アイルタニア帝国の女騎士アンペルは、武者修行の旅に出ていた。
彼女は近衛騎士として剣術の腕を磨くため、帝国の属国であるヤーペン王国の都エドへ向かっていた。
「美しい光景だな…」
街道の脇には緑色の水田が見渡す限り広がり、農民が仕事に勤しんでいた。
「噂と違わず平和な国だ。盗賊のひとりとも遭わないとはな。都に着くまで手柄のひとつでも立てたかったところだが、それも叶いそうにないな」
彼女は腰までもある金色の長髪とそこらの男にも劣らぬ長身の美女である。
正装でもある騎士団の鎧を身につけていたが、それはかなり特徴的なもので、鋼製の胸鎧の他はドレスの様なもので両脚はロングスカートが覆っていた。
そしてスカートとドレスの間、ちょうど腹部は大きく布地が切り欠かれており、鳩尾からへその少し下が露出した扇状的なものだった。
これは、女王を衛る近衛騎士として、華やかさと女性らしさの象徴だった。
アンペル自身も引き締まり、シックスパックには及ばないが、華麗なラインを描く腹筋と括れた腰を持っている。
その中央を飾るへそは「V」の字を上に引き伸ばした様な流麗な形状で、腹筋のラインと一体化している。
薄い皮膚下脂肪のため窪みは浅く、広がった様な形のため、上から徐々に窪んで行く流れる様な凹みである。
アンペルのへそは騎士団の中でも美へその部類に入るもので、腹筋を鍛えるあまり、腹が武骨に割れた者や腹部と腰を絞った結果、へそが突き出ててしまう者も珍しくない。
しかしアンペルはその中で、適度に美しい腹筋と浅く流れる様な形状のへそと併せて美しい腹だと名高かった。
アンペルは暫く田園風景を堪能していたが、やがて小さな集落に辿り着いた。
そこでは村人がまるで葬式の様な雰囲気を漂わせ、嘆いている様な気配を見せていた。
何事かと、気になったアンペルは集落の中央にある一際大きな屋敷を訪ねてみたところ、村の長という老爺が出迎えた。
「おお、旅のお方ですか。帝国の騎士様とお見受けいたしますが…」
「如何にも。私はグレート・アイルタニア帝国、ローレンツ騎士団のアンペル=ボルテ・フレミングと申す。エドの都へ向かっていた」
「あいにくなのですが、ここハッコネ村は今日に限って旅人のもてなしをする事が出来ないのです。どうかお赦しをいただきたいのです…」
「そう言えば、この村の者たちは皆嘆き悲しんでいる。何かあったのか?」
「実は…今日は生贄を捧げる日なのであります。ここらの村には雷神と言う魔物に生贄を捧げてなくてはならないのです…」
「ライジン?…聞いた事が無いな…その生贄とは、もしや…?」
「はい、嫁入り前の娘数人を雷神に捧げなくてはならないのです。毎年この時期になると村の者は皆嘆き悲しんでおります…」
「酷いものだな…私で良ければ、手を貸したい」
「き、騎士様…しかし……」
村長の眼が一瞬、アンペルの腹の真ん中に注がれた。
アンペルもそれに気がついたが、自分の腹やへそに男性の視線が注がれることは珍しく無かったため、気にも留めなかった。
「いえ…どうか、お願いします。雷神を討っていただきたい…」
「よし。その頼み、聞き届けよう。早速その雷神とやらの所へ案内して欲しい」
「雷神様は村の北にある、丘の上の社で生贄の到着を待っているところです。直ぐに行かなければ、後の祭りになるかもしれません…」
「わかった。早速向かおう。邪魔をしたな!」
そう言ってアンペルは村長の屋敷から駆け出して行った。
「たとえ帝国の騎士様とは言えあのような小娘ではな…だが、騎士様が雷神様を討つもよし。よもや負けようともあの美しいへそならば…雷神様も満足されるじゃろう…」
ひとり残された村長が呟いた。
実のところ、アンペルは功を焦っていた。
