ざわ……ざわ……
豪華客船が出航して――約一時間……
酒も回ってきて……
空気も緩み始めた頃……
前に出てきたのは――
ブラックスターの持ち主の女……
……あれ?
どこかで見た顔……
――あっ……
鈴木園子の母親か……!
ってことは……
園子は……こうちゃん……
つまり毛利小五郎の娘、毛利蘭の友達……
ざわ……
なんだよそれ……
世の中、変なとこで繋がってんな……
「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます――」
上品な声……
完全に“上流”の空気……
俺とは無縁の世界……
そして語られる内容……
怪盗キッド対策……
――全員でブラックスターを身につける?
ざわ……
「レプリカの中に一つだけ本物がございます」
……は?
「ただし、それぞれ輝きが異なるため、簡単には見分けられません」
……なるほどな……
わざとバラけさせてるってわけか……
そして――
俺にも配られる……
ブラックスター……
手に取る……
……重さ……
質感……
……分かるわけねえ……
どうせレプリカ……
興味なし……
……それより……
あのコスプレ野郎……
まだやる気かよ……
ざわ……
もうバレてるだろ……
鈴木家に盗むって……
それでも来るって……
なんなんだあいつ……
プライドか……?
……理解不能……
……まあいい……
俺には関係ねえ……
もう関わらねえ……
そう思った――その時……
ざわ……ざわ……
「――なお」
園子の母が続ける……
「怪盗キッドを発見した方」
ざわ……
「そして、ブラックスターの本物を見つけた方には」
ざわ……ざわ……
「それぞれ、100万円分のホテル・リゾートで使える金券を贈呈いたします」
――は?
耳が……反応する……
ピクッ……
「両方正解した場合は……合計200万円分となります」
――200万……?
ざわ……ざわ……!!
現金じゃねえ……
でも……
ホテル……リゾート……
……換金……できるよな……?
いやそれより……
200万分……
ざわ……
……俺……
楽勝じゃね……?
だって……
キッドは……
もう一回見れば分かる……
あいつの思考……
クセ……
全部……
きた……
きたきたきたきたきた……!!
流れ……来てる……!!
さっきの拍手……
この空気……
全部……俺に来てる……!!
乗るしかねえ……!!
このビッグウェーブに……!!
ざわ……ざわ……!!
ざわ……ざわ……
このゲーム……過去一楽勝な案件かもしれん……
耳を澄ます……ざわざわ……声が多すぎる……
でも――金がかかってる……しかもノーリスク……
帝愛なら100%リスクあり……
しかし、この豪華客船……ノーリスク200万……
くそ……こんなの、とことん能力使いまくるしかねえ……
探れ、探れ……心の海の中……
聞け、聞け……持ち主の声……
(フフフ……まさか……光り方の鈍いブラックスターが本物で、それが私の手元にあるとは気付けまい……)
いた……いたああああ……
掘り当てた……金脈の持ち主……
かかった時間、わずか5分程度……
楽勝……楽勝すぎる……
誰か確認!……園子の母か……
でも確かにそうだ……
よくわからない人に渡すわけねえ……
答えがわかれば、分かる道理……
ざわざわ……
そして――不吉な鐘の音
(ブラックスターは、とりあえず俺のブラックスターを爆発させて――
爆発するぞ、と言えば……人は驚いて投げ捨てる……
でも本物を持っている人は、貴重な宝石だと知っているから投げねえ……
そうすれば絞り込める……そして頂く……
まぁあと15分は様子見……犯人候補を絞ってからだな)
え……キッドの野郎……
なんか爆弾騒ぎまで仕掛けようとしてやがる……
先にキッドか?
いや……あいつ、ヤンキーだ……
また色々な言葉のラリーが必要になる……
しかも15分は観察するらしい……
なら……先に100万は俺が頂く!!
