戦闘描写は苦手なのでサクッと行きたい。
『目に青葉 山ホトトギス 初鰹』という句がある。
これは初夏の素晴らしさを端的に表した句であり、五感を使って初夏という季節を楽しんでいる様子が表現されている。
だが、現実はどうだ。
鰹はともかく、毒々しい色の館に、赤い霧によって静まり返った山。とてもじゃないが初夏を楽しむ気分になれそうもない。
うつつたちがチルノから聞き出した情報を元に訪れた館は、言葉にしがたい異様な空気を漂わせていた。
日記によると、少し前に発生した「吸血鬼異変」の際に外の世界から転移してきた館らしい。うつつ自身も訪れたことがないようで、ここまでの道のりやそもそもこの建物自体が記憶になかった。
「魔理沙はあの館知ってる? 僕は多分初めて来たんだけど」
「ああ、知ってるぜ。ここに住んでる魔女にたまに本を借りに来てるんだ」
ふと、思い出したように魔理沙が告げる。
「……そういえば、この館の主は吸血鬼だったな。この霧は、もしかして日光を遮るためなんじゃないか?」
「それは説得力あるね」
間違いなくこの館の住人は何か知ってる、というより元凶で間違いないだろう。
早速突入しようと門に近づくと、そこには先客がいた。
どうやらその人は門番らしき人物と言い争っているようだ。
「だから!異変の元凶に会わせろって言ってるの!」
「お嬢様に殴りかかるような勢いの人を、門番である私が通すわけないじゃないですか」
紅白の巫女と、チャイナ服の門番。両者ともうつつの記憶には存在しない人物だ。
話を聞く限り、巫女の方はうつつ達と同じ目的で、チャイナ服が敵なのだろう。
「お、霊夢じゃないか」
「知り合い?」
「まあな。腐れ縁だ」
「ふーん」
腐れ縁、なんて言う割には言葉の端に仲の良さが滲み出ている気がする。
魔理沙の友人であればきっといい人なんだろう、とうつつは決めつけた。
「おーい、霊夢」
「何よ、また敵?……ってなんだ魔理沙か」
「なんだとはなんだ。失礼なやつだな」
「横にいるのは?妖怪っぽいけど、退治したほうがいいやつ?」
「僕達も異変の原因探しに来てるんだって!暴力反対!」
訂正、ただの蛮族だった。魔理沙は今すぐこの巫女と友達辞めるべきだと思う。
「おいおい、物騒なこと言わないでくれ。こいつは古明地うつつ。私の友達だ、何度かお前にも話したことあるだろ?」
「ああ、彼が例の。はじめまして、私は博麗の巫女、博麗霊夢よ」
「初めまして。古明地うつつです。退治はしないでください」
「あんたが怪しいことしなければね」
うつつが少々緊張気味に答える。思えば本当に「初めまして」というのはかなり久々な気がした。気がしただけだが。
「あのー、一応あなた達敵の眼の前であることを理解してます?」
呆れたようにチャイナ服の人がため息をつく。
……そういえばすっかり忘れていた。
「あー、霊夢。そちらの方は?」
「私も知らないわよ。あんた、名前は?」
「ちょっと私の扱いひどくないですか……? こほん、私は紅美鈴。この『紅魔館』の門番です。ここに入りたくば私を倒してからにしろ!」
「なんか、ここまで典型的な中ボス的発言を耳にするとは思わなかったぜ…」
どうやら、彼女を相手にしないと先に進めないようだ。
うつつは少し考えて、一歩前に出る。
「うつつ?」
「美鈴さん、あなたは僕がお相手しましょう。二人は先に行ってください」
「いいのか?」
「うん。魔理沙はこの館をよく知ってるっぽいし、そこの巫女さんも僕より強そうだしね。だったら僕が美鈴さんを足止めするのが一番いいんじゃない?」
「なるほどな、了解だぜ。ならお言葉に甘えて行ってくるぜ、霊夢も」
「言われなくても!」
魔理沙と霊夢の二人はうつつを置いて一気に飛び出す。
「行かせるわけが……っ!」
美鈴が二人の行く手を阻もうとしたところを、魔理沙のスペルをコピーした細めのレーザーを放つことで妨害する。
「おっと、美鈴さん。あなたのお相手は僕だと言ったはずですよ」
「……しょうがないですね、あなたを倒してからあの二人を追いかけることにします!」
そう言うが早いか、美鈴が地面を蹴ってうつつに殴りかかる。
うつつは反射的に横へ跳び、間一髪で拳をやり過ごす。
「いきなり危ないなぁ!」
「先程の話によると、あなたは妖怪らしいじゃないですか! であれば手加減無用ですよね!」
