十文字の御旗のもとに   作:るいぼすてぃー

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結果の先、住めば日常

 

一刀の話をここまで聞いた荀彧は立ち上がった。

 

「少し待ってなさい。」

 

荀彧はそう言って部屋からでて数分後何かを持って戻ってきた。

無言で置かれたお皿には胡麻団子とお茶が乗っていた。

その様子をぼーっと眺めていた。

荀彧は半分ほど食べるとこちらを向き思いっきりため息を吐いた、心底呆れた表情である。

 

「要らないなら2つとも私が食べるわよ。」

 

そう言いながら再びそっぽを向き続きを食べ始めた。

 

「ありがたくいただくよ。」

 

ゆっくりと胡麻団子食べてお茶で息を整える。

食べ終わると頭が少しクリアになった気がしていた、想像以上に糖分と水分を欲していたらしい。

お茶をゆっくり飲み終える、改めて続きを話すために頭を振って簡単なストレッチで体を軽くほぐす。

荀彧も食べ終え座り直している、意を決して話しを再開する。

 

「改めて、ここは過去であって過去じゃないんだ。」

 

荀彧は嫌そうな顔こっちをみる。

 

「喋りすぎて頭の栄養なくなっての発言じゃないのね。」

 

どうやら狂ったのかと思われていたようだ、そもそも一刀の話は最初からそう思われても仕方ないだけに一刀は残念ながらと漏らす。

 

「詳しい説明…できるのかしら?」

 

荀彧の問に一刀は苦笑いをした、まともな説明は正直無理だ…どう答えても不思議状態なのだからできるのは自分視点を明かしてなんとか納得できるるラインまで持っていけるか、それもある程度真実と過程においてもらわないとどうしょうもない。

 

「最低でも俺の視点だけは噛み砕いて説明するよ。」

 

深呼吸をし、意を決する。

 

「まず第一に言語だ、文字を書けないように俺とこの国では言葉が違う…こうして会話してる言葉は俺の母国語でしか話してないつもりなのに荀彧たちと会話できている、だから文字も読めると高を括ったら扱う字はこの国の字になっていてさすがに動揺したよ。」

 

荀彧は整理する、確かにそれならば普通と違うのは理解できる…だが根拠として強いかは分からない。

その疑問が出る理由は一刀の手帳の書きを見た際におそらく本人が元々書いていた手帳に使われてる字はほとんど同じ形態のようだと感じたからだ。

ならば言葉も似たような発音である可能性が高いと考えた。

 

「字は似ているんだが発音が本来は全然違うはずなんだ、少なくとも俺の時代ではこの国の発音と俺の国の発音は全く別物だからね。」

 

一刀は申し訳なさそうな顔をする、そしてゆっくり口を開く。

 

「第二の話だけど…できれば聞いても怒らずに冷静に最後まで聞いてほしい、荀彧的には気分が悪いと思う内容だからさ。」

 

ここまで話した上でわざわざ念を押してくるあたり余程のことなのか荀彧は思案する。

 

(私が怒ることと言えば男のことかバカのことくらいしかないはずよね。)

 

「少し整理させなさい。」

 

「ああ。」

 

荀彧は聞いたことを整理する。

 

(話を全て真実と仮定して、アイツにとってここは国の違う過去の有名な世界…胡蝶の夢ってことがまず1つ目、言語の発生と読み書きのによる知識との齟齬…これが2つ目、私は曹操様の元評価はされている口ぶりだった…私が怒る内容とは影響がなさそうに思える。)

 

情報の組み合わせから答えを探す、これも違うあれも違うと口に出しているのを一刀は聞きながら待った。

 

(今までのとんでも内容をひっくり返す出来事があるということ、そして私に関係がある…わかっている内容で私が怒りそうなことや荀彧という名を貶めるものはない、前提が違っ……前…提…?)

 

ドンッ!?

