いつもなら――
事件が終わって、どっと疲れて、うまいものを食って、それで帰宅。
それが俺の中の“いつもの流れ”だ。
なのに今回は違う。
事件もない。
命のやり取りもない。
ただ、目の前にはうまい寿司と――
可愛い女の子。
――なんだこれ……夢か?
現実味がなさすぎて、逆に落ち着かない。
むしろ、こういう平和な状況の方が怖い。
俺みたいな人間には、分不相応すぎる。
そんなことを考えていた、そのときだった。
カラン、と扉の音。
もう一人、客が入ってくる。
帽子にサングラス。
明らかに不審者。
ざわ……ざわ……
店の空気がわずかに揺れる。
そして、その不審者は――
まっすぐ、俺の方へ歩いてくる。
――なんだ……?
またトラブルか……?
「ああああ、カイジさん」
――え?
誰だ……?
「あれ?分からない?」
そう言って、サングラスを外す。
次の瞬間、光が弾けたような感覚。
――眩しい……!
「沖野ヨーコちゃん……!?」
テレビで見たままの笑顔。
いや、それ以上に現実の方が破壊力がある。
「毛利探偵の事務所に行ったら誰もいなくて……多分、また事件かなって思って」
そう言いながら、軽く肩をすくめる。
「それで、前に毛利さんが“おいしい”って言ってたお寿司屋さんで待とうかなって」
再びサングラスをかける仕草すら、絵になる。
――いや待て……なんでここにトップアイドルが……?
「多分、こうちゃんは競馬で大負けして、どっかで焼け酒してるかも」
「あり得るな……」
妙に納得してしまう自分がいる。
ヨーコちゃんは自然にカウンターへ座り、迷いなく言う。
「極、お願いします!」
すると脇田が一瞬たじろぐ。
「えっと……本日は時価でして……20万円になりますが……」
ヨーコちゃんは静かにサングラスを外す。
その瞬間――
「お、おおお沖野ヨーコさん!?失礼しました!すぐにご用意します!」
態度が一変。
――すげえ……これがトップアイドルの力……。
そしてヨーコちゃんは、ふっとこちらを振り向いた。
「カイジさん」
その視線が、真っ直ぐに俺を射抜く。
「その可愛い彼女は、誰かしら?」
――来た……。
しかも、その瞬間。
(私、連絡待ってたのに……)
ざわ……ざわ……
――うわああああああ!!
心の声、聞いちまった!!
しかも、めちゃくちゃ重いやつ!!
――やばい……やばいぞこれ……。
今までこんな状況なかった。
俺の人生、女とほとんど関わってこなかった。
モテた記憶ゼロ。
会話すらまともにしたことない。
なのに今――
アイドルと医者に挟まれてる。
「私は、麻生成実。都内で医者をしています」
成実が落ち着いた声で名乗る。
(さすがアイドル……可愛いわね……しかもカイジさん、ちょっと浮かれてる)
――ぐっ……刺さる……。
「私は沖野ヨーコです」
(医者……?美人で職業も完璧……でも、私だって負けてない)
――やめろ……両方の心の声聞くのキツすぎる……。
「私は、カイジさんに人生を救ってもらって……今日はそのお礼に、極をご馳走するの」
成実が一歩前に出る。
「え?私だって、カイジさんに助けてもらったの。容疑者だったときにね」
ヨーコちゃんも引かない。
「だから、私がご馳走するわ」
「今日は私との約束です。手紙のやり取りもしている関係ですし」
「カイジさん、私の家に来たことあるのよ?」
――え?
空気が変わる。
「私、男性はマネージャー以外入れたことなかったんだけど」
「……カイジさん?」
成実の視線が、ゆっくり俺に向く。
ざわ……ざわ……
――終わった。
俺の人生、ここで詰んだ。
「い、いや、あれはだな……!」
言葉が出てこない。
頭が回らない。
目の前では、静かな火花。
笑顔なのに、圧がある。
柔らかいのに、逃げ場がない。
――なんだこれ……。
目暮警部に詰められるより、よっぽど怖い。
論理じゃない。
証拠でもない。
感情の圧。
――これが一番やばい……!
