心読みの逆転探偵録 カイジVS名探偵コナン   作:梅酒24

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ファイル13:となりの江戸前推理ショー 後編

――ざわ……ざわ……

空気が張り詰める。

さっきまでの疑いの熱とは違う。

もっと重くて、もっと静かな圧。

目暮警部は帽子を深く被り直し、低い声で言った。

「カイジ……いつもわしはお前を疑って、結果的に違うことも多い……だから今回は慎重に行かせてくれ」

その言葉に、一瞬だけ違和感を覚える。

――なんだよ……急に……

「急になんだよ……いつもと違うのかよ」

だが、その裏で俺の思考は別の方向に動いていた。

――むしろ……

――今回は、誤認逮捕でもいいかもしれねえ……

自分でも驚くような考えだった。

だが、はっきりしている。

――あの二人を守れるなら……

――それでいい……

警部はゆっくりと問いを重ねる。

「カイジ……今日、競馬場に行ったか?正直に話してくれ。違うというならわしは信じる……警察の捜査能力なら、監視カメラで確認できるからな」

――くっ……

逃げ道はない。

嘘を吐けばすぐにバレる。

それはつまり――偽証。

――ここで嘘を吐く意味はない……

――嘘を使うのは……守るべきときだ……

喉が詰まりそうになりながらも、答える。

「……行った」

――ざわ……ざわ……

空気が一段階、冷たくなる。

警部はさらに踏み込む。

「満員電車には乗ったか?」

――くそ……

駅にもカメラはある。

逃げられない。

「……乗った」

――ざわ……ざわ……

追い詰められていく。

一歩ずつ、確実に。

「金目のものを盗むのは、金がないときだ……カイジ……金はあるか?貯金は?」

――やめろ……

その質問は、あまりにも直球すぎる。

「貯金は0円……財布の中身は1053円だ……」

――ざわ……ざわ……

おかしい。

全部事実だ。

嘘は一つも吐いていない。

それなのに――

――どんどん俺が犯人に見えていく……

警部の目が鋭くなる。

「カイジ、そのシャツは新品なんだな?」

「ああ」

「……じゃあ、なぜ血が付いている……言え」

――くっ……

言えない。

言えるわけがない。

ヨーコちゃんのことも。

成実のことも。

――どっちも……踏み込んじゃいけない領域だ……

「……証言を拒否する……」

――ざわ……ざわ……

一気に空気が崩れる。

疑念が確信に変わる音がした気がした。

――嘘は吐けない……

――でも、本当のことも言えない……

警部の声が低くなる。

「カイジ……おかしいだろ。やましいことがないなら言えるはずだ……」

言葉が、一つ一つ突き刺さる。

「100万円のあてがある、金がない、競馬場に行った、満員電車に乗った、新品のシャツに血がついている……」

逃げ場がない。

「それでも、わしにカイジを信じろというのか?」

――ざわ……ざわ……

――くそっ……

――正論すぎる……

こんなの、普通なら疑う。

疑わない方がおかしい。

――俺だって、逆の立場なら疑う……

でも――

それでも。

――守る……

それが答えだった。

ヨーコちゃんが、あんな顔で頼ってきた。

成実も、震えていた。

二人とも――俺を信じている。

――ここで裏切ったら……

――俺は……もう俺じゃねえ……

もしここで全部バラして、疑いが晴れて。

そのあと――

ヨーコちゃんと笑って飯を食えるか?

――無理だ……

絶対に無理だ。

だから――

言わない。

絶対に。

警部が決断する。

「……いい。身体検査を行う」

――来たか……

「当然俺だけだよな?」

わずかな望みを込めて聞く。

だが――

「いや、平等に全員だ」

――ざわ……ざわ……

最悪だ。

最悪の展開。

「カイジだけは……隅々までな」

――なんでこういうときだけ有能なんだよ……!

タイミングが悪すぎる。

笑えねえ。

本当に笑えねえ。

「……身体検査も拒否する……」

「ふざけるな……!」

怒号。

当然だ。

だが引かない。

引けない。

「……聞いてくれ」

声を絞り出す。

「犯人は……もう分かってる」

――ざわ……ざわ……

空気が止まる。

「人のプライバシーに、土足で踏み込ませるわけにはいかねえ……今回はアイドルのヨーコちゃんもいる」

その言葉に、ヨーコちゃんが静かにサングラスを外し、頭を下げた。

場の空気がわずかに変わる。

警部が頷く。

「……なるほど……あのときのアイドルか……」

そして、まっすぐに俺を見る。

「なら、言え……犯人を……」

逃げ場はない。

「あと……そのシャツに血が付いた理由もだ」

――ざわ……ざわ……

――ここが……

――分岐点だ……

俺は息を吸う。

全てを背負って――

口を開いた。

――ざわ……ざわ……

息が詰まるような静寂の中で、俺は耳を澄ませていた。

目で見るんじゃない。

論理で詰めるんじゃない。

――“声”だ……

心の奥底から漏れる、本音。

それだけが、今の俺の武器。

そして――

聞こえた。

(俺は、妻の金遣いが荒くて……つい魔が差した……窃盗は初めてだ……このままカイジとやらが捕まってくれ……明らかに彼は不自然だ……)

