古明地うつつは忘れたい   作:sea_forest

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海森です。
二次創作に関してはほぼ処女作ですがよろしくお願いします

気力が持てば続きます


プロローグ
第1話 記憶喪失です。これからも。


 春の終わりにしては妙に蒸し暑い日だった。

 古明地うつつは、妖怪の山のふもとをぶらぶらと歩いていた。

 特に目的はない。強いて言えば、今日は地底がなんとなく窮屈に感じた、それだけだ。

 地上に出てくる理由なんて、いつもそんなものである。

 そもそも、最後に地上に出たのがいつかすら覚えていない。

 

 ふと、空を見上げる。

 空は白っぽく霞んでいて、太陽がどこにいるのかよくわからない。

 幻想郷の春はいつも少しぼんやりしている気がするが、今年は特にそんな感じがした。

 まあ、うつつは去年の春はどうだったか、なんて覚えていないのであるが。

 一昨年も、その前も。だから「いつも」というのは厳密には嘘なのだけど、まあ細かいことはどうだっていい。

 淡い紺色の髪が、風にさらりと揺れる。

 

 散歩というのも案外つまらないものだ。

 こと幻想郷においては見慣れた景色が続くだけだ。はて、見慣れた景色とは何だったのだろうか。

 

「つまんないなぁ」

 

 うつつはそう呟くと、ふと姉との約束を思い出した。

 確か今日は早く帰って来いと言っていた気がする。

 ただでさえ曖昧な記憶なのに、朝言われたことも忘れかけるとは、思わず自嘲の笑いが出る。

 

 もうしばらくふらついたら帰ろう。そう決めてうつつは人里へと向かう。

 人里がどんな景色だったのかも覚えていないのに、そこへ向かう道は依然覚えている。

 きっと、過去のうつつもこうやって道のりを辿ったのだろう。

 しかしそれもどうでもいいのだ。どうせ、覚えていることなどほとんどないのだし、誰も気にも留めないのだから。

 

 

 

 古明地うつつには、記憶がない。

 いや、正確には「覚えられない」と言った方がいいか。

 彼の記憶は常にもやがかかり、一日もたつとそれ以前の記憶はすべて失われてしまう。

 繰り返し会っている人やよく通る道、よく行く場所等は覚えていられるが、エピソード記憶は維持することができない。

 稀に強烈な体験をした時は数日ぼんやりと覚えていることはあるが、それもやがて忘れてしまう。

 過去を忘れ、現在は薄れ、そして未来も消え逝くのだろう。

 それが彼の日常である。これから先もきっと変わらず。

 

 

 

 人里までの道のりをうつつが歩いていると、後ろから声を掛けられる。

 

「よ、うつつ。何してんだ?」

 

 目も覚めるような金髪に、全身を黒と白を基調とした服を身にまとうのはまぎれもなく霧雨魔理沙その人である。

 

「あ、魔理沙じゃん。久しぶり?」

「昨日も会ったぜ。日記見てみな」

「あ、そうなんだ」

 

 そう言ってうつつは服のポケットから一冊のノートを取り出す。

 これはうつつが健忘対策に日々の終わりにつけている日記帳である。

 その日あった大まかな出来事を、翌日以降の行動に支障が出ないようにメモしている。

 

 とはいえ、人物名などはわかっても顔は繰り返し会わないと記憶できない。

 そういう意味で、魔理沙とうつつは昨日今日の仲ではないことがわかる。

 

「えーっと……あ、昨日は一緒にキノコとってたんだ」

「そうそう。おかげでレアなキノコも見つかって助かったぜ。ありがとな」

「んー、覚えてないけどどういたしまして。多分過去の僕も喜んでるよ」

「そういや、こんなところをふらついて何してたんだ?」

 

 微妙に噛み合っているようで噛み合わない会話も、うつつの日常である。

 

「ん? ああ、別に何かしてたわけじゃないんだけど、なんとなく人里にでも行ってみようかなって」

「お、それなら私も人里に買い物に行くところだったから、一緒に行くか? 箒の後ろでよければ連れてくぜ」

「いいの? じゃあお願いしようかな」

 

 うつつが後ろに跨り、腰に掴まったことを確認した魔理沙は地面を蹴って空へと飛び立つ。

 相変わらず上空は薄い霧でおおわれていて、なんとなく嫌な感じがしていた。

 

 

 人里についたうつつは魔理沙に礼を言うと、再び行く当てもなくぶらつき始める。

 寺子屋や商店、飲み屋周辺を見て回る。

 

 うつつ自身頻繁に人里に訪れるわけでもないため、こんな感じの雰囲気だったかなと、存在しない記憶を確かめるかのごとく見て回る。

 

