ファーストランド島からの撤退に移りますが、例によって、事はそう簡単に進まない模様……
※今までは、ある程度1話1話毎のオチが付くまで書き貯めた上で投稿していたのですが……流石に投稿ペースとか、モチベーションの維持に致命的である為、今回からある程度分割して投稿する事にしました。
8千文字少々なので、前回の半分程度になっております。
【ファーストランド島】
私は、背中から突き飛ばされて吹き飛んだ。
少し、宙を飛んで、ぶつかった木をへし折って、地面をなんども、なんども転がって、岩にぶつかって止まる。
結構尖ってて、凄く、もの凄く痛い。
必死に空気を吸い込んで、目を開けると、周り中の草という草がなぎ倒されて、更地になっているのが見えた。
背中がヒリヒリするし、制服も少し破れている様だ。
小破くらいはしているかも知れない。
(帽子は……あるわね、二式も無事みたい)
しっかりと抱えていたドラム缶は無事だったけど、電探の箱は無くしてしまった様だ。
周りを見てみたけど、何処にも落ちていない。
『Lady's、被害報告を』
『3班、暁、被害軽微よ、予備の電探はなくしちゃったけど』
『1班、神通、響共に任務遂行可能です』
『2班、2人ともちょっと焦げたけど、問題無いわ』
『Miss.夕張?』
『夕張、応答して下さい』
みんなの応答が次々に入って、ちょっとほっとしていた私は、東司令と神通さんの応答要求で、慌てて周囲を見回した。
確かに、夕張さんだけ応答がない。
でも、“内線”では近くに反応がある。
私は急いで反応を感じる方向に走り、思いっきり躓いた。
「いったっ!」
「いだぁ!」
一回転して、尻餅をつき腰をさすっていると、近くの草束が持ち上がって、中から夕張さんが這い出てきた。
『夕張、健在で~す、でも、あばらにちょっとひびが入ったかも……』
『Hum、無事で何よりだ、首尾良く離島棲姫は吹き飛んだみたいだが、生き残りが来るぞ』
『提督、私、何時間気絶してました?』
脇腹を押さえてしゃがみ込んでいる夕張さんの質問に、一瞬間があった後、神通さんが応えた
『……一分半です、夕張さん、今何時ですか?』
『えーと、ヒトフタマルマル……って、お昼じゃない』
顔をしかめながら腕時計を見た夕張さんは、渋い顔で空を見上げる。
酷く負傷すると、時間や場所についての認識がとんでしまう事はよくあるけど、今回は少し違うらしい。
『まずいわねぇ、空、まるで夜だわ』
言われて見上げると、今朝はまだ縞模様だった空のひび割れが大きくなり、赤黒い夜空にほぼ変わっていた。
まだ細く残った青空から覗く、南国の眩しい太陽が、これでは悪い冗談にしか見えない。
『現時点で、艤装封鎖を解除する』
『了解、全班、ポイントアルファへ急行、島を離脱します、艤装を展開、電探の反応を確認』
私は艤装を展開して、夕張さんを助け起こす。
対空電探に感は無い。
助けついでに夕張さんの艤装から空のドラム缶を取り外し、旋回を始めた電探に触らない様に、抱えていた中身入りのドラム缶に取り替える。
私のドラム缶も夕張さんに載せ替えてもらった。
『……えーと、一つ、感あり、多分、さっきの爆心地の反対側に何か居るわね、やり過ごした駆逐艦か、砲台子鬼か分からないけど』
『急いだ方が良いわね、行きましょ』
まだ少しふらついている夕張さんを急かして、ポイントアルファへ向かう。
艤装に色々引っかかるけど、構わず強引に振り切って藪を突き進むと、行きよりは大分早い。
ポイントアルファには、もう1班、2班の方が早く辿り着いていたらしく、電と雷が両手を振って迎えてくれた。
響は私の顔を見るなり駆け寄ってきて顔を挟むものだから、ちょっと決まりが悪い。
「姉さん、大丈夫かい?」
「心配しすぎよ、ちょっと背中が焦げたけど、へっちゃらだし!」
「敵艦隊の追跡を受ける可能性があります、一旦、ポイントチャーリーを経由して、帰投します」
『OK、そうしてくれ、隣の鎮守府の支援艦隊は、出撃済みだ』
『了解です、宜しくお伝え下さい』
私達は、単縦陣を組んでファーストランドを離脱した。
想定外の敵に遭遇して、殆どの秘匿物資を無くしてしまう結果になったけど、水雷戦隊だけで陸上型を撃破したなんて、かなりの戦果だ。
というより、全員が揃っているのが、改めて信じられない。
(あの神棚の誰かが聞いてくれたのかしら?)
