心読みの逆転探偵録 カイジVS名探偵コナン   作:梅酒24

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ファイル13:となりの江戸前推理ショー 中編

いつもなら――

事件が終わって、どっと疲れて、うまいものを食って、それで帰宅。

それが俺の中の“いつもの流れ”だ。

なのに今回は違う。

事件もない。

命のやり取りもない。

ただ、目の前にはうまい寿司と――

可愛い女の子。

――なんだこれ……夢か?

現実味がなさすぎて、逆に落ち着かない。

むしろ、こういう平和な状況の方が怖い。

俺みたいな人間には、分不相応すぎる。

そんなことを考えていた、そのときだった。

カラン、と扉の音。

もう一人、客が入ってくる。

帽子にサングラス。

明らかに不審者。

ざわ……ざわ……

店の空気がわずかに揺れる。

そして、その不審者は――

まっすぐ、俺の方へ歩いてくる。

――なんだ……?

またトラブルか……?

「ああああ、カイジさん」

――え?

誰だ……?

「あれ?分からない?」

そう言って、サングラスを外す。

次の瞬間、光が弾けたような感覚。

――眩しい……!

「沖野ヨーコちゃん……!?」

テレビで見たままの笑顔。

いや、それ以上に現実の方が破壊力がある。

「毛利探偵の事務所に行ったら誰もいなくて……多分、また事件かなって思って」

そう言いながら、軽く肩をすくめる。

「それで、前に毛利さんが“おいしい”って言ってたお寿司屋さんで待とうかなって」

再びサングラスをかける仕草すら、絵になる。

――いや待て……なんでここにトップアイドルが……?

「多分、こうちゃんは競馬で大負けして、どっかで焼け酒してるかも」

「あり得るな……」

妙に納得してしまう自分がいる。

ヨーコちゃんは自然にカウンターへ座り、迷いなく言う。

「極、お願いします!」

すると脇田が一瞬たじろぐ。

「えっと……本日は時価でして……20万円になりますが……」

ヨーコちゃんは静かにサングラスを外す。

その瞬間――

「お、おおお沖野ヨーコさん!?失礼しました!すぐにご用意します!」

態度が一変。

――すげえ……これがトップアイドルの力……。

そしてヨーコちゃんは、ふっとこちらを振り向いた。

「カイジさん」

その視線が、真っ直ぐに俺を射抜く。

「その可愛い彼女は、誰かしら?」

――来た……。

しかも、その瞬間。

(私、連絡待ってたのに……)

ざわ……ざわ……

――うわああああああ!!

心の声、聞いちまった!!

しかも、めちゃくちゃ重いやつ!!

――やばい……やばいぞこれ……。

今までこんな状況なかった。

俺の人生、女とほとんど関わってこなかった。

モテた記憶ゼロ。

会話すらまともにしたことない。

なのに今――

アイドルと医者に挟まれてる。

「私は、麻生成実。都内で医者をしています」

成実が落ち着いた声で名乗る。

(さすがアイドル……可愛いわね……しかもカイジさん、ちょっと浮かれてる)

――ぐっ……刺さる……。

「私は沖野ヨーコです」

(医者……?美人で職業も完璧……でも、私だって負けてない)

――やめろ……両方の心の声聞くのキツすぎる……。

「私は、カイジさんに人生を救ってもらって……今日はそのお礼に、極をご馳走するの」

成実が一歩前に出る。

「え?私だって、カイジさんに助けてもらったの。容疑者だったときにね」

ヨーコちゃんも引かない。

「だから、私がご馳走するわ」

「今日は私との約束です。手紙のやり取りもしている関係ですし」

「カイジさん、私の家に来たことあるのよ?」

――え?