園子の母からだ……
俺は静かに園子の母に近づき、低く声を潜めて告げる……
「ブラックスターの持ち主、分かりました」
ざわ……ざわ……
観察眼も、能力も――全部、今の俺の味方だ。
俺の頭の中では、もう次の段取りが組み上がっていた……
ざわ……ざわ……
俺は距離を詰める……音を立てず……
そして――耳元で囁く。
「あなたですよ」
(まぁあてずっぽう……たった5分……こんなに早いはずがない……だからこその理由つき)
「理由は?」
(ブラックスターは酸化に弱い……だから手袋が必要……)
来た……心の声……
よし……これで押し切れる……!
「いや……普通にそんな高価な宝石、俺みたいな馬の骨に預けないでしょ……」
ざわ……
「だってブラックスター、酸化に弱い……素手で触れたらまずい……つまり宝石への理解が深い人物……それで候補は絞れる」
(え……分かっている……でも……候補を絞って適当に言ってきた可能性が……)
――迷ってる……!
よし……ここは押す……!
今回は犯人探しじゃねえ……確定してる……
野球で言えばコールドゲーム……!
「それに……奥さん、普段手袋してないですよね?」
ざわ……
「なのに今してる……鈴木財閥の奥様が……違和感でしかねえ……俺の目はごまかせない……“いつもと違う”……それだけで十分だ……」
やべえ……
適当すぎる……!
だが……通す……!
心の声を聞け……100万……いや倍プッシュ……200万……!
(……確かにその通り……でもそれだけで確定はしない……光に当てると輝きを増すことは知らない……)
まだ抵抗……!
なら――さらに押す……!
「だったら特定の光を当てれば輝きが増す……」
ざわ……
「でもそれ……明らかに暗い……普通なら偽物扱い……なのに奥様は丁寧に扱ってる……それが答えだ」
畳みかける……!
「それと俺……キッドも見つけてる……これから叱りにいくんで、ここで終わりでいいですか?」
「……」
(こんなに早く終わるのは想定外……どう引き延ばす……?)
迷ってる……完全に……!
――ここで決める……!
「あああああ、早くしてくださいよ」
ざわ……
「俺さっきフライドチキン……ナイフもフォークも使わず手で食いました……その手で触りますよ?」
ざわ……ざわ……!!
(この男……本物……王手……普通こんな場で手で食べない……なのにした……詰ませに来ている……勝てない……)
――勝ち……!
「正解です……参りました……素敵で賢き探偵様……」
きたあああああああ……!
脳内で鐘が鳴る……勝利の音……!
「ただ……余興が早く終わるのは忍びないので黙っていて下さい……あと怪盗キッドも見つけたんですか?」
「ああ……」
ここからはおまけ……
「毛利蘭に変装してる」
ざわ……
「しかもブラックスターに似せた爆弾で揺さぶって……外さなかった奴から盗むつもりだ」
「え?……でもなぜ蘭さんと?」
「コナン君と話すときにかがんだ時……見た」
「何を?」
「胸元だ……パッド入ってた」
ざわ……ざわ……
「俺はこういうの見逃さない……」
決まり……完全勝利……!
「早く動いた方がいいぜ……あとで200万用意しとけ……」
くるり……背を向ける……
「俺……キッドとのやり取り疲れたから……飯食うわ……あと酒も」
ざわ……ざわ……
皿を取る……
酒を注ぐ……
うめえ……!
圧倒的……勝利の味……!
――今日はついてる……
乗ってる……
このビッグウェーブに……!
ざわ……ざわ……
(では……検討はついた……次に移るとするか……)
――その瞬間。
ブラックスターの偽物が、ふわりと宙を舞う……
ドンッ!!
軽い爆発音――
「きゃあああああ!!ブラックスターが!!」
ざわああああああ……!!
一気に広がる恐慌……
「みんなブラックスターに爆弾が仕掛けられてる!!早く外して!!」
悲鳴……悲鳴……悲鳴……
会場が一瞬でパニックに変わる……
だが――
その黄色い声を切り裂くように、低く太い声……
「本当だ……疑っていたが……毛利蘭が実際に投げて爆発した……間違いない……くそ……とりかかれ!!」
えっ……?
