心読みの逆転探偵録 カイジVS名探偵コナン   作:梅酒24

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ファイル12:TV局殺人事件 後編

 松尾の声は、静かでありながら、確実に場の空気を支配していった。

 論理は積み上げられ、逃げ場を塞ぐように、ゆっくりと、しかし確実に追い詰めてくる。

 「さらに決定打としては『カイニ』――普通、被害者がダイイングメッセージを書くなら犯人の名前を書きます。そして『カイジ』と書こうとして息絶えたんです」

 その言葉が落ちた瞬間、空気が重く沈む。

 「私の名前は松尾です。私の名前を書くなら松尾と書けばいいだけ。違いますか?」

 ざわ……ざわ……。

 視線が、一斉にこちらへ向けられる。

 まるで針のように突き刺さるその視線に、胃の奥がきしむ。

 ――クソ……来やがったな……決定打気取りの一手……!

 カイジは歯を食いしばりながら口を開いた。

 「いや。そんなことしたら、あんたにダイイングメッセージを消される可能性がある。だから遠回しのメッセージにしたんだよ。それに『ジ』になるとは思えない。違う文字を書こうとしてる」

 「いや、被害者は死にかけだ。手元も狂うでしょう」

 松尾は一歩も引かない。むしろ、じわりと距離を詰めてくる。

 「多少の違和感はあっても、『カイジ』の方が理に適っている」

 「そもそもそれ、本当に被害者が書いたのかよ」

 「それは検査済みです。被害者本人の血液で、本人が書いたと断定されています」

 高木の言葉が、無慈悲に追撃を加える。

 ――ちっ……そこ潰されるか……!

 逃げ道が、一つ潰れる。

 思考が軋む。

 だが松尾は止まらない。

 「悪いですが、さらに攻めさせて頂きます」

 その一言で、背筋が冷たくなる。

 「凶器はロシア製マカロフ。そしてその入手は非常に困難。普通の人間にはまず不可能です」

 ――やめろ……その話は……!

 「ただし、カイジ君には“心当たり”がありますよね?」

 ざわ……ざわ……。

 「バスジャック事件で使用されていた銃……プロシュートとペッシが持っていたのもマカロフだった」

 目暮の声が、鈍く響く。

 「そうか……その時に入手した可能性が……」

 「待ってくれ!それは偶然だ!貰ってねえよ!取り調べも受けただろ!」

 声が荒れる。

 だが、言葉が軽くなる感覚があった。

 ――くそ……焦るな……焦ったら負けだ……!

 「それにあんた……やけに銃に詳しいじゃねえか。普通そんなこと知らねえだろ」

 一矢報いる。

 だが――

 (やべっ……)

 一瞬、松尾の内側から漏れた焦り。

 だが次の瞬間には、すでに整えられていた。

 「ええ、調べましたよ。テレビ局の人間ですから。バスジャック事件を扱う以上、当然です」

 滑らかすぎる。

 隙がない。

 「仮にその場で入手していなくても、後から回収することは可能です。重要なのは“手段がある”ということです」

 ――ぐっ……!

 言葉が、重い鎖のように絡みつく。

 「そして証言もありますよね。プロシュートとカイジ君がひそひそ話をしていたと」

 ざわ……ざわ……。

 ――あああああああ!!そこかよ!!

 記憶がフラッシュバックする。

 あのバスの中、命を繋ぐための交渉――。

 「いや……それはみんなを救うための交渉で……」

 だが、そんな事情は通じない。

 外から見れば“怪しい会話”でしかない。

 松尾の口元が、わずかに歪む。

 「では、トドメを刺しましょうか」

 ――来る……!

 「実は、カイジ君と諏訪に“面識がある証拠”があるんですよ」

 心臓が、一瞬止まる。

 ――は……?

 「は?捏造でもする気かよ!俺は知らねえって言ってんだろ!」

 声を張る。

 だが――その瞬間。

 “諏訪”という名前が、頭の奥に引っかかる。

 ――あれ……?

 ――どこかで……聞いた……?

