不幸の温度はちょうどいい   作:ペンシルガン

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タイトルで察しがつくと思いますが、登場人物の一部は原作よりも病んでます。日常パートはわりとほのぼの書いてますが、心の中は派手にぶっ壊れてます。それでも頑張って生きてますって話です。オリンピック出るまで治りません。出れる保証はありません。


EP.3

 ああ、今年はいい一年だった。

 銅色だったけど、全日本ジュニアでメダル取れて本当に嬉しかった。ようやくひとつ、先生達に恩返しができてホッとした。さっきまで争ってた友達が優しく祝ってくれて泣けた。弟に置いていかれなかったことが、たまならなく安心した。

 ずっと怒りだけが原動力だったけど、これからはもう少しだけ抑えても大丈夫かも。はじめて、そう思った。

 

「ショートで敗退しちまったかぁ……残念だったが、しゃーないしゃーない! なんでも好きなもん食わせてやるから元気だせ!」

「は? 何言ってんの先生。私、ちゃんと結果出したでしょ?」

 

 誠二先生の口から、「は?」って声が聞こえた。

 あれ、ていうかここどこ? 見た事あるような、ないような街中だ。弟はいない。あいつ、こんな時にどこ行ったんだよ。

 

「現実逃避かー、うんうん。しゃあなあしゃあない。大丈夫だって。別にこれで人生終わるわけじゃないだろ。お父さんとお母さんも慰めてくれるさ」

「は?」

 

 あー、夢か。

 夢なのに大汗かいてら。

 でも、違和感満載のこと言われてせいで目が覚めたよ。いや、まだ夢の中だけど。地球がひっくり返っても誠二先生はそんなこと言わねー。

 

「ドンマイ姉さん。まあ、全日本選手権には僕一人で行ってくるから。お父さんとお母さんと一緒に見ててよ」

「あいつの顔して何言ってんだ。ぶん殴るぞ」

「もう殴ってるよね。ほんと、だから嫌いなんだよ。すぐ怒る、すぐ手を出す、将来は親にそっくりになるね。姉さんと結婚する人かわいそー」

 

 そうだ、もう殴ってる。

 なんか透けてノーダメージだけど、私は考えるより先にぶん殴った。同じようなことを言われたら、きっと現実でも同じことをする。それだけエグい言葉だったんだ、今のは。

 

「夢って普通、自覚したら目覚めるもんじゃないの?」

「あなたは普通ではないので。いるか、あなたは異常ですよ。頭がおかしいんです」

 

 今度はダリアに変身しやがった。

 なんなのこいつ。くそ、顔可愛いな。でもダメだこれも()だな。私の心が化けてるだけ。意味わかんないけどそう思った。

 そして、こうも感じた。

 もしかしたら、願ってることなのかも、って。

 昔からずっと普通の子のふりをして生きてきた。

 嘘をついて生きてきた。苦しかった。言葉じゃ説明できない罪悪感で息苦しかった。今もたまに。だから、心が弱くなると思うことがある。

 あー、もう全部ぶっ壊れたら楽なのになー、って。

 みんなに嫌われて突き放されれば、頑張る必要もなくなる。今まで作り上げてきた岡崎いるかである必要はなくなって、私は可哀想な人間になれる。  

 親にブサイクって言われて笑いものにされたって、泣けば誰かしら庇ってくれるだろう。似合ってない髪型が痛いって大笑いされて、自分で髪切った時のことも、普通の人間なら同情してくれるはずだ。ぶっ壊れて全部ぶちまけて、お父さんとお母さんに復讐することだってできる。しないけどね。

 

「私のお金でスケートしてるくせに、なんなのこの結果。もういいから、返してよお金」

「いるか。これは母さんが正しい。投資先に裏切られたりしたら、支援してる人は怒るに決まっているだろう。ちゃんと謝って、働けるようになったら少しづつお金を返すこと」

 

