アニメ第30話「アリバイ証言殺人事件」 参照
俺は――最高にハッピーだった。
ざわ……ざわ……
(信じられるか……?)
(俺みたいな底辺……)
(借金……ギャンブル……プー太郎……)
(そんな俺に……)
(女ができた……それも……)
(とびきりの美人……!)
夜のレストラン。
高そうなワイン。
慣れないナイフとフォーク。
(全部……向こう持ち……!)
彼女が微笑む。
「もっと食べなよ、カイジ」
(神……!)
(これが……勝ち組の世界……!)
だが――
「……旦那には内緒だからね?」
ざわ……
(そう……)
(人妻……!)
(しかも相手は有名弁護士の妻……!)
(金も地位もある……完全勝者……!)
(それを……俺が……)
(横取り……!)
背徳。
スリル。
優越感。
(たまんねぇ……!)
昼はカフェ。
夜はホテル。
時には高級ブランド。
(全部……俺の金じゃねぇ……!)
(なのに……)
(全部……俺のものみたいに感じる……!)
笑いが止まらない。
(これが……)
(“紐生活”……!)
(最高……!)
――だが。
ざわ……
世界は、そんなに甘くない。
「伊藤開司……」
低い声。
振り向くと――
目暮十三。
(……は?)
「お前を……」
周囲を刑事が囲む。
ざわ……ざわ……
「殺人の容疑で逮捕する」
(……はあああああ!?)
手首に冷たい感触。
カチャリ。
手錠。
(なんでだよ……!!)
「ちょっと待て!!」
叫ぶ。
「俺が何したってんだ!!」
警部の目が冷たい。
「……被害者は」
一拍。
「巽弁護士の妻だ」
(……!)
頭が真っ白になる。
「自宅の風呂場で――」
「手足を縛られた状態で、頭部を殴打され死亡していた」
ぐにゃあああああああああ……
(……嘘だろ……)
(あいつが……?)
「カイジ……」
警部が吐き捨てる。
「お前はやると思っていたよ」
「は……?」
怒りが一気に噴き出す。
「ふざけんな……!!」
「なんで俺が犯人なんだよ!!」
歯を剥く。
「俺があの女と不倫してたからって……!」
「嫉妬か!?それで俺を捕まえるのか!?」
「ふざけるな!!」
ざわ……ざわ……
警部は一切動じない。
「今回は……」
低く言う。
「“証拠”がある」
(……来た……)
「まず死亡推定時刻」
(やめろ……)
「お前は巽弁護士の自宅に行っていた」
ざわ……
(……あの時か……)
「目撃情報、防犯カメラ……すべて確認済みだ」
(……最悪だ……)
「お前は自転車移動……」
「ルートもすべて映っている」
(逃げ道……なし……)
「さらに……」
追い打ち。
「玄関のカメラに……」
「死亡推定時刻の出入りが記録されている」
ざわあああああ……
(……終わった……)
(いや……待て……!)
(確かに行った……)
(呼び出されたからな……)
(合鍵もある……入った……)
(でも……)
(誰もいなかった……!)
(だから帰った……!)
拳を握る。
(大丈夫だ……)
(俺には……)
(“力”がある……!)
(心の声が聞こえる……!)
(犯人さえいれば……一発……!)
警部の心を読む。
(今回はカイジが犯人で確定……)
(この仕事終えたら高木君と飲みでも行くか……)
(鯛料理が食べれるところがいいな……)
(カイジを楽勝に捕まえてめでタイってな)
(……くそぉ……!)
(ギャグがつまらねぇ!!)
(しかも完全に俺犯人扱い!!)
(高木刑事かわいそう……!)
(いや……違う……)
(俺の方が可哀想だろ!!)
ざわ……ざわ……
その時――
凍る。
(……あれ……?)
(……おかしい……)
(犯人の声が……)
(……聞こえねぇ……?)
心臓が止まりそうになる。
(……そうか……!)
(今回は……)
(事件後に“容疑者が集められてる”わけじゃねぇ……!)
(つまり……)
(犯人が……ここにいない……!)
ぐにゃああああああああああ……
(やべえ……)
(完全に……想定外……!)
(圧倒的……不利……!)
(チート能力……)
(封じられた……!)
冷や汗が止まらない。
(終わる……)
(このままじゃ……)
(俺……詰む……!)
ざわ……ざわ……
(どうする……!?)
(証拠は全部俺……!)
(犯人は不明……!)
(能力は使えねぇ……!)
歯を食いしばる。
(……やるしかねぇ……)
(論理で……)
(こじ開けるしかねぇ……!)
(生き残る……!)
(絶対に……!)
(……大丈夫だ……)
(落ち着け……)
深く息を吸う。
ざわ……ざわ……
(俺は……今まで……)
(2つ……事件をひっくり返してきた……!)
