深海戦線 ~ポイントX撤退作戦~   作:八切武士

6 / 23
 みんなダイスキ、れでぃ再登場です。
 今回は諸事情により、前よりもっと、何かがぶっ壊れています。
 お隣の鎮守府からは、翔鶴、瑞鶴姉妹が登場。

 そして、ジンツウ=サン、メインのシーンもちょっとあります。
 神通さんて、何となく零式防衛術を使いそうなイメージがありますね。
 某ご本家の零着装者みたいに、携帯式飯盒で謎の材料から作る、あのパン一つで喜んだり、珈琲で戦意昂揚してくれるんでしょうか?

 取りあえず、書き貯めていた分は投稿し終わったので、次はちょっと時間がかかりそうです。


 【第五話 Nefarious Necromancy】

【南の島鎮守府・食堂】

 

 

「暁、応答せよ!」

 

 激しい衝撃と、鼓膜を叩く大声で私は目を醒ました。

 何か息苦しく、咳をしたら口から油煙が上がった。

 不規則な動悸の様に、ごろごろとした駆動音が胸に響き、私が空気を求めてあえぐ度に機関が間欠起動する。

 目を開けると、厳しい表情をした夕張さんが覗き込んでいた。

 悲鳴の様な声を上げて、電が抱きついてくる。

 訳が分からないまま、首を回すと、神通さんに肩を抱かれて無言で涙を拭いている雷と、無表情に黙り込んだ響が近くにしゃがみ込んでいる。

 

「She's back」

 

 聞こえた声に、又、首を回すと反対側に司令官が立っていた。

 いつもと変わらない、掴み所が無い表情だったが、ふっと、賞賛する様な微笑が浮かんだ。

 

「だめっ、動いちゃだめなのです!」

 

 楽になってきたので体を起こそうとしたのだが、しがみついた電が離してくれない。

 

「大丈夫、私が運びます」

 

 頭が混乱したまま、神通さんに抱えられ、ハンモックまで連れて行かれた。

 私は混乱したままだったが、取りあえず休む様に全員から言い聞かされて、渋々目を瞑った。

 翌朝目が覚めると、私はいつの間にか即席に作られたらしい簡易ベッドに移し替えられており、近くに置かれたミカン箱に腰掛けた電が船をこいでいた。

 

「起きたかい?」

 

 声に振り返ると、汗を掻いたコーラ瓶を手にした響が立っていた。

 

「あ、お早う」

 

 響が持ってきたコーラの瓶を、眠っている電を起こさない様に静かに開ける。

 ここでは内地でお馴染みのコーラは手に入らないが、地元の工場で作られているこの緑とか紫色に光るコーラも割とおいしい。

 

「ふぁ…あ」

 

 目を醒まして、又、泣きそうになった電を響と二人して宥め、私は昨夜の詳細を聞いた。

 なんと、私は心臓(機関)が止まってしまっていたらしい。

 夜中に水を飲みに出た電が、食堂で物音が聞こえた為、そっと覗くと、私は皆がお供えをしている前提督の写真の前で座り込んでぼろぼろ泣いていた。

 

『こんなところで…いや、いや、いや…やだよ、くらいよ、どこ、どこ、きこえないよ』

 

 ずっと、そんな事を言いながら写真を見上げていたらしい。

 電は混乱しながら私を落ち着けようとしたが、どうにも話ができる状態じゃなかったので皆を呼びに行き、戻った時には、私の機関は止まっていたのだと言う。

 私の機関の再起動処置をしてくれたのは夕張さん。

 正直、実感は湧かないが兎に角、流石だと思う。

 

「もう、戻ってこないかと思ったのです…」

「うう~」

「…私達は大抵名前を引き継いだ艦の記憶を持っている、艦齢(※)が進めば記憶に振り回される事は少なくなるなんて言うけど、そんな簡単なものじゃないって事は、みんな知っている、だろう?」

 

 

<----- ※艦齢 ----->

 