彼女の属するローレンツ騎士団は近衞騎士と言うと聞こえは良いが、実際はお飾りの儀仗兵に近しい存在だった。
若い女性だけで構成され、実戦には凡そ向かない腹部を露出した鎧を着た彼女らは帝国内では、踊り子騎士団などと陰口を叩かれることが少なくなかった。
アンペルはそんな実情を変えんと躍起になっていた。剣術の盛んなヤーペンに武者修行に出たのもその為であり、若さ故の自信過剰と焦りから軽率にも、手柄欲しさに雷神討伐を引き受けてしまったのだった。
丘の上にある、石段を登った先の社ではまさに、雷神が生贄として差し出された少女達に手を着けんとしていた。
雷神の眼前に並べられた少女達は着物の前をはだけさせられ、白い柔肌が覗いている。少女の腹に雷神が手を伸ばそうとしたとき
「待たれよ!」
アンペルの声が社に響いた。
「なんだァ?お前ェ…」
(あ奴が雷神と言う奴か?上位種食人鬼 (オーガ・ロード)の一種だろうか…)
雷神は身の丈2メートルはあろうかという筋骨隆々の巨漢で、皮膚は赤黒い。顔は人間のそれと似ているが額からは二本のツノが突き出していた。
虎皮を腰巻にして下半身を覆い、背にはスネアを輪状にして背負っている。
「私は帝国騎士、アンペル・フレミングと申す!そなたの狼藉見るに耐えん!成敗致す!」
「成敗だと⁉︎面白いぞ小娘!代わりにお前を贄としていただこうか!」
「初めからそのつもりとして来た!その子達を解放しろ!」
雷神の眼がアンペルの顔、胸と降りて来て、腹部を舐める様に凝視した。
「グヘヘ…持ってるじゃねェか。旨そうなもンをよぉ!」
「褒めてるつもりだろうが…生憎貴様の様な野蛮な魔物に褒められたところで嬉しくはない!」
「言うではないか小娘!俺は気丈な奴をへし折るのが好みだ。特にお前の様な身の程知らずにな!」
「抜かせ!剣の錆にしてくれる!」
アンペルが剣を抜き放ち雷神に向け猛然と駆け出した。
「貰った!」
アンペルが雷神の首を斬り落とさんとした時ー
ガキン!
「甘い!」
「!?…なっ…嘘だろ!」
雷神の頸はアンペルの剣を受け止めてしまった。渾身の斬撃だが雷神には傷ひとつついていない。
「騎士サマとてこんなもンか…ガッカリだぜ」
雷神はそう言うと、拳に電撃を纏わせアンペルの腹にパンチを叩きこんだ。
「うぐっ!…うぅ…」
アンペルの身体が弾き飛ばされ一瞬宙を舞った。
「グヘヘ…今の感触、良かったぜ…腕っ節はからっきしの様だがソコはイイ仕上がりみてェだな!壊すのが楽しみだぜ」
「く、くそっ…身体が痺れて…」
地面に倒れたアンペルの腹部、へその少し上は拳を喰らい赤い跡が残っていた。腹部へのダメージはまだ耐えられるものだったが、電撃で身体が麻痺し起き上がる事も容易ではなかった。
「お前の負けだ、姫騎士さんよォ…約束通り、あのガキの代わりにお前を贄としていただくぜェ」
「クソっ!私の負けだ…好きにしろ…だが苦痛に耐える訓練はしている、辱めようとしても悪いが期待通りにはならんぞ」
「案ずるな、用があるのはヘソだけだ」
「へそ⁈へそだと…?そうか、へそからハラワタを引きずり出して喰うのが貴様の好みか?」
「それも違うな。まあ嫌いでは無いがな…俺の神通力で腹からヘソを抜くのよ」
「ふん!どんな目に遭うかと思ったら拍子抜けだな。たかがへそなどくれてやる!もっとも、ここの村の者から奪うのは感心できんが」
「フッフ…たかがヘソなどと…とんだ親不孝モンだなお前さん」
雷神はそう言って、アンペルの腹に手を伸ばし、人差し指で腹筋の線を撫で、緩やかに窪むへそに指を差し入れた。
「ぐっ…こ、これは…」
アンペルの浅いへそも下の方は多少窪みがあり、臍乳頭もそこに収まっている。そこの下には「V」形のへそのフチが僅かに突き出していた。