『でも、これじゃあ、今戦ったら夜戦になっちゃうわね』
『昼間なのに、おかしいのです』
さっきまでは日が陰った程度だったけど、今はもう、日が暮れかけの薄暗がりになってきてしまっている。
完全に夜戦入りの状態だ。
『空電に感あり……』
響は軽く首を巡らし、空の一点を指さした。
『敵機だ』
紅い燐光を引きながら頭上を飛び去って行くのは、よく見かける紡錘形の敵機だ。
姫系がよくつんでる、たこ焼き型じゃない方。
離島棲姫を討ち漏らした訳じゃ無いみたいだけど、見つかってしまったのは変わらない。
『姉さん、堕とそう』
『そうね、神通さん、発砲許可をちょうだい!』
『発砲を許可します』
私達は、改めて発砲体勢を取り、艦砲を斉射した。
直撃では無かったが命中はしたらしく、敵機は煙を引きながら海面に突っ込み、消えていった。
『電探に艦影あり、早い、このまま進むと……ポイントチャーリー付近で鉢合わせするわ』
『この海域にyou達以外の水雷戦隊はいない』
東司令の断定に、“内線”の緊張感が一気に高まった。
『なら敵ね』
雷の声も緊張からか、大分平坦な調子になっている。
『Hum、隣の鎮守府からの支援艦隊は既に近海に展開中だが、進路を変えて鎮守府近海まで誘い込むか、Miss.神通?』
『近海へ……確かに今、街は無人です、近海で砲戦が起こっても市民への被害はありませんね』
水雷戦隊が相手なら、私達でも相手に出来る。
でも、輸送用に追加兵装を下ろした今の状態だと、少し分が悪い。
近海まで行って、支援艦隊と合流出きれば大分旗色が良くなりそうだ。。
『では、支援艦隊のDelivery先は鎮守府前でOK?』
『いえ、ポイントチャーリー方面へ展開をお願いします』
『どうしたのです?』
唐突に明後日の方向に結論を持って行った神通さんに、電が戸惑った声を上げる。
『離島棲姫に付いているべき護衛艦隊が、何故いなかったのか、やっと分かった気がします』
神通さんは唐突に話を打ち切ると、視線を動かした。
何か、水平線上に青白くて、どこか不吉な光が浮かんでいる。
海の上に現れる不知火、セントエルモの火みたいな弱々しい光じゃ無くて、突き刺す様な圧迫感を感じる強烈な光線。
『探照灯?』
『私達を捕捉し、挑発しながらも、吶喊してくる訳でも無く、ただ、一定の距離を持って並走しています』
確かに、動きとしては妙だ。
普通の深海棲艦の艦隊は、船や艦娘を捕捉した時点で攻撃してくる。
『ポイントチャーリーは、隣の鎮守府からしてみれば、私達の鎮守府を挟んだ反対側の海域で警戒の範囲外です』
確かに、あの辺は私達の鎮守府が受け持っている警戒海域、の少し外になる。
確かに私たちだってお隣の鎮守府の警戒海域を飛び出た反対側なんて、普段は意識しない。
『そして私達の鎮守府から見た場合、防衛海域のぎりぎり外側になり、輸送船の等の一般船舶の行き来も無く、比較的警戒が薄い場所です』
響が納得したみたいに頷いている気配がする。
『悪事をするなら、人目に付かない場所に限るって事だね、それに、今回みたいに、事前にもしもの時の支援体制を依頼していなければ……』
『私達は支援無しで対応しなきゃいけなかったって事ね』
響の予想を、雷が引き取った。
『ポイントチャーリーに敵の主力艦隊が居るって事ね……でも、感はまだ無いわね』
『まだ、浮上してないのかも知れないのです』