 

突然荀彧が床を叩いた、そして不機嫌な顔で一刀を見つめる。

荀彧はその回答にたどり着いた時不快な感情と納得できない思いが出てきた。

しかしそうであるならば辻褄が合うと理解して床を叩いたのだ、なんとか落ち着けようと気持ちを落ち着かせようとする。

若干興奮気味ではあるものの少しずつ呼吸を整える。

 

「答えを聞かせなさい、私がたどり着いたものと同じなら確かに不愉快ね。」

 

一刀はゆっくりと声に出す。

 

「俺の世界では…この時代の有名な人物は基本的に男性なんだ。」

 

その言葉を聞き荀彧は天を仰いだ、最悪と言葉に出すも深呼吸をし落ち着く。

 

「たどり着いた答えと同じね、一応聞くけど記録なんかは正しくのこっているよね?」

 

「有名な美貌の女性に騙された記録が残っていたりするくらいだからね、傾国の美女と呼ばれてそれをきっかけに大きな戦争もあったくらいにね。」

 

鄒の色香により息子と典韋を失ったはずの曹操、三国志史上最強と言われた呂布を惑わせた貂蝉、性別が違うということはその前提が崩れる、下手をすれば子供いない可能性すらある。

 

「天の御遣い…」

 

「えっ?」

 

荀彧はこちらをまっすぐ見た、どうやら何か認めたくないようなことがあるような雰囲気を感じる。

やがて諦めたような表情とともに口を開いた。

 

「管輅というエセ占い師が言ってた言葉よ、戦乱を治めるために天より遣わされた者が現れるっていうね、真偽は置いておいてアンタはまさにそういう存在ね。」

 

荀彧の言葉に一刀は目を丸くする。

そんな高尚な存在のつもりもないが確かに未来の知識持っている自分はどこかを統治している人などと居れば大なり小なりの影響は出るのかと考えた。

 

「なかなか突拍子もない占いだね。」

 

「アンタの話といい勝負でしょう?」

 

「確かにね。」

 

一刀は荀彧に対してまっすぐと顔を向け頭を下げた。

 

「最後までこんな話を聞いてくれてありがとう、この話は正直信じるに値しない戯言と取られても仕方ないと思ってる…後の判断は任せるよ。」

 

荀彧は一刀の頭を叩いた。

 

「痛っ!?」

 

「あのね、あんまり言うと侮辱よ…だいたいアンタ自身はどうしたいのよ?」

 

問われて考える。

各種陣営のイメージと今後に起こり得そうなことを。

 

魏軍…荀彧の仕える曹操の陣営、一人にはならないかもしれないが自分が優秀な人材とは思えないので使えないと言われれば、良くしてくれた荀彧や荀家そのものに迷惑をかけることになるかもしれない。

 

呉軍…孫堅、孫策、孫権の親子三代の陣営、早々に孫堅が倒れる、孫策周瑜のことも考えれば少し面倒が多く見える、陣営としては水軍が強い。

 

蜀軍…まだ名をあげていないが多くの優秀な人材が集まる劉備の陣営、黄巾の乱あたりで桃園の誓いも含まれるので現状の所在地などはよくわかっていない。

 

今後に繋がる意味でも仕えるならばこの3択だろうと思考する。

 

(あとは自分で旅をするか…旅か、世界を知るにはいいかもな、でももう少し知識を蓄えておきたいな。)

 

今のところは先の見えない状態ではあるがどうせ見えない状態なら今を楽しもうと考える。

 

「もう少し勉強して考えようとは思ってるよ。」

 

「そう…なら明日の朝食後みっちりしごいてあげるから準備してなさい。」

 

そう言うと立ち上がり部屋から出ていく。

一刀は心の中で荀彧に礼を言った、信じてもらえたかは分からないが否定されないだけで嬉しかったのだ。

そして遅くなったがゆっくりと床につくのだった。

 

 

 

起床して朝食後部屋で準備しつつ一刀は今後のことを考える。

勉強もそうだがある程度護身のために体も多少鍛えたいと考えていた。

蔡春にそれとなく聞いたところ、荀緄を介して街の警備の練習会に混ぜてもらえないか聞いてもらえるということになった。

 

「北郷、ちょっと開けなさい。」

 

部屋の外から荀彧の声が聞こえる

基本的にアンタとしか呼ばれなかったので苗字呼びを嬉しく感じながら開くと書物を抱えた荀彧が部屋に入ってきた。

そのまま机のうえに並べる。

 

「さて、やる以上では抜く気はないし短期間で覚えなさい。」

 

そして昼食まで荀彧に罵倒されながらもなんとか勉強を終える。

昼食後も勉強かと思っていたが朝話していた警備の午後の練習に混ぜてもらえることとなった。

朝は勉強し昼は兵練を繰り返して一月が経とうとしていた。

 