「えっ、きゃあああああ!!」
ざわ……ざわ……
(毛利蘭は空手が得意……)
聞こえる……心の声……
(俺も武術はたしなんでる……捌ける……)
(……っていうか……)
(今日の中森警部の指示……早くねえか……?)
やべえ……
完全に――
“確保しに来てる動き”……!!
ざわ……ざわ……
警備の動きが一気に変わる……
空気が違う……
さっきまでの余興じゃねえ……
これは――狩り……!
くそっ……!
キッドの野郎……
ただのコスプレヤンキーじゃねえ……こいつ暴走族だ……このやらかし
場を一瞬で戦場に変えやがった……!!
ざわ……ざわ……
「ちょっとなんですか?警察なのに」
――蘭の声……
いや違う……中身はあの野郎……キッド……!
「いや、お前が怪盗キッドで……ブラックスターに仕掛けた爆弾に乗じて、捨てさせて……捨てない奴から盗むっていうから構えてたんだ……」
「は?誰がそれを――」
指が――こっちを指す。
ざわ……
俺……肉……酒……豪遊中……
(やっぱカイジ……お前か……)
(今回はカラコンも入れている……蘭ちゃんをほぼ完璧にトレース……)
「げふっ……げふっ……煙くせえ……」
酒を飲みながら顔を上げる……
「ってかキッド……またお前かよ……さっき注意しただろ……盗みはもうやるなって……」
「俺、飯食ってるんだけど」
「いや、毛利蘭です」
「だからそういう芝居はいいから」
ざわ……ざわ……
「私カラーコンタクトしてますよ!」
「めんどくせえな……すぐ片づけてやる……」
一歩、踏み出す……
「お前……コナン君に話しかけるとき、どうしてる?」
「かがんで話すわよ」
「今日ドレスだろ……」
ざわ……
「胸元……見えてるぞ……パッド入ってる」
「変態!!」
「それはお前もだろ……見えるなら見るだろ普通」
ざわ……ざわ……
「胸パットつける子もいるでしょ!」
「だから……毛利蘭はつけてねえだろ」
「……なんで知ってるの?」
ざわ……ざわ……ざわ……!!
やべええええええええええええええ!!
なんで俺それ知ってる!?!?
頭の中――真っ白……!
地雷……踏んだ……!
圧倒的……墓穴……!
ざわ……ざわ……
周囲の視線が突き刺さる……
疑い……ドン引き……軽蔑……
全部まとめて――俺に直撃……!
くそっ……!
キッドを追い詰めてたはずが……
俺が追い詰められてる……!
なんだこれ……!
圧倒的……自爆……!
ざわ……ざわ……
やべえ……
完全に……やべえ流れ……!
俺が胸のサイズを知ってる理由……
この前――
鈴木園子が蘭にサイズ聞いて……
蘭は答えなかった……
でも――俺は聞いてた……
“心の声”で……!
くそっ……!
言えねえ……!
「心の声で聞きました」なんて言ったら……
終了……!
人生終了……!
研究所行き……解剖コース……!
いや……待て……
「園子との会話を聞いた」ならいけるか……?
――いや無理だ……!
蘭はそういうの他人に言わねえ……
あいつはそういう子だ……
つまり……
普通に考えれば――
俺が盗んだことになる……!
ざわ……ざわ……
思い出す……
こうちゃんが言ってた……
「娘の下着が盗まれたかもしれない」
終わった……
繋がる……全部……!
・毛利探偵事務所に出入りしている
・胸のサイズを知っている
・過去に下着盗難事件
犯人――
俺……!!
ざわ……ざわ……ざわ……
見える……未来が見える……
俺が手錠かけられて……
「下着泥棒・伊藤カイジ」
新聞一面……
社会的死亡……!
くそおおおおおおおおおおお!!
全部……キッドのせいだろこれ……!!