アンペルのへその窪みが雷神の太い指を咥え込んだとき、そこから力が吸われていくような奇妙な感覚が生じた。
「や、やめろ!へそを触るな!」
雷神は構わず、はちきれんばかりに広がり、通常よりも大きく浮き上がったフチを摘んだ。
「あっ…お腹が…や、やめて!おへそ取らないで!」
雷神に摘まれたへそからどんどん体力が吸われていくような異様な感覚にアンペルは普段の精悍さはすっかり失われてしまった。
雷神が摘まんだへそのフチを引っ張りはじめると、そこからへそ自体が腹から浮き上がり、引き延ばされていく。
「そぉら!お前さんの母親と繋がっていた大事な所が取れるのをよく見てるんだな!」
「い、いやぁ!おへそがぁ!お母様助けて!おへそ…おへそが千切れちゃう!」
引っ張り伸ばされたへそは、柔らかい布を破く様に腹から千切れて行く。その感触はまるで魂をへそごと腹から引き抜かれるようだった。
ブツっ…
とうとうアンペルの腹から、貼られた紙を剥がすかの様にへそが奪われてしまった。
「ああ…私のおへそが…」
剥がし取られた美しい窪みは薄くスライスしたハムの様な様子で手指に摘まれていた。深さの無かったへそは肉薄で、引っ張れば破れそうなほど華奢に見えた。
「な、なにこれ?お腹に力が入らない…」
アンペルの身体は雷神の電撃による麻痺が解け、脚や腕が動かせる様になった。しかし、腹だけはどうやっても力が入らず身体を起こすこともままならない。
「そりゃヘソは腹の真ン中をネジみてェに締めているもんだからな。それが抜けちまったら腹も緩んじまうだろうよ」
雷神の言った通り、美しかったアンペルの腹筋が緩み始め、華麗なラインが消え失せ腰の括れも無くなってしまった。
「わ、私のお腹…変になっちゃった…ひどいよぉ…」
「ハハッ!ヘソが無くなっちまっただけで屈強な騎士サマも無様なモンだな!それならここの村の贄の小娘どもの方が気丈だったぜえ?」
アンペルのへそをぷらぷらと揺らしながら雷神が言う。
「さぁて、サシミの様なヘソだなぁ…旨そうだ…」
「か、返して!私のおへそ!お母様から貰った、大切なおへそ…」
雷神の指がへその上下を摘み、引っ張り始めた。薄皮も同然のアンペルのへそは、無様に伸びて形を変えていく。
「壊さないで…私のおへそ…自慢のおへそが…」
限界まで伸び切り肉のヒモのようになってしまったアンペルのへそはとうとうブチッと音をたてて千切れてしまった。本人も誇りにしていた美しいへそは、いまや誰の目にもクズ肉としか映らない肉片に変わり果てた。
「どうだ?自慢のヘソを千切られた気分は?」
そう言って雷神はへそは口に運び、むしゃむしゃと咀嚼して遂に飲み込んでしまった。
「あ、あ…」
大切なへそを奪われ壊されたアンペルは、雷神にへそが飲み込まれるのを見て気を失った。
へそを失い、腹に力が入らなくなったアンペルはハッコネの村人の手厚い看護を受け、歩けるくらいまで回復しどうにか帝国へ帰還することができた。
しかし、アンペルの腹は以前の力の半分も入れることが出来ず騎士としての勤めはおろか、普段の生活も難儀した。
更にへそが無くなった為か通じも悪くなり、頻繁に吐いたり下したりを繰り返し不健康に痩せ細っていった。
何よりも本人の自慢にしていた引き締まった腰回りは胃下垂の様にぷっくりと膨れ、その真ん中にあった美しかったへそが消え失せたことで奇妙な腹に変わり果てた事実にアンペルは苛まれたのだった。
母親と繋がっていた証のへそが失われた腹を見て、口さがない者は人間を真似た魔物の腹と陰口を叩いた。
たかが、へそ。蔑ろにした結果、アンペルにとって取り返しの付かない結果となってしまったのだった。