(……俺は……)
ざわ……ざわ……
(まだ……自分の能力を理解してねぇ……)
拳が震える。
(もっと早く……気づくべきだった……)
(心の声が聞こえる……それだけで満足して……)
(使いこなす努力……してこなかった……)
歯を食いしばる。
(遅い……!)
(いつもそうだ……!)
(詰められてから気づく……!)
(後手……後手……!)
(だから……こうなる……!)
視線の先。
血文字。
指紋。
警部の圧。
(完全包囲……!)
(逃げ場なし……!)
(……もう……ダメか……)
一瞬、よぎる諦め。
だが――
(……いや……)
ゆっくりと顔を上げる。
(まだ……ある……)
(最後の手段……!)
視線を向ける。
毛利小五郎。
(……こいつしかいねぇ……!)
(漫画なら……)
(こういう時……主人公が助けてくれるはずだ……!)
一歩踏み出す。
「小五郎さん!!」
全力で肩を掴む。
ガクガクガクガクガク……!!
(起きろ……!)
(今だ……!)
(ここで起きなきゃ意味ねぇ……!)
顔が真っ赤。
まるで――ゆでだこ。
(死ぬほど飲んでやがる……!)
さらに揺らす。
「起きろって!!」
すると――
「ほにゃ……?」
ゆっくりと目が開く。
「親友じゃないか……どうした……?」
(来た……!)
(神……!)
「小五郎さん!!」
思わず前のめりになる。
「殺人事件です!」
「俺……疑われてるんです!!」
「助けてください!!」
その瞬間。
ピシッ――
空気が変わる。
「……なんだと?」
さっきまでの酔っぱらいが嘘のように。
目が据わる。
(……おお……!?)
(スイッチ入った……!)
「本当か?」
低い声。
「状況を説明してくれ」
(……来た……!)
(これだ……これを待ってた……!)
一気に話す。
「という訳です……!」
「俺はやってない……!」
「でもダイイングメッセージで“カイジ”って……!」
息を切らす。
(頼む……!)
(見抜いてくれ……!)
小五郎は腕を組む。
「……なるほどな」
一拍。
「親友が犯人じゃないと……俺も思う」
(……!!)
(きたあああああ!!)
「じゃあ簡単だ」
(……え?)
「ダイイングメッセージが違うってことだ」
(……!)
「包丁の指紋は……手袋でもしてたんだろ」
「俺も友達に“死ね”ってよく言ってたぞ」
(……雑!!)
(でも……!)
(方向性は合ってる……!)
「ありがとうございます……!」
思わず頭を下げる。
そして――
もう一度、血文字を見る。
じっと。
じっと。
ざわ……ざわ……
(……あれ……?)
(なんだ……これ……)
違和感。
(……形……おかしい……?)
目を凝らす。
(“カ”……?)
(いや……違う……)
(この棒……)
(後から……足されてる……?)
(元は……)
(“ナ”……!?)
心臓が跳ねる。
(そうか……!)
「……違う!!」
思わず叫ぶ。
ざわあああ……
「ダイイングメッセージ……書き加えられてる……!」
指を指す。
「これは“カイジ”じゃない……!」
(見える……!)
(見えるぞ……!)
「“ナイン”だ!!」
ざわああああ……
「“ナ”に棒を足して“カ”にしてる……!」
「つまり――偽装だ!」
一気に畳みかける。
「九条……!」
指を向ける。
「あいつは“九”……!」
「英語で“ナイン”……!」
(繋がった……!)
「つまり……!」
声を張る。
「ダイイングメッセージは……最初から九条を指してたんだ!!」
ざわああああああ……
空気が一変する。
(通った……!)
(流れ……変わった……!)
(いける……!)
警部が目を細める。
「……高木君」
高木渉が近づく。
「ダイイングメッセージをよく見てくれ……“ナイン”じゃないか?」
一瞬の沈黙。
「……確かに……」
ざわ……
「これは……書き足されています……!」
ざわあああ……
(……きた……!)
(逆転の一手……!)
周囲の視線が――
一斉に向く。
九条へ。
(終わりだ……)
(ここから……崩れる……!)
