深海戦線 ~ポイントX撤退作戦~   作:八切武士

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 神威鎮守府側、不知火さん達のお話です。
 朝食の席の何気ない会話、ガールズトークでも炸裂してるんでしょうか?

※ここの黒潮さんはいんちき京言葉寄りになまってる様です。

《“神威”鎮守府豆知識:鎮守府の構成員》

Q.鎮守府って提督と艦娘しか居ないの?
A.もちろん違います。
  ある程度以上の規模の鎮守府であれば、基地の運営に従事する人間の一般職員が多数勤務しています。
  また、提督以外にも、妖精さんの“視える”人がやっている特殊職として、艦娘達の医療面をケアする“妖精医者(ウィッチドクター)”、装備開発の修理、開発を担当する“妖精鍛冶(或いは魔鍛冶師)”等も居ます。




 【第四話 鎮守府怪談PartⅡ うしろに立つ重巡】

【単冠湾泊地・厚生棟内カフェテリア】

 

 

 艦娘だけでも、居住者が常時100名を超える神威鎮守府内には、生活の為の施設がかなり充実している。

 できる限り鎮守府内で生活環境が完結する様に施設が設計されている為で、面積こそ狭いが、“神威”鎮守府は択捉島内では、かなり大きな“町”の一つであった。

 中でも、幾つもの食堂や売店が集結した“厚生棟”(※)は島唯一のショッピングモール型の施設であり、全職員の憩いの場となっている。

 

 

<----- ※“厚生棟” ----->

 

 鎮守府、特に神威鎮守府の様な民間組織は、公的な発言、文書等にて置き換え可能な用語に関しては意識して軍事用語を用いない様になっている。

 だが艦娘達の中には呼び慣れた名称を好む者達も居り、厚生棟は“酒保”と呼称される事が多い。

 

<----- ※“厚生棟” ----->

 

 

「暁のゆーれい?…幾ら何でも不謹慎だわ」

 

 モーニングプレートのスクランブルエッグをつつきながら、陽炎はため息でもつきたそうな表情を浮かべる。

 

「うちも、聞いただけさかい、こまいとこまで知らんえ」

 

 最初に話題を切り出した黒潮は、ゆっくりとした口調で返すと、ホットサンドを一口かじった。

 不知火は無言で巨大なかき揚げを箸でよけ、うどんをつまみ上げる。

 

「見た言うてはるんは、夜勤当番やった初雪ちゃんやね」

「ああ、あの子ね…寝ぼけて見間違えたんでしょ、まさか夜叩き起こされたのって、あの子が寝ぼけたせいとか?」

 

 黒潮から、当事者の名前を聞いた陽炎は、一口珈琲を飲んでからトーストを囓る。

 シフトが来る度に、姉妹艦に寝床から引きずり出され、下手をすると着替えまで介護されているとまで噂される初雪のやる気の無さ。

 少なくとも、朝だろうが夜だろうが、常に眠そうな顔をしてるのは事実である。

 

「さすがに、そやないなぁ、一緒に夜勤をしとった白雪ちゃんも見た、言うてはったえ」

「白雪ね、まぁ、あの子も少しとぼけた所はあるけど、初雪と較べたら微々たるものよね」

 

 “初雪ヘルパー”中の面倒見の良さと、見た目の委員長っぽさ。

 それに反比例する様にたまにとんちんかんな言動をする為、年長者からは面白がられる傾向がある。

 ただ、本人は至って真面目な為、何故面白がられているのか分かっていない模様。

 

「誰かは知らへんけど、初雪ちゃんが、泥だらけでしくしく泣いてる子を入渠させるとこは見た言うてはったわぁ」

「それだけじゃないんでしょ?」

 

 夜間哨戒が普通に行われている以上、誰かが夜半に入渠するのは別に普通の話である。

 

「そや、白雪ちゃんは、一緒におった叢雲ちゃんに当直班長の那智はんへの連絡を任せて、泥で汚れた床を掃除してはった」

「まぁ、そうよね」

 

 ごく普通の手順である。

 

「でもなぁ、哨戒に出てた子ら、そん時なぁ、まだいーひんかったん」

「帰ってきてなかった?」

 

 陽炎は若干柔らかめに火が通されたベーコンでライスとスクランブルエッグを巻き込み、口に入れた。

 

「予定の帰港時刻より随分早う帰ってきはったって事で、那智はん、何かどえらい事でもあったんかとあんじはって、様子を見に行かはったんえ」

「…む、ん…まぁ、一人も当直班長に報告せずにドック直行なんて、普通はしないわね」

 

