【悲報】目覚めたら巨人だった【敵じゃないよ】   作:佐東

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こういう行事もあったんじゃないかな、という妄想です。


閑話
新兵歓迎会


 

 

 「歓迎会……ですか?」

 

 

 きょとんとした顔でそう聞き返すイオリに、ペトラは言った。

 

 「そう、毎年恒例のね。今年はいろいろあって、ちょっと遅れちゃったんだけど」

 

 いつもは新兵勧誘式の数日後には行うのだが、今年はかなり遅れてしまったらしい。今は第57回壁外調査が二週間後に迫っている。

 

 「まぁ壁外調査前の決起集会も兼ねて、みたいな感じだな」

 

 エルドがそう言い、イオリに問いかける。

 

 「イオリも参加するか?」

 

 「え?」

 

 「イオリは訓練兵団出てないけど、新兵は新兵だからね」

 

 「もちろん、そういうのが苦手なら参加しなくていいが……」

 

 イオリは少し迷うような様子を見せたあと、パッと顔を上げた。

 

 「いや、参加します!参加したいです!」

 

 イオリは結構そういうイベントが好きなタイプだった。それと長めの巨人生活のせいで人との関わりに貪欲だった。

 小動物のように胸を期待で膨らませるその様子が可愛らしく、ペトラはその頭をわしゃわしゃと撫でる。調査兵団には年下の女の子など滅多におらず、ペトラは妹的存在に飢えていた。

 

 そこに上の階の掃除が終わったエレンがやって来た。イオリがエレンに話しかける。

 

 「エレン、新兵歓迎会だって。楽しそうだよね!」

 

 満面の笑みを浮かべるイオリと対照的に、エレンは渋い顔をしていた。

 

 「あぁ……はい……」

 

 なんだか憂鬱そうだ。不思議に思ったイオリは理由をエレンに尋ねる。

 

 「知らないんですか?イオリさん……新兵は皆の前で一芸を披露しなきゃいけないって」

 

 「…………え?」

 

 エレンは溜息をつき、イオリはぴしりと固まる。

 オルオが意地の悪い笑みを浮かべながら言った。

 

 「そうだぜ、お前ら新兵は精々俺達を楽しませるんだな」

 

 それに対してエルドが冷ややかな視線を向ける。

 

 「オルオ……よくそんなことが言えるな。歓迎会でペトラと漫才して滑りまくってたくせに」

 

 「「おああああああ!?」」

 

 オルオとペトラが揃って悲鳴を上げる。耳まで真っ赤にしたペトラが非難がましくエルドを睨め付けて叫んだ。

 

 「ちょっ、やめろよエルド!どうするんだよ威厳とか無くなったらさぁ!!」

 

 「お前のよりは面白かったんだが!?バカ、バーカ!」

 

 オルオもそれに続く。

 エレンは二人をどこか憐れむような目線で見ていた。イオリは自分が滑ったときを想像したのかガタガタと震えている。

 

 「エ、エレンは何するか決めたの……?」

 

 「いえ、同期と話し合ってるんですが、まだ……」

 

 「おい、イオリ……無理しなくていいんだぞ?」

 

 エルドが心配そうにイオリに声をかけた。

 しかしイオリはふるふると首を振る。

 

 「いえ、頑張ります。私も、調査兵団の一員として……!」

 

 そんな大袈裟なもんでもないんだがなぁ、とエルドは思ったが、イオリの決意は揺らがないようだった。

 ペトラは「あなたに私達と同じ傷を負って欲しくないの」と必死にイオリを宥めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それでは!入団してくれた新兵達の活躍と!壁外調査の成功を祈って!!乾杯!!」

 

 

 「「「かんぱーい!!」」」

 

 

 上官の一人の音頭によって皆が杯を掲げ、調査兵団新兵歓迎会が始まった。

 上官方は皆笑顔だが、新兵達はどこか落ち着かない様子だ。

 肉などの贅沢品は流石に無いものの、普段よりかは豪勢な食事を皆で囲み、飲めるものは酒を浴びるように飲み始める。

 

 こんな時でも一人紅茶を飲んでいる兵長は流石だ。

 そんなことを考えながらイオリはリヴァイ班の方を眺めた。新兵達は皆同じ卓に集められている。当然イオリもだ。

 さりげなく104期の中に紛れ込む恐らく同年代の見知らぬ女の子。

 男連中は「あんな子、同期に居たっけ?」と少々ザワついている。歓迎会が始まると、お調子者の男子を皮切りにちょっとした人集りができた。

 