胸の奥で、何かが弾ける。
(助かった……!)
(小五郎さん……!)
(あんた……やっぱり……)
ちらりと見る。
毛利小五郎。
(……この人……)
(すげぇ……!)
ざわ……ざわ……
(逆転……成功……!)
(ここから……一気に決める……!)
***
ざわ……ざわ……
九条が、ゆっくりと前に出る。
髪をかき上げ――余裕の笑み。
「ハハハ……」
(……きやがった……)
「ナインだから僕が犯人?」
肩をすくめる。
「警部さん、面白い冗談を」
(余裕……完全に余裕……!)
「22時30分に宴会場にいたのは、多くの人が証明しています」
ざわ……
「その時間に犯人が目撃されているなら――」
一拍。
「僕のわけがないじゃないですか?」
(……くそ……)
「説明できるのですか?」
静かな圧。
(来る……!)
そして――
「……確かに」
目暮十三が頷く。
(……は?)
「じゃあ……カイジか」
(はああああああ!?)
ざわあああ……
(待て待て待て待て……!)
(俺の時はあんなに詰めたのに……)
(九条の反論はそれだけで通るのかよ!?)
(おかしいだろ……!)
(理不尽……!)
(でも……)
冷静な自分が割り込む。
(確かに……)
(この“アリバイ”崩せなきゃ……)
(全部終わる……)
ざわ……ざわ……
深く息を吸う。
(落ち着け……)
(今だ……)
(心を整えろ……)
(九条の“心の声”を拾え……!)
集中。
雑音が引いていく。
そして――
(……くそ……偽装して“カイジ”と書いたのがバレかけている……)
(……!)
(だがなぜか……みんなが俺のアリバイを証明してくれている……ラッキー……)
(……やっぱりお前か……!)
確信。
(犯人……九条……!)
(でも……)
(なぜ……崩れない……!?)
さらに――
(でもなぜなんだ……俺の時計だと……23時に宴会に戻ったんだけど……)
(……!?)
(……は?)
(23時……?)
(でも……みんな……)
(22:30って……言ってる……)
思考が加速する。
(ズレてる……)
(時間が……ズレてる……!)
(誰かが間違ってる……)
(いや……)
(“全員が同じ時間を見てる”……?)
(あれ……)
記憶を辿る。
(宴会場……)
(あの時……)
(みんな……何見てた……?)
(……腕時計……?)
(いや……)
(違う……!)
(……古時計……!)
閃光。
(ああああああああ!!)
(そうだ……!)
(温泉……!)
(みんな風呂上がり……!)
(腕時計してねぇ……!)
(だから……)
(全員……同じ時計を見た……!)
(宴会場の……古時計……!)
心臓が爆発する。
(もし……)
(あれが……壊れてたら……?)
(全員の証言が……ズレる……!)
(アリバイ……崩壊……!)
顔を上げる。
「……高木刑事!!」
声を張る。
高木渉が振り向く。
「古時計だ!!」
ざわ……
「宴会場の古時計……!」
一歩踏み出す。
「22時30分で止まってたんじゃないか!?」
ざわあああ……
「それなら……全部説明がつく!」
(頼む……!)
(当たってくれ……!)
「調べてくれ!!」
空気が張り詰める。
数分。
いや――体感では数時間。
(長ぇ……!)
(頼む……!)
(ここ外したら……終わり……!)
やがて――
バタバタと足音。
戻ってくる高木。
息を切らしながら。
「はぁ……はぁ……!」
(来た……!)
「どうだ……!?」
「カイジさんの言う通りです……!」
ざわああああああ!!
「古時計は……22時30分で止まっていました!」
(――きたああああああああああ!!!)
(当たり……!)
(大当たり……!!)
(アリバイ……崩壊……!!)
視線が一斉に動く。
九条へ。
ざわ……ざわ……
(終わりだ……)
(お前の“完璧”……)
(崩れた……!)
胸の奥から込み上げる。
(助かった……)
(生き延びた……!)
(俺……勝った……!)
ざわ……ざわ……
(逆転……!)
(ここから……完全勝利だ……!)
ざわ……ざわ……
(……崩れた……!)
(ついに……!)