 当作では艦娘として生まれ変わった後から数えた年齢を指す。

 生まれ変わったばかりの艦娘は、基本的に同型と似通ったパーソナリティーを持つが、艦齢を重ねる毎に、人間と同様に個性が強くなり、過去の記憶を克服していく…という論説(と言うより、経験則を纏めたもの)がある。

 ちなみに、艦娘の身分証明書には艦齢が記されており、人間の年齢とは若干違う扱いを受ける。

 基本的に、駆逐艦は建造時点で人間換算で“13歳”、軽空母・軽巡は“15歳”、重巡は“17歳”、戦艦・正規空母は“20歳”として法律を適用される。

 よって、重巡までは、下手に手を出すと淫行となり、憲兵=サンに処分されてしまうので注意が必要である。

 

<----- ※艦齢 ----->

 

 

 そうだ、第三次ソロモン海戦の第一夜、帝国海軍の暁は…沈んだ。

 夢を見る回数は減っても、忘れる事はない。

 死線をくぐる勇気を奮い起こそうとも、死、そのものの記憶にどれほど抗えると言うのだろう。

 

「そうね、レディにも楽な事じゃ無いわ」

 

 艦齢を一年以上過ぎてから聞かされた事だが、眠ったまま、目を覚まさなくなる艦娘も少数ながら存在する。

 朝になったら、魂の抜けた艤装だけが遺されるのだ。

 響達のそんな最期を見たら、私は、正気を保つ自信がない。

 

「兎に角、今日から何日か姉さんは安静にしろっていう命令だよ、司令官と神通さん両方からね」

「これじゃ、逆らえないのです」

「む~」

 

 こんなやる事がない所で仕事を休むと、本当にやる事が無くなってしまう。

 夕張さんなら引きこもってアニメ観たり、ゲームやったりできるだろうけど、一人前のレディな私は詩集を読んだり、レース編みしたりとか、そういう優雅な過ごし方を…したくても、詩集も無いし、レースを編む道具もない。

 

「取りあえず今日は、私がついてるから用事があったら言ってくれ、電も今日は神通さんが秘書艦やるから休めと言われているからね」

「そうですか、なら、姉さんの事は響に任せて電は少しお休みさせていただくのです」

「ゆっくり寝ておきなさいよ」

 

 声を掛けると、電はようやく少し笑い、欠伸を堪えながら出て行った。

 しかし、響が見張っているというなら、流石に散歩に出たりする訳にも行かない。

 もう、特に体に異常を感じないのだが、今日は諦めて大人しくしているしか無い様だ。

 

「って、響、何描いてるのよ…」

「だって、何もしていないと暇じゃあ無いか、折角だから、姉さんにモデルして貰おうと思ってね、レディならモデルの一つ位できるだろう?」

「と、当然よ!」

 

 こうなっては、本当に仕方が無い。

 私はため息をついて、ポーズをとった。

 

(…でも、あの夢、昔みてた夢とは何か違う気がする、なんだろう?)

 

 病床で思索にふけるのも、何となくレディっぽい気がする。

 どうせ出来る事は他に無いので、私は昨晩の夢について考え始めた。

 

 

【南の島・磯場】

 

 

「Hum…Ladyの加護が無いと、こんなもんか」

 

 釣り糸を垂れている京太郎の足下で漬けられた魚籠の中には、まだ獲物が一尾も入っていない。

 

「Sorry、今晩は缶メシかも知れん」

 

 振り向かずに声を掛けると、静かな足音が止まる。

 

「提督、お話があります」

「signatureが必要な書類かな」

 

 返事は無く、気配は右後ろに移動した。

 

「署名は要りません、幾つか、お言葉をいただければ充分です」

 

 右肩に手がのせられた。

 

「提督は近代化改修(※)についてご存知ですね」

「Yes ma'rm、提督にはbasicなknowledgeだからな」

 

 

<----- ※近代化改修 ----->

 