 「可愛いね!」

 「名前なんて言うの?」

 「どこから来たの?」

 

 質問責めに遭うイオリだが、「余所者の俺も歓迎してくれてる!」と思ったイオリは嬉しそうに満面の笑みで対応している。

 その様子がまた男心をくすぐり、質問の勢いは増した。段々と違和感を覚え始めるイオリだったが、そのタイミングで見兼ねたジャンが割って入った。

 

 「オイ、お前ら。いい加減にしろ、困ってんだろうが」

 

 「んだよ、独り占めする気かよ」とぶつくさ言いながらも、皆は席に戻って行く。イオリは「あ、ありがとう……?」とよく分からないままにお礼を言った。

 

 「いえ!困ったことがあったら何でも言ってくださいっ!」

 

 ジャンはそう言って胸を張る。調子のいい男である。サシャが「ジャンはエロガッパですねえ」と呟き、それに対してジャンが「はぁ!?」と食ってかかった。

 

 「イオリさん、俺の隣来ますか」

 

 相も変わらず無防備なイオリに頭を抱えながら、下心一切無しのエレンがそう言った。100%善意の発言であったが、隣に座るミカサの目がギラリと光る。

 その圧にひゅっ、と喉を鳴らしたイオリはミカサの隣を指差して言った。

 

 「え〜っとぉ……女の子達の隣に座れると有難い、かなぁ……」

 

 

 そしてミカサとサシャの間に座るイオリ。

 絶えず鋭い視線を浴びせてくるミカサに耳打ちする。

 

 「ミカサ、私エレンを取ろうとか全然思ってないよ」

 

 「……信用出来ない」

 

 「……エレンが君のことをどう言ってるか興味はないかい?」

 

 「!?」

 

 「エレンの寝相や寝言については?」

 

 「……!!」

 

 コクコクと首を縦に振るミカサ。

 こうしてイオリはミカサという猛獣を手懐けることに成功した。イオリは胸を撫で下ろす。

 

 「テメェ、ミカサに飽き足らず何イオリさんにも手出そうとしてんだ!!」

 「はぁ!?離せよ、スープこぼれちゃうだろうが!!」

 

 「サシャー、これあげるよ」

 「神様ですか!?」

 

 エレンとジャンが騒ぎ出すのを尻目にイオリがサシャに餌付けしていると、音頭をとった上官が再び前に出て口を開いた。

 

 

 「それでは、新兵の皆には前に出て一芸を披露してもらいましょう!」

 

 

 毎年の恒例行事なだけあって、新兵を除いた皆が歓声を上げ、口笛を鳴らす。待ってましたと言わんばかりの盛り上がりだ。

 

 

 そして新兵達による余興が始まる。

 

 

 トップバッターはコニー。

 

 恐れ知らずのコニーは、キース教官のモノマネをし始める。図らずも坊主頭とスキンヘッドで髪型が似通っているのがクオリティを高めていた。かなりの高評価だ。同じ南方訓練兵団出身の者達には特にウケている。

 

 そして五年前から調査兵団にいて、団長だったキース・シャーディスを知っている者達はと言えば。

 

 ハンジは憧れの人のモノマネに非常に複雑そうな表情を浮かべながらも笑いを堪え。

 リヴァイは紅茶で噎せ、エルヴィンも珍しく「ふっ……」と笑いをこぼす。

 ナナバやゲルガー達は酒の影響もあり、再起不能に陥っていた。

 

場はコニーのおかげでかなり温まり、その流れのままに宴会は進んでいく。

 次々と新兵達が芸を披露していった。反応はまちまちだが、酒が入っているからか概ねウケが良い。多くの者は、結構笑ってくれる上官達の反応に胸を撫で下ろしている。

 

 ライナーは割とノリノリでボディビルを行い、ベルトルトはそれを死んだ目で見ながら、持ち前の身体の柔らかさで芸術的な体勢を披露していた。同期達から、「お前は寝相を披露するだけで一芸になるだろ」 と言われた結果である。

 

 これが誇り高き戦士の姿か?