九条のアリバイ。
完全崩壊……!
俺は一歩踏み出す。
「これで崩れたぜ……九条のアリバイ」
ざわ……
「なぁ……」
睨みつける。
「お前……22:30、どこにいたんだ?」
空気が張り詰める。
九条の顔が引きつる。
「ぼ……僕じゃない……」
(……弱い……!)
(さっきまでの余裕……どこ行った……!)
(今だ……!)
(攻めろ……!)
(ここで引いたら……終わり……!)
(俺は……あれだけ詰められた……!)
(なら……)
(今度は俺の番だ……!)
一気に畳みかける。
(待て……)
(決定打……!)
(何か……あるはず……!)
思考が加速する。
(ダイイングメッセージ……)
(偽装……)
(書き足した……)
(その直後に……)
(事件発覚……)
(なら……!)
閃き。
(ついてるはずだ……!)
(血が……!)
「高木刑事!!!」
叫ぶ。
高木渉が振り向く。
「九条の指にライト当てろ!!!」
ざわあああ……
「血文字を書き足したなら……!」
「指に血がついてるはずだ!!」
(どうだ……!)
ライトが当たる。
全員が注視。
だが――
「……何もありません」
(……は?)
肌色。
綺麗な指。
ざわ……ざわ……
(……くそ……!)
(洗ってやがる……!)
(当然……!)
(そんなの……分かるだろ……!)
(俺の……ミス……!)
ぐらりと揺れる。
(詰めが……甘ぇ……!)
(またかよ……!)
その時――
横から、声。
「だったら――」
振り向く。
毛利小五郎。
腕を組み、当然のように言う。
「ルミノール反応薬使えばいいだろ」
(……は?)
「血を拭き取ってても……青紫に光る」
(……!!)
(……天才かよ……!!)
(なんだその発想……!)
(いや……)
(発想じゃねぇ……)
(知識……!)
(経験……!)
(この人……やっぱり……すげぇ……!)
一瞬で流れが変わる。
「すぐに用意しろ!」
目暮十三の指示。
ざわ……ざわ……
(これで……)
(決まる……!)
やがて――
ルミノール反応。
九条の手に、薬剤がかけられる。
一瞬の静寂。
そして――
ぼうっ……
青紫の光。
ざわあああああああ!!
(……きた……)
(確定……!)
(逃げ場なし……!)
「九条……」
警部の低い声。
「お前が……偽装工作をしたんだな……」
空気が凍る。
九条の顔が歪む。
「くそおおおおおおお!!!」
絶叫。
「そうだ!!!」
ざわあああああ……
「僕が……偽装した!!!」
(終わりだ……)
(完全決着……!)
全身から力が抜ける。
(助かった……)
(マジで……死ぬかと思った……)
視界の端。
毛利小五郎。
(この人がいなきゃ……)
(終わってた……)
(やっぱり……)
(“名探偵”だ……)
ざわ……ざわ……
(生還……!)
(今回も……ギリギリ……!)
(だが……)
(勝ちは勝ちだ……!)
胸の奥で、静かに思う。
(……次は……)
(もっと早く……見抜く……)
(“詰め”……甘くしねぇ……!)
***
「そうだ……」
九条が、荒い呼吸のまま顔を上げる。
「僕は確かに偽装工作をした……」
ざわ……
(……終わりだな……)
(観念したか……)
だが――
「だが、犯人ではない」
(……は?)
空気が凍る。
「殺しはしていない」
ざわあああああ……
(……何言ってんだ……こいつ……)
(往生際……悪すぎだろ……!)
(ここまで証拠揃ってて……まだ逃げるか……!?)
眉をひそめる。
(いや……)
(でも……)
(なんだ……この違和感……)
「いやさすがに……」
目暮十三が前に出る。
「九条君……君が犯人だよ」
(そうだ……)
(普通はそうなる……!)
(血文字偽装……)
(アリバイ崩壊……)
(ルミノール反応……)
(ここまで揃ってて……)
(違うわけがねぇ……!)
だが――
九条は、首を振る。
「いや……聞いてくれ……」
ざわ……
「僕の話を……」
声が震えている。
だが、その目は――
(……必死……?)