空気が変わる。

「私、男性はマネージャー以外入れたことなかったんだけど」

「……カイジさん?」

成実の視線が、ゆっくり俺に向く。

ざわ……ざわ……

――終わった。

俺の人生、ここで詰んだ。

「い、いや、あれはだな……!」

言葉が出てこない。

頭が回らない。

目の前では、静かな火花。

笑顔なのに、圧がある。

柔らかいのに、逃げ場がない。

――なんだこれ……。

目暮警部に詰められるより、よっぽど怖い。

論理じゃない。

証拠でもない。

感情の圧。

――これが一番やばい……!

二人の視線がぶつかる。

「今日は私が先に約束しました」

「でも、カイジさんは私とも約束してるのよ?」

「手紙でのやり取りは、継続的な関係です」

「直接会ってるのは私の方が先よ?」

――やめてくれ……!

どっちも正しいこと言ってるから余計に逃げ場がない!

俺の頭の中では警報が鳴り響く。

ざわ……ざわ……ざわ……

――どうする……?

逃げるか?

いや無理だ。ここ寿司屋。

誤魔化すか?

無理。両方心読める。

正直に言うか?

それはそれで死ぬ。

――詰み……完全に詰み……!

俺はただ、震えながら二人の間に座るしかなかった。

人生で一度も経験したことのない“戦場”に、

俺は今、放り込まれていた。

空気が――完全に変わった。

柔らかい笑顔。

穏やかな声。

なのに、その奥にあるものは明らかに“戦い”。

静かに燃え上がる火花が、確実に温度を上げていく。

「今日は私がご馳走するって決めてたんです」

成実が一歩も引かずに言う。

「でも、カイジさんは私にも助けられてるのよ?」

ヨーコちゃんも微笑みながら応じる。

「それに、今日は偶然でも“再会”ですし」

「偶然ではなく約束の方が優先されるべきでは?」

「でも、気持ちの問題よね?」

ざわ……ざわ……

――やめてくれ……!

このやり取り、どっちも正論。

しかも逃げ道ゼロ。

「それに、カイジさんとは手紙のやり取りをしています」

「私は直接会ってるわ」

「継続的な関係です」

「特別な時間を共有してるのよ?」

――特別ってなんだ……!?

いやどっちも特別だろ……!

頭がぐちゃぐちゃになる。

そしてついに――

「カイジさんはどっちと一緒にいたいんですか?」

「そうね、ちゃんと答えてもらいましょうか」

――来た……最悪の質問……!

言えない。

絶対に言えない。

どっちかを選ぶ=もう片方を敵に回す。

――詰みだ……人生詰んだ……。

そのときだった。

ぐいっ。

右腕が引かれる。

同時に――

ぐいっ。

左腕も引かれる。

「ちょっ……!」

成実とヨーコちゃん。

二人が、俺の腕をそれぞれ掴んで引き合う。

「今日は私です」

「いいえ、私よ」

「約束を守るべきです」

「気持ちを優先すべきよ」

ざわ……ざわ……ざわ……

――やばい……物理戦に入った……!

俺の体が左右に揺れる。

完全に綱引き状態。

しかも――

柔らかい感触。

腕に触れる手。

距離が近い。近すぎる。

――ちょっと待て……これ……。

状況は完全に修羅場。

精神的には地獄。

なのに――

感覚だけ切り取ると、明らかに“天国”。

――なんだこれ……。

混乱の中、ふと頭に浮かぶ。

我思う、ゆえに我あり――

――いや違うだろ!!

なんでこの状況で哲学出てくるんだ俺!!

でも同時に思う。

――もしこのまま死ぬなら……

美女に引っ張られて死ぬって、ある意味幸せじゃね?

人生負け続けてきた俺の、

最後のシーンとしては――

悪くない……のか……?

「カイジさん!」

「ちゃんと決めて!」

さらに力がこもる。

体が揺れる。

意識が遠のく――

――いや死ぬ死ぬ死ぬ!!

でも――

この柔らかさ。

この距離。

この温もり。

――やばい……。

修羅場なのに、

頭のどこかで“幸福”を感じてる自分がいる。

――俺……最低だな……。

でも止められない。

ざわ……ざわ……

揺れる視界の中で、

俺は確かに思っていた。

――これ……地獄であり、天国だ……。

――地獄か天国か分からない綱引き。

右腕は成実。

左腕はヨーコちゃん。

引かれる、揺れる、感触が――いやもうそれどころじゃない。

――死ぬ……いや幸せか……いややっぱ死ぬ……!

