かぐやが初星学園に入学する話 『なよ竹の一番星』   作:五宝合体竹取ロボ

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 監督のインタビューで出てくる素のかぐやって、本編以上に人の言うこと聞かないし(本編は彩葉相手なのでまだマシ)、本質的に少し残酷で合理性を軸に思考するキャラなので、安易にかぐや視点にしなきゃよかったと後悔中。

 どこまで合理的な宇宙人っぽさのドライを表現するか、本編の彩葉ぁ♡を出すか塩梅が難しい……。
 ウェルカムボイスとか聞く限り結構、粗暴というかクソガキっぽい口調ですし。


初星きらめいて

☆00

 

 幸せすぎてマジやばい。

 なんかこう汁的なものが脳から分泌されている感触すら覚える。

 いつもはつまんなーい黒板だって、彩葉の隣で見ればキラキラ輝いて見えて、思わずニヤけちゃう。

 先生の話は聞いてないけど。わかんないし。

 

「ぬへへへ〜〜」

「うわっ、急に笑い出すの怖いから辞めてよ……」

 

 入学式ではキラキラーって先輩アイドルに向けた尊敬の眼差しを向けてくれてた彩葉の瞳だったけど、徐々に照度が下がっていき、今では見覚えのある呆れの見える半眼がデフォルトになってきた。

 だんだん打ち解けてきた気がして一安心。いつまでも他人行儀な喋り方されたら泣いちゃいそうだし?

 

「あら、なにか楽しいことがあったの? さあ! お姉ちゃんに聞かせてみなさい!」

「おっ、お姉ちゃんじゃん、おっつー」

「うわ……、変なのが増えた……」

 

 花海咲季、通称『お姉ちゃん』。 姉キャラで攻めるらしく、開幕の自己紹介から「私はお姉ちゃんだから、実質あなた達は妹よ!(意訳)」なる宣言で名誉お姉ちゃんに就任した逸物だ。

 

 お姉ちゃんって呼んでるの私と、2組の実妹の佑芽ぐらいだけど。

 なお、押しが強いからか、彩葉は微妙に苦手そうにしてる。

 

「今日ね! 彩葉がついにかぐやの布団に———もがもが」

「何言ってんのよアンタ! 黙っててって言ったでしょ!」

 

 今日の嬉しい出来事その2を報告しようとすると口を塞がれて邪魔をされてしまった。

 未だ警戒心の強い猫のように、私から潜り込もうとすると蹴り出してくる彩葉が、ついに一緒に寝てくれたなんてビックニュース、言いふらしたくてたまらないのに……。

 

 ま、寝ぼけて私のベッドに来ちゃっただけなんだけど。

 気づいた寝起きの彩葉の顔超可愛くてさ。

 

 ちなみにその1は、ヒゲ学園長にお願いして彩葉と同室にしてもらって二人で暮らせてること。最近のかぐやちゃんニューストレンド1位毎日連続更新中だ。

 

「あら、私も今朝はことねと手毬と一緒に寝たわよ」

「ね、寝たっ!?」

 

 思わぬところからの援護射撃に彩葉がぎょっとした顔をする。

 ……そうだ! いまだ!

 

「ほら〜、別に普通だって、彩葉ー? みんなやってるって〜〜」

「いやいやいや、絶対おかしいって! ね! 藤田さん!」

 

 ちっ、流されなかったか。

 ちょろはの片鱗はちらほら見え隠れしているが、まだまだ関係が浅いのか意外とおねだりに耐える。でも後もうちょいかなー? 

