心読みの逆転探偵録 カイジVS名探偵コナン   作:梅酒24

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ファイル12:TV局殺人事件 中編

 喉が、乾く。

 

 視線は逃げ場を失い、空気は重く、粘つくように肌にまとわりつく。

 

 追い詰められている――そう、はっきりと自覚できるほどに。

 

 

「いや。俺らが現場に向かうときに階段を使って下った。そして3分かからないくらいだった」

 

 

 声は出る。

 

 だが、内側では別の何かが軋んでいる。

 

 

「登りの方が大変だから約6分だと考えて発言したんだ」

 

 

 理屈としては通る。

 

 

「それは分かった」

 

 

 だが。

 

 

 目暮警部の目は、まだ鋭い。

 

 

「なぜ、銃弾の発砲がVTRから3分後だと分かったんだ?」

 

 

 一拍。

 

 

「7階は全て防音なのに」

 

 

 

 ざわ……ざわ……

 

 

 空気が、また一段重くなる。

 

 

 

 ――そうだ。

 

 

 ここだ。

 

 

 完全な矛盾。

 

 

 聞こえるはずのない音を、俺は知っている。

 

 

 

 考える。

 

 

 だが。

 

 

 考えれば考えるほど――

 

 

 “言い訳”が、薄っぺらく見えてくる。

 

 

 何を言っても、不自然になる。

 

 

 

 ――まずい。

 

 

 

「それは……」

 

 

 言葉が、止まる。

 

 

「ん?なんだ?」

 

 

 圧。

 

 

 視線の圧。

 

 

 疑いの圧。

 

 

 

 ……無理だ。

 

 

 ここで適当に誤魔化したら、終わる。

 

 

 完全に、詰む。

 

 

 

「今は言えない」

 

 

 口から出たのは、そんな言葉だった。

 

 

 

「は?どういうことだ?」

 

 

 当然の反応。

 

 

 

 だが――もう、腹は括った。

 

 

 

 俺は一歩、近づき。

 

 

 小さく身を寄せる。

 

 

 そして、耳元で囁く。

 

 

 

「犯人を特定している……」

 

 

 自分でも驚くほど、低く、はっきりとした声だった。

 

 

「だからこの話は、ここではできない」

 

 

 

 目暮の表情が、わずかに変わる。

 

 

 

「……じゃあ個室へ移動して話せ」

 

 

 

 ――よしっ。

 

 

 

 胸の奥で、小さく拳を握る。

 

 

 

 時間を、稼げた。

 

 

 

 個室までの間に。

 

 

 何か。

 

 

 何でもいい。

 

 

 この矛盾を埋める“答え”を、捻り出すしかない。

 

 

 

 

 一方で。

 

 

 別の場所。

 

 

 

 現場に残った、あの男。

 

 

 服部平次。

 

 

 

 彼の視線は、すでに“別の何か”を捉えていた。

 

 

 

(犯人がたまたま部屋を通って乱射?……何のためや?)

 

 

 

 違和感。

 

 

 それが、彼の中で膨らんでいる。

 

 

 

 床に這いつくばるようにして、痕跡を探す。

 

 

 その時――

 

 

 ゴツン。

 

 

「いってえなぁ……」

 

 

 額に走る衝撃。

 

 

 視線の先には。

 

 

 江戸川コナン。

 

 

「またガキが探偵ごっこかよ」

 

 

 

「ごめんなさあい」

 

 

 だがその顔は、謝っているようでいて――

 

 

 どこか、鋭い。

 

 

「だっておかしいんだもん」

 

 

 

「何がや?」

 

 

 

「だってさ」

 

 

 コナンの視線が、弾痕をなぞる。

 

 

「3発は変なところに当たってるのに、頭だけはちゃんと命中してるでしょ?」

 

 

 一拍。

 

 

「素人なのかプロなのか、よく分からなくて」

 

 

 

(……言われてみると、そうや)

 

 

 服部の中で、ピースが動く。

 

 

 

「確かに……」

 

 

 ゆっくりと立ち上がる。

 

 

「そもそもマカロフは扱いが難しい銃や」

 

 

 視線が鋭くなる。

 

 

「それに気になるのは、それだけやない」

 

 

 

「え?なになに?」

 

 

 

「被害者は、殺される時に誰かと通話してる」

 

 

 携帯を示す。

 

 

「履歴がその証拠や」

 

 

 

「でも非通知……」

 

 

 

「せや。誰かは特定できん」

 

 

 一拍。

 

 

「おそらく――犯人や」

 

 

 

 空気が、わずかに張り詰める。

 