 そんないい加減な真似をしたら、艦隊総員連帯責任で、単冠湾20周とか、倒立指立て1時間とか…素敵な突発訓練メニューが追加されかねない。

 

「那智はんがドックを確認したら…」

「誰も居なかったって?」

「いけずやねぇ、でも、ドックの中が泥まみれになってたちゅう事で…」

 

 意味ありげに語尾を切り、黒潮はコーンポタージュを飲む。

 

「はぁ、結局、夜中に叩き起こされたのは幽霊騒ぎのせいだった訳ね」

 

 陽炎は軽く欠伸を抑えて珈琲を飲む。

 昨夜は真夜中に駆逐艦娘の緊急点呼があり、全く理由が分からないまま、しばし安眠を破られる羽目になった。

 ただ、総員ではなく室長点呼だった為、寝不足になったのは主に一番艦達である。

 

「結局、全員揃ってたじゃない」

 

 暁型以外は。

 

 陽炎は言葉を飲み込んで、スクランブルエッグにケチャップを足す。

 

「そやねぇ…」

「お先に、失礼します」

「はーい、あとでなぁ」

 

 立ち上がった不知火の手元を見て、陽炎は微かに眉をひそめる。

 

「しょうがないわねぇ」

 

 

【神威鎮守府・格納庫:陽炎型三人娘】

 

 

 装備の点検や整備が行われている区域を抜け、人通りの少ない一角に入る。

 昼でも暗い部屋を、頼り無い電気ランタンの光がかろうじて照らしている。

 半端になった素材や故障備品、破損し交換された艤装の部品等、置き場に困るが、簡単に捨ててしまう訳にも行かないものがしまい込まれている一角。

 ごみ置き場、と言うには忍びない場所。

 

(墓場…)

 

 そう、ここに置かれたものは埋葬されたのだ。

 来世がある事を夢見て埋葬されたミイラ達。

 鉄棚の迷路に守られた墳墓。

 間違いない。

 この建物で、これ以上相応しい場所は無い。

 そして、突き進んだ最奥にそれは安置されていた。

 区分け収納の小倉庫代わりに並べられたコンテナ。

 半開きになった扉を掴んで引き上ける。

 埃が光の粒子を散らしながら舞い上がった。

 歪み、へしゃげて、厚みが半分も無くなった駆逐艦の艤装。

 乾いた泥がこびり付き、塗装が剥げた地金は錆を吹いている。

 辛うじて判別できる識別番号は、知っているものとは違う。

 

(特型駆逐艦、暁…私の知っている暁ではない)

 

 不知火は艤装の本体に手を伸ばし、すぐに戻した。

 体がよろめく。

 床で横倒しになったランタンが明滅する。

 不規則に回転するタービンが呼吸を詰まらせた。

 

(…分かった)

 

 最初に艤装の一部に触れた時の違和感、まるで深海の水の様な魂の底を侵す様な冷たさ。

 死だ。

 

「しっかりしいや!」

 

 すぐ近くで、声が響いた。

 黒潮だ。

 薄暗いし揺れが酷いが、流石に姉妹の顔位は分かる。

 圧迫を感じる。

 揺れているのは、肩を激しく揺さぶられているからだ。

 視界外までフルスイングされた平手を止め、逆の手で額を抑える。

 

「流石にそれは不要です」

 

 まだ、世界が若干遠いが、知覚がゆっくりと戻ってくる。

 

「ほんに?あんじょうせないかんえ」

 

 疑わしげに覗き込む黒潮に顔を拭われて、不知火は初めて自分が涙を流している事に気がついた。

 

「幽霊の正体、じゃなくて、本体見たりってところかしら」

「触らないで、危険です」

 

 コンテナに踏み込み、艤装の周りを歩いている陽炎に、不知火は警告する。

 

「分かってるわよ、あんたがへたばる位だから、相当でしょ…これ、うちの子じゃないわね?」

 

 陽炎も、識別番号に気がついているらしい。

 

「そやかて、こないな時に…暁型やなんて、げんくそわるいわぁ」

 

 黒潮が不知火に絡めた腕に力が入る。

 不安な心地が膨れ上がり、抑えられないのだ。

 それも致し方ない事だ。

 人間とて、同族の死体を見れば忌避感を抱く。

 増してや、幽霊はそこに居るのだ。

 

「まだ、そこに居ます」

 