二人の視線がぶつかる。
「今日は私が先に約束しました」
「でも、カイジさんは私とも約束してるのよ?」
「手紙でのやり取りは、継続的な関係です」
「直接会ってるのは私の方が先よ?」
――やめてくれ……!
どっちも正しいこと言ってるから余計に逃げ場がない!
俺の頭の中では警報が鳴り響く。
ざわ……ざわ……ざわ……
――どうする……?
逃げるか?
いや無理だ。ここ寿司屋。
誤魔化すか?
無理。両方心読める。
正直に言うか?
それはそれで死ぬ。
――詰み……完全に詰み……!
俺はただ、震えながら二人の間に座るしかなかった。
人生で一度も経験したことのない“戦場”に、
俺は今、放り込まれていた。
空気が――完全に変わった。
柔らかい笑顔。
穏やかな声。
なのに、その奥にあるものは明らかに“戦い”。
静かに燃え上がる火花が、確実に温度を上げていく。
「今日は私がご馳走するって決めてたんです」
成実が一歩も引かずに言う。
「でも、カイジさんは私にも助けられてるのよ?」
ヨーコちゃんも微笑みながら応じる。
「それに、今日は偶然でも“再会”ですし」
「偶然ではなく約束の方が優先されるべきでは?」
「でも、気持ちの問題よね?」
ざわ……ざわ……
――やめてくれ……!
このやり取り、どっちも正論。
しかも逃げ道ゼロ。
「それに、カイジさんとは手紙のやり取りをしています」
「私は直接会ってるわ」
「継続的な関係です」
「特別な時間を共有してるのよ?」
――特別ってなんだ……!?
いやどっちも特別だろ……!
頭がぐちゃぐちゃになる。
そしてついに――
「カイジさんはどっちと一緒にいたいんですか?」
「そうね、ちゃんと答えてもらいましょうか」
――来た……最悪の質問……!
言えない。
絶対に言えない。
どっちかを選ぶ=もう片方を敵に回す。
――詰みだ……人生詰んだ……。
そのときだった。
ぐいっ。
右腕が引かれる。
同時に――
ぐいっ。
左腕も引かれる。
「ちょっ……!」
成実とヨーコちゃん。
二人が、俺の腕をそれぞれ掴んで引き合う。
「今日は私です」
「いいえ、私よ」
「約束を守るべきです」
「気持ちを優先すべきよ」
ざわ……ざわ……ざわ……
――やばい……物理戦に入った……!
俺の体が左右に揺れる。
完全に綱引き状態。
しかも――
柔らかい感触。
腕に触れる手。
距離が近い。近すぎる。
――ちょっと待て……これ……。
状況は完全に修羅場。
精神的には地獄。
なのに――
感覚だけ切り取ると、明らかに“天国”。
――なんだこれ……。
混乱の中、ふと頭に浮かぶ。
我思う、ゆえに我あり――
――いや違うだろ!!
なんでこの状況で哲学出てくるんだ俺!!
でも同時に思う。
――もしこのまま死ぬなら……
美女に引っ張られて死ぬって、ある意味幸せじゃね?
人生負け続けてきた俺の、
最後のシーンとしては――
悪くない……のか……?
「カイジさん!」
「ちゃんと決めて!」
さらに力がこもる。
体が揺れる。
意識が遠のく――
――いや死ぬ死ぬ死ぬ!!
でも――
この柔らかさ。
この距離。
この温もり。
――やばい……。
修羅場なのに、
頭のどこかで“幸福”を感じてる自分がいる。
――俺……最低だな……。
でも止められない。
ざわ……ざわ……
揺れる視界の中で、
俺は確かに思っていた。
――これ……地獄であり、天国だ……。
――地獄か天国か分からない綱引き。
右腕は成実。
左腕はヨーコちゃん。
引かれる、揺れる、感触が――いやもうそれどころじゃない。
――死ぬ……いや幸せか……いややっぱ死ぬ……!