 おー、家だ。

 家にワープした。お母さんとお父さんがいる。さっきまでとは違って、これはどっちも言いそうだなぁ。

 そう遠くない将来、同じようなことを言われる日が来るのかもしれない。

 

「でも、それは今じゃないよ。少なくとも今年の私はちゃんとやった。周りにいる人はみんな認めてくれてる。私は信じてるんだよ。周りの評価を」

 

 汗が止まらない。手がびちゃびちゃで気持ち悪い。

 息苦しくて死にそう。

 前みたいに過呼吸になりそう。

 ダメだやっぱしんどい。クソみたいな幻だってわかってても、やっぱキツい。

 

 

 

 

 

「いるか。いるか。起きてください、いるか」

「んー……ダリアー?」

 

 ぐわんぐわん頭がゆれてる。

 めっちゃ可愛い顔が目の前にあった。あー、ダリアに起こされてるのか。部屋ん中は真っ暗で他の連中はみんな寝てるけど、何だこの状況?

 

「なに……地震速報でもあった?」

「それなら全員を叩き起していますよ。尋常じゃない様子でうなされていたので、申し訳ありませんが起こしました。いるか、大丈夫ですか? 凄い汗ですよ」

「……うわー、ほんとだ」

 

 汗だくでパジャマが透けてる。

 限界までスケーティング練習した時みたいになってんだけど、これはたしかに心配にもなるわ。

 頭いたい……変な夢を見たせいだな。

 

「仕方ないですね。大浴場に行きましょう」

「いや……閉まってんだろ。今何時……って、まだ1時かよ。閉店何時だっけ?」

「閉店というのは少し気がしますが……2時ですね。ちなみに寧々子達が眠ったのは30分前くらいです。私は目が冴えてしまったので、しばらくルッカといるかを観察することにしたのですが」

「コワ……何やってんだよ……」

 

 ダリアが変なのは普段からだからいいとして、行くか大浴場。みんなで行くのは嫌だったけど、ダリアと二人ならいいや。()()だし。

 

「さっさと行こ。ベトベトして気持ち悪い」

「いるかの汗はサラサラでは?」

「気持ち悪いこと言うなよ……」

「事実を口にしただけなのですが……」

 

 みんなを起こさないように、静かに。

 ささっと着替え持って、足音立てずに部屋から出て、大浴場へゴー。

 寒くないのに手が震えてる。

 なんでだろ。生きた心地がしないや。

 

 

\●/

 

 

 ダリアの肌、やべーな。

 久しぶりに一緒に風呂入って思った。 

 なんだこのスベスベ真っ白なお肌は。

 顔の綺麗さといい性格の良さといい、女として完全に負けてる気がする。スケートには全く関係ないからいいけど、容姿とか優しさとかが加点対象だったら私は絶対勝てなかったな。そんなのまで採点されるとなると、それもうフィギュアスケートじゃないな。うん。

 

「……何か? 同性同士の裸の付き合いとはいえ、あまり無遠慮にジロジロ見るものではありませんよ」

「ごめんごめん。ほら、私って肌こんなだからいいなーって思って」

 

 湯船から右足を出して見せる。

 血管に沿うように大きな傷跡が一本。小さなやつも含めると十本くらいかな。美容目的で手術でもしない限り一生消えない。これが事故ならまだ良かったんだけど自分でやった。説明するのが面倒だから、今んとこダリアにしか見せてない。

 

「私もいるかを羨んでいますよ。はあ……信じていたのに、裏切りましたね」

「え、なに。なんのはなし?」

「胸が少し成長しています。裏切り者」

 

 ダリアの顔が失望に染まった。

 今の話の流れで胸の大きさについて妬んでくるとか、やっぱ私が認めた親友は違うね。こういう子だからこっちも気楽に喋れるし、こうやって一緒にお風呂にも入れるんだよな。まあ、お風呂についてはそろそろ観念して、女子なら誰とでも入れるようになるつもりだけど。

