というわけで遅れましたが、5話もお楽しみください。
うつつと美鈴の戦闘は佳境を迎えていた。
「はあッ!」
弾幕をいくつも受けて満身創痍の美鈴が拳を放つも、うつつはそれを涼しい顔で躱す。
それでもまだ立っているのは門番としての意地なのか、はたまた妖怪としての強さか。
一方のうつつは少し服が汚れている程度で、まだまだ余裕がありそうだ。
「美鈴さんは強いですね。あなたに勝つには少しだけ本気にならないといけなさそうです」
美鈴の攻勢をいなして態勢を整えたうつつは、自身に宿す人格を変更する。
これまで能力を借りていた魔理沙の人格では火力不足であると判断したからだ。
これまでの人格変更とは違い、ぼんやりとした白い光がうつつに収束する。
さらに宿した人格に引っ張られてか、うつつの口調が変わる。
「これは久々に使う俺の能力だ。安心しろ、出力は十分に絞ってある」
うつつの右手に薙刀のような武器が握られる。
見る人が見れば、三国志に登場する関羽が握っているものと同一であると気づくものだ。
うつつはそれを振りかぶり、そのまま薙ぎ払う。
召喚「春の恩寵宿りし弦月」
偃月刀から放たれる斬撃が幾度も美鈴を襲う。
うつつの小柄な見た目からは想像もできない、かの武人を想起させるような太刀筋だ。
力強い動きであるにも関わらず、まるで舞うように振り下ろされる。
美鈴は防御に徹し粘っていたが、やがて耐えきれずに大きく吹き飛び紅魔館の壁に叩きつけられる。
うつつがしばらく警戒するものの、美鈴が起き上がってくる気配はない。
「ふう、とりあえずなんとかなったかな。久しぶりに能力をこんな使い方したからちょっと疲れちゃった。さて、急いで二人の後を追わなきゃ」
二人とも無事かなぁ、と呑気に考えつつ小走りで紅魔館に突入するうつつ。
紅魔館に踏み込んだ直後、足元が揺れるような轟音が館の奥から響いた。思わず足が止まる。……呑気に考えている場合じゃなかったらしい。
爆発は上の方、紅魔館の屋上あたりから聞こえてきたように思える。
急いで向かおうとしたちょうどその時、聞き慣れた声がした。
「うつつ!無事か!?」
魔理沙がこちらに駆け寄ってくる。少し服が汚れているところを見ると、こちらはこちらで戦闘があったようだ。
「魔理沙! そっちこそ大丈夫?」
「ああ、図書館に行ってたんだが、そこで顔見知りの魔女を撃退してきたところだ。それで、今の爆発は?」
「わかんない。屋上の方から聞こえてきた気がする」
「ってことは霊夢が誰かと戦ってんのか? とりあえず合流しようぜ」
「異議なし」
二人は屋上を目指して階段を登る。
2階に上がると、広間の方に一人の女性が倒れていた。うつつの見る限りではおそらく人間である。服装を見る限り、この館のメイドだろうか。
魔理沙が止める間もなく、うつつはすでに彼女の傍にしゃがみ込んでいた。
「大丈夫?」
「うつつ気をつけろ、敵の可能性も高いぜ」
軽く彼女を揺すると、すぐに目を覚ました。
「うっ……そうか、私は負けたんですね」
「お前、霊夢と戦ったのか?」
「ええ。あの巫女と戦って……そうだ、お嬢様は?」
「お嬢様?」
「この館の主です。私が負けたということは、あの巫女はお嬢様のもとに向かったはず……」
「ってことはさっきの爆発音はそれか。うつつ、急ぐぜ。美味しいところ全部持ってかれたら敵わん」
「りょーかい。……ってことで先に行きますね、本当なら手当とかしてあげたいんですけど、今の僕らは敵同士みたいなので」
駆け出した魔理沙に、うつつも続く。