(土壇場から……逆転……!)
(あの絶望から……這い上がった……!)
拳を握る。
(これが初戦なら……詰んでた……)
(だが違う……!)
(俺には“実績”がある……!)
(追い詰められてからの……逆転……!)
歯を食いしばる。
(こじ開ける……!)
(突破口……!)
(アジの開きより……開く!!)
(鯛よりアジだ……!)
(安くて……うまくて……開きやすい……!)
(……何言ってんだ俺……!)
頭を振る。
(だが……考えろ……!)
(心の声……)
(犯人に頼らなくていい……!)
(今回は……)
(警察から情報を引き出す……!)
視線を向ける。
目暮十三。
(こいつの頭の中……)
(ここに……ヒントがある……!)
一歩踏み出す。
「なぁ……!」
ざわ……
「俺はやってねえ!!」
声を張る。
「でも言ったよな?」
警部が眉をひそめる。
「……何がだ?」
(来い……!)
「防犯カメラ……!」
一瞬の間。
「俺を見たって……言ったよな?」
ざわ……
「……それがどうした」
(押せ……!)
「俺はやってねえ……!」
指を突きつける。
「つまり――」
「他にも誰かが映ってるはずだ!!」
ざわあああ……
空気が揺れる。
だが――
警部は首を振る。
「……捜査内容は話せない」
(……ちっ……!)
(だが……)
(心の声……拾う……!)
集中。
(そもそも死亡推定時刻の範囲内に映っているのは……カイジだけ……)
(合鍵もカイジだけ……)
(つまりカイジ確定……)
(しかし立場上言えない……)
(まぁ奴が犯人なのだから意地悪でもなんでもない)
(……は?)
(丸聞こえ……!)
(ダダ漏れじゃねぇか!!)
(警部……ポンコツか!?)
(いや今はいい……!)
(重要なのはそこじゃねぇ……!)
ざわ……ざわ……
(……俺だけ……?)
(カメラに映ってるの……)
(……俺だけ……?)
血の気が引く。
(……やべえ……)
(完全に……想定外……!)
(俺の作戦……)
(崩壊……!)
頭の中で組み立てていたプラン。
(カメラに複数人……)
(→全員集める……)
(→心の声で犯人特定……)
(完璧……だったはず……)
(なのに……)
(俺しかいねぇ……)
ぐにゃあああああああああ……
(詰み……?)
(いや……待て……!)
(これは……)
(“トリックあり”だ……!)
(カメラに映らない方法で……)
(犯人は出入りしてる……!)
(つまり……)
(俺以外に犯人がいる証拠でもある……!)
呼吸が荒くなる。
(だが……)
(それに気付いてるのは……)
(俺だけ……)
(しかも……)
(“犯人扱いされてる俺視点”だから見える違和感……!)
(他の奴らから見たら……)
(ただの言い訳……!)
ざわ……ざわ……
(どうする……!?)
(証明できなきゃ意味ねぇ……!)
(でも……証拠はねぇ……!)
歯を食いしばる。
(考えろ……!)
(カメラに映らない……)
(出入り……)
(合鍵……)
(風呂場……)
(時間……)
(……絶対どこかに……)
(“穴”がある……!)
拳を握りしめる。
(そこを突けば……)
(逆転できる……!)
(やるしかねぇ……!)
ざわ……ざわ……
(ここが……)
(本当の地獄……!)
(だが……)
(抜ける……!)
(必ず……!)
落ち着け――
俺は、自分に言い聞かせる。
呼吸を整える。
ざわ……ざわ……
今回は――分かりやすい。
あまりにも分かりやすい。
(状況証拠……全部俺……)
(現場にいた……)
(合鍵持ってる……)
(金もない……動機も“それっぽい”……)
(……出来すぎだろ……)
逆に笑えてくる。
(つまり……)
(これは“作られた状況”……)
(誰かが……俺をハメてる……)
ギャンブルと同じだ。
露骨に勝ってる時ほど――怪しい。
(罠……)
(トリック……)
(絶対ある……!)
目を閉じる。
防犯カメラ。
警部の言葉。
“俺しか映ってない”。
(……じゃあ犯人はどうやって入った……?)
普通に考えれば――不可能。
だが、俺は知っている。
(ギャンブルには……)
(必ず“抜け道”がある……!)
見えないだけで、存在する。
(窓……裏口……)
(いや……二階から……?)
(ベランダ……雨どい……)
(侵入経路なんて……いくらでもある……!)
思考が回り始める。
(つまり……)
(防犯カメラに映らないルートが……ある……!)
一気に視界が開ける。
(そして犯人は……)
(それを“知っていた”……)
(つまり……)
(この家の構造を知っている人物……!)