 

「揉ませなさい」

「嫌だよ。目が怖いぞお前、まさかマジで言ってんの?」

「私はマジです」

「えー……」

 

 ダリアのやつ、やべーな。

 そっちの気があるのかって誤解しそうになる。違うってわかってるからいいけど、私以外の女子に詰め寄るのはやめた方がいいと思う。深刻な顔でおっぱい揉ませろは女子がやってもアウトだから。

 

「いるか。もう6デコも溜まっているんですよ」

「あー……そんな溜まってたか」

 

 6デコとはデコポイントのことだ。1ヶ月ごとに自動で1ポイントずつ加算されていく。3デコごとに私をデコレーションする権利を得る。なんでこんなことしてるのか私にもわからん。

 

「デコ権×2ですので。これはつまり揉んでも抱きついてもオッケーということです」

「知らないんだけどそんなルール。いつの間にできたの」

「今です」

「そうだよな。主催者はダリアだからルールとか好き勝手に追加できるよな。ほんとこの謎ゲームなんなん」

 

 なんか本気で揉みたそうだから許可してやるか。

 別に減るもんでもないし。

 

「よし、こいダリア」

「いいでしょう、いきますよいるか」

 

 わけのわからんノリだ。

 この後、めっちゃおっぱい揉まれた。

 

 

\●/

 

 

「そういや、悪かったね。尾行とかさせて」

「いえいえ。大丈夫ですよ。それに、私も気になったので」

 

 半身浴さいこー。

 折角だから時間ギリギリまで堪能することにした。

 他のお客さんいないし、貸し切りだから何も遠慮とかしなくていいし。

 部屋に戻ったらできないような話もできるし。

 

「やっぱお父さんだったか〜。まあ、わざわざ出てったあたりそうだろうなとは思ってたけど」

 

 分かりきってることだけど、私はよろしくない人間だ。気になったからという理由だけで、ダリアに弟を尾行させた。誰からか電話かかってきて出てったって聞いたから、盗み聞きを頼んだんだ。 

 寝起きだったけど、我ながら判断早かったな。

 親友になにさせてるんだろうね。まあ、こいつも乗り気だったけども。

 

「めっちゃ謝ってたんだよね。多分すごい顔してたと思うんだけど。ダリア、話しかけたりしてあげなかったん?」

「私はそういうつもりで後をつけたわけではないので」

「そういうつもりってどういうつもりよ」

「弱っているところにつけこんで、という意味ですよ。いるか相手なら遠慮はいらないので簡単なんですが、あの子はまだ距離を感じるので」

「おい。人をチョロい奴みたいに言うな」

 

 どういう感じだったのか知りたかった。

 私が行くことは勿論できたけど、そうすると我慢できなくなって出てっちゃうから。どんなこと言われてるのか、私ならかなり解像度高く想像できるし。そうなると代わりに言い返してしまう。あいつは上手いこと流して私に飛び火しないようにしてるから、そこで私が暴れたら意味ないからね。

 そうなんだよな。今回も謝ってばっかだったみたいだけど、ソレ、私のためだから厄介なんだ。親が機嫌悪くなると私にも被害くるから。だったら自分のところで止めれる炎はできるだけ消しとく。それがあいつのやり方なんだって。生意気だよね。私が上で私は姉なんだが。

 

「はぁ……いつから今みたいな感じになったんだったかなぁ。昔は私が一方的に守ってあげてたのに、いつの間にか悪知恵つけてさ」

「悪知恵って……あなた、こういう時くらい素直な言い方はできないんですか」

「無理。知ってるでしょ。私にはそういうのは無理。向こうもそういうのは求めてないから、私らはこれでいいんだって」

 

 あいつは私に殊勝になって欲しいとか思ってないよ。だって実際そう言ってたし。

 結構前に謝ったことがあったのよ。ごめんって。そしたらあのガキ、気味が悪いからやめろとか言いやがって、そういうのいらないホント無理ってダメ押ししやがったからね。

 