 鎮守府業界での隠語。

 原作内では艦娘に別の艦娘を合体させて、基礎能力を底上げする行為。

 (→デビルサマナーシリーズにおける御霊合体に近い)

 当作だと、能力に加え、記憶の一部を受け継ぐとされている行為。

 何らかの理由で存在を保つ事が困難になった艦娘が、後の事を信頼する相手に託す為に行われる事が多い。

 (→スタートレックのヴァルカン星人が行う、精神融合してカトラを託す行為に近い)

 

<----- ※近代化改修 ----->

 

 

「では、以前に、近代化改修を実際に行われた事はありますか?」

「No ma'rm、そうそうある事じゃないからな」

 

 近代化改修で与える側になった艦娘は消える。

 轟沈して死ぬのとは違うが、姿形は無くなってしまう。

 託された魂から、再建造を行う研究が行われていると言う噂もあるが、現状、死を決断するのとほぼ変わらない行為だ。

 

「では、何故轟沈した子が近代化改修の対象にならないかご存じですか」

「海で沈めば艦娘のsoulは海に還る、遺る事は無い」

 

 京太郎は竿を膝で挟み、左手で柄杓でを持つと、バッカンからコマセを掬う。

 波間に数回、くすんだ桜色の飛沫が消える。

 

「はい、私達は海に還る…でも、それを叶えられなかった、還る事を拒否する者も居ます」

 

 肩に置かれた手の力が僅かに強くなった。

 

「還らなかった者が与えるのは、死です…以前の大戦の記憶ではない、私達の死」

 

 肩への圧搾は既に右腕を完全に痺れさせる強さになっていた。

 すっ、と京太郎の右横からⅢの形をした銀バッジが差し出される。

 それは強い力で握られて歪み、一部は破断していた。

 

「暁さんが握り締めていたものです、これは、遺品ですね…それも魂の入っていた」

 

 文としては問うて居るが、淡々と語られ言葉は返答を求めていない。

 

「貴方が昨晩、これを暁さんに握らせるのを見ました」

 

 後、少々力を加えれば、骨が砕ける。

 

「無知から行った事でしたら、これ以上は申しません、でも…」

「Hum…敢えてやったのならどうなる?」

 

 息をするのも苦しい筈だが、京太郎の声は普段と変わらない。

 

「貴方を討ちます」

 

 数度、波が打ち付けてはひいていった。

 

「参考までに、俺はどうなった事になるんだ?」

「行方不明になっていただきます、事実は私と共にいつか沈み、あの子達は純粋な心であなたの為に涙を流すでしょう…それを慰めに比良坂をお下りください」

 

 何か、動きがあれば、一思いに首を跳ねる。

 人を手に掛ける覚悟は既に決めていた。

 

「Miss.神通」

「はい」

「reason…理由を聞きたいか?」

「聞けば、決意が鈍ります」

 

 一呼吸の間もない。

 

「時よ止まれ、お前は美しい…か」

 

 上体を引き倒して横臥させ、手刀にて断首せしめる。

 瞬き一つの間に終わる事。

 が、神通は半歩身をずらし、背後に注意を向ける。

 

「お隣の提督さんじゃん」

 

 軽快なレシプロエンジンの音を追って現れたのは、正規空母 瑞鶴。

 その後ろから、長い白髪を揺らしながら、同じく正規空母の翔鶴が現れる。

 

「こんにちは」

 

 何か四角い風呂敷包みを携えている様だ。

 

「Hello Ladies It's a pleasure to meet you」

 

 左手の一振りで竿を畳むと、京太郎はそれを神通に放った。

 

「ご丁寧にどうも」

 

 翔鶴は竿を手に、京太郎の半歩後ろに立っている神通に目をやった。

 

「今日は、あの小さなレディと一緒では無いのね」

「少し調子が悪くてな、once offだ」

「えー、残念…って、まぁ、そう聞いたからお見舞いに来たんだけどね」

 

 舞い降りてきた彩雲をひょいと掴み取り、瑞鶴が笑う。

 

「勿論、少し挨拶したら帰りますよ」

 

 京太郎が何か言う前に、翔鶴はかぶせぎみに発言し、笑顔を浮かべる。

 

(…嘘?)

