一方、“暁”の幻想郷に捕らわれた東水雷戦隊の“暁”達は、最後の脱出作戦“陽号作戦”決行前の準備を行っていたが、明らかにヤバい事になっている夕張の様子にドン引きし、東との最後の別れに暁は赤面を強いられるのであった。
【暁の幻夢境・港湾棲姫鎮守府・工廠 東水雷戦隊と深海棲艦達】
工廠内はカオスだった。
最後の出撃の為に、艦娘も深海棲艦も入り交じって総員が艤装を重武装し、弾薬と重油をしこたま補給している。
燃料切れになるまで長期間の戦いになる想定はない。
だが、次に補給を受けられるあてはないのだ、可能な限りの資源を積み込んでおく必要がある。 早々に準備を済ませた神通さんが、電の艤装調整を手伝っているし、雷は何故か深海棲艦の“叢雲”の艤装整備を手伝ってあげていた。
流石第六駆逐一の世話好きさんだ、“叢雲”はちょっと戸惑っているみたいだけど、雷はぐいぐい押して、整備を進めてゆく。
「私もはやくしなくちゃ」
暁は整備台の上に載っかった自分の艤装に向き直る。
普通の擬装の構造材に混じって、深海棲艦の艤装金属の色が差し色みたいになって、なんだか不思議な色合いだ。
見ようによってはお洒落なのかも知れない。
(無理よねぇ……)
良かった探ししようかと思ったのだが、流石に無理だ。
工廠の壁に貼ってある鏡に眼をやると、髪の毛が殆ど白くて、肌もミルク色で、瞳が蒼い女の子が見つめ返している。
一部だけ黒い髪の毛が残っているのが、まるでメッシュで差し色をしたみたいに見えた。
そっちが地毛なのに。
「あーあ、みっともなく、嫌になっちゃうわ」
「暁は可愛いよ、それに、髪の色は私とお揃いだ」
落ち着いた声が背後からかけられる。
暁が振り返ると、そこには弾薬箱を抱えた響が居た。
「まだ艤装の整備終わって無いんだろう、私は終わったから手伝うよ」
「え?ふぇー!いつの間にかもうみんな終わりそうだし!」
暁は響に手伝って貰いながら、慌てて艤装の整備と補給をする。
別に装備自体は組み合わせを特に変える気はないので、そこまで時間はかからない。
火砲に魚雷発射機、機銃、爆雷投射器に電探、ソナー、弾薬と燃料、あと、火炎瓶とか、防楯に装備する三連装二番ゲージ散弾発射筒とかの正規品じゃない補助装備等を点検。
前の戦闘で殆ど喪失、全損していたので、それは寝てる間に再装備して貰っていたので問題は無い。
ただ、危険回避の為、弾薬については補給されていなかったので、弾薬と雑多な補給品を艤装の妖精さんに渡してどんどん運び込んで貰う。
(あとは何かあったかしら?)
暁は艤装の周りをぐるりと回りながら検分して、何となく違和感を感じ、リストを確認する。
特に不足はない。
「あ!」
肝心なものが抜けている。
響もうっかりする事があるんだなぁと、思いつつ、暁は備品の棚を漁り、目的のものを持って艤装に取り付けようとすると、手首をがしっ、と掴まれた。
「暁、“それ”は要らないよ」
「でも、いつもつけてるし、とれんどまーく?ってやつなのよ!」
昏い眼をして、暁の手首と“探照灯”をがっちり握っている響に戸惑いの眼を向ける。
「大丈夫、“今回は私の艤装に付けてる”、だから姉さんはつける必要がないんだ」
「しょ……しょうがないわねぇ」
反論しがたい凄まじい圧を感じ、暁は仕方なく探照灯を付けるのを後回しにする事にした。
「そう言えば、司令官はどこ行ったのかしら?」
「彼なら、夕張さんと基地の囮を準備しているよ」
この泊地を放棄するに辺り、敵の攻撃をできるだけ長くこの基地に惹き付ける為、夕張と京太郎提督は、深海棲艦達の手も借りて、自動攻撃システムやトラップ等を残り少ない時間を使って設置し、出来る限り強固な要塞に作り替えていたのだ。
「アイツラナラ、サッキ、ソトニデテイッタゾ」
「ありがとう」
廊下に出てきょろきょろしてたら、瑞鶴さんが夕張さん達の場所を教えてくれた……本当は空母棲姫らしいけど、演技をやめたのか、見た目は同じだけど、しゃべり方はちょっとぶっきらぼうになった気がする。
『_)&^$#%&*)&^%$$#$%()+&$$&*(#$%^&*(%$##@#$%^&*い!』
外から、めいじょうしがたい叫び声が聞こえてきた。