 

 

「あともう一つ」

 

 

 コナンが続ける。

 

 

 

「4発目の銃弾……どこ行ったんだろうね」

 

 

 窓の外を見る。

 

 

「外にあるよね?」

 

 

 

「……きな臭いな」

 

 

 服部の口元が、わずかに歪む。

 

 

 

「4発目の行方……それが鍵や」

 

 

 

 そして。

 

 

 帽子を逆に被る。

 

 

 

「行くで」

 

 

 

 次の瞬間には、もう走り出していた。

 

 

 

 それを追う、小さな影。

 

 

 

 コナン。

 

 

 

「隣は会議室か……」

 

 

 走りながら、視線を走らせる。

 

 

 

「ん?」

 

 

 一瞬。

 

 

 ガラス越しに見える。

 

 

 

 目暮と。

 

 

 カイジ。

 

 

 

 何かを話している。

 

 

 

「……まあええ」

 

 

 視線を切る。

 

 

 

 

 

 事件は。

 

 

 まだ、終わっていない。

 

 

 むしろ――

 

 

 ここからが、本番だ。

 

会議室。

 

 ドアが閉まった瞬間、外のざわめきが遠ざかる。

 

 静寂。

 

 だがそれは、安心できる静けさじゃない。

 

 むしろ、逃げ場のない密室に閉じ込められたような圧迫感。

 

 

「で、犯人は誰なんだ?そしてなんで発砲音が聞こえたんだ?」

 

 

 低く、鋭い声。

 

 

 目暮警部が、まっすぐに俺を見る。

 

 

 ――ここが勝負どころ。

 

 

 ここでミスったら、終わる。

 

 

 頭の中で、何度も組み立てた“仮の答え”。

 

 

 それを、吐き出す。

 

 

 

「まず犯人は――松尾」

 

 

 一瞬の静寂。

 

 

「なんだって!!!?」

 

 

 声が、室内に響く。

 

 

 当然の反応。

 

 

 だが、ここで怯むわけにはいかない。

 

 

 

「それで、聞こえた理由は……」

 

 

 わずかに言葉を選ぶ。

 

 

 ここが一番危ない。

 

 

 

「俺、VTRの時にトイレに行ったんだ」

 

 

 心臓がうるさい。

 

 

 

「それで……まぁ、その……うんこするから、窓を開けた」

 

 

 自分で言ってて、なんとも間抜けな理由だと思う。

 

 

 だが――

 

 

 “あり得る話”にしなきゃいけない。

 

 

 

「それで聞こえたんだ。発砲音が」

 

 

 

 一拍。

 

 

 

「……なるほど」

 

 

 目暮が腕を組む。

 

 

「それは筋が通っているな……」

 

 

 ――通った。

 

 

 とりあえず、一つ。

 

 

 綱渡りの一本目。

 

 

 

「で、なぜ松尾が犯人だと?」

 

 

 次。

 

 

 ここも、落とせない。

 

 

 

「松尾は、お腹を押さえて飛び出した」

 

 

 あの時の光景を思い出す。

 

 

 

「俺もその跡を追った」

 

 

 事実と嘘を、混ぜる。

 

 

 

「で、当然トイレに行くだろ?」

 

 

 理屈を積み上げる。

 

 

 

「お腹が痛いなら、一番近くのトイレに行くはずだ」

 

 

 視線を、目暮に合わせる。

 

 

 

「でもな――いなかったんだ」

 

 

 

 一瞬、空気が止まる。

 

 

 

「俺がフラフラしてたのは、トイレを探してたからだ」

 

 

 ここで、目撃証言を回収。

 

 

 

「7階のトイレは一箇所しかない」

 

 

 

「普通なら、いるはずだろ?」

 

 

 

「でも――いなかった」

 

 

 

 言い切る。

 

 

 

 沈黙。

 

 

 

「……確かに」

 

 

 ゆっくりと頷く目暮。

 

 

「それが本当なら、松尾は何かを隠していることになる」

 

 

 さらに。

 

 

「犯人の可能性が高くなる……」

 

 

 

 ――よし。

 

 

 

 通った。

 

 

 

「分かった……松尾に聞く」

 

 

 決断。

 

 

「一度現場に戻るぞ」

 

 

 

 ――よしっ。

 

 

 

 胸の奥で、ようやく息が抜ける。

 

 

 

 とりあえず。

 

 

 切り抜けた。

 

 

 

 だが――

 

 

 これは、ただの“延命”。

 

 

 本当の勝負は、これからだ。

 

 

 

 

