ゲーテ
綺麗に清掃が行き届いた校舎、そこを歩く新しい一年生達の波。
俺と一夏の二人もその流れに沿って後ろの方を歩いていた。
「クラス分けどうなるのかな」
ふと一夏が思い出したように呟く。
「どうなるんだろうな。合理的に考えたらバラバラに別れると思うが」
俺はその呟きに淡々と返し、考えを巡らせた。
俺、一夏、そして今はこの場に居ない拓也に与えられた指令は、ホワイトルーム創設者である”綾小路篤臣”の息子──”綾小路清隆”の退学を成功させること。
その布石として、上はまずここの理事長である”坂柳”を停職させ、理事長代理として”月城”を送り込んだ。
それによって行われた追加の特別試験で綾小路清隆を退学者として葬り去るつもりだったのだろうが、なんらかのアクシデントが起きたのだろう。
結局そこでは退学に追い込むことはできず、あまつさえ一度だけ退学を防ぐことのできる”プロテクトポイント”を与えてしまったらしい。
尤もその次に行われた特別試験では、強行突破で”プロテクトポイント”を剥がすことには成功したと聞いているが。
まあやろうと思えば権力で退学に追い込むことなんざ簡単だろうから、それをしないということはもしかしたら俺達の実力を測るためにでもやっているのかもしれない。
「もしくは綾小路の実力を知るため……か」
「ん?なんか言った?」
「いや、なんでもない」
これ以上は時間の無駄だと判断して思考を切り捨てる。一夏は誤魔化されたことに少し不服そうな顔を見せるが、俺はそれをスルーした。
「放課後、理事長室で」
その声が耳に入ると同時に、左手に小さく丸め込まれた紙を握らされる。
片手でそれを開けて内容を確認すると、そこには拓也の端末のものと思われる電話番号が書かれていた。
一夏にそれを見せて頷いたのを確認してから、俺は紙をポケットにしまう。
「拓也とはクラス別みたいだね」
「そうだな」
「直樹はさ、私達とクラスが別れたら困る?」
「別々のクラスでも困ることはないだろ?端末があればすぐに連絡を取れるし、寮で会うことだってできる」
秘密裏に連絡を取ったりするには困らない環境なのだから、関係性を疑われないようバラけた方が効率がいい。そう伝えるが、どうやら一夏はそういうことが聞きたかったわけではないようだ。
「まあそうなんだけどさ……でも……ううん、なんでもない」
どこか寂しそうに俺を見つめながら一夏はそう言う。
その目はどんな思いを孕んでいるのか、俺には分からなかった。
お互いこれ以上言葉を交わすこともなく、クラス分けが貼られている掲示板の前へと来た俺達は、それぞれの所属クラスを見る。
「私はAクラスだったよ。直樹は?」
「俺はDだな。クラスは別々だ」
「ん、分かった。また後でね」
一夏の言葉に首肯して、俺はDクラスに向かって歩き出した。
俺と一夏が来たのは最後の方らしく、周りに殆ど人はいない状態のため気にせずゆっくりと歩く。
扉の前に着き手を掛けて、できるだけ音が鳴らないようにゆっくりドアを開けて中に入ると一つを除いて、全ての席に人が座っていた。
やはり最後に来たのは俺らしく、周りの視線が必然的に集まるがそれを無視して与えられた席に向かう。
その席は窓際の一番後ろの席──所謂”
俺がその席に着席すると同時に、担任教師と思われる人物が入ってくる。
おそらくこの後ガイダンスといったものを始めるのだろう。
月城からは最低限の情報しか渡されていない。放課後、理事長室で色々と話し合うつもりなのだろうがもう少しくらい情報をくれても良かったのではないかと思う。
例えばそう──この男がホワイトルームの関係者ということくらいは。
「本年度から赴任してきた司馬克典だ。教師としては未熟で至らぬ点もあるだろうが、君たちを三年間支えていけたらと思う。よろしく頼む」
そう言って自己紹介をした司馬とかいう男の鍛え上げられた無駄のない筋肉は中々のものだ。加えて歩き方、そして何より場数を踏んでいると思わせる”雰囲気”。
まず間違いなく”こちら側”だ。俺達以外にも数人は協力者が居るとは思っていたが、まさかここまでの武闘派が来るとは思っていなかった。
おそらく──今の一夏より格段に強い。
そんな物騒なことを考えながら、俺は司馬の説明を聞く。
三年間の特殊な事情を除いた敷地内からの外出、及び連絡の禁止。寮生活の強制、そして生徒を“実力で測る”という文言。
事前にこれらは聞かされていたが、何度聞いてもやはり異質だ。これではまるで学校という小さな檻の中に閉じ込められた”囚人”のような扱いではないか。
そして何より”実力”という具体的な力を示さない言葉。おそらくこういう説明をこれから先、俺達がこの学校で過ごすうちは聞かされるのだろう。
「実力、か……」
あの”白い部屋”で散々聞かされてきた言葉だ。それと同じ言葉だというのに求められているレベルはまるで違うのだから不思議なものだ、と感慨に耽る。