「ダリアには素直になってる時もあるんだから、それでいいじゃん。胸も揉ませてあげたのに、他に何を求めるんだよ」

「そうですね。すみません。私が強欲でした」

「強欲ってほどじゃないよ……オーバーなんだよ……」  

 

 ダリアは深いところで理解者だ。

 そんで、自分の優越感を満たすために他人に同情したりしない。突き詰めれば人間の行動って全て自分のためで、自分がそうしたいと思うからそうするわけだけど、そのこともちゃんと理解してる。

 だから悩む。私はこの子がことある事にモヤッてるのを知ってる。私に寄り添うこと自体が自分に酔ってるってことなんじゃないのか、上から目線なんじゃないのか、とか下らないことで悩んでる。それで『嬉しい』って感情が湧いてくる私は、やっぱどっかおかしいんだろうな。

 

「今年はいい一年だったね」

「どうしたんですか急に」

「んー、なんとなく。まあ12月だし、振り返っとくのもいいかなって」

「ここで?」

「良くね? 大浴場で振り返り。なんか開放感あっていい感じなんだが。あー泳ぎてー」

「すみません。ちょっと理解できない感覚です。泳ぐのはやめてください」

 

 泳がないけども、今年はほんと良い年だった。

 でも、大切なのは来年。

 私もあいつも、ダリアも。今回、全日本選手権まで進むことのできたメンバーはみんなそうだ。

 このまま更に上にいって、そこで安定できるか。   

 高確率で国際大会にも呼んでもらえるだろうし、そこで結果を出すことができたら、もっと期待される存在になれる。そうすれば、いよいよ未来のオリンピック候補だ。

 

「あのさ、来年もちゃんと全力で来てよね。大丈夫だと思うけど、一応言っとく」

「それはもう。これでも結果に満足できてないですし、モヤモヤして破壊衝動に駆られたこともありましたから、来年は少しはスッキリしたいので」

「破壊衝動? マジで? ダリアでもそういうのあんの?」

「ありますよ。かなり」

 

 声のトーンはガチ。

 宝石みたいな目はマジだった。

 やっぱこの子は私の親友だわ。言わねーけど。

 

 

\●/

 

 

 これが祭りの後の虚しさか。

 家に帰ってきた後、ルカといるかは放心状態になった。両親は仕事でいない。なのでリビングでゴロゴロしても良かったのだが、いるかは布団が良かった。

 持ってくるのもめんどかったので、いるかルームで仲良く放心することに。

 

「床でゴロゴロすんな。見苦しいんだけど」

「場所がないんだよ。いるかちゃんがベッドで大の字になってるから」

「じゃあやめるよ。寝るならこっちで寝たら?」

「そのまま寝落ちするのが怖い。どうすんの。母さんに一緒に寝てるとこ見られたら」

 

 いるかはムクリと起き上がって、はんと鼻を鳴らす。無地のTシャツはヨレヨレ。部屋着の短パンもヨレヨレ。髪はボサボサ。こんなんでもリンクの上ではカッコ良いし、まだ少ないながらファンもついているという現実。

 こんな姿を拡散させたらえらいことになりそうだが、弟は優しいのでそんなことはしない。

 

「別に良くね。お母さん、うちらにはもっと仲良くしろって言うじゃん。一時期は一緒に寝ろとか言ってたくらいだし」

「教育関連の変な記事でも読んだんじゃないの……どう考えてもおかしいでしょ。中学生の姉と弟を一緒の部屋で寝かせようとするとか」

「普通にきもいな」

「でしょ?」

 

 母は姉と弟をやたら仲良くさせたがる。岡崎家七不思議のひとつだ。母の性格を考えたら、姉弟で仲良くするとかお子ちゃまとか、気色悪いとか言いそうなのに。

 