そんな極限の混乱の中。
ガラッ――!
店の空気をぶち壊すように、扉が勢いよく開いた。
入ってきたのは――
恰幅の良いおばさん。
息を荒げ、周囲を睨みつける。
「この中に……窃盗犯がいるわよ!!」
ざわ……ざわ……
一瞬で空気が凍る。
――なんだ……?
急に事件モードか……?
脇田がすぐに対応に入る。
「お客さん、ここは飲食店でして……トラブルは困りますぜ」
しかし、おばさんは一歩も引かない。
「トラブルじゃないわ!事件よ!」
声の圧が強い。
店内の空気を押し潰す勢い。
「一時間前、電車でポーチをひったくられたのよ!」
そして語り始める。
満員電車。
逃げ場のない空間。
その中で、犯人の手を掴み――
「血が滲んだ指で、そのシャツに血をつけたの!」
ざわ……ざわ……
さらに続く。
「スマホは二台持ってるの。ポーチの中のスマホでGPSを確認したら――ここにあるのよ!」
店内を見回す目は、本気だ。
「だから来たの!ここに犯人がいる!」
――マジかよ……。
脇田は冷静に返す。
「ですが、証拠もなく客を疑うのは――」
「うるさいわね!!」
一蹴。
圧が強すぎる。
そして――
ドンッ!
体当たり。
「うおっ!?」
脇田が尻もちをつく。
――おいおい……寿司屋で体当たりってなんだよ……。
そのままおばさんはずかずかと店内へ進み――
トイレへ。
数秒後。
「……あったわよ!!」
ポーチを掲げて戻ってくる。
ざわ……ざわ……
「この中の誰かよ!!」
一気に疑心暗鬼。
すると、一人の客が立ち上がる。
「俺は知らねえよ。付き合ってられるか」
帰ろうとする。
「待ちなさい!」
さらに別の客も。
「冗談じゃない。俺も帰る」
三人の客が動き出す。
――まずい流れだな……。
おばさんはすぐにスマホを取り出す。
「警察呼ぶわよ!」
そして電話。
数分後。
「全員その場で待機しろって言われたわ」
ざわ……ざわ……
――ああ……。
完全に事件だ。
でも――
――今回、俺関係なくね?
珍しく、完全に部外者。
心の底から安堵する。
――よし……今日は静観だ……。
そう思った、その瞬間。
店の扉が再び開く。
「警視庁だ!」
聞き慣れた声。
――嫌な予感しかしねえ……。
現れたのは――
目暮警部。
「……またカイジ……お前か……」
第一声、それ。
「また何かやらかしたんじゃないよな?」
――は?
「待てよ!」
思わず立ち上がる。
「俺は“やらかした”んじゃなくて、“やらかしたんじゃないかと疑われてる”だけだろ!」
「その言い方だと、毎回やらかしてるみたいじゃねえか!」
警部は腕を組む。
「ふむ……では今回はやっていないと?」
「やってねえよ!!」
――なんで毎回こうなんだよ……。
「ふむ……」
じっと見られる。
――やめろその目……。
そして一言。
「カイジ、仕事は?」
ざわ……ざわ……
――来た……地雷質問……。
一瞬の沈黙。
「……ニート」
ざわ……ざわ……ざわ……
空気が変わる。
「……ほう」
警部の眉がぴくりと動く。
「つまり無職か」
「言い方!!」
「社会的信用が低いな」
「やめろ!」
「収入は?」
「ゼロに近い!」
「生活は?」
「居候!!」
「……なるほど」
――全部言わされた……!