だが……まだだ……
まだ終わってねえ……!
これは――
俺を守る戦い……!
そうだ……
キッドだと認めさせればいい……
そうすれば……全部うやむや……!
疑いの矛先も……消える……!
やるしかねえ……!
もう一度……叩き潰す……!
ざわ……ざわ……
圧倒的……逆転……ここからだ……!
ざわ……ざわ……
やべえ……
沈黙――長すぎた……!
この間……完全に悪手……!
(言えないのかよ?黙ったな……まだ決定的な証拠は掴んでいないんじゃないか)
くそっ……!
キッドの野郎……
“確証がない限り認めないタイプ”……!
一番めんどくせえ敵……!
ここで押されると終わる……
下着泥棒ルート直行……!
回避不能……!
なら……打つしかねえ……
強引でもいい……
筋を通す……!
「黙っていたのは……」
ざわ……
「実は……その……」
間を作る……
あえて……言いにくそうに……!
「何?」
来た……食いついた……!
「この船に乗ってからすぐ……胸元見たら……」
ざわ……ざわ……
「もっと豊満だったんだよ……」
一拍――
空気が止まる……
「さすがに……この状況で言いにくかったんだよ……」
ざわ……ざわ……!!
通るか……?
いや――通す……!
理屈はある……
・沈黙が長い理由 → “言いにくい内容”
・違和感の説明 → “体型差”
・観察結果 → “現場での確認”
筋は通ってる……!
しかも……
変態寄りの発言に見えるが……
“状況的には自然”……!
ざわ……
周囲の視線が変わる……
疑い → 微妙な納得へ……
よし……!
この流れ……いける……!
キッド……どう出る……?
ここで崩せば――
全部ひっくり返る……!
ざわ……ざわ……
圧倒的……綱渡り……!
ざわ……ざわ……
心の声が流れ込んでくる……
(カイジが変態)
――まあ……それはそうだな……
(カイジがクズ)
――うるせえ……それもそうだが……!
(カイジが下着泥棒)
――それは違う!!
(カイジは露出狂)
――それも違うわ!!
(でもカイジの意見……正しくない?)
(いや……理屈は通る……)
よし……流れは……悪くねえ……!
いける……押し切れる……!
「でもそれは、カイジさんが言っているだけですよね?」
――は?
そんな弱い返しで、この流れ止まるか……?
甘い……!
「それがどうした!!」
ざわっ……
「明らかに違うだろ!!さっきの蘭さんと今の蘭さん!!全然違う!!」
だが――
次の一手が来る……
「というか……それを言っているのカイジさんですよね?」
ざわ……
「中森警部をけしかけたのもカイジさん……」
嫌な流れ……!
「つまり……カイジさんに変装した怪盗キッドが、私に濡れ衣を着せている可能性もありますよね?」
え?
え?え?
ちょっと待て……
その理屈……
通るのか……?
ざわ……ざわ……
周囲の空気が一気に傾く……
「中森警部は今まで変装したキッドに騙されたことありますよね?」
「……確かに」
おい……!
「くそおおお!!また騙されたのか!?カイジ!!お前が怪盗キッドか!!!」
ええええええええええええええええええ!?!?
やばい……!
完全に……ひっくり返った……!
「そもそもカイジさん……」
まだ来る……!
「煙の中で普通にご飯食べてるのおかしくないですか?」
ざわ……
「余裕ありすぎ……キッドってそういう余裕のある行動しますよね?」
心の声が刺さる……
(確かに……)
(余裕ありすぎる……)
(騙すのが上手いのがキッド……)
(カイジ=キッド……?)
ざわ……ざわ……ざわ……!!
やべえ……
完全に流れが逆転してる……!
しかも……
今回は“目”使えねえ……!
同じ顔……同じ目……
証明不能……!
くそっ……!
詰んだか……?
いや……まだだ……
まだ……何かあるはず……!
思考を回せ……!
