今回の事件はカイジ&成実先生で解決していく!
そして、黒の組織NO2「ラム」登場!!!!
俺は黒の組織のNo.2、コードネーム「ラム」。
現在は寿司職人「脇田兼則」として、米花町の「いろは寿司」で働いている。
すべては毛利小五郎を調査するためだ。
俺には、生まれつき「フォトグラフィックメモリー(映像記憶)」が備わっている。
見たものすべてを、そのまま記憶する力――いわゆる異能だ。
異能能力者は特異体質であり、世界中でもごくわずかしか存在しない。
例えば、カードの裏表を見抜く透視能力。水と空気だけで生きる「ブレサリアン(不食者)」。あるいは、人間には本来見えないもの・聞こえないものを認識できる強化五感。そうした報告例はいくつか存在する。
だが――能力者の現実は、決して甘くはない。
能力の存在が露見すれば、研究対象として拘束されるか、あるいは裏社会で利用される。
俺の場合は、そのどちらでもない道を選んだ。自ら悪の組織に身を置き、その力を武器に、この地位まで上り詰めたのだ。
非能力者は、しばしば特異な力に憧れる。
だが実際には、多くの能力者がその力ゆえに苦しむ。
結局のところ、能力とは「恩恵」であると同時に「呪い」でもある。
その力があるがゆえに、人生の選択肢は歪められ、支配されやすくなる。
優れた才能を持つ者が自ら命を絶つ――そんな話を耳にしたことはあるだろう。
異能能力者は、それよりもさらに深い次元で苦しむ。
テレビで活躍し、人気もあり、若く才能にも恵まれていた人物。
だが後に調べてみれば、異能能力者だった――そうした例も、決して珍しくはない。
能力者は、自身の力を他人に語らない傾向にある。
それは直感であれ、論理であれ、「それが危険である」と本能的に理解しているからだ。
心理学の実験で、透明な床と不透明な床を用意し、赤ん坊を自由に動かすというものがある。
多くの赤ん坊は、透明な床の上を進もうとしない。
透明という概念を知らずとも、「下に落ちる危険」を直感的に察知しているのだ。
人がバンジージャンプを前に躊躇するのも同じだ。
飛び降りることへの本能的な恐怖――生存本能が働く。
能力者は、その“危険を察知する感覚”が常人より鋭い。
だからこそ、自らの能力を明かさず、徹底して隠そうとする。
だが――
もし、そのような能力者を組織に引き入れることができれば。
それは、そのまま組織の力の底上げを意味する。
世界のどこかに、まだ隠れている能力者がいるはずだ。
そして俺は――それを見つけ出したいと考えている。
***
ざわ……ざわ……。
胸の奥で、嫌な音が鳴っていた。いや、音じゃない。現実が崩れるときに出る、あの独特の気配だ。
――やべえ。
財布の中身を何度も確認して、ようやく認めるしかなくなった。
金が、ねえ。
指先が妙に冷たい。中を覗いても、小銭がわずかに転がっているだけ。紙幣は影も形もない。
ニート生活。ああ、甘く見てた。毛利探偵事務所に転がり込んで、食わせてもらって、多少の雑費だけあれば何とかなる――そう思っていた。
だが現実は違う。
目暮警部に呼び出されるたびの交通費。細かい出費。気づかぬうちに削られ続けていた残高。
――くそっ……ジワジワ削るなよ……!
あの豪華客船で手に入れた200万円相当の旅行券? あれは換金不可。売ろうにも、登録情報でガチガチに管理されている。
メルカリ? 論外だ。紙屑になるだけだし、そもそも規約違反。
――なんでだよ……! あんな大金、使えねえとか罠かよ……!