 曖昧な記憶が、じわりと浮かび上がる。

 「TVロケ殺人事件。沖野ヨーコさんと九条さんのドラマ。君、バイトしていましたよね?」

 「……ああ」

 答えた瞬間、背筋に冷たいものが走る。

 ――やべえ……

 「その現場に毛利探偵も、目暮警部もいましたよね?」

 「確かにいたな……」

 「カイジとはそこで顔見知りになった」

 逃げ場が、さらに消える。

 松尾は淡々と続ける。

 「そのドラマ、月9枠。つまり日売テレビ制作。そしてプロデューサーは――諏訪です」

 ざわ……ざわ……。

 「さらに言えば、カイジ君はその後もテレビ局に出入りしていた」

 「あっ――」

 口から、思わず漏れる。

 ――終わった……!

 思い出してしまった。

 どうでもいいと思っていた記憶が、最悪の形で繋がる。

 スタッフの証言が追い打ちをかける。

 「確認取れました。カイジ君は現場に同席し、テレビ局にも何度か来ています」

 ざわ……ざわ……ざわ……。

 ――やべえええええ……!!

 頭の中がぐにゃりと歪む。

 逃げ道が、完全に閉じていく。

 「つまり――」

 松尾の声が、静かに響く。

 「カイジ君は、立地も把握している。面識もある。そして動機もある」

 その一言一言が、重く沈んでいく。

 「特に――諏訪と故人の安西が、カイジ君を貶していたという証言もあります。これも立派な動機でしょう」

 ざわ……ざわ……。

 視線が、変わる。

 疑いから――確信へ。

 ――くそ……!

 事実を積み重ねられている。

 しかも、全部“本当”だ。

 だからこそ、崩せない。

 胸の奥で、何かが軋む。

 だが同時に――別の感覚もあった。

 静かに、冷えていく思考。

 ――いや……待て……

 これは“詰み”じゃねえ。

 むしろ――ここまで積み上げてきたってことは……

 “どこかに無理があるはずだ”

 カイジはゆっくりと顔を上げた。

 視線の先にいるのは、松尾。

 ――お前……どこかで“やりすぎてる”だろ……

 ざわめきの中、次の一手を探す思考だけが、異様に冴え渡っていくのだった。

目暮警部は、ゆっくりと帽子を深くかぶり直した。

 その仕草は、何かを決断したときのものだった。

 「残念だよ……」

 低く、重い声が落ちる。

 「動機、入手経路、そして諏訪を知らないと言っていて実は知っていた……つまり嘘吐きはカイジ。君がやったんだな」

 ガチャリ――。

 冷たい金属の感触が、手首に食い込む。

 銀色の手錠が、現実を突きつけてきた。

 ざわ……ざわ……。

 空気が変わる。

 完全に、“犯人を見る目”だ。

 ――終わった……。

 その言葉が、喉元までせり上がる。

 確かに、ここまでの話だけを並べれば――俺が犯人だ。

 逃げ場なんて、どこにもない。

 だが。

 ――それでも……あらがうしかねえ……!

 「違えよ……!」

 声を絞り出す。

 「俺じゃない!諏訪のことは忘れてただけだ!あいつの話してるとき、俺……めんどくさくて寝てたんだよ!全部!」

 ざわ……。

 「だから言われて気付いたんだ!嘘じゃねえ!認識してなかっただけだ!テレビ局に来たのも忘れてた!興味ねえことは覚えてねえんだよ!」

 必死だった。

 だが――

 「言い訳が苦しいぞ……カイジ……」

 目暮の声は、揺るがない。

 ――くそ……!

 本当のことなのに。

 全部事実なのに。

 それでも――“言い訳”にしか聞こえない。

 ――これが……俺の人生かよ……!

 積み上げてきたクズな過去が、ここで牙を剥く。

 信じてもらえない。

 何を言っても、信用されない。

 ――会議室で……あのときは信じてもらえたのに……

 その瞬間。

 頭の中で、何かが繋がった。

 ――会議室……?

 ――会議室……!

 「……分かった」

 顔を上げる。

 「『カイニ』の意味が分かった」

 ざわ……ざわ……。

 「なんだ?」

 「諏訪は……『カイギシツ』って書こうとしたんだ」

 空気が、一瞬止まる。

 「そもそも外は暗い。犯人の顔は見えてなかったはずだ。だから名前じゃなくて――場所を書こうとした」

 言葉が、次第に熱を帯びていく。

 「トリックを解き明かすためか、それとも証拠があるのか……とにかく7階の会議室を調べる必要がある!」

 沈黙。

 そして――

 「ほう……」

 服部が腕を組む。

 「確かに筋は通っとるな。『カイニ』の答えとしてはあり得る話や。調べる価値はあるで」

 その一言で、流れが変わった。

 ――よし……繋がった……!