ここで終わったら――
下着泥棒+怪盗キッドの二冠……
人生終了……!
ざわ……ざわ……
圧倒的不利……!
だが――
ここからひっくり返すのが……
俺だろ……!!
ざわ……ざわ……
嫌な流れ……最悪の盤面……
下着泥棒の疑い……怪盗キッド疑惑……
そして――200万消滅……ッ!
ふざけるな……!
こんなとこで終われるか……っ!
だが相手はキッド……変装の天才……言葉の化け物……
正面からの論戦は泥沼……長期戦になれば不利……!
考えろ……考えろ……カイジ……!
――そうだ……
男だ……!
こいつは見た目は蘭でも中身は男……!
なら……急所……ッ!!
ここだ……ここしかねぇ……ッ!!
「なぁ……俺のブラックスターやるよ」
静かに外す……首元の宝石……
周囲がどよめく……ざわ…ざわ…
「え?」
投げる――毛利蘭(中身キッド)へ……!
「これでたまたま……二つ……」
間……溜め……
「……つまり……たまたまだ」
――その瞬間!!
キャッチに意識が向いた一瞬の隙……!
踏み込み――全力――
蹴りッ!!!
ドゴォッ!!!
「いってえええええええなぁああああああああ!!!!!」
声……崩壊……!
蘭の声じゃねぇ……
完全に野太い男の声……ッ!!
ざわあああああああああああああ!!!
「男だ!!!」
「怪盗キッドだ!!」
「やっぱり変装だったんだ!!」
一気にひっくり返る空気……!
疑惑の矛先が――一斉にキッドへ!!
決まった……!
論理じゃねぇ……証拠でもねぇ……
だが確定……圧倒的確定……!
男にしか効かない一撃……
それを食らって出る悲鳴は――偽れねぇ……!
(くっ……やりやがったなカイジ……!)
聞こえる……キッドの声……
悔しさ……混じり……だがどこか楽しそう……
はは……そうかよ……
「これで分かっただろ……そいつが怪盗キッドだ」
肩で息をしながら言い放つ……
ざわ……ざわ……
拍手すら混じる空気……
――勝った……!
ギリギリ……綱渡り……
だが最後は力技……!
「……このアイディアを思いついたのは――」
少しだけニヤける……
「もちろん……たまたまだな」
――カイジ、制す……ッ!!
***
「くそぉ……本気で蹴りやがったな、カイジ……今回は惨敗だ……ブラックスターは諦める」
そう言い残すと、奴は派手な演出とともに姿を消した――。
そして巻き起こる歓声……!拍手……!!
カイジはそのまま胴上げ――!!!
圧倒的勝者。
下着泥棒の疑いも払拭。
200万。
好きなだけ食べて飲める。
さらに拍手喝采……!
役満……!!!!
そして200万円分の金券ゲット!!
――だが、最後の砦が残されていた。
中森警部は、納得がいかない様子だった。
これまで怪盗キッドを追い続け、対策に対策を重ねてきた男が、
この“いかにも社会のクズ”のような見た目の男に――圧倒的完敗を喫したのだから。
「なぁカイジ……俺は認めないぞ」
(怪盗キッドを……あんな簡単にあしらいやがって……)
いやいや……。
あいつ、ただの痛いハンドルネームつけたコスプレ野郎のチンピラだろ……。
普通にやれば、あしらえるレベル……。
――ああ、そうか。
エリートだから分からないのか……。
チンピラのあしらい方が。
どう見ても怪盗キッドなんて、
昔の俺の「悪魔皇帝カイザー」と同じ。
ただのイキり。どうでもいい存在……。
……あっ。
カイジ、気付く。
目暮警部も昔、俺のこと
「悪魔皇帝カイザー」って呼んで怒ってたな……。
――それかよ……。
なんか……中森警部、目暮警部と同じ匂いがする……。
それなら納得だ。
「さすがにあんなガキ……追い払ってすごいとかないっしょ」
(くそぉ……こいつにとってはその程度か……!)
