※一発ネタと作者のリハビリを兼ねてます
シャラン・・・シャラン・・・
山奥の神社で一人の男が袴に身を包み神楽を舞っていた。だが、その男はおおよそ神職と言える見た目ではなかった。ピアス、二つの目は異色の目であった。だが、その男は集中し、自身の気を高めていた。やがて、神楽は、終盤に入り、怒涛の勢いで舞う。そしてついに神楽は終幕した。
「・・・ダメだな、この方法で根源に付けるのかは分からないが・・・」
男は集中を時後ろに倒れ込んだ。男は既に何度もこの方法を試した。だが、彼が根源に辿り着けることはなかった。その時寺院の入り口が開く。
「おい、斗真!今日の修行はおわったのか!」
入ってきたのは老年の翁であった。しかし、その体から溢れる覇気はとても老年の翁のそれではなかった。
「終わりましたよ、お爺様」
男・・・斗真は先程とは打って変わって尊敬に満ちた声でそう返した。その姿に翁は笑みを浮かべる。
「よくやったのう・・・このやり方で1500年もワシらの家系は根源を目指しているんじゃ。八百万の神のうちの一柱の物怪の神を宿し、内なる世界を開くことで根源へと到達する。これからもより精進すれば良いぞ」
斗真は翁の言葉を尊敬の眼差しをもって聞いていた。斗真からすれば、その拳は硬く握られていた。それはまるで憎しみを、恨みを抑えているかのようであった。しかし、翁はそれに気づくことはなかった。
「それで、今日はなんのようでございますか?」
「そうじゃな。前にも話したあの話じゃ、儂の腕に令呪は宿りマスターの資格を得た、あとは召喚を行うのみじゃ」
斗真は無言で翁の右手を見る。その手に宿るのは赤い刻印・・・令呪であった。斗真は立ち上がり、寺を出ようとする。翁は通り過ぎようとする斗真を呼び止める。
「召喚は今晩じゃ。場所は本殿、それまでに英気を養うが良いぞ」
「わかっています。お爺様、聖遺物は私自身が持ってきたもの、かつて百年戦争においてフランス軍の象徴となった旗です。さぞ、強力なサーヴァント・・・それこそお爺様の狙いのルーラークラスに相応しいサーヴァントが召喚される筈です」
「では、頼むぞ・・・お主の両親と同じようにならないように気をつけるんじゃぞ。お主の両親はまさに使えない奴らじゃったがな。お主はあやつらのようにならず儂の人形になれば良い。いずれ、儂の跡を継げるようにな」
「はい・・・」
斗真は立ち去っていった。その後ろ姿を翁は愉快そうに見つめていた。
「全く。彼奴は何も面白味がないわい。せっかく高位の物怪である雷獣の右手を移植したと言うのに・・・それにバカな奴じゃ儂の糧になってもらうために生かされていると言うことを知らないのだからな」
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夜がやってくる。この山の寺には人々がやってくることは少ない。だが、この山自体は天然の森となっており、人々はそれを求めてやって来ることもある。だが、それでも獣が開歩する時間なのだ。斗真は裏堂へと向かう道すがら、両親の最期を思い返していた。両親は元々魔術と言う物に興味を示さずただ神職に身をやつすことを誇りとしていた。しかし、物怪を宿す魔術を使い自身の肉体を物怪に堕とそうと翁が無理矢理魔術をかけ、両親は適合できず命を落とした。遺体はドロドロに溶けて骨すらも残ることはなかった。命を落とした両親の断末魔。その光景を愉悦に満ちた眼差しで見ていた祖父の姿が、斗真の心に燃え盛る復讐の炎を絶えず煽り続けている。右腕に宿る雷獣の爪が、両親、そして先祖たちの怨嗟の声を斗真の心に響かせていた。本殿の前に着くと、彼は立ち止まる。目を瞑り軽く息を整え襖を開く。
「何を道草食っておった」
御堂の襖を開けると、すでに魔法陣を完成させた翁が立っていた。斗真は持ってきた旗の切れ端を魔法陣の中央に置き、翁は詠唱を始める。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。我、悟り至る者。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
────────
