不幸の温度はちょうどいい   作:ペンシルガン

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EP.5

────登場人物『岡崎家』+α

 

 

■岡崎いるか

 

年齢  15歳

学年  中学3年生

誕生日 8月24日

居住地 愛知県

所属  愛西ライドFSC

 

今年の主な戦績

全日本ジュニア3位

全日本選手権6位

 

『岡崎()長女。

 娘はフィギュアスケートを習っている、という母親が周りについた嘘のアリバイ作りのために最初は大須のスクールに通っていた。実叶(みか)という年上の女の子と仲良くなり、そのまま名古屋の強豪クラブ名城(めいじょう)クラウンFSCに通うことに。

 しかし、実叶は怪我でスケートを辞めてしまい、その後にいるかの親が保護者トラブルを起こしクラブにいられなくなる。

 岡崎家の両親は他者への共感力が著しく低く、子供をからかい虐げることで夫婦仲を保っていた。

 冗談では済まされない暴言の雨を浴びまくったせいで、一時期はトラウマが10個以上あった。ひとつ下の弟を守らなきゃいけないと思い我慢していたが、堪えきれなくなって何度も暴発した経験あり。

 以前はよく『生きるか消えるか全部まとめてぶっ壊すか』の選択肢が目の前にちらついていた。

 弟が自分の時間を全部使ってアホみたいに褒め続けてくれたおかげで、中学生活後半は精神状態が少しはマシな精神状態で生活できた。弟には感謝している反面、自分のために時間を使わせすぎたことを申し訳なく思っている。

 高校に入ったら寮生活を始めることが決まっているが、家に残していく弟のことが気がかり。自分がいなくても問題ないことを祈る一方で、それはそれで少し寂しいという複雑な感情を抱いている。

 親の都合で始めたスケートだが、腐らずに続けてきた甲斐があって世代の上位選手に成長した。スケートは自分を構成する大きな要素のひとつで、欠かすことの出来ない大切なもの。

 今年は納得のいく結果を出すことができた。

 来年は注目度が爆上がりする大切な年。国際大会への出場もほぼ確実で、安定して結果が出せればトップ選手への道が見えてくる。将来自分のお金で自分を支えられるようになるためにも、ここで一気に突き抜けた存在になりたい』

 

──・──

 

■岡崎流海(るかい)

 

年齢  14歳

学年  中学2年生

誕生日 7月6日

居住地 愛知県

所属  愛西ライドFSC

 

今年の主な戦績

全日本ジュニア4位

全日本選手権8位

 

『岡崎()長男。

 子育ては平等に、という母親の思いやりに満ちた方針でスケートを始めた。開始時期はいるかが始めた二年後。平等は結構な方針だと思うが、子育ての前に名付け方をどうにかしろと不満を抱いている。

 彼の名前は「いるか」の三文字を適当に並べ替えてつけられた。

 幼い頃はいるかと一緒に名城クラウンに通っていたが、親のせいで逃げるように辞めて愛西ライドに移ることに。ショッピングモールに置き去りにされた姉を助けてくれたので、五里夫妻には足を向けて寝られないとまで考えている。

 小学校の頃は四六時中いるかと一緒にいた。目を離すと自分を攻撃するので気が気じゃなかった。そういう彼も当然親からのストレスはあって、ある時、自暴自棄になってガラスで大量出血してやばいことに。それを見た姉はなぜか落ち着いてくれたので、いるかには悪いが結果オーライだったと考えている。

 特殊すぎる家庭環境だったため、学校の友達と遊んだ経験がない。ジュニアに上がってからはいるかの友人と私生活で連絡を取るようになって、こういうのいいなと喜んでいる。同じ男子の知り合いも増えて、たまに恋バナとかもしている。

 スケートは最初は上手く生きるための手段だったが、今は自分のアイデンティティとも言えるほど大切なもの。

 今年はようやくまともな結果が出た。

 来年は姉に置いていかれないよう、死ぬ気でしがみついてくつもり。将来はスケートで飯が食えるようになって、憧れの人と並んでも見劣りしないような人間になりたい。恥ずかしくないような自分になりたいと強く願っている』