 

「げっ、巻き込まれないように寝たフリしてたのに……、プロデューサーの指示なの! あたしだって暖房器具みたいに熱い咲季の隣なんか、好き好んで寝てないっつーの」

「あら、まだ5月で夜は寒いんだしちょうどいいじゃない」

「限度があんだよ限度が!」

 

 明らかに起きてそうだったけど、机に伏せて聞こえないフリしてたことねが巻き込まれて叫ぶ。

 てか……。

 

「プロデューサーの指示?」

「そ、相互理解を深めるために共同生活をしてください、だってさー」

 

 声色を変えて多分そのプロデューサーのマネで喋ることね。

 

 相互理解かー、まだ一緒に暮らしだして1週間ちょい。

 私の知る彩葉と、今の彩葉はどんな違った道を進んできたのか、いつかは知りたい。

 けど、まだまだかなー。

 

「へー! おもろそー!」

「私たちも似たようなものじゃないの……」

「まあねー、プロデューサーとのど・う・せ・い・生活♡」

 

 彩葉の腕に抱きついて、ことねにウィンクを飛ばすと、かっと顔に血が血が上るのが見て取れた。

 もとが色白だからわかりやすい。

 

「は!? ぷ、プロデューサーと、どど、同棲!?」

 

 裏返る声に、なんか勘違いさせたかなと思って、補足しようと口を開くと、それよりも先に目を見開いた彩葉が大きな声を出した。

 

「ちょっとかぐや! 人聞き悪いこと言わないでよ! あと私まだプロデューサーやるって同意してないから!」

 

 え、まだそんなこと言ってるの?

 

「え? 根緒センセに彩葉がプロデューサーも兼務したいって言ってたって言ったら、十王星南さんに引き続いて学内2例目ですね! さすがです! テキストの用意しておきますね! ってめちゃ張り切ってたよ」

「は? えっ? 何勝手にやってんの! 正気!? 私が嫌だって言ったらどうすんの!?」

 

 言ったらどうするって言ってる人は断らないんじゃないかなー?

 

「えーだって、彩葉がいないとつまんないんだもん」

「………」

 

 当然の私の言葉に、なぜか彩葉が絶句して口をぱくぱくさせてる。

 鯉みたいでおもろー。

 

 犬DOGEもいなくなっちゃったし、なんか作ろうかな。

 鯉はなんか可愛くないし、蟹とか? ウミウシもいいかもなー。

 

「うわぁ……」

「ふうん、アイドルとプロデューサーの二足の草鞋、そういうのもあるのね」

 

 引いてる風のことねと、関心した様子の咲季。

 なにか関心するようなところあったかな。

 

「おい、何を思いついた」

「リーダーとしてサブのプロデュースができるに越したことはないと思わない? セルフプロデュース! いい響きだわ!」

「おもいませーん、方針が逆だとしっちゃかめっちゃかになるじゃん、てか、咲季がリーダーとかナイナイ」

「ふふん、今に見てなさい、専門的なプロデューサーの知識を身につけた私を自然と敬うようになるわ!」

「そういうところだぞ〜……、たく……」

 

 見事な掛け合い漫才を彩葉と一緒に眺める。

 仲良さそうでいいなー。

 

「仲良い……んだね?」

「「良くない!!」」

「ワッ」

 

 彩葉も同じことを思ってたのか、おずおずと話しかけるけどキッと睨まれて椅子ごと体を引いた。

 

「おー、息ぴったり、コレが共同生活の成果か〜〜」

 

 思わず感想を述べると、彩葉からズレた4つの瞳にじろりと睨まれるけど、完全にシンクロしたその目の動きに余計に笑ってしまった

 

 

☆01

 

 

「おっ?」

「あっ、ごめんなさい」

「そんなに急いで……、行っちゃったかー」

 

 根緒先生に放送で呼び出された彩葉と分かれて手持ち無沙汰に学園内を散歩してたら、ボブの黒髪の子にぶつかられた。

 謝罪を言葉を言い切るかどうかで駆け出してしまう。そんなに急いでどうしたんだろうか?

 

 泣いてたようにも見えたけど……?

 

 遠ざかる背中をから視線を外すと燐羽の姿が見えた、そして遅ればせながら気づく。

 あーいっつも燐羽がつるんでた子か。

 喧嘩でもしたのか?