咲夜は最後に二人を止めようと手を伸ばすものの、まだ戦闘の傷が癒えていないらしくそれは叶わなかった。
二人が屋上にたどり着く頃にはすっかり日が落ちていて、空には紅い月が登っていた。
更には赤い霧は日中と比べると濃くなっており、異様な雰囲気に包まれている。
果たして、そこに霊夢の姿はあった。
対峙するは、ピンクのドレスを身にまとった黒い翼の吸血鬼。
「あらあら、博麗の巫女というからにはもっと強いかと思ったけれど、期待外れね……」
「くっ……」
状況は吸血鬼有利で進んでいるようで、霊夢の息は上がっている。
そこにレミリアの強力な一撃が炸裂し、霊夢が大きく吹き飛ばされる。
「思ったよりも手応えがなくて残念だったけど、これで終わりよ」
神槍「スピア・ザ・グングニル」
超高速の紅い弾幕が、まるで槍のような鋭さで霊夢を撃ち抜く。
直撃と同時に爆発、さらに爆風で周囲の視界が遮られる。
「これでおしまいね。あーあ、館内をめちゃくちゃにしてくれちゃって。咲夜に掃除を命じないと……」
吸血鬼が勝利を確信して地面に降り立ち、霊夢の様子を確認しようと近づいてくる。
「それはどうでしょう?」
煙の中から声が響く。煙幕が晴れたそこには、防壁を展開したうつつが霊夢を守るように立ちふさがっていた。
「へぇ、面白いじゃない。手加減した覚えはないのだけれど」
「ええ、確かにあなたの一撃は強力だった。ただ私のこの力は、守ることに特化している。それだけよ」
うつつは人格を変えているのか、口調がいつもと変わっている。
よく見ると淡い光が彼自身を纏っている。
「大丈夫ですか、霊夢さん」
「ええ、お陰様で。ってかあんた口調変わってない?」
「これは私の能力の副作用みたいなものなので、気にしないでください」
「なにごちゃごちゃ話しているのかしら。私の邪魔をするなら、あんたもまとめて吹き飛ばすわよ」
吸血鬼は、再度妖力を右手に集中させる。
「霊夢さん、私が時間を稼いでいる間に態勢を整えておいてください。それくらいの時間は稼いでみせます」
「わかったわ、頼むわね」
やり取りが終わると、うつつは一歩前に出る。同時に、彼の体が更に強く光りだし、再び雰囲気が変わる。
「貴様、名前をなんという」
「あら、雰囲気が変わったわね。なんでもいいけど、人に名前を尋ねる時は自分から名乗るのがマナーではなくて?」
「それもそうだな。我は古明地うつつ。此度の異変、止めさせてもらうぞ」
「私はレミリア・スカーレット。偉大なる夜の女王であり吸血鬼を統べる者よ。お前の運命はここで尽きる!」
うつつもレミリアとほぼ同じ構えを取る。お互いの右手に妖力が収束する。
風が止み、お互いの視線が交錯した刹那。
神槍「スピア・ザ・グングニル」
顕現「運命貫く必殺の叡智」
原典を共にする必殺の一撃が同時に投擲されぶつかりあう。
拮抗する二つの槍が激しく火花を散らし、屋上を眩い光で染め上げる。押し合いはほんの数秒、しかし体感としては随分と長く感じた。
やがて二つの力が相殺され、爆風が二人の間を吹き抜ける。
「……なるほど、ただの雑魚ではないようね」
「結構な力を込めたつもりだったんだが。さすがは夜の女王といったところか」
レミリアが口元に笑みを浮かべる。品定めをするような視線が、今度は愉しげなそれに変わっていた。
「名前は古明地うつつと言ったかしら。いいわ、今度は本気で殺してあげる」
「こんなに月が紅いのに」
『
二人の間で、妖力が更に高まっていく。
紅い夜はまだまだ続きそうだ。