(いや……)
(恐怖……?)
(演技……か?)
(それとも……)
一瞬、背筋に寒気。
(……まさか……)
九条が続ける。
「僕は……確かに……」
拳を握る。
「血文字を……書き足した……」
(それはもう分かってる……!)
「でも……」
顔を上げる。
「その時には……もう……」
一拍。
「安西は死んでいたんだ……!」
ざわああああああああ!!!
(……!?)
(……なに……?)
思考が止まる。
(死んでた……?)
(じゃあ……)
(殺してない……?)
(いや……待て……!)
(じゃあ誰が……!?)
ざわ……ざわ……
場の空気が揺れる。
「ふざけるな……!」
警部の怒声。
「そんな言い訳が通ると思っているのか!」
(そうだ……!)
(普通は……通らねぇ……!)
(苦し紛れの嘘……!)
(……のはず……)
だが――
(……でも……)
カイジの中で、何かが引っかかる。
(こいつ……)
(“やってない”って言ってる時の反応……)
(さっきまでと違う……)
(偽装の時は……焦りと計算……)
(でも今は……)
(純粋な恐怖……?)
(……演技じゃねぇ……?)
(いや……でも……)
頭が揺れる。
(分からねぇ……!)
(どっちだ……!?)
九条が続ける。
「僕は……あの場所に行った時……」
声が震える。
「もう……倒れていたんだ……」
ざわ……
「だから……」
唇を噛む。
「とっさに……自分が疑われないように……」
「カイジって……書き足した……」
(……最低だな……!)
(クズ……!)
(でも……)
(殺してない……?)
(いや……)
(そんな都合いい話……あるか……?)
視線が揺れる。
(……待て……)
(この事件……)
(まだ……終わってねぇ……?)
ざわ……ざわ……
(もし……)
(九条が本当に偽装だけなら……)
(真犯人は……別にいる……!)
心臓が強く鳴る。
(……またかよ……)
(また……振り出しか……!?)
(やっと助かったと思ったのに……!)
拳を握る。
(だが……)
(逃げられねぇ……)
(ここまで来たら……)
(最後まで……やるしかねぇ……!)
ざわ……ざわ……
(真犯人……)
(まだ……この中にいる……!)
「本当に違うんだ……!」
九条が必死に叫ぶ。
ざわ……ざわ……
「そもそも……」
息を切らしながら続ける。
「“ナイン”なんて書かずに……」
「“九条”って書けばいいだろ!?」
空気が揺れる。
(……確かに……)
「なんでわざわざ……あだ名なんだよ……!」
ざわ……
(……おい……)
(それ……)
(言われてみれば……)
(確かにおかしい……)
俺の中で、何かがズレる。
(ダイイングメッセージ……)
(被害者が書く……)
(時間もない……)
(なら……)
(わざわざ“ナイン”なんて回りくどい書き方するか……?)
(普通……名前書くだろ……)
心臓が、ドクンと鳴る。
その瞬間――
(……本当に違うんだ……)
九条の“心の声”。
(あのとき……たまたま神社に行ったら……もう死んでた……)
(……!?)
(しかも……“ナイン”って書いてあって……)
(……!)
(それ見て……閃いたんだ……)
(カイジにしてやるって……)
(……俺じゃない……)
ざわ……
(……は……?)
(……マジで……?)
思考が止まる。
(こいつ……)
(“殺した”って一言も言ってねぇ……)
(一貫して……)
(偽装した……だけ……)
(……って……)
背筋が冷たくなる。
(……俺……)
(勘違いしてた……?)
(いや……でも……)
(心の声は……嘘つかねぇ……)
(少なくとも……)
(“殺した側の声”じゃない……)
視界が揺れる。
(……凡ミス……)
(やっちまった……)
(確定したと思って……)
(深く考えてなかった……!)
歯を食いしばる。
(くそ……!)
(まただ……!)
(詰めが甘い……!)
(“犯人分かった”って慢心して……)
(本質……見てなかった……!)
ざわ……ざわ……
周囲の視線が揺れている。
疑いが――
再び、拡散する。
(……まずい……)
(事件……振り出し……!)