 

 神通の脳裏に疑念が浮かぶ。

 確かに、鎮守府の誰かと会えば立ち話もするだろうが、何となく違う気がする。

 断言できないが、何か警戒感を呼び起こす、何かがある。

 

「折角だからお二人とも、ご一緒しましょう」

 

 そこに浮かんだ笑顔には、儚げな容貌にそぐわぬ、有無をいわさぬ何かがあった。

 

「あははっ、やっとお邪魔できるね」

 

 

【南の島鎮守府・宿舎】

 

 

「の、の~ぷっ…」

「くく、хорошую работу!(ハラショア ラボーター)、似てるじゃないか」

「とーぜんよ」

 

 私は即席ベッドの上で四つん這いの姿勢をとり、親指を立てた右手をプルプルさせながら掲げていた。

 午前中、響とお喋りしながらスケッチ用のポーズを取っているのに飽きてきた私は、物真似で遊んでいたのだ。

 因みに、今のは…

 

『格闘訓練で神通さんに投げられた司令官が、食堂の窓から飛び込んできて食卓を粉砕したときの真似』

 

 である。

 

「よ~し、じゃあ、次は…」

 

 私は一寸考えてから咳払いし、両手を胸の前で組み合わせる。

 

「あっ……び、びっくりしました…」

 

 我ながら会心の声まねである。

 顔を上げた私の目線と、響の後ろに立つ司令官の目線が合った。

 ついでに、その後ろに立ってる神通さんともだ。

 

「Hum、再現度はPerfect!…But、ネタが細か過ぎて、stageは無理なのが惜しい所だ」

 

 司令官の声を聞きながら、私はそのまま固まっていた。

 時間が止まると言うのは、こういう事なのだろう。

 

(元気になったみたいで、安心しました…少しリハビリしましょう)

 

 優しく微笑む神通さんの顔が浮かび、耳には幻聴がささやく。

 

(ああ、きっと、リハビリだから簡単なゲームでもしましょうとか言われて、火炎噴射を避けろとか、強酸のタルに落ちるな、から選ばされたりしちゃうんだ)

 

「あは、あははっ、一つ目はわりと得意デス」

「What's up?」

 

 首を傾げた司令官に、私はこみ上げる名状しがたき感情のまま笑い、声を掛ける。

 

「しれーかん!本日はお日柄もよく、ご愁傷様なのです」

「ね、姉さん?」

 

 半分腰を浮かした響の手を握り、頭に浮かんだ言葉を口にする。

 

「…今日はワタシの誕生日デス…1930年の今日…ワタシは工廠で産声をあげまシタ…盛大なパーティーをひらくため、招待状を急いで配ってもらえマスか…パーティーはすぐに始まりマスよ…エェェンド、オープン~、エェェンド、オープン~、エェェンド、オープン~」

 

 何だか、楽しくなってきた。

 

 

 

 ~5分後~

 

 

 

「落ち着いたかい?」

「へ…へっちゃら…だし」

 

 気を取り直した私は、響から渡された薔薇茶を飲む。

 ベッドから出禁になった私を半円形に囲むように椅子代わりの箱が置かれ、司令官、響、雷、電、神通さん、夕張さん、そして、お隣の鎮守府の翔鶴さんと瑞鶴さんが腰を下ろしている。

 よりによって、お隣さんの前で、あの様なレディにあるまじき痴態を晒してしまうとは、不知火ちゃんだったら、無言で切腹しているレベルの落ち度である。

 でも、まぁ、不知火ちゃんはサムライで、レディじゃないから、辛うじてセーフ、そう、そうなのだ。

 というか、今は、そんな事を気にしている場合では無い。

 中央に用意された、箱を幾つかくっつけて作ったテープル。

 風呂敷がかけられたその上に、展開された5つ重ねの重箱。

 