その程度。
ただのチンピラ。
キッドも――結局は思春期。
目立ちたい。
人の注意を引きたい。
迷惑をかけてでも存在を示したい。
……分かる。
俺もやってた。
高校時代、パンイチでうろついて目立とうとしてた。
同じだ。
キッドも俺も――同類。
クズ。
だからこそ――
真面目な人間ほど、放っておけない。
……面倒な話だぜ。
ざわ……ざわ……
「というか……できすぎてないか?お前の推理……完璧すぎる……」
空気が変わる。
賞賛から――疑念へ。
「……あ、お前キッドの仲間だろ??」
――来た。
最悪の一手……!
中森警部、疑念のド真ん中ストレート……!
ざわざわ……
周囲も同調……!
(確かに……)
(出来レースじゃないか?)
(あんな完璧に見抜けるか普通……)
うわあああああ……!
やべえ……!
俺とキッドが“グル”扱い……!
クズ×クズで――地獄の信用ゼロコンボ……!
下着泥棒疑惑どころじゃねえ……完全終了……!
しかも今日はもう限界……!
口論……心理戦……フル稼働……!
もう一戦やれってか……!?
無理だろ……!
――しかも相手は警部……!
キッドみたいに金玉蹴って解決――なんて芸当……使えねえ……!
あれはクズ限定スキル……!
詰み――
……かと思った、その時。
視界の端――
酒……!
だらしない姿勢……!
赤ら顔……!
――いた……!!
毛利小五郎……!!
こうちゃん……!!!!
神……降臨……!!
あいつなら……!
あの名探偵なら……!
――賭けるしかねえ……!!
「というか俺……毛利小五郎の弟子なんです」
出た――大嘘……!!
でもいい……!
どうせここから攻防戦……!
こうちゃんが来るまで耐えればいい……!
それだけで勝ち確……!
――ところが。
「……そうとは知らず失礼しました」
え?
「だったら納得です」
……は?
ざわ……
「そりゃそうだ……あの名探偵毛利小五郎の弟子ならな……」
「師匠が優秀なら弟子も優秀……当然だ……」
――え?え?え?
なにこれ……?
反論……ゼロ……?
一発……KO……!?
すげええええええええええ!!!!
こうちゃんの名前……
強すぎる……!!
これが……名探偵のブランド……!!
俺との差……歴然……!!
――だが。
次の瞬間。
「毛利小五郎さん!!こっち来てください!!」
中森警部の大声――!!
ざわ……
……気付く。
致命的な事実。
俺……
弟子じゃねえ……!!
認定すらされてねえ……!!
呼ばれたら――終わる……!!
嘘……即バレ……!!
ざわざわ……
しかも相手は……
毛利小五郎――日本推理力ランキング第2位……!!
1位は工藤優作……
だがこうちゃんはほぼ常に2位……!
たまにブレるが――誤差……!
トップ層……怪物……!
日本で例えるなら――
天皇の次の総理大臣クラス……!
そんな奴の弟子と名乗ってる俺……!
バレたら――社会的即死……!!
どうする……どうする……どうする……!!
――今日一番のピンチ……!
ざわ……ざわ……
カイジ……圧倒的窮地……!!
来る……!
ふらふらと――千鳥足……!
頭にネクタイ巻いて……顔真っ赤……!
完全にゆでだこ……!
――酔ってる……!!
やばい……これはやばい……!
この状態のこうちゃんは――読めねえ……!
最悪のパターン――
「俺はお前のこと一度も弟子とは認めてない」
……終わり。
さらに最悪――
「こいつ娘の下着盗んだ可能性あるんすよ」
――地獄……!!
終わりどころか奈落……!
ざわ……ざわ……
しかも相手は――名探偵。
さっきの“名前だけで一発KO”ですらあの威力……!
なら――
本人の言葉は……核兵器級……!!
一言で俺の人生、木っ端微塵……!!
やばい……!