(しかも……)
(俺は一度……)
(“九条が犯人”って断定した……!)
(信用……ガタ落ち……!)
喉が渇く。
(どうする……!?)
(真犯人……誰だ……!?)
心の声は――
まだ拾えていない。
(……落ち着け……)
(もう一度……)
(全部……洗い直せ……!)
拳を握る。
(今度こそ……)
(間違えねぇ……!)
ざわ……ざわ……
(本当の犯人……)
(この中にいる……!)
「そうだ……!」
九条が必死に食い下がる。
ざわ……ざわ……
「警部さん、僕は偽装工作をしただけだ!」
(……来るぞ……)
「その時に……」
毛利蘭を指す。
「蘭さんに見られた!」
(ああ……それで“人影”か……!)
「偽装したのは謝る……!」
「でも……!」
声を張る。
「遺体には触れていない!」
ざわ……
「壊してもいない!」
「いじったのはダイイングメッセージだけだ!」
(……筋は通ってる……)
(くそ……)
「つまり――」
一拍。
「死亡推定時刻は……もっと前なんだ!」
ざわあああ……
(……!)
(そう来たか……!)
「調べたのか!?死亡推定時刻!」
空気が一気に変わる。
目暮十三が腕を組む。
「……ふむ」
(頼むなよ……変な方向に転ぶなよ……!)
「蘭君と……」
江戸川コナンの方を見る。
「コナン君の証言を元に、その時間帯で捜査していたが……」
(……嫌な予感……)
「確かにな……」
(やめろ……)
「鑑識に聞いてみるか……」
ざわ……ざわ……
(頼む……外れてくれ……!)
数秒。
だが、体感は永遠。
「……えっ、何?」
(……来た……)
「ふむ……ふむ……」
(やめろ……やめろ……!)
そして――
「死亡推定時刻は……」
全員が息を呑む。
「21時45分から……22時15分」
ぐにゃああああああああ……
(……終わった……)
(完全に……終わった……!)
「……ということは」
警部がゆっくりと九条を見る。
「九条君は……本当に死体を目撃していたのか」
ざわあああ……
(……あいつ……)
(白に近づいた……!)
(じゃあ……)
(犯人は……)
嫌な汗が背中を伝う。
その瞬間――
警部の視線が、ゆっくりと動く。
(……来る……)
「カイジ……」
(やめろ……)
「お前……」
(やめろって……!)
「その時間……アリバイないよな?」
ざわあああああ……
(はああああああああああ!?!?)
(また俺かよ!!!)
頭が爆発する。
(ふざけんな……!!)
(なんでだよ……!!)
(何回目だこれ……!?)
(俺じゃねぇって言ってんだろ……!!)
一歩踏み出す。
「おかしいだろ!!!」
声が響く。
ざわ……ざわ……
「なんでだよ!!」
指を振り回す。
「さっきからずっと俺俺俺って!!」
「証拠が出るたびに俺!!」
「崩れたらまた俺!!」
(サンドバッグか俺は……!)
「いい加減にしろよ!!!」
息が荒い。
「九条は偽装してた!!」
「死亡時刻もズレてた!!」
「じゃあ普通……」
「“別の犯人”探すだろうが!!」
ざわ……
(押せ……!)
(ここは押し切れ……!)
「なんでまた俺に戻るんだよ!!」
「おかしいだろ!!!」
警部が目を細める。
「……だがな」
(……来る……)
「お前には……依然として」
一歩近づく。
「アリバイがない」
(くそ……!)
「そして……」
低く言う。
「動機もある」
(……またそれかよ……!)
「さらに……」
「現場に近い位置にいた」
(……!)
「そして……」
「ダイイングメッセージに名前がある」
(それは偽装だろうが!!)
心の中で叫ぶ。
だが――
言葉に詰まる。
(……くそ……)
(全部……一応“筋”が通ってる……!)
ざわ……ざわ……
(また……同じ流れ……!)
(俺が……)
(“最有力”……!)
拳を握る。
(……だが……)
(今度は違う……!)
(九条じゃないのは分かった……!)
(なら……)
(真犯人は……別にいる……!)
歯を食いしばる。
(絶対に……見つける……!)