頭を抱えたくなる現実。そんな時だった。
――カイジさんへ。
封筒の文字を見た瞬間、少しだけ胸のざわめきが和らいだ。
成実(なるみ)。
あの事件以来、手紙のやり取りをしている医者だ。見た目は可愛いし、性格も……いや、かなり変わってる。
今どき手紙だぞ? LINEじゃなくて。
――でも、なんか……いいんだよな。
封を開ける。
丁寧な文字が並んでいた。
「カイジさんに助けられたあの事件以来、私の心を青年期からずっと支配していたどす黒い感情は消え、肩の荷が下りました。
今は多くの患者さんの命を救う日々を送っており、医大で医学生に授業を教える大学教員の仕事も始めました。
また、医師免許を活かして、飲食店などで衛生管理の仕事にも携わっています。食中毒のリスクがないかどうかを確認するなど、さまざまな形で関わっています。
かつて人の命を奪おうとしていた私が、今では多くの命を救おうとしている――本来進むべき道はそちらだったのだと、カイジさんは教えてくれました。
カイジさんにとっては数ある事件の一つだったかもしれませんが、私にとっては、間違った道へ進もうとしていた自分を救ってくれた、かけがえのない出来事です。
カイジさんは、ちゃんと働いていますか?」
――1枚目が終わる。
――くぅぅぅ……。
俺より年下なのに、立派すぎるだろ……それに比べて俺はニート。
ドラマ撮影のバイトはクビ。フードデリバリーの仕事は凍結中。
そういえば一時期、バスジャックなんてのもやってたな……いや、あれはやらされてただけだ。
結局、俺は相変わらずのプー太郎だ。
2枚目がある。
「カイジさん、今ニートしていたりしませんか?
以前、回らないお寿司を食べたことがないとおっしゃっていたので、ぜひ私がご馳走したいと思いました。
私と一緒にお寿司を食べるのは、嫌でしょうか?
良いお返事を、緊張しながらお待ちしています。
――成実より」
――行きます!!!!!!
即答だった。心の中で叫んでいた。
理性? 知らん。プライド? どっか行った。
寿司だ。しかも回らないやつ。
行かない理由がない。
そしてその日。
なぜか俺は――
競馬場にいた。
「カイジ!今日は来てるぞ!この馬は絶対だ!」
隣で叫ぶのは毛利小五郎。通称こうちゃん。
観客席は熱気でむせ返る。歓声、怒号、新聞を叩く音、タバコの匂い。全部が混ざって、独特の空気を作っていた。
――うわ……これが競馬か……。
電光掲示板に並ぶ数字。オッズの変動。馬の名前がやけに強そうに見えるのは気のせいか?
「この血統見ろ!来るぞこれは!」
「いやいやこうちゃん、それ罠だろ!」
気づけば俺も新聞を握りしめていた。
――当てる……当てるぞ……!
だが現実は甘くない。
レース開始。
地鳴りのような歓声。
そして――
ハズレ。
またハズレ。
さらにハズレ。
「ぐにゃああああああ!!」
俺の中で何かが崩壊した。
こうちゃんも同じだった。
「お、おかしい……この馬が来ないなんて……!」
――いや普通に来ねえだろ……!
気づけば、手元の金はほぼ消滅。
さらに悪いことに。
――キッドに借りた10万も……パー。
完全終了。
帰り道。
ふらふら歩いていると――
ドンッ。
誰かとぶつかった。
「あ、すみません……」
気づいたときには、財布が地面に落ちていた。
小銭が散らばる。馬券も。
「ちっ……最悪だ……」
地面に這いつくばって拾う。
惨めすぎる。
――俺、何やってんだ……。
事務所に戻る。
テレビでは競馬の結果が流れていた。
コナンが、ふと俺の馬券を拾う。
「ねえカイジさん、これ……」
「ん?」
「万馬券だよ」
――は?
一瞬、思考が止まる。
「え?」
「これ当たってる。100万円くらい」
――えええええええええええええええ!?
脳内で爆発が起きた。
さっきまでの絶望が、一瞬でひっくり返る。
――来た……! 来たぞ……!