距離が縮まる……一歩……また一歩……
心臓バクバク……!
どうする……俺……!
――考えろ……!!
そうだ……!
口パク……!
「こ・う・ちゃ・ん・の・で・し・と・い・っ・た。は・な・し・あ・わ・せ・て」
これで……伝わる……!
視線を合わせて……口を動かす……!
――いける……!!
……いや。
ダメだ……!!
こうちゃんにメリットがねえ……!
酔ってるとはいえ……名探偵……
損得くらいは本能で判断する……!
じゃあ……餌だ……!
キャバクラ……!
「あとで可愛い子奢る」
……これならどうだ……?
いや……弱い……!
まだ足りねえ……!
――乗らない可能性、ある……!
なら……上乗せ……!
三回……!!
「キャバクラ三回奢る」
――これだ……!!
とどめの一撃……!
欲望に直撃……!
こうちゃんの行動心理……完全把握……!!
酒×女×無料――
断る理由……ゼロ……!!
いける……!!
これで……100%協力……!!
頼む……!
通じろ……!!
ざわ……ざわ……
カイジ――
人生を賭けた無言交渉……!!
――その時。
カイジ……気付く。
圧倒的破綻……!!
……そういえば……
俺……金……ねえ……!!
高級キャバクラ……?
奢れるわけねえだろ……!!
ニートだぞ……!俺……!!
終わり……!!
作戦……完璧でも……
資金ゼロ……!!
成立しねえ……!!
ざわ……ざわ……
いや……待て……!
まだだ……!
かろうじて……
クソみたいなキャバクラ……30分なら……!
いけるか……?
これで……押し通す……?
ぶるぶるぶる……
……無理だろ……!!
どう考えても……通らねえ……!!
――シミュレート……!
脳内会議……開幕……!!
出てこい……心の中の小五郎……!
略して――
心う(こころう)……!!
「おい……こころう……クソキャバクラ30分で満足するか……?」
「しねーよ!!ふざけんな!!」
――だよなぁあああああああ!!!!
圧倒的即答……!!
完全否定……!!
計画……崩壊……!!
ざわ……ざわ……
……いや。
待て。
さらに気付く。
この作戦――
そもそも……完璧じゃねえ……!!
確かに……
こうちゃんは名探偵……!
口パク程度……
読める……初歩の初歩……!
だが……!
人が多すぎる……!!
この状況で口パク……?
――目立つ……!!
怪しさMAX……!!
偽装工作……バレバレ……!!
終わる……!!
……気付けた……!!
ギリギリで……回避……!!
しかも――
「こころう」のおかげ……!!
やばすぎるだろ……!
心の中で……事件解決……!!
名探偵すぎる……俺の脳内……!!
ざわ……ざわ……
――だが。
時間がねえ……!!
こうちゃん……
もうすぐそこ……!!
あと数歩……!!
輪に……入る……!!
……無理だ……!!
もう……仕込む時間はねえ……!!
だったら――
賭ける……!!
名探偵なら……
その場で空気を読んで――
理解するはず……!!
論理じゃねえ……!
直感……!!
信頼……!!
――いくしかねえ……!!
このまま……!!
ざわ……ざわ……
カイジ……
圧倒的ノープラン突入……!!
「ところで毛利さん、一つ確認が……」
来た……!!
中森警部――踏み込み……!!
「にゃんだよ〜」
――酔ってる……!!
完全に出来上がってる……!
語尾ふにゃふにゃ……視点ぐらぐら……!
やばい……!
そして――気付く。
最悪の想定……!!
この中森警部……
ただの熱血じゃねえ……!
優秀……!!
部下を引き連れて――
怪盗キッド専用チームを自ら志願して作った男……!
そんなの……普通通らねえ……!
警察ってのはな――
やりたいことができねえ組織だ……!
俺でも分かる……!
なのにこいつは通した……!
つまり――
実力でねじ伏せたタイプ……!!
自己実現型エリート……!!