「不思議だよね。不思議って言えばさ、うちってそんなにお金あるのかな?」

「金? なんで?」

 

 ルカもむくりと起き上がると、だらしねー姉に魂の抜けた顔を向けた。

 

「二人も全日本レベルでスケートやらせられるだけの家庭なのかなって。まあ、共働きだし。二人とも平均以上は稼いでるって言ってたけど、実際のところわかんないじゃん? どっちも見栄っ張りだし」

「まぁたしかに」

 

 二人して「うーん」と難しい顔になる。

 改めて考えてみるとたしかに。それでいて生活レベルが下がっている感じはないし、相変わらずお金は惜しみなく使っている。節約しようとかいう気持ちは、母からも父からも感じられない。

 

「まさか借金とか?」

「おいおい……お前、何年あの人達の子供やってんの。あの人達が借金してまで子供に投資すると思う?」

「思わない」

「だろ? だったら金はあるってことでこの話は終わり。気にすんな。以上!」

 

 いるかはピシャリと話をまとめた。

 目にゴミでも入ったのか、左目を眇めてパチパチと瞬きする。そして、小さく嘆息した。

 

「はぁ……んなことよりコレ見てよ」

「なにそれ、犬の動画?」

 

 いるかはうつ伏せになって、チョイチョイと手招きした。顔の前に置かれたスマホには、沢山の犬が映っていた。10匹以上だ。流石に101匹はいないが、狼犬の軍団が走り回っている。

 

「ダリアが送ってくれたの。こいつら可愛くね? 頑張ってる感じがお前みたいで笑える」

「後半要らなかったなぁ。前半だけなら微笑ましい感じだったのに、一気に性格悪くなったね」

 

 よいしょっ、と、ルカはベッドに腰かけた。寝そべるにはまだ狭い。この姉、こっち来いとか言っといて、中途半端な場所でうつ伏せになっている。

 

「可愛くねーヤツ。でもお前、私への依存度高めじゃん? どうすんの。私、高校入ったら家出てくよ」

「依存度はマイナスだから大丈夫。良かったね寮生活できることになって」

「依存度マイナスってなんだよ。お前ほんと最近つまんないことばっか言うようになったね。単に雑なだけとかムカつくんだけど。久しぶりに絞め落とそっか?」

 

 弟は息ができなくなった。この姉、言い終わるよりも前にヘッドロックを放ってきた。ギリギリ音鳴ってるし普通に苦しい。じゃれ合うにしては力加減がバグっている。

 

「ッ、死ぬ! 殺される! 馬鹿力すぎでしょゴリラか!」

「ゴリラぁ? お前、私をなんだと思ってんの?」

「なんだと思うって、いるかと猛獣のキメラ」

「そっかそっか。もういいや。女子を猛獣扱いするようなおバカさんには、こうだ! ちゃんと謝らないとお仕置きしちゃうぞ?」

「いだだだだだだ!」

 

 現時点で既に高レベルのお仕置きである。

 ルカは逃れようとしたが、しっかりキマっていて抜け出せない。腕は女子らしく細いくせに力が強くて、思いっきり捻り倒してきやがった。

 

「ベッドから凄い音したけど!‍? 小学生の時とはわけが違うからね! 二人で暴れたら壊れるから!」

「別に良くね。私ね、壊すの好きなの。知ってるでしょ」

「え、目こわ。ちょ、待って待って。なんで魔王みたいな笑い方してんの」

 

 弟は鳥肌が立った。

 姉はいつもより加虐的な笑みだ。自虐的にも見えるから反応に困る。こういう時にガチで突き放すと本気で機嫌が悪くなるので、ほどほどに受け流したいところだが、今日は普段より攻撃力が高い。ゆえに死にそう。足まで絡めてきて下半身も痛い!

 

「あーダメだ。イライラする。お前さ、身長縮めろよ。なんで私よりでかくなってんの…………あー、でっか。イラつく」

「いった……あー、もう。なんか大丈夫? 頑張りすぎて頭おかしくなってない?」

 

 

 

 ────は?