――……見つけた……

ゆっくりと視線を向ける。

宗近為重。

眼鏡をかけた初老の男。

さっきまで静かに寿司を食っていた、あの男。

――お前か……

もう、迷いはなかった。

逃げ場もない。

俺は一歩踏み出す。

「……そのおっさんだ!」

――ざわ……ざわ……

空気が弾ける。

もう引き返せない。

――ここで外したら……完全終了……

宗近が慌てて手を振る。

「待ってくれ。私は……ほら……血はついていない」

確かに、シャツは綺麗だ。

だが――

そのとき、別の声が流れ込む。

成実だ。

(カイジさん、私の声を聞いて。血液は基本的に落としづらいの。タンパク質が含まれているから……)

――来た……!

(そしてその人が頼んでいたのは、さんまの大根おろし添え……大根おろしはタンパク質を分解できる……きっとハンカチにつけて、血を落としたの)

――なるほど……!

一気に道筋が見える。

俺はそのまま言葉にする。

「血がついてねえのは当たり前だ……あんた、大根おろしで落としたんだろ」

――ざわ……ざわ……

宗近の顔がわずかに歪む。

さらに畳みかける。

「さんまの大根おろし添え……あんた頼んでたよな?タンパク質分解……血を落とすには都合がいい」

「な、何を言って……」

動揺している。

――いける……!

「それに……あんたも同じ電車に乗ってたはずだ。監視カメラを調べりゃ一発だ」

その瞬間――

宗近の額に汗が浮かぶ。

視線が泳ぐ。

明らかにおかしい。

「わ、私は確かに電車には乗っていたが……犯人じゃない……!」

そして苦し紛れに俺を指差す。

「それより……カイジ、君は……バスジャック犯のカイジじゃないか!」

――ざわ……ざわ……

最悪の一手。

観客のざわめきが一気に広がる。

おばさんまで便乗する。

「あっ、本当だ!バスジャック犯のカイジ!無職でクズの……あんたが……!」

――くそっ……

歯を食いしばる。

「それは誤解だって、この前生放送で……!」

言い返すが、反応は薄い。

――やべえ……

――悪い噂だけが広まって、訂正は届いてねえ……

だが――

今はそれじゃない。

決め手がある。

(あとね、血は見えなくなっているだけで痕跡は残っているの。ルミノール反応液を使えば分かる……私の鞄にあるから)

――来た……決定打……

「……ルミノール反応液を使えば分かる」

場が静まる。

「血は消えても、痕跡は残る……調べりゃ一発だ」

宗近の顔が――崩れる。

一瞬だった。

抵抗が消える。

「……そうです……私がやりました……」

――ざわ……ざわ……

「妻の浪費癖に……つい魔が差しました……」

あっけないほど、あっさりと。

――なんだよ……

力が抜ける。

――今回の犯人……弱すぎるだろ……

今までの連中はもっと、しぶとかった。

もっと食らいついてきた。

――俺、いつの間にか張り合い求めてたのか……?

自分でも苦笑する。

――いや、違うか……

――今までが異常だっただけだ……

こういうのが、本来の“普通”なのかもしれない。

事件は、こうしてあっさりと終わった。

――そして……

緊張が解けた直後だった。

ヨーコちゃんが、そっと袖を引く。

「カイジさん……ちょっと」

――え?

――何かやらかしたか……?

不安がよぎる。

言われるがまま、少し離れた場所へ。

振り向いた瞬間――

ちゅっ。

柔らかい感触。

頬に、温もり。

思考が止まる。

「……ありがとう。守ってくれて」

――え……

――ええええええええ!?

頭が真っ白になる。

その直後――

もう片方からも、気配。

成実だ。

彼女も、少し照れたように――

ちゅっ。

――は?

――え?

両頬に、同時に残る感触。

――なにこれ……

――夢か……?

心臓が爆発しそうになる。

さっきまで地獄だったはずの状況が――

一気に天国に変わる。

――なんだこれ……

――報酬デカすぎだろ……!