誓いを此処に、我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者、汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ────────!!」
魔法陣は光輝く。だが、斗真と翁はあまりの光に眼を閉じる。その瞬間、斗真は左手の甲に痛みが走ったような気がしたが特に気にすることはなかった光が和らぎ目を開ける。その気配は、浄化の光とは真逆の、全てを焼き尽くすかのような業火のようだった。魔法陣の中心に立つのは、黒き旗を背負い、漆黒の甲胃を纏った少女。その瞳は、人間の持つ全ての感情を冷たく見下すかのように鋭い。彼女の口元には、薄らと冷笑が浮かんでいた。翁は見て自らの召喚に応えたサーヴァントを前に高揚感を隠しきれない声で語りかけた。
「よくぞ・・・我が声に応じてくれたぞ!聖女よ!儂がマスターじゃ、この聖杯戦争、儂の悲願を・・・」
「違うわね」
翁の言葉は続かなかった。翁はサーヴァントの言葉に凍りつく。サーヴァントは翁を完全に無視し、一歩も動かずにいる彼の横を通り過ぎる。彼女の冷たい視線は、初めから壁にもたれかかる佇む斗真にのみ向けられていた。
「貴方よ、私のマスターは。サーヴァント、アヴェンジャー。召喚に応じ参上しました。・・・どうしました。その顔は」
斗真は思わず固まっていた。自身の左手に宿った三つの令呪が宿っていたのだ。その令呪からはアヴェンジャーへの魔力供給のパスがつながっていた。
「これは一体・・・まさか!?斗真!儂の召喚したサーヴァントを奪い取ったな!」
翁の顔は怒りと驚愕で歪んでいた。彼は、自身が長年計画し、ついに手に入れたマスターの権利を自身が人形だと信じて疑ってこなかった斗真に奪われたことに気づいたのだ。
「斗真!悪いことは言わん!契約を破棄しろ!そうすれば良い!儂の言う通りにすれば良いのだ!」
「・・・嫌だね」
斗真は不意にそう言い放った。翁は普段の斗真の態度の違いに凍りついた。そんな翁を無視して斗真はアヴェンジャーに問いかける。
「アヴェンジャー。あんたのそのクラス。復讐者と言うことなのか?」
「ええ。私のクラスは復讐者のエクストラクラス・・・マスターのその身に宿した怨嗟の声、悲鳴、怒り。私にはよく聞こえています。貴方は一体その身に何を宿してるのかしらね」
アヴェンジャーは嘲笑いながらそう言う。だが、斗真はこの少しの会話だけである程度このサーヴァントの性格は理解した。
「俺はマスターの権利を得た。それを益々逃す手はない。俺の願いはただ一つ、俺の家系の魔術を俺の物にする!あんた達祖先のお陰で無駄に死んでいった者たちの弔いと親父とお袋を無為に殺した復讐!これから死にゆく俺達の子孫のためにな。たったそれだけのことだ」
斗真は翁にそう言いながら自身の腕を変化させる。斗真が右手に宿した雷獣の爪が姿を現す。それを見た翁は狂ったように笑った。
「愚か者めが!儂を殺せば、お主は根源に至るための道筋を失うぞ!それに、このサーヴァントの力、お主のような未熟な魔術師に扱えるわけがっ!」
斗真は聞く耳を持たず、翁を爪で抉ろうとする。しかし、翁は動揺することもなくギリギリで交わし、両腕を鎌に変えて振りかざす。斗真はギリギリで後ろに飛び交わした。
「そうか、それがお主の答えか・・・人形風情が!今まで生かしてやったことを忘れたか!」
「んなもん、忘れちまったね。それに、あんたはウチの魔術では、根源に到達することは出来ねえってことに気づいたから聖杯戦争に参戦しようとしたんだろ?なら、ウチの魔術を俺の物にするのも問題はねえだろ?」
「ほざけ!儂の糧になるしかない餌が!」
翁は身体を巨大化させ、蜘蛛の形をとる。それにより裏堂の天井を突き破った。翁は鎌をアヴェンジャー諸共斗真を殺そうと振り下ろした。
「クハハハハ!誠に愚かじゃったのお、斗真よ!」
「愚かなのはアンタでしょ」
「何!?」
翁が下を見ればアヴェンジャーが斗真を担ぎ走っていた。
「すまねえ。関係ないってのに巻き込んじまって」
「気にしてないわ。現界したばっかりですぐに座に戻るのは私も勘弁だしね・・・それに貴方のその復讐の炎、嫌いじゃないわ」