とても人間の喉から出るとは思えないけど、機械的じゃない音。
「な……なに?」
「いってみよう」
ちょっとドン引きしてしまったが、響に促されて建物の外へ出る。
外は薄暗くて、空はまるで固まりかけてねっとりした血みたいな色のままだ。
“翔鶴”さんは、もう日は昇らないだろう、と言っていた。
それでも星が瞬いている事で空だと分かる。
また、絶叫が聞こえた。
「なによもう」
絶叫が聞こえてきた方へ行ってみると、工廠の前に何か大きなものが置かれていて、その周りで夕張さんが文字通り飛び跳ねながら踊り狂っていた。
「な……何かの儀式なのかしら?」
「……ロボットがいるね」
言われてみれば、そこに置かれているのはなんだか、あちこちが尖ったデザイン……センスじゃなくて、形が尖ったやつ、多分立ち上がれば人の背丈の二倍はありそう……兎に角、凄くアニメ的なロボット、それがしゃがむ様に駐機していた。
全体的に青っぽい色で塗られていて、縁取りとかに黄色に差し色がある。
頭の後頭部からは、真っ赤でまっすぐなアンテナが斜めに突きだして、まるで鶏冠みたいにすごく目立つ。
左肩のパーツには、巨大な鋭角三角形の盾が装備されていて、先っちょからは鋭い杭の穂先みたいなものが見えている。
「ぎゃぁぁぁー!1/1!1/1!実写のテスタロッサ!本物、本物よぉ!うごくの?モックアップじゃない?ほんと、乗りだいぃぃぃ、動かしだいッッッッ!血反吐吐いて、ケインに“守ったぜ、ちょっと汚れちまったけどな”とか言ってみたーい!もしかして、カラミティドッグとか、スーパーエクスキュージョン改装済みのベルゼルガとか、シャドウ・フレアもあったりするの!フィアダンベルもいいけど、ハウリングベアも絶対可愛いわよね!ツヴァークはちょっとおもしろ系だし、L級ならポイゾナスクラブのストレートな歩く棺桶デザインもいいわよね!ていうか、この子が居るって事はレグジオネータも居るの?え、それなら、完全整備の兇兵器も見たいんだけど!」
両手にテストハンマーとモンキーレンチを握りしめ、ロボットの周囲を飛び跳ねながらぐるぐると周り、謎の呪文を高速詠唱し続ける夕張さんは、なんか、偶像の周りで謎の踊りを捧げるシャーマンみたいになっていた。
涎を垂らして、っていうか、飛び散ってるし……もう、女の子がしちゃいけない顔だ、あれは。
「ОФИГЕТЬ! 、ロシアにもウォッカ代わりに殺虫剤とか接着剤呑みだすヤバいのは居たけど、また別の意味でおかしいね……」
響も流石に呆れた様子で呟いている。
相変わらず落ち着く声だ。
流石私の妹、声も可愛い。
暁は、ぼーっと、目線を流して、響の呆れ声ASMRに癒される。
「お気に召された様で幸いでございます」
現実逃避は、やけに芝居がかった男性の声に中断される。
声がして初めて気が付いたが、駐機しているロボットの横に、東指令が立っていた。
いつも着ていた学生服じゃなくて、ちょっと変わった、なんていうか、潜水服というか、宇宙服というか、そういう感じの服を着ている。
全体的に真っ赤っかで、もの凄く派手だ。
茶色の肩パットにサスペンダー、肘あてに膝あて、幅広のベルトに大きなバックル。
ズボンは太股から膝あたりまでが太い乗馬ズボンみたいなスタイル。
太股のホルスターには銃身を詰めた散弾銃みたいな、すごく大きな拳銃があって、お腹の所には小型のボンベが横向きについている。
抱えてるヘルメットはガスマスク一体型で顔のシールドガラスははめごろし、その上から魚眼レンズみたいなカメラがついてるゴールを上下して肉眼とカメラ視覚を切り替えできる様になってるみたいだ。
全体的にみると結構かっこいい。
「……」
ここ一番高く跳躍した夕張さんの動きが、空中で、ぴたっ、と止まると、受け身もとらずに地面に激突する。
結構激しい音がした。
流石に艦娘でも、あれはちょっと痛い。
「あ、起きた」
アスファルトにできた小さな亀裂からむくりと身を起こした夕張さんは、憑き物が落ちた様に、真顔に戻っていた。
「ふぅ……勤務中久しぶりに、至ってしまったわ、でも、1/1、実写、しかも触れるッ!更には稼動する本物ぉ!仕方ない、仕方ないわね……あるのがいけない!!!あるのがいけない!!!!」