 

──・──

 

烏羽(からすば)ダリア

 

年齢  15歳

学年  中学3年生

誕生日 7月7日

居住地 岡山県

所属  岡山ティナFSC

 

今年の主な戦績

全日本ジュニア4位

全日本選手権8位

 

『強豪クラブ岡山ティナFSC所属。

 ノービス時代から安定して上位に食い込み続けている地力のある選手。いるかとは「目が宝石みたいだからもっと見たい」という理由で仲良くなった。

 いるかの家庭事情については最初のうちは知らなかったが、大会で負けて発狂したいるかを目にして、自分の鈍さを死ぬほど呪うことに。

 上から手を差し伸べる関係は友人として歪だと考えていて、いるかがそれを望んでいないことも知っている。だから普段は過剰に気遣ったりしないし、キツめのダメ出しをすることも躊躇しない。

 この時間がずっと続くとは思っていない。

 いつか自分がスケートを諦める日が来るかもしれないし、諦めるのはいるかなのかもしれない。あるいは二人とも夢破れてリンクを去ることになるのか、こればかりはやってみないとわからない。でも、ずっと付き合っていきたいと思っている。

 岡崎弟のことをルッカとかルカルカとか呼ぶ。

 変なあだ名を量産する変な癖があって、特に年下は被害に遭いやすい傾向がある。

 今年は正直なところ不完全燃焼だった。

 拘っているものが理想の形にならなくて、もどかしい思いばかりしていた気がする。人のことばかり気にしてしまっていた時期もあったし、もっと心を強くしたい。スケーターとしても、もっともっと強い選手になりたい』

 

 

──・──

 

■岡崎母&父

 

 共働きでどちらも仕事はできる方。

 容姿は整っていて仕事でのトーク能力も高い。

 夫婦揃って職場では有能な人種で、仕事が出来ない人間を見ると、なんでできないのかわからない。

 子供にフィギュアスケートを続けさせるだけの経済力もある。ただし致命的に他人の気持ちがわからない者同士で、だからこそ第三者が近くにいないと夫婦喧嘩が始まってしまう。

 母も父も子供に向かって暴言は吐くが、なにも限界まで追い詰めて不幸にしてやろうなどとは考えてはいない。そもそも深く考えていないことも多い。

 父親の考え方としては、単なる冗談で深く傷つくのは弱すぎる。それじゃ人付き合いが上手くいかなくて苦労する。だから傷つく方に問題がある。母親も同じようなことを口にしたことがあった。ただし、自分たちが同じことを言われたら超キレる。

 父にしても母にしても優しい時もあったので、いるかもルカルカも完全に嫌いにはなれずにいる。失望している時に優しくされると、些細なことでも凄いことをしてもらったような気分になる。そうやって少し期待しては裏切られて、今のところは無限ループ。

 

 

──・──

 

 

『岡崎家エピソード1』

 

 

 昔、クラスの友達に名前をバカにされたことがあった。まだ小学校低学年のクソガキだった頃。

 ルカって変な名前。女みたいでキモい。まあそんな感じで。るかい、なんだけどね。どっちみち変なのは一緒だけど、まあ傷つくよね。名前うんぬん以前に集団で笑いものされて、挙げ句ハブかれたって事実は心がブレイクするのに十分だよね。

 いじめ期間は半年くらい。自然消滅したんだけど、期間中にちょっとした事件があった。

 

「誰? うちの子の名前をバカにしたのは。あなた? それともそっちの君? たしかに聞こえたわよ。正直に言いなさい」

 

 保護者面談で学校に来てた母さんが、僕が悪口言われてる現場を目撃して、怒って乗り込んできた。

 

「人様がつけた名前をバカにするなんて、失礼でしょう! 謝りなさい!」

 