『今の所、聴音機にも感は無し、もっと接近しないとダメね』
接近したとしても、敵が移動せずに水中で静止していれば、探知するのはほぼ不可能だ。
(全く、本当に厄介な話よね)
『私達が素直にポイントチャーリーで戦闘を開始した場合は主力が緊急浮上して挟撃、鎮守府方面に撤退した場合は、主力艦隊と合流した後に鎮守府への攻撃を実施するものと推測します』
『Hum、ならこちらは、Plan B、いや、もうCだな』
相変わらず東司令は真面目なんだかふざけてるんだか分からない。
『私達は、今、ポイントチャーリーに到達する前に、挑発に受けて立ちます、あちらが足を止めて撃ち合うのであれば、我々は挟撃を誘う囮になります、あちらが、合流を目指すのであれば、合流した艦隊をそのままこちらが挟撃する形になります』
『Hum、タイミング次第か、“潜ってる”潜水艦以外の奴らは、水中じゃ、very short-sightedな上にdeafnessになる、だから、可能なら“揚がってる”連中か、潜水艦からの情報を頼りにして浮上するが』
『敵が Destroyer squadron と連携しているならば、Hum、よし、Miss.神通、やってくれ、支援艦隊のポイントチャーリー方面への展開を依頼しておく』
『東水雷戦隊、敵水雷戦隊と交戦に入ります、私に続いて下さい』
進路を変更した神通さんに続いて、私達は、不吉な光の源へ向かい始めた。
『このまま、単縦陣にて敵艦隊に接近、砲撃の後、そのまま肉薄戦闘を仕掛けます』
肉薄戦闘は、お互いの顔が見える距離で“足を止めて”行う海上の白兵戦闘。
艦娘として産まれたばかりの新造艦でも、“かつての大戦”の記憶のおかげで、艦隊を組んで砲雷撃戦をする事くらいは簡単にできる。
でも、人としての手足である擬体、象徴化された船体である艤装をフル活用して戦う肉薄戦闘は、艦戦として生きた“かつての大戦”の記憶では対処できない、純粋に艦娘としての経験と技量がモノを言うところだ。
武器や手足を用いた格闘攻撃に始まり、艦砲の零距離射撃に体当たり等、ありとあらゆる手段が使われるけど、中でも私たち駆逐艦は速度と身軽さを生かして、文字通り飛び跳ね、転がり回って戦う。
速度自慢の島風ちゃん程になると、激突直前に飛び上がった勢いで、長門さんの頭上を飛び越えて、背面に回り込んだりもする。
火力、装甲で比較すれば明らかに劣勢な私達駆逐艦が、強力な戦艦を単独で翻弄し、倒す事だってできる、はずだ。
りろんてき、には。
有効だけど、すごく危険な戦術。
陣形が崩れないギリギリの戦速を出している私たちと敵艦の距離は見る見るうちに縮まっていく。
最初に敵艦が発砲。
もう、筒先から溢れた砲火がはっきりと視認できる距離から飛んできた砲弾は、唸りを立てながら私たちの手前に落ちた。
そのわずかな時間に、神通さんが捉えてスポットした敵影が、輪郭を強調されて浮かび上がる。
不気味な蛍光色を含んで盛りあがる水柱を、陣形を崩さずにスラロームして抜けると、後ろで更に新たな水柱が幾つも上がり、激しく飛び散った。
砲撃から若干遅れて到達させた魚雷が自爆したらしい。
足を止められていたら、酷いことになっていただろう。
『撃ち方始め!』
号令の直後、私たちは左舷側に砲撃した。
神通さんがスポットした敵艦の未来位置に少しずつずらして撃ち込まれた砲弾は幾つかが炸裂し、激しい爆発を引き起こす。
(一隻、沈んだ?)
