心読みの逆転探偵録 カイジVS名探偵コナン   作:梅酒24

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ファイル4:怪盗キッドの祝杯 中編

(なんなんだ……今の……)

 

ざわ……ざわ……

 

さっきまで確かにいた……

背中越しに感じた“若さ”……軽さ……

盗みを企むガキ特有の、あの未熟な空気……!

 

それに向かって俺は説教してたはず……!

 

なのに――

 

振り返った瞬間……

 

じいさん……!

 

「え……?」

 

思考停止……!

脳が処理を拒否……!

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

 

おれは若者に背中で説教をしていたと思って振り返ったら、じいさんになっていた

 

な…何を言ってるのか分からねーと思うが

おれも何をされたのか分からなかった…

 

頭がどうにかなりそうだった…

 

催眠術だとか超スピードだとか

そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ…

 

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

 

ざわ……ざわ……

 

(いや待て……落ち着け……!)

 

こういうときこそ整理だ……!

 

顔……完全に老人……

シワ……髪……姿勢……

どこからどう見ても“本物”……!

 

(でも違う……!)

 

俺は感じた……!

さっきの背中から伝わる“若さ”を……!

 

(あれは演技じゃねえ……本物の若者の気配……!)

 

つまり――

 

変装……!

 

ざわ……

 

(こいつ……ただのじいさんじゃねえ……)

 

その時――聞こえる……

 

(顔……明らかにこの豪華客船に乗る人間じゃないな……でもなぜ……俺が怪盗キッドだと思ったんだ……いや、違う……単なるゆさぶりだ……中森警部が配置した私服捜査官か……じゃないと説明つかねえ……)

 

ざわっ……!

 

(こいつ……心の声……若い……!)

 

(くそ……こんな秘密兵器用意していたのか……やけに警備がざるだと思ったら……敢えて情報を伏せていたのか……少しは学習したな中森警部……)

 

え?え?

 

中森警部?誰だよ……

怪盗キッド……?

 

……あっ

 

そうだ……さっき聞いた……

ブラックスターを狙う……なんか有名な……

 

コスプレしてるマジシャンみたいなやつ……!

 

(ああ……なるほどな……)

 

こいつ……その怪盗キッドってやつで――

今、じいさんのコスプレしてるってわけか……

 

(いやいや……レベル高すぎだろ……)

 

完全にじいさん……!

これ見抜けるやつ普通いねえ……!

 

でも――

 

犯罪は犯罪……!

 

ここで止める……!

説教だ……!

 

「なぁ、君」

 

じいさんが口を開く……

 

「わしは鈴木会長じゃ。この豪華客船のオーナーじゃ」

 

ざわ……

 

(いやいやいや……)

 

「いや、そういうのもういいって」

 

一歩踏み込む……!

 

「コスプレだろ?お前、若い青年じゃねーか」

 

ざわっ……!

 

空気が変わる……!

 

「盗みは辞めろよ、怪盗キッド!!」

 

ざわあああ……

 

乗客がざわつく……!

視線が刺さる……!

 

だが――

 

(え……この目……)

 

じいさんの目が変わる……

 

(知っている……確信している奴の目……)

 

(雰囲気はクズ……社会不適合者……なのに……)

 

(見抜いている……!)

 

ざわ……

 

(なんでバレた……?)

 

(逃げる?いや……ありえねえ……)

 

(理由を知らずに変装続ける方がリスク……)

 

(こいつ……ただの酔っ払いじゃねえ……)

 

(力量……測る必要がある……!)

 

え?

 

なにこいつ……急に考え込みやがって……

 

なんか上から目線だし……

 

(あっ……でもこれ……)

 

思い出す……

 

中学生の頃……

小学生相手にイキってた俺……

 

(ああ……あれだ……)

 

自分が上だと思ってる時の態度……!

 

(こいつ……完全にそのモード……!)

 

ざわ……ざわ……

 

つまり――

 

完全に俺を“下”と見てる……!

 

(くそ……ムカつく……!)

 

でも――

 

いい……!

 

上等だ……!

 

ざわ……ざわ……

 

(怪盗キッド……ねぇ……)

 

ざわ……ざわ……

 

どう見てもコスプレイヤー……

しかも盗みをするタイプ……最悪……!