ひとしきりぺたぺた触りながら叫ぶと、何故か清々しい表情で頷いた夕張さんは、東提督に向き直る。
「パイルバンカーは?」
「単結晶金属製、クエント純正品」
「キューブは?」
「機体組み込み済」
「“彼”以外の“旧劣種”、その他人類が乗ったら?」
「ことごとく死に至ります」
「パーフェクト、パーフェクトだわ、ウォルター!」
「感謝の極み」
全く意味の分からない問答に満面の笑みを浮かべる夕張さんに、執事さんみたいに胸に手を当てて一礼する東指令。
「えぇ、死んじゃうの?……ウォルターって誰かしら?」
本当に全く意味が分からない。
困って響に顔を向けると、すっ、と眼を逸らされた。
「私にだって……わからないことぐらい……あるよ……」
まぁ、そりゃそうである。
「ねぇ、ちょっだけぇ、ちょっとだけだからぁ~、一踏み、一踏みの加速だけでいぃのぉ!」
「Sorry、許可できないな、Mission前に、youに入渠が必要になったら、困る」
(うわぁ……)
地面にモ○グス様式五体投地をした挙げ句、ブーツに縋り付いてロボットに乗りたがる夕張さんの姿にどん引きしていると、響にそっと眼を塞がれた。
「Неприлично……あれはわたしたちには救えぬものだよ」
そんなこんなでみんなの準備が整ったのは、二時間位後だ。
結局夕張さんは、粘った挙げ句、ロボットはダメだったけど、なんか、二メートル位ある“いんさにてぃほーす”っていう対戦車ライフルと、東指令が太股につけてるのと同じ“あーままぐなむ”っていう凄く大きな拳銃を貰って試射していた。
なんか、対戦車ライフルの方は十発撃たない間に大爆発したけど、夕張さんは何故か“原作再現”とか言って滅茶苦茶喜んでいる。
何なんだろう、分からない世界だ。
あと、爆発で擬体が血塗れになっていたので、夕張さんは結局入渠した。
【暁の幻夢境・港湾棲姫鎮守府・食堂 東水雷戦隊と深海棲艦達】
基地の放棄前の最後のブリーフィングで全員が食堂へ集まった。
不明座標“X”からの脱出……“陽号作戦”の最終確認。
とは言っても、作戦自体は至極単純なものだ。
私達は徒歩でこっそり、島の裏にある、小さな鎮守府へと移動し、港湾棲姫達の鎮守府で陽動が始まったのを確認したら、島から離れ、一目散に逃げる。
そして、明かりが射す場所、“外への出口”を探し出して脱出。
“現実”に帰還できたら、捕まってるとこから逃げ出して、捕まえてた敵“ぬくぱな?”を撃退して帰投する。
「シンプルで分かり易い作戦ね、実現性に懸念がある以外は」
ホワイトボード前で黒マーカーを持っている東指令に対して、翔鶴さんのコメントは、しんらつ、だ。
「状況が状況だけに、ある程度の不確定要素を含まざるを得ないのは理解しますが、作戦段階の具体的な対処について、再確認が必要かと」
まぁ、流されて動いてた感はあるけど、確かに、作戦としては、いくら何でもふわっとし過ぎだ。
「大体、闇雲に突き進むみたいに言ってるけど“明かりの射す場所”がどこかなんてわかってるのカ?」
確かに、具体的な座標も無しに海に出れば、どこにもたどり着けやしないだろう。
「Hum……確かに“外”の海ならば問題だが、ここは“外”じゃない、petite et dabitur vobis quaerite et invenietis pulsate et aperietur vobis、求め、捜し、門を叩けば開く、意志の問題なんだ」
つい響の方へ目をやると、雷と電も一緒に目線を向けていた。
流石、私の姉妹、思う事は一緒だ。
「боже мой……なんでみんな私の方を見るんだい」
響は少し呆れた様に言うと、東指令の方へ目線を向ける。
「確か、マタイによる福音書 の 第7章、第7節?だったね……元の意味は兎も角、司令官が言いたいのは、“脱出する”という強い意志を持って行動する事が大事だから、細かい作戦行動を気にしてもしょうがない、って事であってるかな?」
「That's Right、君達の“意志”が結果を引き寄せ、こじ開ける、唯一の鍵だ」
正解だった。
(響、物知り!賢い!流石私の妹ね!)