『肉薄陣形・乙にて左右展開、自由戦闘開始!』
神通さんと、電、雷が左、私、響、夕張さんが右側へ反転し、既に左へ反転しつつある敵艦隊を左右から挟み込む形で展開する。
『軽巡棲姫、確認!足付きね』
今度は、雷がスポットした敵艦が“内線”に共有された。
シオマネキの様に左腕に偏った艤装に、角の生えた仮面。
複縦陣に変化した敵艦隊の先頭に立っているのは、軽巡の“姫”級だ。
二列に分かれた敵艦が左右に砲撃を行いながら、包囲の真ん中を抜けようとする中、私達の砲撃は、軽巡棲姫の直後に続く軽巡ツ級と、駆逐二級にそれぞれ集中した。
至近距離で砲弾が飛び交い、轟音と水柱、そして幾つか爆炎があがる。
そのうちの一発は持ち上げていた左の防盾に炸裂して、肩がはずれそうな激痛が走った。
駆逐級の丸い部分を流用改修した私の防盾は、先端が護拳みたいに手を覆い、内側には殴りつけるのにも使える様、握りもついている。
それでも、少し前、防盾の後ろ側に追加して貰った衝撃吸収装置が無ければどこかへ飛んでいったかも知れない。
(いたた、へ、へっちゃらなんだから……!?)
電から、強い痛みが一刺し発され、すぐに消えた。
悲鳴は聞こえない。
熟練した艦娘は、自分の苦痛を“内線”に持ち込まない。
他の艦娘の命に関わるから。
(あんなに痛い、ひどい傷?)
あまり考える暇もなく、火を噴きながらも止まらない標的を追う形で、更に砲撃を加え続ける。
すると、小さな爆発があがり、駆逐二級側の列の陣形が左右に乱れ、速度が少し落ちた。
防盾をしっかりと構え直して両舷一杯で漂流し始めた二級を追い越すと、大音響と一緒に、硬い破片が叩きつけられる。
微かに響の悪態が聞こえたが、まだ、遅れずに着いてきている、大丈夫。
電達も、もっと後を航行していた駆逐級に攻撃を掛けている様だ。
右側に進路を変更してふらついているツ級のお腹の辺りに、標的を定めて思い切り突き当たると、咄嗟に体をひねって、右腕を振り下ろしてきた。
私の上半身がすっぽり入ってしまいそうな大きな手のひらを、下から思いっきり弾いて、すぐに面舵に転舵。
少し隙間ができた瞬間、背後で砲撃音が轟いた。
頭上をかすめて飛んできた砲弾が作った水柱ををよけきれず、右の防盾を擦り付ける様にして加速し、何とか転覆をこらえる。
バランスをとるのに手一杯な私に、今度はツ級が手を伸ばしてきたが、突然、その背中から炎があがった。
既に左側に位置取りをしていた響が、火炎瓶を投げつけたのだ。
中身はマグネシウムを混ぜた即席ナパームだから、簡単には消えやしない。
巨大な左腕が後ろに振り回されるけど、もう、そこに響は居なかった。
流石私の妹、良い動きだ。
もう一発、今度は私とツ級の間の際どい空間を砲弾が撃ち抜いた。
余り敵一隻を相手にしている訳にはいかないだろう。
長引けば、それだけ敵艦を引き離しておくのが難しくなってしまう。
私と響、電と雷がペアで切り込み、徹底して二対一を守って敵を叩く。
兎に角足を止めずに遊撃する夕張さんが、余った敵達をつつき回して合流を阻止。
そして、神通さんは単独で一番危険な敵を抑えにいく。
機動力と連携が命のこの戦術は、当たり前だけど、長続きはしない。
言ってる間に、後ろにいた二級が加速して追いついてきた。
ハ級と同じで一つ目だけど、少し上側についているせいで、ツリ目に見えるのが特徴だ。
硬い装甲に、戦艦でも当たりどころが悪ければ、一発で大破させられる艦載砲を持った危険な深海棲艦。
でも、すさまじい速度で追ってきた二級が水面から跳び上がった時、もっと別の武器があった事を思い出した。
今からじゃ、艤装の砲塔の旋回は間に合わない。