 

 

 

  そんなの さぁ

 

 

 いまさらじゃね   

 

           なにいってんの    

 

  ?     おまえさ

 

 

 

 

ぶっこわすぞ

 

 

 

 」

 

 

 

 金って返すべきだと思う?

 

大学出たら借金してでも返すつもり。

 

 

   だよなー

 

 

 

 

頭がわれそう、痛い

こっちも痛い

じゃあ撫でるわー

リミッター外れてるでしょ。髪の毛が抜けまくってる、やめて

 

 

   なにを?

 

             おい。

 

なんか言えって。

言っとくけど、私も痛いんだからね

 

   

\●/

  

 

 私は髪を引っ張られるのが好きだ。

 常にじゃない。それだとただの変態だ。

 イライラしてどうしようもなくなった時、自分で自分を攻撃するより、してもらった方がいい。

 面倒なのは、普通に頼んでもダメだから攻撃しなきゃいけないってこと。

 ワガママな弟だよね。自分から痛いことするのは嫌なんだってさ。だから私から攻撃しなきゃいけない。最初はめっちゃ気が重い。でも、思い切ってやった後はなんだろ、満たされるっていうのかな。

 心が回復する──ような気がする。

 ろくでもないことしてるのは間違いないから、ただの錯覚だとは思うけどね。

 

 

「はー、はー……いっ……た」

「いきなり噛み付くから、いつもより力入ったんだよ……ったい、食いちぎられるかと思った……!」

 

 噛んだ? どこを? 腕が。右腕だ。やばい軽く無意識だった。ほんとごめん反省するわ。うわー、赤くなってるえっっぐ。

 

「獣か! いるかとか名前詐欺でしょ……ダリアさん見習った方がいいよマジで……これはやばい。人間やめてるレベルの暴れ方だって……」

 

 は?

 

「ダリア? 見習えって? あーうん、殺す」

「まだ続けんの!‍?」

「当たり前だろ。さっきのもっかい言ってみ。言ってみなよ。言え」

「なんでそんなブチ切れて……いだだだだだ!」

 

 我ながら思う。

 私らやばいわ。歪んでる。こういう形で鬱憤ぶつける私も、満更でもない感じで相手してるこいつも、どっちもどっちだ。人として終わってる。

 思い込みじゃないよ。満更でもないんだよこいつ。

 私にされることならなんでも嬉しいって言ってたからね。まあ、小学校低学年の時だけど、ノーカンにはならないから。

 

「言っとくけどダリアはあげないからね。欲しいなら私を倒してからにしなよ」

「お父さん? いるかちゃんマジで怖いって……実叶さんのことといい、その激重感情どうにかした方がいいよ。ダリアさんはともかく、実叶さんには嫌われかねな」

「実叶ちゃん? 嫌われるって? ははっ……おまえさぁ、ほんと私のことよくわかってんね〜。お姉ちゃんは嬉しいよ、死ね!」

 

 次は足で締め上げてやる。

 おら、苦しめ苦しめ。大好きなお姉ちゃんにボコボコにされて幸せ絶頂で昇天しろ!

 やばい私やべぇ。興が乗ってきた……なんだろ、相性良すぎるんだよな。多分。

 

 

「やべ地雷踏ん──グゥエ!」

「やべー声出てんじゃん。でもまだ終わんねーから。嬉しいだろ? 嫌がってんのフリだろ?」

「うれじいから、ちょ、もうちょ」

「なんだってー? もっと大きな声で言ってくれないと聞こえないんだけどぉー!」

 

 我ながら思う。

 これはダリアにも言えない。見せれない。

 いくら許容範囲が広い奴でもドン引くわ。

 汗だくで傷つけあってるとか、えぐすぎて自分でも引く。たぶんコイツも引いてる。私にも自分にも。

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