背筋がゾクッとする。
(もしくは……)
(相当頭がキレる奴……!)
(普通のバカなら……)
(そのまま正面から入って……)
(カメラに映って終わり……)
(でもこいつは違う……)
(回避した……)
(計算して……動いた……)
唇が歪む。
(……見えてきた……!)
(犯人像……!)
(冷静……計算型……)
(そして……)
(この家を知っている……!)
拳を握る。
(いいぞ……)
(心の声……いらねぇ……)
(論理だけで……いける……!)
(むしろ……)
(その方がクリアだ……!)
ふと気付く。
(……俺……)
(“犯人扱い”されてるからこそ……)
(全部……俯瞰で見えてる……)
(疑われる側の視点……)
(これ……強い……!)
ざわ……ざわ……
(……さらに……)
(家に入ったなら……)
(必ず残る……)
(痕跡……!)
脳が加速する。
(指紋……)
(足跡……)
(髪の毛……)
(繊維……)
(微細な何か……)
(完全犯罪なんて……存在しねぇ……!)
(必ず……ボロが出る……!)
そして――
雷が走る。
(……待て……)
(そもそも……)
(“入った”のか……?)
思考が一気に反転する。
(違う……)
(そうじゃねぇ……)
(最初から……いた……?)
息が止まる。
(犯人は……)
(“元から部屋に潜んでいた”……!)
(だから……)
(カメラに映らない……!)
(俺が来た時には……もう中……!)
(そして……)
(俺がいた時間帯に……)
(殺しを実行……!)
(その後……)
(息を潜める……!)
(俺が帰った後に……)
(悠々と出る……!)
ぐにゃああああああああああ……
(……これ……)
(ビンゴじゃねぇか……!?)
全てが繋がる。
(カメラ問題……解決……!)
(侵入経路……不要……!)
(そして……)
(“家を知ってる人物”……って条件にも合致……!)
口元が歪む。
(来た……)
(完全に……来た……!)
(ロジック……完成……!)
深く息を吐く。
(よし……整った……)
(ここから……)
(逆転開始だ……!)
ざわ……ざわ……
(今度は……)
(俺が……)
(狩る番だ……!)
(……来い……ここだ……)
俺は一歩踏み出す。
「なあ警部さんよ……」
ざわ……
「俺は犯人じゃねえ」
即答。
「お前はやる男だ」
(出た……決めつけ……!)
「ちげーよ」
間髪入れず返す。
「そもそもさ――」
指を突きつける。
「防犯カメラに映ってるから犯人?」
「そうだ」
「合鍵があったから犯人?」
「そうだ」
(……雑……!)
(雑すぎる……!)
一気に畳みかける。
「俺はこの家に出入りしてる……!」
「当然、防犯カメラの存在も知ってる……!」
「それで殺し?」
一拍。
「――大バカ者じゃね?」
ざわあああ……
一瞬、空気が揺れる。
警部の眉がピクッと動く。
「あっ……確かに……」
(来た……!)
(崩れた……!)
(今だ……押せ……!)
心臓が跳ねる。
(ここで……畳みかける……!)
だが――
警部がゆっくり口を開く。
「でも……」
(……?)
「カイジは大バカ者だ……」
(は?)
時間が止まる。
「学校では宿題やらない……」
(なに言ってんだ……?)
「夏休みの宿題も出さない……」
(いやいや……)
「小中学校でも下校時にゲーセン……」
(ちょっと待て……!)
「大バカ者と言われていたと聞いたぞ?」
ざわ……ざわ……
(……えっ……)
(なんで知ってんだよ……そんなこと……!)
脳が一瞬フリーズする。
(いや……待て……)
(これ……)
(完全に“言質”取られてるやつ……!)
(下手に否定したら……)
(調書でバレる……!)
(嘘は……打てねぇ……!)
歯を食いしばる。
(くそ……!)
「ああ……大バカ者と言われてた……」
ざわ……
(言っちまった……!)
警部が頷く。
「だろ……」
(やばい……流れが……!)
「ならわしの推理は矛盾しない」
(なに……!?)
「大バカ者だから……」
(やめろ……!)
「カメラに映って殺した」
(無茶苦茶だろ……!)
「防犯カメラがあることを知っていたのに……」
(いや……それは……)
「ありえる……」
ざわ……ざわ……
「犯人というのはそういうものだ」
――ぐにゃあああああああああああ……
(……くそ……!)
(なんだこの理屈……!)
(無茶苦茶なのに……)
(否定しきれねぇ……!)
(“バカだからやる”……)
(最悪のロジック……!)
(論理じゃねぇ……レッテルだ……!)
拳が震える。
(だが……)
(刺さってる……!)
(周りの空気が……)
(“ああ……ありえるかも”ってなってる……!)