 

 

「今日で勉強は終了ね、一応お疲れ様と言っておくわ。」

 

基本的な読み書きや常識などを詰め込んでもらった、なお教えたことを覚えてるか4日に一度はテストもされた…少なくとも人前に出てもやっていけそうな結果は出せたようだ。

 

「ありがとう荀彧、本当に助かったよ。」

 

「別にいいわよ、これで借りは返したわよ。」

 

一刀は確かに命を救ったかもしれない、しかし素性のしれない自分の衣食住、さらには最低限生きていくための知識や常識も知れた、体力や力も少なからずついた。

もらい過ぎだなと心から感謝する。

 

「で、結局今後どうしたいか決めたのかしら?」

 

荀彧が勉強道具をまとめながら聞いてくる。

勉強を始める前の夜にも聞かれたことだった。

 

「旅をしようと思ってる、いろいろこの世界を見て回ってみようかなって、俺がこの世界に来た意味があるんじゃないかと思ってさ。」

 

荀彧はそれを聞きしばし考える、何かを決したように一刀の方へ向く。

 

「ならアンタも上を目指してみたら?」

 

「えっ?」

 

予想外の言葉に思考が止まる。

 

「アンタの素性とか結局調べても何もわかってない、ならアンタ自身の言葉、過去に似た異世界に迷い込んだ存在…天の御遣いとして意味があるならそういう選択もできるんじゃない?」

 

一刀は呆気にとられていた、荀彧は冗談でもそういうこと言わないタイプだと思っていたからだ。

そもそも荀彧の敵になるのはなんとなく嫌という思いもある。

 

「意外だな、荀彧なら曹操様の邪魔になるなって言うと思ってたよ。」

 

「今現在何者でもないアンタが曹操様に影響があるような存在になれるとでも?そういうのはそのくらい気概を持って動き出してからにしたら?」

 

これは、荀彧なりの激励なのかもしれないと一刀は思った。

確かに何らかの理由で有名な世界へ来たのだ、なら遥か高みを目指すのもありかもしれない。

 

「そうだな、駄目でもともとなんて言うつもりはないけど何者かには成るために大きく生きるのもいいのかもな。」

 

「まぁよく考えてみたら?」

 

そうして部屋をあとにする荀彧、一刀は自身の身の振り方を改めて考え直した、そうだどうせなら大きく生きようと…実りのある人生にしようと、午後の訓練に臨むのだった。

 

 

 

部屋に戻った荀彧は机から1つの文を取り出した。

 

「私も焼きが回ったかしらね。」

 

そして文をしまうと何かを決意した表情で出かけていく。

たどり着いた先買い物をする。

隠れるように部屋に戻ると買ったばかりの物を隠すようにしまう。

 

「覚悟を決めなきゃね………やるわよ荀文若。」

 

 

 

それから10日ほど経過し一刀が荀家に、いやこの世界に来てから一月半ほど経った夕食のことである。

荀彧、荀緄、蔡春のいる中で一刀は話始めた。

 

「皆さん長い間お世話になりました、近いうちに旅に出ようと思います…素性のしれない俺に良くしてくださり本当にありがとうございます。」

 

全員が黙り静かに一刀の話を聞く。

3人の表情はさまざまで荀彧は特に表情を変えずに食事を進めていた。

荀緄は少し寂しそうにしながらも笑顔だった。

蔡春は荀彧と一刀を交互に見ながら少し残念そうだ。

 

「そうですか、寂しくなりますね…路銀などはある程度お持ちください旅のご無事を祈っています。」

 

荀緄はもしかしたら一刀は荀彧の婿に本当になれるのではと淡い期待を持っていた、それとは別に息子ができたような感覚もあり少し残念に思っていた。

 

「北郷様は随分楽しくお世話させていただきました、どうかご武運を。」

 

蔡春は一刀は年齢が近いこともあって異性の友人ができた感覚だった。

それが別れとなればやはり寂しいのだろう。

 

「いつ出発か決めたの?」

 

こちらには顔も向けないが荀彧が聞いてきた。

 

「3〜5日の位をを予定してるかな、準備が済み次第のところはあるけどね。」

 

「そう。」

 

荀彧はそう言うと食事を終え部屋に戻っていく。

一刀が部屋に戻ると荀彧が立っていた。

 

「明日の夜、時間を空けておきなさい。」

 