 

「おっ、炎上して解散した燐羽さんじゃん、おっすー」

「なに? アンタもからかいに来たの?」

「そだよー」

 

 言葉のトゲがいつもの3割増。目つきと眉毛の角度も。

 気ィ立ってるな〜。

 アイドルがしちゃいけない顔って感じ。理想のアイドルは普段からって感じで気を使ってた燐羽にしては珍しい……訳でもないか、最近は。

 

 入学式の時は威勢がよかった燐羽だったが、よく知らないけどユニットが炎上して4月で解散になってしまい、今はソロだ。

 以降はいつもに増してイライラモードで今まで以上に遠巻きに見られてる。

 

「それで? ヒトのこと心配してる暇あるわけ? すっかり腑抜けて見る影もないじゃない」

「いや〜、充電中?」

 

 痛いところ突かれてしまった。

 大目標を達成してしまった私のアイドル活動はなんだかイマイチ興味がわかず、それを見抜かれてか4月のHIF選抜試験(セレクション)では散々だった。

 彩葉と一緒にHIFの大舞台に立つには、5月末の2回目の選抜試験まで。つまり、あと1ヶ月弱で彩葉だけじゃなくて、私も叩き直さないとマズい。

 

 でもな〜。

 

「たく……、ま、負け犬どうしお似合いかもね」

「卑屈だな〜」

「ふん……」

 

 吐き捨てるように言いながら、もうすでに見えないさっきぶつかった子の影を目追う燐羽。

 

「で、どしたの今の子」

「あぁ、美鈴?」

「あー、そうそう美鈴!」

 

 そういやそんな名前だっけ、1組は何とか覚えたけど、2組以降はまだまだだ。

 中等部では別のクラスだったし、睨まれててあんま関わりなかったし?

 

「あんた、いい加減名前ぐらい……」

「1組は覚えたよ! ばっちし!」

 

 呆れ顔の燐羽にぶいの字を突き出すけど、無視された。

 ひどくねー?

 

「はぁ……、まあいいわ、ユニットに戻ってくれって言われて、断っただけよ」

「ふーん」

「あんたね……」

「いや〜、思ったよりどうでも良かった!」

「なんで聞いたのよ……」

 

 頭に手を当てて、痛みにこらえるように頭を振る燐羽。

 んー、なんか流れで? こうゆうのって一応聞いとくモンじゃないの?

 コミュニケーションってムズカシー。

 

 宇宙人っぽすぎ? ま、いいか。

 

「で? 5月の選抜試験はあの足手まとい連れてやるわけ? 負けに」

「あー! 彩葉のこと悪く言うと怒るよー」

 

 確かにちょっと失敗しちゃったかもだけど、正直、私も1か月でどうにかなるとは思ってなかった。

 彩葉は緊張しいだし、慣れてもらうのが先決!

 本番で本気でやってカチコチで全力出せなかったら落ち込んじゃうかもだし?

 先輩としての余裕ってヤツ?

 

「事実でしょ、見たわよ4月の選抜試験、演奏は見るところあったけど、手にばかり意識が行って他はおろそか、かぐやも観客じゃなくてそっちにばかり意識が行ってて誰のためのライブなのかって感じ、あんなものフォローでもなんでもないわ、アイドルとしては失格ね」

「おー、すごい、講評のまんまだ、さすが燐羽」

 

 実は読んでた?

 でもあれって公表されなかったハズだし、目が良いんだろうか。

 アイドルに一家言ありそうだし?