ざわ……ざわ……
(やべえ……)
(流れ……完全に持ってかれてる……!)
(論理じゃ勝ってたのに……)
(人格で潰されてる……!)
歯ぎしりする。
(くそ……!)
(悔しいが……)
(なんか“それっぽい”こと言いやがる……!)
(このままじゃ……)
(押し切られる……!)
心臓がドクドク鳴る。
(だが……まだだ……)
(こんな理不尽……)
(認めてたまるか……!)
(論理で……ひっくり返す……!)
(絶対に……!)
ざわ……ざわ……
(……待て……まだだ……)
喉の奥が乾く。
ざわ……ざわ……
「待てよ……」
声を絞り出す。
「大バカ者だったのって……いつの話だ……?」
警部を睨む。
「警部の言ってるのは……小学生とか中学生……」
「義務教育の話だろ……?」
ざわ……
(ここだ……)
(第一の山場……!)
(これを崩せなきゃ終わり……!)
(“バカだからやった”が通ると……詰み……!)
脳が高速で回る。
(実際……世の中の犯罪なんて……)
(短絡的なやつばっか……)
(強盗……殺人……衝動……)
(トリックなんて……現実じゃほぼない……)
(だからこそ……)
(警部は押してくる……!)
(“バカだからやった”で……!)
拳を握る。
(ここで押し切られたら……)
(誤認逮捕……)
(終わり……)
息が荒くなる。
(しかも……)
(俺は……)
(彼女を失ってる……!)
胸が締め付けられる。
(あいつは……殺されてるんだ……!)
(ここで負けるわけにはいかねぇ……!)
顔を上げる。
「なぁ!」
「小中学校の話なんて今更関係ないだろ!!」
一歩踏み込む。
「義務教育の話すんなよ!!」
ざわあああ……
(いけるか……!?)
(これなら……!)
だが――
警部の目が、冷たく細くなる。
「カイジ……お前な……」
ざわ……
「義務教育の話をしたのは……優しさだ」
(……は?)
空気が変わる。
「高校時代に飲酒して補導……」
(やめろ……)
「ノーヘルでバイク……」
(やめろ……!)
「しかも無免許……信号無視……」
(やめてくれ……!)
「パチンコして台パンで逃げた……」
ざわ……ざわ……
(全部……)
(全部……事実……!)
逃げ場がない。
「義務教育後の方がもっとひどい……」
(ぐっ……!)
「しかも小中学生とは違う……」
「子供だからで許される話じゃない……」
一歩、詰められる。
「残っているんだ……」
「警察の調書には……」
(……終わった……)
「お前……義務教育後も大バカ者だ……」
――ぐにゃあああああああああああ……
(思い出した……)
(そうだ……)
(何度も……補導された……)
(そのたびに……)
(怒られた……)
(この……警部に……!)
視界が揺れる。
(だからか……)
(俺に執着してるの……)
(全部……繋がってる……!)
「わしもカイジのことを何度か面倒見た……」
(くそ……!)
(確かに……そうだ……!)
(でも……!)
(逮捕まではされてない……!)
(厳重注意で済んでた……!)
警部が静かに言う。
「わしは間違ってたと悟った……」
(……?)
「やはり人は心を入れ替える……」
「温情を与えすぎた……」
背筋が冷える。
「あのとき牢屋にぶちこめればよかった……」
(くそおおおおお……!)
(印象……最悪……!)
(完全に“前科者予備軍”扱い……!)
(どうする……!?)
警部の声が追い打ちをかける。
「なぁカイジ……」
「何回言った……?」
「心を入れ替える……もうしません……」
「むしゃくしゃしてやった……」
「誰かにそそのかされた……」
ざわ……ざわ……
(……全部……言った……)
(逃げ場……ねぇ……)
「わしが逮捕しなかったせいで……」
「繰り返してきたと思っている……」
(やめろ……)
「お前はクズだ……」
(……っ……)
「社会の屑だ……」
胸が潰れる。
「だからこそ……」
「わしの手で捕まえないといけない……」
――ぐにゃあああああああああああ……
(……何も……言えねぇ……)
(反論……できねぇ……)
(全部……事実……)
(全部……俺……)
拳が震える。
(やべえ……)
(完全に……飲まれてる……!)
(論理じゃなく……)
(“過去”で殺されてる……!)
ざわ……ざわ……
(このままじゃ……)
(終わる……!)
(でも……)
(言葉が……出てこねぇ……)
(どうする……俺……!)
(……ダメだ……)
頭を振る。
(過去の話……)
(この土俵じゃ……勝てねぇ……!)
(何を言っても……)
(全部……“ほらな”で終わる……)
歯を食いしばる。
(俺自身が……思ってる……)
(……屑だったって……)
(だから余計に……反論が弱い……!)