そんな極限の混乱の中。

ガラッ――!

店の空気をぶち壊すように、扉が勢いよく開いた。

入ってきたのは――

恰幅の良いおばさん。

息を荒げ、周囲を睨みつける。

「この中に……窃盗犯がいるわよ!!」

ざわ……ざわ……

一瞬で空気が凍る。

――なんだ……?

急に事件モードか……?

脇田がすぐに対応に入る。

「お客さん、ここは飲食店でして……トラブルは困りますぜ」

しかし、おばさんは一歩も引かない。

「トラブルじゃないわ!事件よ!」

声の圧が強い。

店内の空気を押し潰す勢い。

「一時間前、電車でポーチをひったくられたのよ!」

そして語り始める。

満員電車。

逃げ場のない空間。

その中で、犯人の手を掴み――

「血が滲んだ指で、そのシャツに血をつけたの!」

ざわ……ざわ……

さらに続く。

「スマホは二台持ってるの。ポーチの中のスマホでGPSを確認したら――ここにあるのよ!」

店内を見回す目は、本気だ。

「だから来たの!ここに犯人がいる!」

――マジかよ……。

脇田は冷静に返す。

「ですが、証拠もなく客を疑うのは――」

「うるさいわね!!」

一蹴。

圧が強すぎる。

そして――

ドンッ!

体当たり。

「うおっ!?」

脇田が尻もちをつく。

――おいおい……寿司屋で体当たりってなんだよ……。

そのままおばさんはずかずかと店内へ進み――

トイレへ。

数秒後。

「……あったわよ!!」

ポーチを掲げて戻ってくる。

ざわ……ざわ……

「この中の誰かよ!!」

一気に疑心暗鬼。

すると、一人の客が立ち上がる。

「俺は知らねえよ。付き合ってられるか」

帰ろうとする。

「待ちなさい!」

さらに別の客も。

「冗談じゃない。俺も帰る」

三人の客が動き出す。

――まずい流れだな……。

おばさんはすぐにスマホを取り出す。

「警察呼ぶわよ!」

そして電話。

数分後。

「全員その場で待機しろって言われたわ」

ざわ……ざわ……

――ああ……。

完全に事件だ。

でも――

――今回、俺関係なくね?

珍しく、完全に部外者。

心の底から安堵する。

――よし……今日は静観だ……。

そう思った、その瞬間。

店の扉が再び開く。

「警視庁だ!」

聞き慣れた声。

――嫌な予感しかしねえ……。

現れたのは――

目暮警部。

「……またカイジ……お前か……」

第一声、それ。

「また何かやらかしたんじゃないよな?」

――は?

「待てよ!」

思わず立ち上がる。

「俺は“やらかした”んじゃなくて、“やらかしたんじゃないかと疑われてる”だけだろ!」

「その言い方だと、毎回やらかしてるみたいじゃねえか!」

警部は腕を組む。

「ふむ……では今回はやっていないと?」

「やってねえよ!!」

――なんで毎回こうなんだよ……。

「ふむ……」

じっと見られる。

――やめろその目……。

そして一言。

「カイジ、仕事は?」

ざわ……ざわ……

――来た……地雷質問……。

一瞬の沈黙。

「……ニート」

ざわ……ざわ……ざわ……

空気が変わる。

「……ほう」

警部の眉がぴくりと動く。

「つまり無職か」

「言い方!!」

「社会的信用が低いな」

「やめろ!」

「収入は?」

「ゼロに近い!」

「生活は?」

「居候!!」

「……なるほど」

――全部言わされた……!