 

「確か作曲もできるんでしょ? 悪いこと言わないから裏方に専念させなさい」

「そうゆう訳にもいかないんだよなー、かぐや&いろPだし?」

 

 多分親切で忠告してくれるけど、断る。

 

 何で彩葉がアイドルを目指してるのか、まだ教えてもらえてないけど。これ! って決めたことに頑張れる彩葉が目指してるんだから、きっとすごい理由があるはず。

 それを邪魔したくはない。

 

「かぐや&……、何そのクソダサいユニット名、変えたら?」

「SyngUp! みたいな?」

「そ」

「うーん、ま、かんがえてみるー」

「そうしなさい」

 

 前の時のチャンネル名をそのまま引っ張ってきただけだし、正直、私も微妙かなーとは思うけど、面と向かって言われるとなんか、反骨心? が湧いてくる。

 でもなー、皆なんか英語もじってかっこいーの付けてるし、やっぱ変えるべき?

 彩葉に聞いてみっかな。

 

「かぐやもそんな体たらくだし、私も潮時なのかもね」

「ん? 燐羽、アイドル辞めるの?」

 

 私を見ながら、でも私に焦点を合わせず、遠くに目線を向けて燐羽が言う。

 さっきまでのイライラ~って感じじゃ無くてどこか透き通ったような表情は、冬のHIF終わった後の時のよう。

 きっとあの時も辞めるつもりだったのかな?

 

「考え中、ファンの子たちも放り投げちゃったし、このままじゃ辞めるわけにもいかないけど」

「責任感強いな〜」

「かぐやが無さ過ぎるのよ……、選抜試験明けのかぐやのチャンネルすごいわよ?」

「あー、やっぱ?」

 

 ま、荒れるよね~。

 我ながらNIAは気合入ってたと思うし、アレを期待して選抜試験を見に来てくれた人がいたなら、がっかりしただろう。

 

 せっかくの彩葉のお披露目だったんだから、もうちょい気合い入れるべきだったかも?

 

「たく……、あっ、時間ね、じゃあ私行くから」

「ん? どこ行くの?」

「呼び出し、かぐやと違って私はヒマじゃないの」

 

 話し込んでしまったか、腕時計を見てから、シニカルに笑う燐羽。

 

 何か事情がありそうだけど、聞くのはヤメた。

 悩めよ若人! ってね。

 別にあれこれ言ったって私が責任取れるわけでもないし?

 

「ふーん、じゃ、選抜試験で待ってるからね」

「せいぜい見苦しいところ見せないように頑張んなさい」

「言ったな〜〜」

 

 燐羽からのエールはNIAの時に比べてどこか薄っぺらかった。

 

 

☆02

 

 

 寮に帰って自室の扉を開けると真っ暗だった。

 暗闇の中で目を凝らすと体育座りで待つ彩葉の姿が見えた。

 

「ねえ、かぐや」

「どしたの? てか電気! 真っ暗だと気持ちも沈んじゃうよ?」

「私と組むようになって成績下がったって本当?」

 

 電気をつけてから、妙に暗い様子に心配になって寄ると、彩葉がぼそぼそと話す。

 

「んー……、まあね?」

 

 下がったって言われると反論したくなるけど、まあ実際、数字は下がってる。さっき燐羽に言われたしね。

 

「さっき根緒先生に言われた」

「あー……、ま、彩葉のせいじゃないよ、かぐやの個人的な理由?」

 

 前までは彩葉に見つけてもらうためにいっぱい! ステージで輝かなきゃって思ってたけど、今は彩葉の夢を叶えるために一緒に立てるように調整してる。

 私だけやったって、それは私だけのステージ。

 せっかくコンビに成れたのに、何の意味も無い。

 

「ユニットはお互いの実力を掛け合わせてもっと力を出すためのもので、実力差がある相手と組むのはお互いのために良くないって」

 

 それはそのとおりだけど、先生の文脈は私とは裏返しの意味。

 先生もヒドいこというな~。

 

 でも今は初心者なだけで、彩葉ならすぐメキメキ強くなる、散々付き合わせてステージに立ってもらった私は知ってる。

 

「えー、ひどっ、彩葉はこれから伸びるからへーきへーき! かぐやちゃんが保証しちゃる!」

「………」

「彩葉?」

 

 親指を立てながらの私の言葉はあんまり響いていない様子で、さっきの呼び出しで貰ったらしい、床に置かれたプロデューサー科の教科書の山を見やりながら彩葉が黙っちゃう。

 

 てか結構多いな。

 でも彩葉が前の学校で使ってた本も同じくらいあったしそんなもんか?