ざわ……ざわ……
(なら……)
(戦う場所を変える……!)
顔を上げる。
「なぁ……目暮警部……」
ゆっくり言葉を紡ぐ。
「俺……思うんだ」
「なにがだ」
(いけ……!)
「重要なのはさ……」
一拍。
「過去に縛られることじゃなくて……」
「未来を向いて走ることじゃないかって?」
ざわ……
(……どうだ……?)
(今の……)
(ちょっとカッコよくね?)
(それっぽくね……!?)
警部がわずかに間を置く。
「それは……そうだ」
(よしっ……!)
(乗った……!)
(ここだ……畳みかけろ……!)
一歩踏み込む。
「俺の目を見ろよ……!」
ぐっと顔を上げる。
「これが……犯罪者の目か?」
(来い……!)
(本物の刑事なら……)
(分かるはず……!)
(俺はやってねぇ……!)
警部は――
じっと俺を見る。
そして――
「そうだ……」
(……!)
「犯罪者の目だ」
――は?
時間が止まる。
「見た目、雰囲気、言動……」
「明らかに屑そのもの」
ざわあああ……
(え?)
(いやいやいや……!)
「おかしいだろ!!」
思わず叫ぶ。
「よく見ろよ!!」
警部は首を振る。
「おかしいのはカイジ……お前だ」
(なに……!?)
「カイジを見て……」
「今の状況を見て……」
「エリートかクズかと言えば……」
一拍。
「十中八九……クズだ」
――ぐにゃあああああああああああ……
(直球……!)
(ストレート……!)
(逃げ場なし……!)
「過去の話をしなくてもだ……」
(終わった……)
(完全に……今でもアウト判定……!)
「いやいや……そんなわけないだろ……!」
必死に食い下がる。
警部が鋭く聞く。
「お前……最近どうやって生きてた?」
(……やべ……)
(これ……まずい質問……)
一瞬、迷う。
(嘘……つくか……?)
(いや……)
(ここでバレたら終わり……!)
「……紐生活だよ……」
――あっ
(言っちまった……!)
ざわ……ざわ……
警部が静かに頷く。
「ほらな……」
「クズだ」
(ぐっ……!)
(ぐうの音も出ねぇ……!)
「人の金で生きて……」
「働きもせず……」
「楽して飯を食う……」
一歩詰められる。
「それでいて豪遊……」
(……!)
(バレてる……!)
「酒……ギャンブル……」
「好き放題やって……」
(全部……見透かされてる……!)
「金の大切さも分からない……」
「自分で稼ぐ苦労も知らない……」
胸に刺さる。
「そんな人間が……」
「追い詰められて……」
「むしゃくしゃして……」
「人を殺す……」
ざわ……ざわ……
「動機としては……十分すぎる」
――ぐにゃあああああああああああ……
(……ダメだ……)
(完全に……)
(“犯人像”に俺がハマってる……!)
(論理じゃねぇ……)
(“人間像”で詰められてる……!)
拳が震える。
(くそ……!)
(全部……俺のせいだ……!)
(今までの生き方が……)
(全部……ここに来てる……!)
ざわ……ざわ……
(でも……)
(それでも……!)
(やってねぇもんは……やってねぇ……!)
歯を食いしばる。
(まだ……終わってねぇ……!)
(ここから……)
(ひっくり返す……!)
(……やべえ……)
冷や汗が背中を伝う。
ざわ……ざわ……
(前回は……まだよかった……)
(バイトしてた……)
(一応……“社会と繋がってる人間”だった……)
(でも今は……)
(何もしてねえ……)
(ニート……)
言葉が重くのしかかる。
(しかも……)
(ただのニートじゃねぇ……)
(引きこもりで節制してるならまだ分相応……)
(俺は……)
(ニートで……豪遊……)
ぐにゃああああああああ……
(最悪だろ……これ……!)
(ネットに出たら……)
(即炎上……!)
(叩かれる……袋叩き……!)
(“働け”の嵐……!)
(印象……最悪……!)
頭を抱えたくなる。
(これ……)
(女の子なら……まだワンチャン許される……)
(“かわいい”とかで……)
(擁護も湧く……)
(でも俺……)
(男……!)
(しかも……)
(ここまでの人生……)
(屑ムーブのオンパレード……!)
(酒……ギャンブル……無職……紐……)
(役満……!)
(悪い意味で……!)
ざわ……ざわ……
(典型的な……)
(救えない男……)
(テンプレすぎる……!)
ふと、嫌な考えがよぎる。
(……これ……)
(無実でも……)
(俺が捕まった方が……)
(世間的には“丸く収まる”んじゃねぇか……?)
(“ああ、やっぱりな”って……)
(納得される……)
(スッキリする……)
(……最悪だ……)
頭を振る。
(いやいや……違うだろ……!)
