少しだけ真面目な声。
「状況から見て、追い込まれてたのは間違いねえだろ」
ちらりと、俺を見る。
「クズだろうがなんだろうが、人質取られてりゃ話は別だ」
その言葉に。
ほんの少しだけ。
救われた気がした。
――その時。
ふいに。
“聞こえた”。
(諏訪を殺す……諏訪……お前だけは許せない)
……は?
一瞬、思考が止まる。
今のは――
松尾の、心の声。
間違いない。
殺意。
はっきりとした、殺す意思。
ぞくり、と背筋が冷える。
――いや待て。
ここ、生放送中だぞ?
こんな状況で、殺すわけがない。
……ない、よな?
頭の中で、嫌な想像が広がる。
だが。
今は――
止められない。
なら。
――終わった後で、説得するしかねえか。
そう決めた。
「ではこれから、バスジャックの交渉のVTRを4分間流します!」
場面が切り替わる。
画面が、暗転する。
その直後。
「……すみません」
松尾が、腹を押さえる。
「お腹が痛いので、少しトイレへ……」
スタッフが慌ただしく動く。
――嫌な予感がする。
「あっ、俺も」
さっきの声。
まさか。
いや、でも。
3分くらいで何かできるか?
頭の中で、可能性が渦巻く。
松尾を追うが見失う。
――3分後。
バンッ!!
遠くで、乾いた音。
銃声。
一早く反応したのはコナン。
だが。
スタジオには、届かない。
俺たちは、何も知らないまま。
VTRを見続けている。
やがて。
VTRが終わる。
そして。
何事もなかったかのように。
松尾が戻ってくる。
――3分で打てた……くくく。殺してやった
「カイジ君」
にこやかな顔。
「お母さんの説得は、どうでしたか?」
内心で舌打ちする。
だが。
今は――乗るしかない。
「……あれは俺の黒歴史だよ」
苦笑する。
「まさか、かあちゃんがあんなこと言うとは思わなかったしな」
頭をかく。
「必死で、応じねえようにしてたよ」
それは、本音だった。
応じたら。
全部、終わる気がしたから。
――そして。
本番が、終わる。
照明が落ちる。
カメラのランプが消える。
その瞬間。
スタジオの空気が、一変する。
ざわざわとした声。
異様な、ざわめき。
「……なんや?」
服部が、眉をひそめる。
近くのスタッフに声をかける。
「何かあったんか?」
スタッフの顔は、青ざめていた。
「……プロデューサーの諏訪さんが……」
喉が詰まったような声。
「拳銃で……殺害されて……」
――くっ
背筋が、冷たくなる。
「行くぞ!」
小五郎が立ち上がる。
俺も、反射的に立つ。
走る。
廊下。
分岐。
曲がり角。
テレビ局の中は、迷路みたいだ。
焦りが、足を速める。
だが――
遠い。
(現場まで、6分かかる……)
松尾の心の声……
その時間が、やけに長く感じる。
ざわ……ざわ……
空気が、さらに騒ぎ出す。
視界の先。
見慣れた顔。
目暮警部。
高木渉。
そして――
江戸川コナン。
事件は。
もう、動き始めていた。
現場に足を踏み入れた瞬間。
空気が、変わった。
さっきまでいたスタジオの、作られた明るさとは違う。
ここには、生々しい現実がある。
血の匂い。
そして――死。
床に倒れている男。
諏訪。
ついさっきまで、生きていたはずの人間が、ただの“物体”みたいに横たわっている。
喉の奥が、ひくつく。
……これ、何度見ても慣れねえな。
心のどこかが、じわじわと冷えていく。
「被害者は、プロデューサーの諏訪。三十七歳」
落ち着いた声が響く。
目暮警部。
「凶器は拳銃。ロシア製マカロフ」
淡々と、事実が並べられていく。
「頭を貫通した銃弾は、後ろの窓ガラスを貫通している」
目が、自然とそちらを見る。
割れたガラス。
外の光が、妙に白く見える。
「つまり外か……」
いや。
違うだろ。
俺は、すぐに違和感を覚える。
でも、口には出さない。
「そして他にもポスターに二発、時計に一発……計四発」
視線を巡らせる。
確かに。
弾痕。