 

「私、学費のためにバイトもしなきゃだし、プロデュースなんかしてる暇ないよ……」

 

 あー、お金とかは前の時のまんまなのか。全然教えてくれないからなー。

 

 まあでも? 私もアイドル活動でそこそこお金持ってるし? あと今は伝家の宝刀、ヒゲ学園長のコネもあるし?

 ま、どうにでもなるっしょ!

 

「学費ならかぐやに任せとき! ヒゲの———」

「そういうことじゃなくて!」

「うおっ」

 

 身を切るような大きな声にびっくりしちゃう。

 そういや、彩葉に大きな声出されたのって、名前を貰ったあの日ぐらいかも?

 

 そんだけテンパってるってこと? なんで?

 

「何もかも一人でやらなきゃ、一人で一番星(プリマステラ)に……金メダルを取らなきゃ、私、何のために東京に出てきたのかわからんくなる……」

「何で……、何で彩葉は一人で頑張らないといけないの?」

 

 お母さんのため?

 

「私は……」

 

 

☆03

 

 

 彩葉が語ってくれた話は、彩葉が熱出しちゃったときに聞いた話と大筋は一緒だった。

 

「えらい簡単に言うけど、みんなそんなことしてなくない?」

「藤田さんもやってるし、お母さんはもっと大変だった」

「あー、ま、そっか」

 

 当然、眉を顰めながら言う私の感想も同じ。

 でも前の時と違って、実例が身近にあるせいであんま響いてなさそう。

 でもさー。

 

「でも、だからって周りの手を振り払ってやるのはなんか違くない?」

 

 彩葉は知ってるかはわかんないけど、ことねはそれでグダグダの成績で高等部に滑り込んで、これではいけないって、最近プロデューサーから奨学金制度を紹介されて、バイト減らしてる。

 

 ユニットも奨学金も、プロデューサーも、周りの力だろうと何でも使って本気で咲こうとしてる。

 やっぱ違うよ。

 

「かぐやには……」

「ん?」

「……なんでもない」

 

 飲み込んだ言葉を私は知ってる。

 『かぐやにはわかんない』って。

 それを言いたくいないことも。

 

「よし決めた!」

 

 勢いよく立ち上がる。

 彩葉から漏れ出すどんよりオーラを断ち切るように。

 

「かぐやがハッピーエンドにする! そんで、彩葉も連れてく!」

 

 彩葉がどうしても一人でやろうとしたって、どうせどっかで躓いちゃう。

 いやそうでもないか? 彩葉だし。

 

 でもそれじゃ私がつまんない! ハッピーが良い!

 

「私は私で積み上げていくだけ、あなたの力なんか借りない」

 

 どこか睨みつけるように見上げる彩葉。

 強情だなー。

 

 でも、その覚悟を見据えた澄んだ目、私が彩葉に一目惚れしたその表情(カオ)を見せられて引き下がるかぐやちゃんじゃないのです。

 

「ユニットはお互いの実力を掛け合わせてもっと力を出すためのもの、なんでしょ?」

「何、突然、だから何?」

 

 彩葉のさっきの言葉を引用する。

 

「彩葉だけじゃ手が届かないところにかぐやが連れてく!」

 

 二人なら2倍どころか2乗! もっともっとキラメける! 私が祝福してあげる!

 

「だから……」

「やだやだ! ハッピーエンドが良い!!」

 

 それでも折れない彩葉に、もうめんどくさくなって床を転げながら駄々を捏ねてみる。

 彩葉が折れないなら私も折れない!

 

 絶対、ハッピーエンドに行く!

 

「ちょっと暴れないでよ! 私は……」

「ねえ、彩葉……」

 

 駄々がダメなら、泣き落としだ! 唸れ私の涙腺!

