*霧雨魔理沙視点
うつつと出会ったのはいつだったか。
ある日いつものように魔法の森を散策していると、見知らぬ少女が倒れていた。
まあすぐにそいつが男だと知ることになったんだけどな。
介抱してやるとすぐに目を覚ました。
話を聞くところ、どうやら初めてくる場所で迷子になっていたらしい。
森の出口を教えるとお礼を言って帰っていた。
ファーストコンタクトはそんな簡単なものだったが、衝撃的だったのは2回目に出会った時だ。
たまたま見かけたうつつに声をかけたところ帰ってきたのが「はじめまして」である。
一度会ったことを説明しても思い出してもらえず、申し訳なさそうな顔で前向性健忘症であることを教えられた。
ここで改めて名前を教えると、日記帳を取り出してメモしていた。話によると、忘れることへの対策として、重要なことは日記をつけているとのこと。
それからも何度か会うも、そのたびに「はじめまして」な状態。
ここまで来ると私も覚えてもらおうとヤケになっていたんだろう。毎回丁寧に説明していると、6回目くらいでようやく変化が訪れた。
「えと、はじめまして。…いや、何処かであったことあります?」
ようやく手応えを感じたときにはすごく達成感があった。
それからも粘り強く交流していった結果、最終的には名前を覚えてもらう事ができた。
あいつは妖怪なのに人畜無害ないいやつで、頼み事も快く聞いてくれるし、面白いことは協力して色々やった。今となってはすっかりかけがえのない友人だ。
どれもうつつが覚えていないのは残念だが、私の中では大事な思い出だ。
「うつつ、困ったことがあったら絶対に呼んでくれよな。すぐに助けに行くぜ」
*奥野田美宵視点
うつつ君とは、鯢呑亭でお客さんとして来ていたのが初めてだっけ。
最初はただのお客さんだったんだけど、そのうち常連になってくれてお互いに顔を覚えたのが始まり。
あとから前向性健忘症であることを聞いたときはびっくりしたけど、お店で繰り返し会っている私のことは自然と覚えてくれたらしい。
一番驚いたのは、お店の外でも普通に私のことを覚えていることだった。
普通の人間や妖怪は、私の種族「座敷わらし」の悪影響で、店の外に出ると私のことを忘れてしまう。これは仕方のないことだ、とずっと諦めていた。
なのに彼は店の外でも普通に声をかけてくれた。覚えてくれていた。
彼の能力によるものらしいが、そんな経験は初めてでガラにもなくドキドキしてしまったのを覚えている。
それから私の方から話しかけることが多くなり、彼とは急速に仲良くなった、と思う。
うつつ君のために料理を作ってあげるのは本当に楽しいし、美味しそうに食べている姿を見ると幸せになる。
たとえその記憶が消えてしまうとしても、私はちゃんと覚えている。それに、うつつ君が私のことを覚えていてくれるなら——それだけで十分だ。
「うつつ君、君が君自身を覚えていなくても、私はちゃんと覚えているから」
*古明地さとり視点
私の弟を端的に表すなら、「良い子」である。
聞き分けはいいし、トラブルもほとんど起こさない。少しはペットたちも見習ってほしい。
ただ、
彼の心は読めても、彼の本心を読むことはできない。記憶に至っては、今日限りのものでしかない。
こうなってしまったのは私のせいだ。一生かけて償っていかなければいけない十字架である。
「せめて『今日』が、うつつにとって幸せな一日になることを願うばかりね」
*古明地こいし視点
お兄ちゃん?お兄ちゃんのことは大好きだよ。もちろん家族としてね。
いつも私のわがままを聞いてくれるし、私のことを守ってくれる。
大事にされてるなっていうのがわかるんだ。
私が瞳を閉じてからも、それは変わらないのが一番安心できることかな。
お姉ちゃんは……嫌いじゃないけど、私が心を閉ざしてからどこかよそよそしいから。
お兄ちゃんは記憶を忘れてしまうけど、それでも私に対する態度はずっと変わらない。
それは
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。記憶なんて、私もないようなものだよ」