そう言うと荀彧は足早に去っていく。

出会った時並みに顔を見ない態度に何かやってしまったか?とも思ったが荀彧はそういう場合は基本的にしっかり言葉にするタイプだ。

一刀は頭を振り、まぁそういう日もあるかと思うことにした。

 

 

 

翌日の午前、勉強会はなくなったが午前中は基本的に勉強の復習など軽くしていた。

復習もそこそこに一刀はメモ帳を取り出して数ページ切り取ると手紙を書き始めた。

荀緄当て、蔡春当て、警備隊当て、そして荀彧当て…旅立ちまででお世話になった人々に1枚ずつの手紙、簡単に感謝などを書き4つ折りにして宛名を書く。

 

「この部屋ともお別れだな。」

 

約2ヶ月近く世話になった部屋に少し寂しさを感じつつ、気合を入れ直して午後の訓練に打ち込むのだった。

 

 

 

夕食後、汗を流し寝る準備を整えると荀彧を待ちながら旅の計画を練る。

この先まずは黄巾の乱がある、そこに対して自分は何ができるか考えていた。

 

「待たせたわね。」

 

そう言って入ってきた荀彧は何か長い箱を持っていた。

 

「北郷、アンタにいくつか質問するわ。」

 

「俺で答えられることなら聞いてくれ。」

 

そう言って持っていた箱を床に置く、荀彧は立ったまま壁に寄りかかる、どこか落ち着かない様子で部屋のあちこちを見る。

 

「1つ目、先日も聞いたけど結局のところはどこを目指すのかしら?」

 

「俺も上を目指してみるよ、まだ何ができるか分からないけどさ。」

 

「言葉にするのはいいけど、今後の行き先やどうするかの多少は目処は立ってるの…まさか出たとこ勝負でもしようって考えじゃないわよね?」

 

計画はあってないようなレベルだ、出たとこ勝負が事実なだけに思わず黙る。

荀彧は察したのか、思いっきりため息を吐かれる。

 

「1つ目がその様子なら2つ目以降の質問は意味がないわね。」

 

つまりある程度一刀が計画がある前提の質問だったということなのだろう、荀彧はまたため息を吐きながら話を再開する。

 

「上を目指すってことは戦乱に関わるということになるわよね、なら北郷…アンタに1つ助言してあげるわ、今のうちに仲間を集めなさい…他の陣営に取られる前に拝み倒してでも人を集めなければ上を目指すことも、ましてや生き残ることも夢のまた夢よ。」

 

荀彧の言葉に一刀は自分は甘い人間だと感じた、確かに大言壮語を吐いたのだ、死にものぐるいで…それこそ恥も外聞も捨てる覚悟で挑まなければいけないのだと改めて気持ちを入れる。

 

「すまないな、敵になり得るかもしれない俺に喝を入れてくれて、そうだな…形振りかまえるだけの物はないんだもんな。」

 

一刀はよしっと気合を入れると思考する。

今はフリーの人材が多い時期だ、ならば天の御遣いという存在を押し出して勧誘するしかない。

 

「方針は決まったかしら?」

 

「ああ、天の御遣いという存在を利用してでもいい人材を集めてみるさ。」

 

「………」

 

荀彧はこちら真っ直ぐ見つめる。

まだなにか足りてないのかと考えると、特大のため息が聞こえた。

 

「……一度だけしか言わないわよ、アンタの未来に……王佐の才と呼ばれる者は……必要かしら?」

 

「えっ?…」

 

一刀が面を食らっていると荀彧は一刀の眼の前まで来て一刀を真剣に見つめる。

予想外の展開に一刀は言葉をつまらせる。

 

「その…良いのか?曹そ「私に恥をかかせないで…アンタがきちんと言葉にしなさい。」

 

一刀は驚きとここまで言わせてしまった申し訳なさとそして言ってくれた嬉しさに目頭が熱くなる。

そして意を決すると立ち上がる。

 

「荀彧…俺の進む道に君の力を貸してくれ、荀彧の力が必要だ。」

 

一刀は頭を下げると荀彧は持ってきた箱を開け一刀の前に差し出す。

そして一刀の前に膝をつき頭を下げる。

 

「…改めて荀文若、真名を桂花と申します、この時より天の御遣いである北郷殿に仕えます、我が智謀を存分にお使いください。」

 

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