(もう……間違えねぇ……!)
ざわ……ざわ……
(次こそ……)
(本当の逆転だ……!)
「警部殿――」
低く、落ち着いた声。
振り向くと、毛利小五郎。
(来た……親友……!)
「親友のカイジ君を犯人と決めつけるのは……少々強引ではありませんか?」
ざわ……
(いいぞ……!)
「“カイジ”という文字が偽装だった以上――」
腕を組む。
「一旦フラットに考えましょう」
(……助かる……!)
「そしてその時間帯にアリバイがないのは――」
指を動かす。
「カイジ君だけではない」
「三井君と井上さんも同様です」
ざわ……
(そうだ……!)
(俺だけじゃねぇ……!)
「九条君については――」
「宿の女将が、その時間帯に雑談していた証言がある」
(……!)
「よって、九条君は除外される」
ざわあああ……
(……完全に白……!)
(なら……)
(残りは……三択……!)
(俺・三井・井上……!)
(ここから……本当の勝負……!)
深く息を吸う。
(……集中……)
(心の声……拾え……!)
ざわ……ざわ……
(俺がやってしまった……)
(私がやってしまった……)
(……は?)
(……どっちも……?)
思考が止まる。
(……おい……)
(なんだこれ……)
(“両方”……?)
(……心の声=犯人……じゃねぇのか……?)
(……やばい……)
(前提……崩れた……!)
(この能力……万能じゃねぇ……!)
(……判断ミスったら……終わる……!)
歯を食いしばる。
(落ち着け……!)
(別の視点……!)
(論理……!)
その時――
閃く。
(……待て……)
(死亡推定時刻……)
(21:45~22:15……)
(なのに……)
(蘭とコナンは……)
(22:30に“安西”を見た……)
(……おかしくねぇか?)
「……そうだ!!」
声を張る。
ざわ……
「蘭さんとコナン君が見た安西……おかしくねぇか!?」
全員が振り向く。
「死亡推定時刻に……生きてることになる!!」
ざわあああ……
「確かに……そうなるわね……」
毛利蘭が呟く。
(来た……!)
その時――
(そうなんだ……)
小さな声。
(それは俺も考えていた……)
(……!?)
(この声……)
視線を向ける。
江戸川コナン。
(……こいつ……)
(小学生の思考じゃねぇ……)
(何だこの分析……)
(……化け物か……?)
(いや……今はいい……!)
(ヒントは出た……!)
「つまり……!」
一歩踏み出す。
「蘭さんたちが見た“安西”は偽物だ!!」
ざわああああ……
「変装だ……!」
(ここだ……!)
「そして変装するなら……」
拳を握る。
「男の可能性が高い!!」
ざわ……
(候補は……)
(俺・三井・井上……)
(でも井上は女……)
(なら……)
「その時間帯にアリバイがない男は……!」
一瞬。
呼吸が止まる。
「……俺と……三井……!」
ざわ……
(……いや……)
(俺はやってねぇ……!)
(なら……)
「……三井だ!!」
指を突きつける。
ざわあああああ……
その瞬間――
(くっ……ここで俺が殺したと言った方がいいか……)
(……!?)
(三井……!)
(やっぱり……!)
(でも……)
(“俺を犯人に仕立てるか、自分が捕まるか”……?)
(……は?)
(つまり……)
(まだ……押し合い……!)
(完全確定じゃねぇ……!)
(やべぇ……!)
(ここで押し切らないと……!)
「俺はやってねぇ!!!」
叫ぶ。
「三井が変装したんだ!!」
ざわあああ……
「そもそも“カイジ”は偽装!!」
「俺が犯人じゃねぇのは確定してる!!」
(押せ……!)
(今だ……!)
だが――
三井も吠える。
「いや俺じゃない!!」
ざわ……
「俺視点では逆だ!!」
(……来た……!)
「アリバイのないカイジが……安西のフリをした!!」
「そもそも“殺す”って言ってたのはカイジだ!!」
(くそ……!)
「包丁にもカイジの指紋!!」
一歩踏み出す。
「それで俺が犯人!?」
「おかしいだろ!!!」
ざわあああ……
(……くっ……!)