人生逆転。
奇跡。
神。
全部乗せ。
「うおおおおおおお!!」
俺は即座にスマホを取り出した。
トイレへダッシュ。
そして電話。
「キッド!!」
『なんだよカイジ』
「金返せる!!今すぐ!!」
『は?どうせまた負けたんだろ――』
「100万当たった」
沈黙。
『……は?』
「だから当たったって言ってんだろ!!」
『お前……マジかよ……』
少し間があって。
『くそ……どうせボロ負けすると思って弱み握る予定だったのに……』
「おまえなー!!」
思わずツッコむ。
『そもそも高校生に10万借りるか普通』
「うるせえ!緊急事態だったんだよ!」
電話越しでも分かる。キッドが呆れている。
でも今は関係ない。
――勝った……俺は勝ったんだ……!
底から一気に天井まで跳ね上がる、この感覚。
これだからやめられない。
これだから――
俺は、カイジなんだ。
待ち合わせ場所――米花駅。
人の流れが絶えない改札前で、俺は落ち着かない足取りのまま周囲を見渡していた。
――来てるか……?
そのときだった。
視界の中に、ひときわ目を引く存在が入る。
――……え?
思わず、足が止まった。
そこに立っていたのは――成実だった。
白を基調とした上品な服装。柔らかく揺れる髪。控えめなのに、目を離せない存在感。
――めちゃくちゃ可愛いじゃねえか……!
心臓が一瞬で跳ね上がる。
「あっ、待たせたか?」
なんとか平静を装って声をかける。
「いえ、今来たところです」
にこりと微笑む成実。
――いや絶対嘘だろ。こういうの大体嘘なんだよな。
その瞬間、頭の奥に声が流れ込む。
(本当は緊張して50分前から来てたんですけど)
――は?
「そんなに待たせてたか!すまん!」
思わず声が大きくなる。
成実は少し驚いたあと、くすっと笑った。
「そっか、私の心の声、筒抜けなんですね。照れちゃいます」
「そのあたり、コントロールできなくてな……」
――マジで厄介だなこれ。
「私、医者ですし。精神科に進んだ友人や、教授の知り合いもいるので聞いてみましょうか?」
「んー……でも人体実験されるのは嫌だ」
即答だった。
「大丈夫ですよ。そういう方たちじゃないですし。あるいは、私の方からカイジさんのことは話さずに相談するとか……」
少し考えて、さらに続ける。
「そのうえで、こっそりそのお医者さんの心をカイジさんが読んで、安全かどうか判断するっていうのもありかもですね」
――頭の回転どうなってんだよ……。
「頭の回転早すぎだろ」
「大学受験は1日15時間、毎日やってましたからね」
「勉強しすぎだろ!」
反射的にツッコむ。
だが、成実は首を横に振った。
「いえ……私はそんなにしていませんよ」
――ざわ……ざわ……。
嫌な予感がする。
「え、一日15時間でしてないってどういうことだ?一日20時間とかやってんのか?他は?」
「違います。私は現役で東都大学に合格しましたけど、医学部は平均4浪なんです。8~10浪の方もいますし……普通の大学とは違って、浪人が当たり前なんですよ」
――ざわ……ざわ……。
言葉を失う。
――なんだその世界……。
「だから、トータルの勉強量でいえば、浪人生の方がずっと多いんです」
静かに語るその声に、重みがあった。
――俺……医者って金持ちで楽してるイメージあったけど……。
違う。
全然違う。
青春を全部突っ込んで、それでも届かないかもしれない世界。
「……すげえな」
自然と口から出た。
「俺、多分1日15時間とか、一日で無理だわ……。成実、すげえんだな」
成実は、ぱっと表情を明るくした。
「えへへ。カイジさんに褒められた」
そして――
俺の腕に、そっと自分の腕を絡めてくる。
――!?
心臓が爆発する。
――ちょ、近い近い近い!!