 再び、現場。

 

 

 空気は、さっきよりも重い。

 

 

 

「松尾さん」

 

 

 目暮が声をかける。

 

 

 

「VTRの4分間、席を外していたようですが……何をしていたのですか?」

 

 

 

 全員の視線が、一人に集まる。

 

 

 

 松尾。

 

 

 

「ああ……」

 

 

 少し間を置いて。

 

 

 

「お腹を壊してしまいましてね……トイレに行ってました」

 

 

 

 ――来たな。

 

 

 

 想定通りの答え。

 

 

 

「7階のトイレ、ということですね?」

 

 

 

 その問いに。

 

 

 松尾の目が、わずかに揺れる。

 

 

 

 ――来い。

 

 

 崩れろ。

 

 

 

 だが。

 

 

 

(……ん?)

 

 

 

 その瞬間。

 

 

 “別の違和感”が、空気に混じる。

 

 

 

 松尾の表情。

 

 

 

 ほんのわずか。

 

 

 だが確かに――

 

 

 何かを計算している顔。

 

 

 

(階数を気にするのか……)

 

 

 

 その思考は、俺には聞こえない。

 

 

 だが。

 

 

 “何かを考えている”気配は、感じる。

 

 

 

(……いや)

 

 

 違う。

 

 

 俺は知っている。

 

 

 

 あいつは――

 

 

 “やっている”。

 

 

 

「はぁ……そうですが……何か?」

 

 

 

 平静を装う声。

 

 

 

「いやね……」

 

 

 目暮が続ける。

 

 

 

「カイジ君もトイレに行っていたのですが……」

 

 

 一拍。

 

 

 

「松尾さんと会っていないそうです」

 

 

 

 ざわ……ざわ……

 

 

 

 来た。

 

 

 

 ぶつかる。

 

 

 

 俺と、松尾の証言。

 

 

 

 二択。

 

 

 

(くそ……あの野郎……)

 

 

 

 松尾の目が、わずかに細まる。

 

 

 

(なるほどな……そういうことか……)

 

 

 

 空気が、変わる。

 

 

 

(警部からすれば……俺とカイジ、どちらかが嘘をついている)

 

 

 

 そして。

 

 

 

(なら――カイジを犯人に仕立て上げるしかない)

 

 

 

 その結論。

 

 

 

 見えなくても、分かる。

 

 

 

 あいつは――

 

 

 来る。

 

 

 

 俺を、落としに。

 

 

 

 ざわ……ざわ……

 

 

 

 空気が、再び荒れる。

 

 

 

 ――そうなるよな。

 

 

 

 内心で、静かに呟く。

 

 

 

 ここからが、本当の地獄だ。

 

 

 だが。

 

 

 引くわけにはいかない。

 

 

 

 この勝負――

 

 

 負けたら終わりだ。

 

 現場に戻った空気は、明らかに変わっていた。

 

 張り詰めている。

 

 誰もが、誰かを疑っている。

 

 そしてその中心に――俺と松尾がいる。

 

 

「毛利君、君ならこの状況どう見るかね?」

 

 

 目暮警部が問いを投げる。

 

 

 その視線の先。

 

 

 毛利小五郎が、顎に手を当ててゆっくりと口を開いた。

 

 

「どうと言われましても……」

 

 

 静かな声。

 

 だが、その中に確かな芯がある。

 

 

「カイジか松尾さん、どちらかは嘘を吐いている」

 

 

 一拍。

 

 

「なら、2人に議論させるべきでしょう。そこから情報が落ちる」

 

 

 冷静。

 

 無駄がない。

 

 

「現状の不明点は――ダイイングメッセージの『カイニ』、マカロフの入手経路、動機、殺害方法、そしてどちらがトイレに行っていたのか」

 

 

 整理されていく論点。

 

 

「このあたりではないでしょうか?」

 

 

 

「さすが毛利君……」

 

 

 目暮が頷く。

 

 

「確かにそうだな。このあたりを2人に話させよう」

 

 

 そして。

 

 

「君も発言を聞いて判断を頼みたい。あとは服部君も呼んで、3人で判断する形にしよう」

 

 

 

「それは妥当ですね」

 

 

 

 ――最悪だ。

 

 

 内側で、嫌な汗がじわりと滲む。

 

 

 三人。

 

 

 名探偵クラスが三人で判断。

 

 

 普通なら心強い布陣。

 

 

 だが今は――

 

 

 俺にとっては“処刑台”に等しい。

 

 

 

 その時。

 

 

 

「おっ、なんや。空気ピリピリしとるな」

 