「“夢”から脱出するのに、“帰りたい”と強く願い続ける必要があるのは分かったのです、でも、脱出した後は、そうもいかないと思うのです」
「そうですね、武装は封印されているか、破損、良くても消耗しているでしょう、前回の会議では、“両軍”で呼応し、戦術的な数敵優位を保ちつつ強行突破する想定ですが、もう少し、私達が監禁されている場所の見取り図等あれば、対処が容易になるのですが」
電の言葉に、神通さんが頷く。
そりゃそうだ、手当たり次第、手近の敵を囲んで棒で殴りながら適当に彷徨けばその内出られるだろう、なんて、作戦と言うにはお粗末過ぎる。
「Hum、その事なんだが……be in luck実は、“手引き”の手配はついてる、“丁度そういうのが得意”な
Agentがこの世界に居着いてたからな、“順路”の確保とRoute signの設置、Fire supportも依頼済だ、Escape routeについては何とかなるだろう」
「司令官はちゃんと手配してたのですね」
「閉所戦闘になる想定ですが……経路確保がされているなら、圧し通る事も可能でしょう」
「流石にその辺は手を抜いてないわね……“居着いてる”と言うのは気になるけど」
この世界を脱出した後の事も、ちゃんと東指令は手配していたらしい。
いい加減な様に見えて、契約について話す時だけは、すごく真面目な顔をしていた。
私達を全員無事におじいちゃんの所へ返そうとしているのは本当だと思う。
(信用するしか無いわね)
「なら、最後は私達が“外”に出られた後ね……私達は可能な限り“同胞”を回収しながら“奴”に攻撃をかけるわ、その間、私は“歌って”呼びかけ続ける、そうすれば少しは向こうの統制を乱す事ができる」
「ECMね、でも、IFFはどうしようかしら……いや、IFFで誤魔化しても、目視で深海棲艦と認識されたら普通に撃たれるわね、ていうか、私も撃つわね」
考え込む夕張さんに、神通さんも頷く。
そりゃ、絶対的な敵対存在として、教育されている相手がいきなり出てきたら私だって撃つ。
迷ってたら沈むのはこっちだし。
「Hum、そこは話がややこしくなりそうだから、Disguiseについても準備した」
東指令はそう言うと、机の上にどさっ、と大判のシールの山を置いた。
錨にかかったブーゲンビリアの首飾り、翔鶴さん達の部隊章、これは艤装に貼り付けるやつだ。
「それを貼っておけば、“外”でも今のままのDisguiseをしたままにできる、保つのはOne nightだが、充分だろう」
「でも、殆どの駆逐級の子はむりじゃないかしら?」
雷が少し暗い顔で港の方へ眼をやっている。
食堂に来ている駆逐、軽巡級は少ない。
深海棲艦の水雷戦隊は余程の上位種にならない限り、人型の擬体を持たない為、艦娘への擬態をしていないのだ。
少し前まで敵だった、というか、また多分すぐ敵に戻る深海棲艦の事まで心配し、心を痛めているのだ。
なんて、優しい子なのか、私の妹は優しすぎて心配になってしまう。
「気にしなくていいよ、“ウチの”駆逐軽巡級なんて、あんた達と違って、大体会話出来る程の自我を持ってないんだから、まぁ、沈められ過ぎると戦力的には痛いけどね」
「そう、かしら……?」
瑞鶴さんが軽い調子で雷の心配を一蹴したけど、表情は晴れない。
そりゃ、雷は犬猫にだって優しいのだ、一度情を持った相手の生死がかかれば、心配してしまう。
「……そうね、一応目印として、“外”ではこちらが統制に置いている艦は、桜色の光でも散らしておきましょう、こんな感じに」
翔鶴の言葉と同時に、深海棲艦達が桜色のオーラに包まれ、はらはらと桜の花びら型の光を散らし始めた。