だが、振り払う理由なんてどこにもない。
むしろ――
――最高かよ……。
向かった先は、俺がずっと決めていた場所。
毛利探偵事務所の隣のビル、その1階。
『いろは寿司』。
こうちゃんがたまに競馬で勝ったときに通う店だ。
そして俺にとって――
初めての“回らない寿司”の場所。
店の暖簾をくぐる。
ふわりと漂う酢飯と魚の香り。
落ち着いた照明。磨き上げられたカウンター。無駄のない動きで包丁を扱う職人たち。
静かだが、緊張感のある空気。
――これが……本物か……。
「いらっしゃい」
板前の男――脇田が、にこやかに迎えた。
その視線が、俺に止まる。
「おや……カイジ君じゃないですかい」
――ん?
「え?俺、初めてだろ?」
俺が首をかしげると、脇田の額に一瞬だけ汗がにじんだ。
だが、すぐに笑顔に戻る。
「へい、失礼しました。あっしが一方的に知ってただけでして」
軽く頭を下げる。
「バスジャック事件、ニュースで拝見しやしてね。毛利探偵事務所に居候してるって聞いて、気になってたんでさぁ」
「……ああ、なるほどな」
――やっぱ広まってるよな……あれ。
「もちろん、お会いするのは初めてでさぁ。紛らわしいこと言ってすみやせん」
「いや、いいって」
隣で、成実がくすくすと笑っている。
「カイジさん、有名人ですね」
「別の意味でな……」
苦笑するしかない。
――よりによって“あの事件”で有名ってな……。
だが――
目の前には、綺麗に並ぶ寿司。
隣には、楽しそうに微笑む成実。
そして、少しだけ温かい空気。
――まあ……悪くねえか。
俺は、初めての一貫に手を伸ばした。
カウンターに腰を下ろした瞬間から、場の空気が変わっていた。
静けさの中にある緊張。板前たちの動き一つ一つが無駄なく、美しい。
――場違いじゃねえか……俺。
そう思った矢先だった。
脇田が、少し身を乗り出してきて、妙に含みのある声で言った。
「あっしがこんなこと言うのもおかしいですが……2か月ぶりですぜ……」
「何がだ?」
思わず聞き返す。
脇田は、軽く肩をすくめるようにして続けた。
「特上寿司でも滅多に注文が入らねえ。その上の“特選”なんざなおさら……」
一拍置く。
「そして、一番上のランク――『極(きわみ)』」
その言葉に、店の空気が一瞬だけ重くなる。
「とんでもねえ額でしてね……カイジさん、あんた金、大丈夫なんですかい?」
――……は?
嫌な予感が、背筋を這い上がる。
俺はそっと身を寄せ、脇田に耳打ちする。
「……いくらなんだ?」
脇田は、声を落とした。
「1人、20万ですぜ……」
――ざわ……ざわ……。
頭の中で、何かが崩れた。
20万。
1人。
つまり――
――40万。
心臓が止まりかける。
だが、確認せずにはいられない。
俺は震える手で、そっと財布を開いた。
――頼む……入ってろ……!
中を覗く。
……。
……。
――千円札、1枚。
ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……。
完全に、終わっていた。
――詰み……!
人生詰み……!
その瞬間だった。
脇田の視線が、俺の財布に一瞬だけ走る。
ほんの一瞬。
だが、その目は全てを記録していた。
「……カイジさん、ちょっと」
低い声。
そのまま、俺は店の奥へと連れて行かれた。
裏口近く。
さっきまでの落ち着いた空気とは違う、現実的な空間。
脇田は振り返ると、声を潜めた。
「カイジさん……今ちらっと見えやしたが……」
一呼吸。
「財布の中、1000円札1枚しかねえじゃないですか」
――ぐっ……。
「まずいっすよ……これは」
脇田の額に、うっすら汗が浮かぶ。
「あっしも、金の確認しなかった責任、取らされやす……」
――やべえ……。
完全に、やべえ。
だが――逃げられない。
「……落ち着け」
自分に言い聞かせるように、呟く。
「まだ……まだ方法はあるはずだ」
脇田が眉をひそめる。
「あるわけねえでしょうが……!」
「いや、ある!」
俺は即座に言い返す。
――考えろ……考えろ……カイジ……!