 大丈夫! この上目遣いで折れなかった彩葉はいなかった! 

 たしか? たぶん? あれ……そうだよな……? どうだっけ……?

 

「もう! なんなのあんた! 前世がどうとか! なんで私にそんなに構うの!」

 

 逆ギレするように大きな声を出す彩葉。

 今日は知らない彩葉がいっぱいだ。

 

「私ね、彩葉の表情(カオ)がすごく綺麗でさ、すぐ好きになったんだ」

 

 ずっと言えなかった独白。

 大好きとは言えたけど。

 

「え?」

「だからさ! 一緒に行こ! 行けるとこまで!」

 

 私の言葉に虚をつかれたような顔をした彩葉の手を掴んで無理やり立たせる。

 そのまま片手を持ち上げて勝利のポーズ!

 

「はぁ……」

「彩葉?」

 

 私に腕を掴まれたまま、力なく首を下げて鉛のようなため息を吐く彩葉。

 

「すぐ散らかすし、ベタベタしてきてうっとしいし、空気読めないし」

「あはは〜〜」

「夏のHIFまでだからね」

「うん!」

 

 よし! 私の勝ち!

 

 

☆04

 

 

「にしても……」

「全然注目されてないね〜〜、ぐぬぬーー、Begrazia! 勝負だ!」

「これからするんでしょ……」

「そうだった!」

「しっかりしてよ……」

 

 選抜試験の当日の控室。

 今日は生徒会長の一番星(プリマステラ)十王会長率いるBegraziaと、クラスメイトの咲希とことねと、あと手毬の3人のRe;IRISの対決がみんなの注目だ。

 対バンとかいろいろバチバチやってたみたいで注目度は私たちとは段違い。

 

 でも、そういう伏兵が全員ぶち抜いて優勝したら、最高に面白いと思わない?

 負けたら恥ずいから口にはしないけど。

 

「あー、お腹すいたなー、彩葉、ライブ終わったら何食べたい?」

「私は緊張で朝ごはん食べれんかったよ……」

「じゃあいっぱい食べなきゃ! パンケーキ食べ行こ! 祝勝会で!」

「反省会の間違いでしょ……」

「またまた~〜」

 

 もうすぐライブと思ったら、おなかの空き具合が気になって来た。

 でも、相変わらず彩葉はカチコチ。

 てか反省会って……、やる前から負ける事考えたら本当に負けちゃうよ?

 

 もー、手がかかるんだから。くすぐっちゃおうかな。

 

「NIAの時もそうだったの?」

「んお? んー……、ま、気負っても仕方ないし?」

「そんなものか……」

 

 気配を消して後ろに回ろうとしたのを無音で体勢を戻して、しれっと答える。

 よし! 久々に先輩らしくできた気がする。

 

 そーそー、ライブは自然体で全力でやるのが一番!

 ツクヨミでもココでも。

 

「ねえ、かぐや」

「ん?」

「本当に私の曲で良かったの?」

「もちろん!」

「もっと良い———」

 

 彩葉が何か言いかけてたけど、時計を見ると開始15分前で袖に入らなきゃいけない時間だ。

 

「あ、時間だ! さあ行こ!」

「……うん」

 

 何か言いたげな彩葉の手を引いて控室から出た。

 舞台へと向かう廊下を歩きながら、多分さっき言いかけた言葉を打ち消す。

 

「ねえ、彩葉」

「なに?」

「彩葉の歌だから良いんだよ」

「えっ」

 

 私の言葉に彩葉が目を見開いてこちらを見る。

 

「さあ! とびっきりキラめいて歌おう! 一緒に!」

 

 その顔に笑顔を向けなながら鼓舞する。

 せっかくのステージなんだ! 楽しまなきゃもったいない! でしょ?