「ちゃんとスペルカードルールで戦ってよ~~~~!」
不気味な赤い館の前に、うつつの虚しい叫び声が響き渡った。
*魔理沙視点
先行した二人は、特に妨害もなくすんなりと内部に侵入することができた。
中まで赤く染められている館は、確かに奥の方から異様な妖気を感じる。
「この館が発生源なのは間違いないわね。私はこのまま奥を目指すけど、魔理沙は?」
「一緒に行ってもいいんだが、他に妨害があるとも限らないしな。私は一旦図書館の方に行ってみるぜ」
「それ、あんたが本を
霊夢は館の奥へ、魔理沙は図書館へと分かれる。
魔理沙は勝手知ったる我が家、とでも言うように迷いなく図書館に向かう。
これといった妨害も警備も無い状況に、少しの違和感を覚える。
「館内部の警戒は随分薄いんだな? 紅魔館も人手不足ってやつか」
図書館の扉を開けると、そこは魔理沙がいつも訪ねる時と特に変化はない。
ここは異変に関係ないようだ。
「異変の術式に多少なりともあいつの魔法が絡んでるかと思ったが……そういうわけでもなさそうだな。まあいつも通りこっそりと何冊か
そう言って適当な棚に手を伸ばした次の瞬間、魔法陣が浮かび上がって弾ける。
「うわっなんだ!?」
「いらっしゃい、泥棒さん。今日こそはお縄についてもらうわよ」
魔理沙が振り向くと、そこには七曜の魔女、パチュリー・ノーレッジが立っていた。
「お前の仕業か、パチュリー」
「仕業って何よ。私は自分の大事な本を泥棒の魔の手から守っただけよ」
「泥棒だなんて失敬な。借りてるだけだぜ、死ぬまでな」
「しかも無断で、ね。これのどこが借りてるだけよ。今日こそは痛い目を見てもらうわ」
パチュリーがそう告げると、彼女の周囲に5色の魔法陣が浮かび上がる。
「レミィの邪魔をさせないためにも、あなたにはここで沈んでもらうわ。今日は喘息も調子が良いから、とっておきの魔法見せてあげる!」
「やっべ」
次の瞬間、図書館内が極彩色の魔法で染まる。
すぐさま飛び退いた魔理沙は、かろうじて回避に成功する。
少しマズったか、という呟きとは裏腹に、魔理沙の表情は面白いものを見つけた時の獰猛な笑みを浮かべていた。
*霊夢視点
魔理沙と別れ、最奥の部屋を目指す霊夢。
どこを見渡しても赤、赤、赤。この館の主人の美的センスはおかしいんじゃないか、とうんざりし始めた頃だ。
気晴らしに窓の外に目をやるも、そこに広がる景色も赤一色でどこにも逃げ場がない。
さっさと異変の首謀者をとっちめて、この狂った空の色をもとに戻さねば。
そう決意した霊夢だったが、ふと後ろに気配を感じる。
次の瞬間、直感的に体を捻ると先程までいた場所に3本のナイフが飛んできていた。
「あら、残念。今ので仕留めたと思ったのだけど」
「随分と手厚いもてなしね、メイドさん?」
「お嬢様に害をなそうとする侵入者ですもの。それはそれは丁重におもてなししてあげないとね?」
改めて霊夢が態勢を整えると、そこにはナイフを数本構えたメイドが立っていた。
「改めまして、私は十六夜咲夜。お嬢様の目的を邪魔する輩はすべて排除します」
「へえ、言うじゃない。私は博麗霊夢。博麗の巫女の名にかけて、異変解決の邪魔をするやつは全員ぶっ飛ばすわ」
「あなたはお嬢様には会えない。それこそ、時間を止めてでも時間稼ぎが出来るから」
咲夜は手元のナイフを霊夢に向かって投げつける。
先程の不意打ちとは違い、今度は正面から。であれば避けるのに苦労はしない。
余裕を持って避けようとした霊夢だったが、直感が再び警鐘を鳴らす。
咄嗟の判断で回避方向を変更し、真後ろに大きく跳ぶ。
刹那、元々の回避先に大量のナイフが突き刺さる。
更にいうと、先程まで正面にいたはずの咲夜の姿が見当たらない。
振り向くと、そこには次のナイフを構えた咲夜。
「……どうやら、時間を止めるっていうのは比喩でもなんでもないらしいわね」
「ええ、もちろんですわ。瀟洒なメイドとしての嗜みです。それに、安心してください。このナイフはスペルカードルールに則った弾幕の一つです。当たっても死にはしませんよ」
「それはどうも!」
霊夢が大きく身を引くと、元の位置には大量のナイフが飛んでくるところだった。
激化していく巫女とメイドの戦いと共に、怪しげな霧も心なしか深くなっているようだった。