 コメカミに青筋立ててね。ガチギレ。それでいて笑ってるもんだから、悪ガキ共も泣いちゃって、先生達が何事かと駆けつけてくる騒動に発展。

 原因は明らかに悪ガキ共にあったから、こっちはお咎めはなかったけど、僕は素直に喜べなかった。

 まず、次の日が気まずすぎる。大人に守ってもらったらどうなるのかなんて、小学校二年生のクソガキでもわかる。大人の前でさせられる『ごめんなさい』『いいよ』なんて茶番も茶番だからね。案の定、僕はマザコン呼ばわりされて暴れましたとさ。三人くらいボコボコにしたらいじめがなくなったから、まあ結果オーライだったのかもしれないけども。

 それでもモヤモヤは大いに残った。

 後味が悪いのもそうだけど、母さんの言ってたことがどうしても違和感あったんだ。

 

『人様がつけた名前をバカにするなんて、失礼でしょう! 謝りなさい!』

 

 言葉の意味をよーく考えてみたら、違和感の正体は理解できた。ああこの人、自分のセンス馬鹿にされたことに怒ってたんだな、って。謝って欲しいのも自分に対して。そういえば、母さんから「大丈夫?」とは言われなかったんだよな。

 同じことがあったらやり返していいとは言われて、それも凄くモヤッとした。

 父さんは父さんで、自分が子供の頃はもっと強気にやり返してたとか言うし。対処はあくまで僕任せで、何かしてくれる気配はなかった。

 

 

「なんでぬいぐるみ勝手に捨てたの! ひどいよ!」

「えー、汚かったから。捨てなさいよあんなの」

 

 モヤッとはどんどん増えていった。

 次は姉さん。いるかちゃんのパターン。大切していたぬいぐるみを勝手に捨てられて、お母さんに泣きながら怒ったことがあった。まだマトモな会話できてた頃だね。

 

「友達から貰ったのに……」

「また買えばいいでしょ。はいはいごめんね。新しいの買ってあげるから」

「やだ!」

「なによ。謝ってるのになんで怒るの? 謝ってる人の気持ちを無視するのは、いけないことなんだよ。いるか。ダメなことなの。わかる?」

 

 当時の僕はモヤッとすることしかできなかったけど、今なら言える。

 論点のすり替えだーって。

 まあ、最後まで筋通ってないんだけどね。謝ってるから許せって滅茶苦茶な話だ。なんで被害者が加害者に配慮しなきゃいけないの?

 

「あんまりうるさいと、お母さん引っ越しちゃうよ。あんたのことは置いてくからね」

「え……」

「お父さんもそれでいいよねー?」

「ははは。置いていかれたら大変だなー。学校なんて行ってられないぞー? 働かないとな。はははっ」

「だってさ。お母さんの言うこともきけないなら、いるかのことは置いて旅行にでも行こうかなー。あははっ」

 

 泣き出す娘を見て大笑いする両親。

 空っぽなごめんねで全てを済ませるバカ親。

 思い返すとほんと、自分は役に立ってなかったなあって嫌になるね。

 

「置いてかれるんだ」

「僕は置いてかないよ。お姉ちゃん、もう寝よう? 大丈夫だから。ね?」

 

 気の利いたことも言えない役立たず。

 まあ、そういった苦い経験が後に活きてくるわけだけど、やっぱり後悔は消えないなぁ。

 時間が進むにつれて僕達は色んなことがわかるようになっていって、お互いを守る術……処世術みたいなものを身につけていった。

 今は結構ちゃんと未来が見えてる。

 いつか心から笑い話にできる日が来るといいな。

 

 

 

 

 

「ちょっと寝ようよ。マジで眠くなってきた。アラームセットしとくから」

「寝ぼけて蹴り飛ばさないでよ……?」

「それはわかんない。運悪いと顔いくかも」

「ちょっと」

 

 さて現在。

 寝ようと言われたから、寝る。

 こういうのも来年からはなくなると思うと感慨深いものがあるな。そして不安だ。

 いるかちゃんがいなくなったら、いよいよ家が地獄でしかなくなる。今までは地獄の中にもいるかありだったけど、単なる地獄になってしまう。まともな会話相手が誰もいないクソ地獄の誕生だ。対策考えないと発狂するな。どうしよう。

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