「ツケとか……できねえのか?」
「無理です。ここはそういう店じゃねえ」
即答。
――ぐっ……!
「じゃあカード!」
「持ってねえでしょう?」
「……」
――詰み。
完全詰み。
「彼女さんに払ってもらうとか……」
――そうなんだが、そんなダサい事言えるか……!
「……」
脇田はため息をつく。
「じゃあどうするんです?」
その問いに、言葉が詰まる。
――どうする……?
――どうする……?
頭が回らない。
だが、そのとき――
脳裏に、さっきの光景がよぎる。
コナンの声。
万馬券。
100万。
――そうだ。
「……ある」
小さく呟く。
「金は……ある」
脇田が眉をひそめる。
「どこにです?」
「今はねえ。でも、すぐ入る」
「は?いくら?」
「100万入る予定だ」
――賭けだ。
完全な信用勝負。
脇田はじっと俺を見る。
沈黙。
数秒。
やがて――
「……本当ですかい?」
「本当だ」
即答。
嘘は言っていない。
――ただ、まだ手元にないだけだ。
「……」
脇田は顎に手を当てる。
思考している。
――頼む……乗ってくれ……!
「……分かりやした」
ぽつりと呟く。
「ただし、あっしの責任になります」
「……すまねえ」
「その代わり」
目が細くなる。
「逃げたら……ただじゃ済まねえですぜ」
――ひっ。
背筋に冷たいものが走る。
だが、引くわけにはいかない。
「逃げねえよ」
――逃げられねえしな……!
脇田は小さく頷いた。
「なら、表に戻りやしょう」
――ギリギリ……綱渡り……!
心臓がバクバク鳴る中、俺は再びカウンターへと戻った。
成実は、何も知らずに微笑んでいる。
――守らねえとな……この空気。
たとえ命がけでも。
そんなことを、本気で思っていた。
席に戻った瞬間、店内の空気がわずかに変わった気がした。
静謐な空間に、もうひとつ別の流れが入り込んだような――そんな感覚。
新たに入ってきた客は三人。
一人目は、鋭い目つきをした若い男――原島常貴。
整えられた髪、無駄のない動き。椅子に腰を下ろす所作すら、どこか神経質で、神経の糸をぴんと張り詰めているような印象を受ける。注文も簡潔で、「上」ガリ多め、飲み物コーラ。余計な言葉は発しない。
二人目は、眼鏡をかけた壮年の男――宗近為重。
落ち着いた雰囲気をまといながらも、どこか威圧感がある。腕時計をちらりと確認しながら、「本日のおすすめを頼む」と低い声で言う。店の流れを把握している、そんな余裕がにじんでいた。
三人目は、若い女性――芦野捺芽。
長い髪を揺らしながら席につき、周囲を興味深そうに見回す。その仕草は自然体だが、どこか観察しているようにも見える。彼女は「いつもの」と柔らかく注文した。
――なんだこの面子……。
普通の客……か?いや、なんか全員クセがあるな。
そんな違和感を抱きつつも、俺の意識はすぐに目の前へ引き戻される。
成実と向かい合い、卓上には特選寿司。
まずは前菜代わり――いや、前菜ってレベルじゃねえ。これがもう主役級だ。
一貫、口に運ぶ。
――うまい……。
いや、違う。
うまい、なんてもんじゃない。
口の中でほどけるシャリ。
ネタの脂がじんわりと舌に広がり、香りが鼻に抜ける。
――うまい……うまい……うますぎる……。
気付けば俺は何度も同じ言葉を繰り返していた。
情けないくらい単純な語彙。でも、それしか出てこない。
そんな俺を見て、成実がくすりと微笑む。
「そんなに美味しいですか?」
「いや……これ……やばい……人生変わるレベルだ……」
自分でも笑えてくるくらい、素直な反応。
でも止まらねえ。止められねえ。
成実はそんな様子を、どこか嬉しそうに見つめていた。
まるで、自分のことのように。
その柔らかい視線に、少しだけ胸の奥が温かくなる。
そして、不意に彼女が口を開いた。
「ねえ、カイジさんって……あの能力で困ること、ある?」
――来たか……。
頭の中に、いくつもの記憶が浮かぶ。
嫌なもの、どうでもいいもの、どうしようもないもの。
そのとき――
「ちょっと席外すね」
大将がそう言って奥へ消えた。
そして数分後、戻ってきた大将は威勢よく声を張る。
「さあ!今から極、握るからね!」
その瞬間――
(大量のうんこも沢山して、気合十分!!極を握ってやらぁ)
ざわ……ざわ……
――出た。
一番聞きたくないやつ。
頭の中に響く、どうでもいい、しかし致命的に気になる情報。
――いやいやいやいや……ちょっと待て……。
寿司職人だって人間だ。
そりゃトイレも行く。分かる。分かるが――
ざわ……ざわ……
今このタイミングでそれを知る必要あったか……?