大体、元々、私たちが積んでいる12.7cm連装砲は平射用で、縦移動する目標を狙うのには向いてないのだ。
大きな口を持つ深海棲艦の噛みつきは、擬体の手足をを食いちぎり、艤装に深い歯形をつける威力がある。
「пошёл во́н(パショール ヴォーン)」
取り舵を深く切って、左の防盾を引き寄せて衝撃に備える自分の感覚とは別に、大声で叫びながら砲撃する響の感覚が流れ込んできた。
命中の手応えを感じたのとほぼ同時に、今までとは比較にならない衝撃が左の防盾にのし掛かる。
一瞬で、緩衝装置のダンパーが破裂して、装置自体が基部からもぎ取られてしまう。
反射的に左足を踏ん張ると、左肩から嫌な音がして、とんでもない激痛が走った。
勢いをつけて垂れ下がった左腕は、ぶらりとして、ぜんぜん上がらない。
肩が外れたのか、折れたのか分からないけど、兎に角しばらくは役に立たないだろう。
“内線”から押し殺した痛みが伝わり、私はちかちかする目を左に向ける。
ツ級の右舷に出た響は振り回された拳を避けきれずに左の防盾で受け止めた。
横腹から伝わった重たい衝撃が、竜骨を軋ませながらつま先と頭に拡散してゆく。
膝が崩れかかり、航跡がぶれ始める。
(砲は右手、まだ、戦えるわ!)
私達は艦娘、擬体が折れ、千切れて、穴が開いても戦い続けることができる。
その筈だ。
私は歯を食いしばって、ツ級の燃える背中に砲を向けて撃つ。
右手を震わせて5インチ砲が斉射され、砲弾が一瞬で着弾する。
炎と装甲の欠片がぱぱぱっと飛び散り、衝撃がツ級の体を少し揺らした。
でも、ツ級は痛みなど感じていないみたいにもう一度拳を振り抜き、響の防盾を大きく歪ませる。
もう一撃、船速を合わせて振り下ろされた拳は、響が取り出しかけた錨を弾き飛ばし、そのまま防盾を持たない右の魚雷発射管の先に打ち下ろされ、凄まじい衝撃音をたてた。
直撃を受けた上段の管がめしゃりと潰れ、それより下の管は拳に引っかかって中身の魚雷ごと回転しながら吹っ飛んでいく。
速度が落ち、距離が離れ始めた響に巨大な腕に載った砲を持ち上げるツ級の姿が、私の目の中ではとてもゆっくりに見えた。
じれったい程ゆっくりと装填された砲弾を、狙いをつけるのももどかしく発射する。
吸った息を吐き始める前に、ツ級の腕の装甲が砕け、頭が殴りつけられた弾け飛んだ、でも、動きは止まらない。
深海棲艦も私たちと同じく、艤装のバイタルパートを完全に破壊されない限り、死なないのだ。
次弾の発射では間に合わない。
私は、両舷を一杯にし、残った腕で錨を振りかざす。
響の前に割り込む寸前、飛来した砲弾がツ級の背中に着弾し、炎を丸ごと消し飛ばした。
船足を落として、ゆっくりと傾いてゆくツ級の背中にぽっかりと穴が開いている。
(20.3cm砲……夕張さんが支援してくれたんだ)
暗い中だとやっぱり、炎はよく目立つ。
火炎瓶は相手を怯ませる為にも使うけど、支援砲火の目印も兼ねている。
“内線”で繋がっている私達は、誰かが敵の場所を把握してさえいれば、全艦が敵の場所を知っているのと同じ。
でも、“目印”をつけて、“私の目”と“夕張さんの目”で見比べる事ができれば、精度は段違いになる。
体勢を立て直した響が、ツ級の脇を通り抜けざま、投擲魚雷を大穴に放り込んだ。
『прощаться(プロッシャツチャ)』
微かな呟きが聞こえて数秒後、大きな爆発がツ級の船体を歪ませる。
そして、次の瞬間、一際大きな爆音が轟いて、ツ級の船体が跳び上がった。
爆発に引き裂かれた船体が、炎と煙を吹き出しながら、みるみるうちに水面下に沈んでゆく。
水の中でも消えない、青い炎が海中を照らしながらゆらゆらと、沈んでゆく光景は、怖いくらいに綺麗だ。
(なにかしら?)