 埃のせいか、喉がいがらっぽい。

 

「い、いややわぁ、何、急にいちびった事言うてぇ?」

 

 黒潮は益々不知火にしがみつき、周囲を見回す。

 腕を組んだ陽炎は、首を傾げて不知火をじっと見ている。

 

「その艤装の中に、まだ暁は居ます」

 

 もう一度、言う。

 

「そこで、死に続けている」

 

 陽炎の瞳孔が拡大し、やがて深い息をついた。

 

「…あんたが言うことだものねぇ」

 

 若干呆れた口調で呟いてから、頷く。

 上げた顔には苦笑が浮かんでいる。

 

「枯れ尾花どころか、幽霊そのもの見つけたってね」

「か、陽炎ちゃんまで、何いうとるんえ、うちらかて沈んだらしまいやないか!」

 

 轟沈した艦娘は海へ還る。

 その後、艤装が引き揚げられても、それは単なる残骸に過ぎない。

 艦娘とて死ぬのだ。

 

「死ぬなら、幽霊くらい出るでしょ、と言うか、元々私らだって軍艦の幽霊みたいなもんじゃない」

「そやかて、陽炎ちゃん」

 

 不意に、陽炎が唇の前で人差し指をたて、電気を消した。

 足音と共に、何か食欲を刺激する香りが近付いてくる。

 3人は言葉を発しないまま、単縦陣を組んで移動を開始。

 そっとその場を離れて伺っていると、紙袋を持った青葉が姿を現した。

 青葉は辺りを軽く見回した後、適当な箱の上に腰を下ろして、紙袋を開ける。

 珈琲に加えて、油と焦げた小麦の香り。

 ドーナツであった。

 

(…サボり)

 

 三人の頭の中に同じ言葉が浮かぶ。

 日常的な感覚を呼び戻す風景に三人は顔を見合わせてから、倉庫から脱出する。 

 

「そやなぁ、サボるならええとこやし…」

 

 どこかほっとした様に笑う黒潮。

 

「私達はそろそろサボりすぎね、移動するわよ」

「もう、そないな時間?あかんえ、はよせな」

 

 三人はそのまま歩き出す。

 

「一つ良いですか?」

「何?」

 

 不知火は前を歩く陽炎の背に声をかける。

 

「何故、あそこまで尾けてきたのですか?」

「他はどうだか知らないけど、私らはあんたの仏頂面位じゃ誤魔化されないって事」

 

 不知火の背後でくすくすと笑う声がした。

 

「そや、そや、ずっとうわのそらやったし」

「かき揚げが、司令が買ってきたギネス煎餅(※)みたいになってたわよ」

 

 陽炎は思い出し笑いに背を震わせる。

 

 

<----- ※ギネス煎餅 ----->

 

 甚五郎はなんだかんだ言いつつ、出張する度に艦娘達への土産を欠かさない

 もの自体は秘書艦の意見で変わるのだが、基本、甚五郎の秘書艦は赤城が担当している為、往々にして土産は食べ物になる。

 空母、戦艦、重巡達へのお土産は食べ応えのある主食やおかず系、酒類が多く、軽母、軽巡、駆逐達にはやや軽めの軽食、間食、菓子類が多い。

 件のギネス煎餅は甚五郎が昔、戦艦、空母組に買ってきたお土産で、一枚、直径1.6m少々ある代物。

 苦笑しながら受け取った戦艦組をよそに、空母組は普通にぱきぱきと端から食ってしまった。

 

<----- ※ギネス煎餅 ----->

 

 

「なる程…参考になりました」

「まぁいいわ、取りあえず後で、会議だからね」

「そや、げんなりしても、にがさんけぇ、覚悟しとき」

 

 前と後ろから小突かれ、不知火は若干戸惑った表情を浮かべたが、やがて薄く微笑を浮かべて軽く頷いた。

 

「了解しました」

 

 

【神威鎮守府・格納庫:青葉】

 

 

「やれやれ、気になるのは分かりますけどねぇ」

 

 青葉は結局一口囓っただけのドーナツを袋に戻し、まだ熱い珈琲を一息に流し込んだ。

 味もろくろく分からない状態で流れ込んだ珈琲が、臓腑にぬくもりを与える。

 握りつぶしたコップを袋の中に放り込む。

 

「確かこの辺ににっと」

 