(俺はやってねぇ……!)
(それが全てだ……!)
必死に思考を戻す。
(……情報……)
(事件の手がかり……)
(心の声……拾え……!)
集中する――
だが。
(カイジ犯人確定……)
(世の中の屑……)
(わしが逮捕して救ってやる……)
(今回こそは逃がさん……)
(……)
(……は?)
(それしかねぇ……!)
ぐにゃあああああああああああ……
(警部の頭の中……)
(“俺有罪前提”で埋まってる……!)
(事件の情報……)
(全然落ちてこねぇ……!)
(推理のピース……ゼロ……!)
ざわ……ざわ……
(やべえ……)
(能力……封じられてる……!)
(今までは……)
(犯人の心の声で……)
(一発だった……)
(でも今回は……)
(犯人がこの場にいない……!)
(そして……)
(警部は完全にバイアス状態……!)
(使えねぇ……!)
拳が震える。
(どうする……)
(情報ゼロ……)
(印象最悪……)
(味方なし……)
(状況……最悪……!)
呼吸が荒くなる。
(だが……)
(ここで折れたら……)
(本当に終わり……!)
(俺は……)
(犯人じゃねぇ……!)
歯を食いしばる。
(なら……)
(やることは一つ……)
(“外”じゃなく……)
(“中”を見る……)
(現場……証拠……物理……)
(論理だけで……)
(突破する……!)
ざわ……ざわ……
(チートなし……)
(完全実力勝負……!)
(上等だ……!)
(やってやる……!)
(ん……)
(味方なし……)
(あ……)
(……いや……待て……)
(俺……一人じゃねぇ……)
ざわ……
(いる……)
(味方……)
ふっと顔を上げる。
(親友……)
(こうちゃん……!)
口元がわずかに緩む。
(あの事件以来……)
(妙にウマが合って……)
(酒……麻雀……競馬……)
(気づけば……つるむようになってた……)
(“名探偵”とか言われてるくせに……)
(中身はただのオッサン……)
(でも……)
(だからこそ……信用できる……!)
(裏表がねぇ……!)
拳に力が入る。
(あいつなら……)
(この状況……ひっくり返せる……!)
一歩踏み出す。
「警部……!」
ざわ……
「こうちゃん……」
一瞬言い直す。
「……小五郎さんを呼んでくれ……!」
ざわざわ……
(頼む……来てくれ……!)
(あの眠りこけるクズ親友……!)
(今だけは……起きてくれ……!)
そして――
畳みかける。
「あとさ……!」
警部を睨む。
「犯人は防犯カメラに映らなくても……」
「窓とか裏口とか……」
「いくらでも侵入できるんだ……!」
ざわ……
(論理……通せ……!)
「だから……」
「鑑識呼んで……」
「指紋……足紋……髪の毛……繊維……」
「全部調べてくれ……!」
一気に吐き出す。
(ここだ……)
(これが最後の砦……!)
(物証……!)
(感情も印象も関係ねぇ……)
(“事実”だけが……俺を救う……!)
警部はしばらく黙る。
ざわ……ざわ……
(……どうだ……?)
(通るか……?)
やがて――
「鑑識は後でやる予定だった……」
(……!)
「犯人が確定していたから……後回しにしていたが……」
(やっぱり……!)
(俺前提で動いてた……!)
「だからと言って……杜撰な捜査はしない……」
(頼む……!)
「やるつもりだった……」
(……来た……!)
心臓が跳ねる。
「毛利君も事件の関係者だし……」
(こうちゃん……!)
「彼に言われて……」
(ナイスだ……!)
「鑑識結果が出れば……」
じっと俺を見る。
「お前もさすがに認めるだろう……」
(……上等……!)
(むしろ……望むところ……!)
「……いいだろ」
ざわあああ……
空気が変わる。
(来た……!)
(土俵が変わった……!)
(印象じゃねぇ……)
(過去でもねぇ……)
(証拠勝負……!)
拳を握る。
(これで……)
(“何も出なければ”……)
(俺は白……!)
(そして……)
(何か出れば……)
(それが……真犯人への道……!)
ざわ……ざわ……
(逆転の流れ……)
(まだ細いが……)
(確実に……来てる……!)
(あとは……)
(証拠が……俺を救う……!)
(頼むぞ……鑑識……!)
(……あれ……?)
ふと引っかかる。
ざわ……
(こうちゃん呼ぶ……)
(鑑識する……)
(どっちも……)
(あっさり通りすぎたけど……)
眉をひそめる。
(警部……言ってたな……)
(“毛利君も関係者”……)
(……は?)
(関係者?)
(こうちゃんが……?)
(どういうことだ……?)