……やばい。
その男が今から聞くのは――
「カイジはあなたの弟子なんですか?」
この一撃……!!
普通の人間なら――ただの確認……!
だが違う……!
探偵にとっては――罠……!!
質問された瞬間――
考える……!
“意図”を……!!
なぜ今それを聞くのか……
周囲の状況……
俺の立場……
全部を一瞬で整理……!
そして――
俺の顔を見る……!!
俺の顔から……状況を読み取る……!!
さらに――
どう答えるかを考える……!!
この一連の思考――
どんな達人でも……!
最低10秒……!!
――かかる……!!
だが……!!
中森警部はそれを見ている……!!
“間”を……!!
「……考えているな」
そう判断された瞬間――
アウト……!!
嘘……確定……!!
ざわ……ざわ……
つまり――
ノータイムで答えなければならない……!!
思考ゼロ……即答……!!
それが条件……!!
無理だろ……!!
酔ってる状態で……!
この高度な判断……!
できるか……!?
……いや。
――無理だ……!!
名探偵でも……数秒は考える……!
その“間”を見抜かれたら……終わり……!!
詰み……!!
――その時。
「わー!名探偵の毛利小五郎よ!!」
きゃああああああああ!!
黄色い声――!!
なんだこのスター感……!!
すげえ……!!
「今、毛利さんのお弟子さんが怪盗キッドを見破って追い払ったんですよ!」
「すごいお弟子さんをお持ちなんですね!」
ざわ……ざわ……
一気に囲まれる――こうちゃん……!!
女……女……女……!!
人気……爆発……!!
すかさず――
中森警部、割り込む……!!
鋭い……!
「彼はあなたのお弟子さんなんですか?」
――来た……!!
死刑宣告……!!
そして――
俺を見る……!!
やめろ……見るな……!!
「こうちゃん!!」
――叫ぶ……!
祈り……!!
「カイジ!!きてたのか」
――反応……!!
一瞬……!!
そして――
「きゃあ!毛利さんを“こうちゃん”呼び!」
「やっぱりお弟子さんなんだ……!」
「怪盗キッドを見破ったカイジさんの師匠……!」
空気……完成……!!
外堀……完全包囲……!!
そして――
「ナハナハナハ……そうですとも!俺の弟子なんです!」
――来たああああああああああああああああ!!!!!!
ノータイム……!!
一切迷いなし……!!
しかも――
俺を見てない……!!
モブ……観客を見て……断言……!!
つまり――
状況把握……一瞬……!!
全部……理解してる……!!
俺の伝えたかったこと……
全部……読まれてる……!!
口パク……不要……!!
やべええええええええええ!!!!!!
これが……名探偵……!!
「弟子の活躍、どうでした?」
余裕……!!
完全に流れを支配……!!
「すごかったですよー!」
「でも私なら一瞬で見破りますな!がははははは!!」
――さらに上乗せ……!!
一瞬……!?
さっきの俺より……速い……!?
格が違う……!!
格……違いすぎる……!!
歓声――爆発……!!
完全勝利……!!
助かった……!!
生きた……!!
ざわ……ざわ……
――終戦。
カイジ……生還……!!
このあと――
こうちゃんと酒……!
ガンガン飲む……!!
そして――
二人揃って……二日酔い……!!
……最高だぜ……!!
エンド 怪盗 か 伊藤
――今回。
先に言っておく……!
ネタバレ……!!
カイジにとって――
最悪の相手……!!
それは――
自殺……!!
ざわ……ざわ……
しかも……ただの自殺じゃねえ……!
トリック付き……!!
つまり――
心を読んでも……
“犯人がいない”……!!
詰み……!!
能力頼りの俺にとって――
最悪……!!
この地獄……
抜けられるのか……!?
次回、アイドル密室殺人事件 前編
ミステリーにギャグ成分混ぜてみましたがどうですか?
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かなりあり
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なかなかいい感じ
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普通
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ミステリーにギャグいらん
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ありえん!