 手近の箱を幾つか探って、手頃な鎖を取り出すと、扉が半開きになったコンテナに歩み寄る。

 中も覗かずに薄く開いたコンテナのドアを閉じ、左右のコンテナハンドルにそれぞれポケットから取り出した南京錠で封印する。

 そして、更にコンテナハンドルを鎖で三周り程巻いてから、三つ目の南京錠で鎖の輪をを結びつけた。

 

「ま、こんな所でしょうかね」

 

 こんなちゃちな封印、簡単に引きちぎる事ができるが、そこまでするのは余程物好きなジャンクパーツ漁りか、事情を知っていて探り回っている者位である。

 取りあえずは、開けるな、という意思表示と、開けられた時にそれと分かれば、問題無い。

 

「あの子達なら…言いふらす様な事は無いでしょうけどねぇ、調べちゃうでしょうねぇ、色々と」

 

 青葉は、ため息をついて顔をこする。

 

「しかし、第七の次は、陽炎型三人娘ですか…青葉は愛される広報のお姉さん(※)であって、アイドルのマネージャーじゃないんですけどねぇ」

 

 

<----- ※愛される広報のお姉さん ----->

 

 青葉の役職は神威鎮守府広報部観光課の課長…という名前の広報施設(土産物屋)の店長さんである。

 神威鎮守府の公開スペースに置かれている広報施設には鎮守府の活動解説や、土産物屋、食堂、イベントコーナー等があり、日露その他からの観光客で平時は賑わう。

 ステージでは、川内型によるライブや、龍驤による北海道特産品の叩き売り等のショーが行われ、好評を博している。

 地味に収入としてはプラスの部署であった。

 

<----- ※愛される広報のお姉さん ----->

 

 

 ため息をついた青葉は、封印したコンテナに目をやった。

 おっかなびっくり手を伸ばし、結局引っ込める。

 

「そんなになってまで、なぜなんでしょうねぇ…何を思い残しているのですか?」

 

 青葉の携帯電話が震動する。

 開けてみると、スケジュール機能のアラームが鳴っていた。

 

「って、那珂ちゃんのステージが始まっちゃいますね、早く行かないと」

 

 青葉は慌ててドーナツの袋を回収し、足早に倉庫を後にした。




 次回は、南の島でバカンス(?)中のれでぃ側のお話。

 しかし,黒潮さんの台詞、設定上の事は兎も角として、かなり苦労した割にはうまくいってる様な気がしない……どうでしょうね?


【付録:当作における、艦娘・提督・鎮守府】


(艦娘)

 深海棲艦の発現と前後して、日本に現れた(又は日本で作られた)存在。(※諸説あり)
 全ての個体が若い女性の姿形をとっている。
 通常の人間と同様に会話と対話が可能であり、人類に対して友好的。
 人間型をしているが、大東亜戦争時代の艦船の名を名乗り、おおむね史実のエピソードを反映したパーソナリティを有している。
 深海棲艦と近似した兵器としての特性を持つ為、現時点で深海棲艦に対して最も有効な対処を行う事ができるとされる。
 彼女たちが“提督”として認識する人間の指揮を受け、闘う。
 日本政府にしては珍しい素早さで、彼女たちの事を日本国国民であると決議した為、一部海外艦を除いた艦娘は全て日本人である。
 現状、一部の例外を除いて日本以外に艦娘は出現しない為、有効戦力を独占可能な状態だが、政府は“国際貢献”として、惜しみなく補助金をバラ撒き、各国に“鎮守府”を派遣している。
 「軍靴の音が…」、「又、タダでばらまき貢献か…」等と左右あちこちから多々批判を受けつつも、日本は平常運転である。


(提督)

 艦娘を指揮する鎮守府の要。
 妖精さんを見る事ができ、艦娘をこの世に現出させ、絆を結ぶ能力を持っている者が“提督”と呼ばれる。
 特殊な才能が必要である為、だれでもなれる訳では無い。


(鎮守府)

 提督一人と、配下の艦娘達で構成される集団。
 公的機関に所属するものと民間所属、両方存在する。
 深海棲艦は“意志持つ自然災害”であると定義された為、それへの武力行使は交戦にあたらない。
(日本お得意の適当な憲法解釈)
 民間所属の鎮守府は、PMCやNPOとして各国の泊地に駐留し、深海棲艦への対処を実施している。(※1)
 鎮守府・艦娘の登録管理等に関しては、海洋特殊災害対策庁(通称:大本営)が担当している。

※1:『バトル○ックに出てくる傭兵団みたいな感じよね(by 夕張)』
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