完全に自爆。
「つまりだ」
警部がゆっくり口を開く。
「金がない。仕事もない。時間はある」
「やめろ……」
「動機としては十分だな」
「なんでだよ!!」
ざわ……ざわ……
周囲の視線が刺さる。
「いや待て!」
必死に反論。
「今回はマジで関係ない!俺はただ寿司食ってただけだ!」
「しかも奢りで!!」
「奢り?」
「はい……」
警部の目がさらに細くなる。
「無職なのに高級寿司……?」
「……」
――やべえ……完全に怪しい流れ……。
「カイジ」
「なんだよ……」
「お前……」
一拍置いて。
「ヒモか?」
「違うわ!!」
店内に響くツッコミ。
ざわ……ざわ……
――なんでこうなる……。
さっきまで天国と地獄だったのに、
今は完全に尋問地獄。
俺は、なぜかまた“疑われる側”に立たされていた。
――ざわ……ざわ……
空気が一変した。
自分の袖に視線が集まるのが、皮膚の上を這うように分かる。視線ってやつは重い。物理的に重いわけじゃないのに、肩にのしかかる圧がある。
そして、その中心にいるのは――俺だ。
――いや待て……おかしい……絶対おかしい……
新品だ。今日買ったばかりのシャツ。タグを外したときのあの新品特有の硬さ、まだ覚えてる。そんなものに血がつくはずがない。そんな展開、あるか普通……!
それでも、目の前にある現実は無情だった。
袖に、赤い染み。
じわりと滲んだ、不気味な色。
「……これは……醤油だ……」
声に出した瞬間、自分でも分かる。弱い。説得力がない。あまりにも苦しい言い訳。
目暮警部はじっとこちらを見つめる。その目は、もう疑いではない。確信に近い色を帯びている。
「わしには……赤く見えるな……」
――ざわ……ざわ……
周囲がどよめく。
心臓が跳ねる。鼓動がうるさい。耳の奥でドクドク鳴る音が、まるでカウントダウンみたいに響く。
――終わった……のか……?
いや、違う。まだだ。まだ終わっちゃいねえ。ここで終わるのは、いつもの俺だ。だが今回は違う。違うはずだ。違わなきゃいけねえ……!
だが――
頭が回らない。
いつもならいるはずの存在がいない。
あの小生意気なガキも、関西弁の名探偵も、眠りの小五郎もいない。
誰も助けてくれない。
――初めてだ……
事件のど真ん中にいて、頼れる探偵がいない状況。
つまり――
俺一人で、どうにかしなきゃいけない。
――無理だろ……こんなの……
思考が空回りする。焦りだけが膨らんでいく。喉が渇く。唾が出ない。
そんなとき、ふと――
脳裏に浮かぶ顔。
あの地下で、何度も俺を救ってきた男。
班長。
――そうだ……班長は言っていた……
理屈が通らないときは――勢いで押し切れ……!
――……それしかねえ……!
俺は息を吸い込んだ。
そして――叫ぶ。
「ノーカン!!ノーカン!!ノーカン!!!」
――ざわ……ざわ……
一瞬、場が止まる。
……どうだ?
通ったか?
通ったのか……?
ゆっくりと顔を上げる。
恐る恐る、目暮警部を見る。
――頼む……頼むぞ……これで誤魔化せてくれ……
だが。
現実は、そんなに甘くない。
目暮警部の目は――
ギロリと、俺を射抜いていた。
その視線は、怒りと呆れと確信が混ざった、最悪の色。
「……カイジ……」
低い声。
重い。
逃げ場のない声。
「それで誤魔化せると思ったのか……?」
――終わった……
背筋に冷たいものが走る。
ざわ……ざわ……
世界がまた揺れる。
俺の足元が、ぐにゃりと歪む。
――ダメだ……この流れ……完全に俺が犯人ルートじゃねえか……!
心の中で、警鐘が鳴り響く。
ここから逆転しなきゃ、マジで終わる。
――考えろ……考えろ……!
血の理由。
万馬券。
ぶつかったあの瞬間。
財布。
――全部繋がるはずだ……!
