そういえば気が付いたらUAが1000を突破していました。こんな拙作を読んでいただいて感謝の極みです。
評価やお気に入りをしていただいた皆様も、本当にありがとうございます。
「フラン、ここにいたのか」
「お姉様?どうかしたの?」
騒動の後、レミリアは宣言通りうつつ達の過ごす客間の確認をしていたが、それも一段落ついてフランを探して彼女の部屋まで来ていた。
部屋の中は……お世辞にも趣味が良いとは言えないが、そうさせてしまった原因が自分にあることをレミリアはよく知っている。
「少し話したいことがあってね」
「なあに?」
「えーっと、そのだな……」
話したいと言う割には、歯切れの悪い様子のレミリア。
その様子にフランが首をかしげていると、覚悟を決めたように話し始める。
「……さっきの戦いの時、お前の記憶が流れ込んできてな」
「それで?」
「私は、お前のためと思って地下に幽閉した。でも、それは間違いだったんだなと思ってな……」
自嘲気味にレミリアが笑う。
記憶の中でみたフランの想いは、憎しみや怒りも込められていたが、それ以上に孤独だった。ただ姉と仲良くお喋りがしたい、遊んでいたいという、実に子供らしい願いが強かった。
何となく知ってはいたが、見て見ぬふりをしていた。愛しい妹が人間の悪意に晒されるのも、本人の強すぎる力で自分自身を傷つけてしまうよりはマシだと、そう言い聞かせて。
「ねえ、フラン。お前は私が憎いんだろう。それはわかっている。だから許してほしいとは言わないが、これだけは言わせてほしい」
――ごめんなさい、フラン。
万感の思いがこめられた謝罪に、フランは目を瞑って言葉を反芻する。
しばらくの沈黙の後、フランが口を開く。
「あのね。お姉様は私のことが嫌いだと思ってたの。だから地下に押し込んでたのかなって」
「フラン……」
「でもね、私もお姉様の記憶を見たから、私のためを思って閉じ込めてたってわかったの。私の気持ちなんて考えてないし、一人で過ごすのはすごく寂しかった。でも、お姉様なりに私のことを守ろうとしてくれていたんだよね」
何百年もの間地下に閉じ込められて、私のことが憎かっただろうに、それでも彼女は今前を向いている。
私が思うよりもフランは強い子だったようだ。大切に思うあまり、過保護にしすぎていたかも知れない。
私のことを許しているわけではないだろう。そんな妹が選んだ言葉は——
「ありがとう。お姉様」
その一言に、レミリアは思わずフランを抱きしめる。
その目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
「フラン、ごめんね、ごめんね……」
「ううん。でも、もう一人にしないでね?」
「うん、うん……!」
レミリアはフランを強く抱きしめ、フランはちょっと苦しそうに、それでもそっと抱きしめ返した。
あの時、フランを地下に幽閉した選択は正しかったのか、今もわからない。それでも、愛する妹と、こうやって分かり合えた事実が有るだけで十分だった。
―――――
「知らない天井だ」
お決まりのセリフを言いながらうつつは体を起こす。
実際知らない天井なのだからしょうがない。まあこんな体験は今日に限ったことではないが。
さて、見覚えのない館にいるわけだが、昨日は何があったのだろうか。
改めて日記を見返すも、昨日は日記を書いた形跡がない。
日記に書けないようなことがあったか、書く余裕がなかったか。
前者の場合は、書ける範囲で日記を残しているか、意図的に書かなかったという情報は残しているはず。ということは後者である可能性が高い。いずれにしても、普段通りの一日ではなさそうだ。
「昨日、一体何があったんだろう……?」
思い出せるはずもないが、形だけでも思い出そうとしてみることにした。
ふと、館の壁紙が目に留まる。
どこを見ても赤を基調としたこの部屋は家主の趣味だろうか。あまり落ち着けるような雰囲気ではないことは確かだ。
しかし、どうにも引っかかる。赤というワードに意識が強く引っ張られる。
……少し思い出した。たしか派手に戦ったような気がする。
その時は、確か空だったか部屋だったかが赤かったような……。
しばらく思考の海にふけっていたが、これ以上は思い出せそうにもない。強いて言うなら、魔理沙と一緒にここまで来たことを思い出したくらいか。
むしろ良くここまで思い出せた方である。そもそも普段は思い出せる記憶すらないのだから。
さて、こうなると詳しい状況は行動を共にしていたらしい魔理沙に聞くしかないが、そもそもまだこの屋敷にいるのだろうか?