 

 軽い声とともに現れたのは――

 

 

 服部平次。

 

 

「俺を待ってたんか?」

 

 

「そうだ」

 

 

 

「なら土産や」

 

 

 手に持ったものを差し出す。

 

 

「4発目の銃弾や」

 

 

 一瞬、場がどよめく。

 

 

「窓から垂直の位置に、地面にめり込んどった」

 

 

 そして。

 

 

「トリックと犯人候補、2択まで絞れたで」

 

 

 

 ――こいつ……やっぱ化け物だな。

 

 

 内心で舌を巻く。

 

 

 

「探偵坊主」

 

 

 目暮が続ける。

 

 

「お前にも判断して欲しい。松尾さんかカイジ、どちらが犯人かを」

 

 

 

「なんや、おっちゃんたちも絞っとったんか」

 

 

 服部が少し拗ねたように頭の後ろに手を回す。

 

 

 

「え、どうやって?」

 

 

 江戸川コナンが問い返す。

 

 

 

「簡単や」

 

 

 小五郎が答える。

 

 

「VTR中に抜けたカイジはトイレに行った。しかし松尾さんは見ていない」

 

 

 一拍。

 

 

「逆に松尾さんはトイレに行ったが、カイジを見ていない」

 

 

 

「7階のトイレは一つ」

 

 

 

「だから――どちらかが嘘を吐いている」

 

 

 

(……なるほど)

 

 

 コナンが小さく頷く。

 

 

 

 ――確かに、その詰め方もあるのか……

 

 

 内心で、苦く笑う。

 

 

 俺は別ルートから攻めていたが、

 こいつらは“状況の矛盾”だけでここまで絞る。

 

 

 やっぱり、格が違う。

 

 

 

 そして。

 

 

 俺は――松尾を睨みつける。

 

 

 

 逃げるな。

 

 

 ここで決める。

 

 

 

「俺から行かせてもらうぜ」

 

 

 声に、力を込める。

 

 

「服部のお陰で、トリックは分かった」

 

 

 

(ほぉ……)

 

 

 服部が、わずかに口元を緩める。

 

 

(お手並み拝見やな、カイジ)

 

 

 

「松尾は――」

 

 

 ゆっくりと、言葉を紡ぐ。

 

 

「VTRを流してすぐ、隣の会議室に移動した」

 

 

 視線を固定する。

 

 

 

「そして携帯で、非通知で諏訪に電話をかけた」

 

 

 

 空気が、静まる。

 

 

 

「どんな内容かは分からないが、窓の外を見るように仕向けた」

 

 

 

「そして――7階の窓から、4階の窓に顔を出した諏訪を撃った」

 

 

 

 全てが繋がる。

 

 

 

「だから4発目の弾丸は、地面にめり込んでいた」

 

 

 

「部屋の3発はフェイクだ。中で撃ったように見せるためのな」

 

 

 

 さらに畳みかける。

 

 

 

「諏訪の番号は俺は知らない。初対面だからな」

 

 

 

「それに、発砲音は1発しか聞こえていない」

 

 

 

「だから残り3発はフェイク」

 

 

 

 一気に言い切る。

 

 

 

「それを準備できるのは――テレビ局員の松尾だけだ」

 

 

 

「これで充分だろ」

 

 

 

 沈黙。

 

 

 

 ――やべえ。

 

 

 

 自分でも分かる。

 

 

 これは――通ってる。

 

 

 完璧に近い。

 

 

 

 推理力。

 

 

 確実に、上がっている。

 

 

 

「せやな」

 

 

 服部が頷く。

 

 

「俺も同じこと考えとった」

 

 

 

「充分あり得る」

 

 

 小五郎も続く。

 

 

 

「なるほど……」

 

 

 目暮が腕を組む。

 

 

 

「じゃあ松尾さんが犯人か」

 

 

 

 ――決まった。

 

 

 

 そう、思った。

 

 

 

「待って下さいよ」

 

 

 

 その一言で。

 

 

 空気が、ひっくり返る。

 

 

 

 松尾。

 

 

 

 眼鏡の奥の目が、細く光る。

 

 

 

「私の話も聞いて下さい」

 

 

 

 冷静。

 

 

 いや――

 

 

 余裕すらある。

 

 

 

「殺害方法は、私も同じ意見です」

 

 

 

 ……は?