(完全に……五分……!)
(証拠……拮抗……!)
(このままじゃ……)
(また俺に戻る……!)
ざわ……ざわ……
(……決め手……!)
(あと一手……!)
(どっちかを……叩き潰す……!)
(それがなきゃ……終わる……!)
心臓が激しく鳴る。
(勝負……!)
(ここが……)
(本当の分岐点……!)
(……そうだ……)
脳内で何かが繋がり始める。
(江戸川コナンたちが“安西”だと思い込んだのは……)
(あの……時計……)
(ケケケ……って笑う……不気味なアラーム……)
(……あれのせいだ……!)
ゾクッとする。
(……待てよ……)
(腕時計……)
視線が現場に向く。
(……おかしい……)
一歩踏み出す。
「なぁ……」
全員の視線が集まる。
「その安西の腕時計……」
喉が鳴る。
「血がついてねぇ」
ざわ……
「……は?」
「不自然なほどにだ……」
指差す。
「周りは血しぶきだらけなのに……そこだけ綺麗すぎる」
ざわあああ……
(来た……)
「本当だ……!」
「確かにおかしい……!」
ざわ……ざわ……
目暮十三が腕を組む。
「つまり……」
低く呟く。
「犯人は血を拭き取り……腕時計をつけて安西のフリをした……ということになるな」
(……そうだ……!)
(そこまではいい……!)
だが――
「……ん?」
警部が続ける。
「それなら……」
嫌な予感。
「カイジでも……三井君でも……どちらでも可能だな」
ざわ……
(……あっ)
(そうなのか……)
(詰め切れてねぇ……!)
(くそ……!)
頭を抱えそうになる。
(落ち着け……!)
(まだ何かある……!)
(絶対……ある……!)
呼吸を整える。
(……そうだ……)
(井上……)
(あいつ……まだ触れてねぇ……)
(でも……)
(“私がやってしまった”って……)
(あの声……)
(何をやった……?)
脳内を必死に掘り返す。
(……コナンと蘭……)
(外に出た時……)
(“驚いた”って言ってた……)
(何を見た……?)
記憶を辿る。
(……井上……)
(あの時……)
(……地蔵みたいに……立ち止まってた……)
(……!?)
(あれ……)
(“何かを見た顔”じゃねぇ……)
(“やった後の顔”……!)
ゾワッとする。
(時間……)
(前後関係……)
(安西を見た……)
(三井が変装……)
(その前……)
(井上……)
(何を……)
(やった……?)
一瞬――
すべてが繋がる。
ぐにゃああああああああああ……
(……解けた……)
(全部……)
(繋がった……!)
心臓が爆発しそうになる。
(そういうことか……!)
(犯人は……)
(……こいつだ……!)
顔を上げる。
ゆっくりと。
「……俺……」
ざわ……
「犯人分かった」
ざわあああああああ!!!
(来た……)
(今度こそ……)
(本当の答え……!)
(外さねぇ……!)
視線が、一点に集まる――
***
ざわ……ざわ……
静まり返る空気。
俺は一歩前に出る。
「蘭さんと……」
毛利蘭を見る。
「コナン君が外に出た時……井上さん、驚いて固まってたんだよな?」
「そうだよ!」
江戸川コナンが即答する。
「何かに驚いた顔だった!」
(カイジさんも気付いたのか……)
(じゃあおっちゃんの出番はなさそうだな……見学だ)
(……見学?)
(まあいい……今はそれどころじゃねぇ……!)
俺は続ける。
「何を見たか……」
一拍置く。
「時系列で考えれば分かる……」
ざわ……
「安西を見たんだ」
ざわざわ……
「……いや、正確には違う」
視線を三井に向ける。
「三井……お前が変装した“安西”だ」
ざわああああ……
三井がビクッと震える。
「なぜ驚いたか……」
声を低くする。
「殺したはずの人間が……生きてると思ったからだ」
ざわ……
(……決まった……)
だが――
ここからが本番。
「じゃあなぜ……三井は変装した?」
沈黙。
「井上さんのアリバイを作るためだ」
ざわあああ……
井上の肩が揺れる。
「死亡推定時刻をごまかすことで……」
「犯行を隠すため……!」
(核心……!)