 柏餅、かのこ、きんつば、道明寺、豆大福、どら焼き、つやぶくさ、最中、ねりきり…そして、でっかいおはぎ。

 

「手土産を何にすれば良いか迷ったんですけど、やっぱり、甘い物が良いかと思いまして」

「可愛いケーキにするかちょっと迷ったけど、たまにはこういうのも良いでしょ?」

 

 にっこり微笑む瑞鶴さんの前で、私はつばを…のみこむのは品が無いので、雷が淹れたお茶を飲んだ。

 たまには所の話では無い。

 砂糖、小麦、卵、牛乳、バター…そう言った、洋菓子用の素材なら市場でも手に入る。

 だが、小豆…和菓子にとって非常に重要なそれだけは輸入するしか無いのが現状だ。

 餅米だって入手は厳しい。

 おかげで、私達が鎮守府で口にする小豆と言えば、本土から輸送されてくる羊羹か、甘納豆。

 後は、大事な小豆粉の備蓄を割いて、たまに酒蒸し饅頭と水羊羹を添える程度である。

 こんな、本土の和菓子屋の棚を総ざらえしてきた様な超豪華ラインナップなど、夢にしか出てこない代物だ。

 すぐに頬張りたい所だが、目移りするし、一番先に手を出すのは気がひける。

 宿舎の大部屋に、何とも言えない緊張感が満ちていた。

 

(とは言え、私のお見舞いにって事だから、私が何か一つ取らないと響達も食べられないわよね)

 

 私は、意を決して、王道のおはぎを標的に選んだ。

 視界の端で、瑞鶴さんが微笑みながら、軽く頷くのが見えた。

 そして、手を伸ばそうとした次の瞬間、ひょいっと、横から伸びた手がおはぎを掴み取っていた。

 

「え?」

 

 状況が掴めないうちに、柏餅、かのこ、きんつば、道明寺、豆大福、どら焼き、つやぶくさ、最中、ねりきり、それぞれが消えてゆく。

 

 

『ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇー!』

『ふあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーっ!?』

 

 

 我に返ると、司令官の座っていた箱が、二つの錨で叩きつぶされていた。

 

「ん-、流石に、これは弁護してあげられないかなぁ~」

 

 固く踏み固められた土を打ち抜いた錨が引き抜かれ、ぱらぱらと土が零れる。

 

「あ、埃を立てちゃいけないわよね」

「なのです」

 

 お互いに頷きあい、錨を格納した雷と電。

 目が笑っていない二つの微笑を向けられた夕張さんは、背後の提督にちらりと目をやった。

 夕張さんの背後に立った司令官は、頬を一杯に膨らませ、もにゅっ、もにゅっと中身を咀嚼している。

 

「しれーかん、なにしでかしなさったか分かっていやがるかしら?」

「司令官さん、小豆の一粒は血の一滴、お分かりなのです?」

 

(ああ、本当に怒ってるなぁ)

 

 世話焼きが好きで、気の利く雷。

 優しくて、いつも人の為を考えている電。

 可愛い妹達。

 だが、彼女達とて、女の子。

 すいーつの恨みは、マリアナ海溝の底より深いものだ。

 

「Hum…まぁ、Azuki beansだな」

「当たり前の事言ってないで、早く謝って下さいよ~」

 

 じりじりと自分を中心に間合いを取っている3人に夕張さんは迷惑そうな顔をして、欠伸をする。

 多分、昨日も寝ていないのだろう。

 いつもは、ゲームをやっているかアニメを見ているか、或いは漫画を読んでいるか…あと、工房で新しい装備を開発している時もあるが、今回は、私の機関停止騒ぎのせいだろう。

 そう考えると、少し申し訳ない気がする。

 

「提督さん、戯れが過ぎます」

 