一瞬、嫌な予感がよぎる。
(まさか……)
(俺の味方じゃねぇ……?)
(いや……そんなわけねぇ……!)
(あいつは……)
(親友だ……!)
(酒も……麻雀も……競馬も……)
(あんなに一緒に……)
頭を振る。
(考えすぎだ……!)
(今は……信じるしかねぇ……!)
パトカーに押し込まれる。
ドアが閉まる音――重い。
ガチャリ。
(……くそ……)
(この音……)
(何回目だよ……)
ざわ……ざわ……
車が走り出す。
そして――
「まったくお前は……」
(出た……)
(説教タイム……!)
「何度同じことを繰り返す……」
(やめろ……今それじゃねぇ……!)
「飲酒、無免許、無職……」
(フルコンボ……!)
「人の金で遊んで……」
(やめてくれ……!)
「挙句の果てに殺人容疑……」
(それは違う……!)
「どうしようもないな……」
ぐにゃああああ……
(心にくる……!)
(今じゃなくてもいいだろ……!)
(いや……今だからこそか……!)
ざわ……ざわ……
外を見る。
――その時。
「あれ……?」
「なんかあの人……」
(……え?)
視線が刺さる。
スマホが向く。
カシャッ
カシャッ
(うわあああああああああ!!)
(写真撮ってる……!)
(やめろ……!)
(なんでこういうときに限って……!)
「カイジじゃね?」
「逮捕されてる……」
「やっぱりな……」
ざわ……ざわ……
(最悪……!)
(拡散……確定……!)
(ネット行き……!)
(炎上……!)
頭を抱えたくなる。
(なんで俺……)
(こういうときだけ……)
(発見されやすいんだよ……!)
(普段は誰も見てねぇくせに……!)
(クソが……!)
やがて――
車が止まる。
「着いたぞ」
(……ここか……)
彼女の家。
胸が締め付けられる。
(……ここで……)
(あいつが……)
一瞬、視線を落とす。
(……くそ……)
(絶対……無駄にしねぇ……)
ドアが開く。
外に出る。
その瞬間――
視界に入る。
(……え?)
スーツ。
ビシッと決めた姿。
背筋の伸びた立ち姿。
――別人みてぇな雰囲気。
(……こうちゃん……?)
「待ってましたよ……」
落ち着いた声。
「警部殿」
(……なんだこの貫禄……!?)
そして――
ニヤリと笑う。
「そして――親友カイジ」
ざわ……
(……来た……!)
(頼れる男……!)
(俺の……唯一の味方……!)
その背後――
部屋の中。
白い手袋。
ライト。
しゃがみ込む人影。
「……おお……」
(ガチだ……)
鑑識が――
6人体制で動いている。
ざわ……ざわ……
(本気だ……)
(完全に……事件モード……!)
(ここから……)
(全部が暴かれる……!)
拳を握る。
(頼む……!)
(俺を救ってくれ……!)
(この……“事実”で……!)
――ざわ……ざわ……
「こうちゃん、また俺犯人扱いなんだ」
半分泣き言、半分本気。
だが目の前の男は――ブレねぇ。
「聞いた。防犯カメラを3週間前まで遡って確認したけど怪しい人物一人もいなかった……カイジが犯人じゃないなら当然別ルートから侵入だ。後は鑑識結果を待つだけだ」
……うおおおおおおおおお……!!
なんだこいつ……!
給料も出ねぇのにここまでやるか普通……!
慈善事業……いや、それ以上だろ……!
しかもスーツ。ビシッと決めてやがる。
さっきまで酒飲んで「ヒック…もう一杯…」とか言ってた男と同一人物とは思えねぇ……!
(かっこよすぎだろ……こうちゃん……)
――だが。
「そうだ、犯人の目星はあるのか?」
ざわ……ざわ……
「ない」
即答。
……は?
「え?何も調べてないのか?」
「もう調べた……奥さんの交友関係を洗った。恨まれる理由なし。最近の交友関係は当然お前だけだ。奥さんとして家事をしながらの以上、お前と遊んでいたらそれ以外の交友関係は持つのが難しい……」
――え……?
頭が一瞬、真っ白。
(犯人……誰……?)
俺じゃねぇ。
外部犯もいない。
交友関係も俺だけ。
じゃあ――
詰み……?
「目暮警部!!鑑識結果出ました!」
高木刑事の声が突き刺さる。
ざわ……ざわ……
「どれどれ?」
警部が紙を見る。
一拍。
「家にいた者以外で警察が調べる前に部屋に入ったのは――カイジと毛利君の2人だけ……」
……ざわ……
ざわ……ざわ……ざわ……
「……は?」
声、出ねぇ。
喉が詰まる。
(えっ……)
(俺と……こうちゃん……?)