 

 会議室。

 空気は重く、静まり返っている。

 捜査員たちが部屋を洗い、やがて――

 「警部!これを!」

 差し出された一枚の書類。

 そこには――松尾の名前。

 降格を提案する内容。

 若手の起用、将来性――冷酷な判断。

 さらに。

 床に落ちていた、軍手。

 マカロフに指紋を残さないためのもの。

 ――ビンゴ……!

 証拠が、揃っていく。

 だがそのとき、ふと違和感がよぎる。

 ――そういや……

 ――今回、こうちゃん……何もしてなくね?

 カイジは思わず口を開いた。

 「なぁこうちゃん。なんか名探偵っぽいこと言ってくれよ」

 小五郎は腕を組み、少し考え――

 「そうだな……警部殿。初歩的なことですが、硝煙反応はどうだったんですか?」

 その瞬間。

 全員の思考が――止まった。

 「「「あっ!!?」」」

 声が重なる。

 ――やっべええええええ!!

 完全に抜けていた。

 コナンが舌打ちする。

 (ちっ……トリックと動機に気を取られて基本を忘れてた……)

 服部も額に汗を浮かべる。

 「やってもうた……犯人は硝煙反応を対策するのが基本……でも今回は時間がない……処理できるはずない……!」

 目暮が叫ぶ。

 「高木君!大至急調べてくれ!」

 

 数分後。

 「出ました!」

 高木の声が響く。

 「松尾さんの右腕から硝煙反応が検出されました!窓から腕だけ出していたため、袖部分に付着したものと思われます!」

 沈黙。

 そして――

 全てが、決まった。

 

 「……あれ?」

 小五郎がぽかんとする。

 「今回、俺、お手柄ですか?」

 「毛利君、お手柄だよ」

 目暮が頷く。

 「くそぉ……一番おいしいとこ、こうちゃんに持ってかれたぜ……」

 カイジは肩を落とす。

 だが内心では、妙に納得していた。

 ――基本ってやつは……やっぱ強えな……

 コナンがぼそりと呟く。

 (おっちゃんは基礎は強いからな……)

 ――おいコナン……なんでいつも上から目線なんだよ……

 心の中でツッコミを入れる。

 だが、どこか懐かしい感覚もあった。

 ――まあ……俺もガキの頃はそうだったな……

 

 事件は、あっけなく終わった。

 短時間の犯行。

 だからこそ、トリックよりも“基本”が物を言う。

 難事件ばかり追ってきた名探偵たちでさえ、見落とすほどに。

 

 エピローグ。

 帰り道。

 夜の街に、ラーメンの湯気が立ち上る。

 暖簾をくぐると、香ばしい香りが鼻をくすぐった。

 「やっぱラーメンはこれだな!」

 小五郎は迷わず味噌ラーメンを注文。

 濃厚でガツンとした一杯。

 「俺はとんこつやな。こってりいくで」

 服部は豚骨。替え玉前提の顔だ。

 「僕は醤油でいいよ」

 コナンはあっさり系。

 「私は塩ラーメンにしようかな」

 蘭は優しい味を選ぶ。

 そして――

 「俺は……全部乗せだな」

 カイジは笑った。

 ――今日くらい……贅沢してもいいだろ……

 湯気の向こうで、皆が笑っている。

 さっきまでの緊張が嘘のように、空気は穏やかだった。

 「しかしカイジ、今回も危なかったなぁ」

 「ほんとだよ……マジで終わったと思った……」

 「でも最後はちゃんとひっくり返したやんけ」

 服部が笑う。

 カイジは箸を割りながら、少しだけ真顔になる。

 ――ギリギリだった……

 ――でも……

 ふっと、肩の力が抜ける。

 ――まだ……ツキは残ってるみてえだな……

 湯気の向こうで、ラーメンが静かに揺れていた。

 




次回、黒の組織のあの方登場!そしてカイジ 歴代最高の修羅場!
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