無駄撃ちみたいな跡。
「三発の銃弾は確認」
……一発、足りねえな。
いや、そんなことより。
「出入口は扉が一つ。窓ガラスはハメ殺し。人は通れない」
四階。
外からも無理。
中からも無理。
「つまり、犯人は入口から現れて――」
話が、組み立てられていく。
「何かの理由があり、銃を乱射」
乱射。
確かに、弾痕はそれを物語ってる。
「そのうち諏訪さんは後ずさり、窓に追い込まれ――射殺された」
視線が、死体へ戻る。
背中。
位置。
……筋は通ってる。
だが。
違和感は、消えない。
「被害者はほぼ即死」
そして。
「血文字で『カイニ』と……最期の文字は書きかけで息絶えた」
その言葉に。
空気が、変わる。
ざわ……ざわ……
視線が、一斉に――
俺に、向く。
……来たな。
そう思った。
「そういえば怪しい人物は見ていないのか?」
目暮の問いに。
数人のスタッフが、顔を見合わせる。
そして。
「……伊藤カイジさんが……」
声が上がる。
「フラフラしているのを見ました」
一人。
二人。
……六人。
次々と、同じ証言。
なるほどな。
完全に、出来上がってやがる。
「そういえばダイイングメッセージは……」
目暮が、血文字を見る。
「……あっ、カイジと書こうとしたのか……!」
その瞬間。
空気が、一気に固まる。
「おい、カイジ!」
鋭い声。
「お前やったのか!?」
ざわ……ざわ……
完全に。
“犯人扱い”。
――いや、このパターンかよ……
内心で、乾いた笑いが漏れる。
ここまでテンプレみたいにハマるか?
フラフラしてた。
ダイイングメッセージ。
はい、犯人決定。
……バカか。
いや、バカじゃねえ。
こういう“分かりやすい構図”に、人は飛びつく。
それは、さっきのバスジャックの時と同じだ。
――だからこそ。
ここで慌てたら、終わり。
俺は、ゆっくりと息を吐く。
視線を上げる。
目暮を、まっすぐに見る。
――しゃあねえ。
付き合ってやるよ。
あんたの“推理ごっこ”に。
だが。
今回は。
違う。
もう。
分かってる。
犯人は――
松尾。
あの時、聞いた。
あの、はっきりとした殺意。
(諏訪を殺す……お前だけは許せない)
あれが、証拠だ。
……いや、証拠にはならねえか。
心の声なんて、俺にしか分からねえ。
だから。
立証するしかない。
ちらりと横を見る。
毛利小五郎。
そして――
服部平次。
この二人がいる。
なら。
何とかなる。
胸の奥で、ざわついていた不安が。
ほんの少しだけ、静まる。
――よし。
やるか。
この茶番。
ひっくり返してやる。
視線が、突き刺さる。
さっきまで“容疑が晴れたかもしれない男”だった俺は、
今や再び――いや、それ以上に濃く、“怪しい存在”として場の中心に立たされている。
「目暮警部……また俺が犯人扱いかよ」
口に出した声は、思ったよりも落ち着いていた。
だが内心は、まるで別だ。
「怪しい人物の目撃証言……それに、ダイイングメッセージがカイジを指す……それだけで充分だ……」
目暮警部は、眉間に皺を寄せたまま言い切る。
……充分、ね。
内心で、乾いた笑いが漏れる。
証拠としては、雑すぎる。
だが――“世間的には充分”。
だからこそ、厄介だ。
(動機はないのだがな……)
その一言。
――そこだ。
頭の中で、何かが噛み合う。
弱点。
この構図の、唯一の穴。
「なぁ、今回の諏訪って人物……俺と面識ないよな?」
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「つまり――動機がない。違うか?」
一瞬の間。
「確かにそうだが……それはまだ発見できていないだけ……」
濁す。
――よし。
押せる。
「そもそもだ」
少し強く出る。
「俺がフラフラしてたのは、VTRを流した4分間だけだ」
視線を、周囲に巡らせる。
「確かにその間、外に出てた」
認める。
ここは逃げない。
「でも実際に発砲されたのは――VTRが流れて3分後だろ?」