 

 

☆05

 

 

「で、負けたわけ? Begraziaどころか手毬のRe;IRISにすら? ぷっ、無様〜」

「負けた! 負っげったあああ!!!」

「あぁっ、せっかく落ち着いてたのに……」

 

 燐羽の煽りに床に転がりながら、頭足お腹頭、叩けるところは全部叩いて全身で悔しさを発散する。

 くっそー!!!!

 

「まあ、かぐやだけならNIAのファン数も相まって、HIF本戦出場は、まずボーダーは越えてるんじゃない? 彩葉だっけ? あなた入りではどうか知らないけど」

「彩葉は!」

「いい、かぐや」

 

 ニヤニヤと嗤う燐羽に悔しがることも忘れて勢いで言い返そうとすると、彩葉に手で制される。

 

「反論するの? 良いわよ聞いてあげる、私が足手まといでしたって?」

「そう、今回のステージでかぐやの足を引っ張ってたのは私」

「へえ……」

 

 睨むわけでもない、澄んだ視線が燐羽を貫く。

 思った反応と違ったのか、燐羽が感心したように言葉を漏らす。

 

「でも、それは今、足を止めて次のステージをおろそかにする理由にはならない……と思う」

 

 彩葉のその言葉に、作ったようなニヤニヤ笑いが抜け落ちて、急に真顔になる燐羽。

 

「今からやって間に合うって? 本戦に出れるかもわからない状況で? あなた達よりただでさえ先を行ってるユニットは、きっともっと成長してるのに?」

 

 さっきまでとは打って変わって、何かを見定めるような真剣な声色に思わず私はつばを飲み込んでしまう。

 そんなに付き合いが長いわけでもないけど、見たことのない燐羽だ。

 

「間に合うかどうかじゃない、間に合わせて見せる、必ず」

「………」

 

 彩葉の宣戦布告に何か考え込むように燐羽が黙ってしまった。

 

「妹分みたいなかぐやと約束しちゃったしね、ハッピーエンドまで一緒に行くって」

 

 そう言って私の髪を整える彩葉。

 あれ? 妹って言った!? 同居人から一歩昇格?

 

「妹!」

「言葉のアヤですー、いいとこ居候でしょ? 悔しかったら部屋片付けろー」

 

 立ち上がりながらガッツポーズをすると、降格してしまった。

 居候って言ったって、かぐやも寮費はらってんだけどなー。

 

「え〜、めんどくさ〜い……」

「コイツ……」

「ふふっ」

 

 呆れた目を向けてきた彩葉に、誤魔化すように笑いかけてると、燐羽が急に笑い出した。

 

「———ふうん、思ったよりもいい目してるじゃない、かぐや、いい友達ね、いやプロデューサーだったかしら?」

 

 収まったかと思ったら、急に彩葉のことをほめだしてびっくり。

 いやまあ、当然だけど?

 

「どっちも! だから二倍美味しい!」

「私はお菓子か何かか……」

「ねえ?」

「はい?」

「ちゅっ」

 

 2mもなかった距離を一瞬で詰めた燐羽が急に暴挙に出た。

 

 は?

 私はまだ一回もしたことないんだけど???

 

「は、え?」

「はあああ!!? それ私の!!! 返して!!!」

 

 呆然とする彩葉を慌てて抱きしめて、目の前の変態から守るように引き寄せる。

 絶対渡さない!

 

「あはは、じゃあね、彩葉お姉ちゃん?」

 

 私たちの姿に満足したのか、軽やかに笑いながら燐羽は去っていった。

 まさかああいうシュミがあるとは……。

 

 てかお姉ちゃんってなに? どゆこと?

 

「え?」

 

 彩葉の顔を覗き込むけど、正気に戻るにはまだ時間がかかりそうだった。




まりちゃんは次話。

次はHIF編の実装後です。

メインで更新してる方の二次創作もお暇だったらよろしくお願いします。
【日本で一番、月に近い場所】
https://syosetu.org/novel/401385/
10年後彩葉とかぐやがイチャイチャする話です。

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