「復讐者に褒めていただいて光栄だよ」
斗真はニヒルな笑みを浮かべ、アヴェンジャーもそれを返す。二人の復讐の炎は互いに影響し燃え上がった。翁はその姿を見て憤慨する。
「己!人形と使い魔風情が!」
翁は糸を吐き出しアヴェンジャーの動きを止めようとするがアヴェンジャーは余裕綽々と交わして行く。アヴェンジャーの敏捷はAランクにまで達しており翁の攻撃は止まって見えるほど遅く見えたのだ。
「何故当たらない!儂の長年の研鑽じゃぞ!?」
「これがアンタの長年の研鑽?だとしたら実にしょうもないわね!」
アヴェンジャーは片手で剣を抜き炎を纏わせる。セイバーは翁に向かって剣を振り上げる。翁はその炎を顔面にくらいのけ反った。
「グァっ!?貴様!」
「アヴェンジャー!俺をあいつの右胸に勢いよく投げろ!」
「了解よ、マスター」
アヴェンジャーは斗真の足を掴みハンマー投げの要領でぶん投げた。
「テメェ!雑すぎるだろ」
「とっととやっちゃいなさい」
斗真は体勢を崩しながらも猛スピードで飛び続ける。そのスピードに翁はついて行くことが出来なかった。斗真はなんとか体勢を整え翁の右胸を自身の爪で引き裂いた。
「グワァ!キ、ギザマァアア!」
「俺達が物怪の力を使うには心臓の逆の場所に物怪の肉体の核を植え付けてから部位を移植する。なら、その核が無くなれば・・・ただ移植されただけの物怪の力は扱うことが出来ない」
その言葉の通り右胸を貫かれた翁の体は縮んでいった。そして、元の姿に戻ってしまった。斗真は着地に失敗し、体を地面に打ち付けられる。
「ぐっ・・・」
「締まらないわね・・・」
「うるせえよ」
アヴェンジャーが近づき手を伸ばす。斗真はその手を握り立ち上がった。翁はその姿を見ても現実が追い付かないでいた。
「そんな・・・儂の長年の・・・夢が・・・」
「アンタはもう終わりだ、お爺様」
「ひい!?」
翁は脱兎の如く逃げようとするが目の前に炎の壁が立ち上り進めなくなってしまった。その後ろから斗真とアヴェンジャーが足音をわざと立てつつ翁に近づいて行く。翁にとっては二人の足音は死神の足音に聞こえた。
「待て!待つんじゃ!儂の夢を・・・根源への到達をここで終わらせたくない!」
「いつも言っていたな。根源に到達するには犠牲は付きだと・・・なら、俺が根源に到達するためな犠牲となってくれ」
翁はなんとか静止しようとするが斗真は止まらない。ここで止まるはずがないのだ。翁はついに命乞いを始めた。
「待て!儂にできることはなんでもしてやる!この蘇芳家の当主の座を・・・富も名声も得ることだって」
「醜いわね」
「こんなやつに親父を・・・お袋を・・・」
斗真は翁の腹に爪を立てる。翁は動くことすら出来ず腹を貫かれ吐血する。
「グブッ!?・・・や、やめ」
「テメェだけは・・・テメェだけは!絶対に許さねぇええええ!」
斗真は雷獣の爪から雷を流す。翁は爪を抜こうともがくがもはや抵抗は意味をなさなかった。翁は全身が真っ黒に焦げつき絶命した。斗真は翁であった者から爪を抜く。
「ああ、それが貴方の復讐ね。どう?終わらせてみて」
「気分は晴れたよ。語彙に表すことなんてできねえほどにな」
「それで、貴方の目標は果たしたと思うのだけど、貴方は一体ここから先どうするの?」
アヴェンジャーからすれば斗真は既に復讐を終えた後である。既に抜け殻であってもおかしくないと考えていた。しかし、斗真はそうではなかった。
「聖杯を取りに行くぞ。その聖杯で俺は俺の家系の魔術を塗り替える。ただそれだけだ」
斗真の目はギラついていた。復讐の炎は消えることはない。それどころか、終えたことでその炎は更に勢いを増す。まるで自身をも焼き尽くそうとする業火のように。その姿にアヴェンジャーは金色の目を輝かせた。
「貴方にも野望があるなら私も力を貸させてもらうわ。私も願望の聖杯を取りに行くために。サーヴァント・アヴェンジャー、真名ジャンヌ・ダルク・オルタ。これからよろしくさせて貰うわ」
「こちらこそ頼むぜ」
斗真はアヴェンジャー・・・ジャンヌ・オルタは裏堂の出口へと向かった。斗真の背中には、もはや何かに囚われた人形と言う偽りの影はなかった。あるのは復讐の炎を宿した、新たなマスターとサーヴァントの姿だけだった。