「あら? うつつ君?」

 

 声に振り返ると、そこにはクジラモチーフの帽子が特徴的な女の子がいた。

 

「美宵さんか。多分久しぶり?」

「久しぶり、というには期間が短いと思うわ。最後に会ったのは1週間くらい前だよ」

「そうなんだ。じゃあ一週間ぶりってことで。あれ、お店はいいの?」

「うん、今日は休みなの。うつつ君は人里に何か用事?」

「ううん、暇だったからぶらついてるだけ」

 

 首を竦めながら言ううつつの姿に、美宵が思わず吹き出す。

 

「うつつ君らしいや。また今度、お店に飲みに来てよ」

「もちろん。約束はできないけどね。覚えてられないから」

「いつもの日記にメモしておけばいいでしょう? 絶対来てよね!」

 

 じゃあね、と美宵と別れる。

 美宵とうつつは結構仲がいい。

 うつつはなんでこんなに仲良くなったのかをとうに忘却しているが、それでも忘れていない方の記憶が彼女との仲の良さを保証している。

 

 うつつは日記帳を取り出すと、ページの端っこに「美宵さんの所に遊びに行くこと」とだけメモして再びしまう。

 あらかた暇つぶしも終わったかなと空を見上げると、夕方に差し掛かる直前といった色をしている。

 姉からも言われてるし、そろそろ帰るか。

 そう決めたうつつは、自身の住処である地霊殿への帰路についた。

 

 

 

「ただいま~」

 

 戻るころにはすっかり真っ赤な空になっていたが、姉との約束には許容範囲な時間だろう。

 地霊殿へと帰り、声をかけると奥から黒い翼をはためかせてお空……霊烏路空が飛んでくる。

 

「うつつ~、お帰り~~~」

 

 そういってダイビングハグをかましてくるまでがいつもの流れである。

 

「お空……。危ないからやめろっていつも言ってるよね?」

「えー、でもうつつとおしゃべりしたかったし。それに今回が初めてだよ、きっと」

「んなわけあるか。さすがにこうも何度もやり取りしてたら覚えるわ。くだらないこと言ってないで離れて」

 

 お空はしぶしぶといった表情でうつつを解放する。

 

「あ、そうそう。さとり様がうつつが返ってきたら部屋に呼んでって言ってたよ!」

「りょーかい。ありがとね、お空」

「終わったらおしゃべりしようね~!」

 

 いつも通り元気いっぱいのお空に少しだけ疲労感を覚えながらも、姉の部屋へと向かう。

 部屋のドアをノックすると、すぐに声が返ってくる。

 

「姉さま、帰ったよ」

「入っていいわ」

 

 ドアを開けると、どうやらティータイム中のようであった。

 仕事用の机の上には、すでに仕事が済んだであろう書類がいくつか山になっている。

 旧地獄の統括者としての仕事がある我が姉、古明地さとりはいつも忙しそうだ。

 

「おかえり、うつつ。ちゃんと言いつけを覚えていたわね」

「子供じゃないんだから……」

 

 うふふ、とさとりが笑うも、すぐに真剣な表情になる。

 

「今日、早めに帰ってきてもらったのには理由があるわ」

「外歩いてたらなんとなく気づいたよ」

 

 へえ、と感心するように目を開く。

 

「外でうっすらと魔力が込められた霧が漂ってたよ。大方これが原因でしょ?」

「さすがね。まだ正体不明だけど、これが酷くなったら妖怪にも影響がないとは言い切れないわ。できれば、こいしにも戻ってきてほしいんだけど……」

 

 そういって妹……古明地こいしのことを心配する姉の顔になる。

 こいしは能力が能力だけに、いつもどこかをふらついてる上姉の能力でも探しきれない。

 

「どうする? 探してこよっか? 多分言っても聞かないと思うけど」

「そうね、あなたの言うことだったらもしかしたら聞いてくれるかもしれないし、一応お願いしてもいい?」

「任せてよ!」

「ありがとう。ただ、今日はもう遅くなるから明日にしましょう。忘れないうちに日記に書いておいてね」

 

 はいよー、と気軽に返事をしたうつつは姉の部屋をでて自室へと戻る。

 代わり映えしない退屈な一日かと思ったが、振り返ってみると意外と楽しい一日だった。

 今日あった出来事、明日やるべきことを日記にまとめて、お空とおしゃべりしたり、姉の仕事を手伝いながら適当に過ごしていたらやがて夜が更けてくる。

 

「お休み、さようなら、今日の僕」

 

 そして、眠りについたときにはすべて忘れているのだ。

 楽しかった記憶も、そうでない記憶も。全て。きっとそれは幸せなことだと信じて。

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