完全に自爆。

「つまりだ」

警部がゆっくり口を開く。

「金がない。仕事もない。時間はある」

「やめろ……」

「動機としては十分だな」

「なんでだよ!!」

ざわ……ざわ……

周囲の視線が刺さる。

「いや待て!」

必死に反論。

「今回はマジで関係ない!俺はただ寿司食ってただけだ!」

「しかも奢りで!!」

「奢り?」

「はい……」

警部の目がさらに細くなる。

「無職なのに高級寿司……?」

「……」

――やべえ……完全に怪しい流れ……。

「カイジ」

「なんだよ……」

「お前……」

一拍置いて。

「ヒモか?」

「違うわ!!」

店内に響くツッコミ。

ざわ……ざわ……

――なんでこうなる……。

さっきまで天国と地獄だったのに、

今は完全に尋問地獄。

俺は、なぜかまた“疑われる側”に立たされていた。

――ざわ……ざわ……

空気が一変した。

自分の袖に視線が集まるのが、皮膚の上を這うように分かる。視線ってやつは重い。物理的に重いわけじゃないのに、肩にのしかかる圧がある。

そして、その中心にいるのは――俺だ。

――いや待て……おかしい……絶対おかしい……

新品だ。今日買ったばかりのシャツ。タグを外したときのあの新品特有の硬さ、まだ覚えてる。そんなものに血がつくはずがない。そんな展開、あるか普通……!

それでも、目の前にある現実は無情だった。

袖に、赤い染み。

じわりと滲んだ、不気味な色。

「……これは……醤油だ……」

声に出した瞬間、自分でも分かる。弱い。説得力がない。あまりにも苦しい言い訳。

目暮警部はじっとこちらを見つめる。その目は、もう疑いではない。確信に近い色を帯びている。

「わしには……赤く見えるな……」

――ざわ……ざわ……

周囲がどよめく。

心臓が跳ねる。鼓動がうるさい。耳の奥でドクドク鳴る音が、まるでカウントダウンみたいに響く。

――終わった……のか……?

いや、違う。まだだ。まだ終わっちゃいねえ。ここで終わるのは、いつもの俺だ。だが今回は違う。違うはずだ。違わなきゃいけねえ……!

だが――

頭が回らない。

いつもならいるはずの存在がいない。

あの小生意気なガキも、関西弁の名探偵も、眠りの小五郎もいない。

誰も助けてくれない。

――初めてだ……

事件のど真ん中にいて、頼れる探偵がいない状況。

つまり――

俺一人で、どうにかしなきゃいけない。

――無理だろ……こんなの……

思考が空回りする。焦りだけが膨らんでいく。喉が渇く。唾が出ない。

そんなとき、ふと――

脳裏に浮かぶ顔。

あの地下で、何度も俺を救ってきた男。

班長。

――そうだ……班長は言っていた……

理屈が通らないときは――勢いで押し切れ……!

――……それしかねえ……!

俺は息を吸い込んだ。

そして――叫ぶ。

「ノーカン!!ノーカン!!ノーカン!!!」

――ざわ……ざわ……

一瞬、場が止まる。

……どうだ?

通ったか?

通ったのか……?

ゆっくりと顔を上げる。

恐る恐る、目暮警部を見る。

――頼む……頼むぞ……これで誤魔化せてくれ……

だが。

現実は、そんなに甘くない。

目暮警部の目は――

ギロリと、俺を射抜いていた。

その視線は、怒りと呆れと確信が混ざった、最悪の色。

「……カイジ……」

低い声。

重い。

逃げ場のない声。

「それで誤魔化せると思ったのか……?」

――終わった……

背筋に冷たいものが走る。

ざわ……ざわ……

世界がまた揺れる。

俺の足元が、ぐにゃりと歪む。

――ダメだ……この流れ……完全に俺が犯人ルートじゃねえか……!

心の中で、警鐘が鳴り響く。

ここから逆転しなきゃ、マジで終わる。

――考えろ……考えろ……!

血の理由。

万馬券。

ぶつかったあの瞬間。

財布。

――全部繋がるはずだ……!