 

(儲からねえだろ……そんなの……)

 

夢追って……失敗して……

結局、犯罪に手を出す……

 

――俺と同じルート……!

 

(だからこそ……)

 

ここは説教一択……!

 

止める……!

今ここで止める……!

 

「なぁ……まだ引き返せるんだ……」

 

自分でも分かる……声が少し強い……

 

「お前は若い……盗みなんかしたら駄目だ!」

 

ざわ……

 

「親も言ってただろ……盗みは駄目だって!」

 

(そうだ……親だ……!)

 

子供にとって絶対的存在……!

総理大臣より影響力あるのは親……!

 

(ここで親を出す……ナイス……!)

 

いける……!

相手はただの若いコスプレ野郎……!

 

目暮警部と渡り合った俺の敵じゃねえ……!

 

(いやいや……)

 

心の声が流れ込む……

 

(そもそも俺の親のが色々お宝盗みまくっていて肯定されてるんだわ……)

 

ざわっ……!

 

(は?)

 

あああああああああ……!

 

親父も泥棒……!?

 

血筋……確定……!

 

(終わってる……!)

 

クズの家系……

クズの連鎖……!

 

(でも……だからこそ……!)

 

ここで止めなきゃ……!

 

「なぁ……お前の親父も泥棒だろ……」

 

ざわ……

 

「でもお前は違う……まだ引き返せる……!」

 

言葉が止まらねえ……!

 

「このままやったらマジでクズ一直線だ!」

 

(くそ……なんでこんな熱く……)

 

頭の中に浮かぶのは――

 

過去の俺……

 

パチンコ屋の前で並ぶ高校生……

開店と同時に突入……!

 

――あの頃の俺……!

 

(あれが入口だった……)

 

一歩踏み込んだ瞬間……

坂道を転がるようにクズ一直線……!

 

(だから分かる……!)

 

こいつも今その入口に立ってる……!

 

「親父が泥棒でも……お前まで泥棒になる必要ねーだろ!!」

 

ざわ……ざわ……

 

周囲の空気が揺れる……

 

「ふざけんな……もっとまともな仕事探そうぜ……」

 

声が震える……

でも止まらねえ……!

 

「なあ……やめろよ……そんなこと……」

 

(頼む……)

 

「お前のために言ってるんだよ……!」

 

ざわざわ……

 

完全に空気が変わる……

 

視線……集中……

だがそんなの関係ねえ……!

 

目の前のこいつにだけ向ける言葉……

 

(なんなんだよ……こいつ……)

 

心の声が漏れる……

 

(本気で……俺のために言ってやがる……)

 

ざわ……

 

(初めてだ……こんな奴……)

 

 

ざわ……ざわ……

 

(なんだよこれ……)

 

俺も分からねえ……

 

ただ――

 

止めたかっただけだ……

 

同じ道を進む奴を……

同じクズになる奴を……!

 

(頼むから……やめろ……)

 

ざわ……ざわ……

 

聞こえる……あいつの声……

ざわ……ざわ……

 

こんな奴、いなかった……今まで……

止めるでもなく、煽るでもなく……ただ「やめろ」と言う奴……

 

――そうか……

 

こいつ……誰にも止められたことがねえんだな……

だから止まれない……止まり方を知らない……

 

なら……止めるのは――俺しかいねえ……!

 

「いやいや熱く語られても……わしは鈴木会長じゃ」

 

……まだ言うか……

その寒い芝居……!

 

「もうやめろよ!そんな猿芝居……寒すぎる……いらねえ……そんな会話」

 

周囲がざわつく……

だが関係ねえ……今はこいつだけだ……!

 

「ワシが怪盗キッドだという根拠はあるのか?」

 

(っていうか証明してみろよ……じゃないと俺は認めねえお前のことを)

 

――え?

 

なにこのタイプ……めんどくせえ……!

証明!?必要かそれ……!?

 

……ちっ……逃げられねえ流れ……!

 

「証明してやるよ……」

 

ぐにゃああああ……

 

やべえ……!

今回ただのコスプレ野郎だと思ってた……!

殺人事件みたいにロジック組んでねえ……!

 

心読んだなんて言ったら終わり……研究所直行……!