「2人は結婚する仲だ」
三井の顔が歪む。
「守ろうとしたんだ……恋人を」
ざわ……
「三井は気付いた……」
一歩踏み出す。
「神社で見た“本当のダイイングメッセージ”に」
全員が息を呑む。
「“ナイン”じゃない」
「……“イノ”だ」
ざわあああああああ!!!
井上が顔を上げる。
「井上のあだ名……!」
(決まりだ……!)
「それを見た三井は……」
「恋人を守るために“ナイン”と偽装した」
三井が歯を食いしばる。
「そもそも……」
指を突きつける。
「九条が犯人じゃないなら……」
「元々何て書いてあったかを考えるべきだったんだ!」
ざわ……ざわ……
「そして……」
ゆっくり井上を見る。
「俺は井上さんを犯人と断定した瞬間……」
(見えた……全部……!)
「この真相に辿り着いた」
息を吐く。
「もう一つ……決定的な証拠がある」
ざわ……
「俺も三井も……」
自分の服を見る。
「着替えてない」
「もし犯人なら……」
「返り血を浴びてるはずだ」
ざわ……
「でも全員……綺麗すぎる」
(そうだ……)
「つまり犯人は――」
「風呂に入って着替えてる」
空気が凍る。
「その時間があったのは……」
ゆっくりと指を向ける。
「井上さん……あんただ」
ざわあああああああ!!!
「服を脱いで……」
冷たく言う。
「ルミノール反応、かけてみるか?」
静寂。
(終わりだ……)
その瞬間――
ぐにゃ……
井上の膝が崩れる。
「……っ……」
そのまま、崩れ落ちた。
ざわ……ざわ……
「……私が……やりました……」
(……確定……!)
理由はすぐに語られた。
安西の暴言。
それが原因で兄が自殺。
「……許せなかった……」
涙と共に崩れる。
ざわ……ざわ……
(……終わった……)
全身から力が抜ける。
(助かった……)
(マジで……ギリギリ……)
(あと一歩で……終わってた……)
深く息を吐く。
ふと見ると――
毛利小五郎がニヤリと笑っている。
(……なんだよ……)
(最初から見てやがったな……)
だが――
悪くない。
(こいつ……)
(なんだかんだ頼れる……)
その日を境に――
俺はこいつらとつるむようになった。
麻雀。
競馬。
酒。
(最高だ……!)
だが同時に――
(なぜか……)
(毎回……)
(事件に巻き込まれる……!)
ざわ……ざわ……
(俺の人生……)
(どこ行っても……)
(ギャンブルか……殺人か……!)
天を仰ぐ。
(だが……)
(生き延びる……!)
(何度でも……!)
……終わった。
ざわ……ざわ……していた現場も、今はもう静かだ。
今回――
悪いことをしていたのは……三人。
なのに俺は――
「犯人は一人」っていう固定観念に縛られて……
九条を確定扱い……。
……危なかった。
あのまま突っ走ってたら……
普通に間違えてた……!
ざわ……
やっぱり……俺はまだ甘い……!
そして――
小五郎さん。
あの助言がなければ……
完全に詰み……!!
俺、終わってた……!!
……命の恩人。
さすが……名探偵……!!
格が違う……!
ざわ……ざわ……
それにしても……
目暮警部はひどい……。
なんであんなに俺を疑うんだよ……!
毎回毎回……犯人扱い……!
……ん?
あれ……?
昔……そんなこと……なかったか……?
……思い出せねえ。
まあいいか……。
ざわ……
とりあえず――
俺を犯人扱いしてきたこのバイト……
辞めることにした。
……いや。
正確には――
辞めることになった。
あのあと――
小五郎さんと宴会の続きで……
酒……飲みまくって……!
テンション上がって……!
障子……ぶち抜いて……!
ビデオテープ……破壊して……!
――クビ。
……。
ざわ……ざわ……
というわけで――
俺、ニート。
……いや。
むしろ――
人生がやべえ……!!
ざわ……ざわ……
カイジ……
事件解決してもなお……
圧倒的転落……!!
――完。
エンド 無職になった俺
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