そのように考えていると、部屋のドアがノックされる。
「どうぞ」
うつつが返事をすると、見覚えのない少女が入ってきた。
ピンクと赤を基調とした衣服を身に纏う彼女は、背中から生える翼が人間でないことを証明していた。
「ごきげんよう。よく眠れた?」
「ええ、おかげさまで」
「それはよかった」
どうやらこの館の関係者らしいが、見覚えがない。
……いや、記憶の片隅に何か引っかかる。
自分は、彼女のことを知っていたのではないだろうか。
現状確認も込めて彼女に尋ねる。
「申し訳ないんですけど、ここってどこなんでしょうか? あと、失礼ですが貴女のお名前をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか」
「何? 寝起きだからってそんな使い古されたボケなんてしなくてもいいのよ?」
「……」
「……」
彼女の反応から察するに、やはり彼女とは会ったことがあるのだろう。
昨日より前の日記にそれっぽい描写がないことからも、昨日会ったばかりだと推測できる。
そんなことを考えていると、うつつの発言がボケではなく本気であることを理解したらしい彼女がこちらに近づいてくる。
おでこを触ったり、首筋に手を当てて脈をとったり、まるで病人のような扱いだ。
ひとしきり確認すると、こほんと一つ咳ばらいをした。
「失礼。体に異常は無いみたいね。……少し待っててもらえるかしら」
そういって彼女は部屋から出ていく。
――ちょっと魔理沙、何がどうなってるのよ!!!
そんな叫び声が聞こえてきて、ああ魔理沙もいるんだな、と彼女の慌てようとは正反対に暢気に構えるうつつであった。
―――――
しばらくの後、ピンクの人が魔理沙を連れて戻ってきた。一緒に紅白の巫女っぽい人もいる。
魔理沙は何事かという形相で部屋に駆けつけていたが、事情を聞いて納得したようで説明の仲介を担ってくれることになった。
「改めて、今日の僕から初めまして。知ってると思うけど古明地うつつです。特技は忘れること!」
「触れづらいボケはやめろよ。この場では私以外お前の事情知らないんだからな」
「あ、そうだった。ごめんごめん。それで、改めて二人の名前聞かせてもらってもいい?」
「え、ええ。私はレミリア・スカーレット。レミリアでいいわ。この館の主をしている」
「博麗霊夢よ。私も霊夢でいいわ。博麗神社で巫女をしているわよ」
「レミリアと、霊夢ね。ちょっと待ってね」
そういってうつつは日記を取り出して二人の名前と簡単な特徴を書き記す。
「ん、これでよし。改めて事情を説明すると、僕は前向性健忘症でね。簡単に言えば記憶の持ち越しができないんだ」
「だから昨日の記憶がないのね。思ったより容体が悪かったのかと焦ったわよ」
「でも、じゃあなんで魔理沙のことは覚えているの?」
「エピソード記憶はほぼ完全に忘却しちゃうんだけど、意味記憶に関しては反復していれば記憶に残せるんだ」
「要はいつ、どこで、何があったかみたいな具体的な記憶は覚えられないけど、AはBである、みたいな情報は覚えられるってことだぜ」
「ま、このままだと人物に関しては人の名前と姿しか一致できないから、どういう人かっていうところに関しては能力も併用して記憶してるんだけどね」
「能力?」
「僕の能力……『人格を作る程度の能力』なんだけど、覚えようと思った相手の人格の一部コピーさせてもらって、その人がどういう人かっていうのを残してるんだよ。んで、魔理沙とはなんだかんだ長い付き合いだから、記憶の魔理沙と人格上の魔理沙の二つの情報をもとに本人の性格とかの細かい情報まで覚えていられるって感じ」
「小難しい話ね。まあでも、なんとなくわかったわ。要は私たちも繰り返し交流があれば覚えてもらえるってことでいいのね?」
「うん、その認識でいいよ。ただその日に何を話したかとか、どこで出会ったかまでは覚えられないから、そういう情報はこうやって日記に残して補完しているよ」
うつつが日記の今日のページをみんなに見せる。
開かれたページには霊夢やレミリアの立場や服装、そしてどこで出会ったかの簡単な情報が書き記されている。
「難儀な体質をしてるわね……」