なら――でっちあげろ……!それっぽく……!

 

「聞こうじゃないか」

 

来た……逃げ場なし……!

 

「俺が見抜いたのは……目!目の色が違う。」

 

ざわ……

 

「普通そんなに太っていたら私生活は最悪……脂っこいもの、睡眠不足、ストレス……そういうのが全部出る……」

 

口が回る……止まらねえ……!

 

「さすがコスプレ野郎……身体は誤魔化せても……目は誤魔化せねえ……!」

 

いけ……押せ……!

 

「お前の目はキラキラしている……なんつーか……ちゃんと人と関わって生きてきた目だ……」

 

ざわ……ざわ……

 

「親父は泥棒かもしれねえ……でもな……友達もいて、ちゃんと人と笑ってきた……そんな目だ!」

 

俺……何言ってんだ……

でも止まらねえ……!

 

「それにブラックスターを盗もうとしてる……その覚悟……中途半端じゃねえ……本気でやろうとしてる目だ……!」

 

(やべええ……マジか……目……盲点……)

 

……効いてる……!?

 

(じいさんだからカラコンも不自然……そもそも色は同じ黒……)

 

(いや……黒にも差がある……微細な違い……それを見抜く奴がいるって話……)

 

(こいつ……そういうタイプか……!?)

 

……え?

 

マジで効いてる……?

 

ざわ……ざわ……

 

なんだこれ……

適当に言ったのに……通ってる……!

 

――いける……!

 

押せ……!ここで止まるな……!

 

「目?そんなんで分かるのか?」

 

ざわ……

空気が一瞬だけ揺れる……

 

(――一応怪盗だけに回答のチェック)

 

……来た……確認……!

まだ完全には折れてねえ……!

 

え……まだ駄目?

くそ……なら――もう一段押すしかねえ……!

 

心の声で拾った情報……

――瞳の違い……そこを“事実”として叩き込む……!

 

「いや鈴木会長とお前の瞳の色……全然違うだろ……もろバレだ」

 

言い切る……!迷いなく……!

 

ざわ……

 

「所詮学生の遊び……素人は騙せても俺は騙せない……」

 

少しだけ顎を上げる……

余裕を“演じる”……!

 

「コスプレに力入れるくらいなら勉強しろよ……その方が有意義だろ……大学行けば就職もできる……泥棒なんてしなくていい……全部解決だ」

 

――どうだ……!

 

俺の中で何かが弾ける……

論理じゃねえ……圧……空気……押し切り……!

 

「どうだ……これ……いいんじゃね……?」

 

(マジかよ……これは厄介な相手だぜ……)

 

――来た……!

 

(これは……負けを認めるか……俺の力不足……)

 

きたきたきたきたきた……!!

ざわ……ざわ……

 

効いてる……完全に効いてる……!

 

勝ち筋……見えた……!

 

――だが……

 

(……っておい……おかしくないか?)

 

……え?

 

ざわ……

 

なに……?

その引っかかり……

 

(俺の顔……見ていないのに……)

 

……は?

 

(なんで俺がキッドだと分かった……?)

 

空気が一瞬で冷える……

 

(この人と顔を見合わせてない……それは覚えている……)

 

やべえ……

 

(俺だって一度顔を合わせた人くらい覚えられる……なのに……)

 

ざわ……ざわ……

 

詰み……?

いや……違う……まだだ……!

 

でも確実に――

今、流れが“揺らいだ”……!

 

ざわ……ざわ……

 

この一言で……

俺のハッタリの土台が……崩れかけている……!

 

やべえ……どうする……!

 

え……なにこいつ……記憶力よくね……?

 

ざわ……

 

俺なんか……学校で「絶対テスト出るぞ!」って言われた公式……

次の日どころか――帰宅した瞬間に忘れてたぞ……?

 

え?なに?人間?同じ種族?

レベル違いすぎねえか……?

 

……いや待て……

 

冷静になれ……!

今はそこじゃねえ……!

 

こいつ……

「顔を見てないのに見抜いた」ってとこに食いついてきてる……!

 

くそ……

また証明かよ……!

 

見てないのにどうして分かったか……?

そんなの――普通は無理……!

 

いや……ある……!