ふと、水の底に何か巨大な影を見た気がして、私ははっ、と棒立ちになった。
『どうしたんだい?』
『何か、下に』
『潜水艦?』
『何か、もっと大きかったけど』
『……水面下に、感なし、でも、注意はした方がよいのです』
響の警戒感が伝わったらしく、電からも“内線”が入った。
抑えては居るけど、凄く苦しそうだ。
艤装本体に直撃を受けているに違いない。
腰を落として、私は船速を上げた。
取り舵に転舵して、戦闘海域へ戻るコース。
なんだか、嫌な予感がする。
けど、兎に角、電達を援護しなくちゃ駄目だ。
『you達のsupportに向かっていた、Friendly Fleetが敵とEngageし、砲戦距離で交戦中だ……hum、しかし、“足の速い”艦はそのままそちらへSupportに向かってくれるそうだ』
神通さんの読み通り、敵艦は海中に主力を伏せていたみたいだ。
でも、こちらは思ったより苦戦している。
早く何とかしないと、更に敵の増援が姿を現す可能性だってある。
離島棲姫の近くに随伴していた駆逐級だって、一緒に吹き飛んだ保証はないのだ。
『姉さん、腕が……大丈夫かい?』
『かすり傷よ、響こそは誘爆は大丈夫なの?』
私に合わせて取り舵に転舵した響から“内線”が入る。
少し左後方を走る響の艤装は右の魚雷発射管が二本脱落しているし、他の二本もへしゃげて傾いてしまっていた。
あれでは、もう、発射は無理だろう。
『не волнуйся (ニ ヴァルヌーィスィヤ
)……いいんだ、姉さんが無事なら、さぁ、電たちを助けに行こう』
『わかったわ、でも、あんまり無理しちゃダメよ』
雷と電は雷巡チ級を大破させたけど、まだ、無傷の駆逐二級に苦戦している。
神通さんは軽巡棲姫と近接戦闘中だ。
戦闘海域を時計回りにゆっくり円を描く様に移動しながら、つかず離れず、追撃と応戦、そして時折足を止め、手が触れ合う距離での格闘戦を行う。
また、二人の足が止まり、軽巡棲姫の艤装から放たれる探照灯の光が、少しの間だけ、夕張さんの姿を青白く照らし出す。
すぐに、ふっと離れた。
格闘の攻防は一瞬だ。
どうしようもなく二人の位置が近すぎて、位置の入れ替わりも激しい。
あれじゃ、夕張さんも支援できない。
『Не беспокойся(ニエ ベスパコーイシャ)、神通さんは強い、負けないさ』
そうだ、神通さんは強い。
私達は、それを知っている。
十分、知ってる筈だ。
(!?)
まぶしい光に焼かれて、私は目を細めた。
軽巡棲姫の探照灯だ。
短い時間でもまともに見てしまったら目を灼かれてしまう。
すぐに離れるかと思ったら、なかなか離れない。
(なによ、もう!)
そんな暇はなさそうだったのに、これじゃ良い的だ。
私は、目を細めて船足を早めた。
(早く、振り切らなくちゃ)
今回のお話し、如何だったでしょうか?
次回も、まだ、戦闘は続きます。
ここまで読んでいただきありがとう御座いました。
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