 

 

 

 一瞬、思考が止まる。

 

 

 

「ただし」

 

 

 

 ゆっくりと。

 

 

 こちらを見る。

 

 

 

「カイジ君と諏訪には、面識があったと考えます」

 

 

 

 ざわ……

 

 

 

「カイジ君が電話で呼び出し、射殺した」

 

 

 

 ――来た。

 

 

 

 完全に。

 

 

 俺に被せてきた。

 

 

 

「そもそも」

 

 

 

 さらに踏み込む。

 

 

 

「カイジ君と諏訪が“絶対に面識がない”根拠、説明できますか?」

 

 

 

 ざわ……ざわ……

 

 

 

 ――は?

 

 

 

 頭が、一瞬白くなる。

 

 

 

「えっ……ねえよ……そんなの」

 

 

 

 当然だ。

 

 

 “ないことの証明”なんて、できるわけがない。

 

 

 

「そういうことです」

 

 

 

 松尾が、薄く笑う。

 

 

 

「可能性がある以上、カイジ君にも同じ手口が使える」

 

 

 

 理詰め。

 

 

 逃げ道が、塞がれていく。

 

 

 

「それに」

 

 

 

「テレビ局での犯行は、私が疑われる要素になる」

 

 

 

「普通はやらない」

 

 

 

 

「それを逆手に取ったんだろ」

 

 

 思わず言い返す。

 

 

「地理的優位を使ったんだ」

 

 

 

「では逆も言えます」

 

 

 即座に返される。

 

 

 

「部外者のカイジ君なら、疑われにくい」

 

 

 

「だからここで殺した」

 

 

 

 ……くそ。

 

 

 

 完全に、論理で押してくる。

 

 

 

「それはねえよ!」

 

 

 声が荒くなる。

 

 

 

「そもそも動機がない!」

 

 

 

「何度も言ってるが、初対面だ!」

 

 

 

 

 その時。

 

 

 

 松尾が――笑った。

 

 

 

 ぞっとするような笑み。

 

 

 

「くっくっく……」

 

 

 

「初対面で動機がない、と……誓えますか?」

 

 

 

 一歩、踏み込んでくる。

 

 

 

「あとで撤回しませんか?」

 

 

 

 ざわ……ざわ……

 

 

 

 ――なんだこいつ。

 

 

 

 胸の奥が、熱くなる。

 

 

 

 犯人のくせに。

 

 

 よくも、ここまで――

 

 

 

「犯人は嘘を吐くものです」

 

 

 

「人を殺しているから」

 

 

 

「そして矛盾を指摘されると撤回する」

 

 

 

 視線が刺さる。

 

 

 

「だから誓えますか?」

 

 

 

「本当に初対面で、動機がないと」

 

 

 

 ――ふざけるな。

 

 

 

「ああ」

 

 

 睨み返す。

 

 

 

「撤回しねえよ」

 

 

 

「動機はない」

 

 

 

「初対面だ」

 

 

 

「諏訪なんて知らねえ」

 

 

 

 

 松尾は、眼鏡をくいっと上げる。

 

 

 

「動機はありますよ」

 

 

 

 静かに。

 

 

 確実に。

 

 

 

「今回の企画を考えたのは、諏訪です」

 

 

 

 ざわ……

 

 

 

「指名手配、そして生放送――全て彼の案です」

 

 

 

 胸の奥が、ざわつく。

 

 

 

「日売テレビは数字を取るためなら何でもする」

 

 

 

「あなたは無実でも、ネットではおもちゃ」

 

 

 

 事実。

 

 

 否定できない。

 

 

 

「普通は、病むか……復讐心を抱く」

 

 

 

「実際、そういう人間は多い」

 

 

 

 ……くそ。

 

 

 

 全部、事実だ。

 

 

 

 だからこそ、刺さる。

 

 

 

「つまり」

 

 

 

「カイジ君には動機がある」

 

 

 

 

 ざわ……ざわ……

 

 

 

 ――やべえ。

 

 

 

 完全に、流れを持っていかれた。

 

 

 

「やはりカイジか……」

 

 

 目暮が呟く。

 

 

 

「あり得るかも知れませんね」

 

 

 小五郎も続く。

 

 

 

「今のところ……どっちもどっちやな」

 

 

 服部が静かに言う。

 

 

 

 ――くそ。

 

 

 

 追い詰められている。

 

 

 

 だが。

 

 

 まだ終わってない。

 

 

 

 “あれ”がある。

 

 

 

 『カイニ』

 

 

 

 あのダイイングメッセージ。

 

 

 

 ――あれさえ解ければ。

 

 

 

 まだ、逆転できる。

 

 

 

 絶対に。

 

 

 ここで終わるわけにはいかない。

 

 




諏訪は第二話に出てきています!
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