可能性は……音か匂い……

 

ざわ……ざわ……

 

……いやいやいや……

こんな学生相手にそこまで精密な理屈いらねえだろ……!

 

ここは――押し切り……!

 

「音が違う……」

 

言った……!

もう後戻りできねえ……!

 

「え?」

 

食いついた……!

 

いける……まだ流れは俺にある……!

 

「体重がある人間の歩き方の音じゃない……だから違和感を覚えた……」

 

適当……だがそれっぽい……!

 

「だから警告した……で、振り返って目を見て確信……偽者だってな」

 

ざわ……

 

周囲も飲み込まれてる……!

この空気……いける……!

 

「もういいだろ……バレてるんだ……」

 

一歩踏み込む……

逃がさねえ……!

 

「これ以上醜態さらすな……男だろ……認めろよ」

 

……やべえ……

 

内心は綱渡り……

一歩間違えたら即死……

 

でも――

 

ここで止まったら終わり……!

 

これ以上踏み込まれたら返せねえ……

だから――押す……!

 

押す……!

 

押し切るしかねえ……!!

 

ざわ……ざわ……

 

「なぁ、歩き方だってそれぞれ違う……」

 

ざわ……

 

ここは理屈を“それっぽく”重ねる……!

薄いけど……積めば厚く見える……それがハッタリ……!

 

「呼吸のタイミングだったり、靴の向きだったり……普通は気付かない小さな一つ一つに個性があるんだよ……」

 

言いながら自分で思う……

 

――ほんとかよそれ……!

 

でもいい……止まるな……!

 

「なんで認めないんだ……俺、お前が犯罪してないなら捕まえるとかそういうことねーから……」

 

ざわ……ざわ……

 

「お前の為に言ってるんだ……」

 

――頼む……!

 

これで……折れてくれ……!

これ以上は……もうネタがねえ……!

 

「最後にひとつ……いいか?」

 

……来た……

 

口調が変わる……

空気も変わる……

 

ざわ……

 

やめろ……もうやめてくれ……!

これ以上深掘りされたら……詰む……!

 

「……なんだ?」

 

「……あんた名前は?」

 

――は?

 

……え?

 

それだけ……?

 

ラッキー……!

超ラッキー……!!

 

こんなん答えるだけじゃねえか……!

 

「伊藤カイジだ」

 

即答……!

 

「覚えたぜ!新しいライバルができちまったぜ」

 

……え?

 

え?え?え?

 

ざわ……ざわ……

 

ライバル……?

 

は?何言ってんだこいつ……?

 

泥棒しようとしてたクズが……俺にライバル宣言……?

 

……あっ

 

そういうことか……

 

理解……!

 

――クズ同士……ってことか……!

 

ざわ……ざわ……

 

そりゃそうだ……!

 

俺はあいつを見て確信した……

「あ、こいつクズだ」って……!

 

そして――

 

あいつも俺を見て思ったんだ……

「あ、こいつクズだ」って……!

 

完全一致……!

相思相愛……!

 

……嬉しくねえええええええええ!!!!!!

 

ざわ……ざわ……!!

 

「お前名前カイトだろ?」

 

「え?」

 

「俺高校時代のHN 悪魔皇帝カイザー。カイジだからカイザ―。お前、カイトだから怪盗キッドというHNつけたんだろ」

 

「はあああああ!?」

 

その瞬間だった――

 

パンッ!!

 

乾いた破裂音とともに、白い煙が一気に広がる。

視界を覆う濃密な煙……ざわめく乗客たち……!

 

「な、なんだ!?」「煙幕だ!!」

 

ざわ……ざわ……

 

次の瞬間――

バサバサバサッ!!

 

無数の白い鳩が煙の中から飛び立つ。

翼の音がホールに響き渡り、幻想的でありながら圧倒的な“非日常”を演出する。

 

そして――

 

煙が晴れたときには、そこにいたはずの男の姿は消えていた。

 

「消えた……!?」「まさか……本当に怪盗キッド……!?」

 

ざわ……ざわ……

 

誰もが理解する。

今この場で起きたのは、ただの手品でも、コスプレでもない。

 

――伝説の怪盗による、華麗なる逃走劇。

 

完璧な変装、心理を突く揺さぶり、そして大胆不敵な消失。

それらすべてを成立させるのは、圧倒的な技術と度胸。

 

怪盗キッド――

世界を騒がせる、紛れもない“本物”の怪盗であった。

 

***

 

ざわ……ざわ……

 

――パンッ……パチパチパチ……

 

え?