まだだ。
まだ終わってねえ。
この絶望の中からでも――
俺は、勝たなきゃならないんだ。
――ざわ……ざわ……
空気が重い。重すぎる。
さっきまでの寿司屋の静けさなんて、もうどこにもない。
全員の視線が、俺の袖に――そして俺自身に突き刺さっている。
その中で、俺の脳は必死に回転していた。
――待て……落ち着け……整理しろ……
袖に血がついている理由。
それは明らかに不自然だ。
新品のシャツ。自分では触れていない。
ならば――
――外的要因……つまり……
その瞬間、さっきの光景がフラッシュバックする。
右腕と左腕。
引っ張られた感触。
柔らかい手の感触。
――あのときだ……!
ヨーコちゃんと成実に、両腕を掴まれて引っ張られた。
その時に――袖にも触れている。
――つまり、この血は……どちらかのもの……!
心臓がドクンと鳴る。
どっちだ。
どっちの血だ。
――考えろ……!
視線をわずかに動かす。
ヨーコちゃん。
その指先。
――あっ……
かすかに、違和感。
赤い。
だが――
傷がない。
――いや、違う……
見た目では分からない何かだ。
直感が告げる。
――ヨーコちゃんだ……!
その瞬間、答えに辿り着く。
この血は――ヨーコちゃんのもの。
――よし……これでいける……!
説明できる。
俺は無実だと証明できる。
この血の出どころを示せば、容疑は外れる――
そう思った、そのときだった。
ぐいっと、腕が引かれる。
ヨーコちゃんだ。
潤んだ瞳。
震える指先。
「カイジさん……」
その声は弱く、消えそうで――
そして同時に、俺の中に流れ込んでくる“本気の声”。
――ごめんなさい……私……今日生理で……
思考が止まる。
――え……
――手に血がついちゃったみたい……
心臓が凍りつく。
――事件が起こった以上……調べられる……
――マスコミは……流す……
――そんなことになったら……私……生きていけない……
その声は、嘘じゃない。
軽い恥ずかしさとか、そんなレベルじゃない。
これは――本気だ。
追い詰められた人間の、底の声。
――やばい……
これは……
下手をすれば――本当に壊れる。
最悪、自殺だってあり得る。
――言えねえ……
この血がヨーコちゃんのものだなんて、口が裂けても言えない。
理屈では解決できる。
でも、それで彼女の人生が壊れるなら――意味がない。
――くそっ……
さらにもう一方の腕も引かれる。
成実だ。
こちらも――涙目。
無言。
だが、その内側は――
――身体検査をされたら……
――バレてしまう……
――女性のふりをしていることが……
頭が真っ白になる。
――そうだ……
成実は――
――そういう事情がある……
――知られたら終わる……
――あることないこと言われる……
――世間は……優しくない……
――どうしよう……
その声もまた、本物だった。
切実で、逃げ場のない声。
――ざわ……ざわ……
世界が揺れる。
これはもう――
ただの窃盗事件じゃない。
――守らなきゃいけねえ……
二人の秘密。
二人の人生。
――俺が……守るしかねえ……
同時に、現実が襲いかかる。
整理されていく状況。
頭の中で、箇条書きのように並んでいく。
①万馬券――ほぼ他人のもの。それを俺が持っている
②ヨーコちゃんを守るために――嘘が必要
③成実を守るために――身体検査を拒否しなければならない
④犯人は別にいる――捕まえなきゃ終わらない
⑤目暮警部は俺を疑っている――下手すれば二人にも疑いが飛ぶ
⑥そして――探偵が一人もいない
――終わってる……
いや、違う。
終わってる“はず”の状況。
だが、まだ終わってない。
――ここが正念場だ……
過去最大レベルの難易度。
運も、論理も、人情も――全部使わなきゃいけない。
――逃げ場はない……
――なら、やるしかねえ……
喉の奥が焼けるように熱い。
それでも、俺は顔を上げる。
――勝つ……
この地獄みたいな状況を――
全部ひっくり返してやる。