 しっとりとした声が一言囁かれると、じりじりと続いていた、3人の動きが止まる。

 普段から部下を掌握していれば、いちいち胴間声等張り上げる必要など無い。

 神通さんはそれを体現している人だ。

 

(ま、何故か司令官まで止まっちゃってるけど)

 

「ふふ、駆逐艦の子は元気が良くて良いわね…でも、沢山あるから、慌てなくても大丈夫よ」

「そうそう、なんだったら、後でうちに遊びに来ればまたご馳走するよっ」

「司令官、あんまりよその人達の間で、みっともないとこ見せないでよね、ほらほら、雷達も座って」

 

 翔鶴さん達の微笑まし気なフォローに、私は慌てて場を収めにかかる。

 流石によそ様の鎮守府関係者にあんまりみっともない所を見せたくはない。

 

(…もう、大分遅い気はするんだけど)

 

 気を取り直した雷が新しくお茶を淹れ、私達は改めて餡子を堪能した。

 司令官はばつとして、立ったままである。

 久々に味わう小豆と和三盆をたっぷりと使った和菓子、中でも、生菓子の数々は絶品である。

 あちらの鎮守府には、和菓子の職人さんが居るに違いない。

 思わず、夢中になって食べてしまったが、少し冷静になって見てみると、私、雷、電、夕張さん、が主に食べている状態だった。

 司令官は、最初にあれだけ食べたから関係無いが、響は形だけ手をつけたあと、私に取り分けてくれるのに熱心だったし、神通さんに至っては手をつけてもいない。

 そして、気を取り直してみると、翔鶴さんがもの凄い笑顔でじっと私を見つめていた。

 一度気がついてしまうと、実に、何かやりにくい。

 

「いいわね、若い子達が元気よく食べるのは」

「ねえさん、老け込みすぎよ~」

 

 しみじみした呟きに、瑞鶴さんがけたけたと笑った。

 

「でも、暁ちゃんが元気そうで安心しました」

「だねぇ、提督に苛められて、怖い夢でも見たのかと思ったよ」

「Hum…この状態を見て、普段を察して頂きたいものだが」

 

 瑞鶴さんに意味ありげな視線を送られ、司令官は肩を竦めた。

 

「ふふふん、今日は晩ご飯抜きかなぁ」

「そうねぇ、それも良いかも」

「流石に可愛そうなのです」

 

 瑞鶴さんの言葉に、雷が笑う。

 とりあえず、十分小豆を堪能できたお陰で、大分機嫌は直った様だ。

 

「ああは言ってるけど、食べ物の恨みは怖いわよ~、後でちゃんと埋め合わせはしなくちゃあ、私は、新しいPCサーバ1台でいいかなぁ」

「そうだね、私はウォッカ一箱で手を打とう、ただし、韓国製になったスミノフとか、モンゴルの密造アルヒじゃダメだ、ロシアのДержавная(デルジャーヴナヤ)辺りか、ウクライナ産だったらГорилка(ゴリルカ)辺りがいいね」

「え~、じゃあ私は、圧力鍋が欲しいなぁ」

「ミシンがあったら、ちょっとした仕立て直しとかできるのです」

 

 口々に、希望をのべる皆を前に、東提督は両手を胸の横に挙げて、お手上げといったポーズを取る。

 

「ふふ、高く付いてしまった様ね」

 

 上品に口元を隠して笑う翔鶴さん。

 あれは、今度、鏡の前で練習して習得しなければ。

 私は、心のレディ手帳の“明日の為に”ページにしっかりと書き込んでおく。

 

「C'est la vie…ってね」

「私は…又、訓練をご一緒して頂ければ」

 

 ちらりと目を向けられた、神通さんは首を振った。

 

(神通さんのが一番、キツイよ!)