 

……は?

 

拍手……?

 

一瞬、何が起きてるのか理解できねえ……

視線が……全部……俺に向いてる……!

 

「すごい……」「今のやり取り……」「鳥肌立った……」

 

ざわ……ざわ……

 

は?はあああああ!?

なんだこれ!?

 

俺……ただ……クズ野郎に説教しただけだぞ……!?

 

怪盗キッドとかいう……

変なハンドルネームつけて盗みやろうとしてた奴に……!

 

――あっ……

 

そうだ……

 

俺も……高校時代……

 

ネットで「悪魔皇帝カイザー」とかいう

クッソ痛いHNで書き込みしてた……!!

 

カイジだからカイザー……

しかもクソいきってた……!

 

うわあああああああああああああああ!!!!

 

……あいつも……そういう年頃か……

 

俺と同じ……!

 

……くそ……

 

笑えねえ……

 

俺……あいつ責められねえじゃねえか……!

 

ライバルって言った意味……

――同類ってことか……!

 

同じ痛い名前つけてイキるタイプ……!

 

もし同い年だったら……

絶対一緒にパチンコ、競馬、酒……

 

……いや待て待て待て!!

 

違うだろそこじゃねえ!!

 

なんで拍手されてんだよ俺……!?

 

ざわ……

 

これ……バカにされてる……?

おちょくられてる……?

 

……いや……

 

違う……

 

空気が……違う……

 

俺……分かる……

 

これは……あの時の……

教師に怒られる時の空気じゃねえ……

 

警察に説教される時でもねえ……

 

――“評価”されてる空気……?

 

え……?

 

俺が……?

 

そんなわけ……

 

(今の駆け引き……すごかった……)

(完全に見抜いてたよな……)

(あんなやり取り初めて見た……)

 

――心の声……

 

全部……プラス……?

 

悪意……ゼロ……?

 

え……なにこれ……?

 

俺……人生で一度も……

 

拍手なんてされたことねえぞ……?

 

いつもは逆……

 

怒られて……呆れられて……見放されて……

 

それが俺だろ……?

 

なのに今……

 

なんで……?

 

なんで拍手……?

 

ざわ……ざわ……

 

グラスを持つ手が……震える……

 

分からねえ……

 

分からねえけど――

 

今この瞬間だけ……

 

ほんの一瞬だけ……

 

俺は……

 

“クズじゃない何か”として見られている……?

 

……は?

 

なにそれ……

 

意味わかんねえ……

 

ざわ……ざわ……

 

ざわ……ざわ……

 

拍手……止まらねえ……

なんでだよ……ほんとに……

 

……いや……

 

あ……

 

――そうか……

 

こいつら……違うんだ……

 

裕福……ぼんぼん育ち……

小さい頃からちゃんと教育されて……礼儀もあって……

 

いい子……エリート……

 

ざわ……

 

何か問題が起きても――

「すみませんでした」で終わる世界……

 

喧嘩なんてしない……

ぶつからない……

争わない……

 

協調……調和……仲良く……

 

だから社会でうまくいく……

だから成功する……

 

――そういう世界の人間……!

 

それに比べて俺たちは……

 

クズ……

 

ざわ……ざわ……

 

舐められたくないから反論……

引いたら負けだから食い下がる……

認めたら終わりだからごねる……

 

だから――

 

言葉と言葉がぶつかる……!

意地と意地のぶつかり合い……!

 

さっきのあれ……

 

完全にそれ……!

 

……なるほどな……

 

こいつら……

 

見たことねえんだ……

 

“ああいうの”……

 

クズ同士の口論……

 

剥き出しのやり取り……

 

そりゃそうだ……

 

こんな世界にいる連中が……

 

路地裏みたいな会話……

 

知るわけねえ……

 

でも……

 

だからこそ……

 

ざわ……

 

“生”で見たら……

 

あれは――

 

確かに……迫力ある……

 

……俺も昔……

 

初めて見た時……

 

思った……

 

「すげえ……かっけえ……」って……

 

ああ……

 

そういうことか……!