まだだ。

まだ終わってねえ。

この絶望の中からでも――

俺は、勝たなきゃならないんだ。

――ざわ……ざわ……

空気が重い。重すぎる。

さっきまでの寿司屋の静けさなんて、もうどこにもない。

全員の視線が、俺の袖に――そして俺自身に突き刺さっている。

その中で、俺の脳は必死に回転していた。

――待て……落ち着け……整理しろ……

袖に血がついている理由。

それは明らかに不自然だ。

新品のシャツ。自分では触れていない。

ならば――

――外的要因……つまり……

その瞬間、さっきの光景がフラッシュバックする。

右腕と左腕。

引っ張られた感触。

柔らかい手の感触。

――あのときだ……!

ヨーコちゃんと成実に、両腕を掴まれて引っ張られた。

その時に――袖にも触れている。

――つまり、この血は……どちらかのもの……!

心臓がドクンと鳴る。

どっちだ。

どっちの血だ。

――考えろ……!

視線をわずかに動かす。

ヨーコちゃん。

その指先。

――あっ……

かすかに、違和感。

赤い。

だが――

傷がない。

――いや、違う……

見た目では分からない何かだ。

直感が告げる。

――ヨーコちゃんだ……!

その瞬間、答えに辿り着く。

この血は――ヨーコちゃんのもの。

――よし……これでいける……!

説明できる。

俺は無実だと証明できる。

この血の出どころを示せば、容疑は外れる――

そう思った、そのときだった。

ぐいっと、腕が引かれる。

ヨーコちゃんだ。

潤んだ瞳。

震える指先。

「カイジさん……」

その声は弱く、消えそうで――

そして同時に、俺の中に流れ込んでくる“本気の声”。

――ごめんなさい……私……今日生理で……

思考が止まる。

――え……

――手に血がついちゃったみたい……

心臓が凍りつく。

――事件が起こった以上……調べられる……

――マスコミは……流す……

――そんなことになったら……私……生きていけない……

その声は、嘘じゃない。

軽い恥ずかしさとか、そんなレベルじゃない。

これは――本気だ。

追い詰められた人間の、底の声。

――やばい……

これは……

下手をすれば――本当に壊れる。

最悪、自殺だってあり得る。

――言えねえ……

この血がヨーコちゃんのものだなんて、口が裂けても言えない。

理屈では解決できる。

でも、それで彼女の人生が壊れるなら――意味がない。

――くそっ……

さらにもう一方の腕も引かれる。

成実だ。

こちらも――涙目。

無言。

だが、その内側は――

――身体検査をされたら……

――バレてしまう……

――女性のふりをしていることが……

頭が真っ白になる。

――そうだ……

成実は――

――そういう事情がある……

――知られたら終わる……

――あることないこと言われる……

――世間は……優しくない……

――どうしよう……

その声もまた、本物だった。

切実で、逃げ場のない声。

――ざわ……ざわ……

世界が揺れる。

これはもう――

ただの窃盗事件じゃない。

――守らなきゃいけねえ……

二人の秘密。

二人の人生。

――俺が……守るしかねえ……

同時に、現実が襲いかかる。

整理されていく状況。

頭の中で、箇条書きのように並んでいく。

①万馬券――ほぼ他人のもの。それを俺が持っている

②ヨーコちゃんを守るために――嘘が必要

③成実を守るために――身体検査を拒否しなければならない

④犯人は別にいる――捕まえなきゃ終わらない

⑤目暮警部は俺を疑っている――下手すれば二人にも疑いが飛ぶ

⑥そして――探偵が一人もいない

――終わってる……

いや、違う。

終わってる“はず”の状況。

だが、まだ終わってない。

――ここが正念場だ……

過去最大レベルの難易度。

運も、論理も、人情も――全部使わなきゃいけない。

――逃げ場はない……

――なら、やるしかねえ……

喉の奥が焼けるように熱い。

それでも、俺は顔を上げる。

――勝つ……

この地獄みたいな状況を――

全部ひっくり返してやる。

 

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