「これなら大分目立ちますね、有視界戦闘であれば充分かと」
「外に出たら、真っ先に伝えないといけないわね、“桜の散っている艦は撃つな”って」
灯りの点いた室内でもはっきり分かるその光量を見て、夕張さんと神通さんも頷いている。
「急いで、甚五郎さんに言うのです」
電も拳を握ってふんす、と気合いを入れていた。
かわいい。
【暁の幻夢境・港湾棲姫鎮守府・裏門 東水雷戦隊と深海棲艦達】
最終ブリーフィングを済ませた私達は裏門に面した駐車場、という名前の広場に集合していた。
いよいよ、拠点を破棄して出航するのだと思うと、緊張感が高まってくる。
左右に分かれて整列した艦娘と深海棲艦の前で、“たいあつふく”姿の東指令が敬礼した。
「Ladies’ここに至るまで、you達のpatience and effortは筆舌に尽くしがたいものだった、だが、それが報われるには、まだ、Struggle through……一層の苦闘がある、だが、やり抜ける、そう信じる」
今までに無く真面目な顔で言い切った東指令は……何故かつかつかと私の前まで歩いてきた。
「ふぇ?な、何かしら?……って、ええぇっ!」
いきなり片膝をついた指令にびっくりしてしまったが、右手をそっと下から持ち上げる様に取られると、体が固まってしまった。
手の甲に柔らかい感触がして、キスされた事に気がつくと、もう、頭は真っ白だ。
まるで、乙女なファンタジーの騎士がお姫様にする様なキスだ。
現実でやられると、びっくりする、もの凄く。
艤装を展開してなくて良かった。
今、艤装を出してたら、両舷一杯する時並に空ぶかしの音が轟いていただろう。
「My Lady、どんな闇の中でも周囲を照らすあなたの天真爛漫さ、そして、人を救う為に全てを棄てる事を躊躇わぬ気高き献身、そして姉妹達への何よりも深い慈愛に心からの敬意を捧げます」
顔を上げた東指令の顔はとてもきりっとしていて、もともと顔はかなりハンサムな方なので、私の顔は頭の中とは真逆に真っ赤になったしまった。
「あなたの進む道先の最後までご一緒できぬこの身をお許し下さい、Lady“暁”あなたの名の下に明けぬ夜は明け、気高い決意の前に永久(とこしえ)の闇すら屈する事でしょう……My Lady、名残惜しいですがこれにてお別れでございます、あなたの航海に全ての幸いがあらんことを」
余りの事に、立ち上がった東指令が深々と一礼して、後ろに駐機していたロボット“テスタロッサ”に乗り込んで、ハッチが閉鎖されるまで思考が戻ってこなかった。
「ねえさん?……あぁ、戻ってきた?」
「凄いわ、お姫様と騎士みたいじゃない!」
「暁ちゃん、一人前のレディなのです」
響が目の前で手をふりふりした所で、私は再起動し、去って行く大きな騎士の背中へ叫んだ。
「バイバイ指令!また会いましょう!」
折角レディ扱いして貰ったのに、全然レディっぽい台詞が出てこないけど、仕方ない。
咄嗟に出てくるのはいつもの言葉なんだから。
“テスタロッサ”が振り向き、手にした機体全長より長いライフルを捧げ筒みたいに掲げる。
『See you again My lady!』
そして、脚のローラーを甲高い音をさせて回転させると、凄い速度で走り去って行った。
ホントに騎士みたいな立ち去り方で、もう一回ぽうっとなってしまう。
不覚、一人前のレディにはまだ遠いなぁ、と。
「くぅう!やっぱ動いてるとこ最高よね!」
小さな男の子みたいに滅茶苦茶喜んでる夕張さんの事は意識の外に追いやり、もう少しだけ私は余韻に浸るのだ。
To Be Countinued...
この小説の裏テーマの一つ、“暁ちゃんをガチもんの一人前のれでぃ扱いする”を達成。
頑張って最後まで書くぞ!