一気に視線が刺さる。
警部。高木。鑑識。
全員の目が――疑いの色。
(待て待て待て待て……!)
(おかしいだろ……!)
俺は分かる。
俺はやってねぇ。
なら残るのは――
こうちゃん……?
横を見る。
スーツ姿。冷静な顔。
まるで何も動じていない。
(いやいやいや……ありえねぇ……)
(こうちゃんが殺し……?)
(そんなわけ……)
――その時。
気付く。
(……あれ?)
聞こえねぇ。
(こうちゃんの……心の声……)
いつもならあるはずだ。
(なるほどな……)
(これはこういうトリックか……)
そういう思考が、流れてくるはずなのに――
無音。
ざわ……ざわ……
背筋が凍る。
(なんでだ……?)
(距離か?違う……今までこんな距離で何度も聞いてる……)
(じゃあ……なんで……)
一つの可能性が、脳裏をよぎる。
(……隠してる……?)
いや、ありえねぇ……!
心の声ってのは、漏れるもんだ……!
隠せるもんじゃねぇ……!
(でも……聞こえねぇ……!)
ざわ……ざわ……
鼓動が早くなる。
(まさか……)
(こうちゃん……お前……)
疑念。
信頼。
混乱。
全部がぐちゃぐちゃに絡まる。
(いや違う……!)
(こうちゃんが犯人なわけねぇ……!)
だが現実は非情。
証拠は――
「二人だけ」
俺と、こうちゃん。
(くそっ……!)
(どうなってやがる……!)
そしてさらに最悪な事実。
(犯人の心の声が……聞こえねぇ……!)
つまり――
今回は、チートなし。
ざわ……ざわ……
(……いいぜ)
(やってやるよ……)
追い詰められるほど燃える――
それが俺、伊藤開司……!
(ここから……逆転だ……!)
――ざわ……ざわ……
「え。おかしくね?これ俺視点こうちゃんが犯人になるんだけど、外部犯が全ての痕跡を消した?」
言いながら、自分でも分かってる。
無理筋。
そんな都合のいい“完全犯罪”――現実じゃまず成立しねぇ。
だが――それしか逃げ道がねぇ……!
「待て」
低い声。
こうちゃん。
「俺視点でもカイジが犯人になるんだ」
――は?
思考、停止。
「そもそも全ての痕跡を消すなんてできない……過去に俺は大学の同級生でも逮捕したから容赦はしないぞ……」
ざわ……
ざわ……ざわ……
「親友だからこそ罪を認めさせるっていう人間なんだ……カイジ……お前……なんでやったんだ?」
……え?
(え?え?え?)
ちょっと待て……
待て待て待て待て……!!
(俺……疑われてる……?)
さっきまでの流れ――
こうちゃんが来て
ビシッと推理して
「カイジは無実だ」って言って
全部解決――
そのルートじゃねぇのかよ!?
ざわ……ざわ……
空気が変わる。
完全に。
(やべえ……)
(これ……マジでやべえ……)
目の前にいるのは――
ただの親友じゃねぇ。
ギャンブル仲間でもねぇ。
酒飲み仲間でもねぇ。
名探偵。
しかも――
本気モード。
(終わった……)
(これ……詰みじゃねえか……?)
だってそうだろ……!
・証拠 → 俺とこうちゃんだけ
・動機 → 不倫
・現場 → 出入りしてる
・アリバイ → なし
(完璧すぎる……!)
(俺が犯人ってストーリーが……!)
ぐにゃあああああああああ……
頭の中が歪む。
視界が揺れる。
(無理だ……)
(名探偵を崩すとか……)
(どうやって……?)
トリック?
分からねぇ。
動機?
俺じゃねぇ。
証拠?
全部俺に向いてる。
(詰み……)
(完全に詰み……)
だが――
ざわ……ざわ……
(いや……待て……)
俺はここで終わる人間か?
違うだろ……!
思い出せ。
今までの俺。
崖っぷちから――
何度這い上がってきた?
エスポワール。
地下労働。
鉄骨渡り。
そして――この世界でも。
2回。
追い詰められてからの逆転。
(そうだ……)
(俺は……)
追い詰められてからが本番……!
ぐっ……
歯を食いしばる。
(名探偵?)
(関係ねぇ……!)
むしろ――
(ぶっ壊してやる……その“絶対の推理”……!)
顔を上げる。
震えは止まらねぇ。
でも――目は死んでねぇ。
「こうちゃん……」
低く、絞り出す。
「俺はやってねぇ……」
ざわ……
ざわ……ざわ……
(ここからだ……)
(全部ひっくり返す……!)
――逆転開始……!
ミステリーにギャグ成分混ぜてみましたがどうですか?
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かなりあり
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なかなかいい感じ
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普通
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ミステリーにギャグいらん
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ありえん!