 

こいつらにとって……

 

俺のあれ……

 

“エンタメ”だったのか……!

 

ざわ……ざわ……

 

……え?

 

じゃあ俺……

 

今……

 

すげーことした……?

 

はじめて……

 

感謝されてる……?

 

圧倒的……承認……?

 

ぐにゃああああ……

 

なんだこれ……

 

悪くねえ……!

 

酒……うめえ……

 

飯……うめえ……

 

空気……最高……

 

……これ……

 

いいな……

 

めちゃくちゃいい……

 

ざわ……ざわ……

 

 

 

***

 

 

彼はまだ知らない。

 

自分が今、どれほどの存在と対峙し、

そして――どれほど異常な“見抜き”をやってのけたのかを。

 

怪盗キッドの正体を、変装越しに見抜き、

言葉だけで追い詰め、

一瞬とはいえ「敗北」を意識させたという事実。

 

それがどれほど常識外れの偉業かなど――

 

この男には、一切理解できていなかった。

 

ざわ……ざわ……

 

豪華客船の夜は、まだ終わらない。

 

そして――

この“クズ”の物語もまた、思わぬ方向へと転がり始めていた。

 

***

 

【コナン視点】

 

――怪盗キッド……

 

どこから侵入した……?

 

甲板、ホール、搬入口……

どこを見ても不審な侵入経路は見当たらねえ……

 

いや……違う……

 

「園子、何か分かったか!?」

 

「あ、ちょっと待って……今おじさまに電話してる……えっ!?」

 

ざわ……

 

「え、まだ家にいるって!」

 

……は?

 

まだいる……?

 

でも――

キッドはもう船に“いた”……

 

――そうか……

 

にやり、と口元が歪む。

 

……やられたな……

 

「最初から乗ってたのか……鈴木会長に変装して……!」

 

にゃろう……!

 

完璧な潜入……!

警備の穴を突いたんじゃねえ……“警備そのものになりすました”……!

 

「会長見なかったか!?」

 

近くの乗客に聞き込みをかける……

 

「ああ、さっきあっちに……」

 

指差す先――

 

ざわ……ざわ……

 

――拍手……?

 

何かがおかしい……

 

普通じゃねえ空気……

 

急いでその場所に向かう……

 

人だかり……

中心には――

 

伊藤カイジ。

 

そして――

すでにキッドはいない。

 

「今……何があった?」

 

周囲の話を拾う……

 

「カイジって人が……見抜いたんだ……」

「会長が偽物だって……」

「そしたら煙幕で……!」

 

……は?

 

一瞬、思考が止まる……

 

――カイジさん……

 

やっぱり只者じゃねえな……

 

あの人……

 

キッドの変装を見抜いたのかよ……

 

普通ありえねえ……

 

キッドの変装は完璧だ……

俺だって“状況証拠”がなきゃ確信までは持てねえ……

 

それを……会話だけで……?

 

すげえな……

 

……とはいえ……

 

キッドは逃げた……

 

そして――

 

あいつは予告状を出している……

 

ってことは……

 

「まだ終わってねえ……」

 

次は必ず――

 

誰かに変装する……

 

それがキッドのやり方だ……

 

「なあ、カイジさん……どうやって見抜いたの?」

 

さりげなく近づきながら聞く……

 

同時に周囲の証言も整理……

 

・目の違い

・歩き方の違和感

・会話での揺さぶり

 

……なるほどな……

 

理屈としては通ってる……

 

だが――

 

それだけでキッドを追い詰めるのは普通無理だ……

 

(この人……)

 

(偶然じゃねえ……)

 

(何かある……)

 

ざわ……ざわ……

 

キッドを追う視線と――

カイジを見る視線……

 

その両方が交差する……

 

「面白くなってきたじゃねえか……」

 

小さく呟く……

 

怪盗キッド……

 

そして――伊藤カイジ……

 

この船……

 

ただの宝石ショーじゃ終わらねえ……

ミステリーにギャグ成分混ぜてみましたがどうですか?

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  • ミステリーにギャグいらん
  • ありえん!
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