 

 あれなら、夕張さんにサーバをラック一竿丸々買って、雷にシステムキッチンを、電を洋裁学校に通わせて、後は響にウオッカ一年分を要求された方がまだ、遙かにマシだと思う。

 そんな事を考えていた私は、司令官に目線を向けられ、自分も何かお願いしなくちゃいけない事に気がついた。

 

(でも、急に言われても…欲しいものなんて、ないし…)

 

 正直、急に言われても困る。

 なんだかんだ言われても、私はここの生活にそこそこ満足しているのだ。

 物としては、そりゃ、幾つかある…と思うが、急にどれか一つとか言われても、その、困るのだ。

 私は少し考え、取りあえず思いついた事を言ってみた。

 

「ジンギスカン…羊肉とか、久しぶりに食べたいわ」

「焼き肉かぁ、それも良いわねぇ、ビールとか頼んじゃって」

「しかし、単に焼き肉じゃ無くて、ジンギスカンなんて、暁ちゃんも中々…言うわねぇ」

 

 ほわわ~と、久々の焼き肉について想像した夕張さんの隣で、雷は感心した様に腕を組んでいる。

 

「みんなで焼き肉、楽しそうなのです」

 

 電も微笑んでいたが、少し怪訝そうな表情になり、頬に手をあてた。

 

「でも、ジンギスカンなんて、前にいつ食べに行ったのか、思い出せないのです」

「あの時は、確か…」

 

 私は記憶を探る。

 

「長門さんが、給料出たからおごってやる~って言って、うちと、曙ちゃん、陽炎ちゃんとこの駆逐引き連れて…結局、赤城さん達まで一緒になって、長門さんはひたすら焼酎呑んでるし、赤城さんは山盛りご飯と焼き肉ローテーションで、加賀さんは赤城さんと自分の分を焼きながら、ずっと一定のペースで日本酒を…」

 

(何だか懐かしいなぁ)

 

 あの時の賑やかな食卓を懐かしく思い出しながら、私は周囲がしん、と静まりかえっている事に気がついた。

 響達、夕張さん、神通さん全員が真顔で黙り込んでいる。

 何か妙な事を言ってしまったらしいが、単に焼き肉を食べに行った時の話をしただけなのに、妙な反応だ。

 司令官に目を向けると、眉を上げ、首を傾げて見せてきた。

 まぁ、提督は昔の事なんて知る訳はないのだから何がおかしいのかも分からないのだろう。

 

「そう言えば、一つ提督さんにご相談があるのだけど」

 

 沈黙を破ったのは、翔鶴さんだった。

 

「Hum、何でしょう?」

「前から、ご提案させて頂こうと思っていたのですが、共同作戦、しませんか?」

「そ、やろう、やろ!」

 

 身を乗り出した翔鶴さんの横で、腕組みをした瑞鶴さんが楽しそうに笑っている。

 

「cooperated operation?」

「そうそう、お隣なんだし、もうちょっと協力しあってもいいんじゃないかな~とか思ってさ?」

「But、うちの担当はSubmarine相手で、そちらはそれ以外だった筈だが?」

 

 そうだ、基本的に私達は深海棲艦の潜水部隊を相手にしている。

 だから、配備されている装備は爆雷や、ソナー等、水面下を攻撃する装備に偏っているのだ。

 契約上もそうなっている筈であった。

 

「しかし、必要に応じ、協議の上、協力して作戦行動を行う…契約に盛り込まれていますよね?」

「…That's right」

 

 念を押す様に首を傾げてみせる翔鶴さんに、提督は、無表情のまま頷く。

 

「で、装備と資材についても、援助しあう事ができる、っていうのもあるから、何か足りないものがあったら、うちのを使っても良いよっ」

 

 何だか妙に条件が良い。

 大抵の事なら、4つも艦隊を保持しているお隣の鎮守府で戦力を賄える筈だ。

 何故、装備とコストを持ってまで、此方に話を持ってきたのか。

 何だか少し、不穏、と言ってしまう程では無いが、警戒感を呼び起こされる。

 