空気が、わずかに揺れる。
「俺はそれ以外、ずっと生放送に出てた」
カメラ。
証人。
「つまり今回、俺のアリバイ証人は――日本中だ」
言い切る。
「俺には無理だよ。現場まで6分かかるんだからな」
ざわ……ざわ……
いい反応だ。
空気が、変わる。
疑いが、揺らぐ。
――よし。
これでいい。
俺は、できない。
それを、証明した。
「高木君……すまないが、スタジオと現場を往復してくれ。時間を計った上で」
「はい……分かりました……」
高木渉が走り出す。
待つ時間が、妙に長い。
心臓の音が、うるさい。
だが。
これは勝てる流れだ。
やがて。
汗だくで戻ってくる。
「はぁ……はぁ……往復で6分です……!」
息を切らしながら報告する。
「僕は訓練されているので……一般男性なら7〜8分……女性なら8〜9分は……」
一拍。
「つまり――カイジさんには不可能です」
――よし、きた。
胸の奥で、小さく拳を握る。
「カイジ、すまなかった……また疑ってしまった……」
目暮の声。
その瞬間。
ようやく、肩の力が抜けかける。
……助かった。
そう思った。
だが。
隣で。
何かが、おかしい。
服部平次。
口を押さえ。
汗を流している。
……嫌な予感。
「警部はん……気付かないんかよ……」
低い声。
「何がだ?」
目暮が振り返る。
「すまねえ……カイジ」
その一言。
嫌な予感が、確信に変わる。
「俺は気付いた以上は、放っておけねえ」
ざわ……ざわ……
空気が、再び張り詰める。
「そもそもや」
服部が続ける。
「発砲音は、スタジオの7階じゃ聞こえへん。全部防音やからな」
――あ。
嫌な汗が、背中を伝う。
「もし聞こえたら、俺もおっちゃんも本番中でも駆けつけとる」
正論。
「カイジも7階におったんや。聞こえるはずない」
詰められる。
逃げ場が、消えていく。
「それにや」
さらに追撃。
「俺はさっき、高木刑事に確認して――今、初めて“3分後に発砲された”って知った」
視線が、突き刺さる。
「……おかしいやろ?」
止まらない。
「なんでお前、知っとるんや?」
ざわ……ざわ……
「それだけやない」
さらに。
「スタジオから現場まで6分かかることも知っとる」
完全に、詰みの形。
「……おかしいやろ」
ざわ……ざわ……
視界が、歪む。
ぐにゃああああ……
――やべええええええええ!!
頭の中で、絶叫が響く。
しまった。
完全に、やらかした。
そうだ。
松尾の“心の声”。
あれで、全部知ったんだ。
発砲のタイミングも。
移動時間も。
……それを。
“当たり前みたいに使っちまった”。
久しぶりの――
イージーミス。
しかも。
致命的。
安心してた。
小五郎と服部がいるから、何とかなるって。
だが現実は――
服部がいたからこそ、ここまで追い詰められた。
ちらりと横を見る。
毛利小五郎。
……気付いてるな。
でも、何も言わない。
黙っている。
つまり。
“俺に任せてる”。
だが。
この状況。
目暮は気付いていなかった。
もし服部がいなければ――
俺は完全にシロで終わっていた。
だが今は逆だ。
一番怪しい存在。
――クソが。
残るは。
“あれ”だ。
『カイニ』
ダイイングメッセージ。
これを解ければ。
まだ、ひっくり返せる。
……だが。
ぐにゃああああ……
これは、諏訪が書いたもの。
死人の声は、聞こえない。
つまり。
これは――
自分で解くしかない。
「おいカイジ。どういうことなんだ?」
目暮の声。
――やべえ。
完全に、詰問モード。
“心を読んだから知ってた”なんて、言えるわけがない。
そんなもん言ったら、それこそ終わりだ。
矛盾。
致命的な、穴。
どう返す?
どう誤魔化す?
……考えろ。
時間を稼げ。
――そうだ。
とりあえず。
思いつくことから、喋れ。
喋りながら、考えろ。
それしかねえ。
この場を、生き残るには。
ファイル10をこの話に繋げる訳です。