 

 イオリは訝しんだ。

 

 その後も一芸披露会は続いたわけだが、

 

 エレンは巨人の再生能力でリアル人体切断ショーを始めようとしたので皆に止められ。

 

 ミカサは「私の特技は肉を削ぎ落とすことです」などと言い始めたため皆に引きずり下ろされた。

 

 エレンは「嫌だ!ジャンとコントなんて死んでも嫌だ!!」と喚き、ジャンも「オレもゴメンだわ!!」と叫んでいる。

 新兵は必ず一人一回、芸を披露しなくてはならないのだ。

 

 

 

 そうこうしているうちに、イオリの番が回ってきた。

 イオリは緊張した面持ちで壇上に上がる。

 

 「イオリです、歌います!」

 

 イオリが選んだのは歌。

 最初は空手の演武でもやろうかと思ったのだが、空手の文化の無いこの世界ではシラケるのではないかと怖くなったのだ。

 一方歌は、壁内にもしっかりと存在し、イオリはちょっとした自信もあった。

 前世から歌は好きだったし、何より身体が女になってから、前世では出せなかった音域も出すことが出来るようになり、これが楽しくてしょうがないのだ。

 

 イオリはすぅと大きく息を吸う。マイクも無ければ伴奏もない。完全なアカペラだ。半端な声量では盛り上がりに欠ける。

 そして腹に手を当て、イオリは声高らかに歌い始めた。

 

『これ以上の地獄はないだろうと信じたかった』

 

 チョイスしたのは『心臓を捧げよ』。二期のオープニングテーマだ。

 

『あの日どんな顔で瞳で俺達を見つめていた』 

 

 高く透き通るような声でありながら、曲の雰囲気を損なわない、底知れぬ迫力がある。

 壁内にあるどんな曲とも似つかないその歌に、皆が静まり返り、聴き入っていた。

 

 

『捧げよ!捧げよ!心臓を捧げよ!』

 

 

 サビに入り、まさかの調査兵団の理念である言葉の登場に皆が騒つく。

 ここで「いいぞぉ!」などと酔っ払い兵士達から野次が飛び始めた。これが調査兵団を讃える曲だと気付いたからだ。

 

 そうして一番を歌い終えたイオリだが、実は歌詞がうろ覚えだ。二番も恐らく一番とほぼ同じものを歌うことになる。

 そうなると、少し盛り上がりにくいだろう。

 

 そこでイオリは、少し下がったところでエレンと待機しているミカサに手を伸ばす。

 

 「ミカサ、歌上手いって聞いたよ」

 

 ミカサの手を取り、真ん中まで連れて行く。ミカサはまだ芸を披露出来ていない。ここで披露してもらえば、お互いウィンウィンと言うやつだ。

 

 「歌詞とメロディは一番と同じ。いける?」

 

 そう聞くイオリに、ミカサはこくりと頷く。

 

 そしてイオリとミカサによるデュエットが始まった。

 「おぉ……」とつい歌唱を止めて呟いてしまうイオリ。それも仕方がないほどに、ミカサの歌は上手かった。確かに高いのに耳が痛くならない心地良い高音。鍛えられた腹筋と肺活量による凄まじい声量。圧巻の歌声だった。

 

 

『捧げよ!捧げよ!心臓を捧げよ!』

 

 

 サビではいつの間にか皆での大合唱になっている。宴会場が丸ごと揺れていた。

 

 

『進むべき未来を その手で切り拓け!』

 

 

 曲が終了した。

 息を切らし、頬を上気させ、うっすらと汗を滲ませた二人は目を合わせる。

 一瞬の静寂の後、場を拍手喝采が支配した。

 

 「いいねー!」

 「すげぇ良かったぞー!」

 「二人とも可愛いー!」

 

 ある者は酒を掲げ、ある者は敬礼をする。

 

 「やったね」

 「…………ん」

 

 ウケて良かったと安堵するイオリと、それに素っ気なく答えるミカサ。拍手喝采を背に、二人は壇上を降りる。

 

 

 ちなみに次はエレンとジャンのコントであり、詳細は伏せるが、彼等はオルオとペトラと同じ傷を負うことになった。

 

 

 

 

 

 

 そして今回披露された『心臓を捧げよ』であるが、これは多くの団員達が気に入り、また団長も承認したために正式な調査兵団の団歌として認められることとなる。

 しばらくは事ある毎に皆が歌う、調査兵団内で定番の大人気曲となった。

 

  

 

 

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