「僕もそう思うよ。まあでも慣れちゃったからねぇ。だからそんなに深刻に受け止めないでほしいな。ちょっと不便なところはあるけど、普通に接してもらえるほうが嬉しい」
「じゃあそうするわ。あんたとはこれからも関わるような気がするし」
魔理沙あたりはこの割り切りの良さが霊夢らしいって言うんだろうか。
そう考えていると、部屋のドアが改めてノックされる。
「失礼します」
「あら、咲夜じゃない。どうしたの?」
「お嬢様、朝食のご用意ができましたのでご報告に上がりました。皆様の分も用意してありますので、よろしければどうぞ」
「さすが咲夜、気が利くわね」
「恐縮です」
「というわけだから、もしよかったらみんなも食べていきなさいな。味は保証するわ」
「人肉とか入ってないでしょうね……」
「安心しなさい、この館には妖怪以外もいるから入れてないわ」
「ならいいけどね」
そういって、みんなは連れ立って部屋を出る。
部屋を出る直前、うつつはふと何か聞きたいことがあった気がしたのだが、ちょっと考えても思い出せなかったのでおそらく気のせいである。用意してもらったせっかくの朝食が覚めてもいけないので、深く考えることもなく部屋を出た。
「ごめんね、お兄ちゃん。多分昨日のことは忘れたままの方がいいよ」
部屋の隅で一部始終を見ていた少女はそう呟いて、そのまま姿を消した。
―――――
朝食の場では、レミリアの妹についても紹介された。フランドール、という名前らしい。
なんでも最近まで姉妹仲が良くなかったそうだが、うつつのおかげで仲良くなれたそうだ。
自分のおかげ、というのはどういうことだろうか。
まあ、わざわざ質問するようなことでもないだろうし、本人たちが喜んでるならいいか。
そう判断したうつつは、豪勢な朝食に舌鼓を打った。
朝食を食べ終えたあとはそのまま解散という流れになり、3人はそれぞれの家に帰ることにした。
「うつつ、また遊びに来てよ。今日はお話しし足りなかったわ」
「覚えてたらね」
「それじゃ一生来ないじゃない!」
「うそうそ、ちゃんと日記に書いておくからまた遊ぼうね、フラン」
「約束だよ!」
フランはうつつのことが気に入ったようだ。しきりに再会をせがむ様子はまるで遠くに住んでいる兄と妹の関係にも見える。
「じゃ、気を付けて帰りなさいよ」
「お世話になりました。ありがとね、レミリア」
「べ、別に客人をもてなすのは普通のことだし……」
「お姉さまはね、ストレートな好意に慣れてなくて照れてるだけだから気にしなくていいよ」
「ちょっとフラン!」
「きゃっ、ごめんなさ~い」
駆け出していくフランを追いかけるレミリア。
その様子を霊夢が呆れたように眺める。
「最後まで忙しないやつらね……」
「ま、退屈するよりはいいんじゃないか?」
「また異変を起こされたりしたらたまったもんじゃないから大人しくしてて欲しいわね……」
そのやり取りにうつつは思わず笑いだす。
ああ、こういう平和で面白い日々は大好きだ。記憶には残らないけれど、これからもこういう日々が続けばいい。
そう考えながらうつつは二人に別れを告げ、地霊殿への道のりを歩き出した。
―――――
「そういえば……」
「どうしたのよ」
「いや、一つだけ気になったことがある気がしたんだが……多分気のせいだ」
「変なの。まああんたが変なのは今に始まったことじゃないけど」
「失礼な奴だな」
霊夢と軽口を叩きあいながらも、その気になったことについて思い出す。
あの屋上でうつつの暴走があったとき、自分が気絶しているときに流れ込んだ記憶。
あの地獄のような光景は、一体誰の記憶だったのだろうか。
どうにも見覚えのある姿があったような気がしたのだが……多分これも気のせいだ。
待てよ、そもそもうつつに屋上であった出来事は説明したっけか?
……まあ、どちらでもいいか。思い出さなくてもいい記憶もある。うつつの精神をもう一度不安定にさせるようなことはわざわざ言わなくてもいいだろう。
そんな考え事をしていたら霊夢に先を行かれている。わざわざおいていかなくてもいいだろうに。
霊夢に追いつくべく足を早める。先ほどまで考えていたことは無意識に気にならなくなっていた。