顔が熱い。

多分、真っ赤だ。

でも――

悪くない。

むしろ――

最高だ。

――今日……死んでもいいかもしれねえ……

そんな馬鹿みたいなことを、本気で思っていた。

店の奥にあるVIPルーム――そこは別世界だった。

外のざわめきとは隔絶された静寂、落ち着いた照明、柔らかなソファ。

そしてその中心に、俺。

左右に美女二人。

ざわ……ざわ……

成実とヨーコちゃんが、まるで当然のように俺を挟む形で座る。距離が、近い。いや、近すぎる。肩が触れる。腕も当たる。体温が、伝わる。

――な、なんだこの状況……人生で一番ヤバい……!

「カイジさん、こっちのお酒飲んでみてください。体に優しいやつです」

成実がグラスを差し出してくる。その手が、自然に俺の腕に触れる。

「ちょっと、カイジさんはこっちも飲むの。私が選んだんだから」

ヨーコちゃんが反対側から顔を寄せてくる。香水のいい匂いがふわっと漂う。

ざわ……ざわ……

――両サイドから攻撃……!匂い、柔らかさ、距離……全部がバグってる……!

「カイジさん、今日すごく頑張ってましたよね」

「ほんとよ。かっこよかった」

二人が同時に言う。顔が近い。近いどころじゃない。息がかかる距離。

――やべえ……これはもう……天国……いや地獄……いや天国……!

しかも、だ。

さっきは成実のおごり。

今はヨーコちゃんのおごり。

場所は高級店のVIPルーム。

――俺……一円も払ってねえ……!

ざわ……ざわ……

「カイジさん、もっと食べてください」

「遠慮しないでいいのよ?」

皿がどんどん追加される。

――ただ飯……美女……酒……

こんな人生……あっていいのか……?

二人はだんだんヒートアップしていく。

「カイジさんは、優しいところが素敵ですよね」

「でも決断力があるところも魅力よね」

「私、ああいう人助けできる人、本当に尊敬します」

「私は命懸けで守るところに惚れたの」

ざわ……ざわ……

――やめろ……!褒めるな……!俺が壊れる……!

さらに、酒も入ってきたせいか、二人とも距離感が完全に壊れている。

顔が近づく。

お互いに対抗するように、さらに近づく。

結果――

当たる。

ざわ……ざわ……ざわ……

――やめろおおおおおおおおおおお!!!!

理性が限界を迎えようとしている中、ヨーコちゃんがふと真面目な顔になる。

「ねえ……カイジさん」

「なんだ?」

「どうして……血のこと、言わなかったの?」

ざわ……ざわ……

――来たか……

俺は少しだけ視線を落とす。

「……言ってよかったのか?」

ヨーコちゃんは少し驚いた顔をして、それから小さく頷く。

「カイジさんと……女性なら」

――成実は男だけど、心は女性……まあいいか……

俺は静かに言う。

「気付いてたよ。あれ……生理の血だろ」

ヨーコちゃんの目が揺れる。

「もしあれが公になったら、どうなるか分かる。マスコミは面白おかしく書く。俺はそれを知ってる」

ざわ……ざわ……

「指名手配とかバスジャックとか……ああいうの、全部ネタにされる。一般人の俺ですらそうなんだ。アイドルなら……もっと酷い」

静寂。

「だから言わなかった。それだけだ」

ヨーコちゃんは少し目を潤ませて、笑った。

「……ありがとう」

一方、成実も優しく微笑む。

「カイジさん、やっぱり素敵です」

そして二人は、ふっと視線を合わせる。

一瞬の沈黙――

「……あなた、いい人ね」

「あなたも、優しいですね」

ざわ……ざわ……

――え?和解……?

「さっきはちょっとムキになっちゃって」

「私もです」

「でも」

「でも」

二人同時に俺を見る。

「カイジさんのことは――」

ざわ……ざわ……

――やめろ……その続きは危険だ……!

だがそのまま、俺は限界を迎えた。

酒、安心、疲労、幸福。

全部が一気に来た。

――無理……寝る……

俺はそのまま、ソファに沈むように眠った。

 

「……寝ちゃった」

「ほんとですね」

「どうする?」

「どうしましょう」

一瞬の沈黙。

「私が連れて帰ります」

「いや、それは私です」

ざわ……ざわ……

「私のほうが付き合い長いんですけど?」

「でも今日一緒に来たのは私です」

「アイドルとして責任があります」

「医者としてもあります」

「じゃあ半分ずつ持ちます?」

「それ無理ですよね?」

ざわ……ざわ……

「……じゃあジャンケン?」

「真剣勝負ですね」

「負けませんよ?」

「こちらこそ」

二人は真剣な目で向き合う。

その横で――

俺はぐっすり眠っていた。

――人生で一番幸せな夜の中で。

 




しばらくお休み致します!

カイジと結ばれて欲しいのは?

  • 成実先生
  • 沖野ヨーコ
  • 歩美
  • 灰原哀
  • 毛利小五郎
  • なし
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