ほんの小さな呟きを隣の席の女子生徒は耳にしたのかこちらをチラッと見るが、すぐに視線を元に戻した。
「────では最後に、我が校独自の『Sシステム』という制度について説明する」
そう言って司馬は『Sシステム』の説明を始める。
曰く、俺達新一年生には一人あたり『八万プライベートポイント』というものが与えられており、それを使ってこの学校では”どんなものでも購入することができる”と。
また、このポイントは1ポイント1円の価値を持つ、とも。
要は八万円のお小遣いという訳だ。
「とまあ、ここまでは毎年恒例の話だ。そしてお前達にはこれ以上深い話をする。まずクラスの配置についてだ。A〜Dと4クラスに分けられているが、これはそれぞれのクラスの実力順を表すものだ。つまりお前達は一番下という訳だな」
その言葉にクラスがざわつき、動揺が走る。
瞬間、一人のガタイのいい男が、大きな音を出すように足を机の上に乗せて言い放った。
「おい、お前ら五月蝿えぞ。雑魚どもは黙ってろ、続きが聞こえねえだろうが」
周りを威圧するように荒い声で話すその風貌はまさに不良という言葉が似合う。
それにクラスメイト達は恐怖を覚えたのか、全員が押し黙った。
「宝泉、机に足を乗せるな。マナー違反だ」
「あ゛?先公が俺に指図するんじゃねえよ」
「言っただろう。この学校は”実力で生徒を測る”と。それには社会で必要な常識やマナーといったものも含まれている」
なるほど、随分とこの学校は甘いらしい。だが社会に出るために必要な部分を評価するにはそういったものも含めるため、”実力”という曖昧な表現なのだろうな。
「チッ」
荒々しく舌打ちをした後、その男子生徒──宝泉は足を元に戻して座り直した。
それを見た司馬が再び説明を始める。
「そして、”進路を100%保証する”という特権は、最終的にAクラスに所属していた生徒達にしか与えられない。だが安心してくれ、君達下位のクラスにも”特別試験”という特殊な行事で逆転のチャンスが与えられる。四日後にそれが行われる予定なので、心してかかるように」
そう言って司馬は全ての説明を終えたのか、早々に教室を出て行った。
クラスには不穏な空気が流れ、再び動揺が広がる。
「────お前ら、さっき俺が言ったことをもう忘れたのか?」
ガタン、と大きな音を立てて椅子を仕舞い、宝泉は教壇の上に座り込んだ。
「ゴチャゴチャ五月蝿えんだよ。司馬の言ったことが事実ならお前らは最底辺のゴミクズってことだ。そんな可哀想なお前らを俺が率いてやる。全員黙って従え、猿共」
司馬が言ったことをもう忘れたのか、とぼんやり考えていたその時、隣の少女が立ち上がった。
「そんな横暴が認められるとでも?」
「あ゛?誰だテメェは」
「その前にまずはあなたが名乗ったらどうでしょうか」
宝泉の口調に怯むことなく、堂々と正論を並び立てて反論する彼女のその様は、凛とした佇まいであった。
「宝泉和臣だ。お前も名乗れよ」
「七瀬翼です」
七瀬翼、か。綺麗な金髪と可愛らしい顔立ちに似合うような名前だな、と考える。
尤もその風貌からは予想できないほど強い心を持っているのだが。
「そうか、お前
二人の会話を窓の外を見ながら聞き流す。
指定の時間までどうやって暇を潰そうかな、とそんな場違いなことを俺は思っていた。
あの施設から脱出できて緩んでいたのだろう。
俺が一つの視線に気づくことは──残念ながらなかった。
◆◆
ある一人の生徒を見た時、俺──綾小路清隆は激しい
新しく始まった特別試験──パートナー筆記試験について考えをまとめ、ひとまず須藤のペアを見つけようと堀北と須藤と話し合い、教室を出た時。
ガタイのいい不良のような風貌をした男子生徒と、金髪のストレートの女子生徒。
そして、あの”白い部屋”を連想させるような白髪を持つ男子生徒。
その生徒の抜け殻のような無表情、そして目つき。
その全てがまるで──俺を写し鏡にしたかのような、そんな風に見えたのだから。
できる限りは丁寧に描写していきたい。そう思ってこの作品を作ってます。(これまでに書いた作品のような、その場のノリと勢いに任せたものではなく)
進むペースはゆっくりになるでしょうが、その分直樹君の精神性の異質さを上手く表現できたらな…と
心理学にはそこまで詳しくないので、あくまで一般的な感性から見た異質さになりますが…
直樹君は”前世”という特殊な記憶、染み付いた感覚の持ち主ですので、その設定を上手く扱うことができたならいい作品が作れるのではと考えております
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後これは余談ですが、この二次創作を書くにあたってよう実二年生編を読み返して思ったことです
やはり面白いですね。設定はともかく、内容としてはこの一言に尽きます
それに頭脳戦というのは奥が深い…私に表現できるかは分かりませんがね。たはー
(もっと二次創作増えてくれると助かるねんけどな)と心の中のきよぽんが言ってる