「やだなぁ、あんまり重く考えられても困っちゃうな、これからは、もうちょっと鎮守府同士で交流しようってだけの話なんだけど」

 

 私達が黙り込み、少々困惑しているのを悟ってか、瑞鶴さんは手をひらひらさせて苦笑する。

 

「そうですよ、最近、敵の活動も活発化してきていますし、しっかり連携を取れる様にする事は大事でしょう?」

「そのお話、そちらの提督は合意済みなのでしょうか?」

 

 柔らかく微笑む翔鶴さんに、神通さんが確認する。

 そうだ、小なりとも、此処も鎮守府である。

 本来、このレベルの話は正式な委任状を携えた者、或いは提督自身が秘書艦と共に会談すべき内容だ。

 

「勿論です」

「ま、今日は翔鶴姉が、早くお見舞いに行かなくちゃ、って言うから、委任状取ってるヒマ無かったけどね」

「もう」

「あたっ」

 

 くすくす笑う瑞鶴の頭を、地味にぱしっと音がするくらいの勢いで翔鶴さんがはたく。

 ちょっと面白い。

 

「今日は、お見舞いのついでに、お話だけ持ってきただけですから、前向きに考えて頂けるのでしたら、直ぐに正式な手続きを通しますよ」

「そうですか…」

 

 神通さんはそれ以上突っ込まずに引き下がった。

 皆から視線を向けられた司令官は、まじめ腐った顔で思案して、うんうんと頷いて見せる。

 

「hum…当鎮守府としては、ご提案頂いた、projectについて前向きに検討し善処させて頂く所存でアリマス」

 

(めっちゃくちゃ棒読みじゃないの)

 

 紳士にあるまじき言動。

 殆ど喧嘩を売っているレベルの不躾さに、私はくらくらしてきた。

 

「いやいやいや、君、そう言うの似合わないって、いや、面白いけどさ、あははっ」

「こら、瑞鶴、提督さんに失礼でしょ」

 

 割と本気で笑っている瑞鶴さんの頭を突っついてから、翔鶴さんは柔らかく笑う。

 

「では、私達はそろそろお暇しますね、是非、“前向き”なご回答期待しております」

 

 二人は重箱をしっかり片付けて持ち帰って行った。

 別にパパイアの根が食卓に上るような生活ではないが、あんな巨大なお重を満たすだけのお返しを考えるのは、雷にも結構重たい課題になった筈なので、有り難い心遣いだ。

 

(正直、うちの司令官より、よっぽど礼儀がきちんとしてるんだから困っちゃうわ)

 

 私は心中溜め息をつき、こっそりお腹をさする。

 ついつい、食べ過ぎてしまった。

 少しは運動しないと、レディにあるまじきたるみが出来てしまいそうだ。

 とは言え、昨日から色々あったせいか、眠くなってきた。

 

「姉さん、眠いのかい」

「…うん、少し」

「なら、寝た方が良い、昨日の今日だからね」

 

 私は自分でもなんと言っているか分からない何かをもごもごと言い、横になった。

 

 

 

【南の島鎮守府・厨房小屋】

 

 

 

「電…私達、戦艦とか、正規空母の人達と一緒になった事、無い、よね?」

「…なのです」

 




次回…

青葉「恐縮です、青葉ですぅ! パジャマパーティって良いものですよね、みんなで枕抱えて、ガールズトークなんかしちゃっうんですよ!」

陽炎「…」
不知火「…」
黒潮「…」

青葉「あれぇ?どうしちゃたんですか?まるで、ウザイ先輩に無理矢理呑み会に引きずってこられた新入社員みたいな顔になっちゃって?」
青葉「泣いてるとハッピーが逃げちゃいますよ!スマイルスマイル!」

不知火(ガタッ)
黒潮「あかん!、あかへんて!こらえてやぁ」
陽炎「あんなのでも役職付きよ、殴ったら面倒な事になるわ…しっかし、殴りたくなる顔よねぇ」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。