「カイジさん、困ることあるの?」
成実が首を傾げる。
「いや……今がそのときだ……」
「え?なになに?」
「聞かない方がいいぞ」
「聞きたい!」
――どうする……言うか?
いや、でも……共有したくなるこの地獄。
俺は小さくため息をつき、彼女の耳元で囁いた。
「……大将がさっき、大量にうんこして……これから握るって……」
一瞬の沈黙。
――終わった……引かれる……。
そう思った次の瞬間。
「あははっ」
軽やかな笑い声。
「そんなこと?」
「いやいやいやいや!」
俺が慌てるのをよそに、成実は落ち着いた口調で続ける。
「大丈夫ですよ。ほら、あそこ見て」
壁に掲げられたプレートを指さす。
「食品衛生責任者。あれ、ちゃんと管理されてる証拠なんです」
そして、医者としての知識を静かに語る。
衛生管理、除菌、徹底されたルール。
理屈としては、完璧に正しい。
「いや……気持ちの問題だって……」
「カイジさん、人が亡くなった家に住めないタイプでしょ?」
「当たり前だろ!」
成実は少しだけ遠くを見るような目をした。
「私はね……何百人も、亡くなる瞬間に立ち会ってきたんです」
その言葉は、静かで、重い。
「だから……あんまり気にしないんです」
――……。
言葉を失う。
自分の中の小さな嫌悪感が、急にちっぽけに思えてくる。
――俺……ダサいな。
そんなことを考えていると、脇田が皿を運んできた。
「お待ちどうさんです……極」
その一皿は――芸術だった。
艶やかなネタ。
均整の取れた形。
光を受けてきらめく寿司たち。
――うわ……。
言葉が出ない。
そして、一貫。
口に入れた瞬間――
――違う……!
特選とは別次元。
旨味の密度が違う。
味が、深い。
広がり方が、まるで違う。
ざわ……ざわ……
――これが……本物か……。
「おいしい……ですね」
成実が静かに呟く。
俺は何も言えず、ただ頷いた。
さっきまでの雑念も、全部吹き飛んでいた。
――結局、人間って単純だな。
うまいもんの前では、全部どうでもよくなる。
そんな当たり前の事実を、噛みしめるように味わいながら、俺はもう一貫に手を伸ばした。
――ハッピーエンド?
いつもならこれで終わりだが……。
アンケートの結果発表
外交官殺人事件は、工藤新一VS服部平次VS毛利小五郎VSカイジの推理勝負!事件を解くのは誰だ!?
回答
(1) 工藤新一
(3) 服部平次
(2) 毛利小五郎
(10) 伊藤カイジ
(1) 毛利蘭
正解は、毛利小五郎です!若者たちには負けません。2名の正解者様おめでとうございます。
成実先生の再登場について どう思う
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かなり嬉しい
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嬉しい
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普通
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